Q.E.D.〜逆転の証明〜(第1話)
 そう、これは半年後に起こる歪んだ復習劇への序章だった。  誰が再び、18年後に同じトリガーが引かれることを想像できただろうか?  2001年 6月1日 某時刻 とある山中  僕は昔から本当の家族というものを知らなかった。                      「お母さん?お母さん・・?」  だから、僕は家族に愛されている人を見るのが嫌だった。憎かった。                       「お・・おかあ・・さん?」  そしてあの日僕は目覚めた。もう1つの何かが目を覚ました。                      「どうしたの?お母さん?」  気がついたら殺していた。その手を真っ赤な血に染めて・・                         「あなた・・誰?」  息も荒かった。でも、僕はこれが人を殺したのが初めてじゃないと思う。              「おかあさぁぁぁん!!!!おとおさぁぁぁぁん!!!!」  まだ耳に残っているその声。数分前に自分は、同じくその手を真っ赤に染めている自分を見た。  そこには動かない男女と、取り残されて泣いている女の子が居た。                     「おかあさんが・・動かない・・。」  そして今自分の目の前には、同じような光景が広がっている。  母親の死を受け入れられずに泣きそうな少女・・いや、まだ幼い女の子のような気もする。                          「お嬢ちゃん。」                          「な・・に・・?」    僕は女の子に近づくと、1つの言葉を残す。  自分でも良く分からない。ただそれは、先ほどもそうしたから。だから、ここでも同じことをしなくちゃいけない気がする。                      「メッセージを残していくよ。」  僕はただそう言うと、母親の頭から流れている血を、その場にあった岩につける。                        「な・・何してる・・の?」  女の子は怯えている。でも、心配は要らない。メッセージを残しているだけ。って言ったろ?                          「これでいい。」  そう、これでいいんだ。さっきもそうしたじゃないか。  僕は静かにその場から立ち去る。女の子はただそこに残されたメッセージを呆然と見ている。  僕にも意味がわからないんだ。このメッセージは。                           Q.E.D.  岩場に血でそう残されていた3文字。  それがこの事件につけられた名前・・             「さすがに半年経ってるから、警察も血眼みたいだな。」  半年後の12月。僕は新たなQ.E.D.の被害者の記事を見てそう呟く。  そしてあの日が来た。運命の日だ。  2001年 12月6日  ついに半年間世間を騒がせたQ.E.D.が捕まった。  1人の30代の男性だった。  警察は2日前の事件の犯人をこの男性と断定。証拠などから逮捕に踏み切った。  しかし、警察にも焦りが見えていた。  男性は犯行を否認。しかし、検察に身柄を送致。検察も起訴に踏み切る。  異例のスピードだった。序審制度がまだできていない2001年にここまでの早さは異例。  それには、半年に渡りQ.E.D.を野放しにしてきた警察の焦りがあった。  そして検察にもその影響はあった。  逮捕から22日後。この男性は12月4日に発生した事件だけに限り裁判を受けた。    2001年 12月28日 午後1時23分  僕は捕まったQ.E.D.の裁判を見ていた。  警察はこの裁判で有罪判決をもぎ取って、有罪確定後に半年間の事件の自供をさせるつもりらしい。つくづく馬鹿だ。                「検察も必死だな。でっちあげの証拠までして。」  僕としてはありがたい。僕には全然身に覚えのない。  僕に影響された別のQ.E.D.がこうして犯行を起こし、逮捕され、僕の罪までかぶってくれる。          「まぁ、あの男性は犯人じゃないみたいだが、僕には関係ない。」  弁護側が検察側の不正を暴いている様子を見ながらそう思った。哀れだ。  不正までしてピリオドをつけたいのか・・。                            「有罪」  判決が下った瞬間。僕は笑った。大地を揺るがすほどの大笑いをした。  何故なら、自分は無罪になったのだから。  