逆転探偵第一話:理科室の悪魔 | |
作者:
異議あ麟太郎
2011年06月18日(土) 21時43分01秒公開
ID:0iv14BfJ/zk
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俺は小声で言ったが春美さんには聞こえたらしく「知ってるの?」と言ってきた。 「え、まあ殺人事件が起こった日に事情聴取を担当してたのがそのイトノコ刑事とその部下の気楽とかいうすっげーアホな刑事だったんだ。」 「へえ、これも運命かしらね」 「え、なにが?」 「え、別になんでもないわこっちの話し」 春美さんの態度をちょっと不心に思ったが、かまわずに俺は話しを続ける。 「じゃあ、明日は土曜だから部活が終わったら早速行くよ」 「わかった。じゃあ、そう連絡を入れておくわ」 春美さんはそう言うとぞうきんと掃除機を持ってきて自分が落とした紅茶の片づけを始めた。 -6月24日午後1時警察署殺人課- 俺は部活を終えると、絢音と一緒に喫茶店でそのまま軽い昼食を取り、警察署へと足を運んだ。殺人課に着くなりいきなり変な刑事に出て行けと言われたが、春美さんの名前とイトノコ刑事のことを話たらコロっと態度を変えお茶までだしてきた。そして、待つこと5分ほどイトノコ刑事と気楽刑事が現れた。 「話しは聞いているッス。自分はちょっと忙しいから手は貸せねぇッスが、変わりに気楽君を置いて行くから自由に使って欲しいッス」 「え、ちょっとイトノコ刑事!」 そう言うとイトノコ刑事はどこかに行ってしまった。 「あの〜君ってすごい人だったんだね」 俺が呆然としていると気楽刑事がそう言って声をかけてきた。 「え、なにが?」 「いやだから、警視庁の警部さんの息子だなんて。しかも絢音とか言う女の子と結婚したくてそのことを言ったところダメだって言われて、しかたがないからその女の子との結婚を賭けてこの事件を解こうとしているなんて……」 「え! ど、ど、ど、どういうことそれ!」 絢音が顔を真っ赤にして叫ぶ。 「ま、まさか君が例の絢音ちゃん!」 気楽刑事が絢音の態度を見て誰なのかわかったらしく、絢音を指差して叫ぶ。 ――どうやら春美さんがありもしないことを言ったみたいだな。 まあ、昔からそういうところがあるから別に俺は驚かないけどね。特に男女の話になるとやたらと恋愛の方向に話を持っていこうとする傾向があったけ。 「気楽刑事。その話しはまったくの嘘だから忘れてくれ。ちなみに俺は春美さんの息子じゃない」 「え、うそ?」 拍子抜けしたように気楽刑事が言う。嘘に決まっているだろうが。それに俺が春美さんの息子なら春美さんはいくつで出産したことになると思ってるんだ? 「そうですよ! よりによってどうして私がなるほど君と……」 絢音はそこまで言うと顔をいっそう赤くして、黙り濃くってしまった。勝手に人の部屋に入ってきたりするわりには初心な奴だ。 「はあ、気楽刑事そのことについては後でゆっくり話してやるから、とりあえず俺の話を聞いてくれ。話しがいつまでたっても進まん」 「あ、ああ、わかったよ」 「んじゃあ早速話すぜ。犯人とその犯人が使ったトリックを!」 俺はそう言うと、昨日考えた自分なりの推理を話した。話し終えるとしばらくその場に沈黙がながれたが、やがて気楽刑事が口を開いた。 「そ、そんな子供だましのトリックだったのか……」 「そういうこと。トリックなんて蓋を開ければそんなもんさ。そんでもって気楽刑事にはこの紙に書いてあることを調べて欲しいんだ」 そう言って俺は一枚の紙を気楽刑事に渡した。 「これを調べればいいの?」 「ああ、その結果にもよるけどまあ大丈夫だろ。調べたら後は犯人を捕まえるだけ」 「わかった! 至急調べてくるよ、結果は今夜中に電話で知らせるから」 「期待してるよ。行こうぜ絢音」 「う、うん」 そうして俺達は警察署を後にした。 「ねえ、なるほど君」 警察署に行った帰り絢音が突然声をかけてきた。時刻は午後二時前の昼下がり。季節はまだ、梅雨を抜けておらず、湿気がうっとおしい。今日も天気は曇天で、晴れ渡った青空が恋しい。 「なんだよ?」 「さっき、なるほど君が警察署で話したトリックなら確かに成宮先生にも殺人は可能だろうけど、昨日言ってた証拠はどうするの?」 「証拠? ああ、大丈夫だよ」 「え? 