逆転の休日 [1] | |
作者:
yuta
2008年03月29日(土) 02時01分47秒公開
ID:TFTMgx//D9c
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「あ、あの…なんでこんな所にいるんですか?」 「それはこっちが聞きてぇなぁ…まるほどう」 「え?」 「こんな時にデートか?いい気なもんだぜ」 「い、いやいやいや、違いますよ!ただちょっと…色々ありまして」 頭を掻きながら言った。あれ?ちょっと待てよ…。 「異議あり!何でそのことをあなたが知ってるんですか?」 「クッ… 1杯のコーヒーに比べれば1滴のミルクなんぞちっぽけなもの、だぜ」 「…い、意味がわかりません…」 「とにかく、だ。彼女はどこにいる?」 「そ、それなんですが…実は…」 僕は言葉を濁らせた。ちょっと、観覧車の方へ目を移した。ゴドー検事はそれを見逃さなかったのだろう。 「ま…まさか!あのゴンドラの中か?!」 「じ…実は…あの中です…」 僕は目を伏せた。いつか、彼に言われた言葉を思い出した。 『彼女を…お前は見殺しにしたんだ!そして、今回も……お前はその妹も見殺しにしようとしてるんだ!!』 その言葉が胸に引っかかっていた。そして、今。再び『それ』が突き刺さろうとしている。少なくとも僕にはそう思えた。だが、彼の口からは意外な言葉がでてきた。 「まるほどう…気に病むことはねぇ。いつだって、悪いのは犯人と黒い誘惑、だぜ」 そう言ったゴドー検事の口元は微かに笑っていたようにも見えた。 「俺が警察を呼ぶ。ここで大人しく待ってるんだ。変なまねだけはするなよ」 そう、ここで下手に動けば相手は何をしでかすかわからない。僕は何か発展が来るのを待つしかない。…良い方向に。 「もしもし、ゴドーだ。事件がおきた。概要は建物を爆破。場所はUEPの観覧車。被害者は今のところ確認なし。容疑者は捕まっていない。警察に要請を頼む。そういうこと、だ。宜しく頼むぜ」 事務的なゴドーさんの口調には静かな…だが、強い怒りが込められていた。 「よし、すまない。礼を言う」 ゴドーさんは携帯をしまいながらこっちに振り返った。 「あと少しで警察が来る。それまでの辛抱だ」 「は、はい。ありがとうございます」 真宵ちゃん…無事だろうか。きっと、怯えてる。そのときは…慰めるか、何か買ってやるか、だな。 同日 某時刻 UEP内 「あ。あれは…」 見覚えのある刑事が走ってきた。 「糸鋸 圭介、ただ今着いたっス!」 「ご苦労。じゃ、早速仕事に移ってもらうぜ」 「はっ!…あ、アンタは…」 「久しぶりです、イトノコ刑事」 糸鋸 圭介…通称「イトノコ刑事」。端的にまとめると熱血刑事丸出しの人間。右肩下がりの安月給でもめげない健気な刑事。 「どうして、アンタがここにいるっスか?」 「たまたま遊びに来て…事件に巻き込まれました」 「そりゃ、災難っスねぇ…」 「実はあのゴンドラの中に真宵ちゃんが…」 「な、何スと?ご…“ごんどら”…?」 …ま、まさか…。 「知らないんですか?ゴンドラ…」 「す、すまねっス。なにぶん、自分安月給っスから…」 関係ないだろ!と、言いそうになるのを押さえ、ゴンドラのことを説明した。 「へぇぇ… あれが“ごんどら”っスか…」 つっこみは置いといて、本題に入る。 「あの中に真宵ちゃんや他の人たちが閉じ込められたんです」 「な…なんスとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 いつも通りの驚き。ここまで驚かれるとかえって清々しいな。 「観覧車の客を救助してやってくれねぇか」 ゴドーさんが付け足した。 「わかったっス!今、救助隊の人たちに連絡するっス。明日には全員救助できると思うっス」 「本当ですか!よ、よかった…」 「まだ気を抜くのは早いぜ、まるほどう」 「え?それって…あ、ああああ!」 僕はその言葉で気がついた。“犯人”がまだ捕まっていない。 「1回きりの爆発…。脅し、イタズラ、または“警告”なのかもな…」 「け、“警告”…?」 どういうことだ?警告って…? 「…少し喋り過ぎちまったようだぜ…。おっと、もうこんな時間か。