18年目の逆転〜放たれたDL6・5の死神〜(第4話)
 大きな動き。  それはある事実が浮かび上がった時に起こるもの。  そしてそれは、両者の今後の動きに少なからず影響を与える。  例えどんなものであろうと・・その結果、重要になるのはそれがもたらした結果。  結果はその人間がどれだけ、事実が浮かびあった時に手段を用意しているか?それで決まる。    Chapter 4 〜加速する事件〜  第1部・例外  12月13日 午前11時24分 検事局・上級執務室1202号室  今から10日前。1人の老人が殺された。  彼は17年前に定年を迎えた、地方裁判所の裁判官・槌木太郎(つちきたろう)。  私は彼のことを知っていた。彼は忘れもしない。私の父が敗北したあの裁判の時の裁判官だった。  警察の調査の結果。死因は即死。  弾丸が心臓を貫いていた。線条痕は一連のものと同じ。同一犯の犯行だ。    「犯人は分かっている。だが、追い詰めることが出来ない。」    犯人はおそらく東山恭平。警視庁の管理官。  この一連の事件の捜査指揮を行っている。それだけに厄介である。  自分が犯人の事件の捜査指揮を行っている。それだけでも手ごわい。だが、確たる証拠がない。  だが、1つだけ追い詰めることができる方法があった。  星影弁護士が撃たれた時だ。現在彼は意識不明の重体。昏睡状態だ。そんな彼は、事件発生直前に何者かと電話で会話を していた可能性が高いと考えていた。おそらく電話の相手は犯人だ。その根拠は、現場の投げ出されたままの受話器。  しかし、気がついたときには投げ出された受話器は何者かに元に戻され、電話などないようにされてしまった。 それでも必死の訴えで、何とか一週間後に電話会社を通じて発信履歴の調査が行われることになった。しかしだ・・。  「クリーニング・ボンバー。まさか、彼がこれを持っているというのか・・。」    電話会社のコンピューターに前日。コンピューターウイルスのクリーニング・ボンバーが侵入。 全てのデータを消されてしまった。これをもし、彼が持っているのだとしたら、コンピューターで管理されている データはあまり当てにならないかもしれない。  それがつい3日前の事だ。それで私は犯人が捕まると確信していた。    「どうやら、私の予想以上に彼は優位な位置に立っているらしいな。」  紅茶を飲みながらチェスの駒を見る。チェスも知能戦。そしてこちらも知能戦だ。  「だが、なんとしても私がこの手で決着をつけなければならないような気がする。何故なのだろうか?」  これがこの事件を初めて知ったときの素直な気持ち。何故だろう?  「私自身の手で決着をつけないといけないような気がするこの理由。何かこう、早く手を打たねば取り返しの つかないことになるような予感がするのは何故だ?」  御剣は確実に、自分の身の周りに迫ってくる憎しみを感じてならない。  「こうしている間にも、糸鋸刑事の話によると、警察関係者の被害者はドンドン増える一方だ。 もうすぐで関係者が全員死亡してしまうとも言われているようでもあるしな。」  紅茶を1杯飲み干す。その時だ。                            ♪♪♪  携帯が鳴り響く。電話主は糸鋸刑事からだ。  「もしもし。私だ。新たな被害者が出たのか?」  糸鋸刑事には、新たな被害者が出たら報告をしてくれと一応頼んではいる。  『そうッス!新たな被害者が出たようッス!』  新たな被害者。私はすぐに出かける準備をする。犯人はどう考えても彼しかありえない。だが、今の私は1人の検事だ。 被疑者が捕まり送検されてきているわけでもないのに動くなど出来ない。むしろ彼のほうが権限が上だ。  (だが・・野放しには出来ないのだ!)  まずは現場がどこなのか?そこがポイントだ。  「糸鋸刑事。私も行こう。気になるところがある。現場はどこだ?」  現場・・それが重要である。  『現場は名松(めいしょう)神社の名松池ッス!』  「名松池?」  何故だ?何かが引っかかる。  「分かった。すぐに行く。」  私は電話を切るとすぐさま部屋を出る。  (名松池・・どこかで聞いたことがあるのは何故だ?)  だんだん御剣は、この事件が身近を対象にしていることに気づきだす。  同日 午前11時59分 名松神社・名松池  郊外にある名松神社。そこには名松池と呼ばれる池がある。  「今朝、池から遺体が浮かんでいるのを神主が目撃したッス。」  糸鋸刑事の計らいで現場を入れてもらった御剣は、現場を眺めていた。  「神主とは?」  「あそこで話をしている若い男性ッスね。2、3年前に先代が亡くなり後を継いだそうッス。」  「そうか・・。」  名松池。そこまで大きい池でもない。私はそこを歩く。ふと、名松池と書かれた古い木製の看板に目を止める。  「これは・・」  「名松池。と書いているッスね。」  「!?」  私は糸鋸刑事に言われもう1度目を凝らす。確かに“名松池”と書かれている。しかし、私には違う文字に一瞬だが見えた。  「すまないが刑事。鑑識からあれを借りてきてくれ。」  私は糸鋸刑事にある指示をすると、考え込む。  「どこかで見たことがあるような・・。」  だが、もう1つ今日は違和感がある。現場にいつも居るはずのあの男が居ないことだ。  (東山管理官がいない?)  今回の事件。何か大きな動きがありそうな気がする。直感だがそう感じた。  「御剣検事!持ってきたッス!!」  そうこうしているうちに糸鋸刑事が例の物を持ってやってきた。  「ご苦労。すまなかったな。早速貸してくれ。」  