18年目の逆転〜放たれたDL6・5の死神〜(第5話)
 聖なる夜が2人に告げるもの。  それは果たして・・・・   Chapter 5 〜聖夜が告げるもの〜  第1部・奇怪  12月23日 午後5時12分 検事局・上級執務室1202号室  『た、大変ッス!!』  突然の電話が私に、新たな事件を告げる。  「ム、どうした?糸鋸刑事!?」  いつもの刑事の声とは違うこの状態。何かが変だ。  『新たな被害者が出たッス!線条痕も一致したことから捜査本部が今動き出したッス!!』  線条痕の一致。もうこれは1つのキーポイントだ。  「それで、現場は?被害者は誰なのだ!?」  ただ、それが私にとって衝撃的なものだった。  『現場は・・倉院の里ッス・・』  「く、倉院だと?」  倉院・・その言葉で霊媒が一瞬私の頭の中をよぎった。  「そ、それで被害者は?」  刑事は何も言わない。どうして言わないのだ!嫌なことばかりが次々と出てくる。そして・・  『被害者は・・“綾里春美”ッス。』  「は・・春美君・・だと!?」  真宵君のイトコである春美君が!?何故・・一体どうして!?  「糸鋸刑事!成歩堂たちには連絡をしたんだろうな!?」  『おそらく、もう連絡は入っていると思うッス。』  ならば話は早い。  「刑事!?春美君は無事なんだろうな!?」  『それッスが・・今は何とか大丈夫なようッスが、油断は出来ないと・・現在手術中ッス。』  どのみち、これは予感が当たっていたようだ。とりあえず今は無事だとしても、これからも大丈夫だという確証もない。  (狙撃犯の謎も残っているが、管理官・・おそらくこれも貴様なのだろう!?)  いい加減、このイタチごっこに終止符を打たねば・・!!  「刑事!私も行くぞ!」  そう完結に言った私は電話を切る。もう何度目だろうか?しかし・・もう許すことは出来ない。  同日 午後7時1分 倉院の里  「春美君は!?」  綾里家の屋敷に到着した私は、現場で待っていた糸鋸刑事にまずそう聞く。  「今も手術中ッス!」  「そうか・・。」  私は黄色のテープをくぐって現場の屋敷へと入る。  「成歩堂たちは?」  「真宵君と一緒に病院ッス!」  私は事件現場と思われる対面の間と呼ばれる部屋へ入る。  「こ、これはまた・・奇怪な部屋なのだな。」  暗い部屋の中に、いくつもの明かりが灯った蝋燭。不気味だ。部屋の真ん中に畳が4畳。  「ここで春美君は倒れていたのか?」  「そうッスね。」  畳のところに生々しい血の跡。マーキングがなんとなく、凶弾に倒れた少女の姿を想像させた。  「これが現場写真ッス。」  「うむ・・すまない。」  写真には春美君がうつ伏せに倒れている姿があった。扉のほうに向かって倒れている。  「弾丸は1発。春美君の体を貫通してさらに後ろの屏風をも貫通。壁にめり込んでいたッス。」  そう言われて私は、後ろのたくさんの呪文らしきものが書かれた屏風を見る。  「ん!?」  それを見て相当な違和感を感じた。これは・・なんというか、ありえない!?  「そういえば糸鋸刑事。」  だが、もう1つ違和感はある。  「なんスか?」  「東山管理官はどこにいる?」  彼がいない。それだけで妙な感じになる。何か企んでいるのではないか?と。  「あぁ、管理官なら捜査会議の準備に行ったッス。」  「そ・・そうなのか。」  少し安心した私。何故かは分からないが。  「少し現場を見るぞ。」  畳の上に立ち、屏風を見た私は、ますます妙な違和感がした。  「刑事。春美君はどこを撃たれたのだ?」  「えーっとッスね。話によると左胸付近ッス。しかし、心臓からはずれていたため即死ではないッス。」  即死ではない・・しかしだ。  「刑事、確かに私が撃たれたなら即死ではないだろう。」  「?」  だが、屏風を貫通した弾痕がはっきりと物語っている。  「これは、春美君の身長だったら即死ではないのか?頭部を貫通して・・。」  そう、明らかに弾痕は春美君の身長で考えると頭部・・すなわち、左胸付近を貫通したにしては高すぎるところにあったのだ。  「なっ!?」  「そうではないのか?これで左胸付近を貫通。その時だけ春美君は大人になっていたとでも言うのか?」  自分でそう言った時だ。10ヶ月ほどの前のある事件が頭の中に浮かんだ。  「・・・・ま、まさかな。」  私は霊媒など信じない・・決して。だが、1つだけどうしてもあることを確認したくなってしまった。  「れ・・霊媒など・・」  現場写真だ。