海の家騒動(解決編)
 ※初めて読む方は先に、問題編を読むことをオススメします。    ・・お客さんが持ってきたスイカは何処に消えてしまったのか?    ・・焼きそばの注文が一皿分余った理由とは?  ・・レジから消えた120円は誰かが盗んだのか?  ・・この海の家自体に隠された構造上のある秘密とは?  ・・店長の言う約束の曲とは何か?そしてこの海の家はもともと何だったのか?    「偶然に失敗などが重なって起きた今回の事件。1つずつ、流れを追ってみましょうか・・皆さん。」  全ての謎が、あなたには解けましたか?   case005/海の家騒動(解決編)  「まず、これらの謎を解くにあたり・・重要な点がいくつかあります。」  太一は全員を前にして、まずはそう言った。  「いわゆるキーワードってやつです。それらは全部で4つ。」  4本指を皆に指した太一、その横で神多が淡々と語る。  「カキ氷を食べていた親子連れのお客、突然発生した雷を伴った通り雨、助っ人でやってきたばかりの凛星花ちゃんという存在、 スイカを持ってきたお客さんがトイレへと向かったこと。」  目の前でそう語られる渚・青波・美雨・山さん・例のお客に凛星花の6人。  「とりあえず、これらの事件が発生した順に話を進めていきましょう。」  明らかに海水浴気分が抜けない海パン男にスーツにアロハの男たちだが、思わず凛星花を除いた5人はその勢いにのまれそうになる。  「まず、最初に発生したのは・・レジから消えた120円の問題です。」  太一はそう言うと、レジへと向かった。  「美雨さん、話を総合すると。注文票の合計金額とレジの中の合計金額の間に120円の差があるという話でしたね。」  レジの前に立つと美雨にそう確認をとる太一。  「え・・えぇ。そうだけど・・。」  「じゃあ1つだけ言っておきましょうか・・誰も金は盗んでいない。」  「え・・!?」  その言葉に美雨を初めとした海の家のメンバーが意外そうな顔になる。  「け、けど。じゃあ120円の差は何処で発生したんだ!?」  青波が盗まれたと否定した太一に向かって尋ねた。そう、そこが問題だ。  「レジの金額が注文票の合計金額と合わない・・その考え自体が間違いだったんですよ。皆さん。」  一方、テーブルの前でレジの太一を見ていた神多がそう発言した。  「考え自体が間違い!?」  振り向いた青波は聞き返した。  「そう、レジの合計金額は正しかった。間違っていたのは注文票の合計金額のほうだったんです。」  その逆転の発想に皆は驚かされる。  「それって・・どういうこと?」  渚が今度は尋ねた。太一はレジの横にあった注文票の回収ボックスを取り出すと一言。  「注文票のどれかに120円分・・記載ミスによって余計に書かれているんですよ。」   「それって・・早い話。注文票の合計金額が実際の合計金額より120円多くなってたってことなの!?」  凛星花は信じられないといった顔だ。  「そういうことになるね。凛星花ちゃん。」  太一はそう言うと回収ボックスを漁り始める。  「でも、そんなのありえないわ!!私や凛星花ちゃんがちゃんと注文票はキチンと書いていたのに!ミスなんて絶対にありえない!!」  しかしその発言に、仕事に対して絶対の自信を持っていた渚が反論をした。  「確かに、仕事をみんなは完璧にこなしていたはず。でも・・世の中に完璧なんてない。」  神多がふとそうもらした。その顔は、スーツの下にアロハシャツを着ている人とは到底思えない程の真面目な顔。  「ほころびが出来たんですよ。通り雨と言う偶然がその原因だった。」  「と、通り雨?」  渚は思わずオウムのようにその言葉を繰り返した。  「カキ氷に関しては、話によるとあるアクシデントが今日は発生していた。カキ氷の売り切れというね。」  神多はそう言うとメモを見て、今日の注文の流れを確認する。                     ※        ※        ※  「カキ氷2つ注文はいりましたー!」  「あ、こっちは1つ!青波くん!!」  「計3つだな!分かった!」                   ※        ※        ※  「凛星花ちゃんがカキ氷2つ。渚さんがカキ氷を1つの注文を受けたときにカキ氷はもう、氷が全てなくなって売り切れ状態になってしまった。 それに気づいた青波さんは、2人に指示を出した。」                   ※        ※        ※  「渚ちゃん!凛星花ちゃん!カキ氷売り切れ!!さっきの注文悪いけど断ってきて!」                     ※        ※        ※  神多は青波を指さすと言う。  