ワンダーランド(問題編)
 このままでは・・自分は死んでしまう。  「貴方がたが“あの人”の意志を継いでいる・・それを聞いただけで頼まずにはいられなくて。」  「いっ・・一体、何の依頼で?」  自分が・・この世界に取り込まれるのも時間の問題っ!!  「私の大切な人を探して欲しいんです。」  「そして彼は、自分の親友でもあった・・自分からもお願いするよ。」  このままじゃいけない・・何としてでも!!  「何か手がかりは?そして、その手紙は今持ってます?」  「はい、持ってます。」  「・・見せて。」  自分はここから逃げ出さなければならない・・命を賭けてでもっ!!  「WONDERLAND?」  「堀くん?君は英語が苦手だったね・・読めるかい?ワンダーランドだ。」  「それくらい分かりますよっ!!所長!!」  WONDERLANDから逃げ出さないと・・死ぬ。  「何も手段が無いと認めると言うことは・・それは同時に敗北を意味します。」  「所長・・。」  「答えは既に分かっている・・ワンダーランドに彼はいる。」    case019/ワンダーランド(問題編)  珍しく過ごしやすい日が続いている。  「悪いね。僕はこんなコーヒーしか出せないもんで・・。」  「いやいや、別に構わないよ。京介。」  事務所にはコーヒーの香りが漂っている。この事務所の所長のデスクの前にある大きな客用のテーブルには、 コーヒーカップが2つにその辺のコンビニで買ってきたようなポテトチップスの開けられた袋が1つ。  「確かに、ポテトチップスを客にこう出すのは普通じゃないと言っておこうかな。」  苦笑しながらコーヒーを一口飲む客人。事務所の主は苦笑い状態だ。  「いや・・今日は凛星花ちゃんが矢代田くんの事務所勤務の日でね。」  いつもこういう仕事は凛星花の仕事なだけに、どうも苦手らしい。  「それで?今日は何の用なんだい?小説のネタに詰まったわけじゃないのは聞いたが・・。」  この柿根探偵事務所の所長・柿根京介(かきねきょうすけ)は、目の前の友人の姿を微笑しながら見ていた。  「いやいや・・小説のネタはいつでも詰まってるさ。ミステリーを主に書いてれば頭も痛くなるときがある。ただ、今日の用件は違うがね。」  ポテチを1枚口に入れるとこちらも微笑の男。彼は柿根の昔からの友人で小説家の東樹林輔(ひがしぎ・りんすけ)だ。主に推理小説を書いている。  「なら、君が数年前から追っている“ある事件”のノンフィクション小説執筆にあたりの取材かい? 最も、そうなら初めからそう聞いているはずだがね。」  柿根はコーヒーの中に砂糖を入れるとかき混ぜる。カチャカチャと音だけが響いていた。  「実はそれも違う。そして残念だが・・基城のCATCH事件についての新情報はない。」  「・・そうか。」  何かを思い沈んでいた柿根の目。東樹も顔を少し下げた。  「実は、頼みと言うのは自分の仕事仲間について何だが・・。」  その下げた顔から、若干目で柿根の様子を伺いながらそう言った東樹。  「君の仕事仲間か・・。」  ふと顔を上げた柿根。ドアの開く音が顔を起こさせたのだ。  「只今帰りました!所長!!」  帰ってきたのは言わずと知れたこの事務所の若手探偵・堀太一だ。  「いやぁ・・うす塩味、やっと見つけました!」  「ご苦労だったね。ありがとう・・堀くん。」  柿根は堀にお使いを頼んでいた。それはポテトチップスうす塩味。  「あんまりね・・醤油味は好きじゃないんだ。」  東樹の顔を見ながら笑う柿根。そう言われてみれば・・テーブルにあるのは醤油味のポテチだ。  「あれ?こんにちは、東樹さん。今日は来るって言ってましたっけ?」  ポテチを棚にしまいながら挨拶する太一。  「あぁ、一応ね。ただ、基城CATCH事件の事じゃないんだ。それだけは言っておくよ。」  「あ・・あぁ・・そ、そうですか。ちょっと残念だな・・。」  やや落胆した様子の太一。とここで、ふと思い出した。  「あ、所長!事務所の前に若い女性が立っていたんですけど・・客ですかねぇ?」  不思議そうな様子でそう尋ねてきた太一。柿根は首をかしげるが、それを聞いてピンときたのが東樹だった。  「あぁ、それはこっちの連れだよ。」  「連れ?」  太一はこれまた不思議そうな表情だ。  「実は、今回の依頼は彼女からのものでもあるんだ。ちょっと待ってくれ、今呼んでくるから。」  東樹はそう言うと事務所を急ぎ足で出て行った。  「所長?東樹さん・・今日は何か依頼でもしに着たんですか?」  「まぁ・・そういうことらしい。」  柿根は醤油味のポテチを太一の口に1枚、ぽーん・・と放り投げた。  「どうも、自分の仕事仲間についての依頼だとか・・。」  「仕事仲間・・ってことは同じ作家ですかねぇ?」  ポリポリとポテチを食べながら考察する太一。  「まぁ、そんなところだろうとは思うけどね・・。」  かき混ぜるのに使っていたスプーンをゆっくりとカップから出すと、そいつを口にくわえた柿根。何やら考え込んでいるようだ。  「すまないな、京介。彼女が今回依頼人だ。」  と、ふと思い出したところで戻ってきた東樹。