DUAL〜運命〜
闇雲が空一面を占め、大地は全て廃墟だった。 崩れたビルの破片とアスファルトが混じり、瓦礫の大地を築き上げている。 鉄骨が飛び出したボロボロのビルの屋上に、成歩堂龍一が立っていた。 いつもの青いスーツは返り血と泥で汚れ、それを隠すように黒いマントを着ていた。 右手にはベレッタM92Fが握られ、漆黒色に鈍く輝いている。 風でマントが羽ばたき、ふいに成歩堂が下を向いた。 そこには返り血をもろに浴びた御剣怜侍が鋭い目つきで立っていた。 銀色の髪は血で汚れ、顔も半分は血を塗りたくられていた。 普段から赤いスーツを着ているので返り血の具合はよく分からないが、 シャツの首元も汚れているところを見ると、大量に浴びたのは明白だった。 互いの狂気に満ちた瞳が絡み合うと、成歩堂は不気味に微笑んだ。 四階建てのビルの屋上から飛び降りると、何事もなかったように着地した。 ただ瓦礫の破片が飛び散り、土煙が舞った。 「お前を待っていた」 御剣は無表情のままそう言うと、腰に差していた黒い鞘から刀を抜いた。 銀色に輝く長身の刀を両手で構え、刃先を成歩堂に向ける。 「この時を待っていた」 成歩堂はベレッタのマガジンを抜くと、弾が限界まで装丁されていることを確認した。 再びマガシンを挿入し、弾を発射できるようにスライドさせる。 そして右手でゆっくりと銃を持ち上げると、銃口を御剣の頭部へと狙いを定めた。 二人の殺意が固定された途端、静寂と沈黙が訪れる。 全く無言の二人の間に、突風が吹いた。 その風は成歩堂が立っていたビルに叩きつけられ、振動を起こした。 鉄骨の軋む音が響き、必死で掴まっていたコンクリートの破片が、とうとう力尽きて崩れた。 何度か跳ねて音を立てた後、二人の間に飛び降りた。 瓦礫に叩きつけられる刹那、二人が動いた。 成歩堂の銃が咆哮を上げると共に御剣は身を屈め、高速の弾丸をかわす。 屈んだ状態から素早く踏み込み、姿勢を低くしたまま一瞬で成歩堂の懐に忍び込んだ。 成歩堂は斬り上げられる刀の軌道を見定めると、上半身を反らしてスレスレで避けた。 避けると同時に銃口の向きを変え、再び御剣に合わす。 御剣は踏み込んだ足に力を込めて跳び上がると、空中で一回転して元の位置に戻った。 成歩堂は反らしていた姿勢を直し、御剣は刀を上段で横に構えた。 「相変わらず、だな」 御剣の一言に成歩堂は驚いたような顔を浮かべたが、すぐに鼻で笑った。 「お前もな」 今度は御剣が鼻で笑う番だった。 二人の和やかな雰囲気を見た者がいるならば、そいつは終戦を予測するだろう。 しかし、二人の殺意は未だに心を燃やしていた。 「でも、これで終わりだ」 唐突な台詞と共に、再び御剣が踏み込んだ。 成歩堂がすぐに銃口を向けて撃つも、刀身を軌道の先に向ける御剣の神技により弾かれてしまった。 再びトリガーに掛けた指を絞るも、今度は完全に外れてしまった。 御剣は成歩堂の目の前まで直進すると、いきなり身を翻して成歩堂の脇へと体を逸らしたのだ。 振り上げた刀に力を込め、空を縦に断絶した。 成歩堂は自分の片腕が斬り落とされることを予測すると、 素早く体重移動を行って御剣の腹へ蹴りを入れた。 御剣は低い声で呻くと、銃弾を撃ち込まれることを恐れて再び距離を取った。 しかし成歩堂はそれを許さず、飛び退いた御剣の後を追うように走り出した。 御剣は初めての成歩堂の行動に少し驚いたが、すぐに体勢を立て直して反撃の構えに移った。 走りながら三度、牽制するように銃を撃ち、全て刀で弾かれる。 そして四度目の弾丸が右太ももに飛んで行き、刀がそれを弾いた刹那、 成歩堂が御剣の眼前へと到着し、銃口が完全に御剣の眉間を捉えた。 「ジ・エンド」 成歩堂はそう言って哀しそうな目をした後、トリガーを引いた。 バン! その音はエコーがかかったようにいつまでも木霊し、 そして御剣は映画のワンシーンのようにゆっくりと倒れていった──。 チュンチュン。 雀の声に意識が戻ると、急激に体が冷えていることに成歩堂は気付いた。 「寒い」 シャツの上から二の腕を擦り、急いで体を暖める。 ぼーっとする頭で周りを見渡すと、いつもの自分の部屋だった。 そして先ほどの光景を脳内に思い浮かべる。 「夢、か……」 成歩堂はそう言った後、頭を左右に振って骨を鈍く叫ばせた。 そして現在が日曜日であることを思い出すと、再びソファに横になった。 ソファの横のガラスのテーブルには、レンタルビデオ店から借りてきたビデオのケースが置いてあった。 その中身は、成歩堂の足の先にあるビデオデッキの中に差し込まれたままだった。 題名は、「DUAL〜運命〜」。 宿命の二人が激しく対決する、シリアスアクション映画である。

あとがき

御剣ファンの方、申し訳ございません。

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