初恋、そして逆転(後編)
2月24日 地方裁判所・被告人第3控え室
「正義さん、おはようございます!」
「真宵さん。おはようございます。」
「今日はよろしくお願いします。がんばってください。」
「はい。必ず無罪判決を勝ち取ります。」
正義さんは結構落ち着いている。あたしも、だいぶ落ち着いている。
なぜかというと、被告席にたって犯人扱いされるのは初めてではなくて、
もう慣れてきちゃってるから。こんな状況でも、被告だからといって
ハラハラしているわけでもない。
でも、今日の法廷は過去に起こった辛い思い出が話になると思うから、
そこら辺はもう覚悟を決めている。
今日はなるほど君じゃなくて正義さんが弁護してくれるから
どういう法廷になるかは分からないけど、多分大丈夫。
「弁護人!そろそろ開廷時間です!」
「真宵さん。行きましょう。」
「・・・はい。」
同日 地方裁判所・第3法廷
カン!
「これより、綾里真宵の法廷を開始いたします。」
「弁護側、準備完了しています。」
「検察側、もとより。」
「では、御剣検事。冒頭弁論を。」
「事件が起こったのは成歩堂法律事務所。被害者・成歩堂龍一はまず鈍器で頭部を殴られ、そして
青酸カリを飲まされた。今回の被告人の罪名は(殺人未遂)と問われている。
被告人の罪を証拠品・・・そして証言で立証してご覧に入れよう。」
「分かりました。では、最初の証人を呼んでください。」
「おなじみのイトノコギリ刑事を入廷させていただこう。」
「証人。名前と職業を。」
「はっ!名前は、糸鋸 圭介。職業は、所轄署の刑事ッス。」
「では証人。まず、事件の流れを証言してもらおう。」
「了解ッス!」
〜証言開始〜
「事件は12月23日に起こったッス。被害者は被告に鈍器で頭部を殴られたッスが、
まだ生きていたッス。被告は毒薬を飲ませてトドメをさしたッス。
現場から見つからなかったものはいっさいなかったッス。
しかも、被告人の犯行を裏付ける決定的な証拠もあるッス。
その上目撃者もいるッス。これで決定的ッス!」
「ふむう・・。では、弁護人。尋問を。」
「はい。」
〜尋問開始〜
『事件は12月23日に起こったッス。被害者は被告に鈍器で頭部を殴られたッスが、
まだ生きていたッス。被告は毒薬を飲ませてトドメをさしたッス。』
『待った!』
「被害者は鈍器でなぐられた後青酸カリを飲まされたんですか?」
「そッス!あ、一応、医師の診断記録を提出しておくッス!」
「受理しましょう。」
被害者の診断記録が提出された。
記録には(被害者は頭部を鈍器で1回殴られ、その後で青酸カリを飲まされた。)と書いてある。
「では証人。続けたまえ。」
『現場から見つからなかったものはいっさいなかったッス。』
今日のイトノコ刑事、矛盾点なかなかないな・・・。
『異議あり!』
え? もうムジュン見つけちゃったの? す・・・すごい!
「証人。あなた達は今、凶器を探しているんですよね?」
「そッス。凶器がなぜか現場から見つかんなくて・・・」
「じゃあ、凶器は現場から見つらなかった。じゃあ、現場から・・・消えた。」
「そういうことになるッスね。」
「でも、あなたは確かにこう言った。『現場から見つからなかったものはいっさいなかった』と!」
「う、うんぎゃあああッス!」
「実はあるんですよ。凶器。あなた達が帰った後、もう一度調べたらあったんですよ。」
「な、なんスとおおお!一体、どこにッスか!」
「とりあえず部屋にありましたよ。凶器を提出します。」
凶器は・・・と、トノサマンの人形!それあたしの!返して!レア物なんだよっ!
がんばって手に入れたんだから!もう!