そこに写っていた春美君の着ていた装束は・・  「う・・嘘だと言ってくれ。」  明らかに大人用サイズの装束でぶかぶかだった。どうやら、私の中で考えたくなかったことが現実になりそうだ。  「ん?御剣検事?足元になにかあるッスよ。」  「何?」  そう糸鋸刑事に言われて、私は足元を見る。よく見ると、確かに畳と畳の間に何かが挟まっている。  「紙切れ?」  私はそれを取り出した。紙切れには何かが書かれている。  「・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??」  紙切れには“豪”と書かれていた。  (そ、そんな・・そんな馬鹿な!?)  同日 午後9時43分 堀田クリニック  「成歩堂・・それに真宵君。」  手術室の前。私は椅子に座っている2人を見つけた。  「あ、御剣・・」  成歩堂が真っ先に気づきこっちを向く。真宵君は動かない。  「真宵君・・大丈夫か?」  「えぇ・・何とか大丈夫です。」  とは言うものも、物凄く元気がない様子を見ると大丈夫でもなさそうだ。  「実は、いくつか聞きたいことがあるのだ。いいだろうか?」  私はそう言うと真宵君をじっと見た。真宵君は静かにだが頷く。  「実は、春美君が事件当時に着ていた装束なんだが、何故かサイズが大人用に見えるのだ。しかも男性の。」  私は信じたくはないが、春美君は撃たれる前に、ひょっとしたらあることをしていたのかもしれない。  「どう思うだろうか?それについて・・。」  成歩堂はこの質問に意味に、何となく気づいてきているようだ。 それもそうだろう・・少なくとも私よりは信じているはずだ。この男は超常現象について。  「御剣・・それって」  「黙ってくれ。私は倉院流霊媒道の家元に尋ねている。」  成歩堂の言葉を遮る。正直、この状態で尋ねるのも酷だが、現状は切羽詰っている。 ここで奴の犯行を止められるのなら確実に止めておかなければならない。  「きっと・・はみちゃんは霊媒をしていたんだと思います。」  「!?」  やはり・・信じたくはないがそう言う結論に至るのか。  「対面の間にいたということが、霊媒をしたという証拠になる。あそこは私たちでも霊媒をする時くらいしか訪れないから。」  「そういえばそうだったな、対面の間は霊媒師と依頼主が2人で向かい合って儀式をする部屋だったもんな。」   成歩堂がそう付け加えた。どうやら、倉院については成歩堂のほうが詳しいらしい。  「それでだ。誰を霊媒したかは分かるだろうか?」  それがポイントでもある。  「それはちょっと・・でも、装束のサイズから大人の男性だろうというのは想像がつくけど・・。」  真宵君はそう言った。大人の男性・・  「成人男性か。」  恐ろしいほど当たっている。私の予想と。  「実はだ・・その成人男性に心当たりがある。」  「心当たり?」  成歩堂は不思議そうな顔だ。  「こいつだ。現場で見つけた紙切れに書かれていた。鑑識の簡単な報告によると、春美君の指紋が検出されたらしい。」  そう言って私は2人に例の紙切れを見せる。そこに書かれていた一文字は、この2人なら忘れもしないはずだ。  「これって・・」  「狩魔・・豪!?」  2人は驚きを隠せない。  「おそらくな。私はそう思っている。」  そしてだ、ここが重要なのだ。  「真宵君。狩魔豪の霊を呼び出してもらえないだろうか?」  私のこの言葉に、誰よりも驚いているのはこの2人。それもそのはず、私は今まで霊媒というものを認めてはいなかったからだ。 しかし、これで少しでも真相に近づけるのならば。  「分かりました。御剣検事・・でも、はみちゃんの手術が終わるまで待ってくれませんか?」  真宵君は快く承諾してくれた。ただ、今はそれどころでもないようだ。  「それは構わない。してくれるだけでも感謝する。」  私は深く礼をした。  「御剣・・お前・・」  成歩堂は何かを悟ったようだ。  「何を焦っているんだ?」  相変わらずお前は鋭いな。その辺が。私はなにも言わず、2人に横に座った。  12月24日 午前7時28分 堀田クリニック・集中治療室  春美君の手術は無事に終了した。しかし、依然として意識不明の重体。油断を許さない状況らしい。  (真宵君も成歩堂も疲れて寝ているようだな。)  私はそのまま眠い目を擦りながら廊下へと出た。  (ん?着信履歴があるな。)  病院内のためマナーモードにしていた御剣。気がつけば知らないうちに電話が鳴っていたようだ。