月夜革命(第5話・第6話)
第五話:石と光と護り巫女
透ケル 消エ、ル? 怖イ 誰カ、助ケテ…―――――
―――――アタタカイ。
…ダレ…?
「ゆ…め?」
朝。晶は、昨日の夢を見た。自分の運命を知らされた日。
「あの石…」
石は、何も変化がなく、ただ、白く光っている。あの日から、何も変化はない。
悠ちゃんから、小さい頃、引っ越す時にもらった石。でも、そのせいで、悠ちゃんの両親は、敵を見抜けずに、喰われた。
その時、チャイムが鳴って、悠と蒼紅が立っていた。
「どうしたの?」
「学校まで送っていこうと思ってさ」
「え…あ、ありがとう」
朝からわざわざ来るなら、何か理由があるのだろう。晶は、なんとなくそう思った。
「私は…これを」
蒼紅はペンダントを取り出した。
「あ、これ、この間の?」
「はい。予定より早く出来たので」
紫色の水晶。何故か目に留まった。
「と…これは、お友達の」
「ああ、あかりのやつね」
あかりが選んだのは、恋愛運に効果的なローズクォーツ。誰か好きな人でも居るのだろうか。
「じゃ、待ってて。用意してくるから」
朝食を済ませ、着替えて、晶は車に乗った。
「晶、生徒会長やる気ない?」
突然、悠がとんでもない事を言い出した。
「…はい?」
「いや、俺学校行けないし、生徒会長が居ないのも困るし」
「え、でも、副会長とかがやればいいし…」
「そうしたら、今度は副会長が居なくなる。事情知ってんのは晶だけだし…。頼む!このとーり!!」
悠が必死に頼むので、晶は断れなくなった。
「あたしでいいなら…」
「マジ!?ありがとう!!」
「その代わり、分かんなくなったら、悠ちゃん頼るからね」
「分かってるって!」
そんな事を話しているうちに、車は学校に着いた。
「ありがとう」
「気をつけろよ。奴等が潜んでいるかもしれない」
「うん」
「じゃあな」
車を降り、正門をくぐると、あかりが走って来た。
「おはよう、あかり。どうしたの?急いで」
「遅刻するかと思った…」
「大丈夫?あ、これこの間のペンダント。ついでに持って来たよ」
「ありがと。あ、それより、ねぇ。今の車って、悠さん乗ってなかった?知り合い?」
「うん…まあ。…え?」
「何?」
「あ、ううん。何でも」
晶は耳を疑った。あかりの口から、今確かに悠の名前が出た。
悠は「女としての悠の存在を消した」と言った。けれど、あかりは憶えている…。
(まさか…ね…)
晶は、妙な胸騒ぎを覚えた。
放課後、晶は“プリシラ”に向かった。悠達と待ち合わせをしていたのだ。
店内に入ると、そこには、物盗りに遭ったかのような光景が広がっていた。その中で、蒼紅が壁にもたれかかっていた。
「どうしたんですか!!?」
「…奴等が…」
「悠ちゃんは…?悠ちゃんはどこ!?」
蒼紅が、ゆっくりと手を上げ、指差した先に、悠が居た。
「空…」
「何故か…悠様は変化をなさらない…」
「え!?」
「姫なら、あれ位、どうということもないのに…。悠様…」
「…っ」
「晶さん…っ!?」
晶は外に飛び出した。しかし、どうすることも出来ず、ただ立ち尽くしていた。
と、その時、悠が弾き飛ばされた。
「悠ちゃんっ!!」
ドサッという音と共に、悠は倒れ込んだ。
「どうして…?どうして変化しないの?」
「しないんじゃ…ない…出来ない…んだ…」
「え…?」
「自分でも分から…ないけど…」
「そんな…」
悠ちゃん…このままじゃ死んじゃう…。
「そんなの…」
そんなの…。
「…嫌…!!」
その時、眩い光が辺りに広がった。
『そなた、護りたい者は居るか?』
護りたい…者…?
護りたい…者…。
「居…る…」
『生命(いのち)をかけても、か…?』
生命を…かけても…。
「護りたい…」
『ならば、我が力を貸そう。我の力、“護る力”なり。…今からそなたは、我が主だ』
晶は、割れるような痛みに襲われた。治ったはずの、あの痛み。あの感覚。
―――――何カ、ガ 目覚メ、テ、ユ…ク―――――
晶は、巫女の姿になっていた。
第六話:紫時雨(ムラサキシグレ)
雨は、止まない。
私の、心の、雨。
あなたは、どうすれば、私のもの?
あなたは、私のものに、ならないの?
あの女、憎い。
「せっかく、殺してやろうと思ったのに。“器”に隠れてしまって。ねぇ。早く出て来なさいよ…」
悠を襲った女は、氷のように冷たい表情をしていた。
「その顔…その声…」
晶は、今朝の胸騒ぎが、津波の様に押し寄せて来るのを感じた。
「あかり…?」
女は、ゆっくりと振り向いた。
「紫苑と呼んで?晶」
否定、しなかった。
「せっかく…もっと親しくなって、思いきり裏切って、その“能力(ちから)”を潰してやろうと思ったのに」
「どういう…こと?」
「教えてやろうか?巫女は何故、帝に喰われたか」
晶の脳裏を、紅いものがかすめる。
「私が帝に寝返って、姫を喰う様に、仕向けたから」
血が、見えた。
「まさか…」
「私は幻影の巫女と呼ばれる、言わば呪術師だった。その力で、帝に術をかけ、姫を喰う様仕向けたの。
それを、あなたが庇(かば)った…」
「…何故、そんな事をしたの…」
「そんなの決まってる!帝を、帝を愛していたからよ!!」
紫苑が初めて、表情を表した。嫉妬に狂った、女の表情(カオ)。
「だから、姫が邪魔だった」
瞳が、みるみるうちに紅くなる。晶の石は、紅い。けれど、彼女は、敵。
「邪魔で邪魔で、しょうがなかったのよ!!!」
紫苑は狂って、稲妻を放った。それを、蒼の光が消した。
光の源は…。
「蒼紅さん!」
「蒼紅…大丈夫なのか…?」
「はい。悠様よりは」
紫苑の瞳の紅は、更に深くなる。
「おのれ…」
と、その時、大地が揺れ、異世界への入り口――ブラックホール――が現れた。
あとがき
次回、遂にボスキャラ、帝登場!
それぞれの思いを胸に、今、最大にして最後の闘いが始まる!!(大げさすぎだろ。
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