逆転探偵第一話:理科室の悪魔
作者: 異議あ麟太郎   2011年06月18日(土) 21時43分01秒公開   ID:0iv14BfJ/zk
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 そう言いながら俺は買い物かごを右手に持ちなおして絢音の後ろについて行く。こいつは俺と一緒に学校帰りにスーパーで買い物していることになんとも思わないのか?
 俺は何とも言いがたい妙な甘酸っぱい感じが、胸にじわりと広がっていくのを感じていた。
「ところでさあ、なるほど君」 
 絢音がハンペンとちくわを選びながら質問してくる。
「なんだよ」
「事件のこと何かわかった?」
「そう簡単にわかるわけないだろ?」
「そう? 春美さんはなるほど君なら今回の事件なんてすぐ説いちゃうって言ってたけど?」
 絢音がハンペンとちくわを俺の持っている買い物かごに入れながら言う。
「バカそんなわけないだろ? 春美さんの冗談だよ、冗談。さあもう買うものないよな?」
「うん」
 俺は絢音がそう言うとなんだかプレッシャー見たいな物を感じたので、絢音から逃げるようにレジに向かって歩き出す。
「でも、なるほど君のお父さん偉い弁護士さんで難しい事件解決してきたんでしょう? だったらなるほど君にもこんな事件すぐに解けちゃうよ」
 絢音の言葉を聞いた瞬間に妙な痛みが心を刺す。幼い頃から感じてきた痛みだ。
「春美さんから聞かなかったのか? 俺は……親父のことを全然知らないんだ」
 俺は静かに答える。
「え、そうなの?」
「ああ、親父が生まれたばかりの俺を春美さんの所に預けてどっかに消えちまったんだ」
「ご、ごめんなさい。そんなことがあったなんて知らずに変なこと言っちゃって」
「いいよ別に」
 そう別にいいんだ親父のことなんて。

-同日某時刻綾里春美の家-
「ただいま」
 俺はそう言いながら絢音と一緒に玄関のドアを開けて中に入った。
「お帰りなさい。」
 春美さんがそう言いながらリビングから姿を現す。
「買ってきたわね。ハンペンとちくわ」
 春美さんが絢音の持っていた買い物袋を取り上げながら言う。
「おでんでも食うのか?」
 俺はハンペンとちくわの二つから予想できるメニューを述べる。
「ええ、ただハンペンとちくわがなかったし、他にもいろいろ食材が切れていたからあなたたち二人に買ってきてもらったの」
 春美さんの後についてリビングに入ると、すでにテーブルの上には火がついたガスコンロとその上に乗っかっている鍋が用意されていた。
「でも、おでんの時期にはまだ早くないですか」
 絢音が春美さんにもっともな突っ込みを入れる。おでんの季節には少なくとも四ヶ月は早い。
「いいのいいの。あたしが食べたくなったから」
 身勝手な人だな本当に。
「それよりも春美さん」
「なに?」
 ハンペンとちくわを鍋の中に入れながら春美さんが聞き返してくる。畜生、なんかカンに触るな。
「どういうことだよ絢音が俺の助手って?」
「どういうことってそのまんまだけど?」
 春美さんがすっとぼけたような口調で言う。
「そうじゃなくて、どうして俺に事件に関わらせるようなことをしてくるのかって言うこと。昨日は首突っ込むなって言うようなこと言ってたのに。それからどうして絢音が家に住むことになったのかって言うことを説明して欲しいんだけど? 今日初めて聞いてぶったまげたんだけど」
「ずいぶんと長い質問ね。まあいいわ。実を言うと、所轄の連中がてこずってるって聞いたからこの際龍介くんに任せようかなって。あなたが“そう”望むなら久しぶりに事件の解決に尽力してもらおうと思って。それと絢音ちゃんのことだけど彼女の母親は私の友人でね。彼女一昨日にちょっとした事故に巻き込まれて、それで彼女のことが心配だからって言うことであたしが面倒見ることになったの。ああ、そう今度の日曜に彼女の荷物が届くから入れるの手伝ってね」
 春美さんは平然と俺の質問に答える。あなたが“そう”望むなら――か。
「なるほどねぇ、でも事件のことを調べるたって情報がないんだよ。今日だって絢音に第一発見者のところに案内されてそれで話しを聞いてやっと事件の輪郭を掴んだんだから」
「そうですよ春美さん。私も知っていることは全然ないし」
 絢音が相槌を打つように言う。
「そう言うと思ったから危険をおかして情報を持ってきたのよ」
春美さんはそう言うと自分のバックから茶封筒を取り出してきた。
「なんだよそれ?」
「所轄が調べた被害者の練磨先生に恨みを持つ人物と疑わしい人物が載っているファイルのコピーよ」
 春美さんは俺の前に封筒を置きながら言う。
「いいのかよそんなことして」
「そうですよ。公務員の守秘義務とかってやつを破ってるんじゃあ……」
 絢音がおでんに続いてまたももっとな突っ込みを入れる。
「いいのいいの」
 よくないだろと言おうとしたが、だったら返せと言われそうなのでおとなしく受け取ることにした。まあ、情報がないからありがたいけどね。
「ありがたくもらうよ」
「それでいいのよ」
 そう言いながら春美さんは鍋の蓋を開けておでんを自分の皿に盛る。
「その代わり犯人がわかったら無茶しないで、私に連絡すること」
 春美さんは釘を射すように言う。
「わかってるよ。さて、とっとと食って事件のことでも考えるかな」
 そう言って俺は自分の皿におでんを盛った。最初に食うのはやっぱり大根だろ。