「当然のことかもしれませんが、あなたは2人に注文を断ってくるように言った。」  回収ボックスを漁っていた太一は、ここである注文票を取り出して見せた。  「そしてそのさい、注文票に書かれたカキ氷は、上から横線を入れてかき消した。そこで渚さん、あなたにもう1度確認します。」  凛星花が消したカキ氷2つ分の部分に横線が入った注文票を見せながら、太一は尋ねる。  「あなたはカキ氷の注文を断った次に、12番テーブルに焼きそばを持っていった。そこで、ボールペンのインクが切れたと言いましたね?」                   ※        ※        ※  「ご注文の焼きソバをお持ちしました。・・っと。ありゃ?ボールペンのインクが無いや。」                   ※        ※        ※  太一のその言葉に、渚は少し戸惑った。だが、次にはすぐに・・  「まぁ・・確かにそれはそうだけど。それが一体・・」  「本当に、インクが切れたのはその時でしたか?」  すぐさま切り替えした太一。  「え?」  「本当は・・それ以前にインクが切れていたんじゃ?」  そう言うと太一は、このレジのところに立つと言った。  「あなたはレジでカキ氷とソフトクリームを注文した人のお勘定の計算をレジでしていた。その時、突然の通り雨であたり周辺は暗くなった。 このレジの付近、暗くて薄暗くなったんでしょう。」  太一はそのまま続ける。  「そしてあなたが、注文票のカキ氷に横線を入れようとしたした瞬間・・」                   ※        ※        ※                 ピッシャーーーーン!!!!!!!ゴロゴロ・・                           「きゃあ!!」                   ※        ※        ※  「雷が恐らくあなたは苦手だったのでしょう。その瞬間あなたは叫んだ。目を思いっきりつぶった状態で。」  太一は渚を指差しながらそう指摘する。  「だからそれが何だって・・」  「まだ分かりませんか?注文票のカキ氷に横線を入れようとした瞬間、あなたは雷で目を閉じた。きっとあなたはその際に、横線を確かに 入れたのでしょう。ただ、目を閉じた状態で横線を入れたせいで、その時既に、ボールペンのインクが切れている自体に気づけなかった!!」  ソフトクリームとカキ氷の2つが書かれた注文票を見せつけた太一。  「渚さんはそのまま、横線を入れたと思い込んだ注文票を回収ボックスに投げ込んだ。店内全体がその時に薄暗かったから渚さんは、 それに気づくことも出来なかった。その証拠に、このカキ氷の文字の上に、確かに横線を入れた跡だけがくっきりと角度を変えてみると見えるんだ!!」  太一が見せた注文票に、皆が呆然とする。  「メニューをまだ見ていないから断言はできないけど、話の中で“カキ氷3つで360円”という内容があったから、カキ氷1つの値段は120円・・ そう、不足分の120円と値段が一致するんですよ。」  そう言いながらテーブルの上にあったメニューを開く神多。  「あ、やっぱり120円だ。カキ氷。」  太一にそう言うと太一は笑った。  「これが1つ目の謎の答え。」  自分の意外なミスに驚くことしかできない渚。  「では、次に焼きそばの問題。こいつは少々ややこしいのでよく聞いてください。」  神多がそう言うと、渚と凛星花を厨房側に呼び出す。  「さて、この出来事はある些細な出来事が原因です。凛星花ちゃんに渚さん、ここが1番テーブルで間違いはない?」  テーブルを叩く神多に、2人は頷く。  「よし、じゃあ・・これから面白いものを見せてあげよう。2人とも、順に移動しながらテーブルを叩いて番号を数えていってくれるかな?」  神多の意外な言葉に渚は戸惑うが、凛星花が頷いたことで、2人はその作業をはじめる。  『1、2、3・・』  他の人間はその意図が掴めない。  『6、7、8、9・・』  ただ、太一と数えさせている神多だけが知っている。あることを。  『10、11・・』  その瞬間だった。皆がある現象に気づいて目を丸くした。  『12、13、・・・・』  2人の声はここで、終わるはずだった。  「じゅ・・じゅう・・よん?」  きょとんとしている凛星花だけが、何故か存在しない14番テーブルまでを数えていたのだ。  「ちょ、ちょっと待てよ!!これって一体!?」  青波は何がなんだか分からない。  「渚さんに青波さん、そして山さんに美雨さんにお聞きします。ここの海の家・・お客様テーブルは正確にはいくつありますか?」  