≪それぞれの逆転≫ 神乃木被告の裁判
作者: カオル   URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/   2010年02月28日(日) 20時56分32秒公開   ID:P4s2KG9zUIE
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この裁判は、“倉院流霊媒道”の家元争いが背景にある事件だ・・・
でも、本当にそうなんだろうか・・・?
皮肉な運命にあやつられた二人の男女のエピローグのような気がする・・・



「・・・うん、今日、会って来たよ。大丈夫だよ心配いらないよ。真宵ちゃん」
『でも、明日の裁判アタシ証人として法廷に立つことになるから
もし、ヘンなこと言ってゴドー検事・・・神乃木さんの罪が重くなったらって思って・・・』


事務所のブラインドの窓越しに差し込む傾きかかった陽に眼を細めながら
成歩堂龍一は倉院の里にいる綾里真宵と電話で話をしていた


「真宵ちゃんは、そんなこと心配しなくていいんだよ。
問われた事に正直に答えれば・・・あとはボクの仕事だから」


・・・それでも・・・


「神乃木さんは罪を認めているから、そんなに長い裁判にはならないと思うけど・・・
ただ、事件の背景に“霊媒”という特殊な事情があるからね
今回は事前に裁判官と検察官とボクと三者で話し合って、《あやめさん》の裁判の時と同じ、
アノ裁判長が担当してくれることになったから、その辺は助かったかな・・・」
『神乃木さんの裁判を担当する検事さんって、もしかして《御剣検事さん》?』

「いいや、アイツは今、日本にいないよ」
『じゃあ、担当する検事って?』

「・・・亜内検事だよ」
『えっ!! うそぉーーーッ!!!!!なるほどくん、楽勝じゃん!!』

「それ、亜内検事に対して失礼だぞ・・・。
でも、やっぱり争点になるのは計画性のある殺人かどうか、という事かな・・・」
『ふーん、ゴドー・・・神乃木さんはその点について何て言っているの?』

「うーんと、確か“オーダーしたコーヒーに、砂糖やミルクが入っていたとしても、
少しでも口をつけた以上、責任をもって飲み干さなきゃいけねえ”って」
『・・・ナニそれ・・・?』

「多分、殺意はなかったけれど、今さら言い逃れするつもりはない・・って、事かな?」
『・・・相変わらずだね・・神乃木さん・・・なるほどくん、神乃木さん事は頼んだよ!
もしかしたら、アタシのお義兄さんになったかもしれない人だからね!!』

「ハイ、ハイ」
『それと、なるほどくんにお願いがあるんだけど・・・・・』




某月某日 午前9時45分 地方裁判所 第2法廷



裁判官、検察官、弁護士がそれぞれの席で開廷を待つ。
しばらくして裁判官が座る法壇側の奥のドアから被告人が
警察官二人に挟まれて入廷してきた
腰に縄をかけられて、両手には見るからに重そうな手錠が光る。
これが刑事裁判の被告人となった者の現実・・・
検事としての彼を知っている成歩堂には辛い光景だった
やがて、腰縄と手錠を外され弁護士の隣にある被告人席へと落ち着く



「おはようございます。神乃木さん」
「よう、まるほどう。今日はよろしく頼む、な・・・」


長身で白い髪の男が銀のマスク越しにニヤリと笑った


「昨日もお話ししましたが、検察側は計画性を立証してくると思います。
こちら側はあくまでも偶発的に起こった事件であると・・・」


こんな説明は釈迦に説法だろう、
なんといっても彼は元弁護士にして元検事なのだから・・・


「すべて、アンタにまかせたぜ」
「・・・出来るだけのことはやってみます」

「オイオイ、まずい弁護しやがったら、被告人席からでもコーヒーおごっちゃうぜ」


( ううっ・・やりにくいなあ・・・ )


裁判長の木槌が高らかに打ち鳴らされた。
「ただ今より、開廷いたします。被告人は前へ」

弁護士の傍らに座っていた被告人は中央の証言台へ向かった。

「まず初めに被告人、名前と職業を」
「ゴドー、こと神乃木荘龍、元検事だ」

「では、検察官、起訴状の朗読をお願いします」


おずおずと、本日の担当検事である亜内検事が立ち上がった。
年の頃は五十代であろうか・・・薄くなった頭髪に、広い額。
その額に手をあてて話をするのが彼の癖だ


「元検事であるアナタと・・このようなカタチでお会いするとは・・・残念ですな」
「俺もまさかアンタのお世話になるとは、思ってもいなかったぜ」


かなりのベテラン検事であるはずだが
なにかパッとしない印象がぬぐえない
押しの弱い、神経質な彼の人柄がそのような印象をあたえるのか・・・

亜内は資料の中から起訴状を手に取り読み上げた


「被告人は某年2月7日、午後10時頃、《奥の院》離れにおいて
“綾里舞子”を刃物で殺意をもって背後より刺し、出血死によって殺害したものであります
罪名および罰条、殺人、刑法百九十九条を適用するものであります。以上です、裁判長」


