逆転のホワイトホース(エピローグ)
事件は終わった。
彼を取り巻いていた数々の疑惑は消えて、
新たな一歩を踏み出す瞬間がここにある。
エピローグ・新たな始まり
5月5日 午後3時32分 地方裁判所・被告人第4控え室
判決が無事に言い渡され終了した裁判。成歩堂たちはこの控え室に戻ってきた。
「成歩堂さん!今日は本当にありがとうございました!」
松の心から嬉しそうな顔・・と言いたいところだが、実際は複雑そうな顔をしている。
「どうしました?無罪になったって言うのに。あまり嬉しそうじゃないですよ。」
成歩堂はそう言ってみる。だが、その気持ちが分からないこともない。
「いや、この事件の犯人が・・馬野さんだったなんて、少し信じられなくて。」
よく考えれば、馬野は松のブラックホースの調教師だ。確かに信じられないことかもしれない。
「それに、梅さんを殺した動機が・・まさか當競馬場を守るためだったなんて。」
當競馬場の関係者でもある松にとって、これほど複雑で後味の悪いものはないだろう。
「自分は結局、梅さんに謝ることも出来ませんでしたしね。」
そして何より、彼には生前の梅裕と争って、そのまま仲直りもしていない。
「・・・・。(何を言っていいのか分からないな。)」
成歩堂は黙ることしか出来ない。こういう時にいると助かるのが、真宵なのだが・・
「豊さん!どうしました!?元気出してくださいよ!!」
「えっ!?」
成歩堂は慌てて振り向いた。そこにはいつもと変わらぬ真宵の姿があった。
「真宵ちゃん。ち、千尋さんは?」
「あ、お姉ちゃんならもう帰ったよ。」
どうやら、千尋はすでに帰ってしまったしまったらしい。そう言われれば、成歩堂は今日の法廷。最後の最後で助けられてしまった。
「また助けられちゃったな。千尋さんに。僕もまだまだだ。」
そう呟いた成歩堂。
「それにしても豊さん。ちょっと事件は後味の悪いものになっちゃいましたけど。無罪になったことを今は素直に喜びましょうよ!」
真宵は松の肩を思いっきり叩くとそう言う。彼女のそう言うところがいいところなのかもしれない。
「まぁ、それもそうですね。」
松がやっと笑顔になった。
「これから當競馬場を豊さんが引っ張っていかなかったら、誰が引っ張るんです?
梅さんのためにも、捕まっちゃったけど、競馬場を思う気持ちは一緒だった馬野さんたちのためにも、
これから豊さんが頑張らないと!」
それに、真宵は本当にいいことも言ってくれる。たまにだが・・
(真宵ちゃんがいるとそこが助かるんだよな。こう言うところが苦手な僕にとって。)
成歩堂はつくづくそう感じた。
「ですよね。分かりました。精一杯頑張ってみます。自分。當競馬場のためにも、
残念な結果になってしまったけど、梅さんたちのためにも!」
松は元気を取り戻したようだ。
そう、彼にとって、それが生前口論をしたきり別れてしまった梅裕に対する、精一杯の謝罪と・・
同じ馬を信頼し愛する騎手仲間としての、弔いとなるのだろうから・・。
保釈手続きのために、一足先に留置所へと戻った松。
「さて、僕たちも帰ろうか。真宵ちゃん。」
「そうだね。じゃあさ、帰りにいつものラーメン屋に寄ろうよ。なるほど君!」
いつもと変わらぬ会話。そしてまた、いつもと変わらぬ会話の中身。
「えっ!?でも、1杯だけだぞ。」
「ええっ!!なるほど君のケチ!!今日は5杯食べようと思ってたのに・・」
そんな2人の元に、あの男が現れる。
「やぁ、今日はいい戦いだったな。成歩堂弁護士。」
「刀技検事!?」
成歩堂はその男がいることに軽く驚いた。
「あれ?刀技検事さん。どうしたんですか?」
「ん?あぁ、これはこれは。法廷7不思議のうちの1つの張本人。綾里真宵か。」
そう言うと軽く礼をする刀技。そう言えば、刀技が真宵と法廷で会うのは初めてだ。
「7不思議だなんて、なんか照れるなぁ・・。」
真宵はそう言っているが、何かを間違えている気がする。
「そうそう、先ほど松豊に会った。一応、祝いの言葉をかけてやった。」
「そうですか。」
成歩堂と刀技。会うのは2ヶ月ぶりだが、法廷でこうして会話をするのは2年ぶりだ。
「相変わらず元気そうで何よりです。」
「そうか、ありがとな。そっちこそ元気そうで何よりだ。」
それにしても、いろいろと懐かしい法廷だった。
「2年前を思い出しましたよ。何だかね。」
「そうか、こっちも2年前を思い出したよ。ともに癖とかは変わってなかったな。
まぁ、共に実力は2年分成長していたみたいだが。」
刀技はそう言うと笑った。
「そうかもしれませんね。」
成歩堂も笑う。まぁ、実際はどうなのだか・・
「まぁ、互いにこうして戦えて。ちょっと嬉しかったよ。私はな。」
刀技はふと寂しそうな顔をする。
「どうしました?刀技さん?」
真宵がそれにいち早く気づいた。
「ん?ふっ・・気づくのが早いな。さすが弁護士の助手をやってるだけあるじゃないか。」
「え?そうですかぁ。嬉しいなぁ・・」
ここでも何かが違うと感じた成歩堂。
「それにしても、何かあったんですか?刀技検事?」
「あぁ・・そのことか。ちょっとな、しばらく日本を離れるんだ。」
刀技はさらっとそう言った。
「えっ!?日本を離れる!?」
その言葉に驚いたのは言うまでもなく成歩堂と真宵。
「刀技さん、御剣検事みたいにどっか行っちゃうんですか!?」
真宵はそう叫んでいた。まぁ、検事で海外に行っているのはあの男くらいだ。
「いや、御剣みたいに研修というわけではないんだ。そもそも語学を学ぶのは苦手でな。」
まぁ、研修で海外に行っているのはあの男くらいだろう。
「じゃあ?観光ですか?」
「そんな馬鹿な、成歩堂弁護士。そのためにわざわざ私がパスポートやらを作ると思うか?」
どうやら刀技。海外へ渡るのは初めてらしい。
「じゃあ、一体何故海外へ?」
「仕事さ。成歩堂弁護士。」
仕事。いわゆる海外出張というものなのだろうか?
