語られる逆転〜another story〜過去の呪縛〈後編〉
※注意。この物語は、自分が連載した語られる逆転の番外編の物語となります。     したがって、内容が少し理解できない部分もあるかもしれません。     また、語られる逆転のネタバレもあるかもしれません。     そこを理解した人だけ、お読みください。     「語られる逆転」本編は第3回逆転裁判小説大賞ノミネート作品欄にあります。 呪縛。まじないをかけて動けなくすること、と言う意味を持つ。 過去の呪縛。それはつまり、過去のまじない。 ここでふと考える。動けなくする。どういう意味なのか?何が呪縛を感じる者を動けなくしているのか? 何が動けないのか?きっとそれは心かもしれない。 心は時間の流れと共に前進してゆくものだ。彼の心も前進してゆくだろう。 だが、それがあることを思い出すことで、戻ってしまう。 これを人は思い出を振り返る・・などというだろう。確かにそうかもしれない。 いや、一般論ではそうだろう。問題はそれで、どう感じるかということかもしれない。 どう感じようがそれは思い出。そう言えば簡単だが、じゃあ・・過去の辛い思い出と過去の呪縛は何なのか? それを私は見つけようとしているのかもしれない。    同日 午後10時27分 フラワーショップ・蒼井 閉店時間はとっくに過ぎているはずの店に、まだ明かりが灯っている。シャッターも閉まっていない。 「あざみさん!!」 全力疾走で走ってきた刀技は、誰もいない店内を見て呆然とする。 「あざみさん!!居るなら返事をしてくれ!!」 フラワーショップ・蒼井は、店内の奥があざみとすみれの家になっていた。その奥へと入ってく刀技。だが、部屋には誰もいない。 「そんな・・馬鹿な!?」 まさにもぬけの殻だった。家のほうの明かりはついてなく、店内の明かりがついていたことから、考えられる最悪のケースは1つだ。 (夜の閉店間際に、拉致された!?) 店内をもう1度良く見てみる刀技。よく見ると、店の床にわずかな血痕が残っている。 しかもまだ新しい感じだ。それが店の外まで引きずられている。 「しまった・・事件の関係者に捕われすぎて、1番大事なところを忘れちまってた。」 刀技は自分がとんでもないミスをしでかしたことに気づいた。 「どうすればいい・・これじゃあ、すみれさんの二の舞じゃないか。」 その場に倒れこんだ刀技。床を拳で殴る。 「また、あいつらに大事な人を奪われきゃならないのかよ!!」 興奮状態に陥る刀技。1度冷静になる。 「いかんいかん。ここで興奮してたら何もできねぇ。1度落ち着いて考えるんだ。」 刀技は対処法を考える。 (奴らの目的は、靖実の有罪判決だ。つまり、睡眠薬混入事件か毒殺事件の片方に無罪が下っても、奴らはまだ動けないはず。) どこかに付け入る隙がないか考える。 (つまり、両方の事件に無罪判決が下ると、一気にあざみさんは危険な状態になるはずだ。 逆に言えば、どちらかの無罪判決だけじゃ、まだもう1つ審理が残っているので、やつらは人質を殺したりは出来ない。) となれば、答えは1つだった。 (明日の審理で両方の事件の判決が下る前に、あざみさんと奴らの居場所を見つけなきゃならない!) 刀技はとりあえず、ここで警察に通報するのはまだ早いと考え、1度店をあざみの代わりに閉めて、 刃多の居る国立総合病院に向かうことにした。そこには恐らく、上片弁護士の助手・鹿山宇沙樹もいるはずだ。  同日 午後11時58分 国立総合病院・ロビー 着いたのは良いが、そこに刃多は居なかった。 「しまったな。そう言えば刃多とは最後に打ち合わせをするって約束してたんだったな。」 ここに来て思い出してしまう刀技。とここで、階段を上がろうとしている宇沙樹を見つけた。 「鹿山君か?」 「あ、刀技検事さん。」 宇沙樹がちょうど、手術が終わり病室へ移された上片の部屋へ向かおうとしてるところだった。 「そうか、先ほどまで成歩堂弁護士と一緒にいたのか。」 