夜空は紅色に染まれ
作者: 三流小説書き   2008年10月25日(土) 22時13分37秒公開   ID:BfiTw8OLGCo
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《〜夜空に舞う死蝶〜》

嗚呼、何故人間とは愚かなのだろう?

何故日々を安穏と過ぎるものと決め付けるのだろう?

終わりは、思いの外突然だ。

驚く間も、涙を流す事さえできずに終焉は迎える。

一体、それは誰が及ぼす終わりか?

その答えは決まっている。

幾多の幸せを飲み込み、漆黒と紅の世界へと落とすのは私だけの特権。

今宵はどの人間にしよう?

どんな結末がいい?

教えておくれ私の死蝶……


《プロローグ 〜落つるは紅ゆえに〜》

『キャハハハハハ! いっくよぉ〜!』

紫のワンピースを着た少女の長髪が、一瞬にして紅色の刃へと変わる。
刃は迷うことなく次々と男の身体へと突き刺さり、男の体は宙へと叩き上げられた。
同時に、鮮血が弧を描いて飛び散る。
しかし――

『もっとぉ、もっとぉ!!』

少女は、狂気の笑顔を浮かべて、男の身体へと更なる刃を打ち込む。
そして、絶命させる刃が打ち込まれると、コレでもかというくらい大きな声がした。

『K.O!!! YOU ROSE!!』

……どうやら、俺は格ゲーには向いていないらしい。
まあ、元からあんまりゲームセンターのゲーム自体向いているタイプじゃないけど。
俺がそんな事を画面を見つめながら考えていると、向かいの台にいる金木が意気揚々とやってきた。

「……なんだよ?」
「いや〜、前から弱いってお前言ってたけど、本当に弱いんだな」
「その弱いのに、ハメ技を使うってどうなんだ?」

半ば批難の眼差しで俺が金木は「真の強者は誰にも手を抜かないもんさ」と笑って返してきた。
それでも、ハメ技を20コンボ続けるというのは、いかがなものだろうか?
まあ……いいか。 今日は用事もある事だし。

「んじゃ、そろそろ俺帰る」
「えっ? ハメ技そんなに嫌だったのか?」
「違うっての。 今日は、ちょっと寄っていく所があるんだよ」

小首をかしげ、金木は少し考え込む。
多分……というか、絶対頭の中でいろいろと想像しているのだろう。
一体、何を想像したのだろうか? 不意に、金木の目がとてつもなく優しくなる。
……なんだか寒気がする。

「なんだよ?」
「なるほどな、そういえば季節はもう秋か……。 お前もついに告白か〜?」
「はぁ!? い、いきなり何を……」
「無理すんなって、一親友としてお前の恋路、これでも応援してんだぜ?」

応援しているなら、放っておいて貰えるのが一番嬉しいかったりするんだが……ここで言うと、また話がややこしくなりそうなので、あえて触れずに放置する。
でも、このノリ……次は絶対あのノリが来るよなぁ〜。
何とか逃げないと、絶対付いてこられる。
半分は合っているだけに、ここでタイミングを逃すと凄く面倒だ。
自分に出来る限りの作り笑顔をしてみる。

「まあ、なんだ? 今日は親が両方いないから、夕食自分で作らなきゃいけないんだよ」
「ふ〜ん、で?」
「だ、だからさ。 夕食の買い物があるから早く帰らないと。 十分で近くのスーパーの特売始まるし」

これでも金木は納得しないのか、「う〜ん。 でもな〜」と眉間にシワをよせる。
俺だってうそをついている訳じゃない。 あくまで相手の取り方次第だ。
と、いうわけで……

「また明日な!」
「あっ、おま……」

金木が言い終わる前に、俺は足に力を入れる。
すると、足はまるで縮めたバネのように一気に身体を押し出す。
一瞬で訪れた加速。 涼やかな風が俺の体に与えられる。
雑音が鳴り響くゲームセンターの中、俺の体は素早くかつ正確に間をすり抜ける。
人ごみの出来たゲーム機、椅子と椅子の間、どれも俺を阻む事はできない。
一分もたたないうちに、俺はゲームセンターの入り口から外にでていた。
いきなり走ったからか、少し息が上がっていた。
でも、一息つけばもう元にもどった。
自動ドアごしにゲームセンターの中を見ると、金木が少し驚いた顔でこちらをみていた。
今更ながら、少しだけ悪い事をしたなーと反省。 ドア越しではあるけれど、手を合わせて謝っておく。

