18年目の逆転〜放たれたDL6・5の死神〜(第8話)
 俺たちにとって許せない存在。その中にアイツはいる。  やっと巡ってきた復讐のチャンスを、3年前・・アイツはつぶした。  だから俺たちが今度はお前を潰す。どういう言われようと構わない。  それが例え、どんなに歪み過ぎた憎悪であっても、復讐の対象が違うと言われようとも。  歪み過ぎた憎悪は、次々とお前らの関係ないと思われる人間をも標的にしていくんだ・・。  人の心を読める勾玉。それは・・友人が託した“たった1つの希望”。  Chapter 8 〜凶弾に倒れた友〜  第1部・銃  同日 午後3時7分 地方検事局・上級執務室1202号室  今日の法廷が終わった。私は真っ先に検事局へと帰った。  「くそっ!!どういうことなのだ!!」  扉を閉め、机の前に立った私は・・両手の拳で思いっきり机を叩きつけた。  「しかも奴は“呪い殺人”だと訳の分からないことを・・ぐっ!!」  机に叩きつけられた拳は、さらにギュッ・・と強く握り締められる。それを奴は堂々と法廷でやってのけたのだ。 まるで本当に呪いかのように。  「きっと・・解剖を行っても正確な時刻は分からないはずだ。そうなれば、確実に明日の法廷は終わってしまう!!」  どうすればいいのか?私にはその方法が分からない。  「とにかく、ここは原点に戻るのだ・・。」  私は深く深呼吸をする。勝手に自分が興奮して、目先の簡単な事実に気づかなければ、そこれそ管理官の思うツボだ。  「この事件の原点・・それは・・」  そう考えた私は、ふらふらと部屋を出て行った。この事件の原点を知る・・ それには、どうしても過去のあの悪夢をもう1度、呼び起こす必要がありそうだった。  同日 午後3時43分 留置所・面会室  「それでは、今日の面会はここまでにしよう。」  「そうだな。」  俺はそう言って仮面弁護士と別れた。仮面弁護士がゆっくりと面会室を去る。  「どうした?はやく戻れ。」  係官が俺にそう言った。俺は笑いながらゆっくりと言ってやる。  「なぁ・・1つだけいいことを教えてやる。」  「?」  まだまだ・・本番はこれからだ。  「私は死神なんだ。それは、今日の法廷で立証された。」  「何が言いたいんだ?」  係官は少し後ずさりする。俺の笑みがそんなに不気味だったのだろうか?  「言いたいこと・・それは1つだ。私は今日、独房で3人の人間を撃ち殺す。」  「!?」  係官は耳を疑っている。  「もう1度だけ言う、信じれないなら・・警察と一緒に1日中、俺を監視したって構わない。」  これは事実だ。  「私は今日、独房で外にいる人間を3人撃ち殺す。」    同日 午後3時51分 警察署・資料室  私は資料室に来ていた。私が見ている資料・・それは、DL6号事件のトリガー(引き金)となった、 管理官の父が有罪になった事件。DL5号事件だ。  「この事件・・管理官の父親が逮捕されるきっかけとなった“平夫妻殺害事件”。 これをDL5号事件の真犯人だった“志賀真矢”は否認している。それ以外のすべての事件は、自分が犯人だと自供したのに対し・・」  つまりそれが意味するもの。明らかに“DL5号事件”と“平夫婦殺害事件”は似て非なる事件だったと言うこと。    同日 午後4時4分 留置所・独房  「係官さん。今は何時ですか?」  俺は独房室の扉の前にいる係官に尋ねた。監視らしい・・。  「今か?4時4分だ。」  「そうですか・・。」  あと・・30分。  同日 午後4時22分 警察署・資料室  私は資料室で、何か管理官に繋がるかこの手がかりはないかと探した。別に大した意味はない。 ただ・・何か原点を知ることで、管理官の何かが分かるような気がして。  「今、この事件の全てを知るには・・管理官を知ることしかないのだ。」  とここで、証拠物件の引出しから、あるものが1つ足りないことに気づく。DL5号事件で。  「・・“平夫妻殺害事件”の凶器となった、銃が無い?」  慌てた私は、急いで資料室のパソコンをいじる。  (まさか・・盗まれたとでも言うのか!?)  しかし、その予想は大きく裏切られた。  「こ・・これは、どういうことなのだ?」  パソコンにはこう記されていた。  『DL5号事件・証拠物件051“ピストル”。現在“DL6号事件・証拠物件”として保存中。』  「DL6号事件の証拠物件だと・・!?」  私は嫌な予感がした・・私は手を見る。そこには、黒い塊が見えた。  「ああっ!!」  私は慌ててその手にある黒い塊を放り投げる。しかし・・それは幻。だが、確実に言えるのは・・私はそれに触れ、投げた。                   「お父さんをイジメるなぁ!!」  その瞬間。銃は暴発し・・けたたましい叫びが聞こえた。  「まさか、あの銃が・・この事件の?」  私は床に倒れこんでいた。ありもしない幻に驚いたせいで・・急いで起き上がり、私はDL6号事件の証拠物件の引出しを開く。 数年前、ここの証拠品はたった1つを除いて狩魔豪から盗まれた。 だが、その後警察が家宅捜索で全ての証拠品を取り戻し、ここに戻している。  「なっ!!!?」  だが、私は正直そんな事実さえも疑った。  「ない・・ないではないか!?どこにもない!!」  どういうことだ!?何故銃が無い!?  「ん・・これは?」  その時私は、ある証拠品を片手に掴んでいた。  「こいつは・・“DL6号事件の弾丸”。」  その時、ふと私の中で何かが見えた。今すぐに・・こいつの線条痕を調べるべきだと。  (私の記憶だと、この事件の凶器の銃は、DL6号事件の銃ではなかった。だから、線条痕は一致しないだろう。 しかし、もう1つ線条痕があったではないか!!)  そう、それこそが今日の裁判で最初に問題となった。“名松池の黒安公太郎殺害の凶器となったもう1つの線条痕”だ。  「鑑識に急いで連絡を入れねば・・」  その時だった。                            ♪♪♪  携帯電話が鳴った。