逆転の力を合わせて 第2章 牙琉編
作者: 最終兵器   2008年08月13日(水) 22時05分26秒公開   ID:Om9q4VDFwHE
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   第2章「捜査」

 3月12日 午前11時2分 ひき逃げ事件現場

 私はムチを持って恐ろしい形相をした狩魔検事といっしょにひき逃げ事件現場へやってきた。現場は緩やかな坂道で道がカーブしている。ただ、ガードレールはなかった。高い所にあり、左側からは裁判所、警察署が見渡せるようになっていた。
 また、右側は切り立った崖になっていて、とても登れそうにない。しかも、ここでひき逃げなどあったと感じさせない気持ちのいい所だった。今度、弟とドライブにでもきてみましょうかね。
 現場にに行くとまず、指揮をとっていた汚らしいコートを着た男に話しかけた。まったく、私のように服装にはもっと気を遣わなければなりませんね。
「すみません、担当弁護士の牙琉霧人です。事件の話を聞きたいのですが。」
「担当検事の狩魔冥よ。」
 男は白髪が多く四角いごつい顔をしていた。第一印象は頑固の爺さんと言ったところ。でも人柄は良さそうだ。
「わしは交通課の警部の鬼塚政良じゃ。殺しとわかったのでもうすぐ糸鋸らがくる。まあ話ならしてやろう。」
 糸鋸とはあの品がなく、不潔そうな刑事。なんでも誤認逮捕ばかりしているとか。弁護人にとっては大助かりだが、検察庁は困っているはず。私みたいにクールでいなければ。しかしどこで道草をくってるんだろう。
 そういえば被告人の姿もない。もう留置場に行ってしまったのだろうか。後で留置場も行かなければ。しかし2年程前の事件記録によると「死刑にしてくれー」とか叫び、最近は「メイちゃんのムチムチ大冒険」でデビューした新人の絵本作家らしい。しかも女たらしだとか。やはり私みたいにクールかつポーカーフェイスでいなければいけませんね。
 鬼塚警部は髭だらけになっている口を開いて説明を始めた。
「では話そう。事件は昨夜遅くに発生した。被害者は三倉健一(みくらけんいち)。」
「三倉ですって!?」
 鬼塚警部がそこまで言いかけた時、狩魔検事が驚きの声を上げた。まだ名前しか言ってないんだが。
 鬼塚警部はその声を聞き、補足した。
「そう、三倉グループの総裁、三倉健大朗(みくらけんだいろう)の孫であり三倉鉄道の専務だ。」
 狩魔検事が驚いたのもそのはず、三倉グループとは今、知らない人間はいない。しかしその裏では鹿羽組と協力関係にある。先週、鹿羽組の一味は逮捕されたので金に困っているらしい。
「被害者は睡眠薬を飲まされた後道路の放置された。その後青い車でひかれて、下敷きにされ頭部を強打して死亡。車は被告人のアパートの駐車場から発見された。これがそのデータだ。」