〜18年後〜  2019年 6月1日 早朝 とある倉庫  僕は気づいてしまった。もう1人のQ.E.D.の正体に。  あれから、Q.E.D.の意味を調べていた。そして、父の仕事に関係ある言葉だと知った。  だが、それ以上追求しなかった。あの頃の自分は、こう思っていた。  自分を愛してくれない家族への反抗。それをあの形で証明したのだと思っていた。  だから、殺害後にその証明の終了として無意識にQ.E.D.と残していたのだと。  ある意味正解だった。でも、それはある意味ハズレ。                          「はぁ・・はぁ・・」  何があった?あの時の自分は正気じゃなかった?                            「でも・・」  でもあれは自分が残したんじゃない。それだけは言える。  そして、それに今気づいた。                          「今度こそ・・」  僕は無意識に書いた。倉庫の壁に。                      「本当の意味で証明終了だ。」  1つ1つ丁寧に書いていく。                         「我、証明せり。」  壁に残ったのは、真っ赤な3文字。Q.E.D.  6月1日 午後2時51分 警察署・資料室  僕はある知り合いの弁護士に頼まれて、警察署の資料室に居る。  埃だらけの密閉された空間。そこを人は事件の墓場という。  そこに僕は、何故か今この人と一緒に・・  ビシィィ・・!!  「手を休めない!!成歩堂龍一!!」  「ちょっと首を回しただけじゃないか!!狩魔検事!!」  何故かこの人と一緒にいる。自由の国アメリカで、若干13歳にして検事になった彼女と。  「狩魔に休憩は許されない!早く調べるのよ!成歩堂龍一!」  鬼のような形相でムチをかまえているのはそう、狩魔冥だ。  「僕は狩魔じゃない。成歩堂だ。」  「そんなことはどうでもよろしい。」  (よくないよ!!)  真宵ちゃんのほうがまだマシだ。仕事にはならないかもしれないが、痛い目には会わなくていい。  どうしてこうなったのか?話は複雑だ。  ことは真宵ちゃんが用事のせいで事務所に居ない午前中が始まりだった。  6月1日 午前11時16分 成歩堂法律事務所  プルルルルルルルル・・  「あ、電話だ。依頼か?」  何となく受話器を掴む成歩堂。  「もしもし。成歩堂法律事務所ですが・・」  『成歩堂さんですか?』  「!?」  聞き覚えのある声に成歩堂はふと考え込む。  『上片です。上片正義(かみかたせいぎ)。あの時はお見舞い。どうもスイマセン。』  「あぁっ!!上片君!!」  彼の名は上片正義。ある事件で僕が知り合った弁護士だ。  最近まである事件がきっかけで、弁護士活動をしていなかったが、数ヶ月前に復帰した弁護士だ。  今はある事件の後遺症で、両耳にレシーバーをつけている。  「どうしたの?上片君?何だか慌てているけど・・」  『それが・・実は宇沙樹ちゃんが!』  「宇沙樹ちゃん!?」  宇沙樹ちゃん・・とは、鹿山宇沙樹(かやまうさぎ)。上片君のところで働いていて、助手をよくしている。  「宇沙樹ちゃんがどうかしたのかい?」  『それが・・実はそのことで成歩堂さんに頼みがあるんです。』  頼み・・成歩堂は首をかしげる。一体何なのだろうかと?  『実は、今ある事件を調査していて、もう1つのある事件を調べられないんです。』  もう1つのある事件・・これが始まりだった。  「その事件って?」  『今から18年前に起きた。Q.E.D.って名の殺人犯が起こした事件なんです。』  「18年前?」  18年前・・確か成歩堂自身は9歳か10歳くらい頃だろう。ちょうどDL6号事件があった年だ。  『それで、その事件について調べて欲しいんです。その事件と・・』  どうやら、話は複雑なようだ。  「分かったよ。ちょうど暇だし。」  『そうですか・・ありがとうございます!』  それで僕は、警察署の資料室にいるわけだ。用事で日本に来ていた狩魔冥と再会するのは予想外だったけど。  同日 午後3時11分 警察署・資料室  「成歩堂龍一。これは例の事件の資料じゃないかしら?」  「え、ちょっと見せて!」  狩魔冥が見つけた資料。それは・・  「事件発生日。2001年12月4日。犯人を逮捕・・。どうやら捕まった最後の事件みたいだ。」  「それって、裁判所に裁判の記録もあるのかしら?」  