逆転−HERO− (1) | |
作者:
紫阿
URL: http://island.geocities.jp/hoshi3594/index.html
2009年05月01日(金) 15時51分37秒公開
ID:2spcMHdxeYs
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赤レンガで彩られた『プラタナス』の並木道を、あたしと御剣さん、並んで歩く。 ウチワのように大きな葉っぱが、頭の上でざわざわ揺れて、たまーに丸い可愛い実があり下に転がってきたりする、大きな樹――『プラタナス』の並木道。 聞いたことのない名前だけど、プレートに書いてあるからね。『スズカケノキ科プラタナス属(スズカケノキ属)』の『スズカケノキ』『アメリカスズカケノキ』『モミジバスズカケノキ』……なんて、早口言葉みたいに。ふふ。 あたしたちの行く先を、何処までも、何処までも伸びる素焼きレンガの敷石。アスファルトみたいに冷たくなくて、砂利道みたいに不規則でなくて、いい感じの道。 御剣さんてば、優しいんだよね。ちゃんとあたしの歩幅に合わせて歩いてくれてる。だけど、全然ぎこちなくないんだよね。自然な足取りで……あ。今、落ち葉、踏んだ。 くしゃ。なんて、軽い音させて。くしゃ。ふふっ。 「楽しそうだな、真宵くん」と、御剣さん。 優しく微笑みかけてくれたりなんかして。 「――え、そうかな?あはは、は」 ……慌ててしまった。あたし、そんなにはしゃいでたのかなぁ。 だけど、あたしの足取りがこんなに軽いの、御剣さんのおかげなんだよ? 感謝してる。とても。だから今日、あたしはささやかな“お礼”を……ホントにほんのささやかな“お礼”を、することにしたんだ。 昨日――あれから結局あたしは御剣さんと一緒に御剣さんの部屋に泊めてもらった。 あたしがベッドを占領しちゃったから、御剣さんはソファで寝てくれて……あたし、トノサマン 出どころは、もちろんキッチン。焼きたてのクロワッサン、ベーコンエッグにグリーンサラダ。カフェ・オ・レのカップ。イチゴのヨーグルト掛けまで――テーブルの上に所狭しと並ぶモーニングを前に、あたしの眠気は一瞬で吹き飛んでしまった。 あたしがほけっと突っ立っていると、テーブルの向こうから声がした。 「ああ、真宵くん。おはよう」 「あ、御剣さん。おはよ……」 言い掛けて、はたと気付く。エプロン姿が妙に似合う御剣さんの両手には、フライパンとフライ返し……ってことは……え、ええっ?!これゼンブ、御剣さんが?! 「キミの口に合うかどうかは保障しかねるが……」と、照れ臭そうに、御剣さん。 「なななな、ナニ言ってんの?!……す、凄いゴチソウだよ!びっくりしちゃった!」 よ〜し、明日の朝はあたしが綾里家・朝の定番メニュー“ナットウゴゼン”作ってあげよっと♪ 「演劇鑑賞……?」 御剣さんの用意してくれたモーニングセットをこころゆくまで堪能し、一息ついたところであたし、切り出す。 「うん。――といっても、文化祭のイベントとして公演されるの、ね」 きれいに片付けられたテーブルの上に、ビラ一枚とチケット二枚、置いて。 「『劇団エデン公演 シェイクスピア戯曲 ロミオとジュリエット』……」 「あたしの中学時代の友達がね、その『劇団エデン』にいるんだ。それで今日、この近くの『聖ミカエル学園』っていう高校の文化祭で公演するから観に来ないって誘われたの」 「ほう」と、ビラを手に食後の紅茶を傾ける御剣さん。 「……もし良かったらだけど、さ」 本当は、なるほどくんでも誘おうかなって思ってたんだけどね。確かなるほどくん、大学の芸術学部でシェイクスピアの研究をしてたってちょっと聞いたことあるから。 (……だけど、いないんだから知〜らないっと) 御剣さん――きっといつも一流の劇場で一流の演劇を観たりしてるだろうから、文化祭のイベントに誘うのはちょっと気が引けたんだけど、たまにはこういうのもいいかなーって、思った。……ま、断られたらあたし一人で行くつもり。 なんてことを考えながら、ぼーっとビラの裏を眺めていると。 「よろこんで」 「え……?」 急に現れた御剣さん――あたしに向けて、ふわっ、と微笑む。 ふわっ。本当にそうとしか形容しようがない微笑だった。