妖怪退治屋 鬼百合姫子
《プロローグ》 「・・・よいか姫子、明日よりお前は正式な鬼百合家一六代目退治屋となる。 この仕事にはこれが欠かせなくなる、よってこれをお前に授ける。」 そう老人は言うと手にしていた何やら布に包まれている小さな四角いものを暗闇に向けて投げた。 普通ならここで四角い物の落ちる音がするであろう、しかしその音は無く、 代わりに暗闇からさっき、老人の持っていた四角いものを持った15歳位の少女が出てきた。 「ありがとうございます。」 そう少女は言うと瞬く間に去っていた。 その頃、禍々しい者が目覚めたとも知らずに・・・ 《第一の巻 放課後の妖怪退治》 ピピッー ピピッー ピピッー 「う、うーん、今何時だ?」 まだ眠そうな顔をして少年は鳴っている目覚ましを止め言った。 彼の名は坂上正志、15歳でこの春、隣町にある私立虹ケ丘高校に入学する事になった高校生である。 彼にはとある理由で人には言えないことがあった。 それについてはまた後々説明するとして、正志は静かに目覚ましの文字盤を見た。 時計は正志の期待を裏切り、無情にも7時30分を示していた。 これでは完全に遅刻しそうだ。 正志はそれを見ると顔を青くして言った。                     「うえ!も、もう7時30分!?や、やべえ、初日から遅刻しちまう!」 そう正幸は言うとすばやく着替え、朝ごはんを抜いて走って玄関を出て行った。 「いってきます!」 *  その頃、ある少女も同じように急いで学校に向かっていた。 「ああ、私としたことが、術具を磨いて今日が入学式なのを忘れるなんて!」 彼女の名は鬼百合姫子、15歳でこの春に正志と同じ虹ケ丘高校に通うことになった少女である。 姫子が走っていると十字路が見えた、この十字路を右に曲がれば姫子の目指す虹が丘高校である。 姫子が曲がろうとしたその時だった。 ドン! いきなり何かが姫子の体に当たってきた。 姫子がどうしたのかと見ると姫子の体に自分と同じくらいの少年がのびてもたれかかっていた。 そして姫子がそれを確認した後、前方を見ると目の前に異常に長い木綿生地が浮かんでいた。 それを見ると少年を退け言った。 「でたわね、妖怪、私が退治屋になったからには覚悟しなさい!」 実を言うとこの姫子と言う少女、妖怪専門の退治屋なのである。 元々、姫子の家は江戸時代から代々、妖怪退治を仕事としている家系なのである。 姫子はなにか四角い、包まれたものを取り出し何か呪文のようなものを唱えだした。 「・・・天に向けるはわが羽衣、天の主よ、今こそ我に力をかさん、標的、一反木綿、威力一、爆雷降臨。」 姫子がそう言うと言い終わった途端にさっきまで晴天だったはずの空に雲が出来、一反木綿に5から6本の雷が落ちた。 するとさっきまで一反木綿が居た所は雷で黒くなっていた。 しばらくして気を失っている少年を見て姫子が言った。 「さて、これからどうするか・・・」 * 「う、うんー。」 正志は虹ヶ丘高校の保健室で目を覚ました。 体育館だと思われる方から人の拍手が聞こえる、どうやら自分は結局、入学式には参加できなかったらしい。 正志がそれを気にしているといきなりカーテンが開いた。 そこには白い服を着た職員らしき女性がいた、たぶん保険の先生なのだろう。 するとその保険の先生らしき人が言った。 「ああ、起きたのか、言っとくけど体の調子が良くなったら勝手に出てってくれない? 私もいろいろと忙しいから。」 そう言うと椅子に座ってなにやら本を読み出した。 それを見ると正志はぜんぜん暇そうじゃないかと思ったが別にこれ以上いる理由も見つからなかったので出て行った。 それから正志はまずは自分の教室を探し出すことにした。 しかしこの作業にはなかなか苦労した、なぜなら自分のクラスが何組か忘れたからである。 正志がそれでしばらく苦戦していると不意に声をかけてきた人がいた。 「どうしたんですか?もしかして自分の組がわからないとか?」 正志がずいぶん失礼なことを言うな、と思いその声のした方に振り返るとそこには見た事のある美少女がいた。 正志はその美少女を見て驚いた、なぜならさっき、正志が保健室にいる時に夢だと思っていた出来事に登場した少女だからである。 一方、さっき正志を運んできた正志側から見た美少女、姫子は気まずかった、 さっきの一反木綿との戦いを見られたかもしれないからである。 実を言うと姫子の家、鬼百合家の他にも妖怪退治屋はおり、全国に広まっていて妖怪退治屋連合という組織を作っている、 姫子はこれからその連合になんと言う妖怪をいくつ倒したのかを一月に一回報告して報酬をもらうのである。 しかしこの連合というのが厄介で一般人には知られてはいけなくなっている、 もし知られた場合は知った者を殺すかパートナーにしなければならないのである。 しかしそれのどちらもしたくない姫子は他人のフリをして様子を伺うことにした。 そうとは知らない正志は自分の思い違いだといけないので姫子に聞いた。 「あのー、どこかで会いましたか?」 そう正志が言うと姫子は動揺したが顔に出さずに言った。 「さあ?ところで何でこんな所に?」 その姫子の質問でどうして困っていたのか思い出し、正志は姫子に聞いた。 「ああ、そうだった。あのー僕、組がわからなくって、どこに組が書いてあるのか分かります?」 正志がそう言うと姫子は下駄箱を指差し言った。 「下駄箱の横に貼ってありますよ?」 そう姫子が言ったので正志が下駄箱を見ると本当に貼ってあり、見ると自分は1年D組に書いてあった。 しばらくして、どうやら一緒に見ていたらしく姫子が言った。 「あ、君ってなんて名前?」 姫子の質問に本能的に正志は答えた。 「ああ、坂上正志って言います。」 すると姫子は驚いたように言った。 「え!それじゃあ私たち同じ組だね、私、鬼百合姫子!宜しく!」 それに釣られるように正志は言った。 「え?ああ、そうだね、宜しく。」 そうこうしていると始業のチャイムが鳴った。 * そしてその放課後、正志は朝の姫子について考えていた。 「絶対どっかであの子を見たことがあるはずなんだけど・・・」 正志がそう言って考えているとふと正志の目に姫子が教室からこそこそと出て行く所が見えた。 それを見て正志は追うことにした。 それから十分後、姫子は正志に尾行されていることに気付かず体育館裏にいた。 「おかしいな、確かにここら辺から強い妖気を感じたんだけど・・・」 一方、姫子を隠れ見ている正志は何か嫌な感じがした、その時だった。 