●レビュー
1992年に発売されたサウンドノベル第1弾「弟切草」が好評だったことを受けて製作された第2弾。ホラー路線であった「弟切草」から「かまいたちの夜」では殺人事件をメインに扱うミステリー色の濃い作品となった。
「文章と音の融合」。サウンドノベルの処女作「弟切草」で目指されていたものが、この作品で完成型を見たと言っていいのではないだろうか。シナリオを担当した我孫子氏による「魅せる文章」と、その背後で流れる「音楽」、或いは「SE(効果音)」。これらの見事なまでの融合により、本を読むだけでは味わえない、また音楽を聞くだけでも味わえない独特の恐怖と感動をプレイヤーに与えることが出来たのではと思う。
ファーストプレイ時、序盤の妙に明るい雰囲気には事前の情報とのあまりのギャップに随分戸惑いを覚えたものだ。ごく普通の大学生である主人公とヒロイン真理の他愛ないやりとりや、ベタベタな大阪人社長などとの会話が、明るい音楽をバックに繰り広げられる。しかし、殺人事件発生後は重苦しい雰囲気に一変する。周囲の誰もが怪しく疑心暗鬼にかられる主人公。そして、その主人公の心境を如実に表わしているかのように、聞く者を不安にさせる音楽が流れ出す。この事件発生前と発生後の激しいギャップによって、プレイヤーにより深い恐怖を与えることに成功していると思う。まず文章に引き込まれ、更に、臨場感溢れる音楽によってその場にいるかのような錯覚をも覚えてしまう。そして、繰り返される殺人。自分が選んだ選択肢によって罪のない人達が次々と惨たらしい死体に変わっていくことに、また新たな恐怖を感じる。序盤に繰り広げられた他愛のない展開も、この恐怖を高めるために敢えて用意されたものではないかと思えてくる。全編を通して絶妙に融合している文章と音、そしてプレイヤーの恐怖、感動を高める見事な構成。これぞサウンドノベルの真骨頂と言えるのではないだろうか。
さらに「かまいたちの夜」の魅力はそれだけではない。殺人事件を解決した後には、手に汗握るドキドキ・ハラハラな話や爆笑もの、同社の別の作品をモチーフにしたものまで、本編に勝るとも劣らないバラエティに富んだサブシナリオが用意されている。そのどれもが面白く、全てのシナリオを読み終える頃には充実感を感じずにはいられなくなるはず。
今回紹介する「特別篇」はそんな名作サウンドノベルのPS移植版である。とはいってもただの移植ではなく、様々なグレードアップが成されている。まずはフローチャート機能の追加。これで自分がどの選択肢を選んだか、どれを選んでないかが一目で分かるようになった為、隠しシナリオも比較的簡単に見られるようになった。特にスーファミ版で「ピンクのしおり」までは何とか到達したものの、完全クリアの証「金のしおり」まで到達できなかった管理人にとってはこの機能は有り難く、PS版でようやくこの作品の全てを遊び尽くすことが出来ました。ただ、簡単過ぎて新たなシナリオを探り出す楽しみは減ってしまいましたが…。それからデュアルショック対応も効果的。元々のストーリーの怖さをさらに増幅しています。新たに取りこみ直したというグラフィックも○。
ただ、PS版で新たに加えられたストーリーにはやや不満が残った。おまけと言われればそれまでなので仕方ないが。「真理の探偵物語」はボリュームが少ないし、ドラマCD仕立ての「ちょっとエッチな〜」は本編での主人公のイメージが崩された。更に本体仕様上止むを得ないがセーブ時の所要時間がスーファミ版よりやや長くなったのも残念。ただそれらを抜きにしてもこれまでリリースされた3機種の中でとっつきやすさやボリューム的に最もオススメ出来るのはこのPS版である。少しでも興味をもった人には是非プレイしてもらいたい作品である。あなたがこのゲームを終える頃、その興味が無駄ではなかったことをしみじみと感じることを私は確信しています。
オススメ度…★★★★★
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