ランチコーヒーが俺を呼んでるぜ…」 僕は腕時計を見た。もう1時30分を回っていた。 「コネコちゃんが帰ってくるまで時間がかかる。自分の家にでも帰るんだな」 「はい。今日は色々とありがとうございました」 「クッ…!よせやい、テレちまうぜ…」 それだけ言って、ゴドーさんは帰っていった。 「僕は…まだ、帰らない」 警告…。そう、思い当たる節があったからだ。遊園地を出て、電車に乗った。行き先は…国立図書館。どんな資料でもほとんど置いてあるというぐらいのスケール。目当てのものも見つかるだろう。 特に、興味があったわけではない。何故かすごく引っかかる点があった。“警告”…。それがキーワードだ。 同日 某時刻 国立図書館 図書館の中はいやに厳粛な雰囲気が漂っていた。確かに、見渡す限りの本棚、学者にしか見えないような人たち。その場に不釣合いな僕。…真宵ちゃんがいなくてよかった。いたら120%追い出されるに決まってるからな。 僕は受付の方に歩いていった。 「あの…ちょっといいですか?」 「はい…って、成歩堂さんじゃないっスか?!」 目の前にいたのは…マコちゃんだった。 「マ、マコちゃん?どうしてここに?」 「それは…この前の事件で益々客が減って、吐麗美庵がつぶれちゃったっス。その後…いろんな仕事場を回ったんスけど、ことごとく断られたっス…」 …“不幸の女神”は未だに健在か? 「それでどこも受け入れてもらえなくて…。さまよっていた時にお腹をすかせたオジサンにご飯を…」 …相変わらずだな…マコちゃん。 「そしたら、その人はここの館長さんだったっス。事情を話したらお礼にここで働かせてもらうことになったっス!」 …運が良かったんだな。 「いい人だったんだね。そのオジサン」 「はいっス!よかったっス!スズキ、一生このご恩は忘れないっス!感謝感激雨あられっス!そういえば成歩堂さんこそ、どうしてここに?」 「ちょっと調べたいことがあってね…」 ちょっと口ごもらせる。彼女は気づかなかったみたいで、 「そうっスか。で、何を調べるっスか?」 「ちょっとした事件のデータってどこにある?」 「それなら奥の方にズラリと並んでるっス。大体の解決した事件のことならおいてあるっス」 ちょっとだけ得意げに言っている。 「そうなんだ。ありがとう」 「いえいえ。あ、あの…イトノコ先輩は元気っスか?」 なんだかんだ言っても心配してるんだな。イトノコさんのこと。 「うん。元気にしてるよ。コートも元の色合いになってるし」 「そうっスか。ありがとうっス」 ちょっと、顔が火照ってる。…気のせいかな。 「じゃ、また」 「はいっス!」 その後、背中の方に痛い視線がささっていた。アレだけ騒いでいたからなあ…。僕は申し訳なさそうに頭を下げ、奥へと歩いていった。 いろんな事件のデータが所狭しと並べられている本棚へと歩いていった。 「んーと…、どこから手をつけようかな?」 幸い、五十音順でデータは並んでいた。…年代なんてわかんないからな。なんたって、一年分だけでも500種類ぐらいある(と思う)。 「まず…ア行から…」 思い当たるのは“インサイダー”。昔、玄人会社ではインサイダーの容疑で“玄人 武士(くろうと たけし)”社長が告発された。だが、証拠が余りに不十分なもので、結局は無罪。…その弁護士の名前は、皆夢 真二(みなゆめ しんじ)。まだまだ駆け出しの弁護士だったらしい。やはり、3回中2回の割合で負けていた(ふつー、弁護士なんてそんなものだよなあ…)。しかし、その裁判では次々とムジュンを見つけ、見事に逆転勝利。この事件は10年前にあった。皆夢弁護士が生きていれば今年で40歳ぐらいだろう。 「…!あった…。これだ」 僕は一冊の資料を取り出し、概要、関係者、証拠品リスト(あるとは思わなかった)を印刷した。 概要は、10年前の9月28日に「インサイダー取引を行っているらしい」と会社内の社員、長倉 丈美(ながくら たけみ)が告発。29日の裁判では二人の証人が召喚された。長倉と被告人が証言台に立った。長倉の情報の入手経路、信憑性が問われた。一方、被告人の方は弁護側の召喚で、被告人の無罪を立証。検察側は反証ができず、疑問を残す事無く審理は終了。 その後、長倉は責任を問われ、会社を懲戒免職。