分速800mで走る犯人(解決編)
 ※初めて読む方は先に、問題編を読むことをオススメします。  ・・往復4キロの距離を5分弱で行って戻ってきた方法とは?  ・・被害者の死体の場所や持ち物などの全てが納得できる1つの答えとは?  ・・これらの犯行を行うことの出来た人物はあの3人のうちの誰なのか?  ・・今もまだその犯人が持っているであろう決定的証拠、そいつは一体何か?  「駐在さん、お願いがあります。犯人はこの山道の特徴を利用した頭の良い人間だと考えられる。 だから、あの3人から決して目を離さないでほしいんです。」  全ての謎が、あなたには解けましたか?  case006/分速800mで走る犯人(解決編)  「そ、それは一体どういう意味なんかえ!?」  駐在さんの微妙な方言交じりの言葉を聞く太一は、ただ一言。  「文字通りそのままの意味です。ちょっといいですか?あの3人を呼んでも?」  神多たちのレンタカーのところにいる3人を指す太一。  「まぁ・・呼ぶくらいなら構わんが、一体何をするつもりなんかえ?」  「それは、見ていれば分かります。」  そうこうしているうちに、神多と凛星花に連れられた3人がこちらへと来る。  「さて、皆さん。揃いましたね。」  太一はまず最初にそう言うと、この事件の全てを語り始めた。  「では、今からちょっとした気になることを貴方達3人と駐在さんにしますので・・聞いてくれますか?」  本当に唐突過ぎるこの展開。  「ちょっと!何を話し始める気なの!?」  先ほどの聴取で疲れている様子の宮崎清美がそう怒鳴ったが、太一は動じずにただ・・  「聞いてくれるだけでいいんです。お願いします。」  「・・うっ。」  そう言われると、黙ることしかできない清美。  「では、今からお話しましょう。いいですね?」  皆が黙ったのを確認すると、太一はまず、この事件の内容を軽く語り始める。  「あなた達の大学の同期生・大輔さんが何者かに殺害された。死因は腹部を刃物で刺された事による失血死。 彼は、ガス欠した車のガソリンを、4キロ離れたスタンドまで入手しにこの山道を歩いていて殺害された。」  ここまでが、その事件のさわり部分だ。  「さて、ここで俺が思ったのは・・この事件にはまず不審な点が存在するということ。」  「不審な点かえ?」  駐在さんが聞き返した。  「そうです。彼は4キロ離れたガソリンスタンドに、ガソリンを貰いに行きました。」  太一はそう言いながら、死体の傍へと歩み寄っていく。清美は目をそらした。  「貰いに行くガソリン・・こいつは当然液体です。だから・・ガソリンを入れる容器が必要だ。 なのに、この死体の傍にはガソリンを入れるタンクがない。」  それを聞いた駐在さんに凛星花、そして枝山・清美・田村の3人はハッとさせられた。                  ※           ※          ※  「いえいえ、いいんですよ。にしても、そのガソリンスタンドへ向かった彼はタンク持ってこの真っ暗な山道を?」  「えぇ、懐中電灯すらない状態でね。」                  ※           ※          ※  こういう話をしていた以上、彼は間違いなくタンクを持ってスタンドへと向かっていたのは事実だ。  「なのに、この死体発見現場にはタンクはない。それどころか、この近辺にはそんなものすらない。何故なのでしょうか?」  太一はこの些細な出来事を取り上げて問題を提議する。  「でも、そんな些細な出来事が・・大輔の死と何か影響するのかい!?」  枝山はそう言ってきた。  「まぁ、確かに些細なことです。じゃあ・・ちょっとこの問題は今は置いておきましょうか。」  「今・・は?」  太一の言葉に枝山は何か感じた。  「実は、不審な点を挙げようと思えばこれ以外にも存在はする。」  自分の持っている懐中電灯を皆に向かって照らす。皆は一斉に目を覆う。  「ちょ・・ちょっと!!堀さん!!何するんですかっ!?」  凛星花はいきなりの迷惑行為に憤慨する。だが、それを無視する太一。  「まず、彼はこの夜道を懐中電灯無しで歩いていた。」  太一は持っていた懐中電灯の明かりを消す。その場は闇に包まれて、目の前にいる人間の姿すら、 何処に居るのか分からないくらい真っ暗になってしまう。  「こんな山道を明かりも無しで歩くのは危険すぎる。話によると、彼が出発してしまった後に懐中電灯が車から見つかったそうですがね。」                  ※           ※          ※  「でも、明かりなしって・・どうして今持ってる懐中電灯を渡さなかったんですか?」  「それがねぇ・・あいつが行く前に必死に懐中電灯探したけど見つからなかったんだ。」                    ※           ※          ※  「そういえば、そんなことは言ってたような・・」  凛星花があの質問をした張本人だ。だから何となく憶えてはいたようだ。  「でも、それはあくまでしょうがないことだったんだけどな。」  田村がポツリと一言。だが、太一はここでさらにつっこんだ。  「まぁ、確かにしょうがないかもしれない。でも、この暗くて何が起こるか分からない山道を4キロ・・ 往復で8キロする可能性もあるっていうのに・・携帯電話を車内に置いていくなんてのは危険すぎると誰もが思う。」                    ※           ※          ※  「まぁ、こっちも心配だったから携帯に電話かけてみたんだけど、あいつさ・・携帯を車内に置き忘れてたんだよ。」  「タオルとかハンカチとかと一緒になって置いてたんだ。それで連絡はつかなかったんだ。」                    ※           ※          ※  太一はこの部分も不審な点としてあげた。  「つまり、大輔さんはこの暗い山道を何も持たずにただ、タンクだけ持って放り出された。問題は、何故そうなってしまったのか?」  「何故・・そうなったのか?」  清美がそう言い返した。  「では、少し考えを変えてみましょう。この山道を懐中電灯も携帯もなく歩いた場合・・どうなってしまうのか?」  太一は再び手元の懐中電灯の明かりを消した。  「まず、何も見えなくなる。」  暗闇の中、さらに一言。  「そして、何者かに刺されても・・仲間どころか助けも呼べなくなる。」  「あっ!!」  凛星花がその指摘を聞いてハッとした。その瞬間明かりはつく。  「そう、彼は携帯を車内に置き忘れたんじゃない。誰かがこっそりと彼のポケットから携帯を抜き取ったんだ。」  枝山・清美・田村の3人を見ながらニヤリとした太一。  「だ、だが!それだけであの3人の誰かが抜き取ったのはどうかと思わんかえ!?」  駐在さんが太一の言葉に反論した。  「確かに駐在さんの言う通りだ。けど、もっと前提を巻き戻して考えてみてほしい。」  太一はそう言うと、さらに話を過去に巻き戻す。  「ガソリンをスタンドまで取りに行く。そのためにはガス欠にならなくちゃいけない。そしてかつ、確実に大輔さんにガソリンを 取りに行かせなくてはならない。」  ここで問題になってくる話がある。  「この3人から聞いた話です。彼は以前・・車のガス欠を同じような状態で起こしたことがある。」                  ※           ※          ※  「実は、前もこんなところでガス欠したことあったんですよ。あの車もあいつのでしてね。ガス欠で往生した時は皆大激怒で。 今度もこんなことしたらお前責任取れよ!ってね。」  「まぁ、自業自得かな?」                  ※           ※          ※  以前のガス欠の原因が被害者自身にあった。これがポイントだった。  「この話から考えられることは1つ。もし、再び同じガス欠事故が発生したら・・責任を取らされるのは大輔さんだということ。」  「そして見事に、彼が責任をとらされたわけだ。」  ここで、3人の隣にいた神多がそう発言した。   「そういうこと。となれば、大輔さんにガソリンを取りに行かせるには、海から帰る前にコッソリと、車のガソリンを抜いておけばいいことになる。」  太一が言った言葉は、場に激震をもたらした。  「ちょ、ちょっと待って!それって・・あたしたちの中に大輔を殺した犯人がいるってこと!?」  清美がヒステリックに叫んだ。  「じょ、冗談じゃないぞ!!僕たちの中に犯人だなんて!!」  枝山もかなり怒っている様子だ。顔が真っ赤だ。  「第一!それは推測の話じゃないか!!」  「そうです、これは推測の話です。枝山さん。でも・・」  だが、あくまで冷静に切り返す太一がそこにはいた。  「こう考えれば、タンクが消えた理由に、偶然大輔さんが出発したあとに懐中電灯が消えた理由。 さらに、携帯が車内に置き忘れていたという偶然が・・ 必然に変わりうるものとなる!!」  「な、何だって!?」  太一の言葉に枝山は言葉を一瞬飲み込みそうになる。  「明かりがないと何も見えない。携帯がないと連絡ができない・・すると、あることができる。」  