その隣には、薄黄色の女性用スーツを着込んだ女性が立っていた。  「・・・・。」  「どうしたんですか?所長?」  姿を見た途端、急にこれまた黙り込む・・いや、正確に言えば動きが止まった柿根。  「・・・・いや、別に何でもないよ。太一。」  柿根は口にくわえていたスプーンを取ると、そいつを何故か太一に手渡した。  「まぁ、立ち話もなんですね・・どうぞ。」  椅子へと座るように合図する柿根。女性は頭を下げるとその椅子・・来客用ソファに腰をかけた。その横には東樹が座る。  「それで・・あなたが東樹さんの仕事仲間で?仕事仲間ということは作家さんですかね?」   じっくりとその姿を見ながら質問をする柿根。黒い長髪である・・肩まであるようでない感じの。  「いえ・・それは私ではありません。」  「・・・・。」  声から感じられる第1印象は静かな感じであった。柿根はテーブルに置いてあったミルクを、今度はコーヒーに垂らした。  「私の彼が・・東樹さんの仕事仲間で、作家なんです。」  頷きながら人間関係の把握に努める柿根。  「正確に言わせてもらえば、その彼は自分のところに数年前までいたんだよ。ちょっとした手伝いをしてもらっていた。 彼もまた、作家を目指してた人間でね。もう今は1人立ちしたんだよ。」  「あー・・はいはい。つまりあなたは彼女と言うわけですね。」  その言葉に頷く女性。  「どうぞ。」  ここでその女性にコーヒーを持ってきた太一。まだその辺は太一のほうができるらしい。  「・・すいません。」  女性は何処か沈んだ顔だ。  「堀くん・・横でずっと立っているのも気が散るからダメだ。僕の隣に座りなさい。」  「・・あ、はい。」  柿根は隣に太一の座れるスペースを作ると座れと言っていた。  「それで・・まだ名前を聞いていませんでした。名前を教えてもらいませんか?」  太一が座った瞬間に名前を尋ねた柿根。  「・・菜田暁子(なだあきこ)。と言います。」  「菜田さん・・分かりました。で、そのあなたの彼についての依頼ですね?何があったので?」  柿根が尋ねたその言葉、それは・・しばしの長い沈黙を呼び起こした。  「暁子さん?大丈夫かい?」  その沈黙に耐え切れず、東樹が菜田に言った。  「だ、大丈夫です・・。」  震える声だった。そして、今にも泣きそうだった。  「あ、貴方がたが・・」  俯いていた彼女の口から聞こえたその言葉に、柿根も太一も素早く反応した。そして次に、彼女は顔をあげると泣きながら訴えていた。  「貴方がたが“あの人”の意志を継いでいる・・それを聞いただけで頼まずにはいられなくて。」  『!?』  柿根と太一の顔が同時に強張った。柿根は一瞬窓の外の景色を見やった。太一はしばし口をパクパクとしかけたが、ふと我に返ると尋ねた。  「いっ・・一体、何の依頼で?」  まずは依頼確認が先決だ。未だに2人はその問題の依頼を知らない。  「私の大切な人を探して欲しいんです。」  彼女はハンカチを取り出すと目を押さえながら言った。  「そして彼は、自分の親友でもあった・・自分からもお願いするよ。」  東樹も頭を2人に下げるとそう頼み込んだ。   「つまりは、東樹の仕事仲間の作家で菜田さんの彼を探して欲しい・・“人探し”というわけか。」  柿根は目を少し押さえるとそう内容を確認した。  「失踪した・・ということですか?」  太一は改めて聞きなおす。  「えぇ・・急にいなくなってしまって。」  人探し・・まぁ、そんな予感は薄々していたのだろうか?柿根はコーヒーカップを手に持つと尋ねた。  「で、まだその失踪した君の仕事仲間・・名前を聞いていなかったね。誰なんだい?」  東樹に向けられたその言葉。東樹は思い出したかのような顔になる。  「そう言えば、まだ言ってなかったな・・その彼というのが、数年前にデビューして推理小説新人賞を受賞した人なんだけど・・」  「人を探すのにその人の栄誉なんて聞いたって、手がかりにはどうせ今回はならないだろう。」  その言葉で東樹を黙らせた柿根。名前を早く言え・・といった口調だった。  「・・すまない。」  「・・彼なんです。名前は“須柄真ノ祐(すがらしんのすけ)”と言います。」  持っていたバックから写真を取り出した菜田。そこには菜田と須柄の2人のツーショット写真があった。 写真に居る須柄の顔は、とても穏やかな顔だった。  「ああっ!す、須柄って・・須柄真ノ祐って!あの“B-3517”と言う名の衝撃ミステリー小説でデビューした須柄真ノ祐ですかっ!?」  震える手で写真を指さしながらこれまた震えた声の太一。  「ん?堀くん・・知ってるのかい?」  そう言えば・・ミステリー小説は太一が好んでいるものの1つだと思い出した柿根。そして相当有名な作家のようだ。  「知ってるも何も、近年希に見る史上最高のミステリー・・いや、もっと正確に言えば史上最高の暗号推理作家ですよ!! 須柄真ノ祐っていう作家は!!」  「・・暗号推理作家?」  柿根はコーヒーを置くと聞き返した。  「えぇ、彼のデビュー作である“B-3517”も、暗号が作品の全ての占めているんです。