「ほう・・・。随分と硬くて重いですな。」
「では証人。続けていただこう。」
『しかも、被告人の犯行を裏付ける決定的な証拠もあるッス。』
『待った!』
「その証拠とはなんですか?」
「ふっふっふ・・・我々をなめちゃダメッスよ!これッス。」
「そ・・それは、血文字ですか!」
「いかがだろうか。被害者は被告を告発したのだ!血文字という方法で!これで被告の犯行は決定的だ。」
「ふむう・・・。では続けてください、証人。」
『その上目撃者もいるッス。これで決定的ッス!』
「・・・そこまでで、結構だ。イトノコギリ刑事。」
「え。自分はもうおわりッスか?」
「次はその目撃者に証言をしてもらいたい。」
「そうですか。では、次の証人を呼んでください。」
「事件を目撃した松竹梅世を入廷させていただきたい!」
真犯人は松竹梅世。それは分かってる。
正義さんだって御剣検事だって知ってる。
松竹梅世に真っ向からぶつかっていこう。
真犯人のワナにはまるのもぶつかっていくのも・・・
松竹梅世・・・勝負だ!
「では証人。名前と職業を。」
「はぁい。わたしはぁ、松竹梅世でぇす。よ・ろ・し・く♪職業はまぁ、社長秘書ぉ?」
「・・・ではまず、目撃したことを証言してもらおう。」
「はぁい。りょ・う・か・い♪」
あの人またどっかの社長秘書やってるんだ・・・
これからの証言は嘘。それを見破る。
ムジュンを叩きつける!
〜証言開始〜
「わたしはぁ、事件を向かいのバンドー・ホテルでみてたのぉ。
被告席の女の子はまず、被害者に毒を飲まさせたのぉ。
その毒薬のビンも、わたし見たんだからぁ!
そして毒をのませた後に、その変なお人形で被害者の男の人の頭を殴ったのぉ!」
「ふむう・・・。では弁護人。尋問を。」
「はい。」
〜尋問開始〜
『わたしはぁ、事件を向かいのバンドー・ホテルでみてたのぉ。』
『待った!』
「あなたは事件当時、向かいのホテルにいたのですか?」
「そうよぉ!ホテルと現場と事務所は近いし、わたしが泊まった部屋だとよく見えたわぁ!」
「では証人。続けていただこう。」
『被告席の女の子はまず、被害者に毒を飲まさせたのぉ。
その毒薬のビンも、わたし見たんだからぁ!』
『待った!』
「毒薬のビン・・・?」
「そうよお!被告席の女の子はビンから毒を取り出したのよ!
わたし、見ていたんだからぁ!」
「御剣検事。そのビンは・・・?」
ビンなんて初めて聞いたな。私も正義さんも。
御剣検事何か知っているのかな・・・?
「そのビンも行方不明だ。今探している。」
「・・・御剣検事。そのビン、これのことですか?」
「・・・!そ、それは・・・ど、毒薬のビンッ!」
「神崎弁護士!なぜあなたがそのビンを!」
「警察の捜査が甘いために見つけられなかったのでしょう。ソファーの近くに転がっていましたよ。」
「うム・・・!(来月の給料査定何があっても下げてやる・・・)」
イトノコ刑事かわいそうだけど仕方ないよなあ、これは。
「受理します。」
毒薬のビンを提出した。
「では証人。続けてください。」
『そして毒をのませた後に、その変なお人形で被害者の男の人の頭を殴ったのぉ!』
あ・・・!捕まえた!
正義さんも気づいたみたい!お願い!がんばって!
『異議あり!』
「松竹梅世さん。あなたの証言にはムジュンがある。
被害者は、鈍器で殴られた後に毒薬を飲まされた。診断記録にはそう書かれています。」
「!!」
カン!
「確かにそうです!証人!」
「あ・・・ご、ごめんなさい!記憶が混乱しているんですぅ・・・。
もう一度、証言させてくださぁい!」
また新しい嘘を思いついたんだ。でも、嘘を重ねて見破られていくうちに
だんだん苦しくなるんだよ。
「では、分かりました。証言をしてください。」
「はぁい!りょ・う・か・い♪」
〜証言開始〜
「被害者の男の人は、まず1回被告席の女の子に変なお人形で殴られたのぉ!
でも、わたしはそこはみていないわぁ。
そして殴られた後、毒薬を飲まされたの。そこは見たわあ。
毒薬を飲まされた後、被告席の女の子はもう一回殴ったんだわあ!
わたしがみたのはぁ、毒薬を飲まされた後もう一回殴ったところなのよぉ!
つまりぃ、被害者の男の人は二回なぐられたのよぉ!」
「ふむう・・。スジは通りますな。では弁護人。尋問を。」
「はい。」
〜尋問開始〜
『被害者の男の人は、まず1回被告席の女の子に変なお人形で殴られたのぉ!
