Q.E.D.〜逆転の証明〜(第5話)
同日 早朝 某国・某所  日本の新聞記事を見ていた男がいた。  「あざみさん・・」  検事はあの“灯火あかり”。それが余計この男を鬱にする。  「彼女の事だ。どこまで本気でやるつもり何だかな。」  男は大事にしているある写真を見た。  「すみれさん。お姉さんを救えない私はダメな人間か?」  ふと、その写真立ての裏にあるもう1枚の写真を取り出した男。  「あと1日すれば時間が空く。その時になら戻れるかもしれない。」  唇を強く噛む男。とても悲しそうでありまた、悔しそうだ。  「今度こそ、守ってやらなきゃならないって言うのに、そう誓ったのにな・・」  その手には、あざみと一緒に写っている笑顔の、女性と男性が1人ずついた。  同日 午後1時33分 こころ診療所・待合室  「へぇー、ここが宇沙樹ちゃんが子供の頃に住んでいた診療所?」  「そうですよ。真宵さん。」  一足先に事件現場である診療所へと到着した真宵と宇沙樹。  「あれ?おっかしいなぁ。おじさんがいない。」  いつもはここにいるはずなのだが、健次郎の姿が見当たらない。 一応、子供たちは街のホテルに一時泊まらせているというのは聞いているのだが。  (それにしても、この部屋から感じる妙な力は何なのかな?)  真宵は真宵でこの部屋から感じる何かに気づいている。  (でも、ここにあった痕跡は感じるけど。今はないんだよね。)  待合室を見渡す真宵。ふと、ある箇所に目が止まる。  「宇沙樹ちゃん。この小さな台って何?」  そこには、上片が感じたあの謎の水晶がかつて置かれていた場所だ。  「あぁ、そこには水晶があったんですけどね。そういえばないですねぇ。」  「水晶?(ということは、水晶が力を出してるのかな?)」  真宵はその台に手で触れる。間違いなく、そこからは力の痕跡を感じた。  (その水晶。今はどこにあるんだろ?)  ただ1つだけ分かること。この診療所の敷地内には確実に存在しているということ。だが、正確な場所が分からない。  「ねぇ、宇沙樹ちゃん。今日言ってた屋根裏部屋に連れてってくれない?」  水晶の力が強すぎるせいか、真宵にはどこにその水晶が隠されているか見当がつかなかった。  同日 某時刻 ??????????  ない・・どこにもない。  「くそっ、どこにいってしまったんだ!?」  引出しの中にあったはずの、あの事件の資料だけなくなっている。  「あれが、あの“Q.E.D.”の資料だけがない・・。」  彼の焦る顔を、部屋の水晶だけがただ静かに見守っている。  「一体誰が?まさか、あのメンバーの誰かの記憶の封印が解けてしまって・・」  記憶の封印。18年前の出来事だ。                 さぁ・・この部屋の記憶を忘れるんだ。            うん。君は良い子だね。じゃあ、これをじっと見るんだ。                     じゃあ、目を開けて。  どのみち、資料がないということは・・犯人が分かってしまう。“Q.E.D.”の正体が・・  「やはり、あの子の記憶の封印が間違いだったのか?」  その質問に答える妻はもういない。  同日 某時刻 こころ診療所・屋根裏部屋  真宵と宇沙樹は小さな屋根裏部屋に来ていた。  「うっひゃー。確かに狭いねぇ。ここは。」  「そうでしょう。だから子供の頃が1番良かったんですよね。」  それにしても、今日の法廷ではここに犯人が隠れていたと主張したが、この部屋に証拠は残っているだろうか?  「はみちゃんが5人は入れるかな?」  いつしかどこかの金庫を見て真宵が言った台詞と全く同じだ。  「何も証拠は見当たらないなぁ。」  宇沙樹は周りを見回している。  「おーい、君たち。そろそろ捜査を再開したいんだ。もういいかい?」  「あ、はい。もういいです。すいませんでした。」  宇沙樹は鑑識の人にそう言われて、しぶしぶ屋根裏から降りる。 そう、今日の法廷で自分が申請したように、屋根裏の捜査が行われているのだ。  「真宵さん?そろそろ降りてください!」  いつまで経っても降りてこない真宵を心配した宇沙樹が、そう呼びかけた。  「あ、うん。わかった。今行くね。」  真宵は屋根裏から脚立を使っておりながら、ふと思った。  (力が強すぎる。けど、ここにくると何となく遠ざかってる気が・・)    同日 午後2時17分 吾童川支流手前50メートル地点  「あかり検事。ダメです!何も見つかりません!」  川を捜索していた捜索隊がそう叫んでいた。  「見つからなかったの?」  やっぱり、宇沙樹の言っていた事は間違いだったのよ。それがその証拠よ。  「ちょっと集まって。」  でも、油断は禁物。最後まで油断は出来ない。最後まで完璧で貫き通す。それが狩魔の教え。  「なんでしょうか!?検事!?」  拡声器で集められた捜索チーム。私はとりあえず吾童川の地図を取り出す。  「一応、川に落とされたのは弁護側の主張からバイクよ。車だったら大きさから目視できているはずだから。」  この川は深く速い。  「そしてバイクの捜索をしたけど見つからなかった。だから、ここでもう1度聞くわ。」  そしてこの中流域は最終ライン。  「もうこれ以上バイクが下流域に流されていることはないのね?」  「間違いありません!あかり検事!」  地図を見ながら捜索チームのリーダーは言う。  「吾童川の推進は確かに深く。流れも速いです。しかし、吾童川の水深は この支流手前50メートル付近で急激に浅くなっています。」  地図上の今いる現在地点に、何度も赤で塗りつぶした形跡がある。  「さらに、ここは岩など障害物が多いです。よって、バイクはここで増水をしていない限り必ず、塞き止められるはずです。」  そうだ。そしてこの最終ラインでなかったのだ。  「ちょっとまってね。」  無線機を取り出した私は、数10ヶ所に分けたそれぞれの捜索チームに確認を取る。  「そう・・わかったわ。」  結果はどこもここと同じ。何もなし。  「結果が出たわ。みんな、ご苦労だったわね。解散していいわ。」  