18年目の逆転〜放たれたDL6・5の死神〜(第3話)
 常に追いかけていた。犯人の残した痕跡を手がかりに。  だが、今回の事件だけはそうは行かない。  絶対に追いついて捕まえなければならない。  なのに、敵はいつも先手、先手を打ってくる。そして私はいつも後手。  それでは遅いのだ。手遅れになる前に、どこかで奴に追いつかなければならない。  ひっそりと行われる、私と奴の知恵比べ。まずは同じラインに立たなければならない。  Chapter 3 〜後手〜  第1部・星影  同日 午後2時5分 地方検事局・スタッフルーム    私はスタッフルームに出た。考えても考えても答えは見つからない。  「おい、知ってるか?」  とここで、背後から声がする。  「ム?何だ?」  声をかけてきたのは私と同期の検事仲間だった。一応余談だが、私の同期にはろくな者がいない。 例えば彼は、いつも私服だ。これではまるで、検事局は自由が社訓のように思われてしまう。  「振り向いて早々嫌そうな顔だな。私に不服か?」  「いや、そう言うわけではない。」  しかも私の考えていることは顔に出ているのだろうか?彼は私の考えていることを察知しているようだ。  「それで、一体何なのだ?」  私は本題に入る。確か彼は、知ってるか?と聞いてきた。何かあったのだろうか?  「あぁ、それだがな。事情があって捜査からここへ帰るときだった。星影法律事務所の前を通ったんだ。」  「星影だと?」  星影。有名な弁護士である。私が初めて法廷で戦った綾里千尋も、ここの人間だったはずだ。  「それがどうしたのだ?」  私は続けた。彼は少し面白そうな顔で言った。  「星影弁護士がな。救急車で運ばれてたんだ。胸から血を流してる状態でな。出血が酷そうだった。」  「何だと!?」  私は嫌な予感がした。何か感じるものがあったからだ。  「車で通ったんだけどな、警察も来ていた。撃たれたという話らしいぜ。相当な厳戒態勢が敷かれている。 でかい何かが裏にあるみたいだぜ。」  でかい何か?間違いない。あの事件だ。  (しかし・・星影弁護士がどうして・・!!)  あたしはその時、今日斬島検事の資料を見たときのことを思い出した。確かあの裁判。弁護士が・・  (星影弁護士ではないか!!)  私は駆け出した。  「おい!どこへ行く!?御剣!?」  私は振り向かずにそのまま答える。  「星影法律事務所だ!!」  話から察するにまだ、事件が発生してからそう時間は経っていない。どこかに、手がかりがあるかもしれない。  同日 午後2時36分 星影法律事務所  「頼む!糸鋸刑事!現場へ入れてくれ!」   「しかしッスね・・いくら検事殿の頼みとは言えども、本庁が許可しないッス。」  私は事務所の入口で糸鋸刑事に必死になって頼み込んでいた。とここでだ。  「御剣!!お前どうしたんだ?こんなところで・・」  後ろから馴染みの声が聞こえる。  「成歩堂!!お前・・どうしてここに!?」  振り向いた私の目に映ったのは、久しく会わぬ友人の姿だった。  「それはこっちの台詞だ、御剣。僕は星影先生が撃たれたと聞いて来たんだよ。お前こそどうしてここに?」  そうか、お前の師匠の師匠だからな。星影弁護士は。  「いや、少しな。」  とここで、今度は目の前にある人物が現れた。  「これはこれは・・御剣検事じゃないですか?どうしました?」  「!?あ、あなたは・・東山管理官。」  目の前にいたのは、東山管理官だった。今日で会うのは2度目だ。  「それが、星影弁護士が撃たれたと聞いたので・・」  私がそう言うと彼は、心配は要らないという様子で言った。  「あぁ、星影弁護士なら何者かに銃で撃たれたという話です。窓から上を見上げたところ、何者かに。」  入口からかすかに見える。窓際の血痕。それが全てを物語っていた。  「一応、弾丸は真上から来たようです。ちなみに星影弁護士は重傷ですが、 弾丸は奇跡的に心臓から逸れていたため、何とか無事のようです。」  「そうですか、よかった。」  私はとりあえず安心した。後ろから話を聞いていた成歩堂もホッと息をする。