私は糸鋸刑事の持ってきた霧吹きスプレーらしきものを看板に吹き付ける。  「さて・・あとはだな。そうだ、刑事!コートを貸してくれ。」  「えっ!コートッスか!?」  糸鋸刑事は自分のアイデンティティが・・と言いそうだったが、無理やりそれを睨みつけることで黙らせる。  「すまないな。」  私は決して綺麗・・とは言えないコートをもって看板への光を遮断させる。闇を作るのだ。  「これは・・英語3文字?」  暗闇からうっすらと浮かび上がった青白い光。それは英語3文字をあらわしているようだ。  「ルミノール反応液を使って浮かび上がったということは、この文字は血で書かれたんスかね?」  「そういうことだな。」  つまり血文字。そしてそこには・・  「Q.E.D.」  はっきりとそう見えた。しかし、何だろうか?このどこかで以前も見たことがあるような記憶は。遠い昔に。  「そろそろ検事・・コートいいッスか?」  そんなことを考えていると突然、後ろから糸鋸刑事がそう言った。心なしか寒そうだ。12月だから無理もない。  「ム・・すまんな。刑事。」  私は糸鋸刑事にコートを返す。しかし・・これはどこで見たのだろうか?  「それにしても刑事。この被害者の身元は分かっているのか?」  「それが、まだ分かっていないッス。ただ、死後1,2ヶ月経っているらしく。死体は一部白骨化していたッス。 まぁ、水の中にあったッスから、目も当てられない状況だったッスけどね。」  1、2ヶ月・・随分前だ。しかし、何故遺体は上がってこなかったのか?微妙に気になる。  「どうも最初、名松池の桟橋の真下に遺体はあったそうッス。」  そう言われ名松池を見る私。桟橋というが下手すれば沈んでしまいそうなほど低い位置にある。水面と足場が同じではないか。  「古い桟橋のようッス、今じゃ水位が上がって使い物にならないようッスが。」  「なるほど。(確かにあの真下に遺体があっては気づかないな。)」  しかし、ポイントはそれだけではないようだ。  「ただ、我々が現場を捜索した時。わが国が誇る最新鋭の科学捜査で、 名松池のすぐ傍にある名松森の木であるものが発見されたッス。」  あるもの?少し気になる。だが、もう1つ気になるのは・・  「どうせ金属探知機というオチじゃないだろうな?刑事?」  しばしの沈黙。そして・・  「なっ!何で分かったッスか!?エスパーッスか!?」  もういい。  「それで、あるものとは何だ?」  まぁ、最新鋭はともかく発見されたものが重要だ。  「実はッスね。被害者の命を奪ったと思われる弾丸が木にめり込んでいたッス!」  「弾丸だと!?」  弾丸・・この事件における最も重要な凶器に関するデータだ。  「現在鑑識課に持っていて線条痕の調査をしているッス。身元は判明していないッスが、 線条痕が一致すれば、DL5・6の関係者に絞りこみが可能ッスが・・」  だが、突然事件は起きた。  「おい!糸鋸!撤収だ!!」  1人の刑事が慌ててやってきた。撤収?どういうことだ?  「たった今、管理官から報告があった。鑑識の結果が報告されたらしい!」  ちょっと待つのだ・・鑑識の結果が出て撤収?まさか・・  「線条痕が一致しなかったらしい。よって、本捜査本部は撤収が決まった。別の捜査本部が設置されて動くことが決まったようだ!」  「な、なんスと!?」「何だと!?」  糸鋸刑事と私はほぼ同時に叫んだ。一致しない?  (確かに、全ての銃殺事件があの一連の事件とは限らないだろう。だが・・気になる。)  これが一連とは関係ない銃殺事件なら片付く。だが、この現場に東山管理官が居なかったという事実が奇妙だ。  (今まで全ての現場にいた管理官がいなかった。まるで・・この事件は一連の犯行ではないと知っていたみたいだ。)  それはつまり、管理官が自身が犯人と言っているようなものだ。しかし・・  (管理官はあれでも頭が良い人間だ。そんな馬鹿げたことをするか?いや、それ以前に星影氏の事件で電話の履歴調査を すべきだと私が言っていた時、彼のような人間なら私が疑っているだろうということは気づいているはず。)  拘置所で私が係官から話を聞いたことも調べようと思えばできるはずの管理官。そんな管理官の意図がつかめない。  (いや、逆に言えば管理官が・・私がそう言う風に考えることを狙っていたのだとしたら?)  そう考えれば、この銃殺事件の持つ意味は変わってくる。  (もし先ほどの考え方をしたら、管理官が犯人であるという確信はより一層大きくなるが、この事件は無視するかたちとなる。 それが狙いなら?)  もしこの予想が正しいのなら、東山管理官の狙いは1つだろう。  (この事件は東山管理官が、一番関わって欲しくない事件。つまり・・東山管理官にとって致命的な証拠があるという証拠!!)  そしてそのために、わざわざ線条痕までもが違う銃を使っているということは・・  (この事件自体に致命的な証拠があるというわけではない。最初から殺害する銃を違うものにしていたということは・・ 被害者が一連の関係者と思わせたくなかった。だから、池に沈めて身元も分からなくしたのだ!)  だったら、この事件においての東山管理官の致命的な証拠は・・。  (被害者と東山管理官の接点!!)  つまり、接点が判明すると不利なものが分かる証拠だ。  (やっと・・やっと大きな前進が出来そうだな。)  同日 某時刻 警察署・第1会議室  (御剣はどう動いたのだろうか?)  俺にとっては一番それが気がかりだ。  (少し遺体が浮かんでくるのが早かったな。やはり、埋めるかバラバラにするかなどのほうがよかったか?)  