宇沙樹と一緒に病室へと向かいながら、先ほどまで宇沙樹と一緒にいた成歩堂のことを話す2人。 「そうなんです。何だか成歩堂さん。犯人の目星がついたみたいなんですよ。」 「何!?それは本当なのか?」 刀技は思わずそう言っていた。あとで夜の病院内ということを思い出してばつが悪そうにしていたが・・ 「えぇ、何だか・・上片さんが意識を失う直前に残したメッセージが解けたみたいで。」 上片は意識を失う前、宇沙樹に暗号のメッセージを伝えていた。 「それが犯人の名を示していたのか・・。」 「そうらしいんです。私も良く憶えてないんですけど。確かその人の名前・・“うらでいとお”とか。」 それを聞いて何かが引っかかった刀技。 (うらでいとお・・・・・・・!!浦手糸男!!) 刀技は思い出した。その人物は、事件の資料でも見たが・・毒殺事件で被害者が死んだ時に一緒にいた人物だった。 (待てよ・・だったら、そいつが真犯人なのか・・) 刀技は、今回の事件に裏があるとすれば、そこにMD製薬があると確信していた。 (成歩堂弁護士が、もし明日そいつを真犯人として告発したら・・ 当然序審最終日だから証人としての出廷が要請されるだろう・・待て、となれば!) 上片の病室の前についた2人。刀技は護衛として配置された警官に、宇沙樹のことをまかせたと言うと、 自分は宇沙樹に別れを告げて、自らは急いで検察庁に戻った。  4月5日 午前0時18分 検察庁・刀技の部屋 「検事!?どこに行っていたんですか!?」 先に戻っていた刃多が何か言っているが、正直刀技にはどうでもよいことだった。 「電話をする!急ぎなんだ・・何も言うな。」 そう言うと刀技は、警察署へと電話をする。 「もしもし?検察庁の刀技だ。要請がある。聞いてくれ!」 刃多は刀技の様子がいつもと違うことに気づいた。 「いいか?明日の午前10時までに、マンション・ジュリアナ及び、向日葵ビルのあの通りに、 私服警官たちをありったけ動員してくれ!そして、ビルやマンションの屋上などには狙撃班を!」 『何を言ってるんだ!?刀技君!?』 私服警官・狙撃班。この言葉を聞いた刃多が、顔色を変えた。 「検事!!何があったんですか!?一体どういう意味です!?狙撃班なんて!?」 「黙ってろ!!刃多!!」 「いいや、自分は説明を受けないと納得が出来ません!!」 「うるさい!!いいからお前は黙ってろ!!安いもんじゃないのか!?それくらい警察にとっては!? 1年前には100人も捜査員を海岸に導入してくれたじゃないか!!?」 刃多を怒鳴りつけると受話器に向かってそう叫んだ刀技。刃多は気づいた。 刀技は不器用で、意外と感情がすぐに表れるということを・・つまり、何か刀技にとって不吉なことが起きていると。 「検事!?何があったか言って下さい!!自分には言ってくれる約束でしょう!?」 刀技が復帰した日。2人はそう約束した。 「そういえば・・約束だったな。」  受話器を持ったまま刀技はそう言うと、真っ直ぐと刃多を見た。そして・・ 「あざみさんが、奴らに拉致された。」 「何ですって!?」 刃多はこれで、刀技がいつもと違うと言うことに納得した。 「とにかく、奴らの目的は明日の法廷での有罪判決。ということは、靖実は無実なんだ。」 そして、ゆっくりと語る刀技。 「明日もし、両方の罪状で無罪判決が下されれば、あざみさんの命が危ない。 なんとしても、判決前までにはあざみさんを助け出さなきゃならないんだ。だから・・」 そう言うと受話器を掴んで再び叫ぶ刀技。 「いいから夜が明けるまでに狙撃班はくらいは屋上に配置してくれ!でないと、奴らに気づかれる!! もはや、奴らを捕まえるチャンスは、明日!我々が夕日新聞に向かった時しかないんだ!」 刀技の考えはこうだ。もし成歩堂が浦手を犯人として告発したら、必ず検察側が浦手の身柄を拘束しなければならない。 ということは、浦手の職場である夕日新聞に向かうことになるのだ。 奴らの目的が、靖実の有罪判決ならば、浦手が検察に身柄を拘束された場合、弁護側が浦手を真犯人として告発したことを意味する。 