つまり、これで終わったわけだ。  「ふふ・・ふふふふ。」  私は自然と笑いがこみ上げてきた。  「あかり検事!!診療所の鑑識から報告が入りました!!」  1人の刑事が報告にきた。ついに待っていた最後の報告が来たようだ。  「何て?」  「それがですね。屋根裏部屋に事件直後。捜査で侵入した上片弁護士と鹿山宇沙樹の痕跡を除いて、 それ以外の人物がいた痕跡は全く無しとの報告です!!」  「そう、ありがとうね。」  宇沙樹。やっぱり正しいのは私だったのよ。私はどこまでも、あなたが私を突き放そうとしてもついてくるわ。 そのしつこさは、あの男からちゃんと学んだのだから。  「でも・・」  ふと、1つだけ分からないことがある。宇沙樹が言ったあの言葉。                        ※     ※     ※    「あかり、あなたも知ってるはずよ。こころ診療所の屋根裏部屋は調べたの!?」                        ※     ※     ※     確かに私は、それまで屋根裏の存在を忘れていたわ。でも、それがどうも引っかかる。  「私の記憶が正しければ・・何かが違う。」  子供の頃。確かに秘密基地と言って遊んだ記憶がある。でもそこは・・                      さぁ、あなたはこれで・・  「!!!!!!!!?」                         ガキィィィィィン  う、どうして思い出せないの!?  ただ、私はこう思っただけなのに・・そこは、屋根裏とは違ったようなと。  同日 午後2時24分 吾童山・葉桜院前  「なるほどね。イトノコさんの使い方が上手い検事だね。あかり検事は。」  僕は上片君から今日の弁護内容を聞いていた。  「そうなんですか?」  「あぁ、いつもあの刑事は矛盾を出す。でも、極力重要箇所の部分は自らが言うことで、 あかり検事はボロが出るのを未然に防いでいる。」  どうも、あの検事は強敵のようだ。  「しかし、1つだけ裁判記録を見て気になることがあるんです。」  「何だい?」  上片君は自分の法廷記録から、ある写真を見せる。  「これは、こころ診療所の日安寺夫妻の部屋の、鍵保管引出しの写真です。」  そこにはただ1ヶ所を除いて鍵が揃っている。  「事件当時ですね。現場の倉庫の鍵は健次郎さんが持っていて、そのまま外出しているんです。 だから、犯行当時倉庫は、マスターキーで開けられたと考えているんですよ。」   「うんうん。それは間違いないだろうね。」  だったら、そこにあるはずの鍵の正体が何となく分かってきたな。僕にも。  「でも、マスターキーが引き出しに戻っていない。」  ここで、上片君は裁判記録を見ながら言った。  「そして、今日の審理でもマスターキーについて一切触れられていない。 それどころか、検察側すら話題に出していない上に、証拠としての提出もない。」  なるほど、確かにこれは気になる。  「つまり、検察側が隠しているなら話は別ですが、もしこれが見つかっていないとしたら、 何かの手がかりかもしれないと思うのですよ。」  鍵の行方か。確かにこれは気になるな。  同日 某時刻 こころ診療所・ベランダ  私たちは事件現場の倉庫へ行くため、1階のベランダに出た。  「ゲシュタルトォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!!!!!」  早速変な人が現れた。  「ロッキングチェアで泣いてる・・」  私はただ呆然とするのみ。  「我がいとしのゲシュタルトはまだ檻の中に!!」  なんだかナルシストっぽいな。  「あぁ、私のゲシュ・・」  「あ、こっち見ましたね。」  宇沙樹ちゃんが私たちを見た男性に、冷たい視線を送っている。  「おっと失礼。あなたは昨日、上片と言う弁護士と一緒にいた助手さんですね。」  そして、宇沙樹ちゃんを見ていた顔は私へと・・  「そしてあなたは・・初めて見る顔ですね。しかも変わった装束に髪型だ。 私が旅行に行ったドレスデンの村にもこんな民族はいなかった。」  ドレスデンってどこ?それ以前に私は日本人だけど。  「私は綾里真宵です。怪しいものじゃないんですよ。」  一応自己紹介で何とか日本人だということを説明しなくちゃね。  「綾里・・ほほう。それまた最近、この山で起きたある事件で有名になりましたね。その苗字。」  きっとゴドーさんが捕まった事件のことを言っているのかな?  「申し遅れました。私は小深幹司。作家をしてます。代表作は・・」  その言葉を聞いた宇沙樹ちゃんが何かを思い出す。  「小深・・・・・・あああっ!!コフカ兄ちゃん!?」  コフカ兄ちゃん!?どういう意味だろう?知り合い?  「ん?あなたは何故私のここでの・・・・ん?ちょっと待てよ。君、名前は?」  あれ?この人も心当たりがあるの?  「ほら、宇沙樹ですよ!宇沙樹!鹿山宇沙樹です!!」  「ああああああああっっ!!宇沙樹ちゃん!?」  この人相当驚いている。どういうことなのかな?  「ねぇねぇ。宇沙樹ちゃん・・この人知り合い?」  「あぁ、そうなんですよ。この人はですね。私が診療所にいたときに一緒に暮らしていた。1つ年上のコフカお兄さんなんです。」  1つ年上なんだ。意外とそうは見えないけどな。なんて思っていると、小深さんは相当懐かしそうな顔をしている。  「宇沙樹ちゃん。すっかり大きくなったなぁ。気づかなかったよ。何しろ君を最後に見たのは8歳の頃だからね。」  でもちょっと待って。この2人。年はいくつなんだろう?  「ねぇねぇ。宇沙樹ちゃんっていくつ?」  「え?今年で23ですけど。」  「ええええええええっっっっ!!!!!!!!!??」  上片さんは26って知ってたけど・・と、年上だったの!?私より3つも!?  「はは、だから私は24歳なんだね。」  つまり、24歳で作家と言うのは、小深さんが相当な売れっ子だということを意味している。  「いやぁ、僕も風呂井も、それに志賀姉さんも気がつかなかったな。