逆転の哀しき窓景色(1) | |
作者:
麒麟
2008年11月09日(日) 18時36分29秒公開
ID:vwMtiCpyPYk
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運命の悪戯なのか? 窓から見えたあの景色は全てを狂わせたのです。 最後まで彼は自身の計画を狂わせてくれたのです。 何とかしなければ、そう思いました。 自身の頭をフル回転させて、それでかつ冷静に物事を判断する必要がありました。 どうすればこの苦しみに塗れた運命の歯車から逃れることができるのか? その結果、自身の脳内に導き出された答えは一つしかありませんでした。 第1章・想像以上に苦しめられる法廷劇 10月10日 午前10時 地方裁判所 第7法廷 開廷前の法廷というものはいつものことだがざわざわとしている。 ただ、王泥喜がそこでいつも思うのは、きっと目の前の男のファンが多いからではなかろうかということだ。目の前の男・・言うまでもない。牙琉響也のことだ。 「相変わらず女性の傍聴人が多いですよね」 「まぁね・・だから毎回やりにくいんだけどさ」 みぬきと王泥喜のこのやり取り。きっと王泥喜のほうは本心で言っているのだろう。 「どうしたんだい?ずっとこっちを見つめて・・ボクはさすがにそっちの気はないけど?」 とか何とか思っていたら、牙琉検事からの思わぬ言葉。 「何言ってんですか・・」 いきなり出だしから狼狽する王泥喜。まさしくキラーパスだ。 「んー、みぬきじゃなくてオドロキさんの視線を感じるなんて、牙琉検事ってひょっとして・・」 「みぬきちゃん、これ以上言うのはやめときな」 みぬきのこれから言わんとする一言で、牙琉検事が機嫌を損ねるかもしれないと察した王泥喜は、法廷でとばっちりを食らうのはごめんだと言わんばかりにみぬきを制した。 「おっと、もうお揃いのようですな」 とまぁ、そんなこんなで弁護席と検事席の間で妙な空気が流れようとしだした時、遅れてやってきた裁判長がそう言いながら席に着いた。 「少し遅れてしまいました。申し訳ありません」 そう言って咳払いをすると木槌を何度かカンカンと叩く。ようやく法廷内は静まり返った。 「静粛に。只今より、“細田薬史”の法廷を開廷いたします。弁護側、検察側ともに、準備はよろしいですかな?」 この言葉でいつもの法廷は始まりを迎える。 「弁護側、準備完了しています!!」 発声練習の成果をいかんなく発揮する王泥喜。裁判長は耳を押えるが、もはやいつものことなので何も言わない。 「検察側はいつでもOKさ」 対する検察側の牙琉響也。彼はこう言うとエアギターを奏で始める。 「この会場をホットにする準備はとうに出来てる。ノッていこうじゃないか。熱く!」 そう言うと、別に演奏がされているわけでもないのにあのテーマ曲。「Love Love Guilty」が聞こえてくる感じがする法廷。一気にボルテージが上がり彼のファンの歓声で法廷中は熱くなっていく。 「そうですか、ならばよろしい」 もはや裁判長。こちらもいつものことなのでもう驚かない。 「なんだか裁判長、もう完全にこの2人に慣れちゃったみたいだなぁ・・」 みぬきだけが裁判長の様子を見ながらその事実に気づいていた。 「では牙琉検事。冒頭弁論をお願いします」 カン!と木槌を1回鳴らし、法廷内の彼のファンの歓声を打ち消すと、裁判長はそう話を進めた。 「OK。今回の事件は至ってシンプルな話さ。被害者は金賭黒吉。金融業者の社長だけど、所謂闇金業者の社長だと言った方が話は早い。結構ワルな噂もあったようだしね」 闇金業者の社長に、その辺のチンピラに対して使うようなノリでワルだという牙琉に若干違和感を感じる王泥喜。まぁ、いつもの調子で彼は話しているだけなのだろうが。 「それでまぁ、その被害者の会社に借金をしていたのが今回の被告人・細田薬史だったというわけさ。彼は事件当日、被害者の泊まっているスターセブンホテルで借金の返済に関する話をする予定だった。ただ、そこで何らかのかたちのトラブルが起きたみたいだ」 何らかのトラブル・・それが起きたのは言うまでもないだろう。牙琉検事は続ける。 「その結果、金賭黒吉は殺されてしまった。