( 殺意をもって・・やはりそうきたか・・・ )



裁判長の黙秘権の説明のあと、起訴状について間違いないかどうか
被告人である神乃木に確認をする。


「俺は、自分でやったことに対して、今さら言い逃れはしねえ」
「では、検察側の起訴状どおり、犯行を認めるのですね」



( ええっっ!! 神乃木さん、裁判終わっちゃいますよ!!! )



「だが、“殺意をもって”これを認めると、一緒に罪を覚悟して協力してくれた
葉桜院の“あやめ”ってコネコちゃんの裁判にも影響する・・・
悪いが、そこだけは否認させてもらうぜ」



( まったく、開廷3分でもう冷や汗かよ。先が思いやられるなあ・・・ )



ドンッ!


成歩堂は気を取り直して、勢いよく弁護人席を叩いた。


「裁判長、弁護側はただいま被告人が述べたとおり
あくまでも偶発的に起こった殺人であると主張します」


計画的な殺人と、偶発的に起こった殺人では量刑が違って来る
なんとしても偶発的であることをみとめさせなければ…



ここからが、本当の・・・この裁判が始まる!




「わかりました。では、あらためて事件の経緯について検討する必要があるようです。
亜内検事、今一度くわしい説明をお願いします」

「はい・・・本件は“倉院流霊媒道”の家元争いを背景にしたものであります。
倉院流霊媒道”とは代々、女子のみが継承するもので―――
本家の長女が継承するものであります。しかし、長女をしのぐ霊能力を持つ
次女の“綾里舞子”が家元を継いだことから、この事件は端を発しているのであります」

「ウム、それで…」

「次女である“綾里舞子”に家元の座を追われた
長女である“綾里キミ子”は家元の座への執念を捨て切れず、
我が子である“綾里春美”に家元を継がせる為、
離婚した元夫に引き取られた実子である“美柳ちなみ”と協力し
本家次期家元である“綾里真宵”を殺害しようと計画した
・・・以上が事件の背景です裁判長」

「大変、込み入っていますなあ・・・」



( 確かに、込み入っているよなあ・・・やっぱり《逆転裁判1〜3》をプレイしていないと
とても理解出来ないよなあ・・・ )



「裁判長!」
「なんですかな弁護人?」



「今回の事件は、確かに倉院流霊媒道の家元争いにまつわるものですが、
具体的に“倉院流霊媒道”とはどのようなものなのか・・・
その点を明らかにしなければ、この事件を理解することは不可能です!」


「検察官、今の弁護人の主張をどう思いますか?」
「その点に関しましては本日は証人として事件の被害者でもある、
現“倉院流霊媒道”家元“綾里真宵”を証人として召喚しております」


(いよいよ、真宵ちゃんが出てくるな・・・)


しばらくして法廷係官に導かれた綾里真宵が緊張した面持ちで入廷してきた


「証人は前に出て下さい」
今まで法廷で何度も成歩堂の傍らにいた
この“顔見知り”である証人に裁判長は穏やかな口調で語りかけた。

「名前と職業をお願いします」
「綾里真宵です。倉院流霊媒道の家元です・・・」

宣誓書を読み上げ、偽証罪についての説明を受ける彼女と一瞬目が合った


( 大丈夫、真宵ちゃん、ボクがついている )


「本日、証人からお聞きしたいことは、事件が倉院流霊媒道にまつわるもである
という点です。倉院流霊媒道がどういうものであるかご説明ねがえますかな?」
「ハイ、本来霊媒とは死者の魂を霊媒した者の身体に乗り移らせるものですが
倉院流は死者の魂が憑依すると、霊媒者の身体も変化して霊媒した死者の身体に
変化するのが特徴です・・・」


自慢の髭を撫でながら、証人の話に聞き入っていた裁判長は深いため息をついた。



「ウム・・にわかには信じがたい話ですな」
「さっ、裁判長! わっ、私はこのような話とうてい信じる事などできませんゾ!!」
ヒステリックな甲高い声で、亜内検事が異議を唱えた。


「裁判長!」
成歩堂も負けずに、異議を唱える。


「実際にここで証人に倉院流霊媒道をお願いしてみてはいかかでしょうか?」
「・・・証人、いかがですか?」

( 家元を継いでからは日々厳しい修行を重ねていると聞いている・・・
彼女の霊能力は以前のそれよりもレベルアップしているはずだ )


