「逆転の豪華客船」 第一探偵パート その4
作者: skyblue→霄彩   2008年03月25日(火) 17時40分01秒公開   ID:BEgAk88pjyo
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「どうしたの?なるほどくん。」
ぼくが深刻なような、困ったような、顔をしていたのが分かったんだろう。
真宵ちゃんが、ぼくの顔をのぞき込むようにして聞いてきた。
そういえば、真宵ちゃんには見えないんだっけ。サイコ・ロック。
「サイコ・ロックだ。
ニボシさんはメモを書いた人に、心当たりがあるみたいだ。」
「え。そうなの?
そりゃ、今すぐ聞きたいことだねぇ。」
真宵ちゃんが、やや人事っぽく言った。
まぁ、サイコ・ロックを解除するのはぼくだからな。

でも、確かに真宵ちゃんの言うとおり、今すぐ聞きたいことではあるな。
……答えてくれないだろうけど、一応聞いてみるか。
「ニボシさん。メモのことについて、何か隠してますね?」
ぼくはできるだけ真剣な顔で言ったつもりだった。そうしたほうが、答えてくれそうだったしな。
だけど、ぼくの前にある仕切りには、ぼくの姿がよく映らないから、真剣な顔になっていたかどうかは分からなかった。
「か、隠してませんよ!
何で僕がメモを書いた人のことを隠さなきゃいけないんですかっ!」
白いハンカチを握り締めて、ニボシさんが叫んだ。
ドアの前に立っている看守さんが、少しビックリしてこっちを見てるぞ。
そりゃそうだろう。面会室中に響きわたってたからな。ニボシさんの声……。
だいたい、それは、こっちが聞きたい……。

そのとき真宵ちゃんが、いたずらっ子な顔をしていることに気付いた。
……何をたくらんでいるのやら……。
「ニボサブさん!
なるほどくん、弁護士になって一応2年とちょっとは経ってるけど、何か事件に関係あること隠したりしてたら、負けちゃうよ!」
なるほど。あのいたずらっ子な笑みの意味はこれだったのか。
「ヒドいな、一応って何だよ!」
「あ、髪の毛のとがりが逆立った!」
……ねこじゃないんだから。
「だから、僕は何もないですって!」
あのお決まりの白いハンカチを握り締めながら、また叫んだ。
ぼくは思った。
留置所に面会に来た人たちにこんなにコメディアンティックなのは、いまだかつて存在したのだろうか……と。
すでに、そういう顔でこっちを見ている看守さんは、何なんだ。こいつら。とでも思っているんだろうな。

って、ぼくには今日、こんなにゆっくりしている暇はないんだった。
今のところ、手がかりゼロ。証拠もゼロ。だからな。
ニボシさんのサイコ・ロックを解除するためにも、早く調査をしなきゃな。

「それでは、ニボシさん。また後で来ますね。」
そう言ってから、ぼくはイスから立ち上がった。
真宵ちゃんも、少し遅れてあわてて立ち上がった。
このイス、ふかふかしてて、座り心地いいよな……。ぼくは今まで座っていたイスをチラリと見て、そう思った。
これからも、こことは永い付き合いになるんだろうな。
……ずっと。

「行こうか、真宵ちゃん。」
「あ、調査がんばってください!」
そしてぼくたちは面会室から出た。


 同日 11時00分 豪華丸 ロビー

やっぱりいつきても豪華だな。豪華な大理石の床。豪華な大理石の壁。豪華ないくつものシャンデリア。どこもここも輝いていて、目がしばしばする。……ロビーだけで。
ビンボー人のぼくは、普通に立っているだけでも足がすくむ。
でも今日は、いつ来ても今日だけしか見られないような風景が広がっていた。
警察関係の人たちが、忙しそうに動き回っているからだ。
この船は広いからな。事件があったのは昨日だし、まだ調査が終わっていないところが多いんだろう。

「よし!
早速、ハツラって人探すよ!」
気合満々で言う真宵ちゃん。
そして、サッサと先に歩いていってしまった。
この船は、広い割には構造は複雑じゃないみたいだ。だから、ほったらかしておいても迷うことはないだろうけど、別行動はいろいろと面倒だし、いっしょに行動したほうがいいだろうとぼくは思った。

ぼくは真宵ちゃんのところに小走りで行った。
「なるほどくん。息切れしてるけど、大丈夫?」
うっ……!
極力、聞こえないようにしていたつもりだったんだけど、聞こえてしまったみたいだ。
いくらぼくが運動神経がよくないとはいえ、あの短い距離を小走りしただけでこんなに息切れすると、さすがのぼくもヘコむぞ……。
……運動しようかな。いや、ここは、したほうがいいんじゃないか……?
……運動しよう。

