第7話 謎の少年、現る |
作者:
邪神
2012年07月11日(水) 19時37分21秒公開
ID:LsmXA1cmAZk
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9月29日 午後21時56分 須田恭也登場。 俺とクレア、レオンは歩きながらマービンがいる1階西オフィスへと向かっていた。 『………ますか?僕の声が聞こえますか?』 すると俺の頭に何者かの声が聞こえてきた。 (な、なんだ!?) 俺は辺りを見渡して、驚愕した。時間が止まっていたからだ。 歩いていたクレアやレオンは石像のように固まって動かなくなり、近くにいたゾンビも固まっている。 (一体どうなってやがる?) すると辺りが真っ暗になっていく。俺は混乱した。 「僕の声が聞こえますか?」 「誰だ?」 また何者かの声が聞こえた。俺は声がする方向へ振り向く。 「よかった、ようやく会えましたね。西山正志さん」 突然オーロラのような壁が現れ、中からモスグリーン色の半袖シャツと白いTシャツ、ジーパンを着た青年が現われた。 顔立ちは日本人だが、髪の毛が茶色。年齢は10代後半だろうか。身長は俺より低いが、スラリとしていた。顔もいわゆる二枚目である。 背中に種類の違う2本の狩猟用狙撃銃を背負い、数え切れない弾薬を抱え、右手に土偶のような人形を持ち、左手に青色の光が宿った剣を持っていた。 「誰だお前は?」 俺が尋ねると男が指をパチッと鳴らした。 「これが何かわかりますか?」 男が指差す方向を見ると、七つの地球が光に照らされて黒い空に浮かんでいた。 「地球が七つあるように見えるが…………」 「その通り、これは地球ですね」 男は俺の顔を見た。 「まだ、少しだけ時間があります。いいですか?これから僕が言うことを、よく聞いてください」 男の真剣な表情を察した俺は頷いた。 「あなたがいた世界で7つの様々なホラーゲームが誕生し、それぞれのホラーゲームの物語が本当に存在する7つの並行世界が生まれました。……それは世界観や登場人物など、全てが独立した別々の物語。 あなたが今いるのは、7つのホラーゲームの1つである『バイオハザード』が本当に存在している並行世界です」 その言葉で、俺はさっき自分が推理したことが間違いではないことを理解した。 「あなたがいた世界では、『バイオハザード』はあくまでゲームとして存在し、それは架空の物語……つまりフィクションだった」 男の問いに俺は頷いた。 「しかしこの世界では、それが全て本当に存在しています。あなたはその世界に放り込まれた」 俺はふと財布から学生証を取り出し男に見せた。 「じゃあ、これはどうなってる?学生証の中身まで変わるなんておかしいだろ」 学生証を見た男は言った。 「それはあなたという存在までもが、この世界に放り込まれたからです。この世界では元々、西山正志という人間自体が存在していなかった。しかしあなたが放り込まれてしまったことで、この世界の因果律が崩壊し、あなた自身が存在していることになった」 男は再び指を鳴らした。 すると先程見た7つの地球が、光に照らされて再び現れた。 さらに男が指を鳴らした。すると七つの地球の内五つの地球が消滅し、二つだけが残った。 「これはさっきの地球だろ?」 「そうです」 男は左の地球を指しながら説明した。 「この左の地球をあなたが元いた世界だとします。この場合、右の地球…つまりこの世界にあなたは存在しないことになる。ここまではわかりますか?」 俺はガムを取り出し口に放り込んで頷いた。 「何かが原因で、あなたとあなたの存在は、左の世界からこちらの右の世界に放り込まれた。それによって左の世界でのあなたの存在は無くなってしまったというわけです」 男が語る言葉に疑問を抱いた俺は言った。 「それはどういうことだ?」 男は語った。 「つまり、あなたが住んでいた家や戸籍、あなたの存在も左の世界では存在しなくなってしまったんです」 俺はガムを噛みながら尋ねた。 