その後のデメトリオ2 前編 | |
作者:
シウス
2009年08月23日(日) 22時07分15秒公開
ID:aHRW0JRkfp6
|
|
「って、ことは……あんたの相棒のエアー・ドラゴンが死んだってことか?」 「―――ッ!!」 今度はユリウスが驚愕する番だった。強烈な警戒を示すユリウスに、赤髪の兵士は手を上げて敵意が無いことを示した。 「待った待った。これでも俺は小隊長なんだ。それもエリートのな。あんたの名前と顔くらい知ってたって、そんな驚く事じゃないさ」 「だったら……どうして―――俺がシーハーツで、どれだけ汚い仕事をしてきたか知ってるんだろ?」 「俺の名前は『闇』のアストール。あっちで木に石を投げてるのが居るのは『光』のヴァン。どっちもアーリグリフじゃ、シーハーツ人から見たあんたと同じくらい有名人だろ?」 今度こそユリウスは言葉を失った。六師団の中でも、副団長という役職には届かないものの、凄まじく有能な兵士が居るのは、大分前から知っていたのだ。 そんな彼らがなぜ、一般兵の格好をしているのだろう。 ユリウスの疑問を察してか、アストールはケラケラ笑いながら、 「俺たちがこんな格好してるのは、あれだぞ? 今回の護衛の兵士どもの仕事振りを、抜き打ち審査するために派遣されたんだ。あいつら新人だからな」 「俺の妻のことは―――」 「ああ、気付いてたさ。フィエナ・バラードだろ? あの人は俺のこと忘れてるみたいだけど、俺は覚えてる。まだ俺が民間人だった頃、命を助けられたからな。……ま、ヴァンのヤツは、最初からフィエナ副団長のこと、知らないみたいだけどな」 「―――俺たちをどうするつもりだ? まさか王都で正体をバラすんじゃ―――」 ユリウスの言葉を遮り、アストールは迷いの無い目で、きっぱりと言い切った。 「言ったろ? 俺はあの人に命を助けられた。今度は俺が、恩返しをする番だ」 「………………」 しばらく沈黙が続いた。 そしてユリウスが、その沈黙を破った。 「くっくっ……」 「何が可笑しいんだよ?」 「いや、悪い。お前の噂を聞いてる限りじゃ、なんかこう―――キザなセリフと、紳士的な口調ってイメージがあったからな」 アストールはにっこりと笑って言った。 「ああ。それが普段の俺だ」 「じゃあ何でそんなキャラなんだよ? イメチェンか?」 「付き合ってた彼女にフラれて、生き方を変えた―――それだけさ」 「―――ぷっ。だから吹っ切れたようなツラしてたのか」 「ははっ。ま、いい女なんて、この世には山ほどいるさ」 少し離れたところで、ヴァンが盛大な音を立てて地面に落ちた。さすがにヤバいかと思っていると、むくりと起き上がって、両腕にたくさん抱えたブルーベリーを自慢げに見せていた。 夕方になり、全員が湖で水浴び―――当然ながら遮蔽物(しゃへいぶつ)の無い湖なので『全裸』とまではいかず、全員が水着姿になって汗を流す事になった。 そしてそのまま夕食になり、保存の効くジャーキーや干し芋、硬いパンやチーズ、現地調達の魚や果物など、多彩な食材が食卓に並ぶこととなった。 各地の魔物化が懸念されてるとは思えないほど明るく、まるでパーティーでも開いているような錯覚を覚え、ユリウスは頭を振って現実を見つめ直した。 当然ながら、ここには酒は存在しない。魔物化が懸念される前からでもそうだが、旅の途中、酒を飲む事はあまり利口てはない。いつ凶暴な猛獣に襲われるかも分からないし、ここパルミラ平原には居ないが、盗賊の危険性もある。 今は緊急事態ということで、国から兵士が護衛に付けられてるが、普段の行商隊―――いや、全ての旅人に共通の脅威など、掃いて捨てるほどある。『街』という完全とまではいかない安全地帯の外で、酒を飲む事がどれだけ危険な行為かなど、誰でも知っていることだ。 ユリウスは串に刺さった魚―――この串もまた手製―――をかじりながら、ぼんやりと上空を眺めていた。 すると背後からフィエナが歩み寄ってきた。 「星空を眺めるのって、意外と飽きないものね」 そう言って彼女はユリウスの隣まで来て、地面に腰を下ろした。ユリウスもその場に座る。 「俺が谷底に居たのは数日だけだったけどな―――でも分かる気がする」 「ふふ……でしょ? 