風が冷たくて
作者: 俊忌   URL: http://herizousann1.blog109.fc2.com/   2010年01月18日(月) 21時34分13秒公開   ID:V77pQDaE4xk
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俺の意識は遠くなっていった 考えるのはもうやめようもう もうやめたい。

11月7日 日曜日

気づけば家で自分の布団で眠っていた。横には当然、梨絵の姿はなく 八畳間の俺たちの部屋は大分広く感じる。大切な何かをなくした感じだ、体が重い 鉛のようだ、
無粋で冷たい鉄の塊は俺の心まで凍えさせて、押しつぶす。 本当に起き上がれない  寒気がする、時刻は二時 窓の外はシトシトと雨が窓を濡らし外の世界は歪んでいた。
一人、見えない窓の外の景色を無心で眺めていた。 窓は雨粒で常に窓の外を絶え間なく変化させていく、昨日はあんなに晴れていたのに一日で世界の色は変わっていく。俺たちの意思はこの世界には通じない。まだ疲れているのか視界がまどろんでいく・・・雨のせいか窓の外はとっくに薄暗くなっていた。
・・・しかし梨絵がいないだけでこの部屋はこんなにも静かなのか・・・

ここはドコだろうか? どこか建物の屋上 無機質なコンクリートの建物 視界の先に いくつものシーツが風になびいていた。
 俺はいつ病院なんかにいただろう。しかし綺麗だ フェンスの向こうは キラキラと 輝いていた。まるで空想上の天の原 もっと外を眺めたいからか自然にフェンスに近づいていく。 フェンスから身を乗り出して外を眺める、見えたものは一面の霧。さっきの天の原はどこにもない。
 また騙されたのか・・・また? いつ騙されたのだろうか? 
騙されたのではない 自分自身でかってに良いように解釈していただけかも知れない。
帰ろう フェンスから離れ、回れ右をする。 すると見知らない少女が青白いベンチに座っていた。
なぜさっき気づかなかったのだろうか。これは夢なのだろうか。
「ねぇ」 青いパジャマをきた少女は俺に話しかけてきた。 
視線は俺を楽しげに見ている。 「なんだ? 君は誰だい?」少し驚いたが普通に返した。
「質問をしたのは私のつもりなのにお兄ちゃんが質問するのは変だよ」小さな唇を尖らし
そっぽを向く、中々感情表現が豊かな子らしい。「ごめん それで君は俺に何の用だい?」
少し屈んで少女と視線を合わせる 髪の毛は長くあまり血色の良い顔色ではない。
「お兄ちゃんここで何してるの?」小首をかしげて聞いてくる。
「そうだな・・・これは夢なんだろう? もう覚めるから話す理由はないよ」
夢の中で夢と認識できるのは眠りが浅くなっている証拠 ほら視界は霧に囲まれてきた。
「変なの・・・」少女はすねたようにどこかへ去っていった。ーーガサガサーー
ここはイマイチうるさいな。オチオチ寝てられない この夢は何の意味があるのだろうか ねぇ・・・

気づいたら雨はやんでいた。しかし空の色は不安定だった。
気づくと窓と反対の壁によかかって春彦が漫画を読んでいた。
「んあ? 起きたか どうだ?体調のほうは?」 漫画をテレビの横にある小さな本棚に戻し言った。 「ああ もう大分よくなった、ってあれは風邪か何かか?」 時計を見ると5時を回っていた。 「さぁ わかんないけどお前冷たくなりかかっていたから風邪かもな」にやけながら言う。「そうだ梨絵は?」あたりを見回しながら春彦に聞いた。
「あー梨絵なら心配するな 佐恵となんか話してたぞ」 アクビを一つして答えた。
そうか、昨日から佐恵の家にいるのか。よかった。
「そのなんだ、聞いちゃったのか? 梨絵のこと」春彦は横をむき 俺の顔を見ずにいった。 少し迷ってから ああと相槌を打った。
「そうか・・・」春彦は窓を開け窓の外を見ながら窓に腰掛けた。
「どうして梨絵は逃げたんだ?」春彦の背中を見ながらいう。「多分 お前に嘘をついていた言う 罪悪感・・・お前シスコンだろ?」 相変わらず外の風景から視線をそらさない。
「今 俺の話はしてないんだけど・・・ 頼む真面目に答えてくれ。」 春彦には見えないが頭を下げた。「梨絵はな お前にずっと嘘をついてきた。 なのにお前は梨絵を可愛がる それがどれだけ梨絵を苦しめるかも知らずにお前は梨絵を大切にする。 けど梨絵は罪悪感からお前に甘えられない、兄弟は他人の始まりて言うが元か他人だったわけだ。   カッコよく言うと梨絵はお前の優しさが怖かったんだろう。」言い切って窓を閉めた。
そうか俺の無知が梨絵を苦しめていたのか。「なぁ けど俺と梨絵が他人だろうが俺は梨絵を大切に思う。 その想いが梨絵を苦しめていようが変えられない。」
「だろうな・・・ ここからはお前ら兄妹の話だ 俺は席を外すぜ」そういって部屋を出た。何も言わずに目で追うが春彦は何も言わずにでていった。 また一人になる。孤独は
俺を不安にさせる。しばらくの間、無心で時計の針を見る。階段をのぼる音が聞こえる。
「梨絵!」叫びながらドアを開ける。そこには「へ?」と首をかしげた朔太郎さんがいた。
「やぁ 様刻くん・・・ なにかあったのかい?」 最初は笑顔だったが俺の様子を見て、真顔になる朔太郎さん。「あ いや何でもありません。」朔太郎さんの顔を見ずにドアを閉めようとした。 「話を聞かせてくれないか?」 反対側のドアノブをつかみ、朔太郎さんは言い寄ってきた。朔太郎さんの部屋で昨日の話をした。祖母との会話と母との会話ありのままに話した。 話終わって朔太郎さんは腕を組み うーんとうなりながら考えた。
「難しいね・・・けど君はもう考えはまとまってるんだろ? 後は梨絵ちゃんだね どう考えてるかだね。 よし良い話がある。」 朔太郎さんは誰かに電話をかけた。
 
