死神との邂逅
作者: 10join   2008年03月15日(土) 16時25分21秒公開   ID:lBGY4c4qTNg
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 ぼくの名前は白夜。名字は書いたって読めないだろうから言わない。ぼくは警視でありながら、キラという殺人鬼を演じている。警察はそれを黙認している。

 なぜかって?まず死刑執行を全面的におしつけられるっていうのが第一かな。ぼくはデスノートという名前と顔だけで人を殺せる殺人ノートを持っている。だからぼくみたいなデスノートの所持者に死刑を任せておけば他の人たちが処刑した時の罪悪感を感じなくてすむという理屈らしい。それだけ痛みを感じるぼくらのことも考えて欲しい。
 
 それから犯罪を防止するためかな。ノートにはどんな死因でも書ける。だからあえて不可解な死因で殺させることで、悪人に処罰を下す神がいるかのように見せる。それをマスコミが騒ぎ立てることで起こる犯罪を減らしたいようだ。わざわざ神に仕立て上げられるなんて迷惑なだけだ。なんのメリットもない。
 
 ついでに違法なデスノート所持者をいちはやく捕まえるためかな。え?殺人自体違法なんじゃないかって?確かにその通りだ。しかしこの世界にはキラ法という法律が存在する。ようは警察に都合がいいノートの使い方をすれば罪には問わないということだ。その使い方っていうのはかなり面倒で、死刑が確定していて、全く冤罪だと言える余地がない人しか裁けないというものだ。それを他のデスノート所持者に伝えるのもぼくたちの役目だ。それはぼくが管理人をつとめるサイトの掲示板で、管理人のぼくがキラ法にもとづいて裁いていい人の名前を書くという物だ。見てなくて他の犯罪者の名前を書いたり、無視して他の犯罪者や自分が気に入らないやつの名前を書いた場合はどうすればいいんだと思う人もいるだろう。その時はぼくたちデスノート対策チームホワイトナイツの出番だ。名前は単なるシャレだ。デスノート所持者にはデスノート所持者ということなんだろう。デスノートの知識もあるし、とりついてる死神も見つけやすいと思ってるんだろう。言い忘れてたけどデスノートには死神がとりついてる。だから死神に教えてもらうか、所持者の近くの誰もいない所にリンゴを投げて、いきなり消えたのをデスノート所持者の証拠として捕まえればいい。見てない人と無視した人の扱いはかなり違う。サイトの存在を知らなくてテレビに凶悪犯罪者って報道された人の場合は、すぐに名前を消させてサイトの存在を教えて、厳重注意するだけにとどめておく。名前を消したらその人は生き返るからね。でも無視して気に入らないヤツとか殺した人の場合は名前を消させるのはもちろん、所有権を放棄させてノートを没収する。所有権を放棄したら記憶を失い、使っていたノートに触れない限り記憶が戻らない。だから警察が没収しておけばもう触れることはない。記憶がないからデスノートを取り戻そうとはしないからな。

 ぼくがデスノートを使う一番の目的は他の誰も助けられない人を救うことだ。主に冤罪で死刑判決を受けた人を救うってところかな。そんなことデスノートでできるわけがないって言う人もいるだろう。デスノートを使われなくてもで決められた寿命が来ると死ぬからな。でもそれも法律の抜け道を使えば簡単にできるんだ。これは後で説明しよう。

 前振りが長くなったけどそろそろ話に移るか。なぜぼくがデスノートを使って人を裁くようになったのかこれでわかると思う。あれは確か7年前、ぼくが警察に入ったばかりの時だった。

7年前
 ぼくは大学を卒業してすぐに刑事課に配属された。なぜかはわからない。ぼくが大学でいつも首席だったからかもしれない。誰も名字を読めなかったけど。
「おい白夜。なんかかわいい女の子がお前に会いたいって言ったから連れて来たぞ。こいつお前の彼女か?」
 先輩の熊谷刑事が話しかけて来た。いわゆる生え抜きの刑事で、どちらかというと太めだ。最近では無限と零樹とかいう双子の探偵と一緒に捜査することが多い。彼らとはぼくも親しくしていて、よく事件を解決に導いてもらっている。でもどうやら熊谷刑事は彼らの霊が見える赤い目を使って自分じゃ解けない難事件の解決を手伝ってもらってるみたいだけどね。ちなみにこのことを知っている人はあまりいない。
「期待させて悪いけどそいつ妹ですよ。名前は朝奈です。」
「よろしくおねがいします。あのお兄ちゃん、こんなの拾ったんだけど。なんかどっかのマンガにあったよね。」
 
