その後のデメトリオ2 後編
作者: シウス   2009年10月11日(日) 18時06分35秒公開   ID:T1OQRI26/R6
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 フィエナは言った。
「見た目に変化が無かったとして、もう限界に近い場合って、どうやって見極めたらいいと思う?」
 ユリウスが答えた。
「分かるわけねぇな。……でも今の俺たちには飛び道具がある。だったら奴が消えるまで、弾ぁぶちこんでやるしかねぇってことだ!」
 再び代弁者に砲身を向け、トリガーを引いた。しかし、
 ―――カチン、カチン。
「あ……あれ? ええっ!?」
「施力切れだな……」
 アストールが呟き、自分のサンダー・アローのトリガーを引く。周りの兵士たちもそれに習うが、砲弾が出てくることは無かった。
「ひっ……やべぇよ、おい!」
 兵士の誰かが呟く。アストールは静かに命じた。
「一旦撤退だ。ここから先は俺たちで戦う。お前らは施術で援護を頼む」
 俺たち―――自分を含め、ヴァン、ユリウス、フィエナのメンバーである。
 兵士たちに命じた。
「まずはファイアボルトだ! 一人が先に撃ち、時間を開けて残りも放て!」
 一瞬の乱れもなく、ホーミング性質を備えた火球が、ゆっくりと近づく代弁者へと吸い込まれる。当然ながら光の柱を使って防がれるが、直後に3発のファイアボルトと、いつの間にか三方向から代弁者を囲ったアストール、ヴァン、フィエナから、
「黒鷹旋!!」
「白鷹旋!!」
「氷鷹旋!!」
 闇・光・氷の巨大ブーメランが高速回転しながら代弁者を絡め取り、一瞬だけ動きが鈍くなった瞬間を目掛け、
「吼竜破!!」
 代弁者の真上から竜の形をした気塊が叩きつけられ、そのタイミングで最初に囮のファイアボルトを唱えた兵士が、
「アースグレイブ!!」
 代弁者の足元から先の尖った石柱を飛び出させる。
「今だ!!」
 ユリウスが叫び、剣を構えて突進する。
 しかし次の瞬間。代弁者が腕を振り上げる。また光の柱を出すつもりか。
 寸前のところで、ユリウスはバックステップを踏み、大きく後ろに跳んだ。次の瞬間。
「愚か者が……」
「………ッ!?」
 代弁者が喋った。それもかなりの棒読みでだ。その直後、またあの光の柱が通過する。幸い、先に避けていたので、当たる心配は無かったが。
 ユリウスはゆっくりと剣先を下げ、声を張り上げた。
「お前……言葉が話せるのか!?」
 最後に泊まった宿屋のオヤジの言葉が蘇る。確かに言っていた。言葉が話せる魔物がいると。
 一同も呆然としている。ユリウスは構わずに続けた。
「お前らの正体は何だ!」
 代弁者は答えた。ひどく棒読みで文字通り感情の無い―――いや、感情どころか自我すら感じさせない声で。
「我らは神が遣わせたエクスキューショナーの一人、代弁者」
 まさか会話が成立するとは思ってもいなかったため、予想外なまでに答えたので驚いた。
 続けてユリウスは問う。
「エクスキューショナー? 何なんだ、それは」
 すぐに答えが返ってきた。
「この世界は―――銀河系に浮かぶ星々の文明は進みすぎた。もはや見過ごすことはできない」
「星々の文明だぁ? 星なんて高いところにあるのに、文明なんて存在するっていうのか?」
「星とは宇宙空間に浮いた球体状の物体。この大地もまた、ひとつの星の表面である」
『――――ッ!?』
 誰もが皆、予想外の世界の姿に、言葉を失ってしまう。
 そんな様子を無視し、代弁者は続けた。
「星には極稀に生物の住むものがあり、長い年月を経て人間という種族へと進化する。そして人間の中でも進化した文明域に達したものは、やがて自らの星を出る技術を身に付け、他の星にまで文明の交流を求める」
 フィエナは呆然とする頭の中で、先日に起きたという異世界の人間のことを思い出す。
 必然的に、彼らの言う『異世界』という単語が、『夜空に浮かぶ星』という意味だと知った。
 ユリウスは言った。
「その星々の文明が進みすぎたってのはよぉーく分かった。じゃ、なんで俺たちの住む星に、お前らが現れるんだ? とてもじゃないが、ここが進んだ文明だなんて口が裂けても言えねぇぞ?」
 代弁者は更に、感情の無い声で続けた。
「人間たちの進んだ技術により、この世界は歪み、汚染が生じた。汚染は広がり続け、そこで創造主は決断した。宇宙の―――銀河系そのものを消滅させると」