『生きがいだった仕事を奪われたら、もう生きる理由がない』などと遺書を残し、自殺。 他の関係者は、丈美の夫、長倉 健斗(ながくら けんと)。この人については…情報が無さ過ぎる。この人も調べないとな。 その情報をまとめて席から立ち上がり、次の資料を探し始めたそのとき。 ♪〜…… 図書館の雰囲気に似合わない、トノサマンのテーマが館内中に鳴り響いた。 少し痛い視線を感じながら僕はあわてて携帯を手に取り電話に出た。 「もしもし、成歩堂ですけど…」 「あんたが、あの『伝説の弁護士』か?」 でんせつ?何を言ってるんだ、この人は…。声は少し荒々しい。けどどこか落ち着いた感じがする。 「あんたに少し頼みたいことがある。」 頼み?僕に弁護を頼むのかな(他にできること無いけど)。 「弁護…ですか?」 「まあ…そうだな。だが、弁護を依頼するのは自分じゃない。…俺の親友だ」 「親友、ですか…。わかりました。で、依頼人の名前は?」 コレぐらいは聞いておかないと何もできないからな。 「名前…か。アイツの名前は君成 悠子(きみなり ゆうこ)。殺人容疑にかけられている。表には出さなくても心では辛いと感じているはず。…助けて、やってくれ…」 彼の口調は次第に重く、静かになっていった。 「じゃあ最後に…。あなたの名前は?」 「俺か?…俺のことはどうだっていいじゃねえか。まあ、いっちょ頼むよ」 それを最後に彼の電話はきれた。 「ほとんど一方的だったなあ。…一方的なのはいつものことだけど」 携帯をしまい、調査を切り上げた。依頼人に会い、事件について情報を集めないといけない。早速、留置所に向かった。 同日 某時刻 留置所 面会室 いつもながら、レトロな雰囲気が漂ってる。ドアの前に立っている看守の顔は初めて来たときと変わっていない。いつもみたいに少し頭を下げると視線をこちらに移し、すぐに前を向いた。そして、今回の依頼人(になると思う)が現れた。 その女性は白いワンピースを着ていてスラリとした人だった。髪をくくってポニーテールにしている。 「あ、えと…僕は弁護士の成歩堂といいます。あなたは…君成 悠子さんですね?」 目の前の女の人はきょとんとした顔で僕の顔を見ている。 「あ、あの?どうかしましたか?」 「あなたは…私にお会いしたことがありますか?」 彼女は静かに聞いてきた。 「えっと…会ったことはありませんけど」 「じゃあ、何故私の所に?」 うーむ、どうも昔の霧緒さんを思い出させるな。 「頼まれたんですよ。あなたの友人らしき人に」 「頼まれた?私の弁護を…?」 どうも腑に落ちない様子だな。 「その人…もしかして男の人ですか?ちょっと荒っぽい感じの…」 彼女の言うことは的を得ていた。 「はい、その通りだと思います。よくわかりましたね」 「ええ、まあ…」 なんだ?素直に納得できない…。 「何かあったんですか?彼との間に」 「そ、それは…」 その時。 ジャラララララ…ガシャン! やっぱりな…。 今、僕の目の前に現れたのはサイコ・ロックという人の心を閉ざす“錠”だ。解除するには証拠品や人物を突きつける必要がある。 「あなたに話す必要はありません…弁護士さん」 やれやれ…。これはまた次の機会に聞き出すとするか。じゃあ…。 「事件について、何か知っていることがあったら聞かせてください」 彼女は少し表情を曇らせた。 「事件のことはあまり詳しく知らないんです。…被害者の名前しか」 「教えていただけますか?その人の名前を」 「確か、皆夢 真二と…」 みなゆめ?…どこかで… 「わかりました。ありがとうございます。あ、それと」 僕はポケットからメモ用紙とペンを取り出した。 「事件の現場を教えてくれませんか?」 「現場は…UEPのアトラクション管理室です。まだ捜査中なので、入れるかどうかはわかりませんけど」 「ありがとうございます。…僕で良いんですか?弁護士…」 彼女の顔に少し明るさが取り戻された瞬間だった。 「はい。宜しくお願いします」 僕は彼女から依頼状を受け取ると留置所を後にした。まずは現場にいってみないとな…。 真宵ちゃんは無事だろうか。それも確かめないと。 |
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