昨日は居たというのに。」  「え!?じゃあ、あの時・・俊治兄さんにマヤ姉さんもいたの!?」  俊治兄さん?マヤ姉さん?さっぱり分からないよ。  「あのあの、その2人も知ってるんですか?」  「あぁ、勿論だとも。私と宇沙樹ちゃんがもっとも親しくしていた友達さ。いや、兄弟みたいな仲だった。」  兄弟・・じゃあ、年も同じくらいなのかな?  「2人と年は同じくらいで?」  「いえ、俊治兄さんとマヤ姉さんは私たちとはちょっと離れてるんです。 俊治兄さんは私がここを出た時16歳で、マヤ姉さんは17歳でした。いまだと丁度・・」  「今年で2人は風呂井のほうが31で、マヤ姉さんが32だ。」  「へぇ、確かに離れてますね。」  ざっと7か8は違うんだ。  「そういえば、昨日3人はどうしてここに?」  「あぁ、用事が会ったんだよ。宇沙樹ちゃん。私は今度発表する新作をおじさんとおばさんの2人にプレゼントしようかとね。」  そっか、この人作家だったんだよね。  「今度はコフカ兄ちゃん。どんな喜劇を書いたの?」  「き、喜劇!?失礼な!?これはミステリーだ。“可視的な運動”!燃え上がる恋で終わるんだぞ!」  力説しているけど、イマイチ燃え上がる恋とミステリーがあってないよね。  「へぇ、前の作品と同じ感じで面白そうだね。私もまた読もうかな。お兄ちゃんの。」  「そ、そうか・・う、嬉しいな。兄ちゃんは・・」  喜劇という解釈に納得してないみたいだけど、結構嬉しそうだ。コフカさん。  「それで、風呂井さんとマヤさんはどうしてここに?」  この2人も一応聞くべきかな?  「あぁ、君は確か・・」  「真宵です。」  「そうそう、真宵さんだったね。えーとねぇ・・確か風呂井は診療所のパソの修理に来たらしい。」  パソコン・・電気関係かな?イマイチピンと来ないんだよね。コンピューターだとバクダスしか。  「俊治兄さんはプログラムを作るのが上手でしたからね。」  うーん、私はプログラムだとあの、“くりーにんぐ・ぼんばー”しかイメージないんだよな。  「マヤ姉さんは確か、おばさんの腰が調子が悪いとかで、手伝いに来たらしい。忙しいはずなんだけどな。」  「あぁ、知ってる知ってる。裁判所で書記官してるんだもんね。今日会ったよ。裁判所で。」  書記官?何か引っかかる。何だろう?  「そうなのか?元気だったか?」  「うん。調子よさそうだったよ。ふらふらしてたけど。」  それは悪いじゃないかな?宇沙樹ちゃん?  「それにしても、どうして兄ちゃんだけここに?俊治兄さんにマヤ姉さんはいないのに。」  そう言われてみれば、それは宇沙樹ちゃんの言う通りかも。どうしてこの人いるんだろう?  「あぁ、実はね。ちょっとここに滞在する予定だったんだ。都会じゃ小説のイメージも湧いてこないからね。」  「気分転換ってやつですね。」  「そういうこと。真宵さん。」  小説家も大変なんだね。結構。でも、この人はそう見えないけどね。  「そういえば・・おじさんは?」  そういえば、殺気も宇沙樹ちゃん言ってたな。おじさんがいないって。  「あぁ、おじさんはちょっと前から町のホテルの子供たちのところさ。心配らしいんだって、だから私に留守番を任せたのさ。」  コフカさんは悲しそうな顔をしている。  「せっかく来たのに残念だ。出会うのはさっきから警官と鑑識ばかりだ。」  せっかくの気分転換も、たしかにこれじゃあんまりよね。  「そういえばコフカ兄ちゃん。あかりは来てない?」  「あかり・・あかりちゃんかい?」  あかり・・ひょっとして灯火検事のことかな?私は考えたけど、それしかないんだよね。あかりって名前。  「知らないなぁ・・あかりちゃんは。というか、宇沙樹ちゃんと別れたのが同じ8歳の頃だったから、憶えてないだけかな?」  確かにそうかもしれない。1度くらいは検事さんも現場へは足を運ぶはずだから。  「あかり・・来たはずなの。検事だから。」  「え・・まさか、あああああああああっっ!!」  コフカさん。何か重要なことを思い出したみたい。  「そういえば、クマちゃんを持ってた!あの女性検事!まさか、彼女が!?」  「そう、あかりなの・・」  コフカさん。意外そうだ。でも、ちょっと待って、この話だとあかり検事って、宇沙樹ちゃんと同い年?  「あ、それよりさ。今誰かいる?倉庫?」  宇沙樹ちゃんの突然のこの言葉に、私はつかれる。  「あぁ、そっちなら今警官が2、3人いる。捜査か?」  「うん。」  そっか、目的は倉庫だったよね。  「じゃあ、頑張れよ。」  私たち2人は倉庫へ向かった。  同日 午後2時48分 吾童山・診療所へ続く森  もうすぐ診療所だ。僕と上片君は森の中の道を進んでいた。  「こんなところに道があるなんて。」  「でも、結構な狭さの道でしょ?人間が、乗り物でも自転車かバイクが限界ですね。」  そんな会話を上片君としているときだった。噂をすればなんとやら、バイクが背後から・・  「うわっ!?白バイだ!?」  「何ですって!?」  僕のこの驚きの声が上片君にも伝わった。しかもこれ、直撃コースだぞ。  「山林に飛び込むしかないですね。」  「その考えに同意だよ。上片君!」  僕たちは森の茂みに飛び込んだ。すると、飛び込んだところでバイクが丁度やってきて・・止まった?  「あら?上片弁護士じゃない?」  「え・・なっ!?あかり検事!?」  上片君は驚きの声を上げる。まさか、この人があかり検事?  「耳は大丈夫?」  「えぇ、何とか。おかげさまで。」  やや不機嫌そうな上片君。  「そう、この子も喜んでるわ。」  この子。そう聞いて僕たちはあかり検事の背中を見る。リュックがあった。そして無論、そこから顔を出していたのは。  「クマちゃん2号!?」  上片君は何故か茂みに隠れる。こころなしかクマちゃん2号。顔が怖い。  「ふふ。怖がらないでよ。そうそう、あなたにいい事を教えてあげなきゃ。」  その顔はとても、いやな笑いだ。僕にとって狩魔豪そのものだったのだから。  「実はね。さっき興味深い調査結果が出たわ、今日の法廷を受けてね。」  