「それじゃあ右の…つまり、この世界に?」 「ええ」 男が頷きながら言った。 「右の…つまり今あなたがいるこの世界に、あなたの存在や戸籍も存在しています。ただ…………」 「ただ、何だよ?」 男が口ごもったのを疑問に感じ、俺は聞いた。 「あなたが通っていた大学が変わってしまったように、この世界そのものも変わり始めているということです」 その言葉に俺は引っかかる何かがあった。 「じゃあもしかして、ゲームではなかったシェリーのゾンビ化という結末が起きてしまったのは、世界が変わり始めているってことが原因なのか?」 「そうです」 男は頷きながら言った。 男がまた指を鳴らすと、左の地球が消え右の地球だけが残った。 再び男が指を鳴らした。すると右の地球が砂のように消えて消滅した。 「一つだけ断言できることがあります。あなたは二度と元の世界に戻ることはできません」 男は断言する。 「なんだと!?」 俺は男に掴み掛かった。そして尋ねた。 「あなたはこの世界で、ゲームで得た知識を武器にアンブレラやクリーチャーと戦わなければなりません」 俺はその言葉に愕然とした。 「どうしてそう断言できる?」 「あなたがこの世界に放り込まれたことで、元の世界は消滅してしまったからです」 男が指を鳴らすと、さっき消滅した地球が再び現れた。 「いいですか?この世界を救える人間は、“全て”を知っているあなただけだ」 男は再び現れた地球を見ながら俺に微笑んだ。 「なぜ俺だ?」 俺は尋ねた。自分がなぜ並行世界に放り込まれたのかわからなかったからだ。 「それは僕にもわかりません」 即答した男に、俺はゆっくりとため息をついた。 「あなたはまだいい、なにしろ仲間がいますからね」 男のこの言葉に俺は耳を疑った。 (じゃあ、こいつも俺と同じように、別の世界に放り込まれたのか……!?) 心の中でそんなことを思いながら俺は尋ねた。 「それじゃあ、あんたも別の世界に?」 「そうです。あなたがいる『バイオハザード』の世界とはまったく違う、あるホラーゲームの世界でずっと1人で戦い続けてきました。」 男が頷いた。 「そうなのか……」 俺は絶句した。 「詳しいことは…そうですね。……またあなたと会うことができた時にでもお話します」 男がそう言うと、腰につけている小さいバックから何かを取り出し俺に渡した。 「これをあなたに。考えて有効に使ってください」 それはハンドガンの弾丸とショットガンの弾丸、グレネードランチャーの炸裂弾と火炎弾、冷凍弾だった。 俺はそれらを受け取ると大事にポーチに入れた。 「そろそろ時間が無くなります。また会えることができたら、会いましょう」 男はそう言うと振り返り、再び現れたオーロラの壁に向かって歩いていこうとした。 「ま、待ってくれ!俺はまだあんたにいろいろと聞きたいことがっ……」 俺はそう叫んで男の肩を掴んだ。 「西山さん、戦うことの意味は自分自身で見つけ出すしかないんです」 男は背中を向けたまま言った。 「どういうことだよ?」 その言葉の意味がわからなかった俺は尋ねた。 「どんな絶望の中でも、希望を信じれば人の心から光が消え去ることはありません」 男はそう言うと俺の方向へ振り返った。 「あなたはこの世界を救うことができる唯一の人間です。ただそれには仲間の協力が不可欠です。だから、仲間を大切にしてください。もし辛いことや悲しいことがあっても、彼女達が一緒なら乗り越えていけるはずです」 男は微笑みながら俺の両肩を叩いて再び背中を向けた。 そして、オーロラの壁に向かって歩いていく。 「あんたは何者だ?」 咄嗟に思いついた言葉を俺は口にした。 「須田恭也という名前の、ただの通りすがりの男ですよ」 男はそう言うと手を振りながらオーロラの向こうへと消えていった。 「……須田恭也」 男は去っていく瞬間に、「頑張ってください」とエールを送ってくれた気がした。 |
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