そう言った太一は説明を始める。  「そもそも、この暗闇の条件下でどうやって明かりも無しに大輔さんは道を進むことが出来たのか?」  皆にその疑問を投げかける太一。  「暗いと何も見えない。けど、確かに大輔さんは車から2キロ地点のところまで歩いている。ということは、確かに道を進めたことになる。 視覚が頼りにならないこの条件下でね。」  そして地面を照らす太一。  「この山道は、車道部分がコンクリートで舗装されているが、車道以外はただの土の地面だ。だから、貴方達は懐中電灯の見つからない状態で、 大輔さんにこう指示したんですよね?」                  ※           ※          ※  「それがねぇ・・あいつが行く前に必死に懐中電灯探したけど見つからなかったんだ。それで、仕方なく車道のコンクリートと 森の土の地面の間って言うのかな?その部分に沿って歩け・・ってことになったんだよ。」                  ※           ※          ※  そのコンクリートの舗装部分と地面の境を照らした太一。  「この境を足を頼りに感じて歩けば、確かに道に沿って歩けるからスタンドへは行ける。けれども・・」  太一はここでまたしても疑問を投げかけた。  「この話が正しいのならば、大輔さんは車が停車した車線上を進んでいくはずだ。しかし、死体の発見された場所は、 何故か“車が停車したほうとは反対車線の脇道”だった!」   スタンド                (頭)死体    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  ____________________________||||  ____________________________|車||               この言葉に全員が驚いた。  「車は死体が発見された脇道とは反対の車線上に停車していた。だから、必然的にこの暗闇で道の端に沿っていくなら、 車の停車していた車線上の脇道を通るはず。でないと暗くて見えない。なのに、死体は反対車線の脇道にあった!」  駐在さんは首をかしげた。  「こ、これは一体どういうことなんかえ?」  太一はすぐに言った。  「簡単なことです。大輔さんは何処かで沿っていく道を反対車線側へと変更したのです!!」  だが、この言葉に凛星花が反論する。  「でも、懐中電灯を持っていない大輔さんが反対側へ移動なんてどうやって!?」  その通りだ。それはまず不可能。  「そこなんだ・・明かりを持っていない大輔さんがどうして反対側へ移動したのか?これこそが、トリックの正体なんだ。」  「トリックの正体!?」  凛星花は聞き返した。  「そう、この往復4キロの道のりを犯人は行って殺害して帰ったわけじゃない。」  そう言うとあの3人を見ながら太一は続けた。  「あの3人は大輔さんが出発した後、トイレのために脇の森へと入っていった。しかし、そのうちの1人はトイレなどしていない。 大輔さんを殺しに行ったんだ!」  「こっ・・殺しに行った!?」  凛星花は絶句した。そして、田村が今度は反論した。  「でも、死体があったのはここから2キロ先だ!行って帰るのに何分もかかってしまう!けど、自分たちは長くても5分くらいしか 森の中に入っていない。5分で2キロを行って帰るなんて無理だ!」  「そうや!彼の言う通りや!」  駐在さんも同意見だ。だが、太一だけが違った。  「いいや、さっきも言ったでしょ?犯人は4キロの道のりを走ったわけじゃない・・分速800mで走っちゃいない。」  太一は言った。  「まずね、大輔さんが出発したのが7時頃と言われている。そしてこの3人が森へ入ったのは7時5分や10分。 出発してから5分後・・もしくは10分後だ。」  そう言うと太一は続けた。  「そもそも出発してから数分も経っていない。しかも大輔さんは明かり無しでコンクリートと地面の境を感じながらゆっくり 進んでいたはずだ。だから、殺された大輔さん自身が死体発見現場に辿り着いていないとまずは考えるべきだ!!」  太一のこの言葉・・全員を絶句させた。  「そしてその状態で懐中電灯を持った犯人は森の中を走りながら車道へと出て、スタンドへと向かって歩いていた大輔さんを刺した。 この時点でまだ、大輔さんは死体発見場所には辿り着いていない。せいぜい数100m付近で刺されたと考えるのが関の山だ!!」  そう、そもそも犯人が2キロ地点まで走って刺したのが違っていた。  