-同日7時10分龍介の部屋-
 夕飯を食い終わった俺は自分の部屋に行き、春美さんが危険をおかして持って来てくれた情報を早速見ることにした。
 茶色い封筒を開け中身を取り出すと数枚の紙がクリップで留められているのが出てきた。
 えーと、なになに。被害者に恨みを持つと思われる人物三人、疑わしいと思われる人物その中の二人。恨みを持つ人物一人目はおっと我らが二年四組担任斉藤高貴(さいとうこうき)か。なになに斉藤氏は被害者の練磨氏から多額の金を借りており返済に困っていた。その額な、ご、五百万だと〜〜! 練磨先生そんなに金持っていたのか? まあいいや斉藤氏は事務の吉田個菜州(よしだこなす)氏の話しによれば犯行があったと思われる時間の10分前に出勤しており犯行が可能だったと思われる。
 ふ〜ん、次二人目は教頭の片倉神保(かたくらじんぼ)か、あのハゲ練磨先生にどんな恨みがあるんだよ。片倉氏には22歳になる一人娘がいて、練磨氏と親密な関係になっており片倉氏が娘の結婚相手に用意した婚約者の男性がそれを知り婚約破棄をした。はあ〜やだねえこれが大人の世界の厳しさか。片倉氏も犯行があったと思われる時間より前に出勤しており犯行可能か。
 次三人目成宮建造(なりみやけんぞう)――確かお昼休みの時に会ったよな。
 成宮氏には坂下中学に通う一年生の一人息子がいたが、去年に練磨氏が運転する車に撥ねられ現在意識不明の重体だと?
 なになに当初練磨氏の居眠り運転が原因と思われ、警察に呼ばれたが成宮氏の息子が飛び足したことなどをあわせ証拠不十分で不起訴か。おかしいな、なんでこんなことがあったのに学校でなんの噂もたたないんだ? まさか学校側のやつらがもみ消したのか!
 成宮氏は犯行当日学校を休んでおり、しかも犯行があったと思われる時間に近所の人間に目撃されていて、犯行は不可能か。
 いやわからない、どうやら事件の真相は思わぬところに眠っていそうだな。