地上に住んでた時はあんなに見慣れたものでも、長い間見れなくなっただけで、改めて見たときの感動って大きくなるものだと思うの。それに―――星空が好きになったきっかけは、やっぱり一度空を飛んだから……かな」 「そりゃそうさ。竜騎士ってのは名誉職でもあるが、本当の魅力はこの世で唯一、人間に赦された飛行手段だからな。あの感動が無かったら、名誉と危険だけの味気ない仕事だよ」 「そうね。―――ねぇ、またあの竜笛、聞かせてくれない?」 「構わないさ。ちょうど今みたいな雰囲気に合う、シックな曲に心当たりがあるんだ」 そう言って荷物袋から竜笛を取り出したとたん、 「よっ。お二人さん」 黒髪の兵士―――ヴァンが背後から声を掛けてきた。 ユリウスが笑って手を振る。 「あ、ヴァンさん」 「ヴァンでいいさ。―――おっと、別にナンパしてるんじゃないぜ? するにしても、さすがに旦那の前でナンパはできないからな」 ユリウスは問い掛けた。 「なぁ」 「ん?」 「昼間にアストールに聞いたんだ。あんたとアストールが、俺達の正体に気付いてるって事を」 「な―――!?」 驚きの声を上げたのはフィエナだった。ヴァンは軽く目を見開いたが、すぐに納得したような顔になった。 「あー、そうかそうか。アストールのヤツ、よっぽどあんたに借りを返したいらしいな」 そう言ってフィエナの顔を覗き込むヴァン。当然ながら、彼女が話しについていけるはずもなく、 「ちょっとユリー、どういうこと?」 「実はあの赤い髪のヤツ―――アストールって言うんだが、あいつから俺に話し掛けてきたんだ。……何でも、過去にフィーに助けられたことがあるんだって。心当たりはあるか?」 それを聞いてフィエナはしばし熟考し、やがて彼女の脳裏に蘇った記憶があった。 「ああ、確かシーハーツのどっかの村で、アーリグリフの一般兵が民間人に剣を振り下ろすタイミングで助けたあの子かな?」 「―――凄いタイミングの良さだな」 「俺もそう思う」 より正確には、その時に助けた少年―――自分より少し年下っぽい―――は、少年と同い年っぽい少女を庇うように仁王立ちをしていたような気がする。 「……で、あの赤い髪の兵隊さんが、あたしに恩返しでも?」 するとヴァンが、 「そうなんだよ。戦争が終わってるとはいえ、かつての『疾風』の副団長と仲良くラブラブな関係に水を差すマネをしないように、本国への連絡をすっぽかそうぜって話なんだ」 じっとその話を聞き入っていたフィエナは、安心したように溜息を吐いた。 「そっかぁ……それは助かるわ」 「そうだな。俺もさっき聞いて安心したさ」 「そうよねぇ。いくら戦争が終わったからって、互いの軍の代表格がお付き合いなんて」 「世間体ってものがあるもんなぁ……」 しばらく沈黙し、ヴァンの言葉に聞き捨てられない情報があるのに気付いた。 「は?」 「戦争が終わった?」 結局、人里からずっと離れていた二人は、今の社会情勢を何一つ知らないのだった。 その後、興奮を通り越して錯乱する寸前の心を無理やり落ち着け、ヴァンに詰め寄った。 分かった事は、これだけだった。 『アイレの丘で戦をしていると、謎の飛行物体が現れ、アーリグリフ・シーハーツの両軍を焼き払った』 『その数日前から王都アーリグリフに落ちてきた謎の物体の乗組員の一人―――フェイトという青年が、これまた正体不明の強大な施術を発し、殺戮を続ける飛行物体を消し飛ばした』 『その後に再び飛行物体が現れるが、フェイトという青年の同郷の者と思しき組織が現れ、敵と同じく謎の飛行物体に乗って敵を撃沈。その際に味方側の飛行物体も撃沈する』 『彼らが語るところによると、彼らは異世界から来たと主張。そこの技術力は、おそらくはあのグリーデン大陸の数百倍とも数千倍とも思われる』 『敵はフェイトを拉致すべく現れた存在で、フェイト達がこの世界から脱出するまでの数分間を敵の攻撃から持ちこたえるため、技術力の少ないこの世界の物資を集める目的で、アーリグリフ・シーハーツの間に停戦協定が結ばれる』 「とまぁ、こんな感じだな。―――しっかし、あんたらがまさか旧カルサアなんてとこに居たとは。そりゃ長い間、世間から見つけられないはずだな」 ヴァンは感心しながら言ったが、ユリウスもフィエナも気が気でない。 「結局、そのフェイトっていう人はどうなったの?」 