「実際の殺害現場は数100m付近の山道だった!」  「ちょっと待ってよ!!それじゃあどうして大輔の死体は2キロ地点に移動しているのよっ!?」  清美がやっと出した言葉がこの反論だった。  「アンタの話じゃ、死体がここにあったことがおかしくなるじゃない!!」  「それは違う。清美さん。」  太一は首を横に振る。  「何が違うってのよ!?」  清美は納得ができない。だが、ここで太一は言った。  「犯人は刺してそのまま今度は走って車へと戻った。で、いいですか?犯人は刺しただけで殺してはいない。」  「え?」  清美の反論がとまった。  「まず、犯人は大輔さんに追いつくと殴るかどうかして気絶させたんです。そして、気絶した大輔さんを担いで 反対車線の脇道へと運ぶと、そこで腹部を刺したんだ。」  「ひ、被害者を反対車線へ運んで刺したんかぇ!?」  駐在さんは驚きの声を上げた。  「そうなんです。そしてその際、大輔さんの体をスタンドとは逆方向に向けて刺した!」  そう、これがトリックの全貌だった。  「いいですか?大輔さんが出発した時、コンクリートの車道は右側に、そして地面は左側にある。 つまり、左側に地面があるのを足で感じながら暗闇を進んだことになる。」  太一はそう言うと続けた。  「犯人はその大輔さんは気絶させ、反対車線に体をスタンドとは逆方向にして放置すると刺した。 すると大輔さんは携帯で助けを呼ぼうとしたでしょう。しかしできなかった。」  「何せ、犯人が抜き取っていたんだからな。」  神多は付け足した。  「そう、しかし・・大輔さんの傷は即死するほどのものではなかった。しかし、出血が酷くこのままでは失血死してしまう。 ここで大輔さんは思ったはずだ。助かるためには自らが歩いて助けを求めるしかないと!!」                  ※           ※          ※  「はぁ・・はぁ・・まだ、車から離れて数100m・・頑張れば・・戻れて助けが呼べる!!」                  ※           ※          ※  太一はここで言った。  「大輔さんはハンカチやタオルも車内に置かれている。これもきっと犯人が抜き取るか出発前まで隠していたんだろう。 こうすることで、大輔さんは出血を止めることができなかった。」  全ての偶然には意味があった。  「そして、大輔さんは道を引き返そうとする。コンクリートが右に、地面が左側にあるのだから。Uターンすれば・・ コンクリートは左、地面は右側になる。だから、今まで左側に感じていた地面を右側で感じ取れば、 明かりの無いこの山道でUターンできていると大輔さんは感じることになる!!」  そう聞いた時、凛星花が気づいた。  「あ!!でも、大輔さんは犯人によって反対車線に移動されて、しかも体をスタンドとは逆方向に向かされていたから・・!!」  太一はニヤリとした。  「そう、それを当然気絶していた大輔さんは気づけなかっただろう。つまり、彼を反対車線の・・ しかも体の向きをスタンドとは逆方向にしていた。こうやっても、コンクリートは右で地面は左側に・・もう分かるでしょう? 当初の進行方向と同じ状態を感じ取らせることができる!しかも暗闇で何も見えない山道、体の向きやいる車線が違うことに気づけない!!」  畳み掛けるように太一は続ける。  「その状態で彼は車がある元の場所へ戻ろうとUターンした!そうするとどうなるのか!?結果的に遠ざかることになる!! つまり、大輔さんは自身の足で2キロのこの地点まで歩き、最後に力尽きて失血死したんだ!!」  このトリックにあの3人は絶句している。  「そう考えれば、現場にガソリンを入れるためのタンクが消えていたのも説明が可能です。」  3人のそばにいた神多がそう言った。  「刺された大輔さんは一応重傷だ。そんな状態ではタンクを持たない。刺された場所でタンクは捨てられていたでしょう。 もしそれが見つかったら?タンクの発見場所と遺体の発見場所の違いから気づかれる可能性が生じる。」  神多はそう言うと、ニッコリと笑って一言。  「だから、犯人がタンクを逃げる際に奪って、この森の中のどこかに捨てたんです。だからないのでしょう。」  そして、太一に代わって神多が今度は推理を始める。  「では、ここからは僕がお話しましょう。彼のトリックの問題点についてを。」  「も、問題点だって?」  枝山は先ほどの推理に太一の仲間がケチをつけることに戸惑っているようだ。  「まず、このトリックには問題点が2つある。