でも、わたしはそこはみていないわぁ。
そして殴られた後、毒薬を飲まされたの。そこは見たわあ。
毒薬を飲まされた後、被告席の女の子はもう一回殴ったんだわあ!
わたしがみたのはぁ、毒薬を飲まされた後もう一回殴ったところなのよぉ!
つまりぃ、被害者の男の人は二回なぐられたのよぉ!』
『異議あり!』
「松竹梅世さん。被害者の診断記録にはこう書いてあるんです。
(被害者は頭部を鈍器で一回殴られ、その後で青酸カリを飲まされた。)と。
被害者は一回しか殴られてないんですよ。」
「!!」
また墓穴を掘ったね、松竹梅世。
「証人!どういうことですか!」
「・・・!わ、わからないわぁ。記憶が混乱しちゃっていてぇ・・・。」
「裁判長!この証人のいうことはまったくアテになりません!
記憶が混乱していて、ちゃんと証言が出来ていません!そしてムジュンだらけではないですか!」
「ふむう・・・。弁護人の言うとおりです。御剣検事!」
「なんだろうか。」
「なんだろうか、ではありません!この証人を召喚したのはあなたですぞ!」
「うム・・・。すまない。」
「裁判長。弁護側は・・・松竹梅世を真犯人として告発します。」
「な、なんですッとおおお!」
カン!
「しかし、この証人が犯行を行った証拠品はありませんぞ。」
「・・・いえ。ゼロとは限りません。」
「ど、どういうことですか!」
「この証拠品に松竹梅世の指紋が残っていれば可能性が出てきます!」
『くらえ!』
「それは、毒薬のビン・・・ですか?」
「これの指紋に松竹梅世の指紋があれば、松竹梅世が真犯人となります!」
「な・・・なぜ!わたしが!」
「あなたには動機もあります。それは後でお話しましょう。
御剣検事。検査はもちろん・・・」
「出来るわけがない!裁判長!20分、時間が欲しい!それで検査を行う。
指紋の鑑定なので早く終わるだろう。」
「・・・そうですか。分かりました。では、休憩に入ります。」
カン!
同日 地方裁判所・被告人第3控え室
「正義さん!もう少しで・・・あと一歩で松竹梅世を追い詰められますよ!」
「ここからは一気に攻撃をして松竹梅世を攻めていけば勝てますね。あの
ビンの指紋に賭けましょう。」
「はい!でも・・・」
「どうしましたか?」
「あのビン、本当に毒・・・青酸カリなんですか?
なんかあのビンの中身、気になるんですよね・・・」
「でも、御剣検事が調べてくれるでしょうし。」
「そうですね。」
「あ、そろそろ時間です。」
「なんか随分早いなあ。」
「20分だけですからね。行きましょう。」
「はい!」
同日 地方裁判所・第3法廷
カン!
「では、審理を再開します。御剣検事。ビンの指紋の方は・・・?」
「調べてみたところ、ビンに松竹梅世の指紋は発見されなかった。」
「な、なんですって!」
「そして新事実がもうひとつ。このビンの中身は青酸カリではない。」
「え、えええええ!!」
「このビンは犯行とは一切無関係、ということが分かった。」
梅世がしかけたワナだったんだ!じゃあ本物のビンはどこに・・・!!
「弁護人。どうやらあなたには、松竹梅世が真犯人だという証拠がないようですね。」
・・・あと一歩なのに!証拠がない!
追い詰められそうなのに!こんなところで身を引きたくない!でも・・・!
「正義さん・・・!」
もう、だめなの?諦めないとだめなの?そんなの嫌だよ!
でも、もう限界だ・・・もう、無理なんだ・・・!!
「弁護人。あなたは松竹梅世が犯行を行った可能性を提示できませんでした。
あきらめなさい、弁護人。」
「・・・・・」
ここで諦めたら・・・もうチャンスはないかもしれないのに!
一体どうすればいいの・・・?真犯人は分かってるのに!