いきなり姫子の後ろの草むらが蠢いて姫子に飛びかかった。 それに姫子は気付くとその草むらからの攻撃をかわし、ひらりと舞い、朝の時の布に包まれた四角い物を取り出した。 そして姫子はしばらく何か言うと、朝のように、なにやら呪文のようなものを唱えだした。 「ち、出たわね、妖怪、成敗してやる。」 「天に捧げるは我が羽、天の神よ、我が羽に今一時力を授けん、標的、妖魔一体、雷神降臨の舞。」 姫子がそう言った瞬間閃光が走った。 しばらくして正志が目を開けると、姫子の前に5m程度の黄金色に光る美女がいた。 その美女は実に穏やかな顔をしていた。 それを見た姫子は勝ち誇ったように言った。 「私の勝ちね、さあ、妖怪よ、おとなしく異界へ帰りなさい。さもないと雷神の怒りを受けることになるわよ。」 すると妖怪はもぞもぞと動き、言った。 「くはは、笑わせてくれる。お前のような若い者がこのワシ、毛羽毛現様を倒せると思うてか。」 「う〜、言ったわね!せっかく人が気を遣ってあげたというのに、もう許さないわ。 雷神、やつけて!」 そう姫子が言うと美女が静かに手を上げた。 するといきなり空から凄まじい閃光を放つ雷が毛羽毛現に落ちてきた。 しかし、その雷はあっけなくかわされ、毛羽毛現は、姫子をからかうように動いて言った。 「ほれ、小娘、言ったとおりじゃろうが、次はワシから行くぞ・・・」 そう言うと毛羽毛現はすごい速さで雷神を突き飛ばすと、姫子に突っ込んで来た。 姫子はそれを見ると、とっさにその攻撃の軌道を読み、雷神に命令を下そうとした。 しかし、姫子が雷神の居た所を見ると、もう雷神はさっきの一撃で消滅してしまっていた。 それを見て姫子がやられるのを覚悟した、その時だった。 突然、姫子と毛羽毛現の間に、正志が滑り込んだ。 するとどうした事だろう、毛羽毛現が正志に当たった瞬間、ふっ飛んでしまったではないか。 目の前で起きたことに、姫子は少しの間困惑してしまった。 しばらくすると、正志が姫子の手を引いて言った。 「・・・にげよう・・」 まるで、今にも消えそうな小さな声だった。 しかし、正志の腕の力は意外に強く、姫子は正志に引かれるがままにするしかなかった。 《第二の巻 二人はパートナー?》 「ねえ、ここどこよ?」 姫子がそう言うと正志は少し不機嫌なのか怒ったように言った。 「見れば分かるだろう!神社だよ、神社!」 今、姫子達は何とかさっきの毛羽毛元を撒いて小さな神社の敷地の中にいた。 時子は正志を見ながら言った。 「ふ〜ん、まあいいわ、とりあえずさっきの事についてはお礼を言っとく、ありがとう。 ところであなた、何者なの?妖怪が見えるみたいだし、さっきなんて妖怪を吹っ飛ばしたわよね?民間人にはできるはずないわ。」 姫子がそう言うと正志は静かに言った。 「君こそ何者なんだい?質問する前に自分から言うのが礼儀だと思うけど?」 確かにその通りである、しかし、正志が何者か分からない以上、教えるわけにはいかなかった。 すると、事情を察したのか正志が笑い言った。 「別に言いたくないんならいいよ、多分、僕ら同じだと思うし。」 そう言うと正志は語りだした。 「まず僕は阪上正志、今日の朝、話したから知ってるでしょ?そして君が最も知りたがっている僕の正体だけど、 僕の正体は妖怪退治屋連合直任北九州部第百区、虹ケ丘妖怪退治屋、つまり君のパートナーって事。」 しばらく沈黙が流れた、その間に姫子は考えた。何故自分のパートナーなのかを、そしてどうしてこうなっているのかを、 しかしその結論が出る前に現実に戻ることになってしまった。 正志が声をかけたからだ。 「どうやらそうだったみたいだね、ところでさっきの君の式神を見たけど、どういうこと? 君はあんなに強い式神を持っているのに強さが中ぐらいの妖怪に苦戦するなんて、どうかしたのかい?」 「な、なによ!私に文句言う気!あんただってさっき逃げたじゃない!そんなに言うんだったらあんたの式神見せなさいよ!」 「別に文句があった訳じゃないんだけど・・・でもそんなに見たいんだったら・・・」 そう言うと正志は制服のポケットから小さな細長い銀色の棒を取り出した。 そして、しばらくすると、呪を唱えだした。 「神に捧げしは我が力、神よ、円を描き使い魔を降臨させたまえ、一式、黒椿。」 正志がそう言うと次第に棒は光だし、ついには直視できないほどになっていた。 そして、いきなりその光が一瞬、弱くなったかと思うと、ポン!と軽快な音を立て式神召喚された。 しかし姫子はその式神を見て、自分の目を疑った。 なぜなら、そこには今、姫子の使える呪文の内で一番強い呪文、 『雷神降臨』つまり、さっき破られた雷神の召喚の時、召喚するために力を借りた天の神こと、天神がいたからである。  通常の妖怪退治屋は、式神などの使い魔を召喚するには、それよりも高位の使い魔の力を借りて召喚しなければならない、 ちなみにこの位は式紙・小精霊・式神・精霊・神・世神の五つに分かれていて、 当然の様に位が上に上がるにつれて、術者の格、呪力の消費、などがそれに応じて必要になる。 ちなみに、姫子が召喚できるのは妖怪退治屋平均の式神クラスまでで、 通常このクラスまでできれば一生これで食べていけると言われている。 つまり、正志は神クラスまで召喚できるので、姫子とは基本的に格が違うのである。 「・・・え〜と、これが僕の召喚ができる一番高位な式神なんだけどどうかな?」 正志がそう言うとさっきまで、あまりのショックで何も言えなかった姫子はやっと我に返り言った。 「あっあなた、神クラスまで召喚できるの?ほんとにあなた何者なのよ?」 正志は少し困ったような顔をすると苦笑して言った。 「君がしっかりとパートナーとしてできるようになったら教えてあげるよ。 ところでこれはもう上の決定だからもうどうにもならないけど、もうこんなに暗いけど、どうする?」 姫子が正志に言われて見てみると確かにもう暗くなっていた。 結局、その日、姫子は正志から何も聞きだせず、帰ることになってしまった。 その日の夜、姫子は姫子の祖父の鬼百合源次郎に呼び出された。 姫子が行ってみると祖父は畳に座って待っていた。 「よく来た姫子、時に初出勤はどうであった?今まで知らなかった事もあったろう。」 姫子は今日の正志との出来事について言おうか迷ったが、聞いてみることにした。 