俺はコーヒーを一口飲む。  (だが、それじゃあ復讐にならねぇ。俺にとってあいつを最後まで苦しめた上で殺さなきゃならない。それは宿命だ。)  最終ターゲットはあの男で決まっている。  (12月28日までに決着をつけねばな、だが・・もしあいつが俺の意図に気づいて、あいつの身元を調べだしたらどうなるか・・)  俺はしばし天井を見上げる。  (どのみち、生き残りの警察幹部と公安の人間を使って、御剣の危険性をあげなきゃな。 だが、もし俺の正体がばれたことを考え、クリーニング・ボンバーで役所のデータを消すか・・もしくは・・)  俺は自然と笑った。面白くなってきそうじゃないか。携帯で俺はある人物に連絡を入れる。  「もしもし。俺だ。少しヤバイ。1つ目の緊急事態にそろそろ備えててくれ。」  大丈夫。俺は負けない。俺にはいくつも手はある。  同日 午後1時34分 警察署・資料室  私は資料室で調べていた。ある事件と東山管理官の接点を。  「あの名松池の看板。“Q.E.D.”があった。あれが何か分かれば・・」  資料室のパソコンに電源を入れる。データベースを起動させて単語を入力して検索を行う。  「“Q.E.D.”・・・あった。」  Q.E.D.で検索した結果、4件の単語が見つかりました。  ・DL5号事件  ・Q.E.D.事件(DL5号事件)  ・DL6のトリガー(DL5号事件)   ・こころ診療所殺害事件  「最後を除くとどれも“Q.E.D.”とは“DL5号事件”なのか!?」  いや、それ以上にもっと気になる単語がある。  「“DL6のトリガー”だと?」  とにかく、この3件はどれも名称は違うが同じ事件。調べてみる必要がある。 それに、今回の事件は“DL5号とDL6号”の関係者が殺されているわけなのだから。  DL5号事件。  発生時期・2001年6月1日から12月4日まで。  概要・子供連れの一家を殺害する事件。犯人は必ず子供と一緒にいる親を殺害し、現場に被害者の血で “Q.E.D.”とメッセージを残す。しかし、子供だけはいつも無傷。    「子供連れの一家を・・どこかで聞いたことがあるような。」  被害者データ(2019年6月3日更新)  1、6月1日(午後12時30分頃)発見。    被害者・鹿山理沙(死亡)    現場・吾童山ハイキングコースの崖付近。崖に被害者の血で“Q.E.D.”があった。    凶器・志賀の自宅にある果物ナイフ    状況・頭を岩に打ち付けられて死亡。娘の宇沙樹(当時5歳)は無事。    補足・同時刻頃に同一犯による犯行あり。  2、6月1日(午後1時10分頃)発見。    被害者・灯火雅史/伸子(死亡)    現場・吾童山登山コース入口前付近。看板に被害者の血で“Q.E.D.”。    凶器・志賀の自宅にある果物ナイフ    状況・夫の雅史氏はナイフで腹部を刺され失血死。妻の伸子氏は頭部を強打した後、       そのナイフで腹部と背中を数ヶ所刺され同じく恐らく即死。       しかし、当時両親と一緒にいた娘のあかり(当時5歳)は無事。    補足・娘であるあかりが自分のクマのぬいぐるみを志賀に渡した。  3、6月19日午後5時30分頃発生。    被害者・風呂井和夫/明子(死亡)    現場・水族館駐車場奥の茂み。茂みにあった木に被害者の血で“Q.E.D.”。    凶器・志賀の自宅にある果物ナイフ    状況・一家3人で遊びにきていた風呂井一家を茂みで殺害。連れ出した経緯は不明。       夫の和夫氏はナイフで首を切られ失血死。妻の明子氏も同様の手口で殺害。       息子の俊治(当時13歳)は全くの無傷だった。    補足・犯人は家族連れを狙っていることでほぼ間違いない。  4、7月9日午後6時頃発見。    被害者・志賀八束/麻由美(死亡)    現場・自宅の夫婦の書斎。作りかけの数学の論文が散乱していた。       壁には被害者の血で“Q.E.D.”。    凶器・志賀の自宅にある果物ナイフ    状況・夫の八束氏は心臓一突きで即死。妻の麻由美氏は腹部を刺され失血多量死。       当時14歳だった娘の真矢(当時14歳)は両親を殺害後気絶。    補足・凶器であるこの家の果物ナイフを押収。  5、8月1日午後11時40分頃発生。    被害者・小深恒治/秋穂(死亡)    現場・吾童川支流手前の河原。現場の車に被害者の血で“Q.E.D.”。    凶器・こころ診療所の刀。    状況・夫の恒治氏は左肩から右下腹部を斬られ死亡。妻の秋穂氏も同様にして殺害。       息子の幹司(当時6歳)は無事だった。    補足・切り口が深く、傷が前回よりも大きくなった。  「これらのデータを見ると犯人は“志賀”という女性のようだ・・しかも、信じられないことに当時14歳・・。」  言葉が出ない。これらの事件が14歳の少女がやったとは・・。  「だが、最近になって更新されているのは何故なのだろうか?」  とここで、御剣は最後の被害者データを見た。  「ん?何かおかしくはないか?このデータ。」  被害者データ     19、12月4日午後4時10分頃発生。     被害者・平凡吉(ひらぼんきち)/凡子(ぼんこ)     現場・名松神社・名松森付近。名松池の看板に被害者の血で“Q.E.D.”。     凶器・ピストル     状況・夫の凡吉氏・凡子氏ともに銃で心臓を撃たれ即死。その後ナイフで刺され、その血で        血文字が書かれた可能性が高い。一緒にいた息子の凡太(当時5歳)は無事。     