だから、法廷内の警備を厳重にして、MD製薬の人間が法廷内に入れないようにすれば、 やつらが浦手の拘束を知るのは、夕日新聞で浦手が拘束される瞬間しかない。 したがって、浦手が拘束されるどうかをどこかで監視しているはずだ。 もしそいつらがあざみを拉致した人間なら、あざみも犯人と一緒に居る可能性が高い。そう考えたのだ。 「ちょっと待って下さい。でも検事、それなら・・ある1つの可能性が考えられませんか?」 「可能性だって!?」 刃多が珍しく何か思いつく。 「いや、あのですね。可能性に過ぎませんが・・ ひょっとしたら、あざみさんを拉致した奴らは、既に今、その近辺に潜伏している可能性はありませんか?」 「!?」 刀技はハッとした。とここで、おもむろに電話を切った。 「刃多・・ちょっとこれを見ろ。」 それは、マンション・ジュリアナ近辺の地図だった。 「やつらがもし、この段階で潜伏する場所があるとすれば、それは夕日新聞が見える場所だ。」 「だったら、マンション・ジュリアナか向日葵ビルに潜伏している可能性が高いのでは?」 「そうだな。だが、マンション・ジュリアナから向日葵ビルを見るには通路に出なくちゃならない。これだと目立つ。」 「だったら・・」 2人の目は自然と、向日葵ビルのほうに向く。 「犯人がもし存在するならここだ。もしここにいなかったら、やつらは明日の法廷当日に車か何かで来るだろう。」 刀技はそう言うと、立ち上がった。 「思い立ったらすぐ行動だ。今のうちに可能性(向日葵ビル)を当たってみようじゃないか。」 刃多はそれを見て慌てる。 「しかしっ!もし居たら検事も危ないのでは!?」 「だったら、警察と一緒に行けばいい。気づかれないように。」 「しかし!警察は動いてくれか分かりませんよ!?」 「だったら、使えそうな刑事を連れてゆく。糸鋸あたりをな・・体もでかいしな。」 刃多はこの時、もうこの人に何を言っても無駄だと感じた。彼の目は決意していた。今度こそ守って見せると・・  同日 午前1時34分 向日葵ビル 「糸鋸刑事。わざわざすまない。」 「いいんッスよ。自分は今回検事の担当ッスからね。」 いつ担当になったのかを問い詰めたかったが、そんな時間はあいにくない。 向日葵ビルの入口でこそこそとしている刀技・刃多・糸鋸の3人は行動を開始する。 「刃多。このビルで使われいない階はあるのか?」 「はい。それが・・1つだけ存在します。向日葵ビルの6階に、今は誰もいない事務所があるんです。」 それは、まぁ・・知ってる人は知っているだろう。 「そうか、じゃあ6階だな。行くぞ!」 3人は刀技を先頭にし階段を上ってゆく。足音を忍ばせながら。やがて6階の事務所入口に到着する。 「そう言えば検事。」 「何だ?」 刃多が1つ気づく。 「いくら空いているといっても、入口に鍵は掛かっているんじゃないですか?」 「!?」 刀技はそれに気づくと、少し困った顔になる。 「そういえば、そうなのかもしれないな。」 「そんな・・。」 後先を考えずに行動するのが、意外と刀技なのかもしれない。意外といつもは計画的に考えているのだが・・ 「刀技検事?ドアの鍵が壊されているッス。」 ペンライトでドアノブを見た糸鋸が言う。 「何だと!?」 確かにドアノブ自体が破壊されている。 「これは・・ヒットかもしれないな。」 そう言うと刀技は、糸鋸に尋ねた。 「拳銃は携帯してきただろうな?」 「もちろんッス。」 それを聞いた刀技。ついにこの言葉を発する。 「そうか、じゃあ行くぞ。」  ギィィィィィィ・・  ドアが静かに開く。あたりは暗い。 3人はライトを消して、ゆっくりと足音を立てずに進む。刀技はわずかな月明かりを頼りに中を散策する。 とここで、1人の男がこっちにやって来た。 「誰だ!?」 3人の動きが止まった。 「お前達は・・もしかして、刀技か!?」 男がそう叫んだ。 「見つかっちまったッス!!刀技検事!!」 糸鋸は馬鹿みたいに大声を出した。 「馬鹿野郎!何故口に出した!?」 