逆転の復活まで‥‥〜成歩堂 龍一〜
作者: 優希   2009年01月11日(日) 01時00分04秒公開   ID:P/sHlL7DJME
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あの絵瀬 土武六の事件から一週間‥‥。
オドロキくんとみぬきは、依頼を受けた事件の調査で出かけている。
だからここ、成歩堂なんでも事務所は、普段では考えられないほど静かだ。
いつもは、オドロキくんの、
「待った!」「異議あり!」の大声のせいで、近所の人から、いつも苦情が来ているぐらいうるさいからな。

要するに、ここには‥‥ぼくしかいない。
そんなぼくの名前は、成歩堂 龍一。‥‥七年前、あんな事件を巻き起こした張本人の元・弁護士だ。

そしてあの事件の真相は、オドロキくんが暴いてくれた。‥‥感謝しなくちゃいけないよな、彼には。
‥‥そして、今。ぼくは‥‥もう一度、弁護士になろうと勉強している。
みぬきやオドロキくんは、知らないようだけど。
しかし‥‥ぼくはまだ迷っている。もう一度、あんなことになったらどうしようかと。そしてなにより‥‥かつて信頼していた人たちを裏切ってしまったのに、弁護士に戻っていいのかと思ってしまう。

親友でもあり、ライバルでもあった御剣とは‥‥一応、連絡は取っているけど、
葉桜院の事件以来会ってはいない。
弁護士バッジを剥奪されたときは、彼に電話で、
「自分のやったことに決着をつけろ。そして‥‥やり直せ、成歩堂!」
と言われたが、気持ちの整理がつかなくて、
返事ができなかった。‥‥そのことは、今はもう言われない。
ちなみに、シミュレート裁判の実行委員長にぼくを推したのも彼だ。
まあもっとも、御剣本人が言っていたわけではないけど‥‥。
ぼくがそれを知ったのは、そのシミュレーと裁判が終わった後、御剣に電話をかけたときだった。
何気なくそのことを話したら、御剣はかなり動揺しているようだった。
それで分かった。ぼくを推したのは、あの御剣 怜侍だと。
アイツなら、それくらいの権力はあるだろうからな。
七年前だって、よくイトノコ刑事の給料がどうとか言っていた。
‥‥主席検事になったわけだから、権力も高くなっただろうし。

次に、ぼくに弁護士のことを教えてくれた、
綾里 千尋さん。‥‥既に亡くなってしまっているけど‥‥。
彼女に一人前だと認められた二ヶ月後に、
こんなことになるなんて‥‥
「すみませんでした‥‥。」こうとしか言えない。
弟子だったぼくは、彼女のおかげで成長できたんだ‥‥。
今でも本当に‥‥感謝しています、千尋さん。

そして、最後に‥‥‥
「プルルルルッ‥‥プルルルッ‥‥」
ぼくが頭に「ある人物」の顔が思い浮かんだときに、事務所の電話が鳴った。
誰だろうか‥‥と思いながら、ぼくは受話器を取る。
「はい。‥‥成歩堂なんでも事務所ですが。」
「‥‥‥‥‥」
ぼくがそう言ったのに、電話の相手からの返答がない。
「いたずらかな‥‥」と思って、電話を切ろうとしたとき、
「待って!‥‥切らないで、なるほどくん!」
という女性の声が聞こえた。
この電話の相手‥‥ぼくのこと、「なるほどくん」って呼んだぞ‥‥。
まさか、この子は‥‥この子は‥‥‥
「ま‥‥真宵‥‥ちゃん‥?」
ぼくは、おそるおそる一つの名前を口にする。
電話の相手は驚いたようだったが、すぐに、
「うん。久しぶりだね。‥‥なるほどくん。」
と言った。

真宵ちゃん‥‥綾里 真宵ちゃん。 
ぼくが弁護士だったころに助手をしていてくれた、霊媒師の女の子。
バッジを剥奪されたあの裁判のときは、
彼女は修行があっていなかった。
その後は、ぼくにトノサマンのビデオを大量に送ってきたりしたが、なんとなく距離を置いてきた。
ぼくが、やめた直後「若手実力者弁護士、敗れる!」とか、「伝説の弁護士、伝説の偽り!」などと雑誌や新聞に書き立てられ、
彼女に会いたくなかったからだ‥‥。
‥‥ここまで落ちぶれたぼくを、彼女に見せたくなかったから‥‥。

そんな彼女からの電話。いったい、なにが‥‥?
「なるほどくん。‥‥話があるの。倉院の里にまで来てくれる?」
彼女からのそんな言葉。
ぼくは本当に迷った。今まで、彼女からは全く連絡はなかった。そんな彼女が連絡をくれた‥。‥‥‥重要な話だろうな。
「‥‥分かった。すぐにそっちに向かうよ。」
そう言って電話を切った。

