プロローグ
作者: 邪神   2012年07月14日(土) 22時28分34秒公開   ID:LsmXA1cmAZk
9月29日 午後18時11分



「助けて」

大量のゾンビに囲まれている若い女性が、西山正志に大声でそう言って助けを求める。

「今行くから、待ってろ!」

正志は近くに落ちていた鉄パイプを拾い、女性を囲んでいるゾンビたちを殴り飛ばした。

しかしゾンビたちは怯まず襲いかかってきた。正志は鉄パイプを振り回してゾンビたちを殴るが、次から次へと向かってくるゾンビに苦戦する。

(こんな時ゲームの『バイオ』なら、都合良く銃とかあるんだけどな。さすがに上手くはいかないか……)

「今のうちに逃げろ、早く!」

大量のゾンビとの抵抗戦の中、正志が女性に向かって叫んだ。

「で…でも」女性が口ごもった返事を返す。

「いいから行け!」

正志は近くにあった階段を駈け登り、ゾンビたちを誘導した。それを見た女性が走って行った。

「ちっ、くたばれ化け物ども」

正志は自分が後ろにゆっくり下がっていることに気づかないまま、鉄パイプでゾンビを殴る。

「くそ、キリがないぜ」

気がつくと正志は手すりの所まで追い詰められていた。振り返って下を見ると5メートルほどの高さがある。

すると飛び掛かってきたゾンビたちに押され正志は手すりから転落した。

「うわあぁぁっ!」

正志は5メートルの高さから落ちていった……。









「うわああぁぁっ!」

彼は目を覚ました。ゆっくりと起き上がり着ているトレーナーを見ると、大量の汗でシミだらけになっていた。

「くそ、またあの夢か……」

彼…西山 正志(ニシヤマ タダシ)は憎らしげに一言呟いた。ここ最近、先程見た夢と全く同じものを何度も見てはうなされるようになっていた。

彼はため息をつきながら汗まみれのトレーナーを脱ぎ、浴室でシャワーを浴びてTシャツとパンツを履き、下着そのままで夕食の準備に取り掛かる。

「樹里〜!…って、翔と実家に戻ってたんだっけ。仕方ないな、冷蔵庫に何かあったかな?」

養母の名前を呼ぶが、返事はない。数秒後、正志は養母が息子を連れて実家に帰省していたことを思い出し、ため息をついた。

冷蔵庫のドアを開けて夕食に使えそうな食材があるか確認する。しかし調味料以外は何もなかった。

「そういえば、昨日買い物行ってなかったな。仕方ない、コンビニで何か買うか」

上を長袖のシャツと紺のジャケット、下をブラックジーンズに着替えて玄関の扉を開け外に出た。

扉に鍵を掛けて自宅のアパートを出た正志は妙な雰囲気を感じた。普段自分がいつも見ている街の風景と、全く違っているように見えたからである。

「こんなところにレストランなんてあったか?」

それは大きなレストランだった。看板に大きな英文で、「Grill13/CAFE13」と書かれている。

正志は周りを見渡した。すると見たことのない建物が次々と彼の目に飛び込んできた。

「ARUKAS Dress Shop?」

(アルカス洋服店だと?どっかで見たことがあるような……)

とりあえず正志は、「Grill13/CAFE13」と記されたレストランに入ることにした。

店内は電気が点灯し変な臭いが充満していた。

「すいません、誰かいませんか?」

正志は英語で問い掛けたが、返事はない。

(なんだよ、この臭い……。鉄パイプみたいな、いやこれは血か?)

正志は鼻を押さえながら客用に設置されている机を見渡し、『Racoon City Official recognition Mixture method of herb』と書かれている本を見つけた。

「なんだこの本、ラクーンシティ公認ハーブの調合の仕方?待てよ、……ラクーンシティって。そんな馬鹿な!」

正志は本のページをパラパラとめくってみた。その本にはラクーンシティで栽培されているグリーンハーブとレッドハーブ、ブルーハーブの調合の方法が詳しく書かれていた。

「これは…使えそうだな。もらっておこう、誰もいないみたいだし」

正志は本を小さく折り畳んでジャケットの裏ポケットに入れた。

するとキッチンの辺りから物音がした。何かを引きちぎっているような音だ。

正志はキッチンに足を踏み入れた。自分の予想が間違っていなければ、“あの敵”がいるはずだからだ。

(このレストランは、確か『バイオ2』と『バイオ3』の序盤のステージだった場所だ。レジに“あれ”があったはずだが……)

キッチンに通じる小さな扉を開き前に進む。すると正志が予想していた通り、レジに固定されていたフックにかけてあるショットガン(散弾銃)を見つけた。

(やっぱりあったか。ありがたい)

正志はショットガンを手に取って進んだ。すると床に人が寝そべって何かをしていた。

「おい、そこで何をしている!?」

正志が叫ぶと寝そべっていた人間が振り返った。

しかし、それは人間ではなかった。正確に言うと“ゾンビ”と言ったほうが正しいだろう。

壊死した青色の皮膚のゾンビは立ち上がり正志に近づいてきた。正志はショットガンをその化け物の頭に向けて引き金を引いた。

「くらえ!」

ショットガンの散弾がゾンビの頭部を吹っ飛ばした。ゾンビは倒れて動かなくなった。

頭部が欠損したゾンビの体を調べ始めた。外国人の若者らしい格好から、ラクーンシティの住人だったことがわかる。

(ありえない…それはわかっているが、間違いない。ここは『バイオ』の舞台・ラクーンシティだ!)

正志は先程ゾンビが寝そべっていた場所を調べた。カウンターとキッチンを挟む小さな床に警察官の死体が横たわっていた。辺り一面が血まみれになっている。

警官の死体を調べると、胸ポケットから20発の9mmパラベラム弾が出てきた。正志はどこかでハンドガンを見つけた時のために弾丸を拾った。

(ラクーンシティがアメリカの核ミサイルで消滅したのは、1998年の10月1日。まだ滅んでないってことは…)

正志は考えながらレストラン内を詳しく探索した。店員ロッカーを調べると、ショットガンの弾丸20発とハンドガンの弾丸15発があったので拾った。

弾丸を回収しレストランを出た正志は自宅があった場所に戻った。

しかし無駄だった。さっきまであった正志が住んでいたアパートが消え、大きなマンションが建っていた。

(なんだ、これ…。アパートが消えた?じゃあ俺は)

正志はARUKAS洋服店の前に座り込み、呆然とした。

しかし、どこからか聞こえてきた英語で話すアナウンスの声で目が覚めた。

『ラクーン市庁です。このエリアの被災者は、至急ラクーン警察署に避難してください。救助チームがこちらに向かっております。繰り返します、このエリアの被災者は、至急ラクーン警察署に避難してください』

正志ははっとなって立ち上がり再び考えた。

(可能性は少ないが、ラクーン警察に行けば、ゲームにしか存在しない“彼ら”に会えるかもしれない。とにかく、このまま一人で動いても何もできない。協力を求めるんだ、“彼らに”!)

辺りを見渡し看板を見つけ書かれている英文を読む。

「アップタウンか…よし!」

正志は走った。途中何体かゾンビがいたが無視した。弾丸を節約するためだ。

腕時計を見ると18時半を過ぎている。正志は警察署を目指してただ闇雲に走った……。
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