友情の逆転 | |
作者:
くるくる
2009年11月17日(火) 18時41分42秒公開
ID:GIXjkB6kI5E
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紅茶を注いだカップを口につけて、 そっと傾けた。ベルガモットの柔らかな香りがぱっと口に広がる。 その紅茶の香りは長続きの事件、裁判で疲れた精神、苛立った心をそっと静めてくれる。 カップから一旦口を離し、柔らかなソファに身を預けてみれば、柔らかな素材が心地よく体を包んでくれた、 これが私を楽しませてくれる唯一の一時。 …私の名は御剣 怜待、あまり詳しく話すと長くなるが簡単に言えば検事局きっての天才検事と言われた男だ。 最近は連続の殺人事件やそれによる裁判など色々と忙しいものだから、今日ぐらいはゆっくりしたいものだ…とまた紅茶を傾ける。 しかしその矢先、急に強く扉をノックする音が聞こえてくる。まああの扉はあの程度で壊れやしないのだが… 「誰だ、人の安らぎの一時を妨害するのは…!」 「誰だ、じゃありません!ミクモちゃんです!」 「…ミクモくん?」 息をぜえぜえ切らしながらどかどかと入ってきたのは、黒いマフラーをなびかせヤタガラスバッチを身につけた二代目ヤタガラスの一条 美雲だ。 息を荒くして慌てて部屋に入ってきたのだから、何かがあったのだろうと思ったが… 「キミはヤタガラスの修行をしていたのではなかったのか?」 「そんなことより大変です!事件ですよ事件!殺人の!」 自分の進路を「そんなこと」扱いするとは…まあそれはそれとしてまた事件のようだ。だから急いでいたのか… 「ム…道端の警察にでも押しつければ良いだろう」 「それが頼めないらしいんです!だからミツルギさんに…って、また寛いでるんですか!」 休日に寛いで何が悪いのだ…と紅茶を口に流し込みながら思った。 「…ミクモくんも一杯いかがかな?」 「大泥棒に紅茶は似合いません!それより早く!結構奥が深い事件なんですよ!この辺りではミツルギさんしか解決できないだろうって…」 「わかった、そこまで言うのなら行ってみよう」 結局ゆっくりしたいと言っている私も、やはり事件を放っておくことはできなかったわけだ。 6月3日 8時30分 ??????? 「…なるほど」 狭い部屋の中心に、少女の死体が転がっている。美しい黒髪を二つに結んでいる長い髪が特徴だ。 一見、普通に見えるのだが、私からすれば不自然の所がある。 もう既に鑑識も来ているようで、部屋の指紋取りや死体の撮影を開始しているようだった。 …あの、殺人課の刑事も。 「イトノコ刑事、何故ここに?」 「そりゃあ身近で殺人が起きたら黙って見ている訳にもいかないっス!」 「ム…それもそうだが… 「あっ!ミクモちゃんじゃないッスか!」 「ノコちゃん!久しぶりー!」 …やれやれ。この二人の仲の良さは相変わらずのようだ。 鑑識の様子からしてもう撮影は十分なようだ。ということは、{私が来るよりかなり前に事件は起きたということか…} 「さあミツルギさん、捜査しましょう!」 「いや、待てミクモくん…私は事件現場がこんな所だとは聞いていないのだが…」 何しろここは検事局の近くのただの住宅地、そしてここはその内の一つなのだ。こんな場所の事件は担当したこともない。 「事件なんて何処で起きても不思議じゃありません!」 「ムう…しかし…」 「はいはい、とにかく捜査開始です!」 とにかく、事件を放っておく訳には行かないようだ。 「…まずはイトノコ刑事、事件について話してもらいたい」 「了解っス!」 懐から手帳を取り出し、ペラペラとめくりながら話し始めた。 「…被害者は美浦 花梨(16)、死因はまだハッキリしてないっスが、どうやら撲殺みたいっス」 「…」 「…」 「…」 一言イトノコ刑事が話し終わった所で、死体を囲んだま部屋に沈黙が流れる。 もう少し長くなるかと思っていたが、判明しているのは被害者の名前と死因だけのようだ。 「…それだけだろうか?」 「うーん…まだ全然調べてないッスからねぇ…」 「…一体いつからキミはここに居たのだ?」 「丁度一時間前くらいッスかねぇ、自分が来た時にはもう死んでたッス」 「なるほど…そう考えるとかなり手の込んだ殺人のようだな…」 「血も黒くなってきてるから、かなり長い時間空気に触れたんだね…」 …こう長々と話をしているわけにも行かないので、ひとまず死体を捜査することにした。 