 <解剖記録>
上から車で押しつぶされ全身骨折。頭部を強打して即死。体内から睡眠薬が検出された。

 <スポーツカー>
2人乗り。ガソリンは満タン。ボンネットがへこんでいる。結構値段が高い。ちなみに青い。

 こ、これは!!私の持っているスポーツカーと一緒ではありませんか!!どうやら被告人は絵本作家だけあってこの青い炎を思い浮かべるような芸術的な車をえらんだようですね。
「この車・・・。趣味悪いわ。」
 このナイフの刃を思い出させるような狩魔検事の一言は私の心にぐさりとささった。
 他に気になるのはどうして犯人がわざわざ睡眠薬など盛って車でひいたのか。もっと他に楽な殺し方があったはず。ここが事件のポイントかもしれませんね。
「警部。なぜ犯人はわざわざ車でひいたりしたのでしょうか?」
「そんなの犯人にもいろいろあったんじゃない。」
 私の質問に対し、狩魔検事はあっさりと言うがその”いろいろ”が大切だ。そもそもこの事件の動機は一体何なのだろうか。気になった私は聞いてみることにした。
「警部。今回の犯人の動機は?」
「おそらく、金絡みだと思われている。」
 金絡み。まったく情けないですね。被告人は女たらしだとは聞いていたんですが金にも目があるとは。
「調書によると被告人は被害者に100万円借りていたらしいわ。」
 確かに被告人はこの「メイちゃんのムチムチ大冒険」が肖像権の侵害ということで民事裁判にかけられていて大赤字だとか。狩魔検事はムチをうねらせながら続ける。
「まったく、あんなバカの中のバカによるバカげたバカバカしい駄作を売っているからもうからないのよ。あのバカは。」
 どうやら狩魔検事は相当被告人に恨みがあるようですね。まあ民事裁判を起こしたのも狩魔検事だけど。
「他にもとんでもない代物が被害者のズボンのポケットから」
「そこまでだ。鬼塚警部。」
 突然鬼塚警部の言葉が鋭い、刀に似た声で遮られた。そこには黒いコートを着て赤いマフラーをした背の高い私と同じくらいに(実際には霧人以上に)ルックスのいい髪が黒い男が立っていた。しかし問題はそこではない。その男は腰に日本刀をさしていた。さらにただ者ではないオーラを放っている。なにもかも一刀両断しそうなオーラを。
 鬼塚警部はその男に歩み寄るとこういった。
「いいではありませんか。刀条検事。本来弁護士と検事は協力して真実を見つけるべきです。検事はそれを分かっていない。」
 鬼塚警部の発言に刀条と呼ばれた男は容赦なく切り返す。
「そんなことだから刑事課から異動されたのだ。まったく、「鬼政」と呼ばれ犯罪者から恐れられた頃の面影もないな。警察、検察の役割は犯罪者を切り捨てること。裁判はその過程。弁護士はもしものことがないかチェックするだけだ。まあそのようなことありえないのだが。」
 冷酷な微笑を浮かべる刀条検事。私も名前を今思い出した。刀条竜聖(とうじょうりゅうせい)、通称「死神」。弁護士、犯罪者が恐れている冷酷な検事。命令に従わない部下は容赦なく切り捨てる。しかし自分を慕っている部下や、お世話になった人々には温かく接しているらしい。これは弟から聞いた話だが、狩魔派の検事を嫌っているそうだ。
「鬼塚警部。君は署に戻りたまえ。狩魔検事は鬼塚警部と共に。そして牙琉弁護士。君には5分だけ捜査の権限を与える。くれぐれも現場を荒らさないこと。もし何か1oでも動かした場合は・・・」
 事務的の口調で話ていた刀条検事の口が止まる。そして例の冷酷な微笑を浮かべて、
「君は2度と弁護士バッチをつけて法廷に立てなくなるだろう。」
 この時の恐怖は一生忘れられなかった。あの鋭く、あざ笑うような目。ゆがんだ口元。それはそばにいた狩魔検事も同じだったらしい。ふるえながらこう言った。
「ここは、あなたの現場ではないわ。何をしようが勝手でしょう。」
 しかしその訴えは実らなかった。
「フン、これだから狩魔は困る。自己中心的で。狩魔豪も刑が執行されて正解だった。お前は御剣と共に牢屋にでもはいっていればいい!」
 この検事はよっぽど狩魔が嫌いらしい。しかし今の言葉、そう御剣検事を侮辱した言葉に狩魔検事の怒りは頂点に達した。
「どうしてパパやレイジのことまで悪く言うの!!!」
 涙目で振り上げたムチはものすごい勢いで刀条検事に襲いかかったいった。しかし刀条検事の反応も素早かった。腰から刀を抜くと一瞬でムチを切り落とした。あまりのことに私達は唖然としてしまった。
「分かったか。狩魔冥。貴様は所詮その程度だ。とっとと署に戻れ!!!」
 ものすごい勢いで怒鳴られた狩魔検事はプライドを傷つけられたことか、尊敬する人を罵られたことか、ただ怖かっただけなのか泣きながら、また鬼塚警部に慰められながらパトカーに向かって行った。
「まったく、あれだから狩魔は困る。さて、適当に捜査をしてくれ、牙琉弁護士。」
 日本刀をこちらに突きつけながら冷酷の微笑を浮かべながら去っていく刀条検事。その姿はまさに「死神」だった。私も黙っている訳にはいかないので捜査を始めた。
 まず最初に目についたのが道路脇に転がっている岩。もしかしたら、これが車に当たったらしい。

