逆転の休日 [1]
作者: yuta   2008年03月29日(土) 02時01分47秒公開   ID:TFTMgx//D9c
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「ま、待て!早まるな・・・!」
一人の男の声。明かりが無い暗い部屋の隅から発せられている。そして。
「この瞬間を待っていたんだよ・・・」
もう一人の声。その手にはナイフが握られていた。
「たっ、頼む!・・・ぐっ!」
ズブリとナイフで腹部を刺され、言葉が途切れる。腹に激しい痛みが貫き、意識を失う。その男が最後に見た顔は・・・悪魔の顔だった。
「サヨウナラ・・・ センセイ。」
そう言い終わった彼の顔は無表情だった。無造作にナイフを抜き、そこから立ち去った。


  9月13日 午前8時30分 成歩堂のアパート

「ふわぁぁ・・・」
あくびをしながら布団から頑張って這い出る。
僕の名前は成歩堂 龍一。今、世間で騒がれている(多分・・)実力派弁護士だ。今までのほとんどの裁判で無罪判決を勝ち取った。・・・だけど、その危なっかしい弁護からか、依頼が少ない。おかげで家賃が払えないよ・・・・。
何てことを考えてたその時。

   ♪〜♪・・・・

近くで馴染みのあるメロディーが鳴り響いた。携帯電話を手に取りディスプレイを見た。そこには「真宵ちゃん」と表示されていた。
綾里 真宵・・・僕の助手で、成歩堂法律事務所の副所長。職業は霊媒師。 早速、つっこみたい職業だけど、ここはあえてつっこまないでおこう。
通話ボタンを押す。
ピッ。
「もしもし、成歩堂だけど・・・」
「なるほどくん、おっはよー!」
電話に出るなり、朝一番にはキツイ大声。
「何、急に・・・ どうしたの?」
「どうしたって・・・ 約束したじゃん。昨日、事務所で。」
「え・・・ アレ、本気だったの?!」
「当然でしょ!今更、『アレは無しだよ』はだめだよ」
そう、あれは昨日のババ抜きの事だった。

『あーー!また負けた』
『ふっふっふ。なるほどくん、弱いね。いつも法廷で証人をいじめてるとは思えないよね〜』
『い、異議あり!いじめてるんじゃないよ。ひ、被告人をたすけるためだよ!』
『一緒だと思うな。あたしとしては。まあ、それは置いといて。次にあたしが勝ったら、明日どっか連れてってよね』
『え!そんなの無理・・・もうババ抜きなんて…』
『もし、なるほどくんが勝ったらこの前の千円チャラにしてあげる』
『………』
『嫌なら、いいけど』
『よし、やるぞ!絶っっ対勝つ!』
『切り替え早いね…』
そして・・・
『また負けた・・・』
『やったー!じゃあ約束通り明日遊びにつれてってよね!』
『右のじゃなくて、左のを引いておけばよかった…』

回想終了。
(まさか、あれを本気にするとは…)
「約束は約束だよ。早く支度するんだよ。じゃあ、事務所で待ってるからね!」
プッ… そういって電話は切れた。
「一度言い出したら聞かないからな… 仕方ない、か。」
お金は…3万円位で足りるかな。サイフの中身と持ち物を確認。
そして、僕は家を出た。150m位歩いた所でふと思った。
「家賃、足りるかな…」
早く忘れようとした。だが、頭からその質問は離れなかった。
お金が絡むと家賃の事考えるクセ、どうにかなんないかな…。

そんな事を考えているうちに、事務所に着いた。
扉の前に立ち、ドアを開けようとした。そのとき…
「あのー… 成歩堂さん…ですか?」
宅急便屋さんの帽子らしきものをかぶっている男が尋ねた。何かダンボール箱を持っている。
「はい、そうですけど…」
「そうですか。これ、お届けものです。あの、ここにサインを…」
「あ、はい。わかりました。」
そう言って、ボールペンをポケットの中から出し(たまたま入っていた)、[成歩堂]と書いた。
「…よし、これでいいですか?」
「ありがとうございます。それと、差出人は[御剣 怜侍]様です」
そう言うと男は箱を僕に渡し、階段を下りて行った。
「御剣からか…。何だろう?」
そう呟くと僕は事務所のドアを開けた。