神多の質問に、4人は声をそろえて・・  『13』  「!?」  凛星花だけが「えぇ!?」と言った顔をする。  「まぁ、言うまでもないでしょうが・・凛星花ちゃんと渚さんは、ある場所で数がずれました。 きっとこいつは、助っ人で来たばかりの凛星花ちゃんが勘違いをしたのでしょう。」  神多はそう言うと、紙を取り出した。      厨房  ________ | ↓       | | @ A B C | | D E F G | | H I ● J |トイレ | K   □ L |  ―――   ―――  ☆   入口(階段)        <実際のテーブル番号配置図>  「ここの海の家、確かにお客様テーブルは13しかない。だけど、凛星花ちゃんはある場所でその番号がずれて席が全部で14になってしまった。 皆さん、見ていたからもうお分かりでしょうが、それはここ。」       厨房  ________ | ↓       | | @ A B C | | D E F G | | H I J K |トイレ | L   □ M |  ―――   ―――  ☆   入口(階段)      <凛星花が思い込んだテーブル番号配置図>  「見取り図の●の部分、ここはお客様テーブルじゃない。なのに、凛星花ちゃんはここもお客様テーブルと勘違いして数えてしまった。 だから全部で14になった。」  そう言うと太一がその●の部分のテーブルにドン!とあるものを置く。それはカキ氷機だ。  「ここにはカキ氷機が置かれていた。だから、ここがお客用のテーブルじゃないことを皆は知っていた。なのに、ここをお客様テーブルと 凛星花ちゃんが勘違いした理由があった。きっと彼女は、ここでお客が実際に座って何かを食べていたシーンを見たのです。」  その神多の言葉を聞いた青波が、その問題のシーンと聞いてあることを思い出す。  「あああああああああっ!!!!!まっ、まさか!!!!」  「そう、そのまさかなのです。」  神多はそのテーブルを指さして一言。  「子供がテーブルに届かないという理由で、レジにいたあなたの後ろの13番テーブルでカキ氷を食べていた親子が、あなたの配慮で 機械をどかしたそのテーブルに座っていた。」                   ※        ※        ※  「ママー!ここなら届くよー!」  「こら!そこは座っちゃダメでしょ!」  「あ、お母さん!いいんですよ!どうぞどうそ、ここ座ってください!」  「え?いいんですか!?でもここ、カキ氷を作ってるところじゃ・・。」  「はは・・それがどうも氷が切れちゃったみたいで。これ以上作れないんですよ。だからいいですよ。座ってください。」                   ※        ※        ※  呆然としている青波をよそに、神多は続けた。  「そして、この海の家のメンバーと凛星花ちゃんとの間の1席分のずれが、次にやって来た1番・11番・12番テーブルの 焼きソバ一斉注文のさいに微妙なズレを生じさせた。」                     ※        ※        ※  「1番テーブル焼きそば1つ!」  「こっちも!11番と12番テーブルに焼きそばそれぞれ1つです!」                   ※        ※        ※  神多はまず、1番テーブルへと向かう。  「最初に完成したのは一番先に注文の入った1番テーブルの焼きソバ。そこのスイカのあなたです。」  スイカがないと騒いでいる男性を指さしながら神多は1番テーブルへと向かう。  「ここで1番テーブルに焼きそばを運ぼうとしたのが渚さんだった。しかし、彼はトイレへと行ってしまいその時は席にいなかった。 だから渚さんは、1番テーブルの焼きそばと注文票を持って、次に焼きそばを注文していた12番テーブルに運んだ。」  神多は1番テーブルから12番テーブルへと動く。  「ここで注文票のテーブル番号が1番のままだから、渚さんはこれを12番に書き換える作業をしたんじゃないですか? そこで、ボールペンのインクに気づいたんでしょう。」                   ※        ※        ※  「ご注文の焼きソバをお持ちしました。・・っと。ありゃ?ボールペンのインクが無いや。青波さん!ボールペンない!?」  「ボールペン?あぁ、投げるぞ!おりゃ!!」  「サンキュ!えっと・・じゃあ。」                   ※        ※        ※  何もかも見透かしたような神多の言葉。  「た、確かに言う通りだけど・・。」  渚はこのズバリの解答に驚くばかり。  