その言葉でピンと来たのは上片君だ。  「まさか・・吾童川と屋根裏部屋の捜査結果ですか!?」  なるほど。確かにそれは上片君たちにとっては重要だ。何せ、部外犯説の裏づけを取るためのもので、今回のポイントなのだから。  「よく分かってるじゃない。」  「それで、結果はどうなんだ!?」  結果。彼女はさっきこう言った。いいことを教えると。そしてその笑い。答えはきっと良いものではない。  「あのね。屋根裏部屋を調べたらしいの。鑑識が。でもね。そこには人の痕跡がなかったって。 あなたたちが昨日入った痕跡以外はね。」  「な・・そんな!?」  さらに話は続いた。  「そして、吾童川。率直に言うわ。何もなかった。」  なにもない。それが上片君に大きな衝撃を与えた、そりゃそうだ。これは部外犯説の可能性を示す最後の可能性だったのだから。  「もうお分かりね。あの子は頑張ってくれた。でもやっぱり、部外犯はいなかったのよ!!犯人は被告人しかあり得ない!!」  「そんな!!」  ということは、状況はここでまた逆転されたわけだ。最悪な展開へと。  「じゃあ、私はこれで失礼するわ。診療所の警官に白バイを返さなくちゃならないから。じゃあね。」  そう言うとあかり検事は、白バイを走らせて診療所へと行ってしまった。  「そんな・・バカな。屋根裏には誰もいない。バイクは吾童川には捨てられてない。だったら部外犯は・・!!」  その時だった。僕たちのさらに後ろの茂みから音がした。    ガサガサ・・  『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?????????』  僕たちは驚いてすぐさま振り向く。そこには。  「な・・真宵ちゃん!?」  「宇沙樹ちゃんまで!?」  一体?どういうことだ!?  「あ、上片さん。それに成歩堂さんまで。」  宇沙樹ちゃんも呆然。対する真宵は、ポカーンとしている。  どうやら、よく見てみると2人の後ろには大きな穴が見える。洞窟のような。  「ちょっと話を聞いたほうが良いみたいだね。2人から。」    それが、すべての謎を一気に紐解く答えだった。  同日 午後2時20分 こころ診療所・診察室  「倉庫は何もなかったですね。」  「そうだね。やっぱり警察が調べ尽くした後だったんだ。」  倉庫の壁には血文字があるということだったけど。それはビニールシートで隠されていた。 そして私たちはというと、診察室のベットで倒れていた。  「他に手がかりはないかなぁ・・?」  宇沙樹ちゃんは考え込んでいる。  「そういえば、この診察室にあるもう1つのあの扉は何だろう?」  私は、ふと診察室の中にある扉に目がいった。よく見ると、気配も怪しい。  「薬の保管庫ですね。」  「へぇ、ちょっと調べてみようよ。」  私は保管庫のドアを開けよとして立ち上がる。  「あれ?」  そして気づいた。鍵がかかってる。  「宇沙樹ちゃん。ここの鍵は?」  「あぁ、それならおじさんたちの部屋にありますよ。」  だったら話は早いかな。それがあれば開くんだし。  「ちょっとさ。ここの鍵とって来てくれない?」  「いいです・・よ?」  え?何か今、おかしくなかった?  「い、いや・・だめです。そこは・・開けちゃ・・」  「!?」  周りの空気が冷たくなった。そして、力が強かったのか。私にも一瞬だけ見えた。    !!!!!!!!!!!!!??????????  (か、からくり錠!?)  宇沙樹に見えたあるもの。それはまさしく、問題のあれだった。  (からくり錠が・・・・)  「だめ・・そ・・ソコハダメナノ・・」  (5つ!?いや・・増える・・どんどん増える!)  その瞬間。この診察室内に妙な歪みを感じた。  (ダメ・・この部屋にある。宇沙樹ちゃんの心を直接支配する力が!!そしてこのままじゃ、取り込まれちゃう!!)  私はすぐさま首にかけていた勾玉と真珠のような丸いものが連なっているネックレスみたいな (私も名前知らないんだよね)をはずして、宇沙樹ちゃんにそれを無理やりつけた。  「ア・・アアアアア・・・」  勾玉が異常なほど光を放っている。これはおかしい。どこからこの力は来るのか?  「!?(あの中・・)」  間違いない。保管庫だ!!  「宇沙樹ちゃん!それをつけたまま待っててね!すぐに戻るから!!」  私は急いで2階から保管庫の鍵を取って戻ってきた。  「この中・・間違いない!」  鍵をゆっくりと鍵穴に差し込む。    ガチャリ・・  そして、中に絶対にある。宇沙樹ちゃんの心を封じ込めようとしている何かが!!  中は窓1つない暗い部屋のはず。でも、何故か風があり、どこかが光っている。  (・・・・・・・・・・・・・・後ろ!!!!!!!!!)  急いで振り向いた。そこは、診察室と保管庫を結ぶあの扉。そこには、保管庫側のほうに、異様な光を放っている1枚の・・  (お札!?)  私はすぐさまそれを剥がそうとする。けど。  「は・・剥がれない!!」  粘着力という問題じゃない。霊力か何かが剥がれないようにしている。  (何で・・あれ?でもこれって、私、屋敷で見たことがあるよ。)  真宵は幼い頃。これを屋敷で見たことを思い出す。  (まさか・・ここで感じる霊力ってみんな。倉院流霊媒道の霊力!?だったら、私が呪文を唱えれば・・)  私はそのお札に手をかざし、小さな声で唱える。  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」  その瞬間だった。光は消えた。そして、  「あ・・取れた。」   強く張り付いていたお札は、ひらりと落ちた。間違いない。このお札が宇沙樹ちゃんの心に何かを与えていたのは。  「あれ・・水晶の力が強く感じる。」  そして同時に気づいた。水晶の力が1番強いことに。  「ま、真宵さん?」  とここで、宇沙樹ちゃんが中をのぞいてきた。  「だ、大丈夫?宇沙樹ちゃん!?」  私は心配した。でも、首につけたアレがよかったのかな?無事だったみたい。  