たった一言でぼくに、ぼくにとってはとても大きな決断をさせた人物が話しかけてきた。
「なるほどくん。今回の裁判大丈夫そう?」
「うーん。
まだ何とも言えないな。とにかく今は、情報がほしいな。ニボシさんの話もハッキリしなかったし……。」
ぼくは、ニボシさんの事件についての話を思い出していた。
いつのまにか、殴られて、そして気付いたら哀乙砕さんがいた。みたいな事言ってたよな……。
少しの間、沈黙。
そして、真宵ちゃんが、考えるようなそぶりをして、独り言のように呟きながら言った。
「そういえばそうだね。
まるで知らないうちに、殴られて、気付いたら哀乙砕さんといっしょにいた。みたいなこと言ってたよね。ニボサブさん。誰に殴られて、いつ来たんだろうね、アイオクダさんは。」
「…………。」
ぼくはなんとなく、天井にぶら下がっているシャンデリアを眺めた。
毎回のことだけど、何でぼくっていっつもこう、追い詰められているんだろう……。
ぼくが物思いにふけっていると、
「なるほどくん!
しみじみしてないで、サッサと調査する!」
と、真宵ちゃんに叱られてしまった。
そうだよな。ぼくには、物思いにふける時間さえ与えられていないんだよな……
テレビを見る時間は別として。


 同日 某時刻 豪華丸 控え室前

ここも、ロビーに負けず劣らず豪華だ。
20人くらいの真宵ちゃんが、おもいっきり鬼ごっこをしても、まだまだ余裕といった感じだ。
……いまさらだけど、例えが悪かったな。と、ぼくは後悔した。
ここら辺では、ロビーの2倍くらいの警察関係の人たちが、忙しそうに動き回っている。そしてその中に、薄汚れたコートを着た、がっしりした体格の刑事が1人……
「あ、アンタたち!やっぱり来てたッスね。」
イトノコ刑事である。
口元が緩みきっているところを見ると、どうせ、検察側に有利な証拠がザクザク出てきてうれしいんだろう。
そして今日は、いつもとは明らかに違うところがあった。手に、何やら怪しげな本を持っている。
まず、ブックカバー全体が、ショッキングピンクで覆われている。
そして表表紙には、真っ赤なハートがでっかく描いてある。そのハートの中に、純白な色で、あなたの未来に救済を。という文字がのっかっている。
裏表紙は、雲と雲の隙間から光が差し込んでいて、その下に、2人の愛のキューピットのようなものが描かれている。
その裏表紙だけならいいんだろうけど、バックのショッキングピンクが、その幻想的な雰囲気をぶち壊している。
ぼくは、何気なく真宵ちゃんを見た。
完璧にあの怪しげな本を、目を丸くして見ていた。何か言いたげだったが、かける言葉が見つからないのだろう。
……ここはあえて、あの本のことを話題にするのはやめておこう。

「占いが当たったッス!今日の自分の占いは、運命の人に巡り会う。だったッスからね。」
運命の人……?
何でぼくたちがその、運命の人呼ばわりされなきゃいけないんだよ!
ぼくたちの、冷めた目線に気付いていないのか、さらにしゃべりだすイトノコ刑事。
「あ。ちなみにアンタの占いは、限りなくブルーデイ。死神が舞い降りるかも。だったッス。」
余計なお世話だよ!
しかも、どういう占いだよ……。

ぼくは、言い返そうとしたが、そんなことをしている場合ではないと、我に返った。
おっと……。
ぼくには今日、雑談をしている暇はないはずだ。ここでできるだけ多くの事件の情報を引き出さないとな。
「イトノコ刑事。事件のこと、聞かせてもらえませんか?」
ぼくがそう言うと、真宵ちゃんがそれだけでは勢いが足りないとでも思ったのか、イトノコ刑事に噛み付くように言った。
「あたしたち、事件の情報が少なすぎて困ってるんです!」
「そんなにあせらなくても、最低限のことはちゃーんと教えてあげるッスよ。」
イトノコ刑事が、肩を小刻みに動かして、笑みを浮かべながら言った。
教えてもらえるのはありがたいけど、何かむかつくな。