「・・・わかりました」



倉院流家元は両手を身体の正面で合わせ、意識を集中した・・・






・・・法廷内が静寂につつまれる・・・






・・・そして・・・・





『・・・・・かみ・・・の・ぎ・・さん、ワタシは覚悟を・・決めていました・・・
結果がこうなろうとも・・決して後悔はしていません・・・』


「!!!」


突如、年配の女性の出現に法廷内がどよめいた。

『・・本家の血を・・・真宵を・・守ることが出来て私は満足です・・・』



( 綾里舞子・・・!!真宵ちゃんはお母さんを霊媒したんだ! )



「静粛に! 静粛に!!」


裁判長の木槌が鳴り響く・・・
「従えない傍聴人には、退廷を命じますゾ!!」

アブラ汗まみれになった亜内が呻いた
「裁判長!こっ、これは・・・いったい?!」

ここぞ、とばかりに成歩堂は質問した
「あなたは、綾里舞子さんですね・・?」

『成歩堂さん、娘が・・真宵が・・いつもお世話になっております』
「あっ、いえいえ、こちらこそ・・・」
不意を突かれて弁護士は頭をかいた・・・

「異議あり!!こっ、このようなこと・・・到底受け入れることは出来ませんゾ!!」
亜内検事は真っ赤になって憤慨している。



ことのやり取りを見て、被告人席に戻っていた神乃木荘龍が
コーヒーの入ったマグカップを片手にニヤリとしてつぶやいた



「検事席だろうと、被告人席だろうと・・どこにでも現れる
“ゴドーブレンド107号”の不思議にくらべれば、まだまだ、だな」



騒然となった法廷内が、ようやく静まったところを見計らって
裁判長は証人である霊媒師に質問した


「証人・・あなたはいったい・・・」

『・・あら裁判長・・お久しぶりです・・』
「あっ、あなたは!!」



「ぎえーーーーーーーーッ!!!!!!!」



検察側から悲鳴が上がった。その声!・・そのオッパイ!
亜内の脳裏に在りし日の女弁護士の姿が蘇った。


「あっ、綾里千尋ッ!!!」
「千尋さん!」


( 真宵ちゃん、今度は千尋さんを呼んだのか )


「そっ、そんな馬鹿なーーーーーーーーッ!!」


( あーッ! 亜内さん髪の毛、飛んだゾ )



「・・・千尋・・・」
今まで被告人席に座り、ことの成り行きを静観していた神乃木が口をひらいた


『・・・先輩、お久ぶりです・・・』
「アンタ、変わってねえなあ・・・」


『お会いしたいと思っていました』
「俺はオマエさんに顔向けできねえことをしちまった・・・すまない」


( 千尋さん・・・きっと、誰よりも神乃木さんを心配していたんだろうな・・・ )



成歩堂は弁護人席から恋人同士であった二人を見て、運命の皮肉さを思った



これ以上、霊媒道について審議を必要としないと判断し、
犯行当時“計画的殺意”があったかどうかに争点が絞られた


「弁護側は・・・被告人は《奥の院》離れで事件に遭遇し、
助けを求めてきた綾里真宵を守る為に、美柳ちなみに反撃した、
という主張を変えるつもりはありません!」

「異議あり!倉院流霊媒道は霊媒をすると姿が変わるのは、
先ほど証明されたはずです。で、あるならば被告人には“美柳ちなみ”の姿をしている
“綾里舞子”だという認識はあったはずです!!」



弁護側にとって、この点は一番のウィークポイントだった
神乃木当人にしても、この時の自分については“ 今となっちゃ、わからないのさ ”と
言っているのだから



「・・・まるほどう・・・」
「神乃木さん、なんですか?」


被告人席で、新たなコーヒーに口をつける元検事が言う

「俺の身体は、現代医学のおかでなんとかなっているような状態だ
この先どれだけ寿命があるのか・・・以前、アンタに向かって放り投げた
白いマグカップのような心境でいるんだぜ」


「俺は今、“神乃木被告の裁判”を楽しんでいるのさ。
自分の命を賭けて最高のギャンブルをしているんだ―――




いいか、まるほどう・・・








オマエさん“逆転裁判”の主人公なんだろう?









さぞかし今まで多くの“逆転”を成功させてきたんだろうなあ










だったら俺を変えられるか?俺自身を逆転させられるか?









・・・そうでなければ、いくら極刑をまぬがれたとしても
本当の真実にはたどり着けないぜ!」

⇒To Be Continued...

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