 そう言って取り出したのは黒いノートだった。しかも表紙にDEATHNOTEとご丁寧に書いてある。確かにあったなそう言うマンガ。
「これは誰かのいたずらじゃないのか?多分ファンのやつが勝手に作ったんだろう。」
 普通そう思うだろうな。そう思いながら裏表紙の説明を読んでみると、なにかがおかしいような気がした。
「名前を書かれて死んでも、名前を消したら生き返るねえ。確かに読み切りでそういう設定あったけど原作のルールには書かれてなかったとおもうんだけど。それに死ぬやつが天国か地獄にいくか選べます?死後のことまで書いてあるよ。あっちの世界には精霊の湖っぽい場所しかなかったのに。なんか変じゃないか?」
 なにげにわからないかもしれないようなネタを飛ばしてみた。
「どっかの外国人がおもしろ半分で偽物を作ってみたとか?だから外国人に偽物だとわかるように変えてみたとかいうのはどうだい?」
 熊谷さんの言う事も可能性としてありえないわけじゃない。でもそれだと変なような気がするんだけど。
「実際は外国人にDEATHNOTEなんて言ってもマンガを知らなきゃわかんないっていいたいんでしょお兄ちゃん。」
 その通り。DEATHNOTEは直訳すると死のノートではなく死のメモになる。かなりひねくれて訳すと死の音符だ。つまりもし外国人に偽物だとわかってもらいたいんならDEATHNOTEBOOKあたりに修正しないとダメだ。そもそも英語版ではそうなってるかもしれない。まあぼくは月ほど頭はよくないから単にNOTEにノートの意味があるのを知らないのかもしれないけど。

「それなら試してみろよ白夜。そうしたらこれを使った事件が起きても対処できるだろ。」
 ぼくと同期に刑事課に配属された人が言った。警察にあるまじき発言だな。いつのまにか周りに集まっていた人達もその意見に賛成している。まあいいだろう。デスノートなんて書いてあっても単なる冗談に過ぎないだろう。
「もし本当だったらすぐ名前消すんだよ。わかってるよねお兄ちゃん。」
 そんなの言われるまでもない。それでテレビをつけて適当に子供を人質にとって立てこもってる犯人の名前を書いてみた。それから声が聞こえなくなってから警察が突入したのが見えた。それからしばらくたって実況している人が驚くべき事実を伝えた。
『は、犯人が死んでいます。どうやら心臓マヒのようです。』
 ウソだろ。もしかして単なる持病だっていうこともあるかもしれない。半信半疑だったけどとりあえず名前を消してみた。
『あっ。どうやら犯人の意識が戻ったようです。警察の人もあわてて勘違いをしたようですね。どうも失礼しました。』
 みんな絶句していた。無理もない。このデスノートは間違いなく本物だ。心臓マヒがもし持病かなんかで、ノートに名前を書いた時に偶然死んだとしてもなんとかつじつまが合う。でもさっき前まで心臓マヒだった人が名前を消した時点で偶然生き返るなんてことがあるはずがない。ぼくたちはすぐに警察のトップにこのデスノートのことを話し、このノートは警察に保管することにした。これでもうこのノートが使われることはないはずだった。

 そう、そのはずだったのだ。ぼくがノートを使ってから心臓マヒで多くの犯罪者が殺されるようになった。もちろんぼくたちはデスノートを使うことはなかった。あんな物騒な物使う気にはなれない。だとすると一体誰が?まさかデスノートはあれだけじゃなかったっていうのか?
「ククク。どうやらお前たちが他のデスノート所用者に火をつけたようだな。」
 確かにそうかもしれない。ぼくがあの立てこもり犯を一瞬心臓マヒにしたのをマスコミは神の裁きだとか言って騒ぎ立てていた。だから他のデスノート所持者が神気取りでそんなことをしたのかもしれない。ってあんた一体何者だ?ぼくは幻覚でも見てるのか?
「て、てめー何者だ。どこから入ってきやがった。」
 どうやら熊谷さんにも見えてるようだな。そう言えばこの人も手に取っていた。ということはこいつはまさか・・・
「おれはバール。死神だ。」
「ふ−ん。で何番隊所属なんだ?」
「空席になった3番隊隊長・・・ってマンガが違うだろうが。」
 死神ってこっちのマンガ読んでるんだ。それにしてもこいつ確か今他にもデスノート所持者がいるって言ってたよな。
「具体的な数はわかるか?」
「さあな。確か13カ国に108人の死神が最低666万人殺せるノートを落としたって話は聞いたけどどれだけ拾われたかはわからないぜ。」
 よくそこまで不吉っぽい数字を並べられるな。最低666万人ってどんな基準なのかわからない。それにしてもそれだけの数のデスノートが散らばってるなんて割り切れない問題だな。
「ああ。確かにどうやっても割り切れない。」
 熊谷さんはどうやら13と108と666が割り切れるか計算していたようだ。この人は頭より体動かす方が得意なんだから無理しなくていいのに。でもぼくにもこれは割り切れないな。そんなことよりこれは上に持って行って対策を考えた方がいいだろう。