「ああああっ!!言っちまったッス!!」 刀技は糸鋸に怒鳴るが、正直そんなに悠著にかまえてる暇もなかった。男が拳銃のようなものをこちらに向けてきたのだ。 「検事!?どうしますか!?」 刃多がうろたえている。刀技はあたりの様子を見る。よく見ると、デスクの上に使われていない電話があった。 「くそっ!」 刀技は急いでそれを掴んでコードを引き抜くと、それを思いっきり男に投げつけた。 パンッ!!!! 拳銃が火を噴いた。3人は一斉にしゃがむ。後ろの窓ガラスが大きな音を立てて割れる。 と同時に、何かが倒れた音がする。3人はゆっくりと立ち上がった。 「ヒットだな。」 そこには、刀技の投げた電話が顔面にヒットした男が気絶していた。 「糸鋸!拳銃を押収!奴を動けないようにしておけ!」 「了解ッス!」 「私と刃多はあざみさんを探す!」 そう言うと奥へとさらに進む刀技と刃多。持っていたペンライトであたりを照らす。 「!!?」 刃多が何かに気づく。 「検事!?そっちです。そこに人が!!」 「何っ!?」 刀技がすかさず刃多のほうを見る。とそこには、 「あざみさん!!」 部屋の隅にロープで縛られて、目を口を布でふさがれていたあざみの姿があった。 「待っててください!今すぐ解きますから。」 刀技は急いでロープと、あざみの視界を奪っている布を外す。 「あざみさん!?どうした!?あざみさん!?」 だが、あざみはびくともしない。 「意識を失っているみたいですよ。検事。脈はあります。」 刃多が冷静に脈などを調べそう言った。 「そうか、よかった。」 すると奥から糸鋸がやって来た。 「検事!奴をそこにあったロープで縛っておいたッス!」 「そうか、ご苦労だったな。刑事。」 どうやら、これで全てがうまくいきそうだ。刀技がそう思っていたときだった。 「誰だ!?貴様らは!?」 「!!!!!!!」 なんと、さらに男が1人ここにやって来たのだ。 「ナニッ!?まだ居たというのか?」 刀技はそう言うと、男のいる奥を見た。男は何故かまた拳銃を持っている。 「さ、最悪だ・・」 刃多が頭を抱えた。 「刑事!?拳銃は持っているんだろ?それで威嚇射撃でもいいからするんだ!」 3人と気絶しているあざみは、2つほどの大きめのデスクの陰に隠れている。 パァン・・パァン・・・・・パァンパァン!! 激しい打ち合いとなる。だが、やがて大変なことになる。 「ああっ!!」 「どうした!?糸鋸刑事!?」 いきなり大声を出した糸鋸。糸鋸は泣きそうな顔になって刀技にこう言った。 「弾が切れたッス。」 刀技の顔が強張った。 「な、何だと!?」 「そんなぁ!!」 刃多は今にも気絶しそうだ。 パァン・・パァン・・!! 相手の攻撃はなおも続く。自分たちの目の前にある窓ガラスが次々と割れてゆく。 「くそっ!このままじゃ明日の法廷に出る前に死んじまう!!」 すると刀技は、机から数メートル離れたところに糸鋸が縛り上げたもう1人の犯人がいることに気づく。 そいつは拳銃を持っていたはずだ。刀技はさっとペンライトでそいつの周りを照らす。 「あったぜ・・全く、いつからこの国は銃撃戦をする国になっちまったんだろうな!?」 そう言うや否や、刀技は銃声がなりやんだ一瞬の隙をついて机の影から出る。 「検事!?」 「刀技検事殿!?」 刃多と糸鋸が刀技の名を叫ぶ。 「そこかぁ!?」 刀技は素早く落ちていた拳銃をと手に取ると、縛り上げられている敵の仲間を盾にする。 「悪いな。だが・・仕方ないんだ。」 敵は何発か銃を発射するが、刀技が仲間を盾にすると発砲をやめる。 「この野郎ぅ!」 刀技は縛り上げられた敵の仲間を盾にした状態で狙いを定める。 「射撃なんて初めてなんだがな、あえて言うなら中学時代のゲーセン以来だ。」 パァン!! 「うわああああああああっっ!!!!」 刀技の放った銃弾は、相手の銃を持っていた手にヒットした。 「糸鋸刑事!!今だ!!奴を捕まえろ!!」 「りょ、了解ッスゥゥゥ!!」 糸鋸が猛スピードで影から出てきてそいつを拘束しようとする。