大丈夫って見つかったの証拠?」 「いや見つかってないけど?」 「じゃあダメじゃない」 絢音が俺の発言が支離滅裂だとばかりに眉を顰める。 「証拠は今はないけど、後で出させるんだよ。犯人の成宮先生に」 「出させるって……どうやって?」 まったくわからないとばかりに絢音は首を傾げる。 「それはハッタリを使うんだ」 そう言って俺は微笑んだ。 七 -6月25日午前9時40分坂下中学階段- 一人の男がクシャクシャの紙切れを強く握り締め、恐ろしい形相で、いきおいよく階段を上っていた。男の名前は成宮建造。つい最近、自分が勤めている学校の理科室で同僚の練磨千次を殺した男である。 なぜ、その男が恐ろしい形相でいきおいよく階段を上っているかというと、彼が朝学校に行くと彼の机の上に一通の手紙が置いてあった。手紙の差出人の名前は成歩堂龍介と書かれていた。 それは遡ること今から十六時間ほど前のこと――。 -6月24日午後8時30分綾里春美の家− 「あんな嘘をつくなんて、どういうことですか!」 憤慨した絢音が春美さんに喰ってかかる。春美さんが帰ってくるなりずっとこの有様だ。警察署で訊いた春美さんの冗談がよほど気に触ったようだ。 「まあ、まあ、落ちついて絢音ちゃん」 一方怒りを買っているはずの本人は何処吹く風といった感じだ。 「絢音、その辺で許してやれよ」 俺はいつ終わるとも知れぬ、この一方が怒り、一方がそれをフットワークの軽い笑顔で返す、低俗な討論に嫌気が差してきたので止めに入る。 「あのね、なるほど君。この問題は私にとって重要な問題なの。それをどうして許せるかっての! なるほど君も黙ってご飯食べてないで何とか言ってよ!」 感情的になっているのか若干言葉使いが乱暴になっている。俺は溜息をつきつつも箸を置き 「春美さん。何であんな冗談を言ったんだよ」 春美さんの返事を承知しつつも、絢音の手前、形ばかりの質問を春美さんにする。 「何でって、その方がロマンがあるじゃない? あ、でも、なるほど君が私の息子ってゆうのは気楽刑事の勘違いよ」 予測どおりの返事。 「な、ロマンってそんなことであんな冗談を言わないでください!」 絢音がそう言った瞬間に電話の呼び出し音が鳴った。願ってもいない電話。この討論に巻きこまれずにすむ。 普段はなるべくなら出に行こうとしない電話に俺はいそいそと向かう。 「もしもし、綾里ですが」 電話に出る。リビングからはまだ、絢音の怒声とそれを爽やかに受け流す春美さんの声が聞こえてくる。 「も、もしもし、り、龍介くん? 気楽だ」 電話から聞こえてきたのは調査を終えたらしい気楽刑事からだった。 「気楽刑事。捜査の結果がでたのか?」 俺は、いよいよかと早る気持ちを抑え冷静になる。 「ああ、結果は……」 その後、俺は自分の推理が正しいと決定づける捜査結果を聞いた。 「気楽刑事、明日学校に来てくれ。どうやらこの事件に決着をつける時がきたみたいだ」 「ああ、わかった」 俺が電話を切ると春美さんと絢音の不毛な会話は続いていた。 -6月25日午前9時43分坂下中学理科室- 俺と絢音、そして気楽刑事は日曜の朝っぱらからずっとある人物を待ち続けていた。 「ねえ、なるほど君」 絢音が俺の腕を突いてくる。 「なんだよ?」 「昨日もいったけど本当に証拠の方は大丈夫なの?」 「ああ、大丈夫だよ」 俺がそう言った瞬間。理科室のドアがいきおいよく音を立てて開いた。ドアを開けて入ってきた人物は俺が呼び出した人間だ。 「ようこそ、お待ちしていましたよ。一年の数学担当成宮建造先生」 隠れていた教壇から姿を現すとこの場に現れた人物を迎える。その表情は硬く何を考えているか読み取れない、がしかし、心中穏やかでないはずだ。 「手紙を読んだよ、成歩堂君」 成宮先生の声はかなり重い。相手を威圧するような声。少しばかり気圧されそうになる。 「そうでしょう。でなければあなたがここに来るはずがない」 「どういうことだね。この『あなたの犯罪がすべてわかりました。もしよかったら理科室に来てください。2年4組成歩堂龍介』というのは? しかも警察の人まで呼んで」 成宮先生が俺の渡した手紙を突き出し。そして、気楽刑事の方を一瞥する。 「そのままの意味ですよ。あなたの犯罪がわかったんです。そうあなたがこの理科室で練磨先生を殺害した方法が」 「何を言っているんだ? 