「法律でデスノート所有者のやっていることを認める?」
 ぼくが報告したことに対する上司の返答は驚くべきものだった。この人本気でいっているのか?
「しかたないだろう。108人もいたら全員捕まえるのは困難だし、使ったという証拠が残っているとも思えない。ならいっそのこと警察の死刑を手伝ってもらおうと思うんだ。」
 つまり死刑確定の人をデスノート所持者に殺させて、それに従わない人だけを逮捕させようということか。ずいぶん警察に都合がいいな。
「もちろん君にも協力してもらうよ。いいね。」
 で、でもぼくにはもうあんな物使う気にはなれない。例え死刑にもあんな物を使う気にはなれない。
「なんなら君の妹にやらせてもいいんだよ。発見したのは彼女なんだろう。」
 どうしよう。まさか朝奈にそんなことをさせるわけにはいかない。あいつにあんな痛みを味わわせるなんてことぼくにはできない。
「少し考えさせて下さい。」
 ぼくはそういって出て行った。でも頭では他に選択肢がないということはわかっていた。ただそうするだけの覚悟はなかった。

「ごめんねお兄ちゃん。わたしがあんな物拾ってきたばかりに。」
 朝奈が泣きながらそう言った。
「別に朝奈のせいじゃない。ぼくが名前さえ書かなきゃこんなことにならなかったんだ。」
 そう。ぼくは知らなかったとはいえ人を一度殺してしまった。そのことは紛れもない事実だ。
「いつまでも過ぎた事を気にしないで運命を受け入れたらどうだ?」
「「全ての元凶のお前が言うな。」」
 まずバールがノートさえ落とさなかったらこういうことにはならなかったからな。でも確かに過ぎたことをいつまでも言っていても仕方ない。どうすればいいか考える方が先決かもしれない。
「少し頭を冷やして来る。」
 ぼくがそう言って出て行くと、バールまでついて来た。なんでも死神はデスノート所持者に絶対についていないといけないらしい。かなり迷惑な話だと思う。とにかく町の中を歩いてみることにした。バールは初めて見るものが多いらしくいちいち騒いでいた。黙らせようとも思ったけど、そうすれば他の人達から変な目で見られるだろうと思ってやめた。しばらくすると裁判所の前に来た。まだ裁判は始まっていなかった。傍聴席が空いていたので、証人になった時のために雰囲気に慣れておいたほうがいいと思ったので傍聴してみることにした。

 正直言って場に慣れる時間さえもなかった。裁判は検察側の圧倒的勝利に終わった。この裁判の担当検事はあの狩魔豪だった。カンペキを求める悪徳検事だとは聞いていたけど、まさかこれほどとは思ってなかった。検察側に都合がいい証人と、都合がいい証拠品しかなく、弁護側は証人から何も聞き出せない上、新たな証拠も見つけ出せずに終わった。こんな裁判では被告人の家族だって納得できるはずがないだろう。
「この悪魔!」
「人殺し!」
 周りからはそんな怒号が飛び交っていた。この言葉は全て狩魔豪に向けられていた。狩魔は全く周りの人の声が耳に入っていないかのように振る舞っていた。でもぼくには狩魔が苦しんでいるように見えた。彼の心の奥底では自分のカンペキを追い求めるあまり無罪の人を処刑台に送ってしまったのではないかという迷いが渦巻いているような気がした。そしてそんな自分の求めるカンペキを完全に打ち砕いてくれない弁護士に対する失望が見えた。彼の求めているカンペキは被告よりも自分を傷つけ、彼をその圧倒的な重圧で押しつぶしているかのように見えた。

⇒To Be Continued...

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