が、  「・・・・・?(何故東山管理官はすっきりしない様子なのだ?)」  どこか悔しそうな顔。何かが変だ。  「それにしても、管理官がここにいるということは、この事件はまさか?」  一応、それが気になる。  「そうですね。同じく凶器は銃。現在体内から弾丸を取り出して線条痕を調べろと指示はしています。」  指示をしている。それはつまり、捜査本部も疑っているということか?  「斬島検事が銃殺された瞬間から、我々は星影弁護士が次に狙われる可能性も否定はできないと考えていた。 しかし、迂闊だった。」  東山管理官は唇を噛む。  「おい、御剣。さっきから話している内容だけど、どういう意味だ?」  「ム?」  後ろから成歩堂が訪ねてくる。そうか、お前はまだ知らないのだな。それは当然といえば当然か、私だって知らなかったわけだし。  「そういえば、御剣さん?そちらの方は?」  東山管理官は私に尋ねた。そう言えば、紹介がまだだったな。  「彼は私の友人で弁護士の成歩堂龍一といいます。彼の師匠がここで働いたのです。」  私は一応説明をしてやる。  「ほほう、あなたが成歩堂弁護士ですか。初めまして。私は本庁の東山といいます。いつも聞いていますよ。あなたのことは。」  「え?そ、そうですか・・いやぁ・・どういたしまして。」  何故照れる。どうせこれはお世辞なのだぞ。私はそれに気づいていない友人を見て、不覚にも笑ってしまいたくなる。  「それにしてもお2人とも、何かご用件でも?」  東山管理官の言葉で思い出す。そうだ、現場を調べたいのだ。  「管理官。実は、現場を見せていただきたいのだが・・」  私は様子を伺いながらそう言った。  「僕からもお願いします。星影先生は、千尋さんの師匠なんです。」  初対面の人間に彼女のことを言っても分かるかは疑問なのだが・・一応彼女、この世界では名が通っていたからな。 東山管理官は知っているような素振りを見せている。  「いいでしょう。まぁ、もうすぐで検証も終わるでしょうし・・5分間だけ許可します。」  許可が下りた。私はホッとしたが、何かを今の言葉から感じた。  「ありがとうございます。東山管理官。」  成歩堂は素直に礼を言っているが、私は何か釈然としない。こうやって自分から頼んでおきながらだ。  「・・わざわざ申し訳ない。」  私もそう言うと軽く東山管理官に礼をする。おかしい。何かが変だ。  「御剣。星影先生は窓際で撃たれたみたいだな。」  「そうみたいだな。」  さっそく現場を調べる私たち2人。窓際には血痕が飛び散っている。窓から身を乗り出して上を見ていたのか?  「そして気になるのは、受話器がはずれた電話だ。」  私は窓際の後ろにある、星影弁護士のデスクを見る。ちょうど真横に当たるようだ。  「先生は撃たれるまで、誰かと会話をしてたのかな?」  「かもしれないな。」  成歩堂でなくてもそう考えられるだろう。  「それにしても、どうして先生は窓から身を乗り出したんだろう?」  成歩堂の出した1つの疑問。それはよく分かる。  「可能性は1つ。先ほどの受話器から考えてみるに、星影弁護士は電話の相手から上を見るように言われたのかもしれないな。」  私はそう言いながら再び、デスクを見る。が、  「!?」  お、おかしい・・受話器が元に戻っている!?  「あれ?誰かが受話器を元に戻したのか?」  成歩堂。お前の言う通りだろう。だが、一体誰が?  その時だ、御剣はそれをはっきりと見たかは分からないが、東山管理官が一瞬笑った。  「とにかく、何故星影先生が撃たれたのか?それが分からないんだよなぁ。」  成歩堂はそう言いながら、警察の邪魔にならないようにあたりを物色する。  (おそらく、狙われたのはDL6の関係者だったからだろう。しかし、綾里舞子を起訴した検察側でなく、 弁護した弁護士まで狙うとは・・犯人の目的がイマイチ分からない。)  御剣の考えだと、少なくとも犯人が斬島検事を殺害したということは、綾里舞子の無実を犯人が思っていたから、起訴した検察側の 人間を標的にしたのだろうと考えた。