少女の完全に冷え切った体の温度と、黒に近づいた赤が事件の長さを物語っている。 …ム…? 気の所為だろうか。この死体の状況に、何かが足りないような…? 「…ム?何だこのノートは…」 死体の側に転がっていた物を拾う。『A』から『Z』の文字が細かくズラリと並んでいるノートだ。見つめているだけでも頭が痛くなる。 「あ!それって…!最新型のパスワード式交換ノートじゃないですか!」 ミクモくんの手が素早く伸びて、気付いた時にはもうノートはミクモくんの手の中にあったのだった。 「気付いたときにはもう盗まれてる、これがヤタガラスの凄さです!…うーん、やっぱりパスワードがかかってるみたいですねぇ…」 「…パスワードを入力して開く仕組みなのだろうか?」 「そうですよ!凄いですよコレ、高いんですよね!パスワードがいるから、交換ノートやってる人にしか見れないんですよ!」 妙にハイテンションなミクモくんは置いておき…もしかしたら重要な証拠品かも知れない、念のため、捜査手帳に書いておこう。 「鑑識!その…このノートの指紋は調べたのだろうか?」 「ハッ!そのノートには被害者を含めて三人ほどの指紋が大量に付着しておりました!」 三種類の大量の指紋…か。 ということは{被害者とその仲間が交換ノートをしていた、という可能性が高い…} 「いいなー。このノート前から欲しかったんですよねー」 「手に入れたとしても、一緒にやる相手がいないのではないだろうか?」 「そんなことないですよ!ヤタガラスの作戦会議ノートに使うんです!これでチームワークもバッチリですね!」 いや、キミはまだチームメイトを見つけてさえもいないだろう… 「イトノコ刑事の言うとおり、死体の状態からして撲殺なのは間違いないだろう」 以前、墜落が死因の事件を担当したことがあったのだが、その時は撲殺と勘違いしてしまっていた。 しかし今回は範囲からして「撲殺」に間違いないようだ。 「うーん、じゃあ凶器は何なんでしょうね?」 「…凶器?」 そうだ、最初に死体を見たときから引っかかっていた、この違和感の正体はこれだったのだ。 死因は「撲殺」で間違いない。しかし、問題はその「凶器」だ。 普通なら死体のすぐ側に転がっているものが…見つからない。「ない」のだ。 「…イトノコ刑事!」 「はっ!何スか!」 「この現場で、凶器と考えられるものは見つかっていないのだろうか?」 「そうッスねぇ…凶器になりゆるこの部屋の『固くて大きなモノ』のルミノール反応は全部調べさせたッスけど、どれも血液反応はなかったらしいッス」 「ムう…そうか…」 この部屋で、凶器になりそうな物にはルミノール反応はない、つまり、この部屋の中で、{凶器になったものは見つかっていない…} しかし、この部屋での犯行が全てだった、とは限らない。 この部屋は狭いが、家はわりと広めのようだ。なら、{殺人に関する証拠を隠せる場所もあったのではないか…?} 「…繋がったな…真実が少しずつ見えてきた」 「…あ!来ますか!ミツルギさんお得意の『アレ』が!」 そういう呼び名はやめてもらいたいのだが… 「御剣検事の情報を繋げるっていう…その…あぁそうッス!ジロックッス!」 しかも名前を間違えている奴までいるか… 「…『ロジック』だ。間違えないでくれたまえ」 わいわい騒いでいる二人のことは一旦忘れて目を閉じ、脳に刻みつけた情報を思い出す。 今重要になっている情報は四つだ。 まず、『犯行時刻』。 私とミクモくんが来たときには現場撮影がもう十分な状態だった。 それに、イトノコ刑事がここに駆けつけたときには、もう美浦さんは亡くなっていた… つまり、『犯行時刻は発見した時刻よりかなり前』なのだ。 二つ目は、『交換ノート』。 死体の側で見つかったこのパスワード式の交換ノート。 このノートには、被害者を含む大量の指紋が付着していた。 つまり、この交換ノートは、『事件に関連している可能性が高い』… 三つ目は、『見つからない凶器』。 被害者の死因は間違いなく撲殺だが、その凶器は未だ発見されていない。 死体発見現場であるこの部屋の凶器になりそうな物には、血液反応が出ていない。 一体『凶器はどこに』…? 四つ目は、『広い家』。 この家にある一つ一つの部屋は狭めだが、この家はかなりの広さがある。 