逆転の哀しき窓景色(1) | |
作者:
麒麟
2008年11月09日(日) 18時36分29秒公開
ID:vwMtiCpyPYk
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<停電記録> 10月9日午前0時52分、落雷によりホテル全エリア停電。 西エリアと中央エリアは午前1時8分に復旧。 東エリアは遅れて午前1時14分に復旧した。 牙琉はそのままエアギターで演奏と言ういつものお決まりポーズを決めると、それこそ華麗に一言。 「そういうわけさ」 その一言だけを聞くとさっぱりだが、その一言に至るまでの経緯を考えると、これほどまでに華麗な一言はないのかもしれない。 「ふむぅ・・確かに今の検察側の主張は完璧ですな。疑問の余地はない!」 裁判長がきっぱりとそう断言した。 「お、オドロキさん!なんか限りなく状況がまずくないですか!?」 みぬきがその言葉を受け焦り出す。確かに、これは今までの中で一番状況としてはマズすぎる。 「確かにまずい・・これは俺の裁判人生の中で一番まずい状況だよ」 せっかく見つけた矛盾、異議が検察側の1つの異議であっさりと打ち消され、尚且つこれ以上自分たちに反撃の余地がない。どう考えても有罪判決まっしぐらな審理状況だ。 「どうですか、弁護人?」 とここで、いきなり裁判長が王泥喜に向かって問いかけてきた。 「は、はい!な、なんですか・・?」 突然の呼びかけに王泥喜は戸惑う。 「検察側の主張ですが、完璧といっていいほど疑問の余地がありません。本法廷としては、ここで判決を言い渡しても十分だと考えます」 「・・え?」 それしか言葉は出なかった。というより出てこなかった。 「状況的に見ても被告しか犯人はありえず、毒の入手経路や動機にしても被告が犯人だと指し示すには十分すぎます。もし、弁護側にこれ以上の反証がないのであれば、判決を言い渡したいと私は考えます」 裁判長が事実上の有罪判決の決定を王泥喜たちに宣言した。 「・・な、何ですって!?」 いい加減水分も流し切ったか、冷や汗も出てこなくなった王泥喜。 「お、オドロキさん・・これってもう、みぬきたちが何も言わなかったら裁判終わっちゃいますよ!!」 「そ、そんなこと俺だって分かってるさ!!」 王泥喜は口ではそう言ってのけるが、実際何も思いつかない。茜のたった1度の証言だけでここまで詰み状態になるとはさすがに予想外だったと言えるだけに、何も策が思いつかないでいたのだ。 「せ、せめてさっきの茜さんの証言が完璧だったなら、今の牙琉検事たちの反論の中から矛盾を見つけるしかみぬきたちには手段がないですよ」 みぬきが言ったその言葉通りであった。もはや証言から矛盾が見つからないならさっきの異議に対する反論から問題点をあぶり出すしかない。 「さっきの牙琉検事の反論か・・(限りなく状態はまずいな、一発で俺が決められなかったら多分終わっちまうぞ!)」 みぬきの言葉から牙琉検事たちの反論を思い出す王泥喜。そこで何か見つけられなかったら裁判は確実に終わってしまう。 「どうですか、弁護人?何か検察側に対して反論はありますかな?」 そう言いながらも手には木槌を持っている裁判長、心の中が正直急く気持ちでいっぱいになってくる王泥喜。熱くなりすぎる頭を少し冷やしつつもフル回転で考える。 (牙琉検事たちの反論は2つ。犯行後に細田さんは自身の痕跡を消すために再び現場に侵入、その時、部屋のドアを開ける手段がなかったらベランダから侵入したということが1つ。もう1つは事件当夜停電が発生したから懐中電灯を使用したということだ) 問題はこの2つに何か付け入る隙があるかということだ。 (矛盾でなくてもいいんだ、何か問題点・・いや疑問点でもいい!それを俺が見つけることさえできればいいんだ!) 些細なことでも見つかれば何とかなるかもしれない。そういう思いがあった。 「王泥喜くん、そろそろ時間です。あなたの考えを伺います。何かこれまでの審理で反証すべきことはありますかな?」 有罪判決手前での最後のチャンスだった。 「べ、弁護側は・・」 緊張の余り出てくる言葉が重い。しかしここでやらなくては全てが終わる。王泥喜は意を決して叫んだ。 「べ・・弁護側はっ!!