確かに、捕まったのなら裁判が行われているはずだ。  「そうだね。裁判所にはその記録があるかもしれない。」  「じゃあ、私が行ってくるわ。ちょうどそっちの裁判所に届け物があったし。」  冥はそう言うと扉の前に立つ。  「いいのかい?わざわざそんなことまでしてくれて。」  「いいのよ。」  意外と素っ気ない。でも、しばらくムチの被害に遭わないならそれでいいかもしれない。  ビシィィ・・  「痛っ!!」  「ニヤニヤしない!!」  どうやら、成歩堂のその態度が顔に出たらしい。  同日 午後3時13分 警察署・廊下  私は裁判所へ向かっていた。ある事件の裁判記録を見つけるために・・。    そのムチを握る手にも、自然に力が入っている。早足にもなる。  だって、私・・その裁判を知っている。きっと怜侍も知っているはずだわ。 だって、あの裁判があった日は、12月28日だったはずだもの!!  運命の歯車は動き出した。  同日 午前7時22分 上片法律事務所  その日は朝早くから2人は出勤していた。  事務所の臨時で現所長の上片正義と、事務所の臨時で現副所長の鹿山宇沙樹だ。  「もう6月か・・あと1ヶ月で2人が帰ってくるなぁ。」  「そうですね。上片さん。」  2人は写真立てを見ながらそう話している。その写真立てには、上片と宇沙樹・・ それに知らない男性2人と宇沙樹と同じ年くらいに見える女性が1人いる。  1人はこの事務所の所長だった見方宏(みかたひろ)。ある事件で亡くなってしまった。  そして残りの2人。今は事情があってこの事務所には居ない。 ある小さな島で法律の専門家が居ないことから、出張ボランティアに行っているのだ。もう4年経つが・・。  「でもまぁ、手紙だと島に新しい法律家が誕生したから、そろそろ帰るって話しだし。どんな風になってるか本当に楽しみだよ。」  上片は写真立てに写っている女性を見ながら笑っている。そう、島で2人が新しい法律家を育てたので、もう帰れるのだ。  「でも、帰ってきたら私たちは、所長でも副所長でもなくなりますけどね。」  「それもそうだね。」  一応2人は、臨時の所長と副所長だ。所長が2人の留守中に亡くなったことから、 今も事務所の名前は“上片法律事務所”だが、この2人が帰ってくると分からない。  「まぁ、副所長達が帰ってきた時は、盛大にパーティでもしたあげたいな。」  そう、今留守にしてるのは副所長なのだから。  それから数分後・・  上片は民事の資料の整理を、宇沙樹は掃除をしながらテレビのニュースを見ていたときだった。  『続いてのニュースです。今日午前、吾童山中にある“こころ診療所”で、診療所を経営している夫婦のうちの1人。 “日安寺(ひあじ)こころ”さんが、何者かに刺され亡くなっている所を、夫の健次郎(けんじろう)さんが発見しました。』  殺人事件・・そう思いながら資料の整理を続ける上片。だが、それに対し宇沙樹は。  「こころ・・診療所?」  顔色を変えていた。  『警察は診療所に住んでいる女性・蒼井あざみ容疑者を殺人容疑で逮捕しました。』  あくまで平然とした様子で原稿を読むキャスター。それに対し宇沙樹の頭の中で、何かが蘇る。                          「お母さんが・・」                      「大丈夫。落ち着いて・・そう・・」  宇沙樹は立ち上がる。  「嘘・・でしょ・・。」  「!?宇沙樹ちゃん・・どうしたの?」  上片は突然立ち上がった宇沙樹を見て驚く。だが、宇沙樹の頭の中には1つのことしかなかった。  「上片さん。私・・こころ診療所へ行ってきます。」  「え?」  宇沙樹の中にあるこころ診療所・・それは。  「私の家ですから・・あそこは。」  宇沙樹はそう言うとそのまま事務所を駆け出した。  「あっ!ちょっと待って!宇沙樹ちゃん!」  上片も急いで後を追う。法廷記録を持ち出して。  「どうやら、また刑事事件を担当しそうな勢いだな。」  事務所の入口に“留守中”のプレートをかけると、上片は宇沙樹の後を追いかけていった。  同日 午後9時29分 こころ診療所  2人は吾童山にある心診療所へとたどり着いた。パトカーが何台も停まっていて、警察関係者が何人も出入りしている。  「あ、健次郎おじさん!!」  宇沙樹は診療所の外で、子供達と一緒に立っている男性を見つけるとそう叫んだ。  「おぉ・・君は、鹿山君じゃないか!?しばらく見ないうちに大きくなったな・・。」  彼はそう言うと下を向いた。