糸鋸刑事から。 急ぎ足で病院の外に出た御剣は、電話を掛けなおす。  「・・・・・・・・・。(出ないな)」  おそらく昨日は徹夜だったのだろう。となれば今は寝ていたということか?   「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」  10分ぐらいコールしつづける御剣。やがて・・  『うおおおおっッス!!御剣検事!!おはようございますッス!!』  やっと電話に出た糸鋸。というか、ほとんど強制的に御剣が起こしたのだろうが。  「おはよう。糸鋸刑事。それより、昨日は用件があったのではないのか?」  それが気になるのだが・・  『ああっ!!それッスか!!実はッスね・・春美君の件で言い忘れていたんスが、実はあの日の午後の捜査会議で、 刑務所と拘置所で相次いで発砲事件があったッス!』  「何だと?」  発砲事件が刑務所と拘置所で?どういうことなのだ?  『詳しいことを話すと長くなるッスが、狙われたと思われるのは刑務所が“綾里キミ子”。 拘置所が”葉中未実”を思われるという報告だったッス!』  「綾里キミ子だと!?春美君の母親ではないか!?」  ちょっと待て、ということは、親子揃って狙われたことになるのか!?  「それにしても、葉中未実は何をした人間なのだ?」  私はそれを知らない。刑事は答えた。  『葉中未実は2年前、倉院の里で起きた殺人事件で、綾里キミ子と共謀して綾里真宵に罪を着せようとした人物ッス!』  「何だと?」  いかん・・このままだと本当に動機がわからなくなってきそうだ。真の動機が。  「そういえば、1つ聞いておかねばな。刑事。」   『ん?なんスか?』  そう、これらの話はいつもすぐするように言っていたはずだ。  「これは、昨日の何時の捜査会議で出た話なんだ?」  『それは・・3時から4時の捜査会議ッスが。』  ということは、完全な言い忘れ・・か。  「刑事。しっかりしてくれ。」  10ヶ月前に天ぷらうどんを奢った時の嬉しそうな顔を思い出すと、あまり酷な事も言えなかった私は、 とりあえず注意だけをして電話を切った。    同日 午前9時19分 検事局・上級執務室1202号室  とりあえず疲れているだろう成歩堂と真宵君は、そのままそっとしておいて、私は検事局に戻った。 戻ってみると言われたとおり、刑事が拘置所・刑務所発砲事件の資料と、春美君の分の事件の資料を置いていてくれた。  「ふむ・・結構多い資料だな。」  私はそれらに目を通す。と・・ここで気になる記述を見つけた。  「ん・・・・!?」  それは私にとって・・  「そ、そんな馬鹿な!?」  そうとしか言いようのない出来事だった。    12月25日 午前6時15分 倉院の里  よく考えれば昨日は、クリスマス・イブだったのだ。そんなことも忘れて、私はある奇怪な出来事に頭を悩ませていた。  「真宵君・・すまないな。」  「いいんですよ。御剣検事。こっちこそ、こんな朝の早い時間でスイマセン。」  私は成歩堂ともに糸鋸刑事の運転するパトカーに乗って倉院の里へ来た。  「朝は何となく調子がいいんです。滝に打たれた後だし。」  「ム、滝・・なのか?」  私にとっては理解しにくい世界なのかもしれない。ここは。  「真宵ちゃん。本当に大丈夫かい?無理してるとかそんなことはないだろうね?」  「大丈夫大丈夫。それはまぁ・・確かに今もショックだけど、最初の頃よりはだいぶいいよ。」  成歩堂の心配もよそに、真宵はそう言う。本当に強い娘であるなと感心する。  「それじゃあ、対面の間に・・イトノコさんもですか?」  「え・・自分ッスか!?」  糸鋸刑事は少し悩んでいたが・・  「面白そうッスね。自分も参加させてもらうッス。」  (お、面白そうだと!?)  対面の間に入る直前、私は糸鋸刑事に遊びではないのだと、10回ほど注意をした。  同日 午前6時29分 対面の間    私と成歩堂と糸鋸は、3人横に並んで座った。その目の前に真宵君はいる。  「それじゃあ・・手を合わせて目を閉じてください。」  その言葉に私たち3人は従った。蝋燭が不気味な光を灯す中、それらの儀式は行われた。 かつて父が殺されたあの事件以来、事件解決のために霊媒が使われたことはなかった。 しかしまぁ、皮肉なことに霊媒を嫌っていた私が霊媒を頼んでしまうとは・・  「誰だ?また我輩を呼んだのは?」  『!?』  私たち3人は、その声を聞くやいなや一斉に目を開けた。  