Q.E.D.〜逆転の証明〜(エピローグ)
同日 午後2時44分 地方裁判所・被告人第1控え室  (ふぅ・・これで終わったんだよな。)  上片は1人ため息をついた。18年前の時効を既に迎えた殺人事件。  その真相を明かし、今回の事件の謎を全て解き明かしたというのに、なんだかすっきりしない。  「上片さん。今日は本当にありがとうございました。」  「あ、あざみさん。いや、どういたしまして。」  そんな中、無事に身の潔白を証明できたあざみが、上片に礼をする。でも、そんなあざみの顔もすっきりしない。  「なんだか・・重い法廷でしたね。今日は。」  そしてまた、この控え室の空気も重い。  「そうですね・・。」  上片とあざみは、2人でソファに座ると、再びため息をした。  「あの・・健次郎さんはこれからどうなるんでしょうか?」  あざみがふと漏らしたこの言葉。上片はさらに鬱になる。  「見当もつきません。しかし・・恐らく罪に問われるかもしれません。 記憶の改ざんは分かりませんが、当時夫妻が14歳の志賀真矢をかばった事はまぎれもない事実ですから。」  しかし、時は経ちすぎた。もう事件は、風化していったのかもしれない。  「しかし、全ての時効は成立しています。書類送検でしょう。きっと。」  「そうですか。」  でも、あざみにはさらに気がかりなことがあった。  「診療所・・どうなるんでしょうか?」  上片は、その言葉に答えることが出来なかった。  「きっと・・無理かもしれません・・」  当然かもしれない。  「そうでしょうね・・でも!そしたら子供たちが!!」  行き場を失ってしまう。と言いたかったのだろう。  「私は、あの子たちを救いたい。こんなことを言うのもなんですが、私はあの子たちにも支えられてきたんです。」  ふとその時、係官があざみを呼んだ。どうやら、釈放の手続きを行うらしい。  「なんか、1人でこんなこと言っちゃって・・スイマセンでした。」  あざみは立ち上がる。  「あざみさん。」  上片は立ち上がった。  「だったら、あなたが行動を起こすべきだ。」  「!!」  上片はあざみを見ながら続けた。  「これが、あなたの新たな出発です。そして・・」  彼女は忘れているかもしれない。でも・・  「あなたには守ってくれている人がいる。ずっと見守ってくれている人がいる。」  その言葉は、あざみの奥底にある記憶を、少しずつ呼び起こしていく。  「見守って・・くれる人?」  「えぇ・・だから、大丈夫ですよ。」  2人は別れた。彼女の背中は、上片の言葉を聞いて少しだが、大きく見えた気がした。  「それにしても・・裁きの庭からは逃げられない。」  1人になってしまった控え室で、ポツリと言った一言。  「志賀真矢は・・もう・・」  ここで上片は、閉廷後姿を消した2人を思った。  鹿山宇沙樹と灯火あかり。きっと彼女達は、今彼女の元に・・  同日 午後2時49分 地方裁判所・入口  そこには、パトカーで連行されようとしていた志賀真矢がいた。  「ちょっと待ってぇ!!」  宇沙樹がパトカーに詰め寄る。その横にはあかりもいた。  「すいません!!お願いですから・・話をさせてください!!」  警官は検事であるあかりの姿を見て、急いでエンジンを止めた。  「真矢姉ちゃん!!」  窓が開き、志賀真矢の姿が2人の前に、はっきりと映ると。宇沙樹はそう言い、あかりは再び涙を流した。  「ごめんね。やっぱり、悪いことはすぐにばれるものね。18年経っても。」  真矢は顔色1つ変えずにこう言った。  「どうして!?どうして!?おばさんを!?」  あかりは問い詰めた。その先には、かつての優しい彼女はいない。  「理由は弁護士さんが言ったことと同じよ。証拠の隠滅がばれ、再び記憶が閉じられようとしたから。」  記憶・・。この言葉を発した後、唇を噛み締めた志賀真矢。  「でも、どうして殺人なんか・・!?」  宇沙樹のこの問いに、彼女は答える。あくまでも顔をこちらに向けずに。  「宇沙樹。それにあかりも、よく聞いて・・わたしはあなたたちの親を殺したのよ。」  2人は言葉を失う。自分の親を・・しかし、2人にとって子供時代。