ぽりぽり頭をかきながら、しょうがないなぁといった感じの顔で、説明を始めるイトノコ刑事。
「事件は控え室Bで起こったッス。
そして、被害者は自分が発見したとき、ドアの前らへんに倒れていたッス。」
「ちょっと待ってください、イトノコ刑事。そもそも、被害者の死因は何なんですか?」
少し間があった後、
「あぁ、そういえばまだ言ってなかったッスね。わりぃッス。ハッハッハッハッハッハ。」
と、朗らかに笑うイトノコ刑事。
「被害者の死因は、首を絞められたみたいッス。
死亡推定時刻は、午後5時から5時半の間ッス。これがその解部記録ッス。」
そう言って、あの見慣れた茶封筒を取り出すイトノコ刑事。
ぼくはありがとうございます、と言ってそれを受け取った。

《哀乙砕 凄の解部記録》を、法廷記録にファイルした。

ぼくは、解部記録を見た。
そこに、哀乙砕さんの写真があった。
麦わら帽子が似合いそうな女性だなとぼくは思った。とても美人な顔に、髪はストレートで、かなり長いみたいだ。背の高さは、ちょうど人並みくらいみたいだ。その外見からは、とてもまじめそうな人に見える。
絞殺、か。ニボシさんが真っ先に実行しそうな殺し方だな。
「なるほどくん、そんなこと言わない!」
「冗談だよ。」
それに、言ってないんだけどな。

ぼくはそう不信に思いながらも、次の質問に移ることにした。
「ところで、絞殺ということは、凶器はロープとかですか?」
「そうッス。結構丈夫なロープッス。
これが、凶器のロープッス。」

《ロープ》を、法廷記録にファイルした。

確かに。太くて丈夫なずっしりしたロープだ。長さも結構あるみたいだな。凶器に選ぶには、持ち運びが不便な気がするけど……。

「それで、ニボシさんは何で今回の裁判の被告人になっちゃったんですか?」
ぼくがそう聞いた瞬間、ニヤッと笑ったイトノコ刑事。
やっぱり、聞かなきゃよかった……。
もちろん、後でそう後悔しても時はすでに遅しってやつだった。
「クックックック……」
な、何だ?この不気味な笑いは……。
そして、次の瞬間。
「いいきみッス!ざまーみろッス!
サイコーッス!わははははッス!」
ぼくはイトノコ刑事の、給料が一気に跳ね上がって大喜びするときのようなとち狂った顔を見ながら思った。
今、イトノコ刑事のテンションは、最高の領域に達していることだろう。
「自分が発見したとき、なんとっ!
荷星 三郎は、手にロープを持って、被害者の横に立っていたッス!」
「うええええぇぇぇぇっ!」
今の悲鳴は真宵ちゃんだ。
ぼくも、悲鳴を上げておけばよかった……。
どうやらあの顔に間違いはなかったみたいだ。そこでぼくは、最後の望みに賭けることにした。
「手にロープ……。
それって凶器の、ですか?」
「もちろんそうッス。
凶器と断定した証拠もちゃんとあるッスが、それは言えないッス。」
ぼくの最後の望みも見事に砕け散った。
違うと言ってくれぇ。

ぼくがヘコんでいると、テンションが通常に戻ったイトノコ刑事が、あの怪しげな本をペラペラめくりながら言った。
「そういえば、まだよく調べてみないと分からねッスが、哀乙砕 凄には多額の借金があったみたいッス。」
「借金、ですか……。」
何か意外だな。ぼくの哀乙砕さんの外見の印象では、借金なんかつくりそうにないくらいまじめそうな人に見えたのに。

ぼくが顎に手を当てて考えていると、
「しゃ、借金……。
それって、みそラーメン何杯分あるんですかっ?」
と、身を乗り出してイトノコ刑事に、真宵ちゃんが聞いた。
イトノコ刑事も、困った顔をしているぞ。
「ううう……
そんなにいきなり言われても、計算できないッス……。」
イトノコ刑事が、しょぼくれて言った。
そんなにすごいのか?借金。
「うーん。確か、4千万くらいだったッス。」
イトノコ刑事があの怪しげな本を閉じて言った。ぼくにはそれが、アンタには救済はないッス。とでも言いたいように見えた。
「うへぇ。
よ、4千万……。なるほどくんでも負けちゃうね!結構すごいのに。」
「うるさいな!」
4千万も借金があったら、ぼくは一生泣き続ける自身があるぞ。
しかも、このタイミングでそれを言うなよ!

「ねぇ、なるほどくん。あたし、やっぱり聞くね。あの怪しげな本のこと。」
小声でぼくに話しかけてきた真宵ちゃん。
別に、聞きたいんなら聞いてもいいけど……。
「聞いても、多分事件とは何の関係もないと思うぞ。」
「いいの。気になるんだもん。」
「あの、あの。イトノコ刑事!

⇒To Be Continued...

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