そもそも、刺された大輔さんを歩かせていることになるのだから・・ 当然、トリックの痕跡が残ってしまう。」  「トリックの痕跡が残る・・っていうのは?」   見当もつかない様子の枝山。  「文字通り・・痕跡。残るものがあるはずなんだ。凛星花ちゃん。」  「はっ、はい!?」  いきなり名指しで呼ばれた凛星花は、しどろもどろな状態になる。  「凛星花ちゃんには分かったかい?その残っていなければならないものが。」  「え・・で、でも。あたしはそれが分からないってさっきから・・」  そうだ。そもそもこれが分からないのは3人の中で唯一、凛星花だけだというのに。  「死因は失血死。つまり、大量失血で死んだことになるわけだから?」  「・・・・あっ!!」  そう言われて凛星花は、やっとこの事件であるべきものに気づいた。  「“血”だ!!大輔さんが歩いてきた道に血痕が残っていないと変なんだ!!」  『ああっ!!!!』  3人と駐在さんに、一緒に来ていた医師が叫んだ。  「そう、その通り。血痕が残っていないとおかしい。なのに、それらしき血痕の跡がないのは何故なのか?」  そう言うと神多は大きなため息をついた。そして顔を上げると一言。  「実に単純明快です・・誰かがその血痕を消し去ったのです。警察が来る前にね。」  さらに、こうも続けた。  「そして、この地点で力尽きるまでに大量の血を流しているはずだから、ここで倒れた時には既に、出血はほとんどが収まっている・・ いや、それは変でしょうね。もっと厳密に言うなら・・」  神多は1歩前へ歩み寄ると、2つ目の問題点を指摘した。  「この死体発見現場には大量の血痕が残っているはずが無い。」  体をくるりと回転させてた神多。懐中電灯を死体のある現場に照らす。  「血痕があること自体は矛盾じゃないが、刺された場所から約2キロを彼は歩いたんです。だから、さもここで刺されたかのような 大量の夥しい血痕があるのは明らかに矛盾している!!」  その照らされた現場には、その矛盾を象徴するかのような大量の血痕があった。  「でも、それが現にあるんだからおかしい・・あれ?どうなってるかぇな?」  駐在さんは軽く混乱し始めた。  「神多さん・・これってどういう?」  「何・・簡単なことだよ。凛星花ちゃん。」  神多は懐中電灯を皆に向けると続けた。  「ここに大量の血痕がなければ、この現場が殺害現場だと言うこと自体が怪しくなる。そうなればトリックがバレる恐れがある。」  その口調はあくまで穏やかだった。  「だから、ここが殺害現場だと見せかけるために・・犯人は大量の血痕をここに残した。 すなわち、ここにある大量の血痕は“偽装工作”というわけなのです。」  穏やかではあったが、明らかに重みがある声でもあった神多の言葉。  「そもそも、この偽装工作は先ほど太一が言っていたトリックを成功させるためのものです。そしてそのトリックとは、 被害者が車から2キロ・・いや、正確には何キロという設定は無かったのでしょう。」  ゆっくりと左右を歩く神多は主張を続ける。  「とにかく、そのトリックは車から数キロ離れた地点で被害者が殺されたが、その殺害された時間に自分は数分しか車の地点から 離れていないのだから、そのたった数分で殺害現場まで行って殺して戻ってくるなど物理的に不可能。 よって、自らは容疑者から外れる・・と言った目的のものだった。」  左右に歩く足を止める神多。あの3人を見ながら言った。  「転じて、このトリックを必要とする犯人は・・大輔さんと行動を共にしていた友人3人組である貴方達しかいないのです。 分かりますか?犯人はあなたたちの中にいます。」  神多の告発が暗い山道で静かに響いた。  「そっ・・そんな馬鹿な!!自分たちの中に犯人だなんて!!」  田村はその言葉を即座に否定・・しかも物凄い形相で。その横では凛星花が、冷静な状態でこの話を整理する。  「でも神多さん。だとしたら・・その偽装工作の血痕。どこから犯人は入手を?それに、大輔さんがどこで力尽きるかは犯人にも分からない。 だから、血痕の工作をしたとしても・・それはあたしたちが死体を見つけた時に紛れてするしか無理じゃないですか?」  凛星花の話は筋が通っていた。  「それは流石に無理なことなんじゃ・・?」  確かに、これは無理だと思われる。しかし、神多は全く動じない。  「血の入手方法は、彼らは創考大学の医学部の学生だ。ひょっとしたら、大学内で被害者の血液を入手する方法があったのかもしれない。」  入手方法は説明ができる。では、血痕の工作についてはどうなのか?  「偽装工作をするタイミング。