検察側の主張に対し疑問をぶつけることが出来ます!!!!」 「お、オドロキさん!!?」 王泥喜は腹をくくった。だが、その勢いが暴走したのかそうとうな大声となってそれは法廷中に木霊する。思わず隣にいたみぬきが耳をふさぐほどに。傍聴席もその声に何人かが耳をふさいでいる。 「そっ、そんなに大声を出さなくても聞こえていますぞ!!弁護人!!」 木槌を何度か叩いて法廷中のざわめきをとめつつ、裁判長も険しい表情で耳を押さえている。それは茜と牙琉も同様だった。 「あ・・す、すいません・・」 思わず照れ笑いをしながら許しを乞う王泥喜。だが、牙琉だけはえらく真剣な顔をしていた。 「威勢がいいのは最初だけ・・ってことかな」 「な、何ですって!?」 その言葉に眼をキッと牙琉の方に向ける王泥喜。だが、対する牙琉も負けていない。そもそも現在の状況ではまだ、検察側優位だということは変わっていない。 「いいかい?それだけ自信を持って主張するからには、それなりの覚悟があるんだろうね・・おデコくん」 そう言って拳を壁に叩きつけると一言。 「だったら、失敗した時のペナルティは派手にこれくらいにしてもらおうか」 「・・っ!!!!」 両手をこれ以上広げようがないくらいに広げている牙琉。つまりこれが意味することはひとつ。 「失敗したら、1発アウトってことですね・・オドロキさん」 「まぁ、そういうことなんだろうな」 余計にプレッシャーがかかってきた。 「よろしい、私もこれが弁護人に対する最後のチャンスと考えています」 裁判長がもう一度木槌を鳴らすと王泥喜に向かって一言こう告げる。 「では弁護人、あなたのいう疑問とやらを提示してください。ただし、それ相応の疑問であるということが、本法廷で審理を続けることの条件とします!」 「分かりました・・」 頷く王泥喜。完全に退路は断たれた。 「大丈夫ですか?オドロキさん?」 「大丈夫、何とか俺が切り抜けて見せるって」 不安そうなみぬきの気持ちをかき消すかのように王泥喜は笑って見せた。一番不安なのは自分だということを隠しながらの笑顔なのだが、もはやそんな気持ちでいる場合ではなかった。 「弁護側が主張する疑問点は、細田さんが再び現場に侵入したというその理由です」 冷静に頭の中を整理しながら話をしだす王泥喜。 「被告人が再び現場に訪れた理由ですか?」 裁判長が聞き返す。これに対しそうだと頷く王泥喜。牙琉と茜の主張で突っ込めるポイントは自然とここしか残されていなかったうえでの結果だった。 「そうです。俺は思うんですが、細田さんが現場に自分の痕跡を消すために再び現場へ侵入したという考えは、あくまで捜査本部の見解であってその証拠がないように思います」 その言葉に裁判長がハッとさせられる。そう、王泥喜は見つけていたのだ、検察側から何一つ細田が現場に自身の痕跡を消すために侵入したという根拠が述べられていないことに。 「弁護側は主張します!細田さんが現場に残してしまった痕跡とは何だったのか!?その証拠の提示を!!」 その人差し指を牙琉に突き付けて叫ぶ王泥喜。もはやそれしか道は残されていなかった。 「異議あり!おデコくんにしては大博打に出たようだけど、そんな証拠はなくても十分じゃないのかい?」 だが、牙琉の表情は一向に先ほどの余裕なままである。 「あくまで見解であって確かにボクたちはその証拠を提示していない。けど、そんなのは被告が実際に犯行から数分後に再びベランダを伝って侵入している目撃証言がある以上、動かせない事実なんじゃないかな?」 「ど、どういうことですか!?」 牙琉はやれやれといった顔で続ける。 「いいかい?あくまで痕跡を消すため・・ってのは想像だよ。これは認めるよ。けど、実際に被告が自分の部屋のベランダから事件現場に侵入しているのは目撃証言から事実なんだ。そして部屋から出てくるところも同様に目撃証言から事実。犯行後に侵入しているってことはもう、動かせない事実なのさ」 確かに、ここまで言われてしまってはそれは事実のように感じる。しかし膨大なペナルティが背後で待ち構えている以上、「はい、そうですか」とそのまま認めるわけにはいかない王泥喜。 「だから何なんですか!?あくまで憶測であって細田さんが侵入する理由としてはまだ不自然すぎます!!」 