着信は糸鋸刑事からだ。  ピッ・・  「どうした?糸鋸刑事!?」  『た、大変ッス!!』  その声から、ただならぬものを感じる。  「どうした!?一体何があった!?」  『そ、それが・・DL5号事件の真犯人“志賀真矢”が撃たれたッス!!』  し・・志賀真矢!?私は正直、驚きが隠せなかった。だが、その次に刑事が言った言葉は、さらに衝撃的なものだった。  『さらに・・志賀真矢が撃たれたと思われる時刻と同じ時間に、留置所から東山管理官が人を呪い殺したと連絡がきたッス!!』  「!?」  事件は止まらない・・何という事だ。  同日 午後4時50分 留置所・入口  「志賀真矢はどこを撃たれたのだ!?」  私は急いで現場へ急行した。話によると、今日は志賀真矢の計量裁判が高等裁判所で行われていたらしい。 その帰りで護送車から出た時、志賀真矢は撃たれたらしい。  「志賀真矢は頭部を撃たれており、即死ッス!」  即死・・それはすなわち、新たな犠牲者が出たと言うこと。  「・・分かった。それで、弾丸はどうなっている!?」  「それが・・頭部を貫通して見つかっていないッス。この留置所内のどこかにあると思われるッスが。」  弾丸が貫通して見つかっていない?嫌な予感がさっきからずっとする。  「糸鋸刑事!総動員して直ちに弾丸を見つけるのだ!そして見つけたら直ちにそれを鑑識に送り、線条痕を調べるのだ!」  「了解ッス!」  その声とともに、数々の捜査員たちと留置所の係官たちが散らばっていく。  「それで刑事!彼と会う用意はできているのだな!?」  「できているッス!急いで面会室へ!」   「分かった!」  法廷が終わっても、この男と会うとは・・まさに悪夢だ。  同日 午後4時55分 留置所・面会室  「どうですか?これで信じてもらえましたか?私の死神としての能力を。」  「ふざけるのもいい加減にしろ!貴様っ!」  私はアクリル版を叩きつけた。この忌々しい両者を隔てる壁がなければ、私はこいつを殴っているだろう。  「言っときますが、私には証人がいます。独房の監視をしていた係官が、呪い殺す現場を見ている。」  だが、当の本人は全く動じていない。それどころか嫌なほど冷静だ。  「それに、それを聞いた係官が警察に連絡を入れたと同時に、留置所では私の硝煙反応テストをした。」  硝煙反応・・今日の法廷でも行われた行動だ。  「だが、貴様の服から硝煙反応が今日の法廷で出ている。今更その検査をしても、貴様の服に硝煙反応があるのは・・」  「服じゃない、凶器である私の手から硝煙反応は出たんだ。」  私の言葉を途中で遮り、管理官は言う。  「手・・だと!?」  今日の法廷で、硝煙反応が出たのは服だった。私は言葉を失う。  「それより係官さん?今、何時ですか?」  「え・・」  突然の管理官の問いに、係官はたじろぐ。私はそんな係官の代わりに答えてやった。  「今は5時丁度だ。それがどうしたというのだ?」  正直そのような問いはどうでもよかった。私にはまだまだ聞きたいことがある。だが管理官はそんな希望を簡単に打ち砕く。  「死は見かけに寄らず惨くも無いし苦しくもない。死神はそれを知っている。」  管理官はゆっくりと立ち上がる。  「お・・おい!管理官・・貴様は一体!?」  「もう、こんな茶番は終わりにしましょうよ。御剣検事。」  管理官は左手をゆっくりと伸ばす。  「なっ・・ま、まさか!?」  係官もあまりの事に動くことが出来ない、ずっとその動作を凝視するのみ。  「いい加減、呪いを認めるべきだ。あなたは・・」  左手がゆっくりと銃の形を作る。あの時の悪夢が、再び私の目の前にあるのだ。  「き・・きさ」  「パァン・・。」  呪いは発動した。  同日 午後5時24分 留置所・モニター室    捜査本部にはいまだ、新たな銃殺死体発見の通報は無かった。管理官の話から、殺害された人物の名は確認できた。 現在捜査本部がその人物の足取りを必死に追っている。  そんな中、私は留置所のモニター室にいた。  「管理官と面会した人物は、間違いなくツイン弁護士だけなのだな?」  「はい、間違いありません。」  私は留置所で、管理官とツイン弁護士の面会様子を捕らえた監視カメラの映像を調べていた。  「時間は何時ごろなのだ?」  「確か・・3時20分後から10分か20分は話していたと思います。」  巻き戻される面会室の風景、やがてそこには・・2時間ほど前の面会風景が写される。  「確かに、ツイン弁護士と管理官が面会しているな。」  「きっと、明日の裁判の打ち合わせじゃないですかね?資料も持ってますし。」  他の留置所職員がそう言う。確かにツイン弁護士は様々な資料を持ち出して並べている。  「まぁ・・ここはいたって普通の面会風景じゃないですかね?」  「・・・・・・いや、ちょっと待て!そこを止めて!」  だが私は、見逃したりはしなかった。  「ちょっとここを、ほんの少しだけ戻して・・」  私の指示で映像がほんの数秒だけ巻き戻される。  「これは・・資料を渡しているのか?」  両者を仕切るアクリル版。その板唯一の穴・・手元の部分の受け渡し口だ。  「よく分からないが・・管理官はその資料に触れているな。」  ツイン弁護士が受け渡し口を通して資料を管理官側へやり、それを管理官が左手で触れている。  (まさか・・ここで何か硝煙反応の細工を?)  だが、そう考えると・・1つの信じられない事実が浮かび上がってしまう。  (管理官と、ツイン弁護士は・・共犯関係?)    <留置所の監視カメラの映像>  ツイン弁護士は管理官に何かの資料を触らせている。  とここで、携帯がなった。捜査本部のものからだ。  「もしもし。どうした?」  電話の向こう側では、息がはぁはぁ言っている。  『御剣検事!足取りを調べていった結果、死体が裏路地から発見されてました!』  「見つかったのか!」  なるほど、どおりで息が荒いわけだ。  『鑑識も現在、現場に向かっています。