とても優しくて、あったかい。 だけど。あたしは一人だけ知ってる。“ふわっ”て、優しく笑いかけてくれる人を。 「そっか、御剣さんって……」 発見!あたしがまじまじと眺めると、御剣さんはちょっとくすぐったそうに身を引いて、 「ん、何だろうか?」 「お姉ちゃんに似てるんだ〜!優しいし、頼りになるし、ミソラーメンおごってくれるし」 ぱんっ。 あたしの合掌と御剣さんが思いっきりテーブルに突っ伏す音は、ナゼか見事に重なった。 「あれ……?どしたの、御剣さん」 「……い、いや。最高の褒め言葉をありがとう、真宵くん」 ちょっと赤くなった鼻の頭をさすりながら、苦笑いの御剣さん。 「うんっ!じゃあ、あたし……着替えてくるね!」 ――なんて経緯があり、あたしたちは今『劇団エデン』が公演に訪れるという『聖ミカエル学園』の構内を並んで歩いている訳で。 「でも、良かったよね。いい天気になって」 天気の話題なんて持ち出してみる。半分は照れ隠し、半分は正直な感想。 昨夜から早朝までゴロゴロいってたカミナリもすっかり遠ざかったみたいで、今は高い空いっぱいにいわし雲が広がってる。とってものどか、いたって平和な秋の朝。 「うム、そうだな」 御剣さんも空を仰ぎ、サラサラの前髪を涼やかな風に晒す。改めて思う。綺麗な横顔。……さっきから、すれ違う女の人がみんな御剣さんのこと振り返って見てるんだよね。 なるほどくんと歩いてても注目されることあるけど……髪型とか髪型とか髪型とか。あの注目とは次元が違う感じ。何ていうか、くすぐったいような、誇らしいような。 ワインレッドのタートルネックにチョコレート色のジャケットを合わせてすっきりと着こなして……襟を立てていても全然キザじゃないの、御剣さんくらいだよ? そんな御剣さんに合わせて、あたしも今日は私服。オフホワイトのセーターに、サーモンピンクのミニスカート。アクセントのリボンがとっても可愛くてお気に入り。……うん。まぁ、こういうときくらいは霊媒とか装束のことは忘れてもいいと思うの。 「その服――もしや、メイが?」と、御剣さん。 「うん。冥さんって、センスいいよね。またお礼の手紙、書かなくちゃ!」 御剣さんが『メイ』、あたしが『冥さん』って呼んでいる人は、現在アメリカに在住の検事“狩魔 冥(かるま めい)”さんのことだ。御剣さんのかつての師匠“狩魔豪(かるま ごう)”検事の娘で、御剣さんの兄弟子……って言うのかな。(女性なのに『兄』はどうかと思うけど)御剣さんは『妹みたいなものだ』って、いつか言ってたっけ。 あたしとは同い年で、でもあたしよりダンゼンすごくてステキでカッコいい(……過去にはいろいろあったんだけど)今はとてもいいお友達になった。海の向こうにいてもとっても好くしてくれて、洋服とかいろいろ送ってくれるんだ。 「……しかし、どうせ送るなら靴も合わせるべきだろう。完璧主義のメイらしくもない」 独り言のように言う御剣さんの視線はあたしの足元に注がれていた。上は私服なのに、いつもの素足にゲタ履きなのが気になったみたい。 「あ〜。ちがう、違うよ。御剣さん!冥さんはちゃんと靴……っていうか、ブーツ、くれたの。でもね……あたし、かかとが高い靴ってちょっとニガテなんだ〜。ホラ、ひっくりコケちゃいそうでさ。冥さんには悪いけど、内緒、ね」 あたしがぴっと指を立てると、御剣さんも苦笑い。 「うム。確かにキミの場合、ヒールの靴は不都合かもしれん。いつも賑やかに走り回ってるイメージがあるからな。全く、誰のせいかは知らんが……」 「うんうん。ダレのせいとは言わないけどさ〜」 それから程なく。プラタナスの並木道を抜けたあたしたちは、スズランが彫刻された金色の紋章を掲げる大きな白い建物(タブン、校舎だと思うんだけど)の前に辿り着いた。 「ほお。さすがは由緒正しき名門高校、壮観なものだ」 白い壁に淡いピンクの蔓バラを飾った、まるで物語に出てくるお城みたいな建物に感心しきりな様子の御剣さんをしりめに、あたしはビラで場所の確認。 ええと――『公演場所:聖ミカエル学園 演劇ホール』か。ドコだろ……?辺りをきょろきょろ見回していると。 「まよちゃんっ!」 遠くの方で声がした。あたしが『まよちゃん』なんて、マヨネーズみたいな呼ばれ方してたのはかれこれ五年ほど前になる。