しつこく食い下がる王泥喜。だが、ここで牙琉が叫ぶ。 「だから逆なんだよ!!おデコくん!!」 眼が真っ直ぐと王泥喜を捕えていた。 「君はその理由が被告人・細田薬史が現場に再び戻る理由としては不自然だという。けどね、目撃証言がある以上確かに被告人は侵入しているんだ。それが分かったとき、危険を冒してまで被告が現場に戻る理由を考えたとき、君が不自然だと主張するこの理由しか残されていないんだよ、現場に戻る理由ってのはね!!」 「・・!!」 王泥喜はそれを聞いてハッとした。検察側の穴を見つけた気がしたのだ。 「ふむぅ・・確かに牙琉検事の言う通りです。目撃証言がある以上、被告人が侵入した理由は自身の痕跡を消すためとしか考えられません」 裁判長は唸っている。手にした木槌を再び持ちながらであることから、王泥喜の最後の主張が無意味だとも考えているようだった。 「というかそもそも、理由なんてどうでもいいと思うけどね。現場への侵入が見られている以上、それは動かしようのない事実なんだし」 茜がそれに続く。確かに見られている以上それは事実であるのは疑いようもない。 「お、オドロキさん・・今度こそ絶対絶命じゃないですか!!」 みぬきは王泥喜の最後の主張が打ち消されるのを感じ、再び不安な表情を見せる。だが、対する王泥喜の表情はと言えば・・ 「なるほどね」 笑っていた。しかもしたり顔だ。 「お、オドロキさん・・?」 その顔にはさすがのみぬきも?マークが頭の上をよぎった。 「弁護人、残念ですが・・」 「ちょっと待ってください、裁判長」 裁判長が有罪判決を言おうとした時だった。突然王泥喜がそれを言葉で制止した。 「・・?」 その顔がみぬきが見たようなしたり顔だったため、裁判長も思わず不思議がった。 「牙琉検事、細田さんが犯行後、現場を再び訪れた理由はそれしか考えられないと言いましたよね?」 「・・!? そ、そうだけど?」 また、その顔をみた牙琉も不思議がった。先ほどまで焦りの顔しか見せなかった相手が、余裕すら見せているような顔だったのだ。 「じゃあ、弁護側はそれ以外の可能性を示せればいいわけだ。細田さんが現場へ侵入した理由としてそれ以外の理由を」 なおも笑っている王泥喜。 「そ、それはどういう意味なのですかな?王泥喜くん?」 裁判長もさすがに理解できていないようである。 「つまり、俺が牙琉検事の主張する殺人の痕跡を消すために侵入した・・というのとは別の根拠を示せばいいんだろうと思ったわけです」 その言葉にポカンとする一同。 「し、しかし王泥喜くん。そんな可能性をあなたは・・」 「提示できるかもしれません」 「!!」 そうきっぱりと断言したことで法廷内がざわめきだす。 「静粛に!静粛に!そ、それはどういうこと・・」 「異議あり!おデコくん・・さっきからずっとそうやってメチャクチャなことを言ってくれてるけど、そろそろ終わりにしてくれないかな?」 牙琉検事が痺れを切らす。確かにさっきからの王泥喜は反論はしつこい。 「心配しなくても、それも今度で終わりますよ。牙琉検事」 だが、この反論こそがどうも本命のようだった。その証拠に王泥喜の言葉は自信に充ち溢れている。 「オドロキさん、出来るんですか?細田さんが現場に侵入したもう1つの可能性なんて・・」 「・・・・(ここが正念場、俺の考えが間違っていなければこれが正しいはずだ)」 そして被告席に座っている細田を見る。 (これがもし事実なら、俺たちに心を開かない細田さんの言動にも納得が出来るはずだ!!) 王泥喜は確信した。この事件における細田薬史という人物のポジションをはっきりと。 「いいでしょう!では弁護人に提示してもらいます。被告人が再び現場へと侵入した理由。しかも、検察側は先に示した可能性以外のものを!!」 木槌をならした裁判長は、王泥喜に今度こそ最後の通告をする。これがもし失敗したら、今度こそ有罪判決だという意思をはっきりと見せつけた上での通告だった。 「分かりました、弁護側は提示しようと思います。そのもう1つの可能性、それが隠されている証拠を・・」 ⇒To Be Continued... |
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