  同日 午前8時54分 成歩堂法律事務所

ドアを開けて事務所に入る。そして、いつも通り挨拶。…のはずが。
「真宵ちゃん、おは…」
「おそいっ!」
大きな声と共に、何かの資料がバサッと音を立てて顔に当たった。
「遅い…って言われても…」
「早く支度しろって言ったでしょ!事務所の前で立ち止まってたし」
「いやいや!宅急便が来たんだよ!ほら、コレ」
箱をつきつけると同時に、この荷物のことを思い出した。とりあえず、開けてみないとな…。
「贈り物?誰から?何なに?」
好奇心旺盛の真宵ちゃんが横から箱を覗き込む。
「御剣からだよ。中身は…」
箱を開けながら言う。中には…ん?メモと…何かの葉っぱかな。
「コレ…。多分、紅茶の葉だよ。お姉ちゃんもたまに飲んでたよ。」
千尋さん…紅茶も飲んでたのか。全然知らなかった。
「あいにく、僕はコーヒー派だからな。いるんだったらあげるよ。」
「わーい、ありがとう!…でも、煎れ方わかんないや…」
「え。…そ、そうか…ん。このメモ、紅茶の煎れ方が書いてあるぞ。どれどれ…」
「意外と親切なんだね、ミツルギさん。」
「意外って言うなよ、意外って」
メモには、他にも御剣からのメッセージが書いてあった。

『成歩堂、久しぶりだな。もう、1年間も顔を合わせていないのか。いつか日本へ帰れるかもしれぬ。忙しいのでわからないがな。私の代わりといってはなんだが、こっちで手に入れた紅茶を分けてやろうと思う。君には縁の無いシロモノだ。味わって飲みたまえ。
御剣 怜侍』

…………
手紙でも偉そうで、おまけに失礼だぞ、アイツ。
「相変わらずだね、ミツルギさん。また会いたいな」
「まあね。アメリカにいるから中々会えないけどね」
御剣 怜侍…僕の一番の親友で、職業は検事だ。職業という点では敵だが、何回もアイツに助けられたこともある。今は、アメリカの法廷について研究中である。
「さ、今日は何しようか…あああっ!」
真宵ちゃんが叫ぶ。ちくしょー、思い出したか。
「こんな事してる場合じゃないよ!なるほどくん、ごまかしたな〜!」
「ち、ちがうよ。アレは御剣のヤツが…」
「人のせいにしない!くらえ!真宵ちゃんキック!」
「いて!」
思いっきり蹴られた…。何気に痛いぞ、コレ。
「さっさと用意する!ほらほら、早く!」
「わかった、わかった!」
また蹴られないように早く支度をしないと…

5分後…

「はぁ、はぁ… お、終わりました〜」
「うん、よくやった」
あ、あぶね〜。何か今、構えてたぞ。妙な迫力(オーラ)が出てたし。
「よし、早速しゅっぱ〜つ!!」
「ま、待った!春美ちゃんは?」
「はみちゃんはね。修行だよ、霊力の。何だか最近自信が無くなったんだって。それと、『そーゆーことなら、二人っきりで行って来るのです!』だって」
「…なるほどね」
綾里 春美…真宵ちゃんのいとこで、これまた霊媒師(綾里の家系は霊力が強いらしい。特に春美ちゃんはひときわ凄いらしい)。少し、思い込みが激しいけど。
「じゃ、改めてしゅっぱーつ!」
「ちょ、袖を引っ張るなよ!」
そうして、僕たちは電車に乗りあるテーマパークに向かった。

  同日 9時30分 UEP・入り口前

UEP(ユニバーサル・エンターテイメント・パーク)は、ここ数年で人気が急上昇してきたテーマパークだ。ここを作った会社は“玄人(げんと)株式会社”。人気の秘密は、絶叫マシンの数々、豪華なパレード、ハラハラドキドキの大魔術ショーなどなど、とにかく『スゴイ』ものばかりだ。だが、その分制作費も『スゴイ』のだが…。
「なるほどくん、早く入ろうよー。」
横で真宵ちゃんが催促する。
「はいはい、わかったよ…」
僕は、テーマパークの中へと入っていった(ほとんど強引に引っ張られる形で)。

  同日 9時52分 UEP・テーマパーク内

「はぁ、はぁ、はぁ…」
僕と真宵ちゃんは、同時に息を切らしている。
「大丈夫…?はぁ、真宵ちゃ…ん…」
「う…うん。だいじょぶ…はぁ」
会話も途切れ途切れだ。
「混み過ぎだよ、ここ…」
そう、入るのに20分強もかかったのだ。もう体力を使い果たしてしまいそうだ。
「ちょ、ちょっと、あそこのベンチで、休憩しない?」
真宵ちゃんが右のほうにあるベンチを指差した。
「そ、そうしようか」
僕たちはベンチに向かって歩き出した。そして、ベンチに座り少し休んだ後、「アイスクリーム、買いに行こうか?」と真宵ちゃんにいった。「うん、お願い」と答えが返ってきたので、近くのアイスクリーム屋に向かった。
しばらくして、僕はアイスクリームを両手に持って真宵ちゃんの所へ向かった。
「アリガト、なるほどくん!」
僕からアイスクリームを受け取ると、真宵ちゃんはお礼をした。
「アイスクリーム、おいしいね」
口の横にアイスを付けながら真宵ちゃんが言う。
「口についてるぞ、アイス。子供じゃないんだから…」
「…あはは。気にしない、気にしない」
ハンカチを出してあげると、真宵ちゃんはそれを受け取り、アイスを拭いた。無邪気に笑うその姿に思わず吹き出してしまった。
「あはははははは!」
「ど、どしたの!なるほどくん?」
「い、いや… いつまでも変わらないな、と思って」
「なによ!あたしだってちゃんと成長してるんだから!ほら、えーと…“はたち”だよ、“はたち”」
「はいはい、わかったわかった」
「じゃ、早速アレに乗ろうよ!」
真宵ちゃんはジェットコースターの方を見ている。
「最高時速200キロ?!あ、アレはちょっと…」
「何言ってるの、なるほどくん。大人でしょ」
大人とかそういう問題じゃ無いと思うけど…。
「ちょ、ちょっと待ってくれ〜…」
そうして僕はこの後、『二度とジェットコースターなんて乗るものか!』と決心したのだった…。