あそこまで暗号と言うものを完璧な 1つの小説として完成させた人間は世界でも彼が初めてですよ!」  かなり絶賛の太一。太一が言うのだから、確かなものだろうと柿根は感じた。  「君の小説にもダイイングメッセージとか色々な形で暗号があったよね?あれより凄いの?」  東樹に尋ねた柿根。東樹は苦笑している。  「あぁ、あれでも自分はかなり精一杯考えた暗号なんだけね。まぁ、読者にも分かるか分からないかのギリギリのレベルさ。 でも、彼のは全然違っていた。同じアナグラムでも彼はよく自分以上に頻繁に利用するのだけどレベルが違ったよ。発想力の違いだろうね。 暗号の力だけは本当にケタ違いだった。」  絶賛の東樹。どうやら、実力はかなりものらしい。  「なるほどね・・で、菜田さん。彼の作家としての才能はこの2人の言葉でよく分かりましたが・・居なくなったとは?」  さて、ここからが本題の謎だ。菜田はゆっくりと話し始めた。  「実は・・今から1ヶ月程前のことです。彼と最後に会ったのもこの時なんですけど、彼・・私にこんなことを言ったんです。」                  ※           ※          ※    「ちょっと新作の案を明日から考えようと思うんだ。」  「え?新しい作品書くの?」  「あぁ。」  レストランで食事をとっていた2人、須柄は唐突にこう切り出した。  「作品はまた・・暗号?」  「まぁ、そんなところだね。自分はそれくらいしかできないし。」  夜景が見えるレストラン・・まさに何かのドラマのようだ。  「それで、お願いがあるんだけど・・しばらくネタを完成させるまで1人でアパートの部屋に篭ろうと思っている。 だから、ネタが固まるまで1人にしてくれないか?」  「・・え?1人で?」  「・・うん。」  その顔は、どことなく妙なものだった・・なんというか、多少青っぽいような。                  ※           ※          ※  「思えばあの頃から、少し痩せていたんです。顔色も悪かったし。」  1ヶ月前から感じてとれた異変を菜田は言った。  「確かに、あの頃は少し様子がおかしいようでもあったかもしれない。自分もその日、暁子さんとの夕食前に 須柄くんとは会って話をしたんだが・・どこか上の空だったよ。」  2人揃って異変を語る。  「何かの前兆・・としか考えられないですね。何処からどう見ても。」  「同感だね・・まぁ、人の心は見えるものでないから一概にもそうだとは言えないけど。」  太一の言葉に同感しつつも、独自の考えも忘れない柿根。  「で、失踪したのはそれからどのくらいたった日だったんですか?」  太一が次の質問にうつった。  「それは、あの日から20日ほど経った日・・今から丁度10日前です。」                  ※           ※          ※  「すいません、東樹先生にも来てもらっちゃって・・1人じゃどうしても不安で。」  「いやいや、別に構わないよ。それより、本当なのかい?須柄くんが居ないって?」  須柄のアパートにいる菜田と東樹。  「えぇ、管理人さんが何日も姿を見てないって連絡くれたんです。それに、隣の部屋の人も気配を感じないって言ってたし。」  アパートの階段を2人はコツコツと慌しい音を出しながら上がっていく。  「鍵は一応私も貰っていたんですけど、新作の構想を練るからしばらく1人にしてくれ・・って、会うのを拒まれたんです。」  「須柄くんにしては妙だな・・その行動。」  2人は須柄の部屋の前で立ち止まった。  「でしょう?今までそんなこと1度もなかったんですよ?それに、管理人さんから連絡をうけて私、 彼の携帯に電話を入れるんですけど繋がらなくて・・部屋の電話も。」  菜田はバックの中から部屋の予備の鍵を取り出した。  「私、彼から部屋の鍵は貰っていたんですけど・・どうしても怖くて、何かあるんじゃないかって?」  「最近確かに行動が変だった。その考えが当たっていなければいいんだけどね・・」    ・・ガチャリ  鍵が開いた。その瞬間2人は部屋に入る。  「・・・・須柄くん!?」  だが、東樹が呼んでも返事がない。  「真ノ祐?」  菜田が呼んでも同様に返事がない。  「・・いないようだ。須柄くんは。」  台所、居間、トイレ、風呂、押し入れ・・何処にも姿が見えない。だからと言って、特別妙なところもない。  「先生・・!」  「どうしたんだい?暁子ちゃん?」  菜田が須柄の作業机の上にある物を見つけた。  「これは・・手紙か?」  1枚の真っ白な紙に、須柄の文字がびっしりとあった。  「旅に出る?」  紙に書かれた文字を読む東樹は、その内容に驚愕した。  「そんな・・どうして?」  菜田の目から、自然と涙がこぼれた。                  ※           ※          ※  「旅に出た?」  「えぇ、逃げ出すために旅に出る・・と、そこには書かれていました。」  太一の質問にそう答えた菜田。柿根は頷きながら話を把握している。  