とすると、『事件関連の証拠品を隠ぺいすることも可能だったはず』… これらの情報の繋がりを見つけてまとめ、新たな情報を得る…これがロジックだ。 さて、これらの情報の中で繋がりの見つかるものは… 凶器はこの部屋の中では見つかっていない。 この家の広さはかなりのもの… つまりは…! 頭で二つの情報がまとまり、新たな事実が広がってゆく。 「イトノコ刑事」 「ぎゃ!な、ななな何スか!ずっと黙ってるのに急に声出さないでほしいッスよ!」 「ム…すまない。ルミノール反応を調べたのはこの部屋の物だけなのだろうか?」 「それは間違いないッス。鑑識全員に聞いたから間違いないッス!」 それを正式に「間違いない」とは言わないのだが…まあいいだろう。 「この部屋の中では凶器になるものは見つかっていない。しかし、この家は広いのだ… きっと凶器、その他関連性のある{証拠品が何処かに隠されているはず}…!」 これがロジックだ。こうして情報の繋がりを追っていけば、真実も見えてくる… 「確かにそうッス!ここにないなら別の部屋に隠したとしか考えられないッス!」 「うム。この部屋だけだけでなく、他の部屋の捜査も必要になってくるな…」 そう、事件は始まったばかりなのだ。 この部屋で完結するはずがない… 「御剣検事殿!面会したい方がいるとのことです!」 「ム…?わかった、すぐに行こう」 「じゃあ私とノコちゃんは、捜査を続けてますね!」 「うム、宜しく頼む」 鑑識に案内され、狭い部屋の壁を越えて扉を開けると、そこには被害者と同年代くらいの一人の少女の姿があった。 顔が涙で濡れている…きっと被害者の関係者なのだろう。無理もない。 「…キミは?」 「…依頼した、佐木之 砂奈(さきの さな)…です」 やはり依頼者のようだ。ということは、被害者とも関係がある、ということだ。 それにかなり仲が深かったのだろう、ショックゆえか下を向いたままだ。 「ムう…とりあえず、話を聞かせてもらえないだろうか?」 彼女は返事の代わりに小さく頷いたが、あまり深追いすると帰って彼女を追い詰めてしまうかもしれない。 慎重に考えねば… 「被害者…美浦 花梨について教えて欲しい。被害者はキミとも関係があったのだろう?」 「…!…はい…」 顔色が変わった…どうやら図星のようだ。 「彼女…花梨ちゃんは私の親友でした。幼い頃から仲が良くて、何をするにもいつも一緒で… それに彼女はおしとやかで優しくて、誰からも好かれていました。 だから、動機のある人物なんて…いないはず…なのに…」 「…動機がある人物なんていない…というが、心当たりはないのだろうか?」 「そうですね…私が今まで見た中では強い恨みを持っているような人物もいないようでしたし…」 被害者への動機がある人物は少ない…か。 動機についても気になるが、もう一つ気になる部分がある。 彼女は被害者と何をするにもいつも一緒だった…ということは、あの証拠品とも関係があるのではないだろうか? 『あの』証拠品をつきつけてみるか… 「…砂奈さん、これに心当たりはないだろうか?」 先ほどミクモくんが奪おうとしていたパスワード式の交換ノートだ。それを一目見た彼女は表情を歪める。 「あ…!それは…」 「…やはりこれとも関係があったようだな。この交換ノートには、被害者の指紋と、別の二つの指紋とがべっとりと付着していたのだ」 「…そうです。それは私と花梨ちゃん…とでやっていた交換ノートです」 やはりそうだったか…それならば指紋の説明も付くが… 「ならば事件に関係のある可能性がある。その…ノートを開くパスワード、というものを教えてもらえないだろうか?」 「…」 それを言ったきり彼女は黙ったまま俯いてしまった。きっとこのノートに辛い記憶があるのだろう。 「すみません、今はまだ…言えません…」 「ムう…そうか…」 仲間とやっていた交換ノートを見てしまったら、一層辛さが増してしまう…今は仕方がないだろう。 …さて、彼女に聞くことはこんな所だろうか。 「あ!御剣検事さん、これ…良ければ使ってください」 「ム…?」 彼女が差し出したのは、小さな『鍵』だった。 「これは…何の鍵なのだろうか?」 「それはまだ言えませんけど、きっと必要になりますよ」 ⇒To Be Continued... |
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