捜査員であたりを調べてみたところ、遺体の背後にあったゴミ捨て場のところに、 捨てられたガラスがありまして・・』  ガラス?どういうことだ?  『そのガラスが割れていたんです。どうやら、貫通した弾丸が直撃したようで・・ その弾丸も回収しましたので、鑑識が到着次第、線条痕の検査に出そうと思います。』  「そうか・・ご苦労。ただ、あまり現場を荒らすのではないぞ。」  そう言って電話を切る。どうやら、こちらも現実になったようだ。ただ、分からないのは・・  (ガラス・・?)  それに違和感を感じる私、とここで、監視カメラの映像から、ツイン弁護士が退室しようとしているシーンに移る。  「ん・・これで終わりか?」  「そうみたいですね。えっと・・面会が終わった時刻が“15:43:23”ですね。」  つまり、午後3時43分。  「ん?あれ・・おっかしいなぁ。」  とここで、1人のモニター映像の見分に立ち会った係官が首をかしげる。  「ん、どうした?」  上司の問いに彼は、少し戸惑いながらもこう言った。  「いや、自分がここを去るツイン弁護士を見たのは、4時40分頃だったんですけどね。」  「何だって?」  おかしい・・面会が終わってから実に1時間。この証言が間違いならば、彼は面会終了後1時間留置所で何を?  (何かが・・何かが姿を・・)  とここで、再び携帯がなる。今度は糸鋸刑事からだ。ということは、留置所の外だろう。  「もしもし、糸鋸刑事か・・どうした?」  こちらも息が荒いようだ。ということは・・大体見当はつく。  『御剣検事!ついに・・ついに弾丸を見つけたッス!』  なるほどな、こちらも予想通りの反応をしてくれたわけか・・  「そうか、よくやったぞ。糸鋸刑事。」  『はっ!ありがとうございますッス!』  さて、そうなれば・・すべきことは1つ。  「もうすべきことは分かるな?」  『分かってるッス!もう弾丸はバッチリ鑑識に送ったッス!』   さすが・・容量を得てきたそうだな。  「ご苦労、では・・鑑識からの情報がきたらあとは頼むぞ。」  『了解ッス!』  そう言って電話は切れた。さて・・あとはどうすべきか。あと1人なのだ。  同日 午後6時 留置所・独房  「おや、どうしました?御剣さん?」  あいつは俺の目の前にやってきた。独房室の入口にはいつもの係官。だが、俺の目の前にはあいつ。どういうことか?  「あなたは言った。3人呪い殺すと。」  「そうですが・・」  あいつは俺の前に座り込んだ。  「あなたの観察だ。」  へぇ・・面白いことしてくれるじゃねぇの。  「いいでしょう。構いませんよ。」  第2部・成歩堂  同日 午後6時51分 吐麗美庵  「ありがとうございましたッス!また来てくださいね。成歩堂さん!真宵さん!」  「うん、じゃあまた来るよ。じゃあね。」  「バイバイ!マコちゃん。」  僕は真宵ちゃんとともに吐麗美庵を出た。吐麗美庵はあの事件の後、店長が変わったらしい。 そのせいか今では、そこそこ美味しいことで有名なレストランになっている。 それになんと言っても値段が優しい。だから僕はこうして真宵ちゃんと一緒に来ているわけで・・  「なるほど君・・なるほど君!?」  「うわあっ!!何だよ、真宵ちゃん!?ビックリしたなぁ・・」  「何がビックリしたなぁ・・よ!さっきからずっと呼んでるっていうのに!」   目の前でふくれっ面になっているのは、言うまでもないな・・真宵ちゃんだ。  「さっきから呼んでも返事しないから、てっきりお爺さんになったと思ったよ。」  「お爺さんって何だよ・・僕はまだ20代だぞ。」  だが、真宵ちゃんは笑いながら言う。  「でも、四捨五入すれば三十路だけどね。」  「四捨五入するなよ!」  まったく、失礼な子だ。  「それより真宵ちゃん、何か用だったの?」  「あぁ、それそれ。あのね、私ちょっとはみちゃんの様子を見に病院に言ってくるからさ、 先に事務所に戻ってて。と言おうと思って。」  なるほど・・春美ちゃんか。  「僕も行こうか?」  「あ、いいよいいよ。もう夜になるしさ、なるほど君まで連れて行ったら迷惑だよ。病院に。」  何だよ、まるで僕が騒ぎを起こすみたいな言い方だな。  「まぁ・・行くのは構わないけど、もう暗いんだから気をつけるんだぞ。」  「わかってるわかってるって。じゃ、いってくるね!」  そう言うと真宵ちゃんは、僕とは反対側の道を通っていった。僕はふと時計を見た。もう7時だ。  「はぁ・・もうこんな時間か、時間って流れるのが早いな。それだけ僕も年をとったってことなのかなぁ?」  真宵ちゃんの言った“三十路”という言葉が頭を過ぎる。  (はぁ・・僕も衰えていってるのかなぁ?)                            ・・パァン!!  そんなことを考えている時だった。僕は体中の力が一気に抜けていくのを感じた。  それは、体の衰えかと一瞬思ったが・・全く違う。逆に言えば、目の前に銃を持った人間がいるのを確認するまでは、 それが自分に向けて撃たれたのだ。ということ自体気づかなかった。  (そうか・・僕は撃たれたのか。)  僕はそのまま倒れてしまいそうになる。だが、その犯人の顔を見た瞬間・・ 大量出血している自分がこう言うのもなんだけど、血の気が引いた。  同日 午後6時59分 留置所・独房  「知ってます?御剣さん?」  「何をだ?」  俺は御剣に、呪いについて詳しく教えてやっていた。  「呪い殺人・・これはですね。対象の人間を殺す時、その人間の前にはです。呪いで生まれたもう1人の私が出てくるのですよ。」  「何を馬鹿な・・。」  相変わらず信じようとしない御剣。  「もう7時ですが・・御剣さん。まだそこに。」  「ウム・・もう少しいることにする。」  もう中は真っ暗だった。  「あなたも随分といますね。もう1時間ですか?」  「そうだな。」  1時間か・・そろそろこいつと一緒にいるのも飽きたな。こいつはさっきから何かと俺に話し掛けてくる。 何か探っているのだろう。