いつも一緒にいた彼女が、 自らの親を殺したという事実が、今でも信じられなかった。  「どうして・・何故わたしたちのお母さんやお父さんを!?」  もう、メチャクチャで何もかもよく分からなかった。  「あかり・・宇沙樹・・よく聞いて。私はね、親と一緒にいる子供に嫉妬・・いや、憎んでたのよ。あの頃。」  嫉妬・・憎み・・弱い人を支配する力の源。  「あのね、私の両親は共に大学の教授で、数学者だったことは法廷でも言ってたわよね。」  そう、だからこそ、彼女は“Q.E.D.”を知っていた。  「そして、父さんと母さんはいつも数学の研究ばかり、子供なんて相手にしなかった。だから、ある事件が起きた。」  その目は遠い過去を見ていた。  「弟が・・死んだの。いや、殺されたのよ。父さんと母さんに。」  『え!?』  2人の前で、志賀真矢は淡々と語りだした。  「私には、1つ年下の弟がいた。あの時中学に入学したばかりで・・明(あきら)という名だった。」  次第に、言葉が震えだした。  「明は、ある病気でいつも悩んでいた。」  「病気?」  宇沙樹は小さく尋ねた。  「そう、あかり・・あなたがよく知っている病気よ。」  「え?私が・・ま、まさか・・」  あかりは、自らの病気を思い出した。  「た、多重人格?」  「そう。あなたは人格が2つだけど、明には複数・・10を超える人格が存在した。」  「姉ちゃん・・もう、いやだよ。本当の自分が分からない・・」  「明!弱気になったりしないで!この病気は・・いつか絶対に治るから!」  「いつかっていつだよ!?」    「明は、自分とは違う別人格を恐れていた。それは、自分をも見失わせて・・ 本当の自分をなくしてしまう恐怖から生まれたものだった。」  志賀真矢はそう言うと、頭を抱えた。  「明に救いの手を差し伸べてやれたのは・・私だけだったのに・・」  「父さんも母さんも、僕のことはちっとも気にかけない!数学ばかり狂ったかのようにやってる!」  「そ、それは・・」  「考えてみろよ!僕たちにご飯なんか作ったか?今日だってコンビニの弁当だ!!」  明がテーブルを叩くと、コンビニで温められた弁当が一瞬宙を舞う。  「参観日だって来たことがないし!家族旅行もない!病気になったって病院へは1人で行けという! インフルエンザで40度の熱が出た時だってそうだったじゃないか!!」  そう・・父さんも母さんも狂っていた。数学に取り憑かれていた。  「こうしている間にも・・もう自分じゃなくなっていく・・こんなのいやだ・・こんな苦しみもう嫌だ!!」  「明!!!!」  「ある日、明は家を飛び出していった。大学にいる父さんと母さんに電話をしても連絡なんかつかない。 私が1人で探し回った。そして・・」  「はぁ・・はぁ・・明・・どこに・・」  その時、ちょうど私は橋にいた。その時だった・・  「明!!!!!!!!」    「川は真っ赤だった。手首を切って・・川に飛び込んでたの。明はついに、自分を失う恐怖に負けてしまったの。 私は救急車を呼んだわ。来るまでに川に飛び込んで明を助けたわ。でも、もう冷たかった。」  その手には、今でも明の感触が残っているかのようだ。  「父さんと母さんは、それから連絡を受けたのにもかかわらず・・死んでから2日後に来た!親なのに!!」  霊安室にずっといた私は、2人を問い詰めた。  「どうして!!どうして!?何故!?何故!?すぐに来ないの!?どうして明を無視しつづけたのよ!? どうして苦しんでいるのに助けてくれなかったのよ!!?」  その答えは、私にとって忘れられないものだったわ。  「学者たるもの、謎は解明しつづけなければならない。それが呪いなんだ。」  「数学者じゃない!?2人は!!」  「数学者も立派な学者よ。“Q.E.D.”と書き終えるまで、私たちはそれを止められない。」  「そ、そんな!!じゃあ、今まで数式を解いていたというの!?」  「そうだ。」  「馬鹿じゃないの!?だったら、それを解くのに1年かかったら1年来なかったってこと!?」  「そうだ。」  「2人は、数学の悪魔に呪われていたのよ・・。そして、私は明を救えなくて悔やみつづけた。 