「わりぃな、金木。 今日はマジでダメなんだ」

謝罪も済んだ所で、携帯で時間を確認。
うん、まだ時間はありそうだ。

「これなら……走らなくても間に合いそうだな」

そうはいいつつも、内心少しだけ不安があった。
なぜなら、今から俺が向う場所はスーパーではなく、図書館だから。
スーパーは図書館のあとだ。
普段行きなれてないだけに、閉館時間ではないとはしりつつ、休みではないかと心配。
どうしてそこまでして図書館にいきたいのかというと……
蒼井さんに良い小説を教えてもらう約束があるから。
俺は元々読書がイマイチ性に合わないから、いつもは行こうとも思わないが、偶然少し調べ物で寄った事が幸いした。
一生に何度あるかというチャンスで蒼井さんに入り口で出会い、偶然同じ本棚に行ったのだ。
そして、さして考えることもせずに「あ、その本、この前テレビでやってたよね」といったら、そのまま面白い本を教えてもらう事に。

「やっぱ、これって運命……ではないか」

口ではそういいつつ、気持ちはまだ着いてもいないのに浮ついていた。
でも、良いことがそう上手くいかないもの。
一対の眼が俺の姿をいつの間にか追っていた。
当然、浮ついている俺は気付く訳もない。
一対の眼は、にやりと歪む。

『今のうちに楽しむがいい、獲物よ』

冷たい秋風が、静かに俺の頬をなでた。



《〜続き〜》

 知り合いが言っていた。

『人生には上りと下り、両方ある。 どっちもくるから、覚悟しておくように』

 でも、今の俺には下りがあるようには感じなかった。
 てか、好きな人の隣座って、そんな理屈考えてられるか!
 嘘かというくらいに早く鼓動する心臓、少し赤くなってしまった顔……。
 すぐ横に蒼井さんがいるというのに、俺はそれを隠そうと柄にもなく小説のページをさっきからめくり続けている。

 勿論、内容なんて頭に入らないし、本を開いた時なんか逆さのまま読もうとしてた。
 そういえば……蒼井さんは何の本を読んでいるのだろうか?
 選んでいる時、一緒にはいたけれど、頭の中が真っ白で何を選んでいたのか全く覚えていない。

 ちらっと見てみる。
 書いてあったのは俺の読んでいる本とは別次元の内容。
 『段階的崩壊』だとか
 『臥薪嘗胆』だとか
 なんだか難しい漢字が、一ページに山ほどのっている。
 唖然としていると、蒼井さんが俺の視線に気付いて振り向く。

「……?」

 そして、「どうしたの?」とでも言うかのように小首をかしげる。
 彼女の何気ない動作だし、決して他意はないとは分かっているけれど、そのあまりの可愛さと、恥ずかしさで耳まで赤くなる。
 結果、俺は「ど、どう?」という中途半端な言葉を口にしてしまった。
 蒼井さんは「面白いかどうか」と聞かれたと思ったのか、少し考えると返事をかえしてくれた。

「私には少し難しいけど……面白いよ。 美河君はどう?」
「うん、やっぱり蒼井さんのオススメなだけあって結構面白いよ」
「本当? よかった」

 笑顔でいうと、蒼井さんはまた本を読み始めた。
 俺も慌てて本に視線を戻す。
 それからは、二人とも本をよんでいて、読む合間に会話をする程度だった。
 たったそれだけの時間だったけれど、俺にとってはこれ以上ないほど楽しくて、嬉しいものだった。

 でも、どんな事にも終わりはある。
 空が暗くなり始めて、解散する事になった。
 二人で図書館を出ると、蒼井さんは借りた本を大事そうに抱えながら、また笑顔を向けてくれた。

「今日は一緒によんでくれてありがとう。 楽しかった」
「いや、俺の方こそ……。 面白いのいっぱい教えてもらっちゃって」
「どういたしまして。 それじゃあ、また学校でね」
「あ、ああ……」

 蒼井さんは歩き始める。
 少しずつ遠くへといく彼女の背中を見る。
 本当に……これでいいのだろうか?
 俺の思いを告げぬまま、今日を終わらせて良いのだろうか?
 もしかしたら、もうこんなチャンスはないかもしれないのに、これで終わらせる?
 でも、もし断られたら……。
 今更ながらの迷いなのに、拭いきれない。
 こうしている間にも、彼女の背中は小さくなっていく。
 きっとこのまま止めれば俺は後悔する。

 だったら……今あるチャンスに賭けてやる!
 俺は、肺いっぱいに空気をすった。
 それを一気に声として吐き出す。

「蒼井! 待ってくれ!」

 何事かと蒼井さんは振り向く。
 怪訝そうな表情……これは、ダメかもしれない。
 だとしても、俺はもう引けない!