けれど・・  「もう終わりにしましょうよ。」  「何?」  私は独房の隙間から、御剣の額に向けて指を突きつけた。  「パァン・・」  場が一瞬静まる。係官も何も言わない。  「管理官・・今のはまさか。」  「さぁ、どうでしょうね?私の目に、あなた以外の人物が写っていたなら・・ありでしょうけど。」  同日 午後6時58分 吐麗美庵  私が成歩堂さん達の食事をしたテーブルを片付けている時だった。  「あれ・・こいつは・・?」  テーブルの下に、鈍く光っている勾玉らしきものを見つけた。  「これは・・成歩堂さんたちのッスかねぇ?」  私は記憶をめぐらせる。そう言えば、真宵さんが似たような物を見につけていたような。ふと時計を見る。もうすぐ7時だ。  「2人が店を出てから、まだそう経ってないッスね。」  だったら、今店を出て追いかければ間に合うかもしれない・・。  「店長!さっきまでいたお客さんが忘れ物をしたみたいッス!スズキ、ちょっと追いかけて渡してきますッス!」  キッチンの奥へ向かってそう言うと、今度は威勢のいい返事が返ってきた。  「そうかい!じゃあいいぞ!でも、すぐに戻ってきてくれよ!」  「了解ッス!」  そう言うと私はビシッ!と敬礼を決めて外へ向かってダッシュした。  同日 午後7時 吐麗美庵前・十字路  私が店を出て早速、成歩堂さんたちがどっちへ行ったのか探した。すると・・                             ・・パァン!!  「へ?」  私は思わず自分の右手を見た。よく見ると、男(?)が真っ直ぐと手を伸ばしている。 そしてその人物は、そのまま十字路の奥へと進む。そして見えなくなった。  「あ・・怪しいッスねぇ。」  怪しい・・というか事件の匂いがプンプンする。だって今のは確実に銃声だったし、それにあの男の人が持っていたものだって・・  私は注意深く十字路へと歩み寄る。ゆっくりと・・ゆっくりと・・何かあったらすぐにでも逃げられるように。 そして、十字路の先に見えたのは・・  「なっ、成歩堂さん!!!?」  私は思わず腰を抜かした。目の前で大量の血を流しながら倒れている、あの青いスーツの男性は、 はたまたあの特徴的なギザギザヘアーの男性は、私の知る限り1人しかいない。  と同時に、私の声で驚いてこっちを見たのは犯人だ。暗闇にまぎれているところを見ると、黒い服を着ているようだ。  (あ・・ど、どうしよう・・み、見つかっちゃったッス・・)  私が震えだしたのに対して、銃を持っていた男は慌てて私が来たほうへと向かって走り出した。  (に・・逃げた!?)  でも、私がそんなことを考えていたのもほんの一瞬だった。ハッと我に返るとそこには、血まみれで倒れている成歩堂さんがいる。  「な、成歩堂さん・・」  私は腰を抜かした状態で、まだ半分以上も状況を理解できていないままだたったけど、成歩堂さんの方に向かって歩き出した。 近づくに連れ、血の匂いがしてくる。  「成歩堂さん・・・・成歩堂さん!!」  体をゆさぶる、すると・・成歩堂さんが私のほうを見た。  「ま・・マコちゃん・・」  私は慌てて成歩堂さんの体を仰向けにする、出血が酷い。  「成歩堂さん!!どうしたッスか!?」  私の手からは、自然にさっきまで持っていた勾玉が落ちた。それは転がっていき、成歩堂さんの目の前で止まった。  「こ・・これは!!」  成歩堂さんは苦しそうだ。だが、その勾玉を見た瞬間、ピクッと体が反応する。  「成歩堂さん・・!!」  ただ叫ぶしかない私に、成歩堂さんは手を伸ばした。手にはあの勾玉がある。  「ま・・マコちゃん・・」  「!?」  「これを・・み、御剣に・・渡して・・・・くれ・・な・・い・・・・か。」  そう言って成歩堂さんはぐったりとなり、体は動かなくなった。  (そ・・そんな・・)    冬の虚しい夜空に、悲鳴だけが深々と響いた。  同日 午後7時15分 留置所・独房  暗くなった独房。携帯だけが鳴り響いた。  「もしもし、私だが・・どうした?糸鋸け・・」  『検事ぃ!大変ッス!大変ッス!マコ君となるほど君がぁっ!!』  「!?」  私は一瞬耳を疑った。今なんと言った?成歩堂?  「刑事!落ち着け!何があったんだ!?」  そう言う私が一番落ちついていなかった。  『それが・・それが・・成歩堂龍一が撃たれたッス!!!!』  私は目を大きく見開いた。  『現在、病院に搬送されているッス!!』  「そ、そうか・・分かった。」  私はそのまま携帯を切った。何が起きたか理解できない、そしてゆっくりと振り向く。奴は笑っていた。  「キサマァッ!!」  私は独房の隙間から腕をつっこんで奴の胸倉を掴む。そしてそのまま自分のところへと引き付けた。  「貴様っ!!あの時撃ったのだな!?成歩堂を!?あぁ!?」  だが、その腕を奴は冷静に振り解くと、静かにこう言い放った。  「確かめてみればいいじゃないですか・・。」  笑っていた。  どうして・・こんなことに。  同日 午後7時36分 堀田クリニック  私はパトカーを使って急いで病院へと駆けつけた。だが、すでに成歩堂は手術室に運ばれていた。非常に危険な状態らしい。  「な・・なんということだ。」  私はその場に倒れこんだ。何故・・どうしてアイツが!!  「あ・・あの。」  とここで、私の後ろで声がした。  「!?」  「御剣検事さん・・ッスよね?」  そう言って私を見ているのは、ウエイトレス姿のメガネをかけた女性だった。  「あ、えー・・確かあなたは・・」  以前、葉桜院の事件が終わった後、フランス料理レストランで彼女とは会った事があった。確か名前は・・  「あ・・私、須々木マコッス!吐麗美庵のウエイトレスで、2月頃に御剣検事さんとはお会いしたッス。」  元気な声でそう言うが、多少顔は暗めだ。まぁ・・彼女がここにいると言うことは、 きっと第1発見者で通報をしてくれたからだろう。その制服も血で汚れている。  (そういえばそうだった。彼女はあの時のウエイトレスだ。)  