補足・犯人逮捕  (め、名松神社・・名松森・・名松池・・“Q.E.D.”!!すべて同じ!!)  だが、同時に今までの一連の犯行とは例外な部分がある。  「今までの凶器はナイフか刀だった。それなのにこの事件だけピストルではないか!?当時の犯行を行ったのは14歳の少女。 ピストルなどを入手できるわけがな・・い?」  とここで、妙な感じがしてたまらない御剣。  「何故・・この事件だけデータが更新されていないのだ?」  同時に妙な胸騒ぎがする。  (もっと・・もっと詳しい概要は!?)   概要   警察は2001年12月6日。名松神社の神主達の証言から犯人を断定。   発生から2日後に平夫妻殺害の容疑で、東山章太郎(ひがしやましょうたろう)を逮捕した。  「ひ・・東山!?」  御剣は目を大きく見開いた。  (見つけたかもしれない・・接点を!!)   警察は東山を一連の“Q.E.D.事件”の犯人と断定。取調べを行うが捜査は難航。   証拠も平夫妻殺害容疑以外では決定的なものが出ず、東山も犯行を否認。   警察は仕方なく証拠品や証言から犯行を立証できる平夫妻殺害容疑のみで、   身柄を検察に送致。検察も起訴に踏み切る。   そして逮捕から22日後、異例の速さで裁判が行われた。   なお、この裁判は犯罪の有無を決めるだけの特別な法廷で、   その後高等裁判所において計量裁判が行われた。  (ま、まるで今の序審制度と同じではないか!!)  まさか、この裁判が今の裁判制度の原型とでも言うのだろうか?   裁判で“平夫妻殺害容疑”の件で有罪判決が下った東山は、   その後警察でその他の事件の取り調べも受けるが、   どれも確実な証拠はなく検察への身柄の送致は不可能だった。   そして翌年の計量裁判で死刑判決が下り、さらに翌年警察は   これ以上取り調べを行っても無意味と判断。東山に対する立件を諦める。   そして死刑が4年後に執行される。  (どういうことだ?何かが変だ!?)   その12年後の2019年6月1日。こころ診療所で殺人事件が発生。   以前診療所の入所者だった 志賀真矢を逮捕。   そして、その後の調べで時効が成立したDL5号事件で   “平夫妻殺害”以外の全ての事件が自分が犯人であると自供。   時効成立のため書類送検だけ行われた。  (ちょっと待てよ・・つまり同じ“Q.E.D.”でも平夫妻殺害事件だけ犯人が別人だったということか? いや、何かがはっきりしない。)  御剣は何度も資料を読み返す。  (逮捕から22日後・・・12月6日の22日後・・12月28日・・!?)  御剣はハッとした。まさか・・と。急いでデータベースから当時父が戦った最後の法廷を探し出す。  DL5号事件(裁判資料)  日時・2001年12月28日  被告・東山章太郎  弁護人・御剣信  検事・狩魔豪  裁判官・槌木太郎  「何ということだ・・そうか、だから私には記憶があったのか、父の資料を何度も見せてもらったから、 だから“Q.E.D.”も名松池も記憶にあったのか・・」  そして、父が東山章太郎を弁護したということは、事実は分からないが・・ 父はあの時絶対に依頼人は無実だと主張していた。そう・・  (平夫婦殺害事件だけ犯人が分かってないことになるではないか!!)  つまり、彼は冤罪だった。  「もう少し・・彼に関するデータはないか?」  接点・・これが全てになるはず。  被告のデータ  東山章太郎(32歳)。1年程前に離婚。当時9歳になる息子・恭平と2人暮らし。  「恭平・・・・やはり、息子だったのか!」  繋がった東山管理官と過去の事件。そしてそれは自分にも関わりが深いあの事件に関連している。  「そして東山管理官の父が冤罪だったのなら、父の復讐の意味は分かる・・。」  私は立ち上がる。とここで、携帯がなった。  「ム、糸鋸刑事からだな。」  糸鋸刑事には、名松池の被害者の身元が判明したら連絡を入れてくれ。と頼んでいた。ひょっとしたら判明したのかもしれない。  「もしもし、刑事。何か分かったのか?」  『そうッス!被害者の身元が判明したッス!』  やはりか・・  「誰だったのだ?被害者は?」  『それが、黒安公太郎(くろやすこうたろう)だと判明したッス!』  黒安公太郎・・どこかで聞いたことがあるような・・。  『国家公安委員会の委員長で、現国務大臣の黒安公吉(こうきち)の息子ッス!!』  それを聞いた瞬間、一瞬意味が分からなくなった。その次に私がとった行動といえば・・  「なっ・・何だと!?」  叫ぶことのみだった。  第2部・狙撃  同日 午後2時41分 検事局・スタッフルーム  (黒安公吉の息子。黒安公太郎が殺害・・どういうことだ?)  スタッフルームで私は糸鋸刑事からもらった黒安公太郎の写真を眺めながら考えていた。  (東山管理官が過去の事件に繋がっているのは分かった。しかし、この被害者と過去の事件の接点がない。)  「どうしました?御剣君?」  ふと後ろから、甲高い声がする。  「ム、亜内検事ですか・・。」  私は振り向くと軽く挨拶をした。亜内検事も軽く挨拶をすると、私の持っていた写真を見て何かに気づく。  「おや、これは黒安公太郎じゃないですか?」  「!?知っているのですか?亜内検事?」  亜内検事の意外な反応に私は驚いた。  「えぇ、とはいっても、私が知ってるのはまだ彼が若い時ですがね。10代後半くらいの。」  ど、どういうことなのだ?  「亜内検事。何故彼をご存知で?」  「ん?それはですね・・」  亜内検事は周りに誰もいないのを確認すると、私の横に座って語りだした。  「実は今から18年前。