そんなある日。私にもう1人の私が現れた。いや・・それは明だった。」  宇沙樹とあかりはその言葉に驚愕した。ということは・・  「姉ちゃん。僕はいつも姉ちゃんの中にいる。そしてだ。お願いがあるんだ。体を貸して欲しい。」  おかしい・・私であって私じゃない!?明が私の中にいる!!  「町で見る親子3人一家とか、僕は羨ましかった。でもある日気づいたんだ。 僕はそんな家族に嫉妬し、いつの間に恨んでいたことに。恨む対象が違うって言うのにな。」    「気づいた時には、私は部屋に戻っていた。でも、手は真っ赤だった。服も何もかも・・血で。 それに、クマのぬいぐるみがあった。」  宇沙樹とあかりは嘘だと言って欲しかった。  「次の日のニュースで見た。親子で来ていた2家族が、共に親だけ殺されていたと・・ 子供だけは助かっていたと。明は、子供だけは殺せなかったみたい。そして、そんな明になった私を私は止めれなかった。」  そしてまた、“Q.E.D.”は数学に取り憑かれた両親への憎しみの現れだったのかもしれない。  「そしてあの日。ついに明は自分の両親を殺した。数学の論文をメチャクチャに引きちぎり、 壁にありたっけの力で“Q.E.D.”を書いていた。でも、私は当時、そんな明の起こした行動の記憶がなかった。」  彼女がそして、あの診療所へ来た時に、このクマちゃんはあかりに渡された。  「きっと・・あなたの“あかり”という名に、“明”を見たのね。だから、あげてしまったのかもしれない。 また、あなたが2重人格とも聞いていたから、余計に重ねてしまっていたのかもしれない。」  「あ・・!!」  あかりはそれを聞き呆然とする。  「そして、運命の日が来た。おじさんたちが明になった私を尾行して、ついに正体を知ったの。 そこで何を思ったのかは分からないけど、記憶は消されてしまった。」  またしても頭を抱える志賀真矢。涙も流している。  「思い出せずに・・苦しんだ・・それから・・そして私は、診療所を出る決意をした。 ここにいては・・何も記憶は戻らないと考えて。」    「明・・明・・・・・・・・」  「案の定、1人暮らしをしてうなされたわ。でも、催眠が強くて思い出せなかった。 でも、今年のあの子の命日に、遂に記憶が戻った。すべての。」  志賀真矢の目は鋭かった。だが、同時に涙も流すという、とても想像できない複雑な心中に見えた。  「殺害・・消された記憶・・別の人格。全てを思い出した私は、診療所へ行き、証拠を隠滅しようとした。 きっと、私もまた“Q.E.D.”の恐怖に怯えていたのかもしれない。」  あの事件は、そこで起きた。  「きっと、おじさんとおばさんも恨んでいたのかもしれないわ。記憶を消すことで逆に苦しめたということに対し。」    「記憶が戻った。あれは自分が残したんじゃない。それだけは言える。だって・・明が残したのだから。」  あの日倉庫で、私は血文字を書いた。“Q.E.D.”は証明終了という意味。 だが、明はそれを知らず、ただ親に対するあてつけで書いていた。  「そして、私は今日・・記憶を取り戻した。別の私についての記憶も。 そう・・私は全てを思い出し、証明したんだ。明が私の中にいて人を殺したことを!」  だから・・こころさんの血で書いた。  「今度こそ・・本当の意味で証明終了だ。」  書かれた血文字を見て私はふと呟いた。  「我、証明せり。」  それもあてつけだったのかもしれない。両親と・・明と・・思い出せなかった自分に対する。    同日 午後2時55分 地方裁判所。裏口  マスコミを避けるために裏口から出たあざみ。とここで、目の前にある男が立っていた。  「あ、あなたは・・!!かたな・・」  係官がその姿を見て驚く。彼は今日本にいないはずでは?と。  「あなたは・・誰ですか?」  あざみは首をかしげる。だが、あの時の台詞が何故か、この男を見た瞬間蘇ってきた。  「よかった・・」  「え?」  男はあざみが無罪判決を受けた様子だったことから、安心したような感じでそう言う。  「本当に・・」  声が震えていた。  「あの・・だいじょうぶで・・・・」  あざみが心配してそう尋ねようとした時。