私はあの時のことを思い出した。  「そういえば、あの時確かにお会いしましたようだ。すっかり忘れていたようだ・・申し訳ない。」  私は深々と頭を下げる。  「いえ・・いいんスよ。それより・・」   慌ててそう言った彼女は、あるものを私に差し出す。  「これを、成歩堂さんが・・」  「な・・成歩堂が!?」  彼女の手には、あの葉桜院の事件の時に成歩堂から渡された・・忘れたくても忘れることが出来ないシロモノがあった。  「こいつは・・」  「これは、成歩堂さんが御剣検事に渡してくれと。」  「・・・・・・成歩堂。」  その瞬間、何となく成歩堂が私に伝えたかったものを理解した。  「わざわざスイマセン。ありがとうございます。」  私は再び頭を深々と下げる。  (成歩堂・・貴様がこれを託した。ということは、少なからず・・私に伝える必要があったのだろう?犯人に対する手がかりを。)  それがこの勾玉だった。つまり・・私にこれが必要だと言うことを成歩堂は言い集ったに違いない。  (それが意味するものは・・きっと。)  同日 午後8時12分 留置所・面会室  勾玉を持った私は、留置所へとすぐに戻った。  本来ならば、面会時刻は当の昔に過ぎている。しかし、どうしても確かめたいことがあった。 だからこそ、こうして特別に管理官と面会をすることになった。  「こんな遅くに・・どうしたのですか?」  「話したいことがある。それだけだ。」  管理官はいたって冷静・・しかし、心の奥底では何を思っているのだろうか?  「成歩堂龍一が撃たれていました。ここに来る途中、貫通した弾丸が発見されたと報告があった。 すぐに線条痕の検査がされるだろう。」  「・・そうですか。」  私は済ました顔をしている管理官を見ながら、ポケットの中に入れていた例の勾玉を取り出した。  「では・・お聞きする。」  手のひらで、“ギュッ”と勾玉を握り締めながら・・ジッと管理官の顔を見ながら言った。  「あなたは、成歩堂を含め・・本当に数々の被害者たちを、呪いで殺したと言うのか?」  その問いを聞いていた管理官・・俯いていたが、やがて顔を起こすと一言。  「・・私は死神だ。」  そしてこう続けた。  「ずっと前からそう主張しつづけているじゃないか・・それが分からないのですか?御剣検事?」                          ・・ズンッ!!  その瞬間、周りの風景が一変した。  ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ・・ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!  (やはり出たか・・“さいころ錠”!!)  呼び方はともかく・・管理官の前には、いくつもの繋がれた鎖とともに、5つの南京錠が姿を現す。   (ということは、やはり当然の事だが・・この事件には“からくり”が存在するということか。)  さて、そうなればだ。確認したいことはとりあえずした。この事件の肝となっている“呪い”が 人為的なものであると確実に考えれば、少しは気が楽になる。  (他に、何か聞くべきことはないだろうか?)  しばらく考える。だが、管理官はもう話すべきことはない。と言った表情で立ち上がった。そして・・  「もう、私は戻りますよ。流石に疲れているのでね、今日は。」  そのまま立ち去ろうとする。  「ちょ、ちょっと待つのだ!話はまだ・・」  「まだ何か話したいことがあるとでも?」  奴は立ち止まると静かにそう言った。私は自然に、この言葉を口にしていた。  「何故・・こんな事件を?」  管理官は振り返らない。  「アンタも分かってるだろ?御剣検事。」  分かっている・・ということはやはり。  「父親の復讐か?」  「・・・・そうさ。」  だが、それでは納得できない事態が起きてしまう。                            ・・ズンッ!!  (!?)  頭に軽く走る衝撃・・それは。           ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ・・ガシャン!ガシャン!ガシャン!  (こ、これは・・さいころ錠!!!!!!!!!!!!!!?)  父親の復讐・・ではないのか!?そんな私の戸惑いをよそに、管理官は面会室から去った。  「こ、これは一体?」  どうやら、管理官の父親をはじめとする家族関係。もう1度調べなおす必要性が出てきたようだ。  同日 午後8時28分 留置所・廊下  「き、貴様は!?」  面会室を出た私の目の前にいたのは、仮面をつけたあの男だった。  「これはこれは・・今日の法廷。お見事でしたよ。」  軽く手を叩きながらこっちへと歩み寄るツイン弁護士。  「一体何のようだ?」  私は彼を睨みつけた。  「おやおや・・落ち着いてくださいよ。私はあなたに睨まれる筋合いはない。まぁ、今は対立しているからでしょうがね。」  「答えになっていない。」  廊下で対峙する2人。異様な光景かもしれない。  「ふっ・・まぁ、早い話。依頼人から私に連絡があったのでね。」  「東山管理官からか!?」  奴はゆっくりと頷いた。  「どうやら、面会時刻を過ぎた頃に、担当検事が被告人と面会をしたがっているとか・・だから来てくれと。」  私は睨みつけたまま言う。  「だからと言って、貴様の出る幕ではないぞ。」  「何を言うか・・」  奴は髪を払いながら続ける。  「面会時刻ではないのに面会・・何か違法な取調べでもしているのではないと思うものです。普通は。」  左右に動きながら話すツイン弁護士。  「私たち弁護士は依頼人の人権も守ってあげる必要がある。それだけのことです。あとで面会に立ち合った係官から、 面会内容を聞かせてもらいますよ。何だったら、面会中の監視カメラの映像も見させてもらいます。」  「好きにすればいい。」  私はそのまま立ち去ろうとする。  