≪それぞれの逆転≫ 神乃木被告の裁判
作者: カオル   URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/   2010年02月28日(日) 20時56分32秒公開   ID:P4s2KG9zUIE
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「神乃木さん!」
「見せてもらおうじゃねえか!あんたの腕前とやらを!」



「弁護側、今の検察側の主張について、ご意見は」
「もちろん“異議あり”です」



成歩堂は今までにない強い力で弁護人席を叩いた



「もし、あらかじめ殺害を計画していたなら、
なぜ被告人は凶器を持参していなかったのでしょうか?
・・・実際に使用された刃物は綾里舞子が杖に仕込んであった刃物です!
綾里舞子が美柳ちなみを霊媒したのは、被告人が立てた計画外のことです!」



裁判長は話を聞きおわると、被告人にむかって呼びかけた


「被告人は前に出るように」
再度、被告人は前に立つ


「では弁護人、最後に・・被告人への質問はありますか?」
「はい」




( これが最後の・・・質問になる )




「これからいくつか質問させていただきますが、
被告人は質問に対しては、横を見ずに真っすぐ裁判長の方を見て答えて下さい
被告人は、美柳ちなみに毒を飲まされ、以来ずっと寝たきりの状態にあった
それがもとで大変に視力を失った・・間違いありませんか?」
「ああ、失ったのは視力だけじゃないぜ。赤色を見る能力、髪の色
・・・それと“生きがい”かな」

「生きがい・・・具体的にいうと?」
「俺に一服盛りやがった犯人は・・・もうすでに、すべてが終わったあとで
待っていてくれるはずだったオンナは、もうすでにこの世にはいなかった・・・
俺が目覚めたとき俺を待ってくれる者は、だれもいなかったのさ」

「それで、あなたはどうしたのですか?」
「わかってんだろう? あの時、千尋を守ってやれるのは、アンタしかいなかった!
俺は弁護士から検事に転向した。そして倉院流本家のお家騒動を利用して
・・アンタに復讐しようとしたのさ!」



その時、証人の方から声が上がった



『・・・あの、弁護士さん、ちょっとよろしいですか?』


家元は一部始終を未だ、千尋を霊媒した状態で聴いていた。
『私の方から被告人に質問があるのですが・・・』


( ・・・千尋さん・・・ )


「証人、どういった質問ですか?」
『誤解を解きたいのです・・神乃木さん、
私がなぜ“成歩堂龍一”を自分の事務所に迎えたか、わかりますか?』



( えっ?! そういえば採用理由、聞いた事なかったな・・・ )



『私は霊媒道を生業とする特種な環境で育ちました。
ですから世間一般の“教育”というものにはあまり縁がありませんでした。
でも、ある事件に関係して母が失踪して・・・私は母の巻き込まれた事件を調べる為に、
弁護士になる決心をしました。・・私のような教育のない者が司法試験に挑む・・かなり無謀だということも解っていました
でも私は、私達姉妹から母を遠ざけることになった事件について、どうしても本当のことが知りたかった!
 司法試験に合格した後、以前お世話になったツテを頼って“星影法律事務所”に入りました。
弁護士の資格を取ったのはいいけれど、全く経験のない私に弁護士の仕事を教えてくれたのが、先輩でした。

数年後、私は独立して事務所を立ち上げました。・・そんな時“彼”から連絡をもらったんです…』


そう言葉を区切って、千尋さんはボクの方を見た


『“・・・おかげさまで弁護士にはなれたけど、勤め先が見つからない”って・・・
私、その時以前の自分を思い出したんです。
彼は大学は出ているけれども、芸術学部出身・・・私は大学さえ出ていない・・・
そんな私でも先輩は弁護士という仕事を私に教えてくれた
今度は私が彼にそれを伝えることが・・今も眠り続けているアナタへの恩返しになるのでは・・・そう思ったんです


《・・・弁護士はピンチの時にこそ、ふてぶてしく笑うもの・・・》










あなたが私に教えてくれたこと、ですよね・・・











・・・成歩堂龍一は私の弟子でもあり・・・あなたの弟子でもあるのです!