年は見たところ60代だ。  「それより・・こころさんが・・殺されたって・・」  「あぁ。そうなんだ。私も、子供達も信じることが出来ない。」  周りには幼い子供達が10人ほど居る。こころ診療所は、両親を失った子供達を預かっている施設でもある。  「初めまして。上片と言います。」  とここで、上片に気づいた健次郎に、上片が軽く自己紹介をする。  「あぁ、あなたが上片さんですか、鹿山君から話はいつも聞いています。大変だったようで・・」  「まぁ、宇沙樹ちゃんのおかげで今はこうしてピンピンしてます。」  両耳についているレシーバーが、小さいがやけに目立って見えたときでもあった。  「それより、奥さんが亡くなられたと?」  「はい。そうなんです。しかも・・あざみさんが捕まってしまって。」  あざみさん。どうやらこの診療所と関わりがありそうだ。  「あの、事件現場はどこで?」  「現場は、裏の倉庫です。」  倉庫・・一体そこで何があったのだろうか?  「上片さん、行きましょう。倉庫へ!」  「えっ!?でも、関係者以外立ち入り禁止だぞ。」  「大丈夫です!私はれっきとした関係者ですよ!」  そう言いきると宇沙樹は倉庫へと行く。どうやら倉庫の場所を知っているようだ。 上片は健次郎に頭を下げると、宇沙樹と共に倉庫へ向かう。    同日 某時刻 倉庫  「関係者以外立ち入り禁止ッス!」  成歩堂にとってはおなじみの刑事。糸鋸が宇沙樹の進路を阻む。  「入れてください!私は関係者です!」  宇沙樹と上片の2人は、糸鋸を知らない・・というか憶えていない。以前会ったことはあるのだが、  「とにかく今は現場検証中でダメッス!」  「いいじゃないですか!?」  2人の口論は続く。糸鋸も憶えていないらしい。  「宇沙樹ちゃん・・ちょっと落ち着いて・・」  上片がなだめる。とそこへ・・  「全く、現場検証中よ。そこの2人、何の用?」  「あっ、綾詩刑事!!」  宇沙樹が顔見知りの刑事の顔を見てそう叫んだ。そう、2人にとってはこの刑事のほうが顔見知りだ。  「綾詩刑事。お久しぶりです。」   上片も頭を下げてそう言う。  「まったく、もう弁護の依頼を受けたの?とにかく、今はダメよ。」  「いいじゃないですか!!私関係者なんですよ。この診療所の!!」  宇沙樹はそう言うと糸鋸の一瞬の隙を突いて倉庫へと入り込んだ。  「あっ!!!!」  「こらっ!!!」  「う、宇沙樹ちゃん!?」  糸鋸・綾詩・上片の3人が一瞬の出来事に言葉を失う。そして、倉庫へ入り込んだ宇沙樹は、中の光景を見て足を止めた。  「これは・・・・」  そこには、大量の血が飛び散っていた。しかし、それよりも目立ったのが、壁に書かれている血文字。  「“Q.E.D.”・・・・・?」  宇沙樹の頭にある光景が蘇る。                      「メッセージを残していくよ。」  「い・・・・」  宇沙樹は頭を抱える。  「宇沙樹ちゃん!勝手に入っちゃダメだろ!!」  倉庫へ入った上片たちが宇沙樹に近づこうとした瞬間。  「いやあああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」  周りの者達が目が宇沙樹に釘付けになる。宇沙樹は悲鳴をあげると倉庫から一目散に出て行った。  同日 某時刻 こころ診療所・待合室  「宇沙樹ちゃん・・ここにいたのか。」  待合室の椅子に宇沙樹は座っていた。泣いている。そして、震えていた。  「どうしたんだい?急に悲鳴を上げて?」  優しく問い掛ける。それに対し宇沙樹の答えは簡単なのものだった。  「思い出せない。思い出したくない。」  「?」  思い出したくない?どういう意味か?  「Q.E.D.が来た。戻ってきた。」  戻ってきた?ますます分からない。  「どういう意味なんですか!?あざみさんが逮捕されたって!?」  とここで、1人の青年が事務所に入ってきた糸鋸に、物凄い剣幕で迫っている。  「だからそれは、状況的に見ても犯人は彼女しかありえなかったからッスね。」  「そんなの何かの間違いだ!彼女がそんなことをするわけがない!!」  「しかし・・刃多さん。他に容疑者がいないんスよ。」  糸鋸に問い詰めていたのは刃多進(はたすすむ)。検察事務官だ。  「よく分かりませんが、この事件で1人の検事があざみさんを起訴しそうなんですよ! もしこれが誤認逮捕だったら許しませんよ!あの人がなんていうか分からない! このことがあの人の耳に入ったら、あの人は何かも捨てて戻ってくる!