逆転−HERO− (1) | |
作者:
紫阿
URL: http://island.geocities.jp/hoshi3594/index.html
2009年05月01日(金) 15時51分37秒公開
ID:2spcMHdxeYs
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「あ、悪しき検事……」 「でもだけどっ!逆境であればあるほど恋の炎は熱く、激しく燃え上がり――そして始まる、奇跡の大逆転劇!目にも止まらぬ 「……」 『まよちゃんへ。 前略。やっほ、元気ぃ〜? 今度ね、わたしの所属する“劇団エデン”が、わたしの母校の“聖ミカエル学園”の学園祭で公演することになったんだよぉ。 あのね、わたし、今まで衣装係だったんだけど、初めて役をもらえて、トキメキの初舞台なんだ。 演目もね、三年前わたしが演劇部だったときの学園祭と同じ、思い出の“ロミオとジュリエット”なんだよぉ〜。チケット二枚、同封するね。 ゼ〜ッタイ、恋人の成歩堂龍一さんと一緒に観に来てねっ! 内容は悲恋ラブロマンスの王道だから、二人の“愛”もダンゼン深まると思うの! まよちゃんとまよちゃんの愛しい王子様に会えるの、楽しみにしてるよぉ♪ かしこ。 夜羽 愛美』 「……」 御剣さん、あたしが差し出した手紙を握り締めた手で頭を抱え、絶句。 「つまり、キミの友人は……今ここにいる私のことを成歩堂だと思い込んでいる上、その……恋人同士、だと?」 「ええと、うん。そんな感じの展開になってるん……だと、思う」 「闘い終わって夜が明けて、朝日煌く法廷で見詰め合う二人に下された判決は――愛!」 あたしが説明してる間も、まみちゃんのトゥルー・ラブ・ストーリーは止まらない。こうなっちゃうともう、物語が完結して意識が戻って来るのを待つしかないんだよね。 「……昔から好きだからなぁ、まみちゃん」 「何が、だろうか?」 「『 「?」 ……あ。うっかり。少女コミック誌の王道『月刊 ぼたん』で大人気連載中だった漫画なんて、さすがの御剣さんでも知らないよね。 「ええと、じゃあ……『東京トラブルストーリー』とか『101本目のプロポリス』とか『せきらら白書』とか『 「??」 あれ?御剣さん、ますますきょとんとする。あたしが中学生の頃に大流行してた恋愛モノのドラマなんだけど……テレビとかあんまり見ないのかな? 「――と、とにかく“王道ラブコメ大好きっ子”だったんだよ、まみちゃんは。 ドラマがあった次の日やぼたんの発売日は、お手製の登場人物相関関係図片手にまみちゃん大旋風が吹き荒れて、あたしは特撮ヒーローの話で大フィーバー!……みたいな」 「……それで、会話は成り立っていたのか?」 「うん。毎日楽しかったよ」 「それは……摩訶不思議な現象だな」 「永遠の恋の魔法にかかった二人は、やがて花びらの舞う教会で――あうっ!」 「しかし……大丈夫か、キミの友人は。だいぶ酔ってるようだが」 あ〜あ。御剣さんの眉間の 「御剣さんだってあたしを助けてくれたこともあるから、間違いじゃないカナ〜……って」 あたしは慣れっこだけど、取り合えず、フォローフォロー。 「……誰かしらに助けられているからな、キミは」 やや間があって、御剣さん、苦笑。あたしもにっ、と、口の端を吊り上げて。 「性分なのかも」 「才能だろう?」 「そんな戯れも恋のうち……きっと二人は運命の絆で結ばれていたのね。あうっ……!」 横を見ると、眩しいくらいの熱視線をあたしたちに向けているまみちゃんがいた。 「……とにかく、キミの友人は二重三重の誤解をしているようだ。何とか言ってくれたまえ。これ以上、その……暴走されては堪ったものではない」 御剣さん、ほとほと困った様子であたしに助けを求めてくる。う〜ん……あたしと恋人なんて間違われちゃ、やっぱり迷惑だよねぇ。 こほん。軽く咳払いなんてしながら、あたし、まみちゃんに向き直る。 「あ、その、ね……まみちゃん。あたしたちは何ていうか、そーいうんじゃ……」 「いけないっ、もうこんな時間!