「あの、おじい様、実を言うと今日、不思議な事がありまして・・・」 祖父は穏やかな顔で言った。 「どんな事だい?」 「はい、実を言うと今日、私の所に私の仕事のパートナーと言い張る男の子が来たんです。 しかも、その人は式神が召喚できて、神クラスの式神を私に召喚して見せたんです。 おじい様は千里眼を持っていますし、顔も広いから誰かわかりませんか?」 祖父は珍しく微笑し言った。 「知っとるよ、確かにその男の子は姫子のパートナーだ。」 「では彼は何者なのです?」  「ああ、彼は天神一族の最後の生き残りで・・・なんだったかな〜?」  姫子はもう祖父に聞くのを諦めた。  なぜなら姫子の祖父である源次郎は、昔はかなりの退治屋だったらしいのだが、 今はもう痴呆になりつつあり、話をして一回言ったことを忘れた場合はもういくら聞いても同じことしか答えないのだ。 しょうがなく姫子は祖父が気付いているかどうかはわからないが、 とりあえず教えてくれたことについて例を述べて部屋を後にし、その日はとりあえず寝ることにした。 *  次の日、姫子は早く起き、自分の術具である四角い四天雷という昨日、 雷神を呼ぶのに使った術具を布を取り綺麗に磨きながら正志について考えていた。  そして何気なく時計を見ると、もう学校に行く時間になっていた。  しょうがなく姫子はため息をつき、家を出て行った。  その頃、姫子の昨日からの疑問の張本人である正志は朝早くだというのに妖怪と戦っていた。  それは今から約三十分前のことだった。  正志は昨日のように空腹で妖怪に負けることが無いように近所のコンビニによろうと思いコンビニに向かっている時の事だった。  「うわーん!うわーん!」  正志がここを曲がればコンビニという角を曲がろうとすると路地の方から子供の泣く声がした。  正志がそれに気付き、変だな〜。と思いながらも入って行くと、そこにはまず普通ではありえない状況があった。  なんとそこには五歳ぐらい子供が妖怪に捕まっていたのであった。  しかし、正志は妖怪が民間人を襲うことが無いことを知っていたので馬鹿にするように凄んで言った。  「下手な小細工はやめろ、馬鹿なら引っかかるだろうが俺には効かん、早く正体を現せ。」  すると妖怪に捕まっていた子供の口が裂けたかと思うと子供を捕らえていた妖怪は消え、 子供の口から妖狐が甲高い声を上げて出て来た。  「やはり妖狐か、最近の妖狐はこんな小汚い手を使うのか。」  「ふん!うるさいね、あんたはあたしにさっさと食われればいいんだよ!」  こうして今に至ったわけである。  しかし、そろそろ正志は決着をつけることにした。 速くしないと学校に遅れるためであった。  そして正志は昨日のように呪文を唱え始めた。 しかし、昨日とは違う呪文であった。  「我と契約せし十二の式神達よ、今、我に力かさん、二式、風天刃。」 正志が唱え終わると昨日のように正志の術具である細長い銀色の棒、風神の刀が輝きだした。 やがてその光は収まったが、そこには昨日とは違う者が召喚されていた。 それは金色に輝く刀で不気味なほどに綺麗であった。 それを見ると、さっきまで「正志を食う。」などと言っていた妖狐は、 いきなり身の危険を感じ、正志に助けてくれるよう哀願し始めた。 明らかな格の違いが式神から漏れる妖気で本能的に分かったからである。 「ぼ、ぼうや、悪かったよ、負けを認めるから逃がしておくれ、お願いだ。 私には子供がいるんだよ、しっかりと異界に帰るからお願いだよ。」 妖狐がそう言うと正志はまるで汚いものを見るかのような目で言った。 「関係ないね、俺は俺の仕事をするだけだ、第一、妖怪には子供は産まれない、つくづく嘘をつく奴だな、消滅しろ。」 正志がそう言った瞬間、妖狐は顔を恐怖で顔を強張らせ、いきなり逃げ出した。 正志はそれを見るとゆっくりと刀を取った。 もはや妖狐はかなり遠ざかっていて倒すのは無理な距離と思われたその時だった。 正志が静かに刀を一振りした。 その瞬間、刀から衝撃波が出て妖狐を後ろから真っ二つにしたのだった。  正志はそれを確認すると何事も無かったようにコンビニへと入っていった。 その頃、姫子は昨日の事についてまだ考えて歩いていた。 このままのペースで進めば学校には少し速く着くだろう。 しかし、人生そううまくもいかないもので、姫子は消えかかっている妖気を感じ取り、その妖気のする方へと行ってみることにした。 * 正志はさっきの妖怪のことなど忘れ、朝食代わりのパンとついでに買った昼食を持ってコンビニから出てきた。 すると、まるでタイミングを計ったかのように、姫子がさっき妖怪を倒した路地に入っていった。 正志は姫子をしょうがなく追うことにした。 妖怪を倒した後には、その妖怪から漏れる瘴気や妖気に引き付けられて他の妖怪が来ることがあるためである。 その頃、とうの姫子と言ったらそんな事には気付かず、以前と消えかかっている妖気をたどっていた。 「う〜ん、ここら辺のはずなんだけど・・・妖気が弱すぎてよく分からないな〜。」 姫子はそう言って路地を奥へ奥へと進んでいると、不意に後ろから猫のような鳴き声がした。 姫子がそれに気付き、振り向くとそこには可愛い猫がいた。 姫子がそのあまりの可愛さに身をかがめ、頭を撫でようとした時だった。 姫子はある、気付かなければよかったのに。と、思うようなことに気付いてしまった。 それは可愛い猫の尻尾が二本あったことだった。 姫子はそれに気付くと、すぐに手を引っ込めた。 しかし、時すでに遅し、さっきまで可愛い猫だった筈の者がバキバキ!と音を立て、 身の丈3mほどの化け猫と化して彼女に襲い掛かった。 姫子はとっさに反応したが間に合わない、もう姫子が自分の死を覚悟したその時だった。 姫子の一ミリ横を衝撃波が通り過ぎ、化け猫の右足を直撃した。 「まったく、君は本当に妖怪退治屋なのかい?」 昨日、聞いた、人を小バカにしたような声を聞いて姫子がまさかと思い、振り向くとそこには正志がコンビニ袋を下げていた。 化け猫は正志のさっきの一撃で怒ったのか唸り声を上げ、正志に襲い掛かった。 正志はそれをひらりとかわすと着実に化け猫に攻撃を入れていく、一発、二発、三発・・・ 姫子はそれを見ながら思った。 すごい、こんなに大きな妖怪にひるみもせず、着実に攻撃を決めている。 やっぱり、この人は只者じゃない。と、それから少しして、戦いは終わった。 正志の完全な勝利である、姫子は今度は昨日とは違い、本心からお礼を言った。 