ヴァンはニヤリと笑って答えた。 「フェイト達だって飛行物体を持っている。それもある程度の大型で、しかも入り口を通らなくても、青い光を放ちながらワープするみたいにして出入りできる」 「凄いな、おい」 ユリウスが感嘆する。 「でも出入りが楽だからって、簡単にはいかないんだ。味方の飛行物体―――星の船っていう名前があるんだが、そいつは常に上空に居るんだ。……で、出入りしようにも、ある程度は地上に近づかなければならない。地上に近づいてからも、内部でアレコレと操作をしないと、ワープみたいなのが使えない。しかし、星の船が一定以下の高度まで下がると、今度は敵の星の船が3匹同時に襲い掛かってくる。当然ながら、そいつらを追い払おうとする。するとどうなる?」 身振り手振りで説明されたので、理解には苦労しなかった。 「えっと……襲いくる敵を相手にしていたら、その……ワープ? する装置が使えない?」 フィエナの答えに、ヴァンは『おしい!』と言った。 「今のはおしいな。正確には装置を操作するヒマが無いんだよ。だからほんの数分の時間を稼ぐのに、シーハーツの新兵器で、奴らに俺達の技術力を誤認させようって計画が出たんだ」 『誤認っ!?』 ユリウスとフィエナの声が、見事にハモった。 「あ、あれって物凄い威力があるのよ!?」 「『援護』でも『加勢』でもなく、技術の誤認だけって―――どんだけ敵は強い船に乗ってるんだよ?」 「さあな。こっちの攻撃が当たる瞬間、光でできた壁みたいなのが現れるんだ。そいつのせいで、結局かすり傷すら付けられなかったのは覚えてる。まぁ、とにかく。その新兵器をクロセルに乗せて、空中で―――」 「はいはいはいスト―――ップ!!! クロセルって……なぜそこで『竜の王』とまで呼ばれたVIPが登場するんだ!?」 「新兵器の砲弾が、上空には届かないからだよ。―――とにかくフェイトやアルベルやネル様がクロセルと戦って、『戦いに協力する』っていう約束を取り付けたんだとよ」 しばし呆然とする二人。 そしてユリウスは肝心の質問をした。 「……で、その作戦は成功したのか?」 「―――たぶん、途中でイレギュラーが起きなければ、味方の星の船が撃ち落とされただろうな」 「まだ何かあるの?」 「ああ。詳しい事はさっぱり分かんねーけど、いきなり敵の星の船が、どこからとも無く現れた光線によって打ち落とされたんだ」 「―――それって、例の異世界の人間の攻撃じゃないの?」 「多分そうだとは思うけど―――とにかく、その攻撃が異常なんだよ。フェイト達が言うには異世界同士でも国交みたいなのがあるらしいんだが、そいつらの技術力すら上回る何かがあるらしい。威力が『くらす3』とか言ってたっけ? あいつらの技術の最大威力でも『くらす2』らしいんだ」 「1だけしか増えてないだろ? 頑張って開発したんじゃないのか?」 「『くらす』っていうのは、学術的な単位らしいんだ。『くらす1』で太陽と同じ熱量―――石でも鉄でも一瞬で蒸発させる温度らしい。そして『くらす』が1増えるごとに、威力が1000倍になるってさ。従来の最大威力を1000倍にするって、それこそ常識外のものらしいぞ?」 今度こそ二人は顔面蒼白になった。 「そんな凄ぇヤツを敵に回してはいけないな……」 「そうね……」 「だろぉ? 俺もあんな場面に出くわすのは、もうごめんだぜ。でもおかげで肝っ玉が強くなっちまったかな? 大抵のことにはビビらなくなったけどよ。はははっ!」 「あら、凄いじゃない」 適当にフィエナが返事しながら、その隙にユリウスはヴァンの背後に回った。そして腰に吊るした竜笛を口に当て、 『グルルルル……』 「ひああああぁぁうあぁあぁわああああッ!!!?」 「あ、ごめん。そこまで驚くとは思わなかった」 ぽつりとフィエナが呟いたと同時に、アストールを始めとする護衛の兵士たちが駆けつけてきた。 「どうしたっ!?」 リーダー格―――っぽく見える兵士が叫んだ。本当はアストールやヴァンが彼らの先輩なのだが、ここでの彼らは一番の新入りという設定で通っている。 ⇒To Be Continued... |
|
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |