その後のデメトリオ2 後編 | |
作者:
シウス
2009年10月11日(日) 18時06分35秒公開
ID:T1OQRI26/R6
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するとフィエナ達の身体に異変が起こった。自分達の周辺の空中に複数の施紋が現れ、身体の内側から爆発的なまでの力が湧き出してきた。同時に手に持った武器や衣服が純白の光を―――強力な聖なる属性を帯び始める。 最後にアイレの、悔しそうな声が聞こえた。 「ちくしょう、こんだけしか干渉できないのか。……あと10秒しか代弁者の動きを止められない! 奴が動けるようになると同時に、俺の声も届かなくなる! だから最後にもう一度だけ言わせろ! お前らの星を―――エリクールを守れッ!!」 同時に―――代弁者が動いた。 代弁者の頭上に、エメラルド色の文字が浮かんだ。 『HP:56572/120000』 ヴァンが静かに呟く。 「ようするに……あの数字をゼロにしたら勝ちってことだな?」 それを否定する者など居なかった。 アストールが口を開く。 「あれだけ沢山のサンダー・アローを叩き込み、あとは施術と気功術でダメージを与えて約半分か……。実質、サンダー・アローの威力は相当高いからな……。サンダー・アロー1発につき、後から施術とかで与えたダメージより遥かに高いとみて間違いないだろう」 こちらの推測も、否定する者は居なかった。―――誰もそんな計算などできなかったからだ。 もしアストールの言っていることが正しいとすれば、サンダー・アローを失ったことが、どれほど絶望的なことだろうか。 しかし同時に希望もあった。 今の敵の防御は実質上のゼロなのだ。他の身体能力だって激減している。 それに対して、こちらは各能力値を激増されている。 「上等じゃねぇか……」 ユリウスは呟き、ミスリルソードを上段に構える。 「大地の神・アイレ―――ずるい性格してるわね。あんな頼まれ方されたら、もう断れないじゃない……」 フィエナが両手にフレイムファルシオン逆手に握り、ぶらりと両腕を垂らして代弁者との間合いを確かめる。 「………なんか光栄だな。戦時中みたいに理由をつけて人を殺した時の“栄誉”じゃなく、この上なく正当な理由で、多くの人間を守るための戦いだ」 アストールが剣を抜く。刀身が緑色の光の放つ(光が反射してるのではなく、本当に発光している)肉厚の長剣―――聖剣ブライアンスソードは見た目より遥かに軽く、絶大な切れ味を持っている。 「チンピラみたいって言われたこともある俺が………とうとう神様もどきにまで『お願い』されるたぁな……」 ヴァンは二振りの刀を抜いた。 「―――ああ、俺たちも来るとこまで来ちまったな」 「こんな歴史に残るような場面に出くわすなんて、格好良いじゃねぇか」 「歴史には残らねぇよ。ってか残せねぇ……。誰かに話したって『変な薬でも吸ってラリったか?』って言われるに決まってるだろ」 「気にすんなよ。歴史の裏舞台の方じゃ最高のシチュエーションじゃねぇか」 一般兵たちも、各々の武器を手にとり、いつでも施術を放てるよう、精神を集中させる。 と、どこからともなく代弁者に対して、何かが飛来した。同時に、遠く離れた馬車から、グラハムの声が響く。 「さっきのアイレさんの話―――全部聞こえてたぞい!! 俺らにも手伝わせんかいッ!!」 見ると、それは頑丈な鎖で作った輪で、しかも3方向から代弁者の首に見事に引っかかる。鎖の繋がる先を見ると、行商隊の馬車3台の後部に連結しており、リーダー・グラハムが掛け声を上げると共に、それぞれの方向へと馬たちが猛然と駆け出した。もちろん、この馬も先程のアイレの行った身体能力強化を受けている。 代弁者は身動きしなくなったが、元が無表情とはいえ、あまり苦痛を感じているようには見えなかった。その証拠に、頭上の体力値の表示に、代弁者のHPが減少している様子は無かった。 ユリウスは小さくファイアボルトを唱え、自分の剣に宿した。その切っ先を代弁者に向け、 「ソードボンバー!!」 7発の巨大な火球が、ユリウスの剣から弾丸のごとく発射された。 同時にフィエナはウインドブレードを小さく唱え、こちらも同じく獲物に宿し、 「ハリケーン・スラッシュ!!」 身動きの取れない代弁者に向けて、巨大な2本の竜巻が―――従来より3倍近い背丈の竜巻が、地面を掘り起こしながら襲い掛かる。 瞬間、代弁者の頭を覆っている、尼さんなどがよく被っている布が取れた。腰まで届くような輝かしい銀髪が、風に乱れて宙を舞う。同時に、ずっと閉じられていた目が一気に開かれ、真紅の瞳が一同を睨みつける。それまで感情の無い人形のような表情から一転、まるで怒りの権化のような顔になった。 急に自我が目覚めた代弁者が、低く呟く。 「―――愚か者め」 代弁者が呟いた。相変わらず感情の無い声だったが、それは怒りが頂点に達した人間が、感情を押し殺した声を出したときの『それ』に似ていた。 呟くと同時に、右腕を宙に躍らせる。エメラルド色の読めない字で書かれた文章が代弁者の周囲を回り、直後、先程の光の柱が代弁者の周りを回転する。一撃で代弁者を繋ぐ鎖をが焼き切られるかと思いきや―――しかし鎖を僅かに赤熱させるだけにとどまった。 グラハムの声が響き渡る。 「ハーハハハッ! そいつはルーン・メタル製でなぁ! 何かしらの施術を加えると、その反対属性の力が働いて相殺しちまうんだ! 切れるもんなら切ってみやがれってんだ!!」 もちろん限度だってある。 それを見抜いた代弁者は、しつこく何度も何度も光の柱を使い、またその隙を狙って周囲から施術と気功術の嵐が叩き込まれる。 ある程度鎖が赤熱してきたところを見計らって、アストールは小さくアイスコフィンという氷属性最弱の呪文を唱え、武器に宿した。各属性の最弱呪文を武器に宿し、放つことで絶大な威力を出せる特殊な奥義。彼もまた、その使い手の一人だった。 「アイシクル・ディザスター!!」 代弁者そのものを、巨大な極低温の氷が包み込み―――中身をも砕くかのような勢いで爆砕した。代弁者を繋ぐ鎖が冷却され、元の色に戻る。 「―――愚者が!!」 ついに代弁者が怒りをあらわに吼えた。周囲を回る光の柱が速くなり、太くなり、より強く光りだす。同時に×字型の刃を何発も放ちつづけ、驚くような速度で鎖が再び赤熱しだす。そして――― ―――バキン! とうとう3方向から代弁者を引っ張っていた鎖が切れた。 『HP:34395/120000』 代弁者の頭上の表示が、代弁者の体力値の激減をリアルタイムで表示し続ける。 「いい調子じゃねぇか!!」 ヴァンが叫ぶ。 それに応じて、戦士達の士気が爆発的に高まる。 代弁者が身近にいたヴァンに飛びかかり、巨大な×字型の刃を放った。が同時に、ヴァンはすでに刀を振り上げており、代弁者の放った刃をなぞるように二振りの刀を振り下ろした。同時に空破斬を放つことにより、代弁者の攻撃を相殺する。 代弁者が一瞬だけ怯み、すぐさま腕を振り上げようとする。また光の柱を出現させるつもりか。 しかしヴァンは――― 「……ブレイズ・ソード、ライトニング・バインド」 刀に火属性と雷属性を付与し――― 「うおおおおおあああぁぁッ!!!」 二振りの刀で交互に、それでいて超高速で何度も何度も斬りつけた。その動きに一切の無駄が無く、炎と雷を纏いながら刀を振るうその姿は、ソード・ダンスとでも呼ぶような華麗な剣技だった。代弁者は腕で庇おうとするが、嵐のような連撃をほぼ全身に受けつづけるしかない。 代弁者が連撃を受けつづけると同時、今度はアストールが叫ぶ。 「全員――突撃・三段突き!!」 次の瞬間、代弁者の背中に一般兵四人が同時に槍を突き刺す。槍の先端には一般兵にも仕える簡易施術の炎と雷がまとわりついており、兵士たちは一瞬で散開し、続けざまにアイスニードルを唱え、氷柱を叩き込む。 直後、今度は黒鷹旋が投げつけられ、代弁者をその高速回転に巻き込む。 1対1の戦闘とはわけが違う。 誰かが攻撃に転じている間、別の誰かが大きく体勢を立て直す事ができる。ましてやこれほどまでの多人数だ。一集団がチームプレーをしている間に、別の集団が更なるチームプレーを用意できる。 ヴァンの連撃が終わり、すぐさまユリウスとフィエナが、代弁者を挟むように斬りかかる。代弁者は瞬時に、自らの両腕で二人分の刃を受け止めた。ユリウスが叫ぶ。 「ずいぶんと感情豊かになったじゃねぇか……!!」 代弁者は、それまでの無感情さを一切感じさせないほど怒りを混ぜた声で返した。 