事件のあった日私は風邪で学校を休んでいたんだ。学校に入れば警備システムでわかるし、それに犯行があったと思われる時間に私は近所の人に目撃されているんだよ」 自らの盾になっているアリバイを挙げる。 「だから、先生は特別なトリックを使ったんでしょ?」 絢音がいきなり横から口を出してくる。 「ト、トリック?」 成宮先生が動揺した声でしゃべる。 「ああ、そうだ。今からあんたがが使ったトリックについて話してやるよ」 「ふっ、面白い。ではまず、私がどうやって玄関の警備システムをすり抜けて学校に侵入したか聞こうじゃないか」 成宮先生は余裕の表情を浮かべているが、声が上擦っている。 「まず、先生は事件が起きるほんの前日に事務の個菜州さんに『水道の調子がちょっと悪いから明日検査をしてくれるよう水道会社に頼んでおきました。』って言ったんだ」 「そ、そんなこと私が言ったっていう証拠はあるのか?」 成宮先生がふるえた声で聞く。 「残念だがもう事務の個菜州さんには確認はとってある」 気楽刑事が言う。 「こうしておけば後は簡単。先生は水道会社の人間になりすまして学校に行き個菜州さんのチェックをスルーしたんだ。その後、一人で検査するような適当な理由をつけて一人になりトイレで今度はこの学校の制服に着替えて理科室に向かったんだ。ここまでで何か反論は?」 俺はここでいったん自分の推理を切り成宮先生の様子を見ることにした。 「べ、別にない。」 冷や汗たらしてるところ見ると、どうやらあったっているみたいだな。 「次に先生は、その後あらかじめ手紙で理科室に呼び出しておいた練磨先生を殺害。まあ、ここで先生の使ったトリックの第一段階は終了」 「第二段階はなんだというんだ?」 「先生が近所の人間に目撃されているっていうトリック。ま、これはトリックというにすら生ぬるいものだけど。一つの仮説を立てたら何でないトリックだったのさ」 「な、なに?」 「この目撃っていうのは性格には近所のおばあちゃんが薬局に薬を買いに行った先生と会話したっていうアリバイらしいけど俺が立てた仮説にはどっちでも同じことだった」 「だからなんなんだその仮説とは!」 成宮先生が俺のまわりくどい言い方が気に入らなかったのか、怒気の混じった口調で言う。 「先生には兄弟がいるんじゃないか?」 「なっ……」 「まあ、口でいうより実物見せたほうが早いか。入ってくれ」 俺が言うと隣の準備室に隠れていてもらった男に出てきてもらう。 「知ってると思うけど一応紹介しておこうか。先生の弟さん。成宮健二さんだ」 「ごめん兄さん。でも、もう俺にはできないよ」 成宮先生の弟さんが成宮先生に申し訳なさそうにしゃべる。 「これで多くのことを語らなくてもいいだろ。先生はこの弟さんに学校に休むって電話させたり近所のおばあさんと話しさせたりしてアリバイを手に入れたんだ」 俺が言い終えると、あたりが静かになる。成宮先生は何も言わず黙りこくっている。 「さてこれで第二段階も終了。いよいよ最終段階密室トリックだ。先生はこの学校の制服に着替えて成宮先生を殺害したあとそのまま理科室のカーテンに隠れて一年二組の生徒が来るのを待ったんだ。そして先生は、先生方がドアをぶち破り生徒が流れ込んでくる隙を利用してドサクサにまぎれて理科室から脱出したんだ。その後、トイレに行き、また水道会社の人になりすまして学校を抜け出したんだ。これが先生の使った今回のトリックの全貌さ、なにか反論は?」 「証拠はあるのか」 しばらく間が開いて成宮先生が口を開く。 「あります。この学校で被害者の練磨先生に恨みを持つ人物が先生を合わせて3人います。先生とそれから教頭の片倉先生と俺のクラスの担任斉藤先生なんですが、先生以外の二人は事件が起こった時に扉をぶち破った当人なんです。つまり二人には犯行が不可能。よって、動機と状況から考えて先生しか犯人は考えられないんですよ」 嘘だ。扉をぶち破ったのが誰かなんて俺は知らない。しかし、それで充分だった。 「ふっ、成歩堂君いくらなんでもそれは無理だよ。だってあの時扉を壊して中に入ったのはその二人ではなかった。ハッタリも対外にした方がいい」 ⇒To Be Continued... |
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