「お好きにさせてもらいますよ。」  ツイン弁護士も、私と反対のほうへ歩いていく。とここで、ふと思った。  「ツイン弁護士?」  2人の足音が止まる。  「何ですか?」  ともに振り返らない。  「1つお聞きしてもよいか?」  「・・どうぞ。」  今日の法廷で、2度ほど感じたあの雰囲気・・管理官とツイン弁護士との共通の何か。  「あなた、ひょっとして・・」  そして、今日聞いた留置所でのおかしな何か。  「この事件について、何か知っている・・もしくは、関係しているのでは?」  ツイン弁護士は黙っていた。返事に困っているのかもしれない。  「さぁ・・どうでしょうね。私はただの弁護士だ。」  確かに、それは最もだ。  「知っていることも・・関係していることも。あなたが知っているとおりですよ。」  そう言って、彼は再び歩き出した。  「っ!?」  私も急いで後ろへと顔をやる。何故なら・・  第3部・誘拐  同日 午後7時26分 ビタミン広場  私は丁度ビタミン広場の真ん中を歩いていた。ここが一番近道なんだよね。  「はぁ・・懐かしいな、砂場って。思い出すなぁ・・あの時は砂鉄集めに燃えてたなぁ。」  暗い電灯だけが、真宵を照らしている。  「それにしても、いつ見ても新鮮だよねぇ・・ここって。」  新鮮なフルーツの形をした遊具がひしめく広場。ゆっくりと、その間から影が動き出す。  「ま、こんなところでしみじみとしている場合でもないか。急がないと・・」  確実にその影は真宵に近づいていた。  「きゃあ!!」  そう叫んだ瞬間だった。真宵の口に布があてられる。  (な・・なに!?)                         どんっ!!  その瞬間、真宵の体に軽い衝撃が走った。  (い、一体、どうなってる・・の。なるほど君・・・・お、おねえ・・ちゃん)  意識は途切れた。  同日 午後8時44分 留置所・廊下  私は去っていくツイン弁護士の姿に衝撃が隠せなかった。なぜならば、去っていく彼に見えたからだ。  (さ、さいころ錠だと!?)  その数は5つ。私が見た中で最も多い数だ。  (どうやら・・あの弁護士の素性も調べる必要性がありそうだな。)  同日 午後9時4分 警察署・資料室  警察署の資料室を訪れる。その際に、鑑識から出た調査報告書をもらった私は、思わずその内容に絶句した。  <現場写真・1>  予告殺人の1人目・志賀真矢の殺害現場。場所は留置所入口。弾丸は被害者の数10メートル後ろにあった木から発見。  <現場写真・2>  予告殺人の2人目の現場風景。現場は裏路地のゴミ集め場所。弾丸が被害者の背後にあったそこのガラスにめり込んでいた。  <現場写真・3>  予告殺人の3人目。成歩堂の撃たれた現場。場所は吐麗美庵近くの路地。弾丸は成歩堂の腹部を貫通し、 そのまま看板を貫通、木にめり込んでいた。  <3つの線条痕>  志賀真矢や成歩堂を始めとする3人の被害者を貫通した弾丸の線条痕は一連のものと一致。すべての弾丸には被害者の血が付着。  さらに極めつけは、糸鋸刑事が須々木マコの事情聴取をした時の目撃内容だ。  彼女は見たらしい、はっきりと犯人の顔を・・その顔はまさに、“東山管理官”だったとか。    <須々木マコの調書>  成歩堂を撃った犯人は、東山管理官だったと証言。  (まさか・・呪いで撃ち殺す時、殺す人間の目の前には、管理官の幻が現れるとでも言うのか!?)  独房での管理官の言葉が頭をよぎる。まさか・・本当にそんなありえないことが?  (しかしだ。そんな状況でも1つだけ・・望みはあった。)  この資料がなければ、御剣は今ごろどうなっていたことか・・。唯一のプラスになる証拠品がそこにはあった。  <DL6号事件の弾丸>  線条痕が黒安公太郎殺害に使用された弾丸と一致。  (これが意味するところ・・それが分かればな。)  そう考えながら資料を調べる。勿論私が見るのは、DL5号事件で逮捕された管理官の父親についてだ。 そこには相変わらずこう記されている。  被告のデータ  東山章太郎(32歳)。1年程前に離婚。当時9歳になる息子・恭平と2人暮らし。    1年程前に離婚・・そう記されている。そこが非常に気になる。  (管理官の事件を起こした動機・・それが父親の復讐だけではないようだ。 それは“さいころ錠”ではっきりとしている。となれば・・一体?)  それと同時に、アメリカの新聞に書かれていた。ツイン弁護士の記事を見る。  (彼も今回の事件に何らかの形で関わっている可能性が高い。そしてその関連性があるとすれば、全ては18年前のこの事件だ。)  ツイン弁護士は火事による火傷で、仮面をつけているようなことを言っていた。しかし・・過去の事件に関連した火災はない。  (ツイン弁護士については何か違う方法で調べて方が良いな。となれば・・今できそうなのは、管理官の動機についてか。)  そのためには、管理官自身についてもっとよく、調べてみる必要がありそうだ。  (せめて、管理官とその父が住んでいた場所はわからないだろうか?)  データを調べてみる。すると・・  (住んでいた場所・・郊外の“名松池”近くではないか!?)  どうやらそこのアパートに住んでいたようだ。  (管理官の今の住まいは違うからな。きっと、このアパートは事件後に出たのかもしれないな。)  とりあえず出かけてみることにする御剣。  同日 午後9時39分 名松アパート跡地  暗い夜。寒さが身にしみてくる中、雪が降り始めた。  「もう・・ないのか?」  目の前にあったのは広い空き地。そこには看板があった。  「名松マンション建設予定地か・・。」  手がかり無し。私がガックリとしている時だ。  「どうしましたぁ?」  コートの上から私の肩を叩く人間が現れた。  「ん?いや・・ある場所を探しに来ていまして・・」  そう言って振り向いた瞬間。思わず気絶しそうになる。何しろ・・  「どうしたんだぁい?」  振り向いた先にいたのは分厚くてボロボロなコートを着ている年をとった女性だったのだが・・  (う・・さ、酒臭い!?)  