「な・・なんということだ!!これが・・霊媒・・・・なのか!?」  私は驚きのあまり腰を抜かした。糸鋸刑事も腰を抜かしている。  「成歩堂・・お前は大丈夫なのか?」  「あぁ、慣れてるからね。」  さすが・・霊媒師を助手にしているだけある。  「まったく、一昨日も呼び出されてうんざりしていたというのに・・」  「一昨日!?」   私はその言葉で確信した。春美君が撃たれる前に霊媒をしていた人間は、確かにこの男だったのだ・・と。  「それより御剣。久しぶりに会ってなんだが、1つ聞きたいことがあるのだ。」  かつての師匠は、そのまま御剣へゆっくりと近づいていく。まるで3年前の私を殺そうとしたあの事件を忘れているかのようだ。  「な、何だろうか?」  彼はゆっくりと言った。  「私を撃った犯人は捕まったか!?」  「撃った犯人!?」   成歩堂が衝撃を受ける。  「と・・ということは狩魔検事は・・撃った犯人をご存知なんスか!?」  糸鋸は目の前に現れた亡霊に向かって、恐る恐る尋ねる。  「あぁ、我輩は知っている。我輩を撃ったのは男だ。」  「お・・男!!」  私はあまりにも目の前にいる師匠が、生前と変わらぬ姿で現れたことに戸惑いを隠せない。  「そうだ・・18年前だ。」  18年前!?ま、まさか・・  「そ、その男の人相は・・」  そう尋ねようとした成歩堂を、私はスッ・・と腕を伸ばし静止させた。  「狩魔豪。」  私はかつてのその師匠の名を、呼び捨てにしながらも、そのまま真っ直ぐと目線は逸らさずに、ある写真を取り出した。  「あなたを撃ったのは・・この男か?」  その顔写真を見た成歩堂と糸鋸。これにまた腰を抜かしそうになる。  「そうだ。こいつだ。」  狩魔豪の亡霊が言ったこの一言。狭い対面の間に響き渡る。  「・・なっ!?御剣!?この人は・・星影事務所にいた・・」  「そうだ。」  成歩堂の問いに短く答えた。  「検事・・これは・・管理官じゃないッスか!?」  「そうだ。」  糸鋸刑事の問いにも短く答えた。そう、これでビンゴした・・はずだったのだ。  「もう1度聞く。本当に間違いないか!?」  「間違いない!」  狩魔豪はそう断言する。私もそれが嘘だとは思わない。だが・・  「糸鋸刑事!!」  「はっ!!な、なんスか!?」  もう1つの事実が実に奇怪なのだ。  「あの事件当日。午後3時から4時の間に確かに捜査会議は行われていたのだな!?」  「え・・そ、そうッスけど。」  そう、これが実に奇妙としか言いようがない。  「その時、当然東山管理官はいたのだな!?」  「い、いたッスけど・・。」  もう、どうしたらいい?綾里春美が撃たれた時刻は、はっきりとこう記されている。午後3時30分から午後4時の間”と。  第2部・冥  同日 某時刻 上空・飛行機内  今日はクリスマス。  私は日本へ向かっている。久しぶりの日本・・彼らはどうしているかしら?  そんな楽しみを抱きながら、私は確実に向かっていた。  本来とは違うどこかへ・・。  同日 午前7時9分 対面の間  「どういうことだ!?御剣!?管理官は事件当日、警察署と倉院の里の2ヶ所にいたことになるのか!?」  成歩堂は混乱している。私もそうだ。  「しかし、管理官は確かにあの時、捜査本部にいたッスよ!!」  糸鋸刑事も混乱している。  「えぇい!!少し黙っていろ!!」  私はそう叫ぶと考え込む。  (どういうことだ?まさかこれも・・管理官の罠なのか?)  そう考えている時だった。  「御剣。1つ頼みがあるのだ。」  亡霊となっている狩魔豪がふとそう漏らした。  「ム・・何だろうか?」  狩魔豪の顔は心なしか焦っていた。  「奴は、降りてきた私を撃つ直前に、こう言ったのだ。」                       ※     ※     ※  「狩魔冥も死んでもらわないと困る。心配するな。こう言う風に楽に死なせてやるから。」                       ※     ※     ※  この言葉を聞いた一同が固まった。  「な・・なんだと!?」  「そ、そんな・・狩魔検事が!?」  「狩魔検事も・・狙われてるッスか!?」  私、成歩堂、糸鋸刑事。口々にこう言った。  「そうなのだ・・奴は本気だった。確実に冥の命も狙ってくるに違いない。お願いだ!冥を助けて欲しいのだ!」  その姿は、父を奪った殺人犯とか、私を陥れようとした男とか、黒い噂も耐えない検事とか、そういうものでは一切なかった。 