「そして、厨房へと戻る渚さんと入れ替わりに今度は、凛星花ちゃんが焼きそばを持っていった。ここで思い出してほしいのが、厨房に磁石で 張られた注文票。12番と渚さんが書き換えた“1番”テーブルの注文票が消え、残ったのは“11番”とさっき注文がいった“12番”の2枚。」  厨房へと走った神多は、ここで注文票が張られたであろう壁を見た。  「凛星花ちゃんは焼きそばの注文を持っていくさい、まず残された“11番”と“12番”の注文票を見て、客席のほうを見渡した。」  ここで客席を見渡す神多。  「しかし、凛星花ちゃんの中ではテーブル番号が11番から1つずつずれている。だから、実際には“11番”と“12番”のテーブルを 見なければいけないところを、凛星花ちゃんは“カキ氷機の置かれたテーブル”と“11番”のテーブルを見てしまっていた。」  そこでカキ氷機が置かれたテーブルを指さす神多。  「当然あの席で客がカキ氷を食べていたのは青波さんによる特例であって、実際はあの後、誰も座ってはいない。だからそれを見た凛星花ちゃんは、 11番テーブルと勘違いしていたカキ氷機の置かれたテーブルには、1番テーブルと同じくお客が今、席を離れているものだとさらに勘違いした。」  ダブルの勘違い。凛星花はさらに「えぇっ!?」といった表情になる。まぁ、無理もないだろう。 そしてまた、他の人間もこのダブル勘違いには唖然となる。  「となれば、当然凛星花ちゃんが焼きそばを持っていく先は、“12番”と番号を勘違いして見ていた“11番”の席のお客だ。」  神多は11番テーブルへと向かう。  「そしてここで、焼きそばと注文票を渡します。その時に、ここを“12番”だと勘違いしていた凛星花ちゃんは、厨房にあった“11番”と “12番”の注文票から、迷わず“12番”の注文票を持っていきます。“11番”のお客にね。」  それを聞いた渚が、そこで何かに気づく。  「あっ!!それじゃあ・・!!」  「そうなんです。渚さん。」  全てを見透かした神多は、再び厨房へと戻る。  「さっき12番テーブルに“1番”テーブルの注文票を12番に書き換えて置いた渚さんは、それを見て勘違いした店員が、またも12番に 焼きそばを持っていくかもしれない重複ミスを防ぐべく、今度は厨房に戻り、“12番”の注文票を1番に書き換える必要が出てきたんです。」  だが、ここで問題が起きていた。  「しかし、書き換えるべき“12番”の注文票が凛星花ちゃんの手で“11番”テーブルへいってしまった。ここで渚さんは、“12番”の 注文票が紛失したと思い込んだ。しかし、実際には12番のテーブルには1番の注文票を12番に書き換えて置いているから問題はない。」  ここで神多は1枚の紙を取り出してペンで1番と書き出した。  「だからあなたは、会計のさいにどうしても必要になる1番の注文票を新しく作り直して厨房に置いたのです。そしてその新しい注文票と 焼きそばを持って、丁度トイレから戻ってきた1番のスイカのお客に持っていった。」                    ※        ※        ※  「あれ・・?」  「どうした?渚ちゃん?」  「いや・・ひょっとしてなくしたかな?」  「何をだ?」  「え!?い、いや・・別にいいんです!」  「あぁ・・スッキリしたぁ・・。」  「あ、丁度いいな。戻ってきたよ。1番テーブルの人。」                     ※        ※        ※  その紙を持って1番テーブルへと向かった神多。  「その結果、厨房には“11番”の注文票だけ残った。しかし、渚さんたちは“12番”と勘違いして凛星花ちゃんが持っていた焼きソバを “11番”が食べているところを見ていたからそれに気づかず、また凛星花ちゃんは“11番”と勘違いしていた“カキ氷機置き場”に いつまでも客が戻ってきていないと思い込み、結果的に“11番の焼きソバと書かれた注文票”だけが厨房に残されたのです。」  そう言い放った瞬間、山さんは呆れたような表情になる。  「じゃあ、俺が作った焼きソバが余ったのは・・。」  「そう、残ってしまった11番の注文票を見た山さんは、また11番に焼きソバの注文が入ったと勘違いして作ってしまったのが、 余りとなってしまったのです。実際山さんは、一斉注文の時に確かに3皿作ってましたから、新たな注文がきたと勘違いしても無理はない。」  神多の説明が終わる。そして最後に・・  「これが、焼きソバの答えです。」  少々複雑だった焼きそばの謎が解けた。  「さてと、じゃあ・・最後の謎を解こうか。」  レジの前に立っていた太一が、ゆっくりとそう言った。  「最後の謎。