が、ここで更なるアクシデントが発生した。 「うっ・・これは!?」 気絶していた男が目を覚ましたのだ。しかし、縛れているので何も出来ない。 「お目覚めか?」 刀技は甘く見ていた。次の瞬間男は、縛られた状態で刀技に強烈な頭突きを食らわす。 「うおっ!!」 刀技が数メートル後ろの壁に吹き飛ばされる。 「検事!?」 刃多が叫ぶ。その声で糸鋸が後ろに振り向いた時だ。手を打たれたもう1人が糸鋸にタックルをする。 「うわぁッス!!」 糸鋸の体が倒れた。その隙に男は落ちていた拳銃を拾い上げると、そのまま真っ直ぐと刀技のほうへと向かう。 「随分と面白いマネをしてくれたな?刀技検事さん?」 その口調は明らかに、電話を掛けてきた男の口調だった。 「だが、これで余計な手間も省けた。あんたを殺してしまえばもう、これ以上事実を追い求めるものは消える。」 銃口が静かに刀技へと向けられた。 「あざみさんと拉致するとは、随分面白いマネをしてくれるな。てめぇらも。」 倒れていた糸鋸が体を起こして動こうとした。だが、 「動くな!この男を撃つぞ!!」 「ぐっ・・」 糸鋸はどうすることも出来ない。今の刀技と男の間は1メートルほどしかない。 糸鋸が助けたくても、彼のいる場所からは10メートル程離れているので間に合わない。それは刃多も同様だった。 「それはどうかな?例え私が死んでも、お前達を追い続ける者はまだまだ出てくるはずだ。」 「その時は消すまでだ。」 男は銃口を刀技に向けたまま離さない。 「まだ何も分かっちゃいないな。お前らは。」 「知っているような口をきくな!!」 だが、刀技はふてぶてしく笑ってやった。法廷で見た成歩堂のように、彼は何故かピンチの時ほど笑っていた。 「人の幸せってモノは、星みたいであってほしいもんだ。」 「何!?」 だが刀技はその銃口に怯むことなく続ける。 「だがな、人の意思はすでに星なんだ。」 そして男の顔を睨みつけると言った。 「人の意思はいつまでも輝きつづけるものなんだ!例え見なくなろうが、どこかで必ず輝いている!」 人の意思・・まさに、今の刀技を動かしているものだった。 「その輝きを見てくれる奴がいるから、その意思は伝わる!そう、人の意思は受け継がれる!」 「検事・・。」 刃多は静かにそれを聞いていた。 「そしてだ!その意思が受け継がれてゆく限り!お前らを追うものは消えない! 私が例えここで死のうと、それは同じことだ!結局は何も変わらない!」 目覚めた日。すみれの担当していた事件が原告敗訴で終わった時。 刀技はあざみにこう言った。 「あざみさん。私はすみれさんの意思を継ぐ。」 「すみれの意思を?」 あざみは刀技の決意した表情を見て、何かを悟っていたようだ。 「私は、彼女のためにも戦いつづける。そう彼女に誓います。」 その言葉が蘇ったのか、あざみが意識を取り戻した。だが、誰も気づかない。 「私は、お前らのせいで犠牲になった者たちの上に立っている!私自身も犠牲になった、だが生きている!」 「かたなぎ・・さん?」 あざみは暗闇の中、その目の前の光景を徐々に把握していく。 「そう、私は彼らの犠牲の上に立っている!だから、彼の意思を受け継ぐべきだと決心したんだ!!」 「言わせておけば・・!!」 男が引き金に手を掛けた。 「私は彼らのためにも戦いつづける!!例えここで死のうが、その意思はいつまでも残る!だったら、死んでも十分だ!!」 その言葉にあざみが反応した。 「死・・?」 「えっ!?」 刃多が振り返る、あざみが意識を取り戻したの気づいたのだ。あざみはゆっくりと立ち上がる。 「意思を継ぐものがいる限り!意思を残すものがいる限り!それはお前達と戦っていることと同じだ! 私は1人じゃない、そんな彼らと共に戦った!そうだろすみれ!!!?」 刀技は最後に、今はいないすみれに向かってそう尋ねた。死を、覚悟した瞬間だったのだ。 「じゃあその、くだらない正義と意思で死んでしまえ!!」 男が引き金を引いた。 