そう、それはまさに・・娘を想う父の姿だった。  「冥を想う気持ちは我々も同じだ。それが父親のあなたなら尚更だろう。」  私は今、新たに迫っている危機を知る。  「実は今、冥が日本に向かっている。クリスマスの今日、昼の便で来ると言っていた。」  私は立ち上がる。  「もしあなたが言うように、奴が冥を狙っているなら、今日空港についたときが一番危ないかもしれない。」  このピンチを逆に生かすときが来た。冥を守りながら、うまくいけば管理官を捕まえることもできるかも知れない。 とにかく、時間がない。  「糸鋸刑事!今から空港へ向かうぞ!!」  「えっ!?い、今からッスか!?」  「そうだ!!」  管理官を捕らえるチャンスがあれば、逆に冥が殺されるピンチもある。もう悩んではいられない。  「だったら御剣。この証言を元に管理官を逮捕すれば・・」  「いや、それは無理だ!成歩堂!」  成歩堂がこの証言を元に管理官を捕まえることを提案するが、それは難しいだろう。  「な、何でだよ!?」  「いいか、霊媒は法律で認められていない!倉院流霊媒道でもそれは同じことだ!」  一般的に法律は霊媒を認めない。  「だけど、葉桜院の時は・・」  「あの時とは状況は違う!あの時は確かに霊媒が認められた。しかし!美柳ちなみの霊媒に関しては、 綾里舞子殺害において、被告人の有罪・無罪を決める決定的事項ではなかった!あれはあくまで、 被告の入れ替わりと真宵君のことについてを議論しただけで、審理の根本的な部分とは全く関係がない! 事実、あの霊媒が認められたところで、綾里舞子殺害の真犯人は分からなかったではないか!!」  そう、あれは霊媒が認められたように感じる。しかし、根本的な部分とは全く関係がなかったため、 法的にはまだ不完全で認められていないのだ。  「ましてはあの男、警視庁の管理官だ!そんな死者からの証言は最初から突き放すに決まっているだろうが!!」  とにかく、これ以上話している暇はない。  「とにかく行くぞ!!」  だが、私が想像していなかった出来事が、既に起きてしまっていた。  同日 午前9時14分 国際エアライン・12番到着口  私は日本に到着していた。  (きっと驚くでしょうね。昼の便で来るといった私が、朝の便で来たら。)  荷物を持って歩く足取りは軽い。鞭のしなり具合もよさそうだ。  (いきなり検事局を訪れて、レイジを驚かせてやるわ。)  そういう考えがあって、朝の便で日本の地に降り立った狩魔冥。しかし、それはある人物にだけは筒抜けだった。  「邪悪な血は消え失せるべきなんだ。」  ただ、ここでは人が多すぎて少し難しい。  「外で狙うか・・」  遠くからばれないように冥を監視するその人物は、呟いた。  「死は見かけによらず惨くもないし苦しくもない。死神はそれを知っている。」  同日 午前8時5分 一般道・パトカーの中  「な、何だと!?」  私は冥が昼の何時の便でこっちに来るのかを、アメリカにいる冥の親戚に電話を入れて確認しようとした。 だが、話によると冥は、今日の午前9時には到着するという話でないか!?  「いかん!アクシデントだ!糸鋸刑事!猛スピードで空港へ!!」  パトカーの中には糸鋸刑事と成歩堂、そして真宵君に私がいた。  「どうしたんだ!?御剣!?」  「どうやら、話によると今日の午前の便でこっちに向かっているらしい!もう時間が1時間もない!!」  とにかく、やつが冥を狙うなら空港が一番危ない。人が多くいるから安全だろうという発想はするだけ無駄。 奴なら、それを逆に利用してくるはず!  「イトノコさん!もっとスピードでないんですか!?」  真宵君は糸鋸刑事に必死にそう言っているが・・  「これが限界ッス!!」  「とにかく、急いでくれ!パトカーなのだから、サイレンを鳴らせば信号も突破できる!とにかく急ぐのだ!」  私は焦っていた。  「了解ッス!!」  倉院の里から空港まで、あと1時間だここだ。ギリギリ間に合うか・・手遅れになるか・・  同日 午前9時28分 空港正面玄関  私は外へ出た。まずは検事局へ行くタクシーを拾わないといけない。  私がそのまま1台のタクシーに乗ろうとしたときだった。  「冥!!」  私を呼ぶ声が突然聞こえる。  「メーイ!!」  ふと横を見ると、そこにはあの男がいた。しかも走ってこっちに向かっている。  「レイジ!?」  その刹那・・                          ・・パァン!!  