「ありがとう、私一人ではどうしようもなかった。」 姫子がそう言うと正志は昨日とは違い、さっぱりとした笑顔で言った。 「いいんだよ、僕たちパートナーだろ?困ったときはお互い様さ。 それより昨日は少し言い過ぎたみたいだね、ごめん、これで少しはパートナーって認識してくれた?」 「うん!これから私たちは本当のパートナーよ!」 姫子がそう、しっかりと言った。 これでやっと姫子と正志は本当のパートナーになった。 しかし二人の苦労はここからなのである。   《第三の巻 商売敵は恋人の匂い?》 その日、結局、姫子達は昨日と同様に遅刻し担任の先生に怒られる羽目になった。 その夜、姫子はパートナーが出来た事を彼女の祖父である源次郎に報告しに行くことにした。 「おじい様、失礼します。」 そう姫子が言い、部屋に入ると昨日のように祖父は畳に座りまっていた。 早速、姫子がパートナーが出来た事を伝えようとすると祖父は静かに言った。 「わかっておる、姫子、お前にパートナーが出来たのだろう?千里眼ですべて見ておったわい。」 そう言うと祖父は顔を険しくして続けた。 「しかし、姫子よ、それと一緒にお前の商売敵も見えた、お前達と同じく男女のパートナーで恐ろしく強い。」 それを聞いて姫子はどの様な二人組か聞いたが昨日と同じように痴呆が再発してしまったので聞くことが出来なかった。 次の日、姫子は早速、この事を正志に昼休みに話した。 「ねえ、実を言うと私たち以外にここの妖怪退治している人達がいるみたいなんだけど、知ってる?」 すると正志は購買で買ったメロンパンを頬張り、言った。 「ああ、片方なら知ってるかも、それよりどうして聞くの?」 「どうしてって・・・知っといた方が色々といいからよ、それよりその片方って誰なの?」 そう姫子が言うと正志は嫌そうな顔で言った。 「別に教えてもいいけど、一人で合いに行けよ?俺、合いに行くの、嫌だから。」 そう言うとまた正志はメロンパンを頬張った。 姫子はなんだか頭に来たがそこは抑えて言った。 「いいわよ、一人で行くわ、それでその人なんて言う人なの?」 正志は今頃アメリカ人もやらない様な肩のすくめ方をして言った。 「わかったよ、そいつの名前は天野美咲、1年C組、隣のクラスだ。 それと念のため言っとくが、そいつの前では俺の名前を出すな、いいな?」 「いいけど、どうして?」 「そいつに知られると面倒だから。」 「わかったわよ!もう正志なんかしらない!」 姫子はそう言うと隣のクラスへ走るように向かって行った。 正志はそれを見送ると、ふと言った。 「ふう、何とかしのいだな、でもあいつに会うのも時間の問題か・・・」 実を言うと正志は天野美咲とは親しい仲だが、とある理由で彼は一週間前から彼女から逃げているのであった。 その頃、姫子は一年C組の扉から中を覗いていた。 まだ入学して三日ほどしか経っていないから他のクラスに友達がいないのである。 そうした理由で姫子が困っていると丁度、C組に入っていく女子を見つけて天野美咲を呼んでもらうように頼んでみた。 天野美咲は呼んでもらってすぐに来た。 スタイルが良く、おとなしそうで顔も結構可愛い女の子である、 しかし今はいきなり呼び出されたので気分を悪くしたのか眉間にしわを作っている。 姫子は悪い事したな〜。と、思いながらも言った。 「あの〜、あなた、美咲さんよね?突然で悪いんだけど、妖怪退治屋って知ってる?」 姫子がそう言うと美咲はとたんに顔色を変え、言った。 「あなた、もしかして同業者?どうして私の事知ってるの?」 「ちょっとパートナーに教えてもらってね。」 「じゃあ、そのパートナーって誰?私の仕事の事は私のパートナーと正志君しか知らないはずよ?」 思いもよらない所で正志の名前が出たので姫子はつい言ってしまった。 この一言が跡で自分を苦しめる元とも知らずに・・・ 「ま、正志君!?あなた、なんでパートナーの名前、知ってるの?」 姫子の口から正志の名前が出たとたん美咲は目の色を変え、姫子につかみかかり言った。 「あなた正志君から聞いたの?正志君は今どこにいるの?」 姫子はさすがに美咲の鬼気迫る聞き方に恐れをなし、正志との約束を破っただけでなく、正志のクラスまで教えてしまった。 すると美咲は聞いたとたんに姫子を投げ出し走って行ってしまった。 それから少しして姫子がクラスに戻ってみると明らかに現実離れした光景がそこにはあった。 姫子はたった数日しか正志を見ていないが、あの常に冷静で妖怪相手でもひるまない正志が美咲から逃げていたのであった。 「こ、こら、来んな!美咲、大体どうしてお前がここを知っている!?」 「えへへ〜、親切な人が教えてくれたの〜、でもどうして逃げるの?あの時はしっかりと抱いてくれたのに。」 そう悲しそうに言うと美咲は正志に抱きついた。 しかし、そこはさすが正志で、美咲をよけると急いで美咲の一言を撤回した。 「バ、バカ!そんな感じ外されるような言い方すんな!つうか追ってくるなよ!」 「ダメ〜!正志が一緒にいてくれるまでやるもの!」 そう言うとまた抱きつこうとする。 周りの生徒と姫子はと言うと何がなんだかわからない顔をして茫然と二人を見ていた。 しばらく二人がそれを繰り返していると正志が姫子に気付き、言った。 「あ、こら、姫子!こいつにクラス教えたろう!責任持ってこいつを連れてけよ!」 「は、はい!」 それから苦戦すること十分、姫子達はやっとのことで美咲を追い帰すことができた。 正志はハアハァ息を荒げて言った。 「姫子、お前、あいつになんで教えた?おかげで大変な目にあったんだぞ!」 「ごめんなさい、でもどうしてあんな事に?」 「ちょっとした事が一週間前にあってな・・・それより今日の仕事について、 言っておきたい事があるから放課後に化け猫が出た路地に来てくれるか?」 「え、ええ、いいけど、どうしてあそこなの?」 姫子が質問すると正志は声を呆れる様に言った。 「あのな〜、お前も見たろう、美咲の尋常じゃない執着心、普通の所で話すと民間人にも聞かれやすいし、 美咲になんか、すぐに見つかっちまうぞ?」 そう言うと正志はブルブル!と震えた。 姫子は笑いそうになったが何とかこらえ、言った。 「わかったわ、あそこでいいのね?」 姫子は何とかこらえたが、今にも吹き出しそうだった。 それを正志が怒ろうとしようとした時、始業のチャイムが鳴りだしたのだった。 * それから約二時間半後、姫子は昨日、化け猫の出た路地にいた。