自分の体がふと、彼に向かって吸い寄せられた。  「え!?」  突然の事に訳が分からないあざみ。  「ま、守ると約束して守れなかった。す、スイマセンでした。あ・・あざみさん。」  男はあざみを離そうとしなかった。だが、急に彼の手の力が抜けると、そのまま崩れ落ちた。  「ほ、本当にゴメン・・あ・・あざみさん・・あざみさぁぁぁぁぁん!!!!」  「!!!!!!!!!」  彼はその場で泣きながら謝りつづけた。おでこを何度もコンクリートに打ちつけながら。 そして、あざみの中で、彼のその、自分を呼ぶ声が、昔聞いたことのある声と一致した。                          ※    ※    ※  「どうして・・どうして死に損ないの私を助けたんだ!?」  そう、これは遠い昔の事じゃない。  「そんな・・だからって!かばうことはないじゃないですか!? それに、私がもっと悲しむ。すみれさんも悲しむ!」  あの時、必死になって私を助けてくれた。そして・・  「あ・・あざみさん。あざみさぁぁぁぁぁん!!!!」  彼はそのまま私の名を叫びつづけた。                              ※    ※    ※  「か・・刀技・・さん?」  あざみの中で全ての記憶が戻った。  同日 午後3時18分 こころ診療所  「日安寺健次郎さん。警察から出頭要請が出ているッス。裁判所からも許可は出ているッスから。ご同行をお願いするッス!」  特別捜査令状のより、こころ診療所へ来ていた糸鋸刑事から、健次郎は出頭を要請された。  「分かりましたよ。従いましょう。」  健次郎はそう言うと、立ち上がった。  「だが、少し待って欲しい。部屋に少し戻って窓を閉めてこなければ。」  「分かったッス。ただし、すぐに戻ってきて欲しいッス。」  「言われなくてもわかっとるよ。」  健次郎は階段を上る。  (こころさん。私たちはあの子がいずれ、人格障害が戻った時に、もう1人の別の自分が犯した罪に気づき、 それに苦しむことがないように記憶を消した。それは間違ってなかったはずだろう?)  部屋に入り、健次郎は戸を閉める。そして、隅に隠していた猟銃を手に持った。  (残した子供たちや、あざみさんにはすまないことをしたな。これがバレた以上。終わりだ。私は・・)  引き金に指を入れ・・引こうとした時。  「おじさん。馬鹿な真似は止めてください。」  「!?き・・君は・・幹司君?」  急いで後ろを振り返ると、そこには小深幹司がいた。  「俺もいますよ。」   さらにもう1人、幹司の後ろからは・・  「俊治君!?2人ともどこに!?」   風呂井俊治がいた。風呂井は答える。  「隣の倉庫の上の屋根裏ですよ。幹司君と久々に会話を懐かしいここでしようとね。 すると警察が来たじゃないですか、俺たちビックリして隠れてましたよ。」  「そうそう、ひょっこり出てきたら不審者で捕まるかと思いましたしね。」  そんな2人を見ながら健次郎。ただ一言。  「私は死ぬ。邪魔しないでくれ。」  だが、2人の答えは一致した。  『嫌です!何があってもあなたは死なせない!!』  2人は健次郎の猟銃を力づくで手から離そうとする。  「ぐっ・・止めてくれ!!」                        パァン!!!!!  その時、残りたった1発しか入っていなかった猟銃が暴発した。  「ぐっ・・」  倒れた風呂井。銃は風呂井の右足をかすった。そして・・  「くっ・・ぐああっ!!」  かすった弾は幹司の右腹部に命中した。  「幹司!!」  風呂井は幹司の傍に駆け寄った。  「だ、大丈夫さ・・」  「でもお前・・!!」  幹司は笑って言った。  「俊治兄さん・・死んだって恐れることはない。天国には・・お父さんやお母さん。 それに・・こころさんもいるのだから・・」  笑っていた。  「馬鹿野郎が・・」  風呂井は唇を噛み締めた。  糸鋸刑事たちをはじめとする警官達が、発砲音を聞き駆けつけたときには、 健次郎はその場で呆然と立ち尽くしており、風呂井はその場にうずくまって・・幹司はぐったりと・・。  