嗚呼、二人のラストシーンを胸にわたしは行くわっ!あ!それとぉ〜!演劇ホールはぁ〜!グラウンドの向こうの〜、円筒形の建物だからね〜……っ!」 けれど、既に身を翻していたまみちゃんは来た時と同じスピードで逆方向へ駆け出していて、その後姿はあっという間に見えなくなった。 「……行ってしまったぞ」 「行っちゃったねぇ……あ。でも、ホラ!ゴカイを解くのは後でも出来るよ。模擬店のヤキソバつつきながらでもさ」 ボーゼンとする御剣さんを、あたし、なだめて。……だけど、残念なことに。この時のあたしの願いは二つとも成就しなかった。 とってもお嬢さま学校の学園祭にはヤキソバ屋の模擬店なんてものは出てなかったことと、華やかな舞台の裏で密かに推し進められていた、新しい事件の幕開けによって。 『聖ミカエル学園』の演劇は地元でもスゴク有名なんだって。まみちゃんの手紙によれば、まみちゃんが居た頃でも演劇部には常に100人を超える部員が所属していて、主役を張るような人の演技なんて本当にプロ並みらしいの。 だけど、それだけスゴイ人が揃っちゃうってことは、逆に役をもらえない人は高校三年間ずっと裏方に埋もれてなきゃいけないってこと。……というか、ちゃんとした役を与えられる人の方が少ないみたいで、まみちゃんも三年間、雑用とか衣装作りとか――いわゆる“裏方”をやっていた。 学園祭やなんかで公演をするってことになれば、プロの劇団や芸能関係者もたくさんやって来て、その人たちの評価を得られれば即プロデビューも夢じゃないとか。 今回の舞台でジュリエット役を張っている『柚田 伊須香(ゆだ いすか)』という人も、三年前の学園祭で同じくジュリエットを演っていて、それを見に来ていた『劇団エデン』の座長さんからスカウトされたらしい。だから、あちこちに貼られたポスターや立て看板には『『柚多 伊須香 凱旋公演!!』』の文字が、これでもかというくらいに目立っていた。 『凱旋』って言うなら、まみちゃんだって『凱旋』だよね。伊須香さんとは一年遅れだけど『劇団エデン』に入ったし、普段は衣装係だけど、今回はメイドさんの役で出演するし――『夜羽 愛美 凱旋公演!!』の文字だってあってもいいんじゃない?(……と思ってこっそりマジックで書こうとしたら、御剣さんに止められちゃった) 公演は午前10時半からと午後3時からの二回、ある。まみちゃんからもらったチケットは10時半公演の指定席で、行ってみると高さも角度も抜群の位置だった。 あたしの経験から言えば、学園祭(中学校では『文化祭』と呼んでいたんだけど)で催されるイベントの会場といえば、体育館か屋外だった。板張りの床にパイプイスぎっしり並べて、前の方は床にマット敷いて、だるま座りで。椅子なんて全部同じ高さだったから後の方に座るお客さんは見にくかったと思うなぁ……。 だけど、さすが演劇の名門校は一味違う。だって、体育館の他に体育館よりも大きくて立派な『劇場ホール』があるんだよ?座席も映画館にあるようなクッションが効いたやつで、ステージに向かって下り階段状に据え置かれてるし、なんと二階席まである。きっとみんな、劇観ているうちにここが学校だってこと、忘れてしまうんじゃないかな。 あたしが劇場の内部に目を奪われているうちに開幕時間が来たらしく、厳かに、上演開始のブザーが鳴り響いた。うう、緊張……。こういうちゃんとしたとこって、前にも一度経験あるけど、落ち着かないんだよね。ウカツにくしゃみとか出来なさそうなんだもん。 けれど、その直後。あたしはそれが、要らぬ心配だったと気付いた。 緊張とか敷居の高さとか……そんな雑念、グラデーションの掛かった生地に歯周&ラメ入りのゴージャスな外幕が上がった瞬間、ゼ〜ンブ吹き飛んじゃった。 それほど、あたしは。目の前で繰り広げられる舞台に魅せられていたのだから。 そうそう――『ロミオとジュリエット』って言うのはね、スゴク有名な悲恋物語なの。 昔々あるところにとっても仲の悪い二つの家があって、一方には『ロミオ』っていう名前の一人息子が、もう一方には『ジュリエット』っていう名前の一人娘がいたのね。 