逆転のブレイズ
作者: シアン   2013年01月03日(木) 11時48分53秒公開   ID:Wk8vzTtyS.E
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2月4日 17時45分

「うう、寒くなってきたねぇ・・・」
となりで歩いている真宵ちゃんが呟く。
「わ、わたくし、よく分かりました・・・。『キャンプ』とは、こ、心を鍛える修行のことだったのですねっ!」
さらにとなりの春美ちゃんもふるえながら呟いている。
・・・いや、それはさすがに違うだろ。
ぼくは春美ちゃんの言葉に心の中で突っ込みを入れる。

まあ、こんな状況じゃ、そう思うのも無理はない・・・いや、あるか。
そんなことを考えながら、辺りを見回す。

木。木。木・・・

まわりじゅうにうっそうと木が茂っている。

道も見あたらず、どっちへ進めばいいかすら分からない。

そう、ぼくたちはある山のなかで・・・

すっかり道に迷ってしまったのだった。

木。木。木・・・なんだか自分がなさけなくなってきた。
そもそも、なぜぼくたちがこんな所にいて、こんなことになっているのか。
事のはじまりは、今から1週間前までさかのぼる―――

    

1月28日 10時20分 成歩堂法律事務所

そう、それはある唐突な提案からはじまった。

その日、依頼人が来る様子などまったくないいつもの事務所で、ぼくはひとり椅子に座っていた。
そして目の前には一冊の本が開かれている。

しかし、
・・・うーん、ぜんぜん分からない。
真宵ちゃんを待っているあいだに、「今日こそ読むぞ!」と思っていたこの本。
じつは、これは千尋さんがよく読んでいた法律学の本で、
「この本には司法試験のときにお世話になったのよ」と、初めての裁判の直前にぼくにプレゼントしてくれたものだった。

しかし、また今度ゆっくりと、と思っている間に事件が起こり、仕事に追われているうちに、いつしか本棚の中に紛れてしまっていた。
その本が、昨日、本棚の整理をしていたときに発見されたのだった。

――そして今、時間が空いたので、その本を読もうと本を開いてみたはいいのだが、数ページ読んだところで頭がついていかなくなってしまったのだ。
それでも必死に文字を追っていると、
「なるほどくーん!」
元気な声をあげて、真宵ちゃんが駆け込んできた。
「どうしたの?」
「あのね、キャンプに行きたいっ!」
・・・いきなりすぎる真宵ちゃんの提案。

本から顔を上げ、真宵ちゃんのほうを向く

と、彼女は後ろ手になにかを隠すように持っていた。

ぼくの視線に気付いたのか、真宵ちゃんはニンマリと笑って、
「じゃじゃーん!」
持っていたものをぼくの目の前につきだした。

・・・なんだこれ。本?

タイトルには『チャレンジ!初めてのキャンプ』とある。

「ねえ、行こうよー!たまには出かけたっていいでしょ!」
「いや、先週も映画を見てきたばかりじゃ・・・」
「それとこれとは別!はみちゃんも行ってみたいっていってたんだからー!」
・・・春美ちゃんが?

「はみちゃん、キャンプに行ったことがないから行ってみたいんだって!あたしも行ったことないから今度行こうよ!」
「いや、ぼくも行ったことがないから、何を準備すればいいのかも分からないよ」
「大丈夫!そのためにこの本があるんでしょ!なるほどくんみたいなキャンプ初心者でもこれ一冊でバッチリ!」
なんだか本の宣伝みたいになってるけれど、
・・・うーん、今回は珍しくただの思いつきじゃないみたいだし、準備もしてあるなら・・・


「・・・来週、用事が入ってなかったら行ってもいいよ」
「ホント!?やったー!」


――そして一週間後、

「やったねはみちゃん!キャンプだよキャンプ!」
「やりましたね、真宵さま!」
うれしそうな二人を連れて、ぼくたちは出発した。

・・・なにか起きたりしないといいんだけど・・・



そして到着したはいいものの、真宵ちゃんが「探検だー!」と言っていきなり森の中に入っていってしまい、あわてて追いかけたのだが、そのうちに帰り道が分からなくなってしまい・・・

現在に至るわけである。





2月4日 17時55分


それにしても、これからどうしよう・・・。

とりあえず、上に向かってみるか。
「真宵ちゃ・・・」
「あーーっ!!」
「うわぁ!」
・・・び、びっくりした。どうしたんだよ、真宵ちゃん。いきなり叫んだりなんかして。
恨めしげにとなりの真宵ちゃんを見ると・・・あれ?真宵ちゃんがいない。

慌ててあたりを見回すと、・・・いた。真宵ちゃんだ。いつの間にあんな遠くに・・・。何があったんだろう?