私の知り合いの刑事から聞いたのですよ。御剣君?名松神社で起きた殺人事件。 君がおそらく子供の頃だろうが知っているかな?」  名松神社!?私は衝撃を覚えた。  「えぇ・・い、一応。」  「そうか・・じゃあ話そう。そこである夫婦が銃殺された。警察は当時、目撃証言や証拠から、 あの頃国家公安委員会のメンバーだった“黒安公吉”氏の息子・黒安公太郎を犯人として逮捕状を請求しようとしたらしい。」  「な・・!?」  全然違うではないか!?資料に書かれていたことと!!  「しかし、逮捕状の請求前に、急に上から捜査中止の命令がきたらしい。理由は1つ。本庁が捜査を行うという理由だったそうだ。」  「つ、つまりそれは・・捜査員が丸ごと変更になったと!?」  信じられない。警察の裏ではないか!!  「そうなんだよ・・そして本庁の捜査員達は、全く別の人間を逮捕した。そして22日後裁判が行われた。 特別な状況下で・・これが今の序審の原型と言われているほどだ。」  まさか・・父は、そんな大きな事件に関わったということなのか?  「それが君のよく知っているあの裁判だよ。」  繋がった・・私はそう思った。これで黒安公太郎を東山管理官が殺害する接点が見つかった。    同日 午後8時48分 警察署・第2会議室  俺は呼び出されていた。あの男に。  「なんですか?御剣検事さん?私をこんなところに呼び出して。」  あいつは私の目の前に居た。  「東山管理官。実は、面白いお話があってあなたをお呼びしたのだ。」  月明かりだけが差し込む第2会議室。2人しかいない。  「面白い話?何ですか?それは・・」  あいつはいたって真面目な顔だ。  「この一連の事件の犯人。あなたなのでしょう?」  鋭い眼力。犯罪者を裁く人間に相応しい目だ。  「ふっ・・何を言うかと思えば、なんてメチャクチャなことを。」  「私はいたって真面目に言っている。」  真面目にか・・そりゃそうかもしれないな。  「根拠をお聞かせ願いたいですね。私としては。」  「いいだろう。」  御剣は1つの封筒を取り出す。  「これは何ですか?」  「証言書だ。拘置所の係官の。」  拘置所の係官・・小中の時のものか。  「それに一体何があると?」  「あなたは先月の28日。小中大と面会したのだろう?自分の管理官という立場を利用し早朝にだ。」     へぇ・・結構念入りに調べてるな。  「だから?それが何ですか?」  「とぼけるな!!そこで貴様は小中に、DL6号事件の霊媒捜査を漏らした人間を聞いたのだろう!? 面会に立ちあった係官の証言から明らかだ!!」  やっぱりな・・そうくるよな。普通。  「それで情報を漏らした人間が星影弁護士だとしった貴様は、星影弁護士を撃ったのだ!!」  筋は通っているかもな。でも、問題もある。  「まぁ、聞き出したことは大筋で認めましょう。証言書があるのだから。」  「ム・・」  奴の顔が険しくなった。  「しかし、何故私がそんなことを?それに一連の事件の犯人もあなたは私と言っている。 とてもじゃないが馬鹿らしくて付き合えない。」  「何だと!?」  それに、お前は1つ忘れているのさ。  「そして、何より私にはDL5・6号事件と関わりがない。恨みの持ちようがないでしょう?」  だが、やつは笑っていた。  「ふふふ・・甘いな。東山管理官。貴様はこの一連のDL5・6号事件に接点はあったはずなのだ。」  奴は会議室の机を叩くと語気を強めて言った。  「その強気な態度。いかがなものかな?」  「別に粋がってはいない。ただ、DL5号事件にあなたの関係者がいるのではないか?」  DL5号事件。やはりこいつは、名松神社の事件を調べていたか・・さすが、馬鹿ではないな。  「関わっている。ならば、証明してもらいましょうか。」  「いいだろう。東山章太郎。知らないとは言わせぬぞ。」  ふっ・・やはり父から俺の存在を導き出したか。俺はゆっくりと窓際に寄りながら言う。  「私の父ですね。父がどうか?」  「どうかではない。貴様の父は逮捕された。DL5号事件の犯人としてだ。」  そうだ。お前の言う通りさ御剣。父は逮捕された。DL5号事件の犯人として。  「そして、裁判でも有罪判決を受けた。」  「よく知っていますね。」  資料室にこもったのだろうよ。こいつは。  「管理官。あなたは父が無罪だと信じていた。だから、相当恨んでいたはずだ。有罪判決を下した裁判官を。」  「12月3日に殺害された“槌木太郎”のことですか?」  俺は速攻で切り替えしたさ。さすがに裁判でこいつみたいに鍛えてはないが、俺には頭脳がある。  「そうだ。そしてまた、自分の父を逮捕した警察の捜査員達も恨んでいたのではないか?」  「それが、今までに殺害されたDL5号事件の捜査員達のことですか?」  ほら、やっぱり分かってねぇ。この男。だからまた、潰しがいがある。俺は椅子に座るとゆっくりと目を閉じる。  「聞かせてもらったが、最初警察は違う人物を逮捕する予定だったらしいのだ。 それが、本庁からの命令で所轄署の捜査員は解体され、本庁の捜査員達で新たに捜査されたという。」  「ほう・・。」  俺でもこれは調べるのに時間を要したぜ。警視庁のこのキャリアに上り詰めるまで、この事実は暴くことは出来なかった。 でも、警視庁に行かなくてもこいつみたいに、簡単に情報は得られたようだな。  「それで?」  俺を目を開ける。  「それでだ。所轄署の捜査員達は最初、別の人間を逮捕するつもりだったらしい。黒安公太郎という男をな。」  俺は自然と笑いそうになった。