まだ正志の姿はそこには無い。 「何よ、正志の奴、人を呼んでおいてまだいないじゃない!」 そう姫子が言った時だった、いきなり正志が路地に飛び込んできた。 それからしばらく間をおいて美咲もどこから知ったのか路地に飛び込んできて正志に飛びついた。 正志は必死に美咲の魔手から逃げようとするが絡んできてなかなか離れない。 「や、やめろ、美咲!離せ!離してくれ〜!」 美咲はそう言って逃げようとする正志をよりいっそう強く抱きしめると言った。 「ダメ!ダメ〜!正志はずっと私のそばにいるの〜!そう約束したじゃない!」 「な、何、言ってんだ!それはあの時の事で・・・」 正志はそう言った時、姫子がいることに気付いた、正志はすぐ姫子に助けを求め、数分後にやっと自由の身になったのであった。 しかし、依然とし、美咲は正志を狙っていた。 姫子はとにかくこの状況を何とかしようと思い、美咲にどうして正志にそんなに執着するのか聞いてみる事にした。 「ねえ、どうして美咲さんはそんなに正志と一緒にいたいの?」 「それは正志と約束したからよ・・・」 そう言うと美咲は話し出した。 美咲が言うには正志と美咲が出会ったのは今から一週間前の月の綺麗な夜の事だったと言う・・・・ その夜、美咲は、もうすぐ正式に妖怪退治屋になるので妖怪を見つけての実習をしていたのだと言う。 しかし、弱いのしか罠に掛からなかったために、美咲は強い妖怪を倒すため、妖怪の出そうな神社に迷い込んだのだと言う、 だが、そこにいた妖怪はあまりに強く、負けて食われそうな所を正志が飛び込んできて助けてくれ、 あまりに怖かったため、震えている美咲をしっかりと抱きしめ、優しく言ってくれたそうだ、 「大丈夫、ずっと一緒にいるから大丈夫だよ。」と、そう言うと正志は朝まで美咲と一緒にいてくれたのだと言う。 正志はその話をまるで夢見る少女のように話す美咲から顔を背け、その後を苦々しげに続けた。 それから正志は美咲をしっかりと家へと送ってやるとその日は人助けをした。と、良い気分になって寝たのだと言う。 しかし、そこから正志の話の雰囲気は変わっていった。 それからというもの、美咲は正志を見つけるとたびたびくっついてきて、正志はかなりの疲労を感じ、 ついには胃潰瘍になり、入学式前日まで入院していたのだと言う。 その話を聞いて姫子はほんとかどうか最初は疑ったが、そのうち本当だと分かり、訊いてみることにした。 「なるほどね・・・つまり正志は美咲さんにその時、確かに言ったけどその後、なぜか惚れられてしまい、逃げているって訳ね・・・ じゃあ美咲さんに聞くけれど美咲さんのことを正志がどう思っているか聞いたことあるの?」 それを聞くと美咲は少し顔を強張らせて言った。 「な、無いけど、それがどうしたって言うのよ!あなたには関係ないじゃない!」 それを聞いて姫子はさらにたたみかける。 「関係ないこと無いわ、私は正志のパートナーだから正志が戦えなくなると困るのよ、そんなことよりも訊いた事ないのよね? だったら、もしかしたら正志が嫌がってるかもしれないじゃない」 図星だった、しかし美咲はこのまま引くのは自分が正志から手を引くのを意味していたので姫子にとんでもない条件を押し付けた。 「うるさ〜い!いいわ、そんなに言うなら決闘をしましょう!もしあなたが勝ったら私は正志から手を引くわ、 でももし私が勝ったら・・・私の好きなようにさせて貰うわよ!」 姫子はそれに負ける訳にはいかないと言った。 「いいわ、受けましょう、そのかわり条件通りにするのよ!」 それを聞いて正志は顔を青くして言った。 「や、やめろ、姫子、そいつはお前じゃまだ勝てない!」 それを聞くと姫子は余裕という顔で言った。 「大丈夫よ、あんな女なんかには負けないから!」 そう言うと姫子と美咲は正志を荷物のように持つと決闘場所へと向かった。 《第四の巻 夕日と犬も食わぬ女の喧嘩》 それから少し経ち、姫子たちは決闘場所の虹ケ丘公園にいた。 もっとも、美咲が結界を張ったため公園内は美咲達の他に誰も入れない上に、 中は異界と化し、何故だかまだ出る時刻でもないのに夕日が出ていた。 今や異界と化した公園はその夕日で美しい紅に染まっている。 姫子はそんな事には目もくれずに言った。 「早く始めましょうよ、その身に私の強さを分からせてやるわ!」 姫子はそう言うと自分の術具である四天雷を取り出し戦闘態勢に入る、 それを見ると美咲は姫子に向かって馬鹿にするように言った。 「その言葉、全てあなたにお返しするわ、そんなことより・・・・」 そう言うと美咲はいきなり公園の木に寄りかかって休んでいる正志に手を振りながら言った。 「正志〜待っててね〜!わたし絶対に勝つから〜」 当の正志はと言うと、美咲の一言で頭痛がしてきた、しかし美咲はそんなの御構い無し、 勝手に決意を固め、征服のポケットから漆塗りの鏡を取り出して言った。 「これが私の術具、七夕の鏡よ!」 「七夕の鏡?」 「そうよ!これであなたを倒すわ、いくわよ!」 そう言うといきなり呪を唱えだした。 「・・・天に横たわる星の大河よ、夕日に燃えし我の鏡に力を授けん・・・・」 それを聞いて姫子もあわてて呪を唱える。 「・・・天に捧げるは我が羽、天の神よ、我が羽に今一時力を授けん・・・」 夕日に燃える公園に美しい二つの歌声が響く、やがて二つの歌声は止み、強烈な閃光が走った。 お互いの式神が召喚されたのだ、時子側はこの前の雷神、美咲側はたださっきの鏡から怪しく黒いモヤが立ち込めているだけだった。 それを見て姫子は勝利を確信し、一気に雷神で美咲に攻撃をかけていく、しかしそこに正志が大声で言った。 「やめろー!このままじゃお前の式神が・・・」 しかし姫子には聞こえない、雷神はそのまま美咲に攻撃をした。 その時だった、美咲の鏡がさらに強いモヤを出し巨大化した。 すると姫子の式神は勢い余って美咲の鏡に激突した、普通ならここで鏡は割れてしまうであろう、 しかし、美咲の鏡は一回、激しくうねると黒いモヤが触手のようになり雷神を鏡の中に引きずり込んだ、 それからしばらくすると、激しい叫び声が聞こえ、鏡の中から姫子の雷神を降臨させていた四天雷が吐き出された。 それからしばらくの間、沈黙が流れ、美咲が勝ち誇ったように言った。 「ふふ、私の勝ちね、あなたにもう式神はないわ」 その言葉を聴き、姫子は我に返り言った。 「そんなの分からないじゃない!」 