「何処から逃げ出すために旅に出ると?」  太一はさらに尋ねた。すると、菜田はこう言った。  「“ワンダーランド”から・・逃げ出すためと書かれていました。」  「ワンダーランド?」  楽しそうな響きのする言葉だった。柿根は目を閉じ何度も頷いていたが、目を開けると一言。  「何か手がかりは?そして、その手紙は今持ってます?」  身を乗り出す柿根。  「はい、持ってます。」  「・・見せて。」  菜田が持っていると言ってすぐに、そう要請した柿根。  「これです。」  菜田が取り出した紙。それに太一と柿根の2人は見入った。      『私には、時折よく分からないが不思議な感覚に陥ることがあった。この感覚は、私の創作意欲をかきたてた。 この感覚が訪れる度に、私の頭の中ではアイデアが泉のように湧き上がっていき、様々な素晴らしい作品を世に生み出すことを成功させた。 私のこの自分の頭の中にやって来る不思議な感覚を、私の中に眠っていた世界、WONDERLANDと名付ける事にした。  ただ、最近の悩みはこの、私自身の奥底に眠っていたWONDERLANDから、私自身が抜け出せなくなっていることだ。 私に素晴らしいほどの大量の作品を創作させる驚異の世界。しかしこれが今や、私を抜け出せないようにしている恐ろしい、 不思議な世界へと化している。私はこの不思議な世界、WONDERLANDから逃げ出すために旅に出る。  今まで、私のことを面倒見てくれた人に対しては、少なからずだが通帳に金を振り込んでいるので使って欲しい。 今までのお礼だ。あと、とても勝手ではあるが、部屋を出るように管理人さんから言われたようであれば、荷物は好きにして欲しい。 私の大事にしていた物もあったが、邪魔なようなら捨ててくれて結構だ。その他の物も同様にだ。  私は私の世界へと歩んでいく。』    手紙を読んでいた2人。太一は何か妙な物を感じていた。  「堀くん。」  「何ですか?所長?」  柿根が急に太一にこう言った。  「彼は・・須柄さんは“史上最高の暗号推理作家”って言ってたね?」  「はい。言いました。」  太一もやはりか・・と言った表情だった。  「間違いないね?賞を受賞するくらいだ。間違いないね?」  「はい、間違いありません。」  何度も何度も念押しをした柿根に、太一はこう答えた。  「間違いないか・・。」  柿根はコーヒーを一気に飲み干した。にしてもだ、太一には分からない。  「WONDERLAND?」  それを聞いた柿根。ふとさらに思い出した。  「堀くん?君は英語が苦手だったね・・読めるかい?ワンダーランドだ。」  「それくらい分かりますよっ!!所長!!」  ワンダーランド・・ここまでくると何か不気味でもある。  「ちなみに警察に捜索願は出してます?」  「いえ・・まだ様子を見ているので。」  柿根の質問にそう答えた菜田。  「通帳・・持ってます?」  矢継ぎ早に尋ねる柿根。  「え?通帳ですか・・?」  「えぇ、彼の残した通帳です。」  「それならここに・・。」  菜田が差し出した通帳。太一はその意図を知った。  「でも所長・・通帳に何かが残されていますかね?」  「あるとは思うよ。わざわざ新規に作られた通帳みたいじゃないか。」  通帳を開くとその内容を見る柿根。  「堀くん・・やっぱりこれは君が見ても思うだろう?意図的な何かを。」  「・・・・。」  柿根から渡された通帳の中身。かなりの額がある・・作家としてかなり有名で衝撃的なデビューだったため、 それなりにかなりの高額が記録されていた。だが、それ以前の謎がある。  「確かに・・これはありますね。」  振込み金額   1.234.560.000  振込み金額   2.979.000.000  合計金額    4.213.560.000  新規の通帳にはこれだけしか記されていなかった。  「しかも、全部同じ日ですね。」  太一はこの不自然さを語る。  「あぁ、しかも1回目の振込みと2回目の振込みの間隔が2分ほどしかないのが変すぎです。」  柿根は通帳を閉じると菜田に返した。  「菜田さん。部屋にあった物はそのままで?そして、部屋は比較的に物でいっぱいで散らかっていましたか?」  返すや否やそう尋ねる柿根。  「えぇ、基本的になくなったものはありませんでした。携帯も部屋に置かれたままでしたし・・でも、散らかってはいませんでした。」  「・・・・普通に、消えたものなどはなかった?」  「はい。」  柿根は考え込む。  「菜田さん。須柄先生が大事にしていた物って何ですか?」  次は、太一が間を空けずに尋ねてきた。  「大事なもの・・ですか?」  少し分からない様子の菜田。とここで、隣にいた東樹が代わりに答えた。  「それなら、彼のお気に入りだったタロットカードのコレクションじゃないかな?」  「タロットカードですか?」  太一は東樹が言った言葉を聞き考え込んだ。  「彼はよく集めていたからね。そういう占い系統に多少だが興味があったらしい。」  「そうですか・・そのタロットカードは何処に?」  タロットカードに何かを感じてならない太一。  「い、いやぁ・・場所まではなぁ。多分あの部屋にあるだろうけど。」  場所までは分からない様子だった。  「通帳も手紙と同じでその仕事机にあったのかい?」  柿根は東樹に尋ねる。本当に矢継ぎ早で休む暇すらない。  「あぁ、そうだけど・・それが?」  「そして部屋は、まだ引き払ってなくてそのままで、中にある物はいじっていない?」  柿根は身を乗り出すと、東樹の前に顔を突き出して尋ねた。  「あ・・あぁ・・そんなに前に出なくても・・」  「そうなんだな?いじっていない?」  だが、そんなことよりも早く回答を言えといった感じの柿根。  「あぁ・・触ってないよ!だから早く顔をどかせ!」  それを聞いた瞬間、柿根は立ち上がった。  「決まりだね。堀くん・・行くよ。」  しかし、その言葉はとうの昔に察していたのか・・太一は既に立ち上がっていた。  「了解です!所長!」    アパートの扉の前に立っている柿根と太一。  「知っているかい?黄色を好んで身に付ける人の特徴を。」   「はい?」  急に質問をしてきた所長の意図が読めない太一。  「黄色はね、社交的で明るいイメージがある・・けど、その裏で非常に孤独に弱い一面を持っている。」  続いてやって来た菜田と東樹。  「すいません、今開けますね。」  菜田は急いで予備の鍵で須柄の部屋の扉を開ける。  「!?」  その姿を見た太一は、菜田のスーツの色を見て気づいた。  「だから、早く解決してあげないといけないでしょうね。この事件。」  柿根はニッコリと笑うと部屋へと入っていた。  (・・なるほどな。)  太一も納得すると部屋へと入っていった。  それにしてもだ。まず最初の感じは、本当にちょっと前まで人がいたような部屋だ。  「仕事机はこれだね?」  「はい。」  菜田の説明を受けながら部屋を見る柿根。太一もそれに続く。  「この上に例の手紙が置いてあったわけか・・。」  仕事机の前には窓があり、町を見ることが出来た。  「まずは、タロットカードだな。菜田さん、ちょっと机を調べてもいいですか?」  「・・どうぞ。」  太一は許可を貰うと机の中の引出しを調べ始める。だが、見つからない。  「ワンダーランド・・どう思います?君は?」  その頃、窓の外を見ていた柿根は東樹に聞いてみた。  「さぁ、見当もつかないな。楽しそうなイメージはあるけど。」  「・・・・それは、表面的に見えるイメージが大半かもしれないけどね。」  「?」  机の捜索を10分ほどして諦めた太一、ふと立ち上がると横には沢山の本やファイル等の収まった本棚があった。  「意外と・・こう言う分かりやすいところにあるんだろうな。」  太一は菜田に許可を貰うと、本棚の捜索を始めた。  「というか、分かりやすい場所にあるはずなんだよな・・。」  この言葉の真意はいかに?  「にしても、この壁にかかっている沢山の写真は一体?」  その頃、部屋にある沢山の写真を眺めていた柿根は、東樹にその写真について純粋に思ったことを聞いていた。  「あぁ、この写真か・・これはだね。取材で須柄くんが撮ってきた写真だよ。」  「取材・・というと、小説のかい?」  「あぁ。そうだ。」  壁には何枚もの写真が飾られていた。特に山や海に川、森に島などが沢山だ。  「取材と言うが自然の景観ばかりが撮影されているようだね。まるで写真家みたいだ・・あ、こっちには洞窟の写真もだ。」  それらを見ていた柿根はある意味関心していた。  「まぁ、須柄くんは特技として暗号などを作る、凄く素晴らしい特技を持っていた。しかも最高にこう・・脳天を刺激するやつをね。」  「ふーん・・そうか。でも、だとしたら須柄さんはとても苦労していただろうね。」  柿根は島の写真を次に見るとそんなことを言っていた。  「何故そう思うんだ?京介?」  「簡単なことだ。君のところに数年前まで居たわけだ・・当然、彼は作家を目指していたのだろう。特に推理作家をね。」   島から山の写真へと目を移す。  「しかし須柄さんの特技は暗号を考えて作り出すこと。彼はそれを使って最高の推理小説を作りたかったんだろうけど、 彼は暗号を作る力は持っていても小説を作る力は無かった。ある意味、ここまでの力をつけるまでに相当の苦労があったと僕は思いますけどね。」  その言葉は、とても的を得ていたようだ。  「まったくのその通りだよ、京介。でも、もう1つ苦労の種があった。須柄くんは暗号を作る力はあったが、暗号意外は無いに等しかった。」  東樹は当時のことを思い出しながら語っていた。  「逆に言えばそれは、自分の作る小説の内容の幅を、暗号だけに限定させることになる。暗号だけで長い小説の物語を成立させるためには、 相当話の内容を練りこまないと難しいだろう。」  写真に触れる東樹。  「この写真もその証拠だ。暗号と言って真っ先に思い浮かぶのは宝探しの類だった。そして宝探しといえば山や島に洞窟などだろう? だから彼は作品製作にあたり、よくこういうところへ取材に行って写真を撮っていた。話のアイデアを求めてね。」  黙っていた柿根。ふと漏らした。  