そしてそれが正しければ、それに関わった警察関係者もターゲットになるはずだと。  (だが、綾里舞子を助ける側にいた弁護側を狙う。どういうことだ?)  星影の机を見ながら考えをまとめようとする御剣。  (犯人が星影弁護士を狙った。単純に言えば、彼も綾里舞子を間接的に陥れた可能性があるということか?)  謎が謎を呼ぶ。そんな中、引出しから1枚の写真のようなものがはみ出していた。  「ん?これは何なのだ?」  引出しの中を見る、そこには・・非常に興味深い写真が2枚。  「ム・・これは、綾里舞子の写真!?それにもう1枚は・・小中?」  1度法廷で見たから間違いはない。これは小中大だ。さらに写真の裏を見る。  「DL6号事件・資料1。資料2だと!?」  DL6号事件の資料。そこに綾里舞子がいるのは分かる。だが・・  「どうして小中が!?」  小中がDL6号事件に何らかの形で関与したというのか?  「どうした?御剣?」  「ム、成歩堂か・・実はな。これなのだが。」  私の様子を見て何か察したのだろう。成歩堂が話し掛けてくる。私は例の写真を見せた。  「私は不思議に思うのだ。何故、DL6号事件の関係者として小中の写真があるのかということに。」  成歩堂はしばらくの間何かを考えていたが、やがて言う。  「御剣、知ってるか?何故世間に警察が、DL6号事件の捜査として霊媒をしたとばれたか?」  「何?」  成歩堂の言葉には、ある事実があった。動かせないある事実が。  「あれは、確かマスコミにその情報が漏れたのではないのか?」  「あぁ、御剣の言う通りだ。だが、一体誰が漏らしたのか?そこが問題なんだ。」  誰が漏らしたか?私の中で1つの可能性が生まれた。漏らした人物・・まさか。  「小中・・なのか?」  「あぁ。」  小中は情報屋だ。確かにあらゆる面での情報網に長けている。しかしだ。  「小中は警察関係者じゃない。警察としても霊媒で事件を解決しようとしたことは口が裂けても言わないだろう。」  「よく分かってるじゃないか。」  この感じからすると、成歩堂は知っているみたいだな。  「つまり、小中に誰かがその情報を漏らした。ということだな。」  「そうさ。もうそれで分かるだろう?御剣?」   その言葉には、妙に重みがあった。  「あの事件の時だ。僕が小中に告発された時。僕は自分の弁護を自分でした。 それは、どの弁護士も小中の息がかかっていたからだ。」  まさか・・嫌な予感がしてたまらなかった。  「それは無論・・星影弁護士もか?」  妙な空気が流れた。成歩堂は静かに頷く。  「星影弁護士は、弱みを握られていたということだな。小中に逆らえなかったということは。」  成歩堂は何も言わずに頷く。そしてだ、この会話が小中に情報を漏らした人物の延長線上にあるということは・・。  「漏らしたのは、星影弁護士なのか?」  核心・・いや、真実だった。成歩堂は頷く。  (なんと言うことだ・・犯人が星影弁護士を狙った動機が分かってしまった。情報を漏らしたからだったのか。)  だったら問題は、犯人がそれをどこで知ったか。いや、もうそれを聞くことができるのはアイツ本人しかいないだろう。  「御剣検事。それに成歩堂弁護士。5分経ちました。そろそろいいですか?」  東山管理官が唐突に現れてそう言った。  「ム。もう5分ですか・・わざわざすいません。管理官。」  「いや、いいのですよ。」  成歩堂も、もう時間か・・といった様子で礼をする。  「本当にありがとうございます。自分の勝手なわがままにつき合わせてくれて。」  「はは・・いいのですよ。成歩堂さん。私はあなたのような弁護士が好きですから。」  「そ、そういってくれるとちょっと嬉しいです。」  馬鹿か?お世辞に決まっているだろう。だが、お世辞にしてもだ・・今の発言。何かがおかしい。 東山管理官は今、はっきりと成歩堂に何かを向けていたぞ・・。  「それでは、いつまでいても邪魔だろう。ここで失礼させていただきます。管理官・・頑張ってください。」  私はもう1度礼をすると、成歩堂と共に現場を後にする。管理官は後ろから言った。  