「分かるのよ、あなたも知っているでしょう?式神は術具のある所しか召喚できない、 つまりあなたの術具がここに出てきてるって事はあなたの式神は倒されたのよ!」 「そ、そんな・・・・」 姫子は力なくひざまついた。 それを舐めまわすように見ると美咲は静かに言った。 「さてと、ひめこさん、約束通りにしてもらうわよ?それじゃあ、まずあなたには正志とのコンビを辞めて貰おうかしら?」 「な、なんですって!?」 「当然じゃないの、あなたのようなよわっちぃ〜退治屋と組んでいると正志の本当の力が廃れてしまうからよ!」 「いいかげんにしろ!美咲!」 いきなり公園内に怒鳴り声が響いた、美咲達がその方を見ると肩に刀をかけた美少年が怒りをあらわにして立っていた。 それを見た瞬間にさっきまで余裕という顔をしていた美咲の顔が見る見るうちに青くなっていき、美咲は叫ぶように言った。 「た、たかし!何であなたがここに・・・・」 すると少年の方は肩を震わせて言った。 「何で?じゃないだろ!今日の仕事について説明するからいつもの所に来るように今日の朝言ったろう! いくら待っても来ないから探してみればこんな所で騒ぎを起こして・・・・」 どうやらこのたかしという少年、美咲のパートナーらしい、美咲はまだ必死に言い訳をしている。 「ち、違うのたかし、ちょっと知り合いに会って、そのパートナーの練習を付き合ってただけなのよ〜」 「いいや、さっきのやり取り、しっかりと聞かせてもらったよ!さあ、さっさと帰るよ!」 「わ、わかったわよ〜」 そう美咲は言うとたかしに連れられて公園の出口に向かって行った。 しかしいきなり美咲のパートナー、たかしが振り向き言った。 「君たち悪かったね、僕のパートナーが余計なことして、 僕の名前は紅柳たかし、これからいろいろと世話になると思うからよろしくね」 たかしはそう言うとまた歩き出し夕日の中へと消えて行った。 後にはただ姫子とさっきまで頭痛がしていた正志が残され気まずい沈黙が流れた。 その沈黙が少し続いた頃、姫子が正志に声をかけた。 「・・・ねえ、正志」 「なに?」 「うん、この際だからはっきりしときたいんだけど、私って正志にとって邪魔なの?」 それを聞くと正志は姫子の顔を見た。 姫子の顔は涙で濡れていていつもの美しさが無い、正志は静かに言った。 「・・・少し歩きながら話さない?」 「うん・・・・」 二人はそう言うと、やや暗くなりかけている道を歩き出した。 もうここの町の桜は散っていて、花の無い桜の木が少し寂しい、歩き始めて少ししてから、いきなり正志は言った。 「・・・・ねえ、ここの町に伝わる伝説って知ってる?」 「え、ええ、でもどうして?」 そうなのである、実を言うと虹ケ丘には[天竜の願い]という伝説が残っていて全国的に有名で毎年その祭りが行われている。 その内容は実に簡単なもので、ある日、虹ヶ丘に天から龍がやってきて村を襲い、それを通りすがりの旅人の男女が倒すというものだ。 「うん、実を言うとその伝説には後日談があってこうなっているんだ・・・・」 そう正志は言うと伝説の続きを語りだした。 「龍を倒した跡、彼らはまた旅に戻り、ある村に行き着いた、その村は妖怪達に襲われ、荒れ果てていた・・・ それを見た二人は怒り、悲しみ、妖怪を倒そうと決意し、また妖怪退治へと向かった。 二人は何とか妖怪は倒した、しかし、男しか戻ってこなかった・・・ さて、何があったんだと思う?」 「え!えっと・・・・だめ、わからないわ、何があったの?」 「うん、実を言うと戦いの後、女の方は戦いで男の足を引っ張ったことを気に病んで男と別れたんだ、 でも男にはその女の人が必要で女のことを捜すためにまた旅に出て行った・・・・・」 不器用な正志なりの精一杯の例えであった。 姫子は何とか例えの意味がわかって恐る恐る言った。 「・・・・それって私たちのこと言ってるの?」 姫子がそう言うと正志は顔を赤くして言った。 「ま、まあね、ちょっと遠回りだったけどそういうことかな」 「つまり、私は邪魔などころか必要ってこと?」 「そういうこと!そんなに気にすること無いって!」 「で、でも、私あの女に負けちゃったし・・・・」 「人間、一回くらい失敗あるさ!そんなに気にするなって!」 「正志・・・あ、ありがとう!私、本当にあなたのパートナーになってよかった!」 姫子がそう言うと正志は恥ずかしそうに顔を赤くして言った。  「何言ってんだよ、俺たちパートナーだろ?困ったときはお互い様さ! そんなことよりすっかり遅くなっちゃったね、家まで送ってあげるよ!」 二人はそれだけ言うとまた歩き出したのだった・・・・ それから数十分後、正志たちは姫子の家にいた。 本当は姫子を送ったら正志はそのまま帰るつもりだったのだが姫子の祖父、源次郎に捕まり、いつもの畳の部屋にいた。 「正志君、こうして会うのは初めてかな?姫子の祖父の源次郎と申す、いつも姫子が世話になってるな。」 「いえ、こちらこそ・・・ところで今日は何でお呼びになられたのですか?」 正志がそう言うと祖父は顔をこわばらせ言った。 「うむ、実を言うと町の中に妖怪が、ここ三日前から住み着いているようでな、倒してきてほしいのじゃ」 「宜しいですが、どうしてわざわざお呼びに?」 「その妖怪というのがどうやら只者ではないようでな、お前たち二人にこれを渡そうと思ってな・・・」 祖父はそう言うと巾着袋を二つ取り出し二人に投げた。 姫子たちがそれを開けてみると中には透明な玉がいくつか入っていた。 「これは?」 姫子が質問すると祖父は笑いながら言った。 「これは鬼神魂と言ってな、わしが若い頃使ったものだ、これを飲み込めば各々の潜在能力が発揮される。 しかし、あまり使いすぎるな、大いなる力は大いなる代償も伴うからな・・・・」 祖父はそう言うと姫子達に何も言わせず、抱負の言葉だけ言うとそそくさと去って行った。 それから少しして、姫子たちも巾着を持ってでていった。 《第五の巻 天を舞う妖姫》 それから少しして、姫子たちは町内のどこにいるかもわからないような妖怪を探して歩き回っていた。 そんな正志たちの様子をビルの屋上から窺っている者がいた。 横にはこの前、時子を襲った毛羽毛現が、この前と同じようにモゾモゾしている。 美しい着物を翻し、その者は毛羽毛現に向かって言った。 「・・・・この大妖怪、妖姫に貴様はあのような雑魚を相手にしろというのか?」 それにしわがれた声で毛羽毛現は答える。 