味噌汁
どこにでもありそうな田舎の朝の風景。 綾子は義父のために味噌汁を作る。 だが、義母の死んだ義父は綾子に義母の味噌汁の味を要求する。 綾子は義母の味噌汁を飲んだ事が無いので義母の味噌汁の味はわからない。 色々試行錯誤するも、味に厳しい義父は「まずい」と言っては残す。 「ねぇ、義母さんの味噌汁の味ってどんなのなのよ?」 「さぁ・・・どうだったっけな。」 綾子の質問に夫はスーツに着替えながらぶっきらぼうに言う。 夫はどうでもいい、といった所であろうか。 次の日も味噌汁を作る。 今度はだしの量を増やしてみる。 だが、義父は「違う。母さんの味はこんなんじゃない」と言って、味噌汁のお椀を放り投げる。 綾子はいい加減腹が立ったが、義母の死んだ義父が可愛そうに思い、「母の味」を作ろうとした。 だが、何をやってもダメだった。 遂には味噌汁に納豆やキムチを入れる始末。 いい加減疲れた綾子は、味噌汁を作るのが嫌になってくる。 そんな朝、綾子は味噌汁の鍋の隣に、殺虫剤が置いてあるのに気がつく。 ゴキブリ退治用の強力な代物だ。 綾子はその時何を思ったのか、味噌汁の鍋に殺虫剤を振りかけた。 金属製の冷たいスプレー缶からは、白い独特の臭いを放つ液が放射される。 味噌汁の中に入った殺虫剤は少し臭いがきつく、バレてしまいそうだったが相手は老人。 綾子はその味噌汁をお椀によそい、何食わぬ顔で義父に出す。 義父は味噌汁に手を伸ばし、じゅるじゅると音を立てて飲んだ。 義父は味噌汁のお椀を軽くちゃぶ台に置くと、 「綾子さん、やりましたな。これこそ、母さんの味噌汁!」

あとがき

短すぎるのはご容赦下さい。

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