「どういたしまして・・。」    さて、これからどうするか?事務所を出た私はそう思いながらタクシーを拾う。  「御剣?どこか行くのか?」  「あぁ、少し行かなければならないところがあるのでな。成歩堂・・貴様も気をつけろよ。」  成歩堂は笑いながらこっちを見て言った。  「何だ?心配してくれるのか?」  私はその姿を見てしばらく黙っていたが、10秒後、黙ってタクシーの扉を閉めた。 自動で閉まるものをわざわざ手で・・私も素直じゃないな。だが、どうしても嫌な予感がしてたまらないのだ。  「お客さん。どちらまで?」  運転手の問いに私は答えた。  「拘置所までお願いしたい。」  第2部・執行  同日 午後3時16分 拘置所・受け付け  「小中大と面会をしたいのだが・・。」  受付で私は検察官バッチを見せて身分を証明するとそう言った。  「少しお待ちください・・」  受付にいた人間が何かを調べだす。  (おそらく、犯人は小中に誰だ情報を漏らしたのか聞いたはずだ。だったら、それを小中に面会して誰だったのか聞けばよい。)  犯人に近づく大きな手がかりになるだろうと思っていた。だが、そんな希望は受付の次の一言で崩れさった。  「小中大は先月の28日に、死刑が執行されました。」  「何だと!?」  私は思わず受付の机を叩いてしまった。そんな馬鹿な・・もう既に手遅れだったというのか!?  「ム・・す、すまない。」   私はしばらくして、大きな目でこちらを見ている受付に気づき、自分のしたことに気づいた。  (執行された・・ということは、私はまたしても手がかりを・・)  手がかりを失った。そう考えてしまいたくなった。だが、ちょっと待てよ・・  「すまぬことをお聞きするが、小中大の死刑が執行される前、誰かが小中と面会をしていないだろうか?」  私は受付に尋ねた。受付は再度の質問に快く応じてくれる。  「少しお待ちください。」  何分経っただろうか?受付はしばらくしてある資料を出した。  「こちらの資料に小中死刑囚と面会した人物が書かれています。」  私はその資料を受け取った。そこにはいろいろな人物が記されていた。が、どれも日付は小中が逮捕された3年ほど前。 面会をした人物も、当時小中が逮捕された時の弁護人だけのようだ。  (これだけでは何も分からない。それに、小中の弁護士がそんなことを本人に聞くわけがない。だとしたら? まだ他に資料にかかれていない人物がいるかもしれない。)  「すいませんが、この資料以外に誰か・・特別な人物が小中と面会などはしていないだろうか?」  資料に書かれていないのなら、それは特別な権限を使って面会をした可能性が高い。 ゴドー検事が検事という役職を利用して、刑務所の会話をかつて盗聴したことがあるように・・ そのような力を持ったものが面会をしたとしたら。  「ちょっとお待ちください。」  そう言うと受付は奥に入っていく。誰かに聞いているようだ。そして10分後。  「お待たせしました。只今の件についてですが、小中氏の死刑が執行される日の朝。 警視庁の方が小中死刑囚と面会をしていたようです。」  「なっ・・警視庁の人間が!?」  警視庁の人間・・確かに権限を使いそうな感じではある。いや、面会時間ではない朝に 面会している時点でそれは、自分の力を利用している。  「名前はわからないだろうか?」  私は核心に迫ることが出来ないか必死だった。  「ちょっと・・それは分かりませんね。」  だが、さすがに名前まではわからなかったらしい。私はガックリとした。だが・・  「しかし、その時に面会に立ち合った係官なら何か知っているかもしれませんが・・。」  「!?」  立ち会った係官・・これはひょっとしたら・・  「毎度毎度スイマセンが・・その係官とお話をさせてくれないだろうか?」  ずっと後手だった私に、ひょっとしたらチャンスが巡ってきたかもしれない。    同日 某時刻 拘置所・特別室  私は特別室などという場所に通された。数分後には、小中とその警視庁の謎の人物との面会に立ち合った人物が来る。  「失礼します。あなたですね。