「あなた様は確かにお強い、しかし、生意気を言うようですが、あなた様はつい三日前にお目覚めになられたばかり、 妖力もまだ完全ではないのでは?それに、あの男の方、何か特別な力を持っているかもしれません、油断は禁物です」 「ち!あの時、封じされさえしなければ・・・・・・・」 そう言うと妖姫は5年前のことを思い出した・・・・ 今から五年前、世間にはあまり知られてはいないが、実を言うと退治屋と妖怪との壮絶な戦いがあった。 その戦いは妖怪が人間を滅ぼそうとして始まり、一ヶ月にも及び、世界中で1万人以上の術者が死んだ。 原因は妖怪たちの中に混じっていた12人の大妖怪のせいである。 後にこの大妖怪たちは十二邪神と呼ばれるようになる。 この妖怪達は今の妖怪退治屋連合の中心人物、坂根誠によって封じられた。 妖姫が物思いにふけていると、毛羽毛現がせかすように言った。 「そろそろ行きましょう。そうしないとあの二人を見失ってしまいます」 「そうだな、わががまは言ってられんな・・・・・」 そう言うと二人は、20mはあるビルの上から飛び降りて闇の中に消えたのだった。 * 姫子たちは姫子の家の前に戻っていた。 結局、何も発見できないまま、ひとまず祖父に聴けば何かわかるかもしれないと戻ってきたのであった。 「はあ、どうして見つからないんだろう」 「しょうがないだろ〜、よく考えれば三日前からいるのに僕たち退治屋が気付かなかったんだ、そんなに簡単に見つかるわけないって」 「そうだけど・・・・・でも、やっぱり速くしないと」 「わかってるよ、だからここで手がかりを貰おうと来たんだろ?」 正志がそう言った時だった。 突如、今まで妖気がしなかったはずの学校の方から、息ができなくなるほどのまがまがしく、濃厚な妖気がした。  二人はそれを感じて走り出した。 走り出して少しして、唐突に姫子が言った。 「・・・・ねえ、これってちょっとおかしくない?」 「・・・・ああ、でもこれが現状なんだから行ってみるほかない」 「そうね・・・・」 数十分後・・・・ 姫子たちは虹ケ丘小学校の校門の前に来ていた。 もうすっかり暗くなった校舎は暗闇に溶けていて、閉まった校門は冷たく、辺りに負の気と邪悪な妖気で満ち足りていた。 姫子たちは恐る恐る校門を乗り越え、校内の土を踏みしめて、ゴクリ!と、つばを飲み込んだ。 姫子は冷や汗をたらし、小さな声で言った。 「おかしい・・・・」 正志も姫子と同じ意見だった。 異常な妖気の濃さ、時間の止まったような奇妙な空間、これは明らかに今までの戦闘には無かった物だ。 正志はだんだんここにいるであろう妖怪の異常さに気付き始めていた。 しかし、正志は妖気の出ているグラウンドの方へと進んでいった。 その後に姫子が続く。 グラウンドに着いてみると、そこにはまるでドリルで掘ったような見事な丸い穴があった。 二人はそこに近づく、もはや息をするのがやっとほどの、濃紺な妖気で満ちている。 この妖気だけでも今までとは格は違うのはわかるが、どうも正志にはわからないことがあった。 それは、これほどの妖気ならば隠すのは用意ではないはずなのに今まで自分達が気付かなかったのが不に落ちない、 しかし、正志がそうしている間にもう穴の前であった。 正志たちは穴の中へと慎重に入って行った・・・・・・・ * 「・・・・・遅い!いつになったら獲物はかかるのだ!」 妖姫が叫んだ、それをなだめながら毛羽毛現は言う。 「まあ、そんなに怒らずに、仮にもあいつらは退治屋、まさかこれだけの妖気を出しているのに気付かないことは無いでしょう。 それにもうこの中に入っているようですよ?あいつらならここまできっと来るでしょう。」 毛羽毛現がそう言うと妖姫は訝しげに言った。 「毛羽毛現、お前に助けられてから気になっていたのだが、どうしてお前はあの二人を目の敵にするのだ? 何か理由でも有ってのことか?」 毛羽毛現は、もじゃもじゃした体を気色悪く、くねくねしながら言った。 「それはまだ秘密でございます。私にも事情がありますので・・・・」 それを聞くと、妖姫はつまらなそうに言った。 「ふん、随分とずるい事を言うな、まあ、私の知ったことではないがな」 それだけ言うと二人はまた無言で正志たちを待った・・・・・ * 正志たちは穴の中間にいた、どうやら、この穴はただ空いているだけではなく、何かの遺跡のようで、いろいろな絵が描いてある。 唐突に姫子が正志に声をかけた。 「ねえ、これなんだと思う?」 正志が振り向いてみると、そこには明らかに不自然に取り付けたスイッチがあった。 「そうゆうのは相手にしない方がいい、無視しよう」 正志がそう言った時だった、唐突に嫌なポチ!と、いう音が鳴り、姫子がアニメでよくある、『やっちゃった!』の顔で言った。 「ごめん、もう押しちゃった!」 その瞬間、姫子たちの足元がパカ!と開くと、そのまま姫子たちは落ちて行った・・・・・ それから数分後、正志は冷たい床で目を覚ました。 どうやら運良く、正志たちは遺跡の最下層に着いたらしい、横には幸せそうな寝顔の姫子がいた。 正志が姫子を起こそうとしたその時だった。 正志たちから2mほど先から光が漏れていて、人影らしきものが見える、かろうじて話し声が聞こえた。 ・・・・遅い!いつになったら獲物はかかるのだ!・・・・ ・・・・まあ、そんなに怒らずに、仮にもあいつらは退治屋、まさかこれだけの妖気を出しているのに気付かないことは無いでしょう。 それにもうこの中にはいっているようですよ?あいつらならきっとここまで来るでしょう・・・・ どうやら、自分たちは罠にはめられたらしい。 さらに正志に気付かない彼らは話を進める・・・ ・・・・毛羽毛現、お前に助けられてから気になっていたのだが、どうしてお前はあの二人を目の敵にするのだ? 何か理由でも有ってのことか?・・・・ ・・・・それはまだ秘密でございます。私にも事情がありますので・・・・ ・・・・ふん、随分とずるい事を言うな、まあ、私の知ったことではないがな・・・・ ここまで来てやっと姫子は目を覚ました。どうやら、正志の出てきた夢だったらしく、妙によそよそしい、 正志はそんなのは気にせず言った。 「姫子、どうやら、俺たちは罠にはめられたらしい」 それを聞くと姫子はさっきとは打って変わって、真剣な顔で言った。 「それじゃあ、逃げるの?」 「いいや、戦おう、このままにしておくと何か起きそうだ」 「わかった、それじゃあ、これ食べよう?」 