 同日 某時刻 ジェットコースター 出口前

「いやあ、良かったねえ、なるほどくん」
「……………」
「すごい高さだったね。一生で何回見れるかな、あの景色」
「……………」
「やっぱり200キロってすごいよね。まるで飛んでるみたいだったもん」
「……………」
「…なるほどくん?どうしたの?お腹でも痛いの?顔が“もす・ぐりーん”になってるよ…」
「…今、生きてるのが不思議なぐらいだ…」
そう、僕は根っからの高所恐怖症なのだ。
「かー。情けないね、なるほどくん」
「仕方ないだろウ?」
「語尾がちょっとおかしいよ…」
僕はフラフラと歩きながら、ベンチへどっと座った。顔の色が正常に戻っていくのがわかった。『バカと煙は高いところが好き』って言うけど…。ことわざなんてあてにならないなぁ。
「さあ、次いこ!次!」
僕の体調をよそに、観覧車を指差す真宵ちゃん。か、勘弁してくれぇ…。
「ほら、行くよ。なるほどくん」
また、袖をぐいぐいと引っ張る。遊園地なんてもう二度と来ないぞぉ…!
そして…。

  同日 某時刻 観覧車 入り口前

「よーし、やるぞぉ!」
何故この子は戦う気満々なのだろうか。相手は観覧車だぞ?襲ってこないゾ?
「真宵ちゃん…。僕はこの辺で…」
「あ。そーなの?じゃあ1人で行って来ようか?」
「え?い、いいの?」
「うん。あたし、なんと言っても“はたち”だし」
得意げに真宵ちゃんが言う。
「それでもいいんだったら、僕は待ってるよ。そこのベンチで」
「うん、わかった。じゃ、いってくるね」
「気をつけてね」
そういうと、真宵ちゃんはにっこりしながら入り口へ入っていった。あの無邪気な笑顔は何歳まで続くのだろう…。そう考えながら見送った。

  同日 某時刻 UEP内 

「それにしてもこの観覧車おっきいよなー」
「だよねー。2人でのってみようよ」
「いいね。それ」
1組のカップルがそんな話をし、観覧車の方へと向かっていった。
確かに、ここの観覧車は大きい。僕の事務所からならうっすらと見ることができる。その大きさ故に、1周するのに時間がかかる。夜は豪華にライトアップされるそうだ。
…お、上のほうで誰かが手を振っている。真宵ちゃんかな。観覧車に比例して、ゴンドラの一つ一つもでかい。だから、窓がついている。
一応、手を振っている子(真宵ちゃんだと思う)に向かって手を振った。
その時だった。

     ドォォン!!

近くで爆発音がした。思わず立ち上がり音の原因を探す。その“原因”に驚いた。ゴンドラの1つが爆発したのだ。
思わず叫んでいた。“彼女”の名前を。

  『 真宵ちゃん!!! 』

ピンポンパンポーン♪と、音楽が流れ女性の声で『たった今爆発が起きました!お客様は動かないようにして下さい!警察の命令です!』とアナウンスが流れた。
「え?!爆発だって?!」
「逃げないとやばくね?!」
「ばか!そんなことしたら怪しまれるだろ!」
「あの観覧車には、私の友達が…!」
皆、思い思いのことを言っている。
心の中で必死に祈った。『無事でいてくれ…』ただ、それだけだった。その時。
「…おい!アンタは…まるほどう!」
「ゴ、ゴドー検事?!」
思いもしないことだった。
ゴドー…元・敏腕弁護士、神乃木 荘龍の呼び名。ある事件に巻きこまれ、5年間も生死の境を彷徨っていた。でかいゴーグルを着けないと目が見えない。だが、彼の世界に赤はない(ゴーグルの赤いフィルターのせいらしい)。

⇒To Be Continued...

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