「えぇ、大丈夫です。あれ・・この部屋・・どこかで・・・・何だろう・・この感じ。」  「?」  でも、その時また見えた。  (!!!!!!!!!!!!!?か、からくり錠!?)  しかも、今度はなかなか消えない。力が強い証拠だ。  「お・・思い出せない。ここは・・どこかでみた・・ひ、ひみ・・いやああっ!!」  いけない。私は宇沙樹ちゃんの傍に寄った。  「大丈夫!大丈夫だから!だから、冷静になって思い出して!」   私はその体で宇沙樹ちゃんを覆うようにする。これ以上力が触れられないように。  「あ・・・・ひ、秘密基地」  「秘密基地!?(あれ、それって話だと屋根裏部屋じゃ・・)」  その時だった。私はこれはからくり錠じゃないことに気づいた。  (これって、なるほど君の言ってた。サイコ・ロックに似てる?)  サイコ・ロック。記憶を閉ざす錠だ。まさか、それが見えるということは、そして、さっきのお札が錠を増やしたということは・・  (記憶が、封印されてる!?)  そして、さっきの言動からして、隠されている記憶はきっと。  (この部屋の記憶、いや、もっと正確に言えば、水晶のある部屋の記憶をサイコ・ロックが閉ざしてる! そして、そこに近づき思い出そうとするものの記憶を、さらに封じ込める!!)  なら、ここにはあるはずだ。水晶のある部屋へ繋がるヒントが!!  「宇沙樹ちゃん。私の手を離さないでね。」  私は宇沙樹ちゃんの手を掴むと、そのままゆっくり保管庫の奥へ進む。そこにはきっと、なにかがある。  「しょ・・ショウメンニ・・・・トビラ・・・」  「え?」  「ひ・・ヒミツキチ・・・・・・イリグチ・・・」  でも目の前にある突き当りには壁しか・・え!?  (何かある!!)  私はその壁を探る。そして、ある場所を押した瞬間。    ガチャ・・  「か、隠し扉!?」  その先には間違いなく、隠された部屋へと通じる地下への階段があった。私たちはゆっくりと階段を下りていく。 確実に1歩1歩。そして、ある部屋にたどり着いた。  「電気は・・あ、あった。これだ!!」    カチッ・・  部屋の明かりが点く。そこには・・  「こ、これは何!?」  その時、何かが割れる音がした。    パリーーーーン!!!!!!!!!!  私に見えていた宇沙樹ちゃんの5つの錠のうち、2つが砕けた。そらに・・  「あ・・ここ・・ここは!!」  どうやら、この部屋の記憶を何者かに封じ込められていたみたい。そして極めつけが・・  「ここが、ここが秘密基地!!」  「えぇっ!!!!!?」  話が見えてきた気がする。どうやら秘密基地の記憶が、屋根裏部屋にすりかえられていたらしい。 そして、そこにはその元凶のあれがあった。  「やっぱりあった。水晶!!」  でも、それ以前にこの部屋はおかしい。大きな本棚らしきものが1つ。あとは天井に照明が1つ。 それでも少し暗い。椅子が2つあって、その間には小さなテーブルが1つ。テーブルの真ん中には問題の水晶が。  「一体何の部屋だろう。」  私が部屋を物色している間。宇沙樹ちゃんは何かを思い出そうとしていた。  「秘密基地・・でも、秘密基地は屋根裏のはずじゃ・・」  全ての記憶が、いや・・きっかけだった。                          「さぁ、あとはその・・・・。」              思い出せない・・でも、もうちょっとで思い出せそうなの!!  「あれ?これなんだろう?」  私は本棚のファイルを見た。  「これは・・・・催眠術?」                             催眠術!?  ファイルの1つにそう書かれていた。催眠術のデータと・・。  「これ、みんな診療所の子供たちにしたの?」  私は愕然とした。ということは、まさかここって。                   催眠術・・・・秘密基地・・・・・部屋!!!!                      「さぁ、あとはその・・・・・・・」  「あ・・あぁっ・・・」  「ど、どうしたの?宇沙樹ちゃん!?」           「部屋での思い出を忘れるの・・あなたたちの秘密基地は、ここじゃないの。」                        す、水晶が光って・・そして!!          「あなたたちがずっと遊んできた秘密基地は、屋根裏部屋だったのよ。」                         「屋根裏部屋?」                       「そう、屋根裏部屋よ。」  「あ・・・・私、私・・消されてた。秘密基地は、ここだった!!」  宇沙樹の頭で1つの、作られた虚偽の記憶が崩れた。  「ここよ!!ここだったの!!私・・おばさんに・・・・・・・え?おばさん?」  「おばさんって?」  同時に、この偽の記憶を埋め込んだ人間の正体にも宇沙樹は気づく。  「こころ・・・・さんが!?」  だが、ここで私たちは1つのピンチに陥った。  「おい!誰かいるのか!?」  「!?」  私は階段の上から男性の声がするのを聞いた。  「おじさんだ!!」  宇沙樹ちゃんはその声の正体をいち早く気づく。いけない。 この部屋の記憶を封じたのがあの2人だったのなら、気づいた私たちは危険なことになるかもしれない。  「宇沙樹ちゃん!!どこか隠れるところは!!」  「え、でも・・ここは完全に1つの部屋で、隠れるところなんて・・・・・?」         「宇沙樹。この部屋にはね。誰か来ても大丈夫なように脱出口があるのよ。」                            「脱出口?」              「そう、ほら、この本棚の後ろにね。隠し扉があるんだよ。」                   「わぁ、本当だ。これどこに繋がってるの?」           「ふふ、気になる。実はね。あの“ぼーくーごう”の奥に繋がってるのよ。」                 「ほんとに?知らなかった。あかりは知ってるの?」                          