「では、これにて松竹梅世の尋問を終了・・・」
『異議あり!』
そう叫んだのはあたしでも正義さんでも御剣検事でもなかった。
「・・・!なるほど・・くん・・・!」
「な、成歩堂くん!」
「裁判長!待ってください!僕は・・・最強の証拠品を持ってきました!」
「さ、最強の証拠品ですって!」
「この状況を逆転させる証拠です!」
「し、しかし!それは不可能だ!もう、尋問は終了している!」
「・・・では、成歩堂くんに一度だけチャンスを与えます。証拠品を提示してください!」
「この状況を逆転させる証拠品は・・・」
『くらえ!』
「そ、その小ビンは・・・?」
「もう、指紋の鑑定も行いました。松竹梅世の指紋がべったりついています。
小ビンのラベルには、何とかいてありますか?」
「・・・!せ、青酸カリ・・・!」
「これで真犯人は一目瞭然でしょう!松竹梅世!あなたです!」
「きゃあああああ!」
「し、しかし動機がありません!」
「ありますよ・・・立派な動機が。
3年前・・・綾里千尋という名の弁護士がある人物によって殺されました。
そして、妹である綾里真宵が被告となりました。そして真犯人は、小中大という男だった。
小中大の秘書は、松竹梅世。そこ証人でした。松竹梅世自身も、盗聴罪で捕まりました。
その時の弁護士が・・・僕です。そして小中大と松竹梅世は僕に復讐してまた罪を犯したのです!」
「う・・・うぐぐぐぐ・・・・」
「・・・証人。あなたが・・・」
「ああ。そうよ。真犯人はアタシ。指示したのは小中。」
「み・・・認めるのですか?」
「ああ。認める。だけどねえ、アタシはこんなこともあろうかと準備しといたんだ。」
「じゅ・・・準備、ですか?」
「アタシが捕まった時のために、この法廷に・・・爆弾を仕掛けといたんだ。」
「な・・・なんですって!!!」
「これはホント。そうね、あと30分位で爆発するかしら。」
「・・・松竹梅世!お前はなんていうことを・・・!」
「裁判長!と・・とにかく、急遽閉廷を要求する!」
「わ・・・分かりました!では、綾里真宵に判決を下します!」
『無罪!』
「係官!松竹梅世の身柄を拘束し、急遽全法廷を閉廷させるよう!」
同日 地方裁判所・被告人第3控え室
「なるほど君ありがとう!おかげであたし、生き延びられたよ!」
「はあ・・・はあ。病院から抜け出して来たんだけど・・・」
「・・・え!大丈夫!?」
「うん・・・。な、なんとか。」
「でも、なるほど君に会えてよかった。感謝してるよ。」
『皆さん、裁判所から速やかに避難してください。』
放送が流れた。
「なるほど君、行こう。」
同日 地方裁判所前
「爆発まであと五分だ・・・。」
「爆弾を仕掛けるなんて卑怯な手を使って・・・!」
「そういえば正義さん。今日は無罪にしてくれてありがとうございました。」
「真宵さん・・・。真宵さん。僕はこれから、爆弾を解除しに行きます。」
「え・・・ええ!?無茶しないでください!」
「僕の(正義)という名前は、正義というプライドを命がけで守る、という意味なんです。
この裁判所は僕の思い出があります。千尋もそうでした。正義というプライドだけは
傷つけませんでした。だから僕は行きます。」
「正義さん・・・」
「それと、ひとつ言っておきます。僕はずっと、真宵さんのことを想っていましたよ。」
「え・・・?」
正義さん・・・?でも、正義さんはあたしを信じていてくれた、ということは分かった。
「僕は命を捨ててでも正義というプライドは絶対に守りますから。」
「・・・分かりました。」
それが正義さんの最後の言葉だった。
・・・バァン!・・・
そして裁判所は爆発した。
一時は火に包まれた裁判所だったけれど、すぐに消し止められた。
大きな騒ぎにはなったけれど、裁判所は一部だけ燃えただけで済んだ。
そして、正義さんはもう帰ってこなかった。
正義さんは命を捨ててでも正義というプライドは守った。
正義さんは強く真っ直ぐな心を持っていた。
12月25日 地方裁判所前
今日はあたし一人で裁判所に来た。
裁判所の前にはお花が何束かがあり、あたしはスノードロップという花を添えた。
冬に咲いたスノードロップは風で静かに揺れていた。
あたしの想いが、正義さんに届きますように。
スノードロップの花言葉は(初恋のまなざし)だから。
「メリークリスマス、正義さん」
あたしはそうつぶやいた。
そして、あたしの初恋は終わった。
正義さんは最後まであたしを守ってくれた。
そして最後まであたしを信じてくれた。
あたしは正義さんの為に生きようと思った。
それに、あたしはずっと正義さんをいつまでも想い続けるから。
END
あとがき
これで、完結です。
全部読んでくれた方がいたらものすごく感謝します。
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