 瞬間、声にならない悲鳴が起こった。
 代弁者は言う。どこまでも―――どこまでも感情の無い声で。
「そのために遣わされたのが我らエクスキューショーナーで…あ……」
「………?」
 突然、代弁者の声がおかしくなった。
「ピー……ガガッ…ザザザザザ……―――あー、あー、お! やっと繋がるようになったぜ!」
 
 
 
『…………ッ!!?』
 今度は代弁者の口から、見知らぬ男の声がした。続いて女の声で、
「ちょっと……声だけしか出てないわよ、アイレ!!」
 再び男の声で、
「あれ!? あー、やっぱりエクスキューショナーを操るのは難しかったよ、パルミラ。もうエリクールにしかエクシューショナーは居ないんだから、ぱっぱと直接倒してしまうしかないんじゃないかな?」
 思わずフィエナは声を掛けた。
「あ……あのっ!!」
「うお!? なんだ? パルミラ平原から呼びかけられてるのか?」
 男の声で、かなり慌てた声が聞こえた。
 フィエナは続ける。
「た、たぶんそうです。その……あなたは誰ですか? アイレとかパルミラとか……私の記憶では、ここの神様だったと思うんですけど……」
「あちゃー……現地人に見つかったか……。いかにも! 俺が大地の神、アイレ様だ!!」
「―――本気で言ってます?」
「目の前でエクスキューショナーという超常的な存在が人の声で喋ってるのに、いまさら疑う気なのかい?」
「う……じゃあ、信じていいんですね?」
「おうよ! それと安心してくれ。エクスキューショナーは、間もなく俺たちが消滅させるから」
『――――は?』
 全員の口から間の抜けた声が出た。
「いやー悪かった。俺たち神様も一枚岩じゃなくてさー」
 と、そこで今度は女の怒鳴る声が聞こえた。
「あんた調子こいて神様気取りしてんじゃないわよ! えーと、ごめんね。私たち、あなた達の住む世界を造った人間なの」
 その言葉に、辺りはしんと静まりかえった。次の瞬間、
『世界を造ったぁッ……!?』
 またもや全員の声がハモる。
 しかし、それも当然だろう。世界を造ったというのが、例えどんなに不真面目な口調で話す自称神様よりも、誠実さの混じる口調の自称人間の方が遥かに疑わしい。
 その女の声―――パルミラと呼ばれた女は言った。
「私たちの正体は、たぶん未来永劫にそっちの世界では知られることは無いわ。だから一握りの人たちに、私たちの正体をそれなりに明かした上で話があるの」
 パルミラの声はどこまでも誠実さを感じさせた。フィエナが問う。
「話って、何なの?」
「こっちの世界では、そっちの世界を造りあげた組織があって、今は組織内で内戦状態なの。私たちのいる組織がそうなの。で、そっちの世界に住む人々を―――あるいは人々の心を『しょせんは作り物だ!』とか『消去してしまえ!』っていう派閥と、私たちみたいに『あの世界は、私たちが干渉してはいけない』、『彼らは作り物であっても、本当に生きていることに変わりはない』って派閥とが争っている」
 パルミラの話す言葉は、想像を絶するものだった。
 彼女は続ける。
「先日、あなた達の世界―――エターナルスフィアから、こっちの世界に乗り込んできた人間が居たわ。彼らの中に、私たちみたいな創造主に対抗するための特殊な改造を施され、創造主と同じ力を持った人間が数人いたの。マリア・トレイターとソフィア・エスティード、そしてフェイト・ラインゴットっていう三人なの。その内のフェイト君って子は、過去にあなた達の星に滞在していたらしいわね」
 その言葉に、ユリウスが反応した。かつてフェイトという男と交戦し、見事に負けてしまったのだ。
「とにかく彼らが今、私たちの敵対派閥のボス……ルシファーを討ちに行ってるの。エターナルスフィア内のエクスキューショナーは私たちの方で大半は消したんだけど、どうしてもルシファーの居る特殊空間へ繋がる星―――つまり、あなた達の星だけがエクスキューショナーが消せないの。そしてルシファーの居る特殊空間へフェイト君たちが侵入したから―――」
 パルミラの声を、アイレが引き継いだ。
「侵入されたことにより、全てのエクスキューショナーに命令が下ったんだ。『全員、ここまで守護しに来い』ってな。そんでもってエクスキューショナーの大移動が始まったんだが、あいつらは動くものを全て破壊・殺害せよって命令を受けている。そしてあいつらの移動経路には、必ずと言っていいほどに街や村がある。そしたらどうなる?」