このお客さんのスイカは何処に消えたのか?」  店内の中央に移動しながら太一は辺りを見回す。  「この店内を徹底的に探し回ったがなかった。でも、まだ探していない場所が存在するのでは?」  店の全員にそう尋ねる太一。  「探してない場所?」  渚はそう言われてもピンと来ない様子だ。  「1つの場所に捕われていちゃ見つかるわけがない・・ってことも世の中にはよくある。」  そう言いながら太一は店の外へと向かって歩き出す。  「ちょ、ちょっと待てよ!?スイカは外にあるって言うのか!?」  青波の言葉を無視して、太一は入口の階段を下りていく。  「それは、いくらなんでもありえねぇって!!俺たちがスイカを持った人間が外へ出て行くところなんて見てないのは一番分かってるんだ! だから外には・・」  「そうなんだ。誰もスイカを外へは運んでない。」  青波の言葉が終わる前に太一がそう一言。  「けど、実際はあったんだ。この海の家の入口は階段で上って入るようになっている。つまり、砂浜と海の家の床との間には空間が存在する。 それは海の家内部から砂浜を見下ろす光景になっていることからよく分かるはず。」  太一は開店前、青波が設置した看板の前に立っていた。一同は凛星花が開店前に青波と会話した場所に移動して、下にいる太一を見下ろす。  「この看板をどかして・・下を覗けば・・っと、これだな!」  必死に手を伸ばしていた太一があるものを掴んでそれを取り出す。  『あっ!!!!!!!!!』  そう叫んだ一同の目には、スイカを手にしている太一の姿があった。  「そう、お客さんのスイカはこの下にあったんです。」  意外な答え。それを見た青波は当然ながらこの言葉を口にした。  「な、なんで外に?誰もスイカを持ってここへ隠した人間なんて見てないぞ!?」  隠すためにはレジ前を通過する必要がある。だから分からない。しかし、それに対する太一の答えはと言うと・・  「まぁ、それは実際に試してみましょう。」  太一は看板を元の位置に戻すと海の家内部へと戻る。  「まず、皆さんの話を聞いていた時に、何処かで俺は何かが変だなと感じていた。」  スイカのお客がいた1番テーブルの前まで移動した太一はこう切り出した。  「何かが・・変?」  「そうなんだ、凛星花ちゃん。」  太一は店内を見渡しながらそう答えた。  「一体、何がおかしかったんですか?」  凛星花は分かっていないようだが、太一のその答えもまた微妙なものだった。  「カキ氷を食べていた親子連れの話の部分だよ。あれがとてもおかしすぎる。」  「え?そこが?」  何がおかしいのか分からない凛星花。それはきっと皆も同じだろう。  「何故、あの親子連れが席を替わったのか?話だと椅子が低いみたいでテーブルのカキ氷に子供が届かないということだった。」                   ※        ※        ※  「あの・・うちの息子がカキ氷を食べようとしているんですが、椅子が低くいみたいでテーブルに手が届かないんですよ。」                     ※        ※        ※  そこで太一は問う。  「でも、この事態はありえない方法で解決した。どうやってこの事態は解決しましたっけ?青波さん?」  「え!?お、俺?」  青波は驚くが、それについては自分がよく知っていた。  「それは、あの子供がレジの後ろの席から横の席に移動したときに、ここならカキ氷が届くって言って解決したはずだけど・・。」  太一は神多の書いた席のメモを見ながら確認をする。  「つまり、13番テーブルからカキ氷機の席へと移動したわけですね。」  「あぁ・・そうだけど。」  そこで太一は切り出した。  「だが、それは矛盾している。そんな方法ではこの問題は解決できなかったはずだ。」  その言葉の意味が、聞いた一同は理解できなかった。  「いいですか?椅子が低いからテーブルに手が届かなかった。でも、この海の家の椅子の高さはみな同じなんです。 それは、仕事が終わった時に青波さん自身が、3つも椅子を並べてその上に、何の違和感も感じずに寝転がっていることからも明らかです。 もし、高さが違ったのなら、高さの違いから寝転べるわけもない。」  「あっ!!そ、そう言われてみれば!!」  青波がハッとした。  「つまり、何処の席の椅子の高さも同じなんだから、席を変えたくらいでテーブルに急に手が届くなんてありえない。」  「だったら!テーブルの高さが低くなっていたのかもしれないじゃない。」  渚がそう言い返した。  「いいや、それも考えられない。その証拠にここから全体の席を見渡してみてください。」  そう言われ、1番テーブルのところにいる一同は全体を見渡す。  