そして検察側はその犯人こそ被告人だと断定、逮捕したわけさ!」 そう言って細田の座る被告人席に指を突き付ける牙琉検事。 「ほぅ・・そうなのですか」 裁判長はいつものように深く頷くと話を続けた。 「それで、その被告人を犯人だと断定するに至った証拠とは何なのですかな?」 そこなのである、話を聞く限り被害者に動機を持ちうる人物はたくさんいそうなのだ。王泥喜としてはその辺の事情を詳しく知りたいところなのではあるが。 「OK。じゃあ裁判長!早速検察側は証人を呼ぼうと思うけど、いいかい?」 まぁ、やはりそこは証人の登場だろう。 「いいでしょう。では牙琉検事。早速証人をお願いします」 木槌で場の空気を元に戻すと裁判長は、高らかにそう告げた。 「じゃあ、検察側はまず現場の捜査指揮にあたった刑事クンを呼ばせてもらうよ」 牙琉検事のこの言葉で最初の証人は分かった。 「ということは、茜さんですね」 「そうらしいね」 王泥喜とみぬきはまだ誰もいないその証言台を見つめながらそう言った。 証言台に宝月茜が立っている。 「じゃあ刑事クン、一応社交辞令ってことで名前と職業をお願いするよ」 「言われなくても分かってるわよ」 相変わらずこの2人はどうも相性がよろしくない。 「なんか機嫌悪いですよね。茜さん」 「確かにな、事件の内容的には大好きな部類だと思うんだけどなぁ・・」 不機嫌な理由・・それはまぁ、牙琉ともともと相性が合わないだろうからと思われはする。 「宝月茜。所轄署の刑事をやってるわ」 そんなこんなで不機嫌な茜の自己紹介が終わったところで、牙琉検事が語り出す。 「じゃあさ、早速証言してよ。今回の事件について、そのあらましってやつを」 あらまし・・確かに気になるところだ。 「そうですな。では証人、今回の事件のあらましについて証言してください」 裁判長のその一言で、宝月茜の証言が始まる。 「・・分かったわよ」 そんなこんなで、不機嫌な宝月茜の証言が始まった。 証言開始 〜事件のあらまし〜 「事件はスターセブンホテルの1305号室で発生したわ。被害者がその部屋に事件当夜から宿泊する予定だったそうよ。 このホテルは被害者お気に入りのホテルでもあったらしくて、よくそこに債務者を呼んで借金返済の話をしていたみたいね。 被告人もその日は今月分の借金の返済分をここで被害者に直接返す予定だったみたいよ。ただ、事件はその返済の時に起こったらしいわ。 事件当夜の午前1時15分頃、不審者が1305号室から出てくるところを目撃されていたの。 しかもそれだけじゃなく、外からも1305号室前で不審者がいるのが目撃されていた。 その不審者目撃情報から、ホテルの従業員が1305号室の客である被害者のところへ向かったの。 そして何度か呼びかけたけど返事がなかった。それでいてドアには“起こさないでください”の札もかけられてなかった。 さすがに様子がおかしいと思った従業員がマスターキーで部屋を開けて中に入ってみると、そこにはこと切れた被害者が横たわっていたわけ。 通報でかけつけたあたしたちは、現場に残された遺留品とその目撃証言から犯人を被告人と断定、犯行手段から考えても被告人しか犯人はありえないと考え逮捕したわ」 どちらかというと長めの証言だった。 裁判長は唸る、理解できているのか怪しいところだ。 「ふむぅ・・そうですか。では弁護人、尋問を」 その口調から理解はしていないようだ。そしてそれは弁護側も同じなわけであって。 「どうも大切な部分がはっきりしないな。これ」 「そうですよね・・どっちかっていうとあやふやで気になるところばかりです」 王泥喜とみぬきもイマイチだ。 「とりあえず、揺さぶって情報を収集した方がいいみたいだな」 何もかも分らない状態で、とりあえず尋問をスタートすることにする王泥喜だった。 尋問開始 〜事件のあらまし〜 「茜さん、被害者はこのホテルは被害者のお気に入りということですが、常連だったというわけですね?」 「まぁ、そういうことになるんじゃないかしら?」 王泥喜の突っ込みにそう答える茜。逆に?マークを付けられても困るのだが。 「まぁ、証言にもある通り被害者は借金返済などの仕事もここでしたいたみたいだからね。相当の常連だということは分かってるよ」 牙琉検事が代わりにそう答えた。