私の腹部に衝撃が走った。  同日 午前9時26分 空港正面玄関  パトカーが物凄い勢いで空港前で停車した。  「もう時間がない!冥はもう外に出ているかも知れない!」  そう言うと私は糸鋸刑事に指示をする。  「刑事!私は降りて空港の入口へと向かう。刑事たちはパトカーに乗ったままで、不審者を見つけてくれ!!」  私の考えが正しければ、管理官は人ごみがある空港内での犯行は行わないはずだ。無関係な人を巻き添えにする可能性もあるし、 何よりそんな状態じゃ逃走は出来ないはずだ。だったら、ある程度人ごみがばらつき、逃げるのも容易な外で狙っている可能性が高い。  「成歩堂たちも糸鋸刑事たちといっしょに行動をしろ!」  そう言った矢先だ。  (冥!!)  入口から出てきた冥の姿が見えた。私は走り出す。  「冥!!」  相手は歩いていた足を止める。  「メーイ!!」  冥はそれでこっちに顔を向けた。  「レイジ!?」  良かった・・間に合うか!?そう思った刹那。                          ・・パァン!!  一瞬空耳かと思った。だが違った。  その音ともに冥の体がゆっくりとだが、崩れていく。  「メーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!!!!!!!」  そのまま冥は倒れた。手に持っていた鞭が、カタリ・・と音を立てて落ちた。  「冥!!大丈夫か!?」  私は倒れた冥のところに駆け寄る。  「わ・・私は・・大丈夫よ・・」   出血が酷い。腹部を打たれたようだ。  「そ・・それにしても・・はぁ・・手荒な出迎えね・・」  「もういい!喋るな!!」  私は首に巻いているフリルを振りほどく。  「レイジ・・あ、あなた・・はぁ・・な、なにを?」  「黙っていろ!出血が酷いではないか!!」  私はフリルで腹部の止血を行う。こういう時に学んでおいてよかったと思う反面、かなり複雑な心境もある。  「御剣検事!!」  気がつくとパトカーが目の前に止まっていた。  「今、狩魔検事のちょうど正面に当たる部分ッス!かなり離れているッスが、駐車場の茂みから発砲する人物が見えたッス!」  「よくやった!!糸鋸刑事!!」  間に合わなかった・・しかし、何とか仇は取れそうだ。  「成歩堂に真宵君!今すぐ降りてくれ!救急車を呼んで冥を病院まで連れて行ってほしい!!」  その言葉を聞いたあの2人は、急いでパトカーから飛び降りると言った。  「まかせとけ!御剣!」  「安心してください!あとは私となるほど君で絶対に狩魔検事を救いますから!」  その2人の言葉を受け、私は胸が熱くなるのを感じた。  「冥!これを持っていろ!」  私は地面に落ちていた鞭を、姪の手に固く握り締めてやると、最後に一言こう言った。  「絶対に、犯人は捕まえる!」  「レ・・イ・・・・・・・ジ・・」  私はそのままパトカーに乗り込んだ。もうこれ以上、冥の・・いや、周りの人間が苦しむ姿は見たくない。  「糸鋸刑事!直ちにその茂みへ急行だ!!」  「了解ッス!!」  空港中はこの出来事で大騒ぎだ。聖夜になんてことをしてくれるのだろうか?神というものは・・。  第3部・逮捕  同日 午前9時31分 空港入口  パトカーが猛スピードで犯人のいた茂みに近づいた時だった。  「ん!?」  駐車場から、猛スピードで1台の黒の乗用車が飛び出してきた。窓にはスモークが張られている。  「糸鋸刑事!!アレだ!!アレを追うのだ!!」  「分かったッス!!」  空港を出た乗用車とパトカー。カーチェイスの始まりかもしれない。  (管理官・・捜査本部の指揮権をもつあなたに比べれば、私は弱い存在だったかもしれない。 何故なら、検事は犯罪者が捕まってからでないと動けないからだ。)  パトカーはサイレンを鳴らしながら乗用車を追いかける。  (だが、あなたを捕まえれば今度は、すべての捜査指揮が検事である私に行く。そうなれば形勢逆転だ!)  そしてまた、あの管理官を逮捕する一番の手っ取り早い方法もわかった。  (そして、あなたを現行犯逮捕すれば、もう言い逃れは出来ない!!)    同日 某時刻 一般道・車内  「くそっ!今度は下手すれば捕まるかもしれないな・・まさか、やつらが現場にいたとは!!」  パトカーから必死に逃げながら考える。  「もう、これが限界かもしれないな。」  だったら・・俺は自然と笑みがこぼれた。  「今日はクリスマス。時間的には十分だろう。