僕を呼んだというのは・・」  「いかにも、私は御剣怜侍。検事です。今回はわざわざ私のために申し訳ない。」  そう言うと私と彼は、互いに椅子に座って向かい合った。  「実は、お尋ねしたいことがあるのだ。先月の28日の面会について。」  「話はだいたい聞いています。どうぞ・・何でも聞いてください。」  さて、まずは何から聞くべきか・・とりあえず、会話内容がポイントだろう。  「面会の会話についてだが、どんな内容の話だったのだろうか?」  「そうですねぇ・・」  係官はしばらく考えていたが、やがて言った。  「確か、面会に来た男性が・・DL6号事件の霊媒捜査を漏らした人間を聞いていましたね。」  (やはりか・・)  ということは、ここで犯人は小中に情報を漏らした人間を知ったわけだ。そして、その犯人こそが小中を面会した人物。  「そのあと、その人は小中の死刑執行書を見せたんですよ。あの時は焦りましたね。 死刑囚にそんなことを教えて、あとで死刑がやりにくくなるだけです。」  まぁ、確かにその後小中が荒れたことは想像できるだろう。  「他には何か?」  「他ですか・・」  他に何か、手がかりを残していてくれれば助かるのだが・・  「確か、小中がその人に何故、自分に面会に来たのか?みたいな事を聞いてましたね。」  「何故面会に・・?」  「えぇ、そしたらその人。去り際に何か言ったんです。小中の方は聞こえてみたいですが、 只でさえ小さい声で、僕は小中を押さえつけるので精一杯でしたからね。」  そんなことは問題ではない!なんて言ったのだ?そいつは!!  「彼はなんと言ったのですか?」  係官はしばらく記憶の糸を辿っているようだったが、小さな声でこう呟く。  「確か・・父と誰かの復讐と言っていたような気がしますね。」  「父と・・誰かの!?」  誰か・・そこがわからない!そこさえ分かれば、何かつかめるかもしれないのに!  「あと、最期に1つだけ聞いてもよろしいか?」  「何でしょう?」  私はこの話で感じた様々な感情を押し殺しつつ、最後にとても重要なあることを聞く。  「その面会に来た警視庁の人間。誰かわかりませんか?」  沈黙が場を支配した。  「分からないなら結構です。」  私はそう言うと立ち上がった。その時、係官が何かを思い出しながら言う。  「確か・・そいつは小中に名刺を見せてました。」  私は立ち止まった。名刺を見せた?  「そして・・小中は何度もそいつに向かって言っていました。」  言っていた?  「“ミスタ・東山”と。」  「!!!!!!!!!!!!!!?」  東山・・警視庁の東山。私自身が知る警視庁の東山はただ1人。    (そうか・・あの時の違和感が分かった。彼は指揮に当たる管理官だ。それなのに何故、現場にあの時自分から行っていたのだ? それ自体今の警察の体制だとありえない事だ。)  私は確信した。一連の事件の犯人は“東山管理官”だと。  第3部・裁判官    12月3日 午前7時22分 駅前喫茶店  私が検事局へ向かおうとしている時だ。朝食を取っていないことを思い出し喫茶店による。  (昨日の出来事で東山管理官が一番疑わしい人物であるということは明らかだ。だが、一連の捜査に私は無関係。 関わることが出来ない。検察が動けるのは被疑者が送検された時のみ。そんな私どこまでこの事件に首をつこっめるのだろうか?)  気がつけば、そこには朝のモーニングセットが並んでいた。まだ眠い頭を覚ましてくれるコーヒーの香り。 そして、目の前にはトーストと目玉焼きにサラダ。これでとりあえずは腹ごしらえが出来そうだ。  「すいません。お客様。相席宜しいでしょうか?」  私がトーストにかぶりつこうとした時。ウエイトレスが尋ねてきた。ここのモーニングセットは非常に人気があり、 朝は客で一杯らしい。相席もよく見かける。  「構わないが。」  「すいません。では、お客様。こちらへどうぞ。」  といって私の目の前にやってきたのは、1人の老人だった。  「わざわざすまんね。この老いぼれに席をくれて・・。」  「い、いや・・別に構いませんよ。」  