「それはね・・・・」                            あかり!?  「真宵さん!!本棚の後ろです!!」  そう言うと宇沙樹は、本棚を動かした。  「え、え!?どういうこと!?」  「ここです。ほら、扉!!」  私は本棚の後ろに隠された1つのボロボロの鉄製の扉に思わず驚いた。  「でも、鍵がかかってるんじゃ・・!!」  そして同時に、ドアノブの鍵穴を見て思った。  「あっ!!そうか・・どうしよう・・って、あれ?鍵が・・」  「?」  私もそう言われて気づいた。よく見ると、扉が若干開いている。  「まさか、開いてる?」  それに気づくや否や、私たちは一緒に扉から洞窟へと出た。そしてひたすら走った。そして・・  数分後・・  「な・・真宵ちゃん!?」  「宇沙樹ちゃんまで!?」  「あ、上片さん。それに成歩堂さんまで。」  これがきっかけだった。      同日 午後2時59分 こころ診療所・地下隠し部屋  ギィィィィィィィィィ・・・・  鉄の重い音がして、扉は開く。真宵ちゃんと宇沙樹ちゃんたちが走ってきた防空壕のルートを逆向きに進み、僕たちはここへ辿り着く。  「これは・・何というか殺風景な部屋だなぁ。」  僕の第1印象がそれだ。  「そしてまた、薄暗い。」  上片君はこの部屋のきれそうな照明を見ながら言う。照明も虫の息か。  「私、きっとこの部屋で、おばさんとおじさんに、何かを言われたんです。」  宇沙樹は思い出したこの部屋の記憶を語る。  「ここは、多分私の知っている本当の秘密基地。でも、ある日突然、秘密基地の記憶が屋根裏部屋にすりかわったんです。」  上片君はそれを聞いて考え込んだ。  「つまり、ある日突然、宇沙樹ちゃんたちは遊び場だったここの記憶の消されてしまったわけか。何でだ?」  「きっと、日安寺夫妻にとって子供たちから、早急にこの部屋の記憶を消さないといけないある問題が起きたんだ。」  そして、それが恐らく事件に関係している。  「そういえば、真宵ちゃんの催眠術で宇沙樹ちゃんは気づいたんだよね?」  「うん。そうだけど・・」  真宵ちゃんはどうして、急に催眠術なんて言葉を・・  「あのね。この本棚にあったんだ。催眠術って書かれたファイルが。」  「何だって!?」  僕と上片君はすぐさま本棚のファイルを調べた。  「本当だ。みんなこの診療所関係者のファイルだ。」  上片君も呆然としている。  「ということは、この診療所の治療は、催眠療法だったんだ・・!!」  催眠療法。それがすべての引き金だったとしたら、そして・・  「これは診療所の子供たちの入所年月日でまとめられているな。」  Q.E.D.が今回も再び現場に出現した。ということは、きっと・・  「ねぇ宇沙樹ちゃん?宇沙樹ちゃんがここに入所した年はいつだい?」  「え?私が5歳の時だったから・・」  宇沙樹ちゃんは確か今年で23。つまり18年前。今年が2019年ならば。  「2001年ですね。」  やはり!あの事件があった年だ!!  「あの事件は2001年6月に発生し12月に終わった。つまり、入所者であの事件の関係者は2001年に入所したはず・・」  上片君は2001年のファイルを取り出そうとした。でも・・  「!!!!?」  上片君の顔は信じられないほど驚いている。  「何でだ・・どうしてないんだ!?」  ない?まさか・・僕も慌てて本棚を除く。  「本当だ・・2001年のファイルが丸ごとなくなっている!」  どういうことだ?何者かの手で盗まれたのか?でも、そんなことを考える余裕は一瞬で消えてしまった。  「やはり、戻ってきたか。しかも弁護士さんまでご一緒か。」  僕と上片君、それに真宵ちゃんと宇沙樹ちゃんは一斉に背後の階段に目をやる。  「おじさん!!」  宇沙樹ちゃんは何故か震えだした。  「思い出してしまったとはね。君が・・」  妙な空気が流れる。そして何か嫌な予感もした。  「そして思い出したよ。そこのお嬢さんは倉院流霊媒道の家元さんだったな。 どうりでこの部屋の正体に気づいたわけだ。そしてまた、あのお札も。」  「じゃあやっぱり、ここの力は倉院流霊媒道の力だったのね。」  真宵ちゃんは何があったのかは知らないが、それで納得をしている。  「しかしまぁ、そんなことはどうでもいいんだ。それより、この部屋の記憶をもう1度封じなきゃならん。 君たち3人も一緒にな。」  『!!!!!!!!!!!!!!!!!???』  健次郎さんはテーブルにあった水晶を手に取る。水晶が徐々に不思議な光を放ちだす。  「みんな、あれを見たらダメ!!」   真宵ちゃんが僕たちに大慌てで指示する。  「あの光を見たら、記憶が消されちゃう!!」  けれど、そう言った真宵ちゃんにはある1つの謎があった。  (あの水晶もきっと、倉院流霊媒道のものに違いない。でも、何であの人が使えるの!?男性なのに!?)  そうだ、倉院の力は女性のみだ。それがどうして、健次郎さんに使えるというのだろうか!?  「心配は要らない。最大の力を使ってやろう。そうすれば、光を見なくとも浴びるだけで記憶は消える。」  (な、何ですって!?どうしてこの人は・・そんなに力が強いの!?)  水晶の放つ力が最大になる。その瞬間・・  (くる!!どうしよう!!何かみんなを守る手は・・ああっ!!)  真宵ちゃんは懐から1枚のお札を取り出した。  (あの時保管庫にあったお札。これさえあれば・・!!)  光が僕たちを襲った。その刹那。  「えいっ!!!!!」  真宵ちゃんの出したお札が僕たちの回りに結界のような物を張った。そして、その結界を境に光がどんどん打ち消されていく。 そして、逆にその結界からでる力が、少しずつ水晶にダメージを与えていく。  「ぐっ・・水晶が!!」                          ピシィッ・・ピキピキ・・  「くそっ!!」  健次郎さんは水晶を力の放出を突如止めた。よく見ると、水晶にヒビが入っている。  「どうよ、家元の力は!」  真宵ちゃんはしてやったりの顔。さすがに、これだけは強い真宵ちゃん。