だったら、もう第2のカードを切っても良いかもな。」  俺にはまだまだカードはある。死神はそう簡単には死なないさ。  「死は見かけによらず惨くもないし苦しくもない。死神はそれを知っている。それゆえ強い・・。」  同日 某時刻 一般道・パトカー内  「それにしてもナンバープレートが隠されてどうにもならないッス!」  「た、確かに・・」  ナンバープレートが隠されている状態を見てどうにもならないと感じた私は、どうすべきか考える。  (とにかく、あの車が管理官のものだと証明できればいいのだが・・)  とここで、パトカーが急に止まった。  「どうした?糸鋸けい・・!?」  目の前にあったもの。それは・・踏切だった。    ・・・・カンカンカンカンカン  目の前を電車が通り過ぎていく。目の前の車の行方が見えない。  「しまった・・やられたッス・・。」  「た、確かに・・。」  そして長く感じた電車が通り過ぎようとした時。  「もう、完全に見失ったッスね。」  「そうだな。」  そんな会話をしていたのだが・・次の瞬間。  「!!!!!!!!!!!!!!!!!?」  さっきの乗用車が踏み切りを挟んで反対車線のほうにいるではないか!?  「なっ・・これは!!」  ナンバープレートも隠されている。運転席に乗っている人間はサングラスをかけているがあれは間違いない。  「糸鋸刑事・・あれは間違いなく、管理官だな?」  「えぇ・・間違いないッス!」  遮断機が上がった瞬間が勝負だろう。そして・・  「遮断機が上がったぞ!!」  遮断機が上がった瞬間、反対車線にいた管理官の車は猛スピードでパトカーの横を突っ切っていく。  「糸鋸刑事!早く向きを変え追いかけるのだ!!」  「了解ッス!!」   パトカーは物凄い勢いで向きを変え、管理官の車を猛追する。  「糸鋸刑事!追いつけそうか!?」  「おそらく、何もアクシデントがなければ・・」  といった瞬間だった。                             ・・パスン  「おい、止まったぞ。」  冗談だろ・・と思った。  「あ・・これはッスね・・その・・」  はぁ・・逃がしてしまうことになるのか?結局。  「もういい。タクシーを拾うぞ。」  もう少しのところで、また逃げられてしまった・・。  「検事!タクシーを拾ったッス!!」  「なにっ!?」  私が落ち込む暇もないくらい早く、糸鋸刑事はタクシーを拾う。この動作は感心すべきか? 私たちは道路際にパトカーを停車させたまま、とりあえずタクシーに乗り込むことにする。  「検事?どうするッスか?」  「そうだな・・」  とりあえず、可能な限りでタクシーで管理官の車を追いたいが、それもタクシーでは無理かもしれない。 また、あの車の行き場所に心当たりもない。警察署や本庁はと間逆の方向だったわけだから。  (管理官という人間を考えると、真っ先に思いつきそうな警察署や本庁には逃げないだろう。 今ほど切羽詰った状態はなかったわけだしな。)  だが、何かが引っかかる。  (あのカーチェイス。どこか不自然な場面がなかったか?)  あの逃走劇。どこかに罠があったような気がしてならない。  「とりあえず、あの車を追ってもらおう。」  どこかに作為を感じたまま、私はそれの謎が解けずにいた。  同日 某時刻 某所  「いかん・・何でこうなったんだ!?」  俺は想定外の出来事に焦っていた。このままでは緊急カードを切らねばならないかもしれない。  「まさか・・パトカーがエンストして止まるとは思わなかった!!」  とにかくこの緊急事態を何とかしないといけない。  同日 午後10時50分 警察署・駐車場  「では、これで・・」  「毎度ぉ。」  タクシー代。無駄に使いすぎてしまった。結局あの後、突き放された管理官の車は見つからず、 散々探し回った挙句、パトカーの事を説明するために私と糸鋸刑事は警察署に戻ってきた。  「すまないッス・・検事・・。」  「気にするな。パトカーが止まったのは刑事のせいではない。」  そう言って慰めるものも、やはり悔しいというのは間違いない事実。ここまできてまた逃がしてしまうとは・・ 私は冥に会わせる顔がない。と・・  「ひ・・東山管理官?」  私と糸鋸刑事は、駐車場にいる管理官の姿を見つけてしまった。  「なっ・・!!?」  管理官は自分の乗用車の前に立っていた。ナンバープレートは隠されていないが、黒の乗用車である。  「ちょ、ちょっと宜しいか?管理官?」  私は恐る恐る管理官のところへと歩み寄る。車内の様子を見てみる。 すると・・後部座席のほうにナンバープレートを隠していたあの装具が取り外された状態であった。  しかもこの車、窓にはスモークが張られている。  「ところで管理官。その手に持っているコートはどうしたのだろうか?」  私は車内から管理官のほうに姿を向けた、彼は微妙にだが逃げようとしていた。手には今言ったようにコートがある。  「こ・・これはですね・・」  動揺している。こんな姿は初めて見るかもしれない。  「糸鋸刑事。」  私は糸鋸刑事に目でサインを送りながらそう言った。  「了解ッス。東山管理官・・少しそのコートを拝見させていただくッス!」  「なっ・・やめろっ!!」  だが、糸鋸刑事の手がそのコートを掴むほうが早かった。東山管理官はそのコートを奪い取られる。  「コートの中に、何か入ってるッスね。」  糸鋸刑事はコートの中に何か、固いものが入っていることに気づく。  「管理官。逃げないでいただきたい。」  逃げようとする管理官が逃げられないように、私は肩を掴んだ。  「これは・・拳銃ッス!!しかも・・一般の警察官が持っているやつとは種類が違うッスね。」  糸鋸刑事が中に入っていたそのシロモノを見て驚きの声をあげる。  (ひょっとしたら・・今なら・・)  私はもう1つの可能性に掛けてみた。  「刑事。そのコート・・火薬の匂いはないか?」  「!?」  管理官がギョッとする。  「・・・・するッスね。」  決まったな・・私はこの次第を説明する。  「管理官。1時間半くらい前、空港で人が撃たれました。我々はその犯人を追跡しました。 結果的には撒かれてしまいましたが、その時犯人の乗っていた車・・まさにこれでした。」  トドメの一言をここで言うべきか・・  「今、きっと警察が、犯行に使われた弾丸を回収して、線条痕の調査をしていることでしょう。 ここで、その拳銃の線条痕を確認してみませんか?あと、一緒にそのコートの硝煙反応もだ。」  管理官はそれを聞いて黙っていたが、やがて静かな声で言う。  「それはあくまで、推測の範囲でしょう?」  「そうだ。確かに推測の範囲です。しかしだ。」  この勝負、どうあってもこっちの勝ちは確定しているのだ。  「どのみちこの銃を持っている以上、銃刀法違反であなたを逮捕できる。糸鋸刑事!」  「はっ!了解ッス!」  糸鋸刑事は東山管理官に近づくと、ゆっくりと手錠をかけた。  (これで、情勢は一気にひっくり返ったはずだ。)   御剣はそれを見て思った。しかし、対する東山管理官は・・  「面白い・・」  笑っていた。そして・・  「受けますよ、あなたの挑戦。」    同日 某時刻 ???????????  日本に帰国して早々、厄介な事件を抱える羽目になったな。  しかし、相手があのあの男なら不足はない・・。    緊急カードは今引かれた。  この聖夜が告げたもの。それは終わりではなく、始まり。  Chapter5 end  ・・・It continues to chapter 6

あとがき

 さて、Chapter5は聖夜が告げるもの。  その聖夜が告げたものは始まりだった。という今回のお話。  1つの大きな節目を迎えました。ついに、主導権が御剣に移ります。果たして、どうなることか。  第1部・奇怪。何が奇怪か?読めば分かりますが妙に奇怪な部分が多かったはずです。 この第1部は。それが意味するものは果たして?微妙なものです。  それにしても、霊媒風景は難しいです。  第2部・冥。言うまでもなく彼女の登場するお話。  作品の見直し段階でかなり訂正をした箇所であります。個人的に御剣の止血方法はその場の勢いで作りました。(オイ  第3部・逮捕。もう意味は分かるでしょう。逮捕です。  微妙なカーチェイスを書いたこの話。御剣の感じていた妙なものの正体が明かされず、すこぶる謎ですね。 まぁ、微妙にそれに関係するだろうと思われるところが、管理官視点でありましたが。  うーん。とりあえず舞台は整ったかな?  次からが本格的になりますね。今までは日付もために飛び飛びでしたが、この回からもうノンストップで日付は進みつづけます。  1日1日がまさに知能戦。そんなストーリーを目指しつつ、次回からは逆裁要素をふんだんに詰め込んでみたいと思っています。 以上です。 

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