さて。そうは言ったものの、このパーカーにニット帽。そして、無精ひげという格好で行ってもいいものなのだろうか?
‥‥でも、時間がない。しょうがない、行くか‥‥。
ぼくは事務所の戸締りをして、鍵をかけて、事務所を出た。
彼女がしたいと言う、話の内容を考えながら‥‥。


ぼくは、二時間電車に揺られ、そしてこの倉院の里にやってきた。‥‥正直、暗い気分だ。
‥‥八年前、真宵ちゃんの霊媒儀式の時に来て以来だけど‥‥変わってないな、ここは。
ぼくは、入っていいのか分からなかった。すると‥‥
「タッタッタッ‥‥」
中から誰かがこっちに向かってきた。ぼくは、その人物を見て自分の目を疑った。
なぜなら‥‥
目の前の人物は死んでしまったはずの、綾里千尋さんにそっくりの女性だったから‥‥。
「あっ‥‥なるほどくん!」
そう言われて、ぼくは彼女の方を見る。
「ま‥‥真宵ちゃん!」
声を聞いてやっと分かった。
千尋さんに似るのは、当然かもしれないな。
妹だもんな、彼女の。
「なるほどくん‥‥変わったね。」
里の入り口で、彼女はそう言った。
確かに‥‥七年前とは、ぼくは全く違うだろう。
「真宵ちゃんこそ‥‥本当に綺麗になったね。」
ぼくは、彼女に対してそう返した。
「そうかな‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
その後、長い沈黙が流れた。‥‥かなり気まずい。
‥‥弁護士時代のときには、こんなこともなかったのに‥‥。
ぼくは「こうしていてもしかたがない。」と思い直して、真宵ちゃんに口を開く。
「なにかな?‥‥話って。」
「‥‥‥‥。」
彼女は少し間を置いた。そして、決心したように、ぼくの顔を見て言った。
「本当にごめんなさい、なるほどくん!」
‥‥‥正直、その言葉の意味が分からなかった。ぼくは、落ちついた口調で言うように努力した。
「なんのことだい?もしかして‥‥七年前のこと?」
真宵ちゃんは頷く。ぼくは、言葉を続けた。
「あの事件は、君のせいじゃない。謝るべきなのは‥‥ぼくのほうだよ、真宵ちゃん。」
ぼくは、当然のように言い切った。
あのとき、ぼくはみんなを裏切った。
なのに‥‥どうして、君が‥‥?
「なるほどくん、あたしね‥‥反省しているの。連絡を今まで取らなかったこととか、どうして、なるほどくんを支えてあげなかったのか‥‥。」
真宵ちゃんが‥‥反省‥‥?
「どうして、そんなこと‥‥。」
ぼくは、そう言った。真宵ちゃんは答える。
「‥‥テレビで、シミュレート裁判のこと見たの。
なるほどくんが、ねつ造をしていないことが、分かったってことも。」
真宵ちゃんの声は、少し震えていた。ぼくは、彼女は続ける。
「あたしね‥‥なるほどくんが、ねつ造で弁護士バッジ取られちゃったって聞いて‥‥
ほんのちょっとでも、なるほどくんのことを疑った。‥‥何度も、何度も助けられたのに。
‥‥それでも‥‥疑っちゃった。」
真宵ちゃんの言葉を、ぼくは考えながら聞いていた。
‥‥真宵ちゃんが、ぼくのことをここまで、考えてくれていたんなんて‥‥
ぼくが、罠にはまったのに‥‥悪かったのは、ぼくなのに‥‥と。
「真宵ちゃん。ぼくのことをここまで考えてくれていたなんて、ありがとう。でも‥‥
ぼくは‥‥みんなを裏切った。ぼくに優しい言葉をかけてくれた御剣も、師匠だった千尋さんも‥‥そして、真宵ちゃん。君も。」
「そんなことない!」
ぼくの言葉を、真宵ちゃんの大声がかき消す。
「裏切られたなんて思っていない!なるほどくんは本当は、ねつ造もしていなかったし‥‥依頼人の人を信じて、弁護したんだよね!だから‥‥前を向いて、正しいことをしたって思って!」
「‥‥真宵‥ちゃん‥。」
彼女の言葉に、ぼくはそう言うことしかできなかった。
真宵ちゃんの方は、目に涙を溜めている。
「それに、ミツルギ検事‥‥なるほどくんがそんなことになったとき、励ましてくれたんだよね。シミュレーション裁判で、なるほどくんを委員長にしたり。それって、なるほどくんを信じていることだよ!」
真宵ちゃんの言葉に、ぼくは本当に真剣に考えた。
御剣も真宵ちゃんも‥‥ぼくのことを信じてくれていたのだろうか‥?
‥‥でも‥‥なんか引っかかる。なんだろう?‥‥そうか!
「異議あり!真宵ちゃん、どうして知っているの?あのシミュレーション裁判でぼくを推したのが‥‥御剣だってことを!
ぼくは、そんなこと一言も言わなかったし、テレビでもそんなことを、言うはずがない!」
真宵ちゃんは、少し黙っていたが、
「‥‥ばれちゃったか。さすがだね、なるほどくん。昔と‥‥そういうところは変わらないね。」
真宵ちゃんは少し笑いながら言った。
‥‥ぼくと会ってから、初めて笑ったことに気づいた。
「聞いたんだ、ミツルギ検事から。なるほどくんと‥‥どう話せばいいか、分からなかったときに相談したの。」
‥‥そんなこと、御剣の奴言わなかったぞ!
と心の中で叫んだ。
「御剣は‥‥なんて言ってた?」
真宵ちゃんは、
「ええと‥‥
「成歩堂は、かなり性格が変わっているように、電話では感じた。
成歩堂は弁護士に戻る努力をすることをためらっている。だが私は戻ってきてほしい。だから‥‥シミュレート裁判の委員長に彼を推した。
‥‥真宵くん。‥‥君も同じように想っているのならば、彼にぶつけてみることだ。」
‥‥って言ってた。
そんなことを言っていたのか‥?アイツ。
‥‥でも今のは、御剣の真似か?
ぜんぜん、似ていないよ‥‥。
「あ‥‥ごめん、なるほどくん。あたし修行があるから。呼び出したりしてごめんね。」
そう言って真宵ちゃんは、里の中に入ろうとした。しかし、ぼくは反射的に、
「待った!」
と言ってしまった。
「なに?大声で叫んで。」
真宵ちゃんは驚いた声で、ぼくに問いかける。
「えっと‥‥そうだ!ぼく、千尋さんと話がしたいんだけど。その‥‥今日中に。‥‥だめかな?」
ぼくは一気に言う。真宵ちゃんは考えながら、
「そうだね‥‥じゃあ、夜に電話するから。」
と言った。ぼくはほっとしながら、
「ありがとう!」
と言って、彼女と別れた。