 その光景は、あまりにも悲惨で、恐ろしいものだった。
 ヴァンが呆然と呟く。
「大惨事どころじゃねぇぞ、おい……いくつもの国が一気に潰れることになるぞ」
 アイレの声が頷いた。
「おうよ。ってなわけで、俺たちプロジェクトチーム・アペリスの出番ってわけさ」
 一番に反応したのはフィエナだった。
「それって私たちの国教の―――っていうか、アペリスって神様の個人名になってるけど、そっちでは集団名なの?」
「当たり! そうなんだよ。そっちのアペリス教に出てくる神様で、唯一こっちにいないのはアペリスっていう個人名さ。ま、代わりにこっちにはブレアっていうリーダーがいるけどね。それはともかく、各地で暴走するエクスキューショナーを殲滅すべく、俺たちアペリスのメンバーが各地に派遣されてるわけなんだ。俺たちは強いぞー? 一人でエクスキューショナーを千匹潰すのくらい朝飯前だな」
 さっきから驚かされてばかりだが、一つだけ矛盾しているところがあることを、誰もが気付いていた。
 フィエナが問いかける。
「各地に派遣したって言いましたけど……じゃあ、何でここには誰も派遣されなかったんですか?」
 するとアイレは沈黙し、やがて申し訳無さそうに口を開いた。
「すまん……エクスキューショナーの反応が無かったもんだから。いま調べたんだけど、そっちにはメデューサが3匹と、代弁者が1匹。その内のメデューサはすでに討伐されている―――そうだな」
 まるで見ていたかのように、フィエナ達の過去を語るアイレ。
 フィエナが頷く。するとアイレは、
「今から言うことを落ち着いて聞いてくれ。俺たちは今、各地で一人当たり万単位の数のエクスキューショナーを相手に、街への侵攻を食い止めてるんだ。当然ながらそっちに人手を割く余裕なんて無いけど、そっちのエクスキューショナーは1匹だけで、しかも君らは中級エクスキューショナーとはいえメデューサを3匹も倒しているんだ。今から可能な限りのサポートをする。だから―――」
 アイレは一旦言葉を切り、息を大きく吸い、急に人が変わったかのような声で叫んだ。
「だから代弁者を、いまそこで倒してくれ!! そいつは放っておいたら街に入ってしまうんだ! もうこれ以上エクスキューショナーの……こっちの世界の介入で、エターナルスフィアの人間を殺すわけにはいかないんだよッ……!!」
 アイレの叫びに、ユリウスの脳裏を、かつて共に空を駆けた相棒の姿がよぎる。
 ユリウスだけではない。
 実際、ここに居るアリアス村に居た兵士達ですら、『星蝕の日』以降に魔物に挑みかかって殺されていった仲間達をたくさん見ていたのだ。アイレの気持ちが痛いほど伝わってきた。
 刹那、暗雲が立ち込めていた空が、まるで一点を中心に爆発したかのように、雲ひとつ無い青空へと変貌し始めた。
 空だけではない。10センチ以上も水没していた地面は、雨など降ってなかったかのように、ほどよく乾いた地面に変わる。
 再びアイレの声が響く。
「全てエクスキューショナーの攻撃力・知力を1/10以下に減少、防御力・呪文耐性をゼロに変更。エクスキューショナーの周囲1キロメートル以内にある全ての物質にアンチ・エクスキューショナーの性質を付与。スピードを50パーセント低下。全属性を弱点に変更。戦闘中、ダメージを与えた分だけ経験値を1000倍にして入手。各エクスキューショナーの頭上に、残りの体力値をリアルタイムで表示―――」
 代弁者の身体が不思議な色に輝き、同時に威圧感が少しずつ薄れていく。
 続けて今度はパルミラと呼ばれた女性の声で、
「現在、パルミラ平原にいる全ての人間に補助系紋章術を最大威力で付与。攻撃力上昇のグロース。防御力上昇のプロテクション。速度上昇のヘイスト。そして全能力値上昇のエンゼル・フェザー。全身と手持ちの武器や紋章術に、聖属性付与のデバイング・ウェポン。一度の攻撃につき、攻撃判定回数を+2追加。それら全ての効力時間―――寿命が来るまでの間、本人が望むときに対価無しでいつでも、そして何度でも発動・解除が可能―――」

⇒To Be Continued...

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