――櫃内梨絵(ひつうち りえ)――
気がつくと外は晴れだった。 窓の外は綺麗に光っているが私の心は澱んでいた。
昨日は佐恵さんの家に泊めてもらった。私は本当にいろんな人に迷惑をかけている、幼い頃からお兄ちゃんに頼ってばかり、せめてお兄ちゃんの重荷にならないように生活はしてきたけどついにボロがでた。 お兄ちゃんへの最初で最後の嘘がばれた、私の中で一番 
大きな嘘がばれた。 足元から床が崩れ落ちていく感覚だった。けどお兄ちゃんに見せる顔がなく逃げちゃった、なにも変わらない、何も解決しないのに、本当にダメだな私  まるでダメ、私は誰のも甘えられない、甘える権利はない、なぜなら騙していたから。
考えたら視界が涙で滲む。 必死でぬぐうが流れ続ける。 こんなときも私は甘えられない。 私は一人で生きていく、最後までより所を探さずに・・・そうするしかない
 ガチャ 扉の開く音がする。 佐恵さんだ私は顔を隠し窓を向く。
「梨絵ちゃん 泣いてるの?」 答えられない。答えたらばれてしまうから
「梨絵ちゃん こっちを向いて。ね?」佐恵さんはやさしく声をかける。私はどうしたら
「ないてるんだね・・・寂しいよね 私じゃ」
「そんなこ―――――」 そんなことないって言い切る前に佐恵さんは私を後ろから抱きしめた。
佐恵さんは優しく私の髪を撫でる。けれど佐恵さんにはますます甘えられない。
「辛いよね? 苦しいよね?誰にも心に秘めてることをいえないんだもんね。私にも少しは分かる けど今は休もう疲れたら休もう 今だけでも休もう ね?」佐恵さんは私を抱いたまま寝転んだ・・・後ろで佐恵さんも泣いてる声がするが、聞こえないことにしよう。けれど・・・
私は佐恵さんに抱きしめられるように眠った
「で 朔太郎さん 俺はどうすれば?」電話で席を外した朔太郎さんを部屋に戻ると同時にたずねた。朔太郎さんは苦笑いをしながら。
「いやぁ 梨絵ちゃんのことになると顔色が変わるねぇ」シニカルに笑いながら座った。
「朔太郎さん俺は真面目に考えてですね」俺は少し強めの口調でいってしまった。
「大丈夫 様刻くん 今梨絵ちゃんは寝てるって起きてからでも遅くはないよ」相変わらず表情を変えずにいった。
「じゃ どうするんですか?」
「何 後でつれてくるさ 簡単な話だ、あって直接話をすればいい それだけ。」 朔太郎さんは ため息を一つしてタバコを吸いだした。
「少し知り合いの話を聞いてくれないか。僕の後輩の話」朔太郎さんは窓の外を見ながら
俺の返事を聞かないで続けた。
「彼に妹がいてね・・・中々可愛げのない妹だったらしい。妹さんはいつも怒ってるような顔してたそうだ。年頃だから仕方ないのかも知れないけどね。彼は妹との喧嘩はしょっちゅうだったそうだよ・・・けどね、本心、妹が大切でしかたなかった。だが彼が二十歳の頃、突然、病気で倒れた。 何か心臓の病気 5年生存率は57パーセントのはずだったって医者は言ってて。けれど稀にある、急死、3年間しか生きれなかった。死ぬ少しまえにね・・・今までごめんねって言ってた。 だからどうしたと君は思うが、ぼ・・・彼は愛する妹をなくした、カッコつけしいけど二つ言わせてくれ。 たった一人の家族ならなおさらだ
妹を 梨絵ちゃんは大切にしてあげてくれ。あと甘えてくれないだろうが甘えさせてあげてくれ。彼なら言うだろう。」
最後にそれじゃ梨絵ちゃんは何とか呼んでくるから。もう戻りなさいといった。最後まで朔太郎さんは窓の外を見ていた。