・・・神乃木先輩・・・













スミマセン・・私もう・・・そろそろ逝かなくては・・・













・・・これ以上、真宵の身体に負担をかけるわけにはいかないから・・・















 ・・・さようなら・・先輩・・・・















私の分まで長生きして下さい・・・ね・・』













そう言うと千尋の魂は、家元の身体を解放した・・・












「真宵ちゃん!」







家元はその場からドッと倒れこんだ









周囲の浮足立つ中、成歩堂は彼女に駆け寄り抱き起こした

「大丈夫かい?」
「・・・なるほどくん・・・お姉ちゃんは神乃木さんと・・ちゃんとお話出来た・・・?」

「・・うん、真宵ちゃんのおかげだよ」
「お姉ちゃん、神乃木さんのこと・・ずっと心配していたから・・・
入院していた時からずっと・・・」


これは・・この裁判が始まる前に真宵ちゃんから是非に、と懇願されていたことだ
神乃木さんと千尋さんに話をさせてあげてほしい、と・・・



「・・・まるほどう・・・俺の・・負けだな
俺は・・千尋の分まで、生きなきゃならない・・・」
「・・神乃木さん・・・」



全てを聴き終えた裁判長が判決を言い渡す



「被告人は法を順守する検事という職務にありながら、その立場を利用して
法を犯しました。その罪は償わなければならない。
しかし、本件が審議している“計画的殺意による犯行”に関して
被告自身が凶器を準備していなかったことなど、必ずしも
計画的な殺人あるとは断定出来ない
したがって傷害致死が相当であると考えます。量刑に関しては後日、改めて審議いたします。
上告する場合は期日までに申し出るように」



裁判長は閉廷の為の木槌に手をのばした



「アノ最後に私の方からも・・・よろしいですか?」
「なんですかな?亜内検事」

「被告人・・・いや、神乃木くん・・・ひとつお願いがあるのですが、
実は私もこう見えて結構なコーヒー党でね・・・もし、よろしければ、
私にも“ゴドーブレンド107号”をご相伴させてもらえないでしょうか?」



あまりにも突然の亜内検事の申し出に、成歩堂はおどろいた。
しかし、意外にも裁判長は目を大きく見開いてこう言った。



「おおっ、実は私も気になっていたのですよ・・・ゴドー検事のご自慢のブレンドが」

「うんうん、あたしも飲んでみたい!」




( ・・・真宵ちゃんまで・・・でも・・・ )











「そうだな、ボクももう一度飲んでみたいなあ・・・
―――お願い出来ますか? ゴドー検事」




それぞれの手に白いマグカップに淹れられた、彼の名前のついたブレンドが配られる




「法廷内でのコーヒーは17杯までと決めているんだが、これで丁度17杯だな・・・」



( ・・?・・ホントかよ・・・ )



手にしたコーヒーを眺めながら、ベテラン検事が感慨深げにつぶやく

「実のところ、私は今でも“霊媒”などというモノには懐疑的なのですがね・・・
しかし、死者と語り合うということは、生きている人間にとって時に必要なものなのですな
いや、この歳になって認識をあらたにさせられました・・・」




初めは、亜内検事が今日の裁判の担当と聞かされた時、
多少不安があったけど・・・この人が担当でよかったのかもしれない



( ボクは、あなたに対する認識が少し変わりましたよ・・・亜内検事 )




・・・法廷内が、コーヒーのほろ苦く、そして、やさしい香りに包まれる・・・













・・・それぞれの心に、それぞれの逆転がある・・・













「今日のこの一杯は・・・本当に素晴らしい!」












END
■作者からのメッセージ
これで何度めの修正でしょうか…。
やればやるほど、何処かにヘンな箇所が
見つかります…スイマセン。

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