そいつは確かに、僕たちが死体を見つけて大輔さんに駆け寄ったあの瞬間しかありえない。 あの時、現場の状況を詳しく明かりを点けて調べ上げる前に、大量の血を現場に出現させた。どう考えてもばれそうだが・・ ばれない極自然な方法が存在はするかもしれない。」  淡々と語る神多。ここで凛星花に尋ねた。  「凛星花ちゃん。血液が固まらないようにする薬品とかないの?」  「え?固まらないように・・ですか?」  「うん。」  神多の突然の問いかけ、凛星花はそんなことを知らない・・と思われがちなのだが。  「血液の凝固を防ぐのなら・・クエン酸あたりを混ぜておけばできると思いますけど。」  「クエン酸か・・さすが。看護大卒だけあるね。」  「えへへ・・それはどうもありがとうございます。でも、実際は2年で退学の落ちこぼれですけど。」  実は意外なことに、看護大出身の凛星花なのである。  「なら、犯行の際にそいつは使われたのでしょう。」  そう言いながら神多はこの事件最大の決定打を放つ。  「被害者が歩いてきたルートの血痕はさりげなく消したとして、問題は僕たちが死体を見つけた時。」                  ※           ※          ※                         「だっ!?大輔!?」                         「そ・・そんな・・!!」                         「し、死んでる・・?」                  ※           ※          ※  「一斉に駆け寄った3人組のうち、1人だけ・・偽装工作が可能な人物がいました。」  持っていた懐中電灯を3人に向ける神多。3人は眩しそうに手で顔を覆う。  「死体の傍に駆け寄ったその人物は、死体の前でガクッ・・と膝をついた。その時です、隙を窺い被害者の血を現場にぶちまけたのは。」                  ※           ※          ※                 「すいません・・ちょっと、気分が悪くなった。」                           「あ・・どうぞ。」                  ※           ※          ※  「そしてまた、その人物は死体を見た後にそう言って、現場から嗚咽を漏らす振りをしながら、被害者が歩いてきたであろう道を、 車道に沿って歩き出していって離れた。それは、落ちている血痕を足か何かでかき消していくためだったのでしょう。」  神多はそう言いながら、懐中電灯の明かりを3人の首元へと動かしていく。  「最後に、その現場に血をぶちまけるについてですが、血は当然液体です。ぶちまける前に血を何かの容器に入れておかなければならない。 ですが、そんな容器を持って死体の傍に行ったら怪しまれます。ただ1人を除いては。」  明かりが3人の首元を照らしていく。1人目の首元にはカメラがあった。  「こいつを常に常備しておくことで、不自然さをカバーしていた。その中には・・被害者の血が入れられていたのです。 死体に近づいた時、その容器をそっと地面に向け・・中身の血を出した。」  2人目の首元には、赤い宝石がはめ込まれたペンダントがあった。  「だから、俺は駐在さんに言ったんだ。」  最後に、太一が出てきてそう言った。                  ※           ※          ※  「駐在さん、お願いがあります。犯人はこの山道の特徴を利用した頭の良い人間だと考えられる。 だから、あの3人から決して目を離さないでほしいんです。」                  ※           ※          ※  太一はその人物を見つめながら、その言葉を発していた。  「あなたが処分しないように・・ずっと見張っていたわけだ。その首のシロモノに、被害者の血が入れられていた痕跡があれば、 犯人は貴方と言うわけなんだよ。」  3人目の首元・・いや、3人目の“それ”は肩にかけられていた。  “それ”とは勿論“大きな水筒”のことだ。  「よって、犯人は“田村早世”さんしか考えられない。」  太一の言葉は、先ほどから突っ立ったまま動かない田村に全てが向けられていた。  「・・これにて、真相解明作業終了。」  太一がそう発した後、田村早世は友人・大輔殺害の犯行を認めた。  「はぁ・・すっかり帰りが遅くなったなぁ。」  時計は午前0時をとっくに過ぎていた。  「だけど、仲良さそうに見えても人間って分からないんだな。」  運転席で運転をしていた神多はそう漏らした。