「い、いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」 糸鋸が、刃多が、その叫びと同時に飛び出してゆくあざみの姿を見た。 パァン!! 刀技は銃声とほぼ同時に、横に弾き飛ばされた。いや、誰かが横へと体を押したのだ。 「あ、あざみさん!?」 刀技はその押した人物を見て言葉を失った。あざみの横腹付近が銃で撃たれていた。 「くそぅ!!」 男はさらに刀技に向かって銃を撃とうとする。だが、あざみがそれを正面からかばった。 「どけ!どくんだあざみさん!!」   パァン!!   今度は刀技が、あざみを後ろから横へ押し倒した。だが、それよりも銃弾が少し早く。 あざみの腹部を貫通する。そしてそのまま銃弾は、後ろにいた刀技の左足太もも付近に命中する。 「ぐあっ!!」 立ち上がって男に掴みかかろうとした刀技だったが、太ももを撃たれた事でそのままガクッと倒れる。 その時だった。男の横から糸鋸が、背後からは刃多が飛びかかる。 パァン!!   銃が天井へと暴発する。上の照明に当たり砕ける。 「言うまでもなく、アンタを現行犯逮捕するッス!!」 糸鋸がまだ使っていなかった手錠をそいつにかけた。気がつけば、今の銃撃戦のせいだろう。 通報を受けたパトカー数台がこちらに向かう音がした。 「あざみさん!!あざみさん!!」 刀技は銃弾を腹部に2発も受けたあざみの体を抱きかかえると叫んだ。 「どうして・・どうして死に損ないの私を助けたんだ!?」 その台詞は、1年前にすみれを助けることが出来ずに、逆に彼女の死後に目覚めてしまった自分への、 何とも言えない罪悪感の意識を表していた。 「だって・・・・あなたが死んだら、すみれが悲しむから。」 あざみは、苦しそうに顔を歪めながらもそう言った。 「そんな・・だからって!かばうことはないじゃないですか!?それに、私がもっと悲しむ。すみれさんも悲しむ!」 刀技は泣きそうだった。 「でもね・・あなたは私とすみれに約束したわ。意思を受け継ぎ戦いつづけると・・それを刀技さんができなければ誰がするの?」 「し、しかし!!」 「いい、聞いて・・すみれはあなたに最後、この一言を伝えたかったのよ。ずっと伝えられなかった。たった一言の言葉を。」 そこまで言ってあざみは、刀技から目をそらした。 「でも・・私は言えないわ。」 「!?ど、どういう意味ですか?」 刀技は目をそらしたあざみを見て尋ねた。あざみは最後に・・ 「刀技さんを守れてよかった・・だって、私に言うそれを言う資格はないもの・・」 最後に・・消えそうな声でこう一言。 「嫉妬かな?私も・・・・・・・・・・。」 あざみは目を閉じた。 「あ・・あざみさん。あざみさぁぁぁぁぁん!!!!」 刀技はその場にうずくまった。彼女を救うことが出来なかったのだ。                        ※      ※      ※  その後刀技は、足に簡単な応急手当をすると・・最終日に法廷に何食わぬ顔で立った。無論、夜の出来事は誰にも話そうとしなかった。 だが、休憩時間になるとしきりに、集中治療室に運ばれたあざみの事を気にしていた。 「見えたな。診療所が・・。」 刀技の目の前に、1つの小さな診療所が見えた。そこのすぐそばには川が流れている。 だが、急流で知られるこの川も、ここの付近は何故か流れが穏やかだった。   「あなた。手紙が来てますよ。」 「お、そうか、すまないね。こころさん。」 診療所の中の待合室らしきところにいる2人の男女。歳は50くらいか。 「ほほう、灯火くんや鹿山くんからもきているな。」 「そうですね。2人も元気にしているみたいですよ。」 そんなほのぼのとした会話を2人がしている時だった。 ・・コンコン 診療所のドアを叩く音がした。 「あら、お客さんですかね?それもと病人かしら?」 女性のほうがドアを開ける。そこには刀技が立っていた。 「どうもお世話になっています。お元気そうで・・。」 刀技は軽く挨拶をした。 「あら、刀技さんじゃないですか?」 「ほほう、刀技君か。」 