「・・・・えっ!?テーブルの高さは・・皆同じだ!!」  テーブルの高さを問題にした渚が、そのことに気づいた。  「そう、テーブルの高さは同じなんです。そもそも、テーブルの高さが違っていたら、それに皆さんは気づいているはずです。 テーブルに届かないという親子の話を聞いたときに、もしテーブルの高さが異なっていたのなら、青波さんがそれを配慮して 席を替えさせていたはずですが、それをしていないってことは、テーブルの高さは同じだという明らかな証拠。知っていたら替えさせる。」  だが、そこまで言った太一はここで問題を提議する。  「でも、そしたら何故。あの子供はテーブルに届かなかったのか?椅子の高さもテーブルの高さも同じなのに、 席を替える事で届いているのは事実なのに・・。」  椅子を手にした太一。  「こいつが高さが同じなのは、青波さんの行動から明らかな事実。なら、テーブルの高さが異なっていると考えるしか手段がない。 しかし、このように見るとテーブルの高さも・・“同じ”ように見える。」  太一の言葉が大きなヒントだった。  「お、同じように見えるだと!?」  山さんがその言葉に大きな疑問符をつけた。  「そう、いや・・言い方を変えましょう。テーブルは同じ高さに見えるように細工されていた。」  「さ、細工!?」  青波がそれに食いついた。  「そう、そして・・ここにビーチボールがあります。これをこの1番テーブルの下の床に置くと・・。」  太一が持っていたビーチボールを床に置く。するとそれは・・ゆっくりと入口側の海岸へと向かって真っ直ぐに転がり始めた。  「ビーチボールが・・転がってる!?」  渚がそれを見て思わず叫ぶ。  「そうなんです。スイカはそのまま転がっていく、やがて、海岸側の柵の間を抜けて、設置された看板の後ろにぶつかり跳ね返り、 そのまま海の家の床と砂浜の間にある下の空間へと消えてしまった。」  太一の言葉通りの現象が、ビーチボールでも同様に発生する。      厨房  ________ |         | |↓@ A B C | |↓D E F G | |↓H I ● J |トイレ |↓K   □ L |  ―――   ―――  ☆   入口(階段)          「つまり、この海の家は・・床が傾いているんです。皆が気づかないくらいの、本当に微妙な小さい角度だけど、厨房側から入口の 海岸側に向かって床が下に傾いているんです。だから、このお客さんがトイレに行った間、そのスイカは転がって消えてしまった。」  ここで太一が目線をテーブルの面に合わせる。  「こうやってみれば、テーブルの高さは同じに見える。でも・・」  太一は今度、しゃがみこんで床を見た。  「テーブルの足の部分を見れば明らかな話です。厨房側のテーブルは普通ですが、そこから入口の海岸側へ向かえば向かうほど、 テーブルの足は長く調節されているのが分かる。」  たった1人を除いた皆がしゃがみこむ。  「きっと、この海の家の床が斜めになっていることをある人は知られたくなかった。だから、テーブルの足の長さを調整して、 面が同じ高さに見えるように細工した。だから、見た感じテーブルは同じ高さに見える。けど、実際は入口側へ行けば行くほど高さは 高く・・まぁ、正確に言えば床が下がっているのに合わせ面が同じ高さに見えるように足を長くしているから高くなっていっている。 だから、同じ椅子を使っている場合・・自然と微妙だけど座った時のテーブルまでの高さが異なってくるんです。」  太一はそのただ1人しゃがみこまない人物を見ながら言った。  「子供は13番テーブルでは届かなかった。しかし、テーブルの面と床までの長さが短くなっている・・つまり、角度で言えば 上のほうへ子どもが座ったことで、届いたわけです。」  何も言わない無言の彼女を見ながら太一は続ける。  「テーブルの高さを調節した人間。床が斜めなのも、元々海の家を建てる前のある土地を買い取ったあなたは知っていた。 美雨さん・・あなただけはその事実を知っていた。」  そう、海の家の秘密を知っていたのは彼女しかありえなかった。  『て、店長は・・知っていた!?』  渚に青波、それに山さんはしゃがみこんだ状態から起き上がると美雨を見た。  「そうなんです・・そしてここからは推測ですが、床が斜めになっている建造物と言えば?そして、美雨さんはここのロッカー室で 音楽を聞いているときに、凛星花ちゃんの質問に対してこう答えた。」                   ※        ※        ※  「思い出の・・曲なんですか?」  「まぁね・・約束の曲なのよ。これはね。」  「約束?」  