「海外へ出張ですか?刀技さん?」
真宵も同じことを思ったらしい。
「まぁ、そんなところだな。フランスへ理由があって行かなきゃならないんだ。
フランスの警察と検察に詫びと説明をするためにな。」
それに成歩堂は少し心当たりがあった。
「ひょっとして・・1ヶ月前に担当した事件ですか?」
今日の裁判の冒頭でも刀技が言っていた。河原の事件。あれと関係があるのでは?と思った成歩堂。
「まぁ、正解だな。それでまぁ、資料を持って御剣とフランスへ飛ばなきゃならん。」
ちょっと面倒そうな顔をしている刀技。自分もそうなるとは思っていなかったらしい。
「数ヶ月は帰れそうになくてな。まぁ、通訳は御剣に任せるとして、あいつが退院したらすぐに出発さ。」
そう言えば、御剣は全身打撲で入院していることを思い出した成歩堂。
「アバレーヌ・・でしたっけ?御剣が蹴られた馬。」
成歩堂は刀技に尋ねた。
「あぁ、アバレーヌだ。騎手と同じく心が茶色な馬らしくてな。
よくあの馬に蹴られる人間が後を絶たないらしい。」
どうやら、心が茶色の馬・アバレーヌは常習犯らしい。
「まぁ、こうして御剣の代理を任されたわけだが、日本を離れる前に法廷に立つのは今回が最後だろう。
あんたと戦えて嬉しかったよ。成歩堂弁護士。」
「そうですか・・。」
成歩堂は何となく気づいた。今日の刀技が少し変だったあの時のことを。
きっとあれは、日本を離れる前の最後の思い出として、良い法廷にしたかったから、
あんなことをしたのかもしれない。
(まぁ、すぐに戻って来るんだろうけどな。この人は。)
まぁ、その考えも言えてるかもしれない。
「一応、刃多は日本に残しておくんだ。色々とこの国にも残してきた不安要素があるしな。」
「それって、事件とかですか?刀技さん?」
真宵が興味本意で聞いたのだろう。
「まぁ、それもある。」
「それも?」
刀技が残している不安要素。それはきっと・・
「大切な人がいるんだ。だから、本当は離れたくなかった。
まぁ、自分で蒔いた種だから行かなきゃしょうがないんだけどな。」
そう言うと刀技は背を向けて最後に言った。
「何かあったら刃多にアンタへ連絡するように伝えている。その時は頼むぞ。」
そう言って刀技は2人のもとを去った。
こうして、事件は幕を閉じた。
松豊はあれから、當競馬場でブラックホースとホワイトホースの2頭に乗って
出走するようになったらしい。松自身の強い要請からだ。きっとそれは、天国にいる梅裕に対する、
精一杯の罪滅ぼしなのかもしれない。
そして、それから10日後。
御剣と刀技は日本を発った。フランスへと行ってしまったらしい。
そして僕には、刀技検事の言った。あの日の最後の言葉が気になっていた。
「何かあったら刃多にアンタへ連絡するように伝えている。その時は頼むぞ。」
そして何かあったらは1ヵ月後。現実のものとなった。
だけど、何故か僕のところにはその連絡は来なかった。
その連絡は、何故かあの2人のところへ行き、あの2人が決着をつけることになったのだから。
1つの大きな謎を解明するために・・
それはまぁ、本件とは別のお話。いつか話すときがくるのかも知れないのだけれど・・。
逆転のホワイトホース・完
あとがき
さて、これで完全にリメイク完了です。
エピローグは微妙なネタしかなかったので、まぁ、おまけみたいな感じと捉えてください。
まぁ、無事に自分の逆裁小説・処女作が、ここにこうして再び出せたことが1番嬉しいですね。
最後に、道場が出来る前からこの連載を読んでいた皆さんに、本当に長い間お待たせしました。
これで逆転のホワイトホースは終わりです。
そしてこれを始めて読んでくださった方々に、本当に最後まで読んでくれてありがとうございました。
※え?最後に気になる文があるって?知らないなぁ?自分は(おい
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