よく見ると手には一升瓶を持っている。しかも中身はもう半分。  「うぃ・・場所探し?ひょっとして名松ヒック!・・アパートかぁい?」  だが、酔っている反面・・この場所には詳しいようだ。  「そ、そうなのですが・・」  「すぅ(そう)かい。それはまらぁ(またぁ)、残念だぁ・・ヒック!ねぇ・・」  イマイチ聞き取りにくい。だが、私はイチかバチかの賭けに出てみる。  「あの・・スイマセンが、あなたはここの町に詳しくて?」  「あぁ・・名松町にはくわしぃぞぉぉ。何しろ生まれてから88年らぁ(だぁ)。」  88歳!?その歳でこの寒い中、夜酒をしていたのか?御剣は急に彼女の体調が心配になる。 しかし、逆に言えば何かを知っているかもしれない。  「スイマセンが、ここに昔・・名松アパートがありましたよね?」  「あぁ・・あったらぁ。」  彼女は焼酎を口付けの状態で一口“グビッ”と飲んだ。  「実は、そこに昔住んでいた人について聞きたいのですが・・」  「人ぉ?何年前だぁ?」  何年前・・酒臭い息を吹っかけられながらも、御剣は答えた。  「えー、18年程前です。東山章太郎という男性なのですが・・」  「あぁ・・あの苦労人らねぇ。覚えてるよぉ・・確か、殺人事件の犯人・・ ヒック!として捕まっらんら(たんだ)よねぇ。」  その口調、何かを懐かしむような表情だ。  「憶えてらぁ・・奥さんと別れてだぁ、子供連れてこっちに来たんらな。 ただ、離婚が思いのほかぁ・・スムーズにゃあ、いきゃん(いかん)かったらしいなぁ。」  離婚がスムーズに?どういうことだ?  「それは、どういうことでしょうか?」  「あぁ・・あぁね。あの人がここに子供を連れてきたんは、逮捕されぇるぅ2・・ ヒック!2年前だったんだぁな。」  逮捕される2年前?ということは、ここに来た1年後に離婚は成立したということか?  「なんらかねぇ・・子供の親権で1年くらぁい、法廷闘争してたんらとさ。」  彼女はそう言うとまた、酒を一口飲む。  (親の親権争い?)  「まぁら(まぁな)、つまり・・あれだぁ!章太郎さんはぁ、子供たちを連れて逃げたわけだよ。ここにぃ。」  逃げてきた・・それならば確かに納得かもしれない。私は頷こうとした・・が、  (子供“たち”!?)  今の言葉に重大な意味が隠されていたことに私は気づいた。  「すみませんが、1ついいですか?」  「あぁ?」  私は言葉を1つずつ慎重に選んで尋ねた。  「彼は・・章太郎さんは、子供を何人連れてここへ逃げていたのですか?」  彼女はその問いに、焼酎を一口飲むと答えた。  「2人だぁったな。」    同日 某時刻 ?????????????  私は気づけば、とても狭い部屋に監禁されていた。1辺が2メートルほどの部屋みたい。 天井には電球が1つ付いていて、部屋を照らしている。  「やっと目覚めたようだな。」  「!?」  目の前の扉から、男の声が聞こえる。私は必死に扉を開けようとするが開かない。  「無駄だ。厳重に電子ロックされているから開きはしない。それに金属製だ・・壊せない。」  私は怯えて声が出ない。  「まぁ、とりあえず殺しはしないから安心してくれ。密室だからと言って空気がなくなることもない。 通気講から空気は送られてくるからな。」  そう言われて天井を見てみる。確かに、よく見ているとそこには通気講がある。  (ひょっとしたらそこから出られないかな?)  そう考えてみるが、天井まで3メートル程の高さがあり届きそうもない。  「あと、誰かを霊媒して脱出しようとするなよ。これでもちゃんと君は、監視カメラで監視されている。 もしこれで霊媒している所を見つけたら、この部屋は爆発するからな。」  (え?え?ど、どういうことなの?これって・・)  よく見ると確かに天井には監視カメラも設置されている。  「あぁ、そうだ。あとな、食料だが念のために君の隣にあるリュックに入ってるから。」  「え?」  そう言われて私は隣にある大きなリュックを見つけ、早速中身をあさる。  「あ・・確かにある。」  中にはおにぎり・パン・サンドイッチ・リンゴ・バナナ・お菓子・お茶・水・ジュース。 さらにはカップラーメンの味噌味に、それを作るためのお湯が入った水筒がある。  (誘拐・・なのかなぁ?そして監禁?それにしても、優しすぎるけど。)  とここで、ふと疑問に思った。  「あとな、体調を崩した時のための薬も入ってるから・・」  「あの・・」  私は初めて、こんな人に真面目な質問をするかもしれない。  「何だ?」  「トイレは・・?」  と言って、私の声は小さくなった。  「あ・・・・」  誘拐犯の声も小さくなった。  「それはな・・ちょっと言いにくいんだけどな・・」  (セクハラとか思ってるのかな?誘拐・監禁してるくせに・・)  そんなことを思っていると、犯人は小さな声で一言。  「リュックをもっとよく見てみろ・・。」  「え?」  そう言われてリュックをあさる私。しばらくして、ある物を見つける。  「これって・・オムツ!?」  「・・・・・・。」  (何で黙るのよ!!)  しばらくして、犯人のほうから一言。  「使用後は一緒に入っているビニール袋の中に・・」  「待った!そう言うことじゃないでしょ!」  そして再び沈黙。何で黙るのよ。  「もうちょっとよく見てみろ。」  「え?」  私はさらに奥を探す。すると・・  「これって・・簡易トイレ!?」  そしてきっかり5秒後に返事がきた。  「使用後は一緒に入っているビニール・・」   「待った!!!!」  そう言うことじゃない。もっと大きな問題があるでしょ!  「監視カメラで見られてるのよ!!できるわけないじゃない!!」  そしてまたまた沈黙・・何で黙るのよ。  「もっとよく見てみろ。中を。」  「え?」  さらに私は中を探る。すると今度は、私の体をすっぽり覆ってしまうほどの大きな布? (それとも幕?)が出てきた。  