私はその老人を見たとき、何か記憶に引っかかるものを感じた。最近はそんなことが多いものだ。  「私にもモーニングセットを頼む。」  「かしこまりました。」  老人は私と同じくモーニングセットを頼んだ。  「君は確か・・検事だろう?」  突然のその言葉、私は口からコーヒーを噴出しそうになる。  「いかにも・・しかし何故それを!?」  私は何とかそれだけは防ぐと尋ねた。  「いやね、君は有名だよ。法曹界ではね。私の知人も裁判所に勤務しているから、よく君の話は聞く。」  懐かしむその顔。どうやらこの老人も法曹界に携わっていた人物のようだ。  「あなたも法関係のお仕事を?」  「まぁね、17年も前の話だ。」  17年・・ということは、退職したのだろうか?  「私は検事ですが、あなたも検事で?」  そう尋ねた私自身。違和感を感じずに入られない。どこかで見た記憶があったからだ。遠い昔に。  「いや、私は裁判官をしとったよ。いろいろと大変だった。退職前に1度だが、大きな事件を扱ってな。 アレ以来もうこの仕事はしたいと思わんよ。不思議なことにな。」  大きな事件?気になるが・・聞くべきか聞かぬべきか?  「お待たせしました。モーニングセットです。」  「おぉ・・きたな。私の分が。」  老人の前に、私と同じモーニングセットが並ぶ。  「どうした?食べんのか?」  「ん?あぁ・・そうですね。」  私は老人に促されサラダに手をつけた。  (考えすぎか・・どうも私は最近、いろいろなものに首を突っ込みすぎだな。)  私は考えすぎだったのかもしれない。老人は静かに朝食を取っている。 というか、いろいろと考えすぎて食が進んでいない私に対し、老人はもうトーストを食べ終えサラダに手をつけている。  「若いというのに、食が進んでいないのはよくないことじゃな。健康は大切だ。」  「そ、そうですね。」  しかし、さっきから感じているこの老人に対する・・以前どこかであったような記憶。 これだけは絶対に自信があるのだが、昔過ぎたせいか思い出せない。  「さてと・・私はそろそろ行くかな。」  数分後、私がサラダの最後の一口を口に運んでいた時。老人はコーヒーを飲み終えていた。  「今日はお出かけで?」  「あぁ・・ちょっとな。そこの駅で待ち合わせをしてるんだ・・もう時間がない。これで失礼するよ。」  老人は立ち上がった。  「また今度・・ゆっくりと会話をしたいものだな。」  「そうですね。」  老人は会計へと向かう。もしあの時、私が気づいていたら・・そして、首を突っ込んでいれば・・。  同日 午前7時58分 駅付近・裏通り  人気も何もない場所。  「駅からわざわざ、こんな人気のない場所へ連れて行き何を話したいんじゃ?」  「18年前。あなたが退職する前に扱った事件についてですよ。」  俺の決意は固かった。  「私が退職する前に扱った事件?」  奴は考えていたが、18年前で気づいたらしい。  「DL5号事件か!?話したいこととは!?」  DL5号事件。やはり憶えていたか。  「そうですよ。その事件です。」  俺はポケットに手を突っ込む。  「ずっと聞きたかった。何故あなたはあの時、被告人を有罪のしたのかと?」  「どういうことじゃ?」  俺を足を止めた。奴も足を止める。ここなら誰も見ていない。大丈夫だ。  「あの当時、検察側は不正をした。それはつまり被告人が無罪だったということじゃないのだろうか?」  忘れもしない。あの男は不正までして有罪を勝ち取ろうとしていた。  「確かに、検察側には不正があった。だが、弁護側には被告が無罪だと証明する証拠もなかった。」  「だが!あれだけ必死で無罪を訴えている人間の目を見て、それでもあんたは無罪だと思わなかったのか!?」   声が響く裏通り、冷たいコンクリートの壁に声が反響している。  「裁判官たるもの。そんなことで惑わされているわけにはいかないのだ。 いかなる時でも私たちは、平等な立場で物事を判断せねばならない。」  俺はイライラした。  「その結果、最終的に有罪だったというのか!?」  「そうだ。」  俺はこれ以上の話は無駄だと感じた。