そう言うと姫子はポケットから祖父から貰った鬼神魂を取り出した。 鬼神魂は透明な飴玉のような物だった。 見るからに果てしなく怪しい、しかし、今は少しでも力が欲しい状況なのでしょうがなく正志は頷き、飲み込んだ。 それに続き姫子も飲み込む、すると、いきなり二人の体に異変が起きた、 どこからともなく力が溢れ、姫子には頭の隅に小さな角がぴょこん!と生え、正志には翼が生えた。 二人はお互いの様子を確認し合うと、光の漏れる方へ突っ込んでいった。 そこは今までの遺跡の様子とは違い、神々しいほどに美しかった。 部屋の床には光ゴケが植えてあり、部屋中を照らしていて、部屋の真中には小さな玉が置かれていた、 まるでそれに寄り添うように、深紅の着物に身を包み、腰に大刀を差した、この世の者とは思えないほど美しい、 高校生ぐらいの女の子が毛羽毛現と一緒に立っていた。 その少女は正志を見ると顔を輝かせ、自己紹介を始めた。 「やっと来ましたね!さあ、退治屋よ、この十二邪神と言って恐れられた、この私、妖姫と戦え!」 正志は驚いた。なぜなら、十二邪神といえば極悪非道な大妖怪、こんな少女とは思っても見なかったのである。 しかし、油断は禁物と大きな声で言った。 「いくぞ!姫子!」 それに姫子も大声で答える。 「はい!」 そんな二人を見ながら妖姫は不気味に笑った。 その間に毛羽毛現は安全地帯に逃げ、正志たちは呪を唱えだした。 「・・・・天にささげるは我が羽、天の神よ、我が羽に今一時力を授けん!」 「・・・・われと契約せし十二の式神達よ、今、我に力かさん、二式、風天刃!」 二人は各々の式神を呼ぶと一気に攻撃した。 しかし、二人の式神の攻撃は一瞬にして無効化され、妖姫が姫子の間合いに入り、腰の大刀の柄で姫子を吹っ飛ばした。 姫子は部屋の隅に当たり、気を失った。 それを見ると妖姫は腰の大刀を抜き、姫子に近づきながら言った。 「ふ、弱い、たった一撃でこれとは、お前のような雑魚、生き恥をさらさぬよう、殺してくれるわ!」 もう姫子と妖姫の間が1mも無くなった頃、いきなり妖姫の頬のすぐ横を衝撃波がかすめた。 妖姫の頬から血がでた。 「まだ俺がいる!」 正志はそう言うと刀を構えた。 それを物静かに見ると、妖姫は頬の血を指にとって舐め、言った。 「ほう、そういえば、あやつもお前には気を付けろと言っていたな、よかろう、相手をしてやる、来い!」 それを聞くと正志は一気に間合いを詰め、切りかかった。 それを妖姫、素早く受け流し、緩やかに正志を切りつける、なんとか正志はその一撃を受け止めた。 しかし、突如、妖姫はいなくなり、正志の体は前のめりになった。 慌てて正志が体勢を立て直そうとしたその時だった、いきなり正志の後ろから妖姫の声が聞こえた。 妖姫は実に女らしい甘い声で優しく言った。 「どうだ、私と一緒に来ないか?お前はなかなかいい腕をしている、このまま殺すには惜しい、 私と一緒にくればあの女も助けてやる、お前もわかっているのだろう?このままやっても勝ち目の無いことぐらい、だから来い」 正志が振り返ると、妖姫が正志に刀を向けて立っていた。 このままでは、明らかに断った瞬間に刺し殺されてしまうだろう、それに顔色を窺う限り、取って食うつもりは無いらしい。 正志に残された道はもはや一つしかない、正志がそれを選択しようとしたその時だった。 不意に声がした。 「ダ、ダメ!そんな奴の言う事聞かなくていいわ!」 姫子だった。 どうやら姫子は自力で気絶から立ち直ったらしい、姫子はよろよろと立ち上がると、四天雷を構えた。 その瞬間、妖姫が今度は抜身の大刀で間合いを詰めていく、しかし、姫子はもはや立つのがやっとで反応することができない。 妖姫が斬りかかろうとしたその時だった、正志から鮮血が飛び散った。 正志が姫子と妖姫の間に割り込んだのである、正志は静かに倒れ込んだ。 それを見た瞬間、姫子の頭の中は真っ白になった、自然と叫び声が口から漏れる。 「きゃ、きゃあ〜〜〜!」 姫子は叫びながら力なくその場にひざまづいた。 その様子を見ながら妖姫は言った。 「は!パートナーに助けられるとはとんだ雑魚だな、しかし、どうやら助けた意味が無い、こいつはここで私が殺すからだ。」 そう言うと妖姫は姫子に大刀を振り落とそうとしたその瞬間だった。 正志が飲み込んだ鬼神魂ガ完全に溶けきり、正志の翼が消え、正志が光りだした。 妖姫、姫子ともにこの光景に絶句した。 すると、いきなりさっきまで瀕死だった正志が起き上がった。 その瞬間、妖姫が正志に切りかかった。 しかし、その攻撃を正志は片手で止めると、一言呟いた。 「光源、妖気抹殺痕」 すると、いきなり正志の手から青白く光る触手の様な物が伸び、妖姫を縛り付けた。 その瞬間、妖姫は苦しそうな叫びとともに青白い光の中へと消えていった。 その後、いきなり正志は気を失い、そこへ倒れ込んだ。 後には何が起きたかわからない姫子が残されただけであった。 《エピローグ》 「う〜ん、まだ正志起きないのかな〜?」 あれから一週間後、姫子は虹ケ丘病院にいた。 もう、一週間も経つのにまだ正志は起きてはいない、あの後、どうやら毛羽毛現は逃げたらしく、姿は無かった。 祖父の方も何かと話をはぐらかして、あの薬については何も教えてくれなかった。 姫子は急に寂しくなって、何気なく呟いた。 「は〜、早く正志起きないかな〜、このままじゃ私、どうしたらいいのか・・・・」 そう言うと急に涙がこみ上げてきた。 しかし、その時、姫子は正志の体が微妙に震えていることに気付いた。 よく耳を澄ましていると、小さい笑い声の様なものも聞こえる。 「・・・・・正志、あなた、もしかして起きてる?」 姫子がそう言うと正志が大きな笑い声を上げて起きた。 「ドワハハハ!ごめん、ごめん、悪気は無かったんだ、ただ、起きたらそこで面白いこと言ってたから」 正志がそう言うと、なんだか急に姫子は頭にきた。 「お、面白いことって何よ!心配してたんだから!」 「まあまあ、そんなに怒らないで、それにまさか、俺のこと心配してくれるなんて思ってなかったから」 「パートナーなんだから当たり前でしょう、それよりも早く治しなさいよ!」 「わかったよ、早く治す」 そう言うと正志は空を見上げた、この調子ならもうすぐ仕事に戻れそうだ。 END

あとがき

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