7時過ぎ部屋で一人でドアを眺めていた。まだかまだかと梨絵を待ちながら。
少し考えていた、すべては信号 零と唯で表現できる。パソコンも携帯電話もすべては
信号、どんな感情も所詮 0と1 嬉しさも寂しさも悲しさも怒りも何も全部0と1
分かっている、けど理解できない。どうしてもわからない、じゃあ何で生きてるの?
愛されるため?愛すため?偉業を成し遂げるため?金のため?何のため?
愛されて幸せなのも愛して幸せなのも偉業を成し遂げて幸せなのも金を得て幸せなのも
すべてはそのとき人が生きるための気力を養うための夢、幻 結局は夢に幻に見える
0と1 君が一思いに書ける、読める、理解できる、0と1 なんて意味のないものなのだろうか・・・本当に意味がない。そして分からない。戯言だ・・・

しばらくして、ノックの音がしてドアが開いた、音の主は朔太郎さんだった。 
「つれてきたよ」そう告げて梨絵を部屋にいれ朔太郎さんはドアを閉めた。
「・・・・・・・」しばらくお互い無言だった。沈黙を破ったのは梨絵だった。
「ごめんなさい」小さくつぶやいて下を向いた。
「な なぁ梨絵、俺は少しショックだっただけで何も怒ってなんかないんだ。」
「だからこそ・・・ ごめんなさい お兄ちゃんは多分許してくれる、それが怖いの
何でも許してくれて、それでいてそのことを知ってるのに早い内にいえなかった私が情けない、もう誰に謝れば分からない。」
分かっていたことだ春彦にも同じようなことを言われた。もう俺と梨絵の問題じゃない
梨絵だけの問題としかいえない。梨絵はどうしたら自分を許すのだろうか。分からない。世界は分からない。利巧じゃない俺にはわからないが、基準と考えが曖昧な俺に分かるとしたら、利巧でない俺には考えなくていいって事、分からないなら考えない
すぐに答えが出ないなら一生分からないなら、気にしない大体それで問題ない。
「なぁ梨絵いいんだ、誰にも謝らないで、終わったんだ、昨日は  昨日は佐恵の家に泊まった。プロセスはいらない昨日は終わった、それだけなんだ。何も気に病むことはない」 
な?と良い俺は梨絵に笑いかけた。
「私は甘えられない、お兄ちゃんに頼れない、誰にも迷惑かけちゃいけないの!」
梨絵は泣きながら答えた。
「良いんだよ、甘えたって、迷惑かけたって良い お前の想いが重かったってべつに構わない、その重さが心地良いんだその重さが、中身のない、空っぽな俺の重さでもあるんだ。」
俺らしくもないが、かっこつけしいけど空っぽな俺を叩いて出た。半濁音、情けない
半濁音、美しくも勇ましくも無い情け無い半濁音けど遠くまで響く音。
「だめなんだよ。私が許せない!絶対に!嘘つきは!」
言い切る前に俺は梨絵を抱きしめた。考えなしに優しく抱きしめた。
お前と見ていたこの町の景色は今も変わらない。変わったのは梨絵お前の心だけだ・・・
「嘘には二つあって人を騙す嘘と人のためになる嘘がある。人生、生きてれば知らなくちゃいけないことは沢山ある反面知らなくていいことも少なからずある。
お前んついた嘘は後者だ俺を傷つけたくないから黙ってたんだろ?むしろ感謝すべきことなんだ ありがとう・・・」
「――――――――――――――――もういいのかな?」
「ああ 良いんだよ・・・・」
「――――――――――――――――――――――――――――うん」そういって梨絵は微笑んでくれた。

    エンディング

「疲れたな もう寝ようか」アクビをしながら布団を引く。
「どうした?まだ寝ないのか?まぁ寝るにはまだ早いけど明日学校だしな俺は無理にでもねるぞ」梨絵はたったまま黙って俺を眺めていた。

⇒To Be Continued...

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