そして上片君と宇沙樹ちゃんの2人は、 この異様な光景にただ目を丸くしている。  「う・・こうなったら、なんとしてもこれだけは隠さなきゃならんのだ・・こころさんのためにも!」  こころさんのため!?もうさっぱり分からない。でも、確実に言えることがあった。18年前に何かがここでおきたのだ。  「記憶が消せないなら、死なすしかない・・」  「え?」  健次郎さんはゆっくりと、階段のほうに隠していた猟銃を手に取った。  「死体は吾堂川に捨てれば戻らない。」  さっきよりも、状況は確実にヤバイ。   「これなら家元も防げまい。霊力は関係ないのだからな。」  銃口が向けられる。  「だが、ここで撃ったら警官達に銃声が聞こえてこの部屋の存在がばれるはずだ!!」  上片君はとっさにそう叫んだ。それなら彼は撃てない。そう考えたのだろう。  「ふっ、甘いな。ここはな。戦時中作られた防空壕の一部だ。その頑丈なつくりから。この地下の音は外部に漏れない。」  「何ですって!?」  となれば、もう結論は1つしかない。宇沙樹ちゃんがゆっくりとあのドアを開く。 僕たちは銃口から目を離さずにゆっくりと後ずさりして・・  「今だ!!急げ!!」                            バァン!!!!                        ガキィィィンン!!!!!    銃は鉄製の扉にあたり物凄い音を出す。  「宇沙樹ちゃん!急いでこの扉の鍵を閉めて逃げるんだ!!」  「でも上片さん!!鍵がないんですよ!!」  「何だって!?それじゃあ・・」                         ドンドンドン!!  「開けられたらダメじゃないか!!」  もうパニックだ。そんな中、真宵ちゃんは1人、何かを考える。  「なるほど君!ボールペン貸して!!」  「え!?な、なんで・・」  「いいから早く!!」  僕はわけもわからずボールペンを手渡す。真宵ちゃんは先ほどのお札の文字をボールペンで塗りつぶしている。  「えっと、確かこれとこれ・・あと、この文字を消して・・ええっと、どんな字だったっけ?」  真宵ちゃんは必死になりながらお札の字を書き換える。そして・・  「よしっ!これでOK!!えいっ!!」                           バシッ!!!!  鉄製の扉に張られたそのお札。同時に僕の目には・・あるものが見えた。  「これは・・サイコ・ロック!?」  真宵ちゃんはお札を貼り付けるとすぐにみんなに言う。  「急いであとはここから逃げなきゃ!!」  その言葉に僕たちは同意した。  「はぁはぁ・・でも、これで完全に診療所に戻れなくなっちゃいましたね。」  上片君は必死に走りながら僕に言った。   「確かに。これで戻ったら今度こそ保証がない。命か記憶の。」  でも、上片君は満足そうな顔をしている。  「でも、遂に見つけた。屋根裏でもない、吾童川でもない真犯人とバイクの隠れ場所が。」  そして、恐らくこれは最大のポイントだ。  「何故あの部屋の記憶が子供たちから消されたのか?そして、何故2001年の資料が消えたのか? きっと、なくなった資料は犯人が持ち去ったんだ!」  「健次郎さんの可能性は?」  でも、上片君は自信たっぷりだ。  「それはないです。あの人はあそこに置くことが最大の安全だと考えていた。 それが消えた。ポイントは、何故彼があそこを安全と考えたかです。」  防空壕からでた僕たちは、とりあえず立ち止まる。  「それは、私のように部屋の存在が記憶から抹消されていたからですか?」  宇沙樹ちゃんはさすがに気づいているようだ。  「その通りさ。つまり、あの部屋が見つかる可能性はほぼ1つさ。記憶を消していた人間の、記憶が戻った場合さ。」  ということは、あの資料を持ち去った人間は、日安寺夫妻が催眠術を施した人間。  「宇沙樹ちゃんが来た時にはすでになかったはずだ。だったら、それ以前に記憶が何らかの形で戻った人間がいたんだ。 診療所出身者の中に。」  そして、2001年の資料が消えた事実が物語るのは1つ。  「恐らく記憶が戻った人間は、2001年の診療所入所者。そして、2001年はあの事件があった。 今回の事件も全くそれと同じだ。」  現場に残された“Q.E.D.”の血文字がその共通点だ。  「きっと、犯人は18年前と同じ人物、もしくは関係者。だから、あの2001年の資料には何かがあったんだ。」  「っていうことは・・」  宇沙樹ちゃんも真宵ちゃんも呆然としている。それはつまり。  「資料を盗んだ犯人とこころさんを殺害した犯人は同一人物だ。そして、2001年の資料。 きっと日安寺夫妻が犯人の催眠術で操作した記憶がこの事件の引き金だったんだ。」  とここで、いったんどうするか考える。  「もう、ここは1度事務所に戻るしかないな。」  しかし、どうも腑に落ちない。  「犯人の隠れ場所は分かった。問題は犯人だ。2001年の診療所入所者。あの事件の関係者であることは間違いない。」  診療所には戻れない。となれば、今手元にあるDL5号事件の資料から犯人を特定するしかない。   「成歩堂さん。お願いがあるのですが・・」  「何だい?」  上片君は資料を見せる。  「この事件の被害者の子供たちで、こころ診療所出身者を探してくれませんか?人数で言うと14人。7人ずつで互いに。」  「分かったよ。何とか調べてみよう。よし、じゃあ真宵ちゃん。行こうか。」  でも、真宵ちゃんは何か考え込んでいる。  「あのさぁ、なるほど君。私、1度倉院の里に戻って調べたいことがあるの。」  「え?」  「日安寺さんについて、何か引っかかるの。男性なのに倉院流霊媒道の力が使えるのは変だし。」   確かに、この事件には日安寺夫妻が催眠術はともかく、霊能力が使えることにも問題がある。  「分かった。でも、無理はしないようにね。」  「うん。ありがとう。」  さて、そうなれば行動開始だ。  「あ、あと成歩堂さん。診療所出身者がいたら、事件前日の5月31日の深夜から、 6月1日の午前までのアリバイも確認してください。」  