 <岩>
直径50pぐらい。上から落ちてきた物と思われる。

 次に目についたのは道路脇の茂み。ここをしらべたいが膝をついてゴソゴソやるのはクールかつポーカーフェイスさらにジェントルマンの私にふさわしくありません。そこでそばにいた警官を呼び止めた。
「そこの君。茂みの中を詮索してください。してくれれば牙琉検事があなたの給料をあげてくれるでしょう。」
 この言葉はかなり聞いたらしい。喜んで引き受けてくれた。
 しばらくするとその警官が当然大声をあげた。
「本官!!見つけたでありましてぇ。」
 どうやら何か証拠品を見つけたらしい。
「本官の落とした警察手帳です。今日は3回目でありましてぇ。」
 まったく、近頃の警察はほんとにどうかしていますね。まったくこれだから無能と罵られるんですよ。
「本官!!見つけたでありましてぇ。」
「今度は何をみつけたんですか?」
 少しイライラして私はその警官に尋ねる。すぐに見せてもらうとそれはすごい証明能力を持つ証拠品だった。
「これは、使えるかもしれませんね。」
 それは、このようなことが書かれた”脅迫状”だった。

 <脅迫状>
『三倉健一に告ぐ。DL10号事件の真相をしりたくば、3月11日の午前11時に時雨院にこられし。』
かすかに血痕が付着している。

 昨日の午前11時の時雨院では殺人があったはず!つまりこの証拠品は成歩堂弁護士も役立つということか。
「本官!!もう帰っていいでありますか?」
 すっかりそこにいた警官を忘れていた。
「もう帰っていいですよ。牙琉検事には言っておきましょう。」
 やはり警察にとって給料は最高のごちそうらしい。
「本官!!感激したでありましてぇ。」
 さて、次は留置場にいってみますか。その前に成歩堂さんに連絡しなくては。一騒動あるのはごめんですからね。

   同日 午前11時56分 留置場・矢張の面会室
 私はまず留置場にやってきた。考えてみれば会話したのは連行されていくときの一度きりですからね。
 ここは狭く、薄暗いこの壁に包まれている部屋。これは犯罪を犯した者へ対する辛く、屈辱的な罰なのだろう。しかし間違った罪によって捕らわれている人々も大勢いる。犯罪が起きた瞬間など犯人と被害者しか分からないのだから。これを救うのが我々弁護士の使命だろう。
 アクリル板の前に現れたのはひたすら哀愁が漂っているかわいそうなな絵本作家。どう考えても人殺しはしなさそうだ。まあ第一印象はかわいそうな青年といったところ。噂によると「事件の影にはやっぱり矢張」と言われているらしい。警察関係者は彼が出てくると事件がややこしくなるので恐れられているとか。
「おい、あんたは誰なんだよ!成歩堂はどこだ!」
 おそらく弁護士が私であると知らされていないそうですね。
「私は今回あなたの弁護を担当する牙琉霧人です。成歩堂さんは御剣検事の弁護を担当しています。話を聞かせていただけますか。」
「おい、本当か!?御剣もつかまたってのは。」
 つくづくうるさい人ですね。しかしどうやら御剣検事も捕まっていることを知らないらしい。親友だというのが聞いてあきれますね。
「そんなことより話は聞いてくれるんだな。実はあやめちゃんによ〜、似顔絵をプレゼントしたら」
「待った!事件のことを聞かせてください。」
 私は法廷のように待ったをかけて愚痴をとめる。まったく留置場で愚痴る奴がいますか!?
「なんだ事件のことか。それならそうと言えよな。」
 私は火山のごとく吹き出しそうな怒りを抑えて話を聞く。
「昨夜は確か葉桜院からの帰ろうとしたとき住職のおばさんから荷物を渡されたんだよ。んで時雨院に向かう途中三倉さんに会ったんだ。そしたら「僕も時雨院に向かうから」とか言って車に乗せてくれたんだ。」
 そこで私は質問をいれる。
「もしかしてその車は青のスポーツカーですか?」
「おう、そうだぜ。今週譲ってもらう予定だったんだ。」
 うれしそうに言う彼を見て可哀想になってしまった。きっと不幸の星の下に生まれたんでしょう。でも車がアパートにある理由は分かった。
「んで事件現場辺りで突然「用事を思い出したから先に行っててくれ」って言われたんだ。んで時雨院に行って家に帰ったら捕まったって訳。」
 見事にアリバイなしってことですか。つくづく不運ですね。
「面会終了です。」
 看守が別れの時間を告げる。
「それじゃ弁護頼むぜ!」
 笑顔で親指を突きつける彼を見てため息がでた。

   同日 午前12時 警察署・交通課
 私は鬼塚警部の話を聞くため警察署にやって来た。さっきは途中で終わってしまった話を聞くために。狩魔検事の様子も気になりますしね。
 刑事課には何度か来たことがあったが交通課に来るのは初めてだった。しかし刑事課とはほとんど変わりはなく、警察官が忙しく電話に出たり、怒鳴ったり、パソコンをしたり、書類を持って動き回っているだけだった。

⇒To Be Continued...

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