車は街に辿り着いていた。  「そうですよね。まさか、恋人を取られた恨みで殺害だなんて・・。」  街の明かりを寂しそうに見ている凛星花がいた。  「でもまぁ、三角関係が原因でもあったみたいだし・・元はあの田村って奴の恋人を大輔って奴が奪ったんだろ? 完全に被害者に落ち度がなかったとは言えねぇけどな。」  太一は再び酔いでガンガンし始めた頭を押さえながらそう言った。  「こりゃあ・・散々な休暇だったな。思いっきり海で遊ぶつもりが、海の家の騒動に帰りの殺人事件だ。」  神多も頭を掻くと、散々な休暇をそう総括した。  「ま、あたしは久々に2人の完璧なロジックの推理が聞けて満足ですけどね。」  後部座席の凛星花は、散々でありながらも1日に2度も推理が見れたことに満足しているようだ。  「でもな・・意外と楽じゃないんだよ。その推理ってのもな。」  横の窓ガラスにおでこをガツンとぶつけた太一は、さらに頭痛が増したような表情になる。  「ま、元から僕たちの推理は完璧なロジックじゃないけどね。」  神多は赤信号で停まるとそう凛星花に話した。  「太一の推理力に、僕の矛盾や勘違いなどを見つける力・・何だかんだ言って1人じゃ証拠すら掴めなかったりするんだよね。」  「そうそう。」  神多の言葉に頭を押さえている太一も納得する。  「そしてたまに、凛星花ちゃんの看護大仕込みの医学知識も合わさって解決する時もあるしな。」  「え?」  最後の太一の一言が、意外と凛星花に響いたりした。  「あー、でもそういや中退だったっけ?退学だったっけ?辞めたんだよね?」  太一がふと思い出したかのようにそう言うと、横にいた神多が頭を叩いた。  「馬鹿!それは禁句だろ!?忘れたのか?凛星花ちゃん気にして・・るんだ・・ぞ?」  ふと、後部座席で凛星花が俯き加減になって、肩が小刻みに震えている様子が目に止まった2人。  「あーあ、しらねーぞ。泣かせやがって。」  「あぁっ!?俺のせいか!?」  太一は焦る。何しろ、こういうのは苦手なのだ。  「あ・・えーっと、ごめん。俺・・つい何も考えずに。」  しどろもどろな太一の言葉。  「もうっ!別に気にしてませんからいいですよっ!!」  「ふがぁっ!!」  とまぁ、後部座席に置いてあったビーチボールを思いっきり太一に投げつけた凛星花。  「うわっ!こっちに投げつけるな!太一っ!」  太一の顔面に当たってから、運転席に弾き返されたビーチボールに焦る神多。信号はもう青になっている。  「馬鹿!俺は悪くない!負荷効力だ!」  「うるさいっ!事故して弁護士免許剥奪になったらお前を訴えるぞ!!」  そんなやり取りを聞きながら、後部座席にいる凛星花は、相変わらず肩を震わさせていた。  「ばーか!免許剥奪じゃ訴えられないだろうが!」  「馬鹿はお前だ!訴訟起こすのに免許は関係ねぇよ!」  しかし、別に泣いているわけではない彼女。  「おい!?お前のせいで後ろからクラクション鳴ってるじゃないか!?」  「うるさいっ!さっさと発進させないお前が馬鹿なんだろうがよっ!!」  「なにぃっ!?」  肩が震えている理由・・それは。  「・・もうっ!止めて下さいよっ!2人ともっ!」  そうやって2人を止める彼女の顔は、とても嬉しそうに笑っていた。  実は2人のやり取りが面白くて笑っていたのだ。  本当に、仲の良い3人組である。      C.A.T.C.H. case006/分速800mで走る犯人 解決

あとがき

 完成はとっくの昔にしていたのだから、さっさと出せばいいのに・・ってのはあえて黙っておいてください。お願いします。(ぁ  さて、今回の作品は前回の“case005/海の家騒動”とは違い、殺人と言うダークなお話でした。正直殺人は人が死ぬお話なので、 何処となく気を遣うといえば遣うものでした。  だから、ストーリー展開もどう見ても重くシリアスなものになるのですがね。  で、問題はトリックのほうでしたが・・どうだったんでしょうね?  かなり異論を唱える方もいるかもしれませんね・・ひょっとしたら。その時は・・反省するしかありません。 申し訳ございませんでした。ただ、フェア度だけは重視したんですけど・・反省しちゃったから今思うと微妙だなぁ。(オイ  最後に、この作品で推理でもしながら読んで、楽しんでくださった方がいたならば・・これほど嬉しいことはありません。 この作品を読んでいただき、本当にありがとうございました。
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