「・・・・この写真は、須柄さんのこれまでの人生を表しているのか。」  「見つけた。このカードファイルだな。」  太一は本棚から取り出したカードファイルを開いた。  「ん?おかしいな・・。」  だが、開いたカードファイルにあるタロットカードを見た瞬間、すぐにその異変には気づいた。  「どうしたんですか?」  「・・いや、菜田さん。このタロットカードですけど、みんな逆向きにファイルされてるんですよ。」  太一はタロットカードに指を指すと指摘した。  「あれ?そのファイルを逆さまに見ているんじゃ・・」  「いいえ、これでファイルの向きは正しいんです。明らかにファイルされているカードが逆向きです。」  ファイルの表紙を見せるとすぐにそれを否定した太一。  「おかしいですね・・彼、いつもきちんとファイルしてましたけど、どれも向きは間違ってはいませんでした。なのに・・」  菜田の不思議そうな言葉に太一は考える。  「というか、沢山の種類のタロットカード・・何組も何組もあるんですが、それら全てが逆向きなんですよね。」  ファイルのページを見ながら太一は首をかしげていた。  「つまりこれは、須柄さんが意図的に全てを?」  その意味が太一には分からないでもない。   (タロットカードが逆さまということの“意味”は知っている。けど、何がその“意味”に即しているんだ?)  太一は首をかしげることしかできなかった。  「さてはて、堀くん。見つかったタロットカードが全部逆と言うことで頭を捻っているようだね。」  ここでやって来た柿根、タロットカードを後ろからいつの間にか見ていた。  「えぇ、意味は分かるんですけど。何がそれに即しているのか・・。」  「まぁ、手がかりはまだこの部屋に残されていると思うから、じっくりいきましょう。それより堀くん、 須柄さんはとても素晴らしい写真を撮っているようだよ。」  そう言うと柿根は、先ほど見ていた写真についてのことを太一に語りだした。  「へぇ・・確かに見ていると気持ちよくなってくる自然ですね。」  写真を見た太一は純粋にそう思った。  「僕もそう思ったよ。さて、あとは他の手がかりだな。」  柿根はそう言うとそのままテレビの台へと近づく。  「にしてもだ、堀くん。僕はこのテレビの台の下にあるDVDに実に興味があるのだけど・・これは何?」  さすが、自分の気になるものは見逃さない男だな・・と太一は思った。  「これは映画ですよ。“諜報部員エージェンツ”です。」  「そりゃ見れば分かるよ。タイトルにそう書いてあるんだから。これさ、全部スパイ関連の映画なの?」  柿根は無類の映画・・特にスパイのような何かの特殊な人物が働く作品が大好きなのだ。まぁ、特殊などと言ったらキリがないが。  「そうですね。全部アメリカの“CIA”が活躍する映画です。ある意味CIAなんてマイナーなものを題材にしているだけに、 妙にファンが沢山いるんですよ。俺には分かりませんけど。」  太一はそう説明した。太一はあまりその手は興味がないらしい。  「今度レンタルしてみようかな・・でもね、堀くん。今思ったけど彼はこれ以外DVD持ってないのかな?」  「え?」  何か思っていた柿根は、このDVDについてこう発言した。  「ここまでぎっしりその、“諜報部員エージェンツ”ばっかりがあると・・逆に変じゃないかな?」  「まぁ、そりゃそうですけど。」  とにかく柿根は言う。  「いいかい?堀くんに僕も、きっとあの暗号を見て思ったことは同じです。だから、分かりやすいものはヒントなんだ。 そして逆に、分かりやすいものという設定にもヒントはある。」  そのまま菜田のところへと歩み寄る柿根。  「すいません、押入れの中を調べてもいいですか?」  「お、押入れですか?」  菜田は何故、押入れなのか分からない。しかし、何となく太一には何故押し入れなのかが分かる気がした。  「別に構いませんけど、何もないと思いますよ?」  「それでも構いません。むしろ、その方が分かりやすいと僕は思っています。」  そう言うと早速押し入れを開ける柿根。するとそこで見つけたものは、DVDだった。  「所長!こいつは・・あのテレビの台の下にあった“諜報部員エージェンツ”以外のやつですよ!」  「うーん・・らしいね。」  テレビの台に置かれていたDVD以外のDVDが押し入れにあった。これの意味するところとは?  「確実にいえること、“エージェンツのDVD”以外がここに入れられた・・ということなのか?」  「うん、堀くん。あながちその推理は間違っていないと思われるね。」  そしてそのままDVDの奥にあるものを取り出す柿根。  「そして奥には何故か大量の除虫菊が・・。」  奥に数10個はあるだろうそれが、柿根の目にとまった。  「こんなのを沢山入れてたなんて・・全然知らなかった。」  菜田はそう言っていた。  「所長、除虫菊ってことは・・蚊取り線香ですよね?」  「うん、この容器は間違いなくそうだと思うけどね。有名メーカーのロゴもあるし。」  しかし、それを菜田と一緒に見ていた東樹は違和感を感じる。  「しっかし、この除虫菊の容器・・えらく年代物だな。