奥のほうにいた男性のほうも刀技のところにやってきた。 「どうした?2週間前に来たばかりではないか?」 「まぁ、そうですが。少し良いことがあったので・・来てみようかと。」 刀技はぎこちない口調でそう話す。 「まぁ良い。いま美味しいホットミルクでもやろう。春になったが家のは美味しい。」 「すいません。」 男性はそう言うと奥に行ってしまう。外では子供達の明るい声が聞こえる。 「相変わらず、子供達は元気そうですね。」 「そうね。大自然の中にいると自然に心が洗われるものなのよ。だから、元気になれる。」 女性はそう言うと刀技を座らせる。 「でも、あなたの恋人の心の傷は深いわ。だからまだ時間がかかりそう。」 「そんな、私と彼女は恋人ではありません。」 刀技は静かにそう言った。 「あら、どうだったかしら?どうも最近忘れっぽくて。」 部屋の隅に大きな水晶が見えた。 「これはいつもありますね。」 「そうよ。この山はね。昔から野生の薬草が多いの。それはこの山に宿る霊気のせいだと言われいるの。」 「はぁ・・霊気ですか。」 刀技はこの話を毎回聞くがいつも信じられないらしい。 「そしてね。この水晶には不思議な力を呼び込む力があるの。まぁ、それも霊気もせいだと言われているわ。 心の治療にこの水晶の力が役立つこともあるのよ。」 「そうなのですか・・。」 イマイチ信じきれないところで男性のほうが戻ってくる。 「また水晶の話かね。それ、どうぞ。」 「すいません。わざわざ。」 刀技はホットミルクを受け取った。 「この水晶はね。この山のふもとに住んでいた私の父が、この山に住んでいた1人の霊媒師からもらったものらしいんだ。 だから、不思議な霊力か何かがあると信じられている。」 「はぁ・・。」 刀技は正直言ってオカルトは苦手だ。まぁ、それもこの2人はよく分かってはいるようだが。 「さて、あざみさんの所に行くかい?」 ホットミルクを飲み終わった刀技にそう尋ねる男性。 「お願いします。」 刀技は男性に案内されて奥へと進む。 「いつもと同じ場所だがね。こっちだ。」 そう言って扉を開けた男性。外に通じる扉のようだ。扉の外に出るとそこは、すこしベランダのようになっていて、 少し進むと外へ降りる段があり、外の花畑に出ることができる。ちょうどこの時期は美しい野草などがある。 「・・・・・あざみさん。」 刀技は一言そう呟いた。ベランダのところに1つ、ロッキングチェアがでていた。そこにあざみは座っていた。 「あなたは?」 「刀技快登と申します。あなたの友人です。」 刀技はそう言うとお辞儀をした。 「そうですか。初めまして。」 あざみも頭を下げる。それを静かに見守る男性。悲しそうだった。 「ここでの生活には慣れましたか?」 「えぇ・・おかげで。もう2年になります。この景色を見ていると心が洗われるようです。」 刀技はあざみの隣に持ってきた折りたたみチェアを出して腰掛けると、あざみと2人で静かに会話をする。景色を眺めながら。 「うわー!お姉ちゃんラブラブだ!」 「いつ結婚するの?」 外で遊んでいた子供達を2人がからかう。 「こら、そんなこと言って刀技さんを困らせないの。」 あざみは優しく子供達にそう語りかける。だが、顔は幸せそうだ。刀技はそれを見て、ただ黙っているしかなかった。   あざみはあの後、一命は取り留めたものも、大きな問題が残った。 記憶の障害だ。彼女から刀技・すみれ。そして事件の記憶がすべて無くなってしまった。 それどころか、3人の出会いや思い出などが全て消えてしまったのだ。 医師が言うには、あの事件が大きなきっかけとなり、彼女は自己的に記憶を封印してしまったらしい。 その原因は人それぞれだが、あざみの場合、あの事件を始めとする辛い記憶が、相当な重みになっていたらしい。 だが、それなら事件の記憶だけを忘れるものだ。それなのにあざみは、刀技とすみれと自らの記憶までも無くしてしまっている。 ただ辛うじて、何とか自分の名前だけは覚えていたが・・。 刀技には心当たりがあった。