「これで隠れて・・」  次第に犯人の声は小さくなる。意外に律儀な犯人なのかなぁ?  同日 午後9時53分 名松アパート跡地  「あぁ、2人連れていた。結局その2人の子供の親権は、章太郎さんにいったんらがね。」  「2人の親権は章太郎さんに?」  おかしい、データだと東山章太郎は東山恭平と2人暮らしだったはずだ。  「でもぉなぁ・・」  (でも?)  しかしその疑問は、次の彼女の言葉で払拭された。  「しばらくして章太郎らん(さん)は、リストラさらてぇな。別れたぁ奥さんとの請求が・・ ヒック!あったこともあってなぁ・・子供を1人ぃ、よぉしぃ(養子)に出したんだぁ。」  「養子ですって!?」  養子・・つまり、東山管理官には、資料には書かれていなかった兄弟がいたと言うのか!?  「それぇがぁ・・ここにきて、離婚が成立した歳のぉ・・なる(夏)だったなぁ。」  そう言うと、焼酎を“グビッ”と一口飲む彼女。  「すいませんが・・」  「あぁ?」  私は大きなポイントとなる部分を訪ねた。  「その養子に行った子供の名は?」  「あぁ、それはなぁ・・・・・・・だぁ。」  その言葉に私は、一瞬頭がポカンとする。  (そ、それは・・どういうことだ?)  だがしかし、次の一言がさらに、私に衝撃を与えた。  「まぁら(まぁな)、本当にぃ仲のよい兄弟でなぁ・・養子に行ったのは兄ちゃんのほうだったらぁ。・・・の。」  「!!!!!!!!!!!!!!!????」  その瞬間だった。ある光景がフラッシュバックした。                       ※     ※     ※  「君・・弁護士さんの子供?」  「僕の父さんを・・助けてくれるよね。君の父さんは・・。」  「ありがとう・・。」  「嘘だ・・。」  「と、父さんは犯人なんかじゃない!!」  「父さん・・」    「うぅ・・父さん・・絶対に・・絶対に・・無罪を証明してみせるから・・」  「絶対に・・父さんをこんな目にあわせたヤツを・・許さない!!」  「レイジ・・」                       ※     ※     ※  (まさか・・あの時の声は!?)  管理官の意外な過去に、私はもうすぐで気づくところにいる。  同日 某時刻 ???????????????  私はなんとか脱出法を探っていた。味噌ラーメンを食べた後に・・。  「この扉の横にあるやつは何だろう?」  扉の横には四角い何かがあった。よく見るとこれは・・フタ?  「あけちゃえ!えい!」  パカッ!という音ともに開いた何か。そこには電卓のように数字が書かれたスイッチに、数字が表示されるであろう画面が1つ。  「ひょっとして、数字を入力すると開くってやつかなぁ?」  私は早速入力してみようとする。が・・  「に・・21桁も入力するの!?そ、そんなぁ・・私の生年月日じゃ無理だよぉ。」  普通に考えてそれが暗証番号だと困るわけだが・・。  「あ、そうだ。君!1つだけ言ってなかったことがあったな。」  「わっ!!?」  突然扉の向こうから声が聞こえてきた。私は思わず腰を抜かす。  「あのな、1日に何度かブザーがなる設定にしてある。その時にだ。霊媒をして欲しい。」  「れ、霊媒?」  私はポカンとする。何故霊媒を?というか、何でこの人は私のことを?  「あぁ、必要だと思われる資料は、リュックの小さいポケットのところに入っているから。これで大丈夫か?」  私はポケットを調べてみる。  「ちょっと待って・・えーっと。」  私は資料を見つけた。そこには霊媒する人間の名前と顔写真があった。  「これだけあれば・・大丈夫だけど。」  そう言うと扉の向こうの犯人は、安心した様子で言う。  「そうか、良かった。その霊媒がうまくいけば、無事に解放できると思うから。悪いな。」  「いえ、そこまで言われることでも・・」  が、よく考えてみれば・・  (って、何で誘拐犯にそんなこと言わなくちゃならないのよ!!)  とここで、私は何かを感じた。  (そういえば・・この人どこかで、最近見たような。)  同日 午後10時48分 地方検事局・上級執務室1202号室  検事局に戻った私は証拠品を整理しながら考えていた。  「まさか・・私としたことが!!」  机の上には、新聞紙が1枚。アメリカの新聞だ。  「簡単なことだったではないか!!」  新聞の1面には、英語で顔写真とともに書かれていた。  「火傷は嘘だったのだ!!」  悔やんでも悔やみきれない。簡単なことに気づけなかった。  「直訳すれば明らかだったではないか!!」  “Twin lawyer”    それは・・  “双子の弁護士”  Chapter8 end  ・・・It continues to chapter 9

あとがき

 さて、Chapter8は凶弾に倒れた友。  分かりやすいタイトルだったでしょうね。内容が・・。  第1部・銃。これはまぁ、銃に関する情報が分かってきたということですね。ここでDL6号事件のあの証拠が登場するわけですよ。  そして、序章のあの人も衝撃的な再登場をするわけでして・・。序章との関わりが見えてきたような微妙なところ。  第2部・成歩堂。予想通りの内容だったと思います。ある種衝撃です。そして“マコちゃん”の登場と“さいころ錠”。 徐々に管理官の姿が見えてきそうな感じです。  第3部・誘拐。ついに彼女にも魔の手(?)が伸びたわけです。まぁ、会話を見る限りそんな雰囲気は一切無しですがね。 これが意味するものは何か?というか、何故に真宵ちゃんは優遇されているのでしょうか?  さて、終盤に1つの事実が判明したわけです。  これ以上はあえて言うまい。しかし、それでもピンとこない人はいるはず・・前回のラストを考えると。まぁ、あえて言うまい。  そんなわけで次回は、遂に話は過去になります。あの問題の裁判がついに・・以上です。

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