最近じゃ全く見ないぞ。」  「それどころか、僕たちが子供の頃にもこんなデザインはなかったんじゃないか?」  東樹に対してそう言った柿根。太一はその容器を見ながら同じ事を言う。  「俺もです。というか、2000年生まれの俺が知らないんだから、所長も東樹さんも知らないでしょう?確か所長は32歳だから・・」  「僕は1993年生まれです。」  「ってことは、少なくともそれより前に製造・・っていうか、製造年月日見れば早いんじゃないか?」  ここで至って初歩的なことに気づいた太一は、除虫菊の製造年月日を見て腰を抜かした。  「1968年製造!?」  なんとも年代物である。  「計算すると今から57年前の除虫菊らしいね。」  柿根はそんな年代物の除虫菊を見ながらさらにこうも言った。  「しかもそんな物が奥にまだ何個も何個もゴロゴロと・・逆に入手が大変そうだ。」  そして太一に尋ねた。  「ところで堀くん。その除虫菊だけど製造薬品にDDTが含まれてないかい?製造年月日が70年代以前だからあると思うんだけど。」  「DDT・・ですか?」  「あぁ、あるはずだよ。きっと。」  柿根が太一に何故、そんなことを聞いたのか真意は分からない。だが、1つだけ言える事があった。柿根は博学であるということだ。  「確かに、見たところDDTって薬品が含まれてますけど・・。」  「やっぱりか・・ありがとう。」  そう言うと柿根は仕事机の前まで行くと座りだした。  「堀くん・・手がかりはこんなもんでいいと思うよ。そろそろ、問題のワンダーランドの正体を本格的に推理しよう。」  「・・分かりました。所長。」  まだよく分かっていない東樹と菜田をよそに、2人はこのワンダーランドの謎を・・真意を暴く作業にかかる。  「だからきっと・・この文面が分からない。違いが不明なんだ。」  「共通部分を考えれば、違う部分の意味を考えて突き詰めるのは・・」  「反対の意味を考える必要があるはずなんですよ。」  「辞書はないかなぁ?」  「英語と日本語ですよね。」         1時間後。太一は立ち上がる。  「ちょっとスイマセン。助っ人に電話してきます。」  座って考え込んでいた柿根にそう言うと、太一は携帯を持って移動をする。後ろの方では東樹と菜田が、ずっと2人の推理の展開を伺っていた。  「俺、英語ダメなんだよな・・英語なら神多に聞くのが一番だ。」  そう言うと携帯から神多に電話をかける太一。  「もしもし、あぁ・・神多?今大丈夫か?」  電話に神多が出るや否や早速こんな感じの太一。  『今仕事で警察に来てんだよ。悪いな。』  「あぁっ!?いいだろ!?頼む!!」  早速切られそうになる電話に太一は必死になって食らいつく。  『うーん・・今な、事情があって星樹のとこに居るんだけどさ。』  「星樹が居るのか?ってことは、そこはCRRか?」  太一と神多の2人の親友である星樹がいる。それだけで太一にとっては好都合だった。  「英語は星樹もできるからな・・好都合だ。ちょっとさ、知恵貸してくれないか?」  『はぁ!?』  「いいからいいから、今度奢ってやるから。えーっとな、多分推理ではこの辺だと思うんだ。」  もう無理やり参加させようとする太一。  『はぁ・・分かったよ。』  仕方なく、参加せざる得ない神多と、友人・星樹であった。  ・・数10分後。  「まさか・・あの意味って。」  『おい、どうした?』  太一はあることに気づいていた。  「2人とも、このことについてだが・・」  頭の中で何かが繋がりかけていた。そしてそれと同じ頃。  「菜田さん。ふと思ったんですが・・須柄さんは英語は出来る人間でした?」  英和辞書のページをめくりながら考え込んでいた柿根は、菜田にそんな質問をしていた。  「英語ですか?」  「はい。」  しばらく考え込んでいる菜田。だが、やがてこんな答えを。  「別にできる人間じゃなかったですね。どっちかというと苦手な部類だったと思いますよ。」  「・・苦手な部類?」  辞書をめくる腕を止めた柿根。あるページから目を動かさない。そしてそのまま、ゆっくりと例の手紙に手を伸ばす。  「・・・・・・・・・・。」  そしてこれまた、そのまま立ち上がる。ある物が途端に目に入った。    「堀くん!!!!」  「所長!!!!」  2人は同時にこう叫んでいた。  「所長!あの意味がやっと分かりました!」  そう言うと太一は、持っていた携帯をその場に投げ捨てて走り出すと、その先にいた柿根に何やら話し出した。  「・・・・・・やはりそうだったか。なら、僕が先ほど見つけたアレも正しいことになるな。」  「アレ?」  太一は首をかしげた。  「あぁ、ずっと気になっていたことだ。ところで堀くん。もしこの推理が正しいとして、君は須柄さんを探し出すことができると思うかい?」  このワンダーランドを推理していて、柿根がずっと言っていたこと・・それが須柄を探し出せるかということ。  「え・・で、できるんですか!?」  太一は思わずそう叫んでしまった。太一の推理では、場所までは特定できていなかったからだ。   