「この海の家をしている私の理由ってやつかな?」                     ※        ※        ※  「あなたは思い出の曲でもあり、約束の曲とも言った。そして海の家をしている理由とも・・。」  神多もゆっくりと、こう切り出した。  「貴方は曲が好きなのでしょう。そして、曲が思い出で約束と言う。それはつまり、曲・・いや、歌に対して深く関わった人間だという証拠です。」  「そんなあなたがここを買い取った。そしてここは海の家になる前はある建造物だった。」  「その建造物は何か?あなたが歌に対して深く関わっている人間だということで想像ができます。」  太一と神多にはあるものが見えていた。  「あえて床を斜めにする必要のある建造物。それは講堂や映画館のように、何処にいても前にある物や映像、 そして人が見えるようにする必要がある建物。」  神多と太一の意見は一致しているようだ。神多の言葉に太一は頷いている。  「そう、ここは以前・・この海岸に建てられた、“海のコンサート会場”だった。」  太一はそう言い放った。  「こ、コンサート会場だって!?」  ここまでくればもう驚きの連続だ。青波を初めとする人たちは驚くしかない。  「そして、歌を聞いている貴方がいた。約束で思い出でもある曲、そう・・貴方は昔、ここの海の家が出来る前、 コンサート会場で歌を歌っていた“歌手”だったのでは?」  太一はそう尋ねた。美雨は黙っている。  「それに、僕は皆さんから聞いた話で面白いことを聞きました。」  神多はそう言うとある発言をここで思い出させる。                   ※        ※        ※  「とにかく、あともうちょっとなの。なのにそんな時に限ってお金がなくなるんて・・120円ってちっちゃい額かもと言うかもしれないけど、 誰が盗ったのか正直に言うまで全員帰せないわ。」                   ※        ※        ※  「何がもうちょっとなのか?それは発言内容からお金に関係している。さらにそのもうちょっとは、美雨さんのある発言と繋がってくる。 海の家をしている理由にです。」  神多は海の家をしている理由とお金の関連性を見つけていた。  「ずっと思っていたのは、これほどの事態が発生したのにも関わらず、店長のあなたは1度も大声で怒鳴ったり叫んではいないことなんです。 そういう人もいるでしょうが、ここまでくれば大抵は1度くらい怒鳴る。」  太一はこの不自然さを語った。  「そ、そう言われてみれば・・店長は1度も怒鳴ったことがないような。」  渚は過去のことを思い出してみるが、確かにそんなことはなかった。  「そういえば、俺も長い間ここの厨房で働いてるが、1度も怒鳴ったことは聞いたことがないな。」  ここで一番長く勤めている山さんも同様のことを呟く。  「でも、こう考えれば辻褄は合う。美雨さんは怒鳴る・・いや、大きな声を出すことが出来ないのだと考えれば。」  太一は美雨を見ながら言った。美雨は何も言わない。  「店長の美雨さんは昔、歌手だった。けど、ある時声が出なくなってしまった。歌手にとって声が出ないというのは致命的なもの。 美雨さんは歌手をやめてしまった。そして、以前歌っていたこの会場を買い取り、そこに海の家を作った。」  神多はそう言うとこの海の家を眺めた。  「この床の斜めがそのままなのは、以前のコンサート会場の名残を残しておきたかったから。そして約束でもあり思い出でもあるという曲は、 以前自分が歌っていた歌。今は歌えないので曲だけを聴いていた。」  太一はビーチボールを取りに行くとそう語る。  「ここの海の家をする理由。あなたはきっと、ファンのみんなに約束をしたのでしょう。いつか必ず復帰するとね。 ここの海の家をする理由は、1つは声を元に戻すための手術をする治療費を、ここで何年もかけて稼ぐため。 2つめは、自分が復帰した時に、ここの会場が消えていたら困るから・・皆との思い出が詰まった場所だったから・・」  すべては推測に過ぎない。だが・・そう思う自信があった。  「だから、復帰した時のために・・また、ここを守るために。買い取って海の家を作ったのです。」  美雨は表情を1つも変えずに一言。  「私はいつか、きっと元に戻る。あの頃の私は輝いていた。」  その言葉は、まるで水面に落ちた雫のように広がっていった。  「私は自分の力で歌手という道へと辿り着いた。だから、復帰するのも・・自分の力でと思っていた。 あなたたちは、過去の私を知らない。でも、それで丁度良かった。もし私のことを知っている人が店員だったら、 私のことを思って変に重みになるかもしれなかったから・・。」  