同日 午後3時18分 地方裁判所・入口    志賀真矢は連行されていった。  宇沙樹とあかりはずっと、そのパトカーが見えなくなるまで立っていた。  「それしても、時って残酷ね。」  あかりが言う。宇沙樹に向かい突然と。  「そうね。」    今から15年前。  宇沙樹とあかりはとても仲のよい友達だった。診療所で出会った2人は、よき親友であり、またライバルでもあった。  ある日2人は、将来について話す。  「私はね、将来検事になるの。」  「けんじ?」  あかりはあの頃から検事を目指していた。一方の宇沙樹は検事どころか刑事も知らない。  「そうよ、よく思い出せないけど。私のお父さんとお母さんは悪い奴に殺されたのよ。 だから、もう私たちと同じような理由で悲しむ子供たちがいないように、犯人をドンドン裁いちゃうのよ!」  その目は輝いていた。  「へー、すごいなぁ。私も検事になろっかな?」  安易な発言をする宇沙樹。今も昔も変わらずだ。  「無理だよ。宇沙樹は私より馬鹿だもん。」  「あ、そんなことないもん!!じゃあ、一生懸命勉強して、いつかまたアンタと、戦っちゃうんだから!」  戦う。ライバルらしいコメント内容だ。対するあかりは笑いながら言う。  「無理無理。戦うって、弁護士になるつもり?」  弁護士・・これが2人の運命を決定付けたのかもしれない。  「べんごし?それになったらあかりと戦えるの?」  「そうよ、弁護士も人を救うのが仕事なの。でも、検事とは戦えるのよ!」  しばらく考えていた宇沙樹だったが、やがてある決意をする。  「だったら、ライバルな私たちにとっては最高じゃない!よしっ!わたし弁護士になる!」  「無理だって、宇沙樹は馬鹿だから。」  「何ですってー!!」  そして、その決意は今も不思議なことに続いている。  「とにかく、いつも仲が悪かったよね。親友なのに私たちって。」  宇沙樹は昔の事を思い出すと笑った。  「そうね。診療所でクッキーを盗み食いした犯人は誰かで、幹司くんが疑われたことがあった時のこと。宇沙樹は憶えてる?」  あかりは笑いながら尋ねた。  「あ、憶えてるよ。コフカ兄さんを私が弁護して、あかりがコフカ兄さんの有罪を立証しようとしたのよね。」  宇沙樹は恥ずかしそうに昔の事を思い出すと言う。  「そうそう、結局犯人は健次郎おじさんで、みんな大爆笑だったわよね。今でも忘れないわ。」  「そうだよね。あかり。今でも大切な思い出・・」  ふとここで、心地よい風が吹くと共に、2人はまた痛感した。時の残酷さに。  「もう、あの頃には戻れないんだね。」  宇沙樹は悲しそうだった。  「そう・・なのよね。」  あかりは頷くしかなかった。    消された記憶が蘇ったことによる悲劇。  でも、消されたことが良いことなのかは分からない。  何故なら、記憶は消されずに残っていても憎悪を生み出すからだ。  そしてまたここで分かったこと。それは、もう2度と過去へは戻れない。    誰が想像しただろうか?18年後に、DL6号事件のトリガー(引き金)となった“Q.E.D.”が蘇ったということは、 18年後の今、再びDL6号事件が蘇るということに・・。  そして、この事件で次に僕たちは、記憶があることによる憎悪の恐ろしさを知る。過去へ戻れれば、全ては防げるのに・・ 人はそれが出来ない。それも運命なのか?  <序章>Q.E.D.〜逆転の証明〜 完    <本章>スタート

あとがき

中途半端に長いエピローグ書いちゃったな。の麒麟です。 さて、終わりました。序章が。 やっと本章が書けます。が、ちょっと時間がかかりすぎたな。 エピローグ。非常に妙な後味ですね。なんかこう、終わってるのだけどいい感じがしないというか。 今回のテーマは記憶。そしてまた、人間の心理描写に関するところが描ければ上等かな。といったところで。 正直どうだったかは分かりませんが、この作品が完成したことがとにかく嬉しいです。 そんなわけで、まだ本章があるために終了!!とは言えないな。それでは、これにて長き序章、終了です。

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