「それは光栄ね……!!」 「なんたって急に態度が変わったんだよ!?」 「全部で数億体いるエクスキューショナーを統括する存在―――いつでもエクスキューショナーのどれかに憑依(ひょうい)し、自在に操る存在―――それが私だ!!」 叫ぶや否や、左右に向けて同時に×字型の刃を放った。きわどいところでユリウスとフィエナは避ける。 代弁者は更に叫ぶ。 「一介のエクスキューショナーだった私は偶然にも突然変異し、自我を手に入れた! ……だが自我を持っただけで、私はこの世界を壊すだけのエクスキューショナーでしかない―――この世界に居場所が無いのだ!! だから私はルシファー様と取り引きした! もしも銀河系を消滅させることができれば、その褒美として、私はエターナルスフィア内の銀河系以外での地区にて、人間として―――それも最高に幸福な人間として再生させてもらえるのだ!!」 「そんな大層なエクスキューショナー様が、いったい何で、こんな所に現れるんだよ! 他にも万単位で各地に現れてるんだろ!?」 「プロジェクトチーム・アペリスの誰一人に対しても、私が勝てるはずが無かろう! そして私は常々、エクスキューショナーのどれかに憑依してなければならないのだ! 無論、私が憑依しているエクスキューショナーが死ねば、私も消えてしまう! なら一番弱そうな現地の人間と戦ってる素体に憑依して逃げるのが最良だからだ!!」 「俺たちが弱いかどうか、その身で味わってみやがれっ……!! そんでもってテメェがエクスキューショナーを送り込んだせいで、死んだ相棒の仇―――討たせてもらうぜッ……!!」 「ぬかせッ……!!」 ユリウスやフィエナの刃物とつばぜり合いをしている代弁者の腕が、今度は予備動作さえ無しに、×字型の刃を左右に放った。咄嗟に後ろへと跳ぶ二人に対し、大きく跳んで戦士達の包囲網を抜けた。が、そのタイミングを見計らったかのように、今度は馬車の物陰から、行商隊の積荷のクロスボウを構えた残りの非戦闘員たちが―――シャルやピートのような子供たちまでもが、一斉に矢を放った。先程のアイレの身体能力強化の影響か、彼らは弓など持ったこともないのに、全ての矢が吸い込まれるように代弁者へ深々と刺さる。 「おのれ―――ッ!!」 代弁者が声を荒げ、両腕を振り上げた。その隙だらけのポーズのまま、徐々に宙へと浮いていき、同時に今までに無い膨大な施力が集結し始める。 「滅ばざる者よ。その身に刻むがいい」 だんだんとエメラルド色の光が集まりだす。もはや説明の余地はあるまい。代弁者はかなりの広範囲な施術を組み上げているのだ。それも相当に高威力な術を。 『HP:11500/120000』 代弁者の頭上の体力値が、もはや1/10以下を示していた。 「だったら施術をぶっぱなされる前に、一気にカタをつけるッ……!!」 ユリウスは駆け出した。 この時、ユリウスはある違和感を感じていた。昨日に『吼竜破』を編み出した時の感覚が蘇る―――否、数倍になって蘇ってくる。竜の呼吸が、竜の気のめぐりが、全身で強烈に感じた。 全く同じタイミングで、フィエナの脳裏に複雑な施紋が浮かんだ。通常、先天的に数多の施術を覚える施術師は、修行しながらある程度すると、今よりも強力な施術を突発的に思いつくという。剣士が新たな技を思いつくのと同じで、何の前触れも無く脳裏に閃くのだ。今の彼女が感じているのもそうなのだが、この時は今までに無い強大な力を秘めた施術が浮かんだ。 それは彼らだけでなく、アストールも、ヴァンも、一般兵たちも。誰もが皆、気功術だろうが施術だろうが、現在進行形で“それ”を体験していた。 (新しい技を編み出せる―――!!) 全員が一度に全く同じことを感じた。 一般兵が代弁者を囲い、 「レイっ!!」 殺傷性を秘めた紅いレーザー光が、上下から代弁者に叩きつけられ、 「ロックレイン!!」 一つ当たりが100kgはありそうな岩の塊が、『レイ』に混じって雨のように降り注ぎ、 「ディープフリーズ!!」 氷属性の上級呪文が代弁者を地面に固定し、 ⇒To Be Continued... |
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