「堀くん。君はワンダーランドの正体は分かっても、須柄さんの居る場所までは特定できないだろうと推理で言ってた。 けどね、そうやってもう、彼を見つける何も手段が無いと認めると言うことは・・それは同時に敗北を意味します。」  柿根はそう言いながらニッコリと笑った。太一は所長が分かった謎が解けないようだ。  「所長・・。」  しかし、それでも柿根は笑っていた。  「答えは既に分かっている・・ワンダーランドに彼はいる。」  そして彼は、自分の後ろにある物に指をさした。  「・・え?」  「・・手紙をもう1度よく見るんだ。そしてもう1つ教えてあげよう。須柄さんはそこまで英語が得意ではなかったそうだ。 だから、難しく考える必要もないだろう。」  柿根の後ろにある物・・そしてその言葉を聞いた太一は、簡単なことに気づいた。  「・・!!!!!!!」    ワンダーランドの正体を解き始めてから2時間ほど。菜田と東樹の2人の前に太一と柿根は立っていた。  「失踪した須柄真ノ祐さんが、何故失踪したのか理由が分かりました。」  柿根はまず早速2人にそう言った。  「ほ、本当なんですか!?それは!?」  菜田は目を大きく開けると嬉しそうな声で言った。  「はい、そしておそらく・・今何処に居るのかも見当はついています。しかし・・」  柿根はその後、衝撃的な言葉を口にした。  「失踪したのが菜田さんと別れた後の1ヵ月前だったなら、かなり危険な可能性がある。時間が経っているために。」  菜田は凍りついた。  「・・それは、どういう意味なんですか?」  「自分にも分かるように教えてくれ!京介!」  東樹もその言葉から事態が緊急を要することを察した。  「分かりました。今からそのことを踏まえて、全てをお話します。ちゃんと聞いていてください。かなり真面目な話となりますから。」  太一は2人にあらかじめそう忠告した。  「あの手紙の意味とは一体何だったのか?そして何故、わざわざ通帳を新規で作ったのか?また、須柄さんの大事にしていた タロットカードが逆さまになってファイルに保管されていた理由は何故か?」  太一は3つの疑問を提示した。  「また、何故この部屋のテレビ台には“諜報部員エージェンツ”のDVDしかなく、押入れには年代物の1968年製の除虫菊・・ 蚊取り線香があったのか?」  続いて柿根は2つの疑問を提示する。  「最後に、WONDERLANDとは一体何なのか?そして須柄さんは今何処に居るのか?」  太一は最大の謎・ワンダーランドについての謎を提示したあと、こう付け足した。  「この暗号はある意味、解き易い要素が揃っていましたが、その意味を考えれば、一層緊急を要します。 彼は確実にワンダーランドにいる。けれどもそれは、生死に関わる問題の可能性がある。」  そもそもこの失踪事件。まず事件性のあるものなのかも分からない。  「でも、確実に言えることが1つだけあります。」  しかし、太一はそれでもこれだけははっきりと断言できた。  「あとは須柄さんを救い出すだけ・・“真相は掴めました”。」  解決編につづく。

あとがき

 書き溜めていたネタ第3弾を投稿した麒麟です。  ちょっと現実逃避したくて投稿なのかな?しかも初の暗号オンリー作品です。  こいつを製作したのは2005年の12月頃。書き溜めていたシリーズでは最も新しい部類に入ります。 実はまぁ、この頃は自分の愛読漫画が史上最高の数学史ネタの暗号みたいな話を連載していたのですが、 自分は色々訳あって単行本発売まで待たなくてはならない身でした。でも、かなりそれが気になって 気になって仕方が無くて・・結局似たような作品を作ってしまったわけです。  今年の春に単行本でその暗号ネタを読んだ時は凄さにビックリでした。この話は足元にも及ばなかった。    さてはて、“C.A.T.C.H.”シリーズは前回の“case006/分速800mで走る犯人”から飛んで これは“case019”。公開順がバラバラなため、登場人物などの説明が微妙でしょうがご勘弁を。 ちなみに最初は“case014”あたりを投稿しようか悩んでいたのですが、読み返したときに面倒になって 止めてしまったり。ちなみにこの“case014”は“case005/海の家騒動”に近いドタバタ物なんです。(本当にどうでもよい)  さて、では最後にこの事件を推理する人がいるならば、ポイントを挙げておきましょう。  1、WONDERLANDの正体とは何か?  2、預金通帳が新規で作られ妙な振込みがされているのは何故か?  3、タロットカードが全て逆さまになっている理由とは?  4、DVDが意図的に“諜報部員エージェンツ”だけがテレビ台にあった理由とは?  5、1968年製の除虫菊(蚊取り線香)が大量にあった理由とは?  6、須柄真ノ祐は今、何処に居るのか?  ワンダーランドの正体・・その大きなヒントが2〜5でしょうね。  そんなわけで推理を楽しんでくれれば本望です。では、長文駄文失礼しました。
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