あざみが自らと自分とすみれに記憶を封印してしまった理由について。 だが、あえて口にすることはなかった。今でも・・ そしてあざみは今、こころ診療所というところに身をおいている。ここは、辛い過去や事件によって、 心に深い傷を負った人々を、この自然と長時間をかけて行われる治療によって 社会復帰させてゆく診療所で、その業績も認められている。 まぁ、水晶のに宿る霊気の力とも診療所の2人は言っているが、それは定かではない。 ここには、両親を事故や事件によって目の前で失ったりした子供達が暮らしている。 あざみも、その子供達と一緒に暮らしているのだ。 やがて時間が経った。 「それではこれで失礼します。下山の時間もかかりますし。」 「そうですか、もっとあなたと話したかった。残念です。」 刀技とあざみは共に、別れるのが辛そうだ。 「また来ますよ。それまでの辛抱です。」 「・・そうですね。待ってます。それまでに私も、自分の記憶が戻るように頑張ります。」 「そうですか、無理はしないでくださいね。」 2人は別れた。刀技は最後に診療所の2人にも礼を言う。 「今日はありがとうございました。」 「いやいや、いいのだよ。」 「そうですよ。それにあなたみたいにいつもこんな山奥に来てくれる人がいるだなんて、感心です。 今日もわざわざ足りないものを町から買って持って来てくれて、本当に感謝しています。」 玄関前で会話をする3人。 「いえいえ、こちらも世話になっていますから。では、もう時間がないので、これで失礼します。」 「そうか、気をつけるのだぞ。」 「無理はしないでくださいね。」 2人に見送られ、刀技は最初に歩いた道を再び通って帰ってゆく。 「あれでいいのかの?」 男性がふとこう漏らした。 「どういうことですか?」 女性が尋ねる。 「いやな。ああやって彼が何度も来ようとも、そのたびに彼女は彼のことを忘れてしまう。 彼にとってはそれほど辛いことはないだろうに。」 そう、刀技はこれであざみと会うのは10回以上だ。だが、その度にあざみは刀技のことを忘れている。 「そうですね。それは彼がきっと、これを事実として受け止めているからでしょう。強い人ですよ。刀技さんは。」 刀技は下山しながら空を見上げる。 「ふぅ・・明日からはまた仕事か、面倒なものだ。」 刀技の目はいつも、ここの帰りの時は悲しそうだ。 (すみれさん・・私はあざみさんを救うことができるだろうか?) いつもこの時、刀技は悩む。 (あなたも分かってるだろうが、幸せそうに見えてあれは、本当の彼女の姿じゃない。) そしてまた、こうも考える。 (だが私が救うのはいけないことなのかもしれない。なぜなら、あざみさんが記憶を消したのは・・) そう考えて刀技は、いつも涙を流す。 (すみれさん。きっとあなたも私と気持ちは同じじゃないのか?なぁ?そう言ってくれよ。)   彼はまだ、呪縛から抜け出せない。 いや、抜け出すことが出来ないから、呪縛なのかもしれない。                   語られる逆転 〜another story〜                        過去の呪縛・完

あとがき

彼のお話もこれで一応は終わりました。まぁ、色々と後味の悪いものだったかもしれませんが。 さて、逆転裁判・本編を知っている人も?と思うところもあれば、後編は語られる逆転を知っている人にとっても。 また、小説大賞の某作品を知っている人にとっても?な部分があったかと思います。 ふふふ・・不思議に思ったあなた。もしいるなら言っておきましょう。悩んでください。(オイ えっと、ふざけるのはこの辺にして。この作品に一体自分がどんな想いを込めたのか。 実は言うといろいろあります。複雑なものですが。 そんなわけで、こんな番外編みたいな物語を最後まで読んでくださった方々に感謝の言葉を申し上げます。 本当にありがとうございました。

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