さっさと始末すべきだったのかもしれない。  「もういいでしょう。わかりました。」  ポケットに突っ込んでいた手から、鉄の塊を取り出す。  「父の痛み、そしてだ。あなたたちのせいで本当の・・が分からなかったから、 ・・・・までもが傷ついたその痛み。味わってもらいましょう。」  「なっ・・」  奴はゆっくりと後ずさりしながら驚愕した。  「父だと・・まさかお前は、あの時傍聴席にいた・・」                             ・・パァン!!    同日 午前8時12分 駅・表通り  私は会計を済ませ、検事局に向かうため表通りを歩いていた。  「!?」  ふと、目の前を黒猫が横切っていく。  (・・・・嫌な予感がする。迷信であって欲しいが・・)  黒猫は表通りから裏通りへ通じる建物の、狭い隙間を通っていく。  「よくこんな場所へいけるものだな。猫も。」  そう言って私が裏通りに目をやったときだった。  「!?」  建物の隙間から見える裏通り。かすかだが人が倒れているのが見える。血を流して。  (どこかで見たような・・)  必死に記憶の糸を辿る。  (・・・・・・・・・・・!!!!)  私はその時、倒れている人物がついさっきまで話していた人物だと気づく。  (まさか・・まさか!!)  私は人1人がやっと通れるほどの狭い通路を進んでいく。だんだんと目に映る惨劇がはっきりとしてくる。 やっとのことで狭い通路を抜けて広い空間に出たとき。私はそれがさっきの老人であるということに確信を持った。  「大丈夫ですか!?もしもし!!」  反応はない。体も既に冷たかった。見たところ心臓を撃たれている。おそらく即死だ。  「くそっ!!誰がこんなことを・・・・」  その時だった。私の中である記憶が蘇った。  「確かに狩魔検事の証拠には不正がありました。しかし、それが被告の無実を決定的に立証するとも限りません!!」  (!!!!!?)  幼き日の記憶がだんだんと鮮明になっていく。        「とにかく、これ以上弁護側に異議がないのなら判決を言い渡します!」  これは・・これは・・。                              「有罪。」  私は愕然とした。間違いない。この老人は18年前。父が負けたあの裁判を担当していた裁判官だ。 ということは、必然的に彼が銃殺されたということは・・。  「またしても・・先手を打たれたわけか・・」  だが、今度は早く気づけば防げたかもしれない。待ち合わせという約束から、もう少し首を突っ込んで居れば助かったかもしれない。  「私は・・私は・・くそっ!!」  Chapter3 end  ・・・It continues to chapter 4

あとがき

 さて、Chapter3は後手。  言うまでもなく、御剣は後を追うだけ。追いつくことが出来ません。  犯人も御剣自身。はっきりと分かったようですし。あとは御剣がどうやって管理官を追い詰めるか? そんなところでしょう。それでは各部の解説を。  第1部・星影。まぁこれは、御剣が成歩堂共に現場調査をしているところですね。 ここで御剣は、小中と星影の関係に気づくわけですが・・。星影先生と小中の関係。 ゲームでは思いっきり間違った選択肢を選んでたな。(笑)  第2部・執行。管理官に遅れて御剣が小中との面会に試みます。しかし、時既に遅し。 と言ったところでしょうか。ここで御剣は犯人が誰か?ということを確信するのですが、どうなることか・・。  第3部・裁判官。意味は最後で大体わかるでしょう。ここで犯人が再び動機らしきことについて発言していますが、 まだまだ分からないですね。まぁ、1つの動機は初期の段階ではっきりと分かっているんですけどね。  なんだかんだいってこの作品。実はデスノートみたいな追う者と追われる者の知能戦を描いてみたいなと思い始まりました。 御剣がLで管理官が月みたいな。  まぁ、どうなんだか・・以上です。

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