あいつ、俺が父の息子だといった途端、凄い顔で許しをこきやがったな。  「それが本庁のメンバーに変わった途端貴様の父だ。私でも分かる。当時国家公安委員会のメンバーだった 彼の父・黒安公吉が圧力をかけたことくらいな!」  へぇ・・お前も警察の闇に気づいたか?だけどな、俺はそんなくだらないことじゃ決意しねぇぞ。  「だから?」  「だから貴様は、自分の父が捕まるきっかけとなった名松神社でだ。黒安公太郎を殺害したのだ! しかも、そこから自分の正体が判明するのを恐れ、遺体を沈めたうえ銃も線条痕が違う別のものを使ったのだ!!」  さっきから声を荒げている御剣。確かに、そっちの筋は通っているな。  「確かに、私が犯人っぽいな。だが、何故私はDL6号事件の関係者まで殺しているのですか?」  「うっ!?」  暗い会議室。月明かりのもと情勢は、確実にこちらへと傾いている。  「それに、星影弁護士を撃った理由は?確かに小中から霊媒捜査を漏らした人間は聞きましたが、 私が何故星影弁護士を撃たなければならないのですか?」  俺は立ち上がると御剣に近づきながら一気にまくし立てる。  「それにだ、12月2日に殺害された斬島正馬はどうです?彼を何故私は殺害したのですか?」  「そっ・・それはだな・・」  私はやつの顔にドンドン近づく。  「彼と綾里舞子を起訴した検事だ。それを何故私が殺すのですか?そしてまた、彼女を結果的には、 起訴するきっかけを作った星影弁護士を何故私が殺害するのですか?」  そうだ、貴様はまだ俺の全てを理解していない!!  「これだけ聞くと私は綾里舞子の復讐のためにやっているようだが私と綾里に接点はない!!」  理解していないのだ!!ゆえにもっと苦しめ!!  「それにDL6号事件の捜査員殺害。私はDL6号事件の引き金(トリガー)となった狩魔豪が御剣信に殺意を抱く きっかけとなったあの事件の関係者ではあるかもしれないが、DL6号事件には無関係ではないのですか!?」  「ぐっ・・!!」  そうだ、もっと苦しめ!!悩め!!そうしているうちにやがて貴様は死ぬんだよ!!  「それに証拠があるとでも言うのですか?もしかして、これだけ言って絶望の淵に叩き落そうとでも言うのですか!? 自首させる気なのですか!?」  「しょ、証拠は管理官。あなたの自宅や近辺を調べれば、必ず凶器となった銃が見つかるはずだ!」  「そんな許可を私が下ろすと思いますか!?私はこの捜査本部の責任者ですよ!!」  俺と奴は睨みあった。そうさ、貴様ただの検事。だが俺はこの事件の捜査指揮だ。貴様より俺のほうが権限ははるかに強い!!  「それに、私がそんなヘマをする人間に見えますか?」  「なっ、何だと!?」  俺が最後にささやいたこの一言。御剣はそうとうきているようだ。  「まぁ、いいでしょう。しかし、分かりませんよ?真相は。」  俺は御剣の前にある椅子に再び腰をおろす。  「私だって、犯人の殺害対象にあるかもしれません。言っときますが、 犯人はただDL5・6の関係者を殺しているだけかもしれない。」  「だが・・現に貴様が・・」  諦めが悪い男だ。俺は続ける。  「でしょうね。私が生きている。しかし、私が殺されれば状況は変わるのではないですか?」  「なっ!?」  俺はゆっくりと立ち上がる。  「ははは・・冗談ですよ。」  まさに立ち上がった瞬間だった。                            パァン!!  『!!!!!!!!!!!!!!!!!!??』  1発の銃声と共に窓ガラスが1枚割れる。                          パリーン!!!!!!  「御剣さん!!伏せて!!」  俺は御剣を机の下に押し込む。今死なれちゃ意味がないからな。                              パァン!!  「うわあっ!!」  俺の右肩に衝撃が走る。俺はそのまま倒れた。  「だ、大丈夫か!?東山管理官!?」  「な、なんとかね。御剣さん・・肩をかすったようだ。」  今の銃声で警察の人間が第2会議室に集まってくる。  「大丈夫か?」  「何があった!?」  「管理官!?大丈夫ですか!?」  大混乱だ。俺は周りの人間を一喝する。  「黙れ!!少しでも狙撃犯を憎むのなら外へ出ろ!!今ならまだ捕まる!そのチャンスを棒に振る気か!?」  俺の言葉で周りの者達は我に帰り、すぐさま外へ飛び出していく。  「現実になりましたね。御剣検事。」  「ム・・そ、そうですね・・。」  御剣は困惑している。  (やはり俺は上手だ。御剣・・よく分かったろ?)  第3部・霊媒  12月14日 午前10時45分 堀田クリニック  「おや、御剣検事に糸鋸刑事じゃないですか?お見舞いですか?」  私が手に持っているケーキの箱を見ながら管理官は尋ねた。  「えぇ、一応。糸鋸刑事と私からのものです。」  「そんな、お気遣いなく。肩をかすっただけですし。ただの検査ですよ。それに大丈夫でしたしね。」  私は非常に複雑だ。犯人は彼だと思っていたというのに。  「それにしても管理官。無事で何よりッスよ。」  「はは、そうか。ありがとう。糸鋸刑事。」  糸鋸刑事・・今だけだろうが何も知らない君が羨ましいよ。  「それにしても、犯人は捕まったか?」  「それがッスね。逃げられてしまったッス。検問もしたッスがダメだったッス。」  管理官を撃った犯人。確かに気になる。それにしても、私の推理はハズレだったのか?  「そうそう。線条痕の結果が出たッスよ。」  「ほう、どうだった?」  線条痕。おそらく管理官にとってはいい報告だろう。私にとっては最悪なものだが。  