「誰かいらっしゃったみたいです。行きましょう!」
そう言って真宵ちゃんのもとにかけよる春美ちゃんを、
「お、おーい、待ってよー・・・」
ぼくはあわてて追いかけた。


ふたりのところに向かうと、真宵ちゃんが誰かと話しているのが見えた。
話し相手は女の子のようだった。

・・・見た感じは小学生。肩のあたりでまっすぐな髪を切りそろえている。春美ちゃんと同い年ぐらいかな?

すると、その子はぼくに気付いて、
「あっ、はじめまして!」
と礼儀正しくあいさつをした。

「あ、ど、どうも。こちらこそ。」
ぼくもあわてて返事をする。しっかりした子のようだ。

「なるほどくん!この子、キャンプ場の場所が分かるみたいだよ!」
真宵ちゃんが嬉しそうに言う。
へえ、それは助かるなあ!地獄に仏とはまさにこのことだ。

「道案内をしてくださるそうですよ!」
そうか。じゃあ、お言葉にあまえて・・・

「えっと、キャンプ場までつれてってもらっていいかな?」
「はい、もちろん!ここから歩いて15分くらいのところですよ!さあ、行きましょう!」

先頭を切って歩き出したその子に、ぼくたちはついていくことにした。





2月4日 18時00分


歩き始めて気づいた。この子の名前をまだ聞いていない。

「えっと、きみの名前はなんていうのかな?」
「あぅ、自己紹介がまだでしたね!私の名前は、狩魔 瑠香っていいます!」
・・・え?
「か、狩魔ぁ!?」
真宵ちゃんとぼくの声が重なった。・・・狩魔、だって?

「真宵さま、狩魔、というのはたしか、あのムチのおねえさんの・・・」
「え!?みなさん、冥おねえちゃんのこと、知ってるんですか!?」
「おねえちゃん!?」
またまた驚くべき言葉がとびだしてきた。おねえちゃん、ということは―――

「瑠香ちゃん・・・は、その・・・『冥おねえちゃん』の妹なの?」
「あっ、そうじゃないんですよ。冥おねえちゃんは、わたしのいとこなんです!」
なるほど、いとこ同士なのか。
それなら苗字が同じなのもうなずける。

「冥おねえちゃんは、強くて、優しくて、かっこよくて・・・
わたしのあこがれなんですっ!」

・・・ぼくの知っている『彼女』を言い表すには不適切な言葉が混じっていたような気がしたが・・・いや、気のせいだ。気のせいということにしておこう。


ぼくたちも自己紹介をしたあと、ぼくらは5分ほど歩き続けた。

真宵ちゃんと春美ちゃんは、すぐに瑠香ちゃんと仲良くなったようだ。楽しそうに話している。

「ねえ、瑠香ちゃんはどんなテレビ番組が好きなの?」と真宵ちゃん。

「わたしの好きな番組?えーっと・・・」
瑠香ちゃんの話し方も、年相応の子どもらしいものになり、先ほどまでの敬語も影を潜めている。

ちょっとした質問にも真剣に考えこんでいる姿を見て、ぼくは、これが彼女の本来の性格なんだろうなあ、と感じた。

「うーん・・・。いろんなのを見るけど、最近よく見てたのは、『創世双生児カミサマン』かなぁ?」

そして、瑠香ちゃんの口からとびだしたのは、謎の番組名。

『創世双生児カミサマン』?・・・なんだそれは。

「あっ、瑠香ちゃんも『カミサマン』見てたの?あたしもいつも見てたよっ!面白かったよねーっ!」
「うん!わたしが特に好きだったのはね・・・」
真宵ちゃんと瑠香ちゃんは、その番組の話で二人で盛り上がり始めた。
しかし、話がまったく分からない・・・。

と、隣から、
「あの、なるほどくん、わたくし、何のことだか、さっぱり・・・。
『そうせいそうせいじ』とは、その、おニクの名前・・・でしょうか?」
春美ちゃんがおずおずとたずねてきた。・・・『ソーセージ』あたりと混乱してしまったのだろうか・・・。

真宵ちゃんがいつも見ているテレビ番組といえば・・・・。

「あはは、ちがうよはみちゃん!『創世双生児カミサマン』っていうのはね、トノサマンシリーズの、この前までテレビでやってたやつのことだよ!」

やっぱりそうだったのか。

トノサマンシリーズに目がない真宵ちゃんのことだ、きっと放送された話の内容もよく知っていたんだろう。

「じゃあ、カミサマンをよく知らないはみちゃんとなるほどくんのために、あたしが簡単に説明するね!」

そういって、真宵ちゃんは『カミサマン』の説明をし始めた。

なんでも、『カミサマン』は創世神の生まれ変わりである双子であるらしい。
世界を平和にする使命を背負っていたのだが、生まれ変わるときにちょっとした事故がおき、双子は対立することになってしまうのだそうだ。
兄は、悪の道に逸れていってしまった双子の弟を正しい道に戻し、本来の使命をまっとうすことができるのか!?―――というストーリーらしい。

・・・どこが『簡単に』なんだ?