電車の中では、来た時とは打って変わって、
けっこういい気分だった。
おそらく‥‥真宵ちゃんの想いを聞くことができたからだろう。

事務所は、既に電気が点いていた。
誰かって?それは、すぐに分かった。前にいても、
「異議あり!」
というオドロキくんの声と、
「オドロキさん、うるさいです!」
というみぬきの声がこだましていた。
‥‥かなりうるさいな。これは‥。

「ガチャ‥‥‥」
「あ!パパ!おかえり!」
「どこ行ってたんですか、成歩堂さん。」
あの大声の犯人二人が、ぼくに聞いてきた。
「ああ。ちょっとね‥‥。」
ぼくは普通に答えたつもりなのに、
「いいことがあったの(あったんですか)、パパ(成歩堂さん)!」
と二人に同時に聞かれる始末。
さすが、みぬくなんて力を、持っているだけはあるな‥‥。
でも「兄妹」だってことは、知らないんだよな‥‥。いつ伝えよう、これは‥‥。
「でも、よかった‥‥。」
そうポツリと呟いたオドロキくんの言葉が、不思議だったので、
「なにがだい、オドロキくん?」
と聞いてみた。それとほぼ同時に、
「プルルルルッ‥‥プルルルッ‥‥」
と電話が鳴った。
「あ!俺が出ますよ。」
そう言って、出ようとしたオドロキくんを、「いいよ、ぼくの電話っぽいし。」と言って止めた。
「なんで、そう分かるんだ‥‥‥?」
というオドロキくんの、不服の声が聞こえたけど。‥‥小声で。
「はい。‥‥成歩堂なんでも事務所です。」
ぼくはそう言った。すると、
「なるほどくん‥‥?」
という声が聞こえた。その主をすぐに分かった。
「千尋さん‥‥ですよね。」
電話の相手は、
「ええ。久しぶりね。‥‥なるほどくん。」
と答えた。
七年ぶりだったからだろうか‥‥?すごく緊張した。
そんなぼくを見抜いたのか、千尋さんのほうから話し出した。
「‥‥そういえば、なるほどくん。今年で三十三歳になるのかしら?」
「え‥‥ええ。そうです。」
「じゃあ、もう「師匠と弟子」って感じではないわね。もう、私の歳越えたんだから。」
「そんな!‥‥千尋さんは、ぼくの永遠の師匠ですよ。」
という彼女との他愛もない会話で、少しリラックスできた。
さて‥‥本題に入らないとな‥‥。
「千尋さん。‥‥ご存知ですよね、その‥‥あの事件のことを‥‥。」
ぼくは、なんとかそう言った。彼女はすぐに返事をした。さっきの会話とは打って変わって、とても真剣な声で。
「ええ。真宵が、別の霊媒師さんで私を呼び出して、すべて話してくれたわ。あなたが弁護士バッジを剥奪されたことも、真宵と距離を置いてきたことも。

⇒To Be Continued...

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