「一連のものと一致したッス。」  「そうか。」  一連のものと一致。つまり、管理官を撃った狙撃犯は、今まで管理官が殺害に使っていた銃を使用したということなのか? そうなれば、管理官と管理官を撃った人間は共犯になる。 が、ひょっとしたら管理官が犯人という仮説が既に間違いだということもある。  「どうしました?御剣検事?」  「い、いや・・何でもない。」  私は慌てた様子で言う。自分でもかなり深く考え込んでいたらしい。  「それでは刑事、後は頼むぞ。私は検事局に戻らなくてはならない。」  「そうッスか、お気をつけて!検事。」  私は逃げるようにその場から去っていく。そんな私に管理官が一言。  「昨日の事は気にしていませんから。自分の事をあまり責めないでください。」  「!?」  第3者的な立場から聞けば、それは普通の言葉かもしれない。だが、私にとっては挑発以外の何物にしか聞こえない。 第一、言葉のニュアンスがそうだ。管理官は、私に対する発言の時だけいつも何かが違う。  「いいえ、気にしていないので。」  私は振り向かずに病院を去った。その際、1つだけ確信した。これは管理官に罠に過ぎなかったのだと。  12月23日 午前8時8分 検事局・上級執務室1202号室  あれから9日。私は管理官の尻尾を掴むことが出来ずイライラしていた。そんな中の手紙。  「冥からか。」  おそらく手紙が来たということは、来日する日取りが決まったのだろう。それにしてもだ。  「どうして電話で連絡しないのだろうか?そっちのほうが早いというのに。」  といいつつもペーパーカッターで封を開ける。  「どれどれ・・。」  レイジへ。  もうすぐ年末。クリスマス休暇の準備はどう?  冥・・日本にはクリスマス休暇などはないぞ。  まだまだ日本文化をわかっていないな。ひょっとして、私が居なかった2年前。  平気で検事局をほったらかし、クリスマス休暇を取ったんじゃないだろうな?  一応、来日する日取りが決まったので連絡を。  クリスマスの25日よ。昼の便であなたのいるこの地に到着することになるわ。    クリスマスか・・そんな時に来るのか?やれやれ。  鞭を早く日本で打ちたくてうずうずしてるわ。  それじゃ、近いうちに会いましょう。                                                     冥  「いい加減日本で鞭を使うと捕まるぞ。傷害罪で。」  とツッコミを入れつつ空を眺める。  「クリスマスか、それまで決着をつけたいがな。なんとしてでも。」  同日 午後3時18分 倉院の里  「ごめんください。」  庭で鞠つきをしていた少女はその声で玄関へと走っていく。  「どちら様ですか?」  大きな屋敷に少女が1人。よく考えれば凄いことなのかもしれない。  「すいません。こちらに綾里春美さんがいると聞いたのですが?」  男は春美にそう尋ねた。  「あっ!それはわたしくのことですね。」  彼女は可愛らしい声で言った。  「あ、君が綾里春美さん?お会いしたかったんだ。」  「?」  男は春美の目線の高さまで体を下げると、困ったような様子で言った。  「実は、急な頼みがあってね。綾里真宵さんに会いに来たんだ。」  「真宵様・・ですか?」  真宵といえば今日は、明日がクリスマス・イブだからという理由で町へ買い物に行っているのだが。  「実はね。真宵さんに霊媒してほしい人が居たんだけど、留守だったんだ。」  男は優しく言う。  「急用でね。今すぐ霊媒をしてほしかったんだ・・そしたら、分家のほうで霊力が強い君の話を聞いてね。お願いに来たんだ。」  春美は警戒するような目つきで男を見る。  「わたしくに霊媒をしてほしいのですか?」  「うん。そうなんだ。」  春美はしばらく考えていたが、さすがにそれはどうかと思ったのか、きっぱりと言った。  「ちょっとそれは無理です。わたくしは仮にも修行中の身ですから。どうしても頼みたいのなら真宵様を待ってください。」  それで終わるはずだった。しかし、男は諦めない。  「どうしても・・ダメですか?」  「・・・。」  春美はどうしたら良いものか悩んでいた。今は誰も大人がいない。 普通ならば不審者だといいたいところだが、どうもそうには見えない。  「実は・・父さんなんです。死んだ。」  「!!」  父さん・・この言葉は父親の居ない春美に大きな影響を与えた。  「実は、1年前の今日。父さんは事故で死んだのです。そのとき自分は、親と喧嘩して縁を切っててね。」  「縁を・・切っていたのですか・・。」  春美は何か寂しいものを感じた。  「なんだか・・いつも迷惑かけてばかりで・・うっ、だから・・今日の命日に謝りたくて・・」  男は急に泣き出した。春美はなんだか同情をしてしまう。父親に謝りたい・・物心ついたときから父親が居なかった春美にとって、 父親というのものはかけがいのない存在。  「お父様に、謝りたいのですか?」  春美はゆっくりと聞く。男は泣きながら頷いた。  「それじゃあ・・特別ですよ。」  春美は男を屋敷の中の対面の間へと案内する。男は泣きながら礼を言って、屋敷の中へ入っていった。  同日 午後3時25分 対面の間  「それで、これがお父様の写真なのですね?」  「はい。」  男が手渡した1枚の顔写真。部屋にはたくさんの蝋燭が不気味に明かりを灯している。  「それで、お父様のお名前は?」  春美は霊媒をするために名前の確認に出る。  「な、名前ですか!?」  男は一瞬と惑う。何故なのか?春美には理解しがたい状況だった。  「ご・・豪といいます。」  男は紙にペンでそっと書いた。  「分かりました。それでは、手を合わせ、私と一緒に目を閉じてください。」  しばし長い沈黙の時間が訪れた。やがて・・男の耳にある言葉が入る。  「誰だ?我輩を呼んだのは?」  男はその声を確認すると目を開けた。  「貴様は誰だ?」  そこにいた男は、正真正銘のあの男。  「呼んだのは俺だ。やっと出会えたな。狩魔豪。」  男の態度が急に変わった。先ほどまでの涙は嘘のように消え、非常に醜い顔だった。  「お前を呼ぶために臭い芝居をしてしまったよ。しかも、死んだ父にも悪いことをしてしまったしな。」  「どういうことだ?」  装束を来た狩魔豪。かなり異様な光景だ。  「憶えてないか?ある法廷で父の無実を訴えた少年さ。俺はな。」  「そんなことは憶えていない。傍聴人など弁護士以上にくだらないちっぽけな存在なのでな。」  暗い締め切った部屋。100以上はあるであろう蝋燭からともされる光。それに照らされて映る2人の男。  「アンタが御剣信に負けたあの裁判。あの事件の被告の息子だよ。俺は。」  「何だと!?」  さすがに、自分の完璧な経歴が傷つけられた裁判は憶えているみたいだな。こいつでも。  「そうか、思い出したぞ・・貴様あの時のガキだな!?」                         ※     ※     ※    「と、父さんは犯人なんかじゃない!!」  「係官!今すぐその子供を黙らせるのだ!」                       ※     ※     ※  「思い出したか・・そうさ、俺はあいつの息子だよ。」  男は続ける。  「なんでお前は父さんを有罪にしたんだ!?父さんは無実だったはずだ!!」  「違う。私が裁くものは皆有罪なのだ。」  響く声。蝋燭の火が寂しく2人を見つめている。  「どこまでそう言いきれるかな!?実際は当時の国家公安委員会の1人が、圧力をかけていたのはもう知っているんだ! 父さんはその犠牲になった・・つまり冤罪だったんだよ!!」  「知らんな。私は完璧主義者だ。」  「何だと・・」  とてつもない衝撃。  「まぁいいさ。それより、あんたの罪はそれだけじゃない。」  「どういうことだ?」  密室。それが余計妙な雰囲気にさせていく。2人の間を。  「アンタは御剣信を殺した。それもある。」  「御剣・・だとぉ!?」  男はポケットから、ゆっくりとだが鉄の塊を取り出す。  「なっ・・きっ、貴様!?何をするつもりだ!?」  男はゆっくりと間合いを詰めていく。  「言っておく、俺は死者をも殺すことできる死神になったんだ。あの日からな。」  「な・・何を言っている!?下手な真似はよせ!!」  だが、男は本気だ。  「俺の復讐を言っとくがおわらねぇぞ。貴様のような人間がいるからこんな悲劇が起きたんだ。」  そうだ、そんなやつらは排除しなくちゃならない。  「もう2度、こんな悲劇を起こさないためにも、貴様を殺して・・貴様の汚い邪悪な血を受け継ぐものも消さなくちゃいけない。」  その言葉を聞いた豪の顔が、一瞬にして青ざめる。  「まさか・・貴様っ!!め・・」  「そうさ。狩魔冥も死んでもらわないと困る。」  「!!!!!!!」  もう、増殖した憎悪は誰にも止められない。  「や、止めてくれ!!冥だけは・・殺さないでくれ!!まだ冥は若いのだ!!」  「心配するな。こう言う風に楽に死なせてやるから。」                           パァン!!!!  豪は倒れた。そしてその体は、撃たれた瞬間少女の姿へと戻った。男は鉄の塊をポケットにしまうと、 少女から対面の間の鍵を奪って部屋から出る。  「あいつの娘はクリスマスに来日すると言っていたな。」  ゆっくりと屋敷を後にする男。  「綾里春美。そう言う意味じゃ君も同罪だ。悲しいことにな。」    Chapter4 end  ・・・It continues to chapter 5

あとがき

 さて、Chapter4は加速する事件。  事件がいろんな意味でかなり大きく動き出しました。  そして12月28日。その日が迫っています。本格的に動き出した知能戦。次回からもますます 激しくなる・・のかもしれません。  第1部・例外。何が例外か?線条痕でだいたい分かると思います。それとDL5号事件のあるデータ。 やっと序章に関係ありそうな部分が登場です。  でも、一応序章は知らない人でも楽しめるように書いているからな。ちょっとそこが気がかりです。  第2部・狙撃。文字通り最後の場面ですね。御剣と東山管理官の最初の激突。初めは第2部を激突にするか悩んだものです。  それにしても、御剣は圧倒的不利な立場に居るんですね。まぁ、このままだとやばいかな。 いつか御剣に有利な状況がくる事を祈りつつ書きました。  それにしても、狙撃犯は誰なのでしょうか?というつっこみは無しでお願いします。  第3部・霊媒。死者をも殺すことができる。だから死神なのだ。そんなお話。春美ちゃんの弱点をついた犯人の行動。  自分でもコメントしづらいな。春美ちゃんは書くのが初めてだったので、短い文章ながら苦労しました。そんな感じですね。  そんなわけで、事件がやばいくらいに動き出したこのお話。もうすぐで第1部が終わります。  まぁ、第1部と自分はしていますが、分かりやすくいえば1つの節目かな?6章くらいからは状況が大きく変わってきます。  それでは、以上です。

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