そして、彼女は最後に一言。  「それに、過去の事を過去の事として語られるのは、“歌手だった頃は・・”って語られるのは嫌だったの。 だって、私はまだ諦めていない。復帰すると誓った・・まだまだ、立派な歌手なんですもの。」  その目はまだ、輝きを失ってはいなかった。  「・・これにて、真相解明作業終了。」  太一の言葉が、この海の家の騒動を終わらせた。  「にしても、偶然って凄いなぁ。」  海でビーチボールを飛ばしながらあたしは一言。  「まぁな・・今回の事件は様々な偶然が重なりすぎた事件だったわけだし。」  ポーン・・とそのビーチボールを高く放り投げる堀さん。  「おっと、まず・・あのお客がトイレに行かなきゃスイカは消えなかった。」  ジャンプしながらそれを飛ばし返す神多さん。  「それに、あのお客がトイレに行かなきゃ焼きソバの注文は変な移動もしなかったし、あの親子連れの客が席を変えなかったら凛星花ちゃんは テーブルを間違えなかった。」  海へ向かってダイビングキャッチをしながらボールをあたしへと飛ばす堀さん。  「それに、カキ氷が売り切れにならなかったら売上金のあんなミスも起こらなかったし、売り切れにならなかったからあのテーブルに あの親子はいかなかったですしね。」  あたしはそれを大きく大きく海へ向かって跳ね飛ばす。  「それに、そもそも美雨さんがあの海の家を、会場の名残を残すために床が斜めなのをそのままにしておかなかったら、 子供はテーブルに届いていたしスイカも転がらなかった。って、大きいよ!!」  神多さんはバックしながら海へ海へと後退し、跳ね飛ばした時には海中へと頭から落ちていた。  「それにしても、どうして堀さんに神多さんは・・美雨さんが歌手じゃないかと思ったんですか?」  そして、これだけがどうしても分からなかった。海で倒れこんでいる2人は少し苦笑いをした。  「いや・・あれは推理じゃなくてね。知ってたんだよ。」  神多さんは堀さんを見ながらそう答えた。  「知ってた?」  あたしはよく意味が分からなかった。  「いやさ、凛星花ちゃん。所長がね・・あの美雨さんが歌手をしていた当時のファンだったみたいなんだよ。と言っても、 まだ所長は当時かなり若かったけどね。」  「しょ、所長って柿根所長が!?」  あたしは思わずそう口にしていた。  「そ、この間ね。俺と神多で所長のテーブルに彼女のブロマイドがあるのを見つけたんだ。 だから、あの店長の顔を見た時、どこかで見たことがあるなぁ・・って。」  「へぇ・・(そ、そうだったんだ。あの所長・・そんな一面もあるのか。)」  みんなはまだ知らないだろうけど、あの所長に限ってそんな一面があるとは思わなかったあたし。だって、そういうのには疎い人だから。  「とにかく、いいからこっちへきなよ。」  「え?」    まぁ、とにかく・・。    「何水をこっちに飛ばしてるんですかっ!?2人とも!?」    2人のおかげであたしは助かったわけだし・・。  「どうして自分だけ浜辺に突っ立ってるの?海で水着なんだからこっちへきなよ。」  「だからって水をかけることもないでしょ!?堀さん!!」  2人とも・・。  「もうっ!!これでもくらえっ!!!!」  「うわっ!!ちょっと!!パラソルなんかこっちに投げてくるなよっ!!」  「おいっ!!僕のところまで飛んできてるじゃないか!!太一!!!!」  ありがとう。  C.A.T.C.H. case005/海の家騒動 解決

あとがき

 話の最後に出てきた“C.A.T.C.H.”。これがこの話の正式なタイトルです。(何故最後に?)。 この話のcase005が“海の家騒動”というお話なのですね。多分。(曖昧)  推理に関しては・・かなり微妙なところも多かったかもしれません。ただ、今までに書いた作品なの中では、 フェア度はかなり高いほうかなぁ・・とは思いますが。推理小説と言っても、いちがいに殺人ばかりではない のだということが、この作品で証明できれば・・なんてね。(何それ?)  そして、この作品の原案・・というか、書き終わったのは2005年の夏くらいだったと思うのですが、最近の話。 加藤元浩さんのQ.E.D.という作品とC.M.B.という作品を読んだところ。似たような話がありまして。 1つはQ.E.D.の24巻にある話・クリスマスイブイブ。事件設定がどことなく似ている気がします。 もう1つのC.M.B.は3巻に収録されている、都市伝説という話です。どことなく似た人が登場しているし。  まぁ、この話の正式タイトル。C.A.T.C.H.は加藤元浩さんに思いっきり影響されているのですがね。(オイ!
問題編へ小説投稿道場アーカイブスTOPへ