「わかった。」  犯人の正体に近づける。最後の可能性だった。  同日 午後7時33分 上片法律事務所  「私たちの中にはいませんでしたね。該当者。」  宇沙樹ちゃんはクタクタな様子だ。でも、僕にはもう1つの謎があった。  (マスターキー。あれが依然不明なんだよな。)    プルルルルルルルル・・  電話がなった。  「はい、もしもし。上片法律事務所ですが。」  『上片君?そっちはどうだった?』  「な、成歩堂さんですか!?こっちは全然ダメでした。」  それに対し、向こうは収穫があったようだ。でも、聞いたら聞いたで少し僕は戸惑うことになる。  『こっちは該当者4人だ。』  「4人ですか・・」  結構多いらしい。  『今から言うから、資料の子供の部分に印を頼むよ。』  「分かりました。」  僕はペンを持った。成歩堂さんはゆっくりと言う。  『風呂井俊治。小深幹司。志賀真矢。灯火あかり。その4人が、あの事件の被害者の子供であり、診療所出身。 かつその時間帯にアリバイがなかった人間だ。』  「え・・」  僕はペンを落とした。ちょっと待てよ。ということは・・  「犯人はその4人のうちの・・1人?」  意外な結果だ。そしてこのメンバーのうち。バイクに乗ってきた人間がいるならば、もう絞られる。  (そして、僕の考えが正しければ・・このメンバーは関係者だから、血文字を残した可能性は否定できない。 当時見たのだから。でも、何故残したのだろうか・・いや、ちょっと待てよ。)  僕は事件当時の4人の年齢を見る。僕が今考えた、ある事実が正しければ。とんでもないことだけど・・これはまさか。  「成歩堂さん。4人の家庭状況。生い立ちを調べれくれませんか?」  『え?生い立ち?』  「えぇ、そうです。僕の考えが正しければ、彼らのうち1人は、事件が発生する以前から、あるものを知っていた可能性がある。」  あるもの。当然あれしかない。  同日 午後6時26分 倉院の里  大おばさまは若い頃にいた。ある霊媒師の話をしてくれた。  その人の名は“綾里こころ”。分家にあたる人らしい。彼女はある能力を持っていて、 それを使ったが為に里から追放されたということだった。  その能力とは、時にして本家をも凌ぐ禁断の力。“他人に霊能力を持たせる”という異常な能力だった。  そして彼女は、ある男性にそれを使用したらしい。日安寺という男に。  その後、彼女がどうなったかは誰も知らない。でも、まさかこう言うことだったなんて。  同日 午後9時50分 上片法律事務所  プルルルルルルルル・・  「はいもしもし。上片法律事務所。」  『上片君?調べたよ。例の生い立ち。』  成歩堂さんはそう言うと、ゆっくりと語りだした。  「・・・・・・ちょっと待ってください!!今のは一体?」  『え?だからそれはね・・』  そして僕は、ある言葉に引っかかった。この言葉とあれ。どこかで聞いたような・・  (あの時の風呂井さんだ!!!!!)  「成歩堂さん!!彼は一体何を・・・・」  『えっ!?ちょっと待って・・それは僕じゃなくて狩魔検事に頼んだんだ。』  成歩堂さんは電話の向こう側で誰か女性と話している。すると・・  『ビシィィィィ!!!!!!』  「うわっ!!!!!」  電話越しにムチの音が響いた。と同時に。  『あなたが上片正義ね。』  「え?え?は、はい!そうですが・・」  誰なんだ?この女性?  『私の名前は狩魔冥。天才検事よ。1度しか言わないからよく聞くのね。』  「は・・?あ、あぁ・・は、はい!!」  あまりのことに支離滅裂だ。でも、次の言葉で僕は確信した。  『彼は数学者だったの。しかも妻も。そしてね。子供はいつも蚊帳の外状態だったらしいわ。』  やっぱり。そうだったか。  「狩魔検事さん。1つお尋ねして良いですか?」  『何?』  ポイントは1つ。  「“Q.E.D.”の文字。彼らは使ってましたか?」  『えぇ、使っていたわ。彼らの論文を見たけど。使われていたわ。そして、あの夫婦、 殺害される前もある数式を1年前から解く作業にかかっていたらしいの。』  「そうですか。」  全てが揃った。法廷に引きずり出すべき人間の正体も。そして、これが語る答えは1つ。                 “Q.E.D.”はあの4人の中にいたんだ。  そして僕は、その人物の両親が殺害された状況の資料をFAXでもらった。 “Q.E.D.”があの中にいたなら、そいつは自分の親を自分の手で殺害したことにもなるからだ。  僕はその資料を見ながら思った。この事件。明日自らの手で証明しなければならないと。  事件発生日・2001年7月9日(時効成立)  被害者・志賀八束/麻由美。       八束は心臓を一突きで即死。妻の麻由美は腹部を刺され失血多量死。       当時14歳だった娘の真矢は気絶していたが無事だった。  事件現場・自宅の夫婦の書斎。作りかけの数学の論文が散乱していた。        壁には被害者の血で“Q.E.D.”とあった。  凶器・この家にあった果物ナイフで刺されおり、指紋はなし。    14歳。彼女は小悪魔・・とはいえないレベルだな。  これを美柳ちなみが知ったらどう思うだろうか?  つづく

あとがき

序章にしては長すぎたなと思った今日この頃。 犯人の正体が分かり、次回は遂に最後の法廷です。 さて、今回は真宵ちゃんが凄いなぁ。と思ったり。大活躍でした。 そして問題の記憶。まだほとんど分かってないな。(苦笑) まぁ、人為的に仕組まれた記憶はこれがすべてと言ったところか。 ちなみに、今回はあんまりトリックは重視してないのです。見たところ屋根裏とかそういうのに頼ってますしね。 記憶関係をテーマにしているだけに、心理描写に苦労させられます。同時にオカルト的ムードも今回は。 そんなわけで、今日は最後に法廷編の手がかりを2つ。マスターキーと自己防衛とそうでない記憶の交わり。 これを自分が描けるかもポイントだなぁ。と思いつつ失礼します。

小説投稿道場アーガイブスTOPへ第6話を読む