「ほら、これ、カミサマンのお守りなんだよ!」

そういった瑠香ちゃんの手のひらには、小さな二つのお守りがのっていた。

どちらにも何かのキャラクターが描かれている。

「これはね、カミサマンにちなんだお守りなの。この二つは対になっていて、『二人の仲がもっと良くなりますように』っていう意味が込められているんだって。
実は今日、わたしのお兄ちゃんの誕生日なんだ。だから、これをあげようと思ってるの。」と瑠香ちゃん。

へえ、そうなんだ。じゃあ、もうひとつは瑠香ちゃんの分かな?お兄ちゃん思いなんだなあ・・・。

そんなとりとめもない話をしながら進んでいくと・・・

「ほら、もうすぐそこだよ!」

瑠香ちゃんが声を上げた。





2月4日 18時06分


ああ、やっと着いた・・・。

一時はどうなることかと思ったけど、無事に着いてよかったなあ。

そうだ、瑠香ちゃんにお礼を言わないと。

「ありがとう。瑠香ちゃんのおかげで助かったよ。」

「どういたしましてっ!」

満面の笑みを顔に浮かべて返事をする瑠香ちゃん。 ・・・この子が狩魔検事のイトコだなんて信じられなくなるくらいの笑顔だ。


と、そのとき、

「おーーーい!瑠香ぁ!」

と呼ぶ声がした。

「あっ、お兄ちゃんだっ!」

瑠香ちゃんがまたもや笑顔になる。

彼女は遠くから走ってくる人影を見つけると、
「お兄ちゃーん!」
と嬉しそうに人影にかけよっていった。

「なるほどくん、あたしたちも行こう!」
そういって真宵ちゃんも走っていく。
「さあ、なるほどくん、はやく!」
春美ちゃんも呼んでいる。

・・・ああ、なんかさっきもこんなことあった気が・・・


「瑠香!どこまでいってたんだ!あまり遠くに行くなっていっただろ!」

瑠香ちゃんのお兄さんは少し怒っている様子だった。

「ごめんなさい・・・。」

瑠香ちゃんはしょんぼりとうつむいている。

その悲しそうな様子を見かねたのか、お兄さんのほうに真宵ちゃんが声をかける。

「あ、あのう・・・。
瑠香ちゃんは、迷子になっていたあたしたちを、ここまで案内してくれたんです!
だから、その・・・叱らないであげてくださいっ!」

すると、相手は驚いた顔で、

「そうだったんですか?」

と真宵ちゃんの隣にいたぼくに尋ねる。

「え、ええ。瑠香ちゃんのおかげで、ぼくたち、とても助かったんです。」

ぼくがそう答えると、

「そうなのか、瑠香?」

今度は瑠香ちゃんに問いかける。

瑠香ちゃんがうつむいたまま小さくうなずくと、瑠香ちゃんのお兄さんは、

「そうか・・・。分かった。でも、これからはあまり遠くには行くなよ。」

と、瑠香ちゃんの頭を優しくなでた。

きっと、お兄さんもすごく心配していたんだろう。やっと、ほっとした表情になっている。

そして、瑠香ちゃんのお兄さんはしばらくそうしていたあと、ぼくたちの方へ向き直って、こう尋ねた。

「・・・えっと、それで、みなさんのお名前は何とおっしゃるんですか?」



「えっと、ぼくは成歩堂 龍一です。よろしくお願いします。」

「成歩堂さん、ですか。こちらこそ、よろしくお願いします。そちらのお二人は妹さんですか?」

妹・・・。そんな風に見えるのだろうか。

「あ、いえ、違います!あたしは綾里 真宵っていいます。倉院流霊媒道の霊媒師、やってます!」

真宵ちゃんがそう名乗ると、

「れい・・・ばいし?」

瑠香ちゃんのお兄さんは目を白黒させた。

まあ、普通の人に『霊媒師』なんて言っても、分かるわけがないんだけれど・・・。

説明するのが難しいので、

「まあ、少し特殊なんですよ。彼女は。」
と簡単に流しておいた。

「はあ、そうなんですか・・・。」
瑠香ちゃんのお兄さんは、あまり納得していない様子だったが、これはしかたない。
詳しく説明しようとすると大変だしなあ・・・。いや、決してめんどくさがってるわけじゃないんだけど。

⇒To Be Continued...

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