「俺、お前の事が実は……ス」
「させるか!!」

 一瞬の疾風と共に、俺のノドすれすれを巨大な何かが通り過ぎ、地面に突き刺さる。
 恐る恐る見ると、通り過ぎた何かの正体は、巨大なハサミだった。
 コレほどの大きさなら、俺の首なんて一発で胴体と分かれてしまうだろう。
 俺が硬直していると、不意に上から女性が降りてきた。
 銀髪に紅色の目をした彼女の目は、言い知れぬ重さと恐怖に俺の頭は真っ白になる。
 それを知ってか知らずか、女性はハサミを抜くと刃を俺へと向けた。

「お前の幸福、私がもらう!」


〜(続き)〜
ノド元に突きつけられた刃……。
そして、何故か目の前に現れた女性……。
俺の頭はその二つの非日常でただでさえ混乱しているのに、女性の理解不明な一言が追い討ちをかける。

俺の幸福を貰う? どうやって? どうして? そもからお前誰だよ?

いくつもの疑問が浮かんだ末、俺はかすれた声で言うのがやっとだった。

「あんた、何者……」

しかし、俺の問いに対しての答えはない。
返ってきたのは、彼女の深く冷たい眼差しのみ。
明らかにマトモな状況じゃない。異常事態、非日常、非現実……。
早くこの場から逃げ出したいのに、女性は目で俺をその場に縛り付ける。
そう、まるで蛙を見る蛇のように。

沈黙が流れ、段々と身体に脂汗が滲み出す。
緊張? 恐怖?
多分、どちらもだ。
二つの普段は一緒になりえない感情が彼女の目から俺を支配していた。
恐らく、彼女が動こうと思うまで、動いてもいいと思うまで俺はこのまま縛りつけられてしまうだろう。
そして、恐らくこの女性が動いてもいいと思ったときは俺の命の終わりでもあるだろう。

だったらどうすればいい? どうすればこの状況を打破できる?

頭をフルに使って考える。 いつもの何倍ものスピードで次々と策が浮ぶが、自分の頭のなさけなさか、まともに使えそうなものは思いつかない。
そうこうしているうちに、今まで黙っていたのに女性の方から口を開いた。

「何故そこまで幸せなのだ?」
「えっ?」
「お前は、何故幸せでいられる? 何ゆえ死を、恐怖を、終わりをしらぬ?」
「そ、そんなの……」

そんなの、知っている訳がない……そう、言いそうになった。
でも、全て言い切る事ができない。
何か嫌な予感がして、言い切ってしまったら全て終わってしまいそうで、無意識のうちに止めてしまった。
しかし、女性は「何故? 答えよ」と答えを要求してくる。
要求されるたび、彼女の手中のハサミは、俺のノド仏へと近付く。
もはや、引いても進んでも待つのは死……という感じ。
でも、俺は死ぬ訳にはいかない。
たとえ意味不明な状況で、生死の決断をする事になっても、俺には好きな奴がいる。
思いを伝える前に死ぬなんて……できるか!

ノド仏に刃が刺さろうかという瞬間、俺は刃を掴んだ。
手に激痛が走る。
でも、ここで放せば、刃は止まってはくれない。
より一層の力で掴み、逆に女の目を睨み返す。

「そんなの、イチイチ気にしてられっか! こっちとら恋してんだよ!」
「何? 理解できない。 新しいパターン、行動選択不可能」

今まで俺の足を止めていた、女の目が弱まる。
差し詰め、蛇が蛙に驚いた…という所か。
その隙に、俺は右足に力をいれる。
これでも、一応は陸上部だったりしたから、足には自信がある。
姿勢を低くし、右足に重心を移動、あとは右足をばねの様にはじかせるだけ!
一気に体は加速し、目の前の女性へと突進する。
そして一瞬だけ訪れる前からの圧迫。
俺の体はまるで弾丸のように女性の身体を突き飛ばし、蒼井がいるはずの方向へと進む。
でも、そこには蒼井さんはいなかった。
一体、蒼井さんは何処へいったのだろう?
心配だが、ここでのんびりしている暇はなかった。
いくら突き飛ばしたとはいえ、相手がのんびりしている訳はない。
本気で俺を殺す気なら、すぐに追ってくるはず……。

俺は、さらに足にちからをいれた…


〜《残夢》〜
「ハァ…ハァ…」

意識してもいないのに、ドクドクという鼓動音が聞こえる。
心臓が、破裂でもしそうなくらいに早く鼓動しているのが分かる。
足もまるで重りをつけているかのように重たくなっていく。

俺はどれだけ走ったのだろうか?
どれほどあの女と距離を取れたのだろうか?
体の疲れには関係なく、そんな思いがずっと俺を急かす。

⇒To Be Continued...

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