-6月23日午後7時20分龍介の部屋-
 まったく今日という日は厄日か? つーか、自分の部屋に女性を入れるのがここまで抵抗のあることとは思わんかった。
 俺は頭を抱えながら、自分の現在おかれている状況に何故到ったか振り返る。
 春美さんが持ってきてくれた事件の捜査資料を読み終わった俺のところに、絢音が勝手に俺の部屋に入ってきて事件のことを聞いてきたという状況だ。まったく、年頃の娘なのだがらそのあたりを意識しないのか?
「ふーん、練磨先生に恨みを持つ人物が三人そのうち二人だけ犯行が可能と……」
 絢音が一指し指を眉間のところにつけて、考えるポーズを取りながら言う。
「そういうことだな」
「ねぇ、でも逆になんか不自然じゃない? 成宮先生だけにアリバイがあるって」
 絢音がもっともなことを言う。
「まあ、そう考えるのが普通だろうな。どう考えても作為的なものを感じずにはいられないだろうからな。だが、結局のところ成宮先生にだけ犯行が無理だという事実には変わりないから、警察も不自然に思っても成宮先生を容疑者からはずすしかないんだろう」
「ていうことは、なるほど君は成宮先生が犯人だとみてるの?」
 むっ、絢音の奴なかなか鋭いなあ。
「まあな。だが、ここで一つ問題になってくることがある」
「密室の謎と成宮先生の事件当日のアリバイ?」
「そうだ。密室トリックの方はなんとなくわかってきたけど、事件のあった日学校を風邪で休んでいてしかも犯行時刻に近所の人に目撃されてるっていう立派なアリバイが成宮先生にはある」
「ふーん……って、なるほど君! 密室トリックもうわかってるの!」
 絢音が驚きの声を上げ、机を叩き立ち上がる。
「なんとなくだけどな」
「じゃあ、残りはアリバイトリックを解けばいいだけじゃない」
「そのアリバイトリックが難しいんだって。今からそのことについてちょっと整理して考えてみるぞ。よく考えてみろいいか。うちの学校はお前も知っているだろうけど、最近起こっている乱入事件なんかを防ぐために学校の警備は他校と比べて幾分しっかりしている。まず、玄関には学校で配られたキーホルダーをつけないで入るとセンサーが反応仕掛けになっている。例え持って入っても、入ったのが誰のキーホルダーか記録される仕組みになっている。そんでもって今度は、そのセンサーを職員室で受けた事務の個菜州さんが玄関まで急いで行きそれが誰か調べるっていうシステムだ。」
「別に問題ないじゃない、成宮先生キーホルダー持ってるでしょうし」
 腕を組みながら、何が問題なんだとばかりに絢音が言う。
「そこが問題なんだ。例えば、練磨先生がキーホルダーを持って学校に入るとすると、キーホルダーが誰のか記録されるだろ? その時点で自分が学校に来ていることを証明していることになっちまうだろうが。逆にキーホルダーを持っていなければ個菜州さんが来てバレちまう。どっちにしたって八方ふさがりなんだよ。さらに練磨先生は犯行の合った時間近所の人に目撃されてる。もうこれで鉄壁のアリバイの完成だ」
「あ、そっか。うーん難しいね」
 絢音が自分で入れたコーヒーを飲みながら言う。
「それだけじゃねえよ」
「え?」
 俺は考えてる絢音に追い討ちをかけるように言う。
「証拠がない……。例えアリバイが崩せても証拠がなければ犯人を追い詰められない」
「そんな……」
 絢音が残念そうにつぶやく。
 せめてアリバイトリックだけでも解ければなにか見えてきそうだが。近所の人に目撃されたって奴はなんとなく想像がつく密室トリックがあんな簡単だったんだアリバイも同じだろうな。
 問題はどうやって学校に入ったかだいったいどうやって――まてよ――そうか! そういうことか!
「わかったぞ!」
 俺はトリックが解けたうれしさを押えきれず思わず叫んでいた。
「えええ! わかったの!」
「ああ、全部なあとは警察にちょっとした捜査を頼めばいいだけだ。」
 いよいよこの事件も大詰めだな。

-6月23日午後7時35分綾里春美の家-
 俺と絢音がリビングに行くと、春美さんは鼻歌交じりに紅茶片手にヘッドホンつけて、音楽聴きながら仕事関係と思われる物の資料をパソコンで作っていた。
「春美さんちょっと話があるんだけど」
 おそらく、音楽のボリュームを大きくして聴いているんだろうかまったく反応がない。
 なんだかむかついてきたので、そのまま春美さんの背後に忍び寄りヘットホンをはずす。するとやっとこっちを向きやがった。
「ちょっと龍介君なにすんのよ! まったくあなたを赤ん坊のころから見てたけどこんな性格の悪い子に育つとは思わなかったわ」
「なにいってんだよ。呼んでんのに反応しないのがいけないんだろう」
「あっそうで何か用?」
 はっきり言うが俺が小さい頃めんどう見ていてくれた春美さんが刑事になってここまで性格が捻じ曲がるとは思いもしなかった。
 春美さんの態度には少しむかついたがいつまでも話が進まないので我慢することにする。
「事件の謎が解けたよ」
 俺がそう言うと春美さんは驚いて紅茶を床に落とした。派手な音を立てて、ティーカップが割れる。
「何ですって! もう解けたの!」
「ああ、ただ俺の推理を裏ずけるのに警察のちょっとした捜査が必要だ」
 俺がそう言うと春美さんは少しの間黙っていたが、やがて口を開いた。
「そう、わかったわ。じゃあ、連絡入れておくから所轄署の糸鋸刑事を尋ねなさい。あの人なら力を貸してくれるだろうから」
「……あの頭が悪そうな刑事かよ。」

⇒To Be Continued...

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