ここへ!」  物凄い早口で攻め立てている。  「犯人はあざみさんという人じゃない。」  その声が、争いを止めた。  「え?」  上片はその声の主に目を疑う。  「犯人は、別にいる。上片さん・・私たちで弁護しましょう。彼女を。」  宇沙樹だった。宇沙樹の目は何かに怯えていた。  「何言ってるんだ!?なんでそれが宇沙樹ちゃんにわかるんだ!?」  上片は周りの警官たちの目を気にしながらそう尋ねた。  「だって、私は犯人を知ってる・・犯人は“Q.E.D.”。」  「“Q.E.D.”?」  待合室の真ん中にあった大きな水晶が無気味に光る。  「宇沙樹ちゃん・・君は何を知っているんだ?」    ドンッ!!  その時だった。上片の頭に大きな衝撃が走る。  「!?」  目の前が漆黒の闇に包まれる。そして・・  ガラガラガラガラガラガラガラガラ・・・・ガシャガシャガシャガシャガシャーン!!  「!!!!!!!!!!!!!?」  宇沙樹の周りにいくつもの鎖の連鎖が現れた。  「こ、これは!?」  上片は腰を抜かしてその場に倒れこむ。さらに宇沙樹の周りに赤い南京錠が5つ姿を現す。  「な・・なんだこれ!?」  上片の目に、その時異様な光を放っている水晶が映った。  (水晶の光が・・凄い・・!!)  やがて水晶の光が収まってゆく。それと同時に周りの闇が晴れてゆく。鎖は徐々にぼやけていき、南京錠と共に姿を消した。  「どうしたッスか!?アンタ!?」  糸鋸が上片のすぐに近くに駆け寄る。  「あ・・南京錠が!!」  「南京錠ッスか?どこにそんなものがあるッス?」  まさか・・上片は周りの人間の表情を伺う。周りのものは皆、自分の顔を見て不思議そうな顔をしてる。  (まさか・・自分にしか見えないのか!?)  今は普通の状態に戻った待合室。上片は口をあんぐりと開けている。  「18年前だ。この子が3歳の時の出来事だ。」  いつの間にか待合室に現れた健次郎がそう言った。  「18年前!?」  「そうだ。人によってはこう言う。DL6のトリガーとな。」  DL6のトリガー?法関係の仕事をしている上片には、DL6の意味は1つしか分からない。  「ど、どういう意味ですか?それは?」  上片は健次郎を見ながら尋ねる。だが・・  「触れてはいけない。君に水晶の光を受ける能力があったとしたら尚更の事だよ。」  「す・・水晶の光!?」  水晶から異様な冷気が漂ってくる。また、この冷気を感じることが出来ているのも、上片だけだったが。  同日 某時刻 倉庫  「“Q.E.D.”。昔何かの資料で読んだことがあるわ。」  綾詩刑事はそう言いながら考え込んでいた。  「何か別の名前で“Q.E.D.”を聞いたことがあるような・・」  「きっとそれは、“DL6のトリガー”じゃないですか?」  1人の年輩の鑑識が言った。  「トリガー・・。いや、私はもっと別の名前を資料室で見た気がするの。」  同日 午後3時27分 警察署・資料室  「18年前か・・そう言えば、18年前はDL6号事件もあったんだよな。」  18年前の資料の部分を探しながら成歩堂は呟いた。  「それより・・“Q.E.D.”なんて見つからないな。」  18年の前の棚を、あのDL6号事件があった12月の年末から見ていく成歩堂。“Q.E.D.”と書かれた資料はない。  「本当にどこにあるんだか・・」  そう言って成歩堂は徐々にそこから目を離して違うところを調べる。  成歩堂が先ほどまで見ていたファイルのあったところには、DL6号事件のファイルがあった。  <2001年事件資料>  DL6号事件(解決)  DL5号事件(未解決・2016年11月27日。全ての時効成立)  成歩堂はまだこの時知らない。“Q.E.D.”が“DL6のトリガー”と言われていることも。 また、この18年前の事件の、犯罪識別ナンバーも。  つづく

あとがき

前回の連載は非常にオリジナル色が濃かったです。まぁ、それでいて長かったですが。 で、この話から、徐々に逆裁本編のストーリーが絡んできます。 前回オリジナル色が強かったのは、一応彼らの紹介の意味あいが強いですね。 この話もそう言う意味ではオリジナル色が強いでしょうが・・。 ここから少しずつ、逆裁本編に繋げていくことが自分の目標です。 ちなみに、今回のテーマは記憶。 以上、麒麟でした。

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