またこうも言った。 「だからこそ、被害者は寝るときはちゃんと札をドアの前にかけることも知っていた。従業員はその事実から札をかけていないのに返事がない被害者を不審に思ったわけさ」 なるほどな・・と思った王泥喜。これで札に関しては完全に突っ込みどころがなくなってしまった。 「ということは、半分仕事場みたいな感じだったわけですか?」 ただ、ホテルを仕事場代わりに使っていたとなると他に何か分かることもあるかもしれない。王泥喜はさらに突っ込んだ質問をしてみる。 「一応、被害者の会社の人間の証言はあるから、そう思っても間違いないと思うわ」 それは茜の言葉だった。 「出来る男は仕事場を選ぶ。ボクもあの部屋じゃないと作曲活動ははかどらないからね」 (聞いてないしあの部屋って何だよ!?) 聞いてもいないその牙琉検事の言葉に静かに突っ込む王泥喜。 「ほら、汚くてモノがごちゃごちゃした部屋じゃ何もはかどらないだろ?」 「うっ・・!!」 だがその牙琉検事が続けて言った言葉に詰まる王泥喜。何かがグサリと刺さっていた。 「確かにうちの事務所、ちょっと散らかってますもんねぇ・・」 みぬきが成歩堂なんでも事務所の光景を思い浮かべながらそんなこと言った。 「そ、それで!!1305号室前でウロウロしていた目撃証言とありますが!それは間違いなく細田さんだったんですね!?」 何となくこれ以上自身の事務所のことまで話題にのぼっては面目丸つぶれな王泥喜は、あたふたしながらも次にそう突っ込んだ。 「それに関しては間違いないわね。はっきりとホテルの従業員に顔を見られてるわ」 だが、その状態でのその質問はさらに状況を悪化させた。 「・・・・ええぇっ!!!?」 顔を見られている。予想以上に致命的な証言だった。 「お、オドロキさん!!早速マズイじゃないですか!!」 みぬきの言葉にその通りしか言えない王泥喜。 「ふむぅ、これは致命的な証言ですなぁ」 裁判長の心証が限りなく有罪に傾いた瞬間でもあった。 「うぅ・・まずいな」 王泥喜は開廷5分で早速冷や汗まみれだった。 (ただ、もう一つ気になるポイントがあるんだよな・・) その気になるポイント・・言うまでもなくこの部分だった。 「あの・・茜さん、外からの目撃ってどういう意味ですか?」 そう、外からの目撃というこの一言。それがよく分からないのだ。 「どういう意味って・・どういうこと?」 話にならねぇ!!そう思った王泥喜。 「だから、言葉通りの意味ですよ。外から1305号室を見ていた人がいたってことですか?」 改めて説明しなおした王泥喜。これを聞いてようやく理解したのか茜が答える。 「あぁ、そういうことね。えぇ、外から見ていた人がいたのよ。ちょっと現場のスターセブンホテルの上面図を見てくれる?」 そう言うと茜の手で上面図が広げられていく。王泥喜たちと裁判長のところには法廷係官がコピーを持ってきた。 「このスターセブンホテルは西エリアと東エリア、それに中央エリアの3つに客室が分かれているの。被害者がいた1305号室は東エリアにあるわ」 図によるとこのホテルは、大きな“コの字型”になっている。そしてそれぞれその真っ直ぐな直線部分が西・東・中央エリアと分かれていた。 「客室の窓は全部、“コの字型”の内側部分にあるわ。だから、西エリアと東エリアの客室は窓を通じて丸分かりになるの。つまり、覗こうと思えば覗けるわけ」 身も蓋もない言い方だが、そう言うことにはなるのだろうと思った。 「で、西エリアの宿泊客が見ているの。東エリアのちょうど被害者が泊まっていた1305号室の窓・・およびベランダ付近で不審な動きをしてた人物を」 「・・・・はい?」 それまで普通に話を聞いていた王泥喜だったが、そこで動きが止まった。 「ちょ、ちょっと待ってください。そんな遠くの光景でどうしてそれが細田さんだと思われてるんですか?」 当然の疑問だった。だが、牙琉検事はニヤニヤしていた。嫌な予感がどうもよぎる。 「だって、その宿泊客は見ていたのよ」 茜の言葉がさらに弁護席をヒヤリとさせる。 ⇒To Be Continued... |
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