二人はパーティーで電撃的な出逢いをして恋におちるんだけど、二つの家は敵同士だからとても困ったことになったわけ。それで二人は、知り合いの神父さんのところでこっそり結婚式を挙げることにしたんだ。ロミオは結婚式の日時を書いた手紙をスズランの花束に結び付けて、ジュリエットがよこした使いに持たせたの。 この“お使い”役が、まみちゃんだったんだよね。まみちゃんはちょっと緊張気味だったけど、セリフも詰まらずに言ってたし、メイドさんの衣装もキャップもとっても可愛かったし、何よりとても嬉しそうに演技してたから、あたしまで嬉しくなっちゃった♪ そんなまみちゃんの橋渡しもあって、二人はめでたくゴールイン。 だけど、幸せってのはあまり長く続かないみたいで、ここから先は坂道を転がり落ちるように不幸の連続! ロミオのお友達とジュリエットのイトコが大ゲンカして二人とも死んじゃうし、友達の敵を討ったロミオは遠い町に追放になるし、ジュリエットは親が決めた人と結婚させられることになるしで、二つの家の争いはよじれてこじれてもうタイヘン! そこへ強い味方、ロミオとジュリエットの結婚式を取り持ってくれた神父さんが登場! 場面は今、その神父さんが、絶望に打ちひしがれ『望まぬ結婚をするくらいならいっそ死ぬわ!』なんて悲嘆に暮れるジュリエットをなだめ『それだけの覚悟があるなら、ロミオと一緒になる秘策が無いこともない』と、何やらアヤしげな瓶を持って来たところ。 物語はまさに 神父『――よしよし、ジュリエット。今日はこれを持って家にお帰り。嬉しそうにして、結婚を承諾するのだ。そして婚礼の前夜になったら一人で寝むようにして、中の液体を一気に飲み干しなさい。するとたちまち冷たい眠りの体液が体中の血管を駆け巡り、呼吸は無くなり、手足も硬くこわばって、死んだようになる。唇や頬の薔薇色は褪せて蒼白い灰色へと変わり、目の窓が閉じる。死神が命の光を閉ざすときのようにな。 この死を装った状態が42時間続き、やがて目が覚める。まるで、今まで眠っていたかのような状態でな。あくる朝、花婿は眠っているお前を見て死んだものと思い、 お前が眠りから覚める前に私はロミオに事情を書いた手紙を送り、呼び戻しておこう。目覚めたお前はロミオと共に、その夜のうちに旅立つのだ――』 ……フムフム、要するに『結婚式なんて死んだフリしてやり過ごしちゃえ♪作戦!』だね。考えたなぁ、神父さん。がぜん盛り上がってきたところで舞台が暗転。 場面はジュリエットの寝室へと移る。ジュリエットはお母さんも乳母も追い払って、独り天蓋付きのベッドの上で、手にした瓶に視線を落としていた。 ジュリエット『……何だか気の遠くなりそうな冷たい不安が、血管の中を駆け巡って、生命の熱まで凍らせてしまいそうな気がする。もう一度お母様を呼んで、慰めていただこうかしら……それとも乳母を呼んで……いいえ!ここで乳母に何が出来るというの?! この怖ろしい一場は、どうあっても、私ひとりで演じなければならないのだわ!――さあ、薬の瓶よ!……でも、もしここで効き目がなかったらどうしよう?そうしたら明日の朝、結婚しなくてはならないのだろうか?……それに、もしこれが本物の毒薬だったら、神父様がそっと私を殺してしまおうとたくらんでおられるのだったら……?!』 きつく結んだ両手は蒼白い照明に映えて蝋のように白く、微かに震えて……あたしみたいに演劇を初めて観る人間にも、不安と恐怖に揺れ動く心の内がひしひしと伝わってくる。 ジュリエット『愛しいロミオ!貴方のために、私は行きます!愛よ、勇気を頂戴――!』 やがて意を決したかのように、虚空をキッと睨んで小瓶のクスリを一気にあおった。 ……ごく、ごくり。薬を飲み下す音に併せて白い喉が数回、上下する。 ごく、り……水を打ったように静まり返った劇場内にはうるさ過ぎるくらいの、音。 ジュリエット『ううっ、うう……!……あ、あああっ!あうっ……く、くはっ……!』 ⇒To Be Continued... |
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