しかも、記憶にあるのは一人だけ。 「……まみちゃん?!お〜い!まみちゃ〜ん!」 声はグラウンドの向こうから響いてきた。体ごと向いて、思いっ切り手を振るあたし。そのど真ん中を突っ切って駆けて来た人影は、あたしの前でぴたり、と止まった。 ネコがプリントされたトレーナーにデニムのスカート、ラフなカッコの女の子。セミロングの髪の毛。前は黒かったのがキャラメル色になってて……染めたのかな? とてもよく似合ってる。それからこれは昔のまま、ぱっちりとした可愛い瞳を向けて。 「まよちゃん!やっぱりまよちゃんだぁ〜!久しぶりぃ〜!元気だった?」 この子、夜羽 愛美(よはね まなみ)――あたしは親しみを込めて『まみちゃん』なんて呼んでいる。 「うん、元気だよ!懐かしーよね、『まよちゃん』って。すぐ分かっちゃった」 まみちゃんとはあたしがまだ倉院の里のふもとの中学校に通っていた頃、友達になった。明るくて、頭が良くて、いつも笑顔で……そして、何よりお芝居が大好きで『わたし、恋愛ドラマのヒロインになるのが夢なんだぁ〜』って、チャームポイントの大きな瞳をキラキラさせて話してたっけ。彼女はその夢を叶えるべく、高校は演劇部が有名なここ『聖ミカエル学園』を受験、合格したの。 あたしは霊媒師の修行も佳境に入ってる頃で里に近い高校に通わなくちゃならくて、彼女とは離れちゃったんだけど、手紙や電話でのやり取りは割とあり、高校卒業後『劇団に入った』なんて話も聞いていた。だけど、こうして会うのはホントに久しぶりだった。 「チケット、ありがとね。あ、あと……三年前の文化祭、行けなくてゴメンね」 ……そ。実はあたし、三年前にも在学中の彼女に招待を受けてたんだよね。だけど、三年前の今頃と言えば――お姉ちゃんがあんなことになって、あたしもなるほどくんの助手になったばっかりで、トノサマンの撮影所で起きた殺人事件の裁判でバタバタしてたもんだから、結局行けず終いで……せっかくチケットもらったのに、悪いことしちゃった。 「いいんだよぉ!そんなの〜!むしろ今日来てくれた方が、ダンゼン嬉しいもん!」 だけど。久々に再会したまみちゃんは、気にした風もなくあたしの手を取ってぶんぶんっと上下に振りながら明るく笑った。この子の底抜けに明るいところ、あたし、大好き。 「そういえば、役もらえたんだって?スゴイじゃない、まみちゃん!おめでとう!」 「うん、そうなんだ!一場面だけなんだけどね。ジュリエット付のメイド役なの」 チケットと一緒に送られてきた手紙によれば、彼女、手先の器用さを買われてしばらくは“衣装係”をしていたのだけれど、今回めでたく初舞台を踏むのだそうだ。 「あたし、このカメラ付き携帯電話でまみちゃんの雄姿をばっちり撮るからね!」 「……あ〜、それはダメなの。上演中は撮影禁止なんだ」 「そっか……じゃ、そうだなぁ。今ここで撮っちゃおっか!はいっ、チーズ!」 あたしは大いに盛り上がっていたのだけれど、ふと気が付けばまみちゃんの視線は何故か落ち着きを失い、さまよっていた。そう――ちょうど、あたしの後ろ辺りを。 「あの〜……こちらの方は?」 まよちゃんの視線の先を辿り……あ、しまった。すっかり忘れてた、御剣さんのこと。 「……」 あたしたちのじゃれあいを遠目に、御剣さんは手持ち無沙汰の様子。 「あ、そうそうっ!あのね、まみちゃん。紹介が遅れちゃったけどこの人は――」 あたしは慌てて御剣さんの手を取り、まみちゃんの前に連れて来る。 ――と、まみちゃん。 「まよちゃんっ!」 きらきらきらきらっ。……あたしに詰め寄る彼女の瞳は、夢を語っていたあの頃より、何倍も、何十倍も星を帯びて輝いて。 「その方が噂のお相手、弁護士の成歩堂龍一さんなのねっ!」 「は……?」 「そう、今を遡ること三年前。殺人の疑いを掛けられ、囚われの身となった真宵姫を救うべく、颯爽と現れた黒髪の王子様!」 「お、王子……?」 「嵐のような出逢いを果たし、走り始めた二人の恋。ああ、それなのにっ……!そんな二人を引き裂かんが如く、悪しき検事の魔手が迫る!嗚呼っ、二人の命は風前の灯!」 ⇒To Be Continued... |
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