第6話 新たな仲間 |
作者:
邪神
2012年07月11日(水) 19時35分23秒公開
ID:LsmXA1cmAZk
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9月29日 午後21時37分 「レオン。レオン・S・ケネディだ」 そう名乗った彼に、俺は銃を下ろした。 「悪かったな。警官の制服だから、てっきりゾンビかと思ってよ」 「いいや、気にしていない」 俺は手を差し出し、レオンに握手を求めた。 「西山正志だ。日本人だけど、よろしくな」 「よろしく」 レオンは一言そう言って、手を差し出した。 「レオン、大丈夫だった?」 本を調べていたクレアが彼に聞いた。 「ああ、遅くなってすまない」 (こいつが、あのレオン・S・ケネディか…………。ミドルネームのSって、確かスコットだっけ) 俺はポーチからハンドガンの弾丸60発分を取り出し、彼に投げた。 「ほら、これやるよ。おおかた、ゾンビ相手に使いすぎてほとんど残ってないだろ?」 「ああ、使わせてもらうよ」 彼は礼を言って、受け取った弾丸の一部を愛銃のH&K VP70に装填した。 「クレア、その脚どうしたんだ?」 クレアの脚に巻かれている包帯に気付いたのだろう。 「ここの廊下を歩いている途中に、全身が真っ赤の爪の長い化け物に攻撃されたのよ」 クレアが本に視線を戻しながら話した。 「自分で手当てしたのか?」 「違うわ、レオン。ここに避難してきた彼が偶然私を見つけて治療してくれたのよ」 クレアが俺の肩を叩いて説明する。 「そうか、無事なら良かった。確か、西山……だったな」 「正志でいいぜ、呼びにくいだろ?」 (弾丸を装填する必要は無いと…………) サムライエッジのマガジンを取り出し、残弾を確認しながら俺は言った。 「そうか、わかった。よろしくな正志」 レオンがポケットから何かを取り出した。 「銃だけでは不安だろう?これもあった方が便利だぞ」 レオンがそう言いながら差し出したのは、サバイバルナイフだった。 「お前は無くていいのか?」 ナイフを見ながら俺はレオンに尋ねると、彼は別のナイフを取り出して見せた。 「俺はこれがあるからいいんだ。使ってくれ」 レオンは、ナイフをケースごと俺の手に無理矢理握らせた。 「そ、そうか。悪いな」 俺は礼を言いながらナイフケースを受け取り、左胸に装着した。 「クレア、生存者はいたか?」 レオンがクレアに尋ねた。 「いいえ。さっきシェリーという名前の女の子を見つけたんだけど、ゾンビ化して………」 クレアが悲しみに満ちた表情を浮かべた。 「それで、その女の子は?」 「俺が頭を撃ってトドメを刺した」 サムライエッジを見せながら俺は淡々と喋った。 「助ける方法がなかった。保護した時にはTウイルスの感染症状が既に現われている状態で、いつゾンビになるかわからなかったんだよ」 俺は悔しさを噛み締めながら言った。実際、あの子を救いたかったという気持ちが、未だに心から離れなかった。 「そうか………。他に生存者は?」 「1階の西オフィスにマービンという名前の警官がいたんだけど」 レオンの問いにクレアが本を閉じながら呟いた。 「あの人は助からないぜ。後数十分でゾンビ化する」 俺は即答した。 「どうしてわかるの?」 「これを見てくれ」 俺は暇潰しのために作った“ある物”を取り出して、2人に見せた。 「何これ。Nishiyama Report?」 2人に渡したのは俺が暇な時間を潰すために作成した、ゲームの『バイオハザード』に登場する全てのウイルスの特徴や感染症状、感染経路や対処法などが詳細に書かれているレポートだ。 「れ、レオン!これ、すごく詳しく書かれている」 「ああ」 2人とも夢中になって俺が自作したレポートを読んでいる。 「俺が彼に会った時、高熱が出て体中を掻き毟っていた。そのレポートの『Tウイルスの感染後の症状とその特徴』の項目を見てくれ」 俺の言葉に2人は頷いてレポートを凝視した。 「レオン、あったわ!ここよ」 クレアが指でレポートの1点を指した。 「本当だ、書かれている。Tウイルス感染後、高熱を出し風邪に似たような症状を発症。後に身体にかゆみが走り、時間が経過し続けるとそれが激しくなる……」 レオンが読みながら、俺をじっと見た。 「しかし、これに書かれていることが本当かどうかわからないぞ」 するとクレアが口を出した。 「本当よレオン。シェリーがゾンビ化する前、これに書かれている症状…つまりかゆみと高熱があると言っていたわ」 俺はクレアの思いがけないフォローに驚いて、彼女の顔を見た。 クレアは笑顔で俺にウインクし、視線をレポートに戻した。 「そ、そうなのか。……しかし、一度様子を見に行ってみないか?もしかしたら、ただの風邪かもしれないだろ」 彼の言葉に俺は苛立ちを覚えた。 「あのな、ゾンビ化するとわかってて何で行くんだよ!弾薬の無駄遣いになるだけだ」 俺の言葉にレオンが返した。 「だから、様子を見に行くだけと言っているだろう」 「ただの風邪で動けない状態にまでなるか!?おかしいと思わないのかよ!」 俺は怒りを抑えきれず、彼に掴み掛かった。するとクレアが止めに入り俺に叫んだ。 「やめて正志!こんな時に言い争いしてる場合じゃないでしょ」 その言葉に俺は手を離した。 「く、クレア……。悪かったよ」 俺はポーチからガムを取り出し噛み始めた。いつもムカムカした時にこうすると、冷静に戻れるのだ。 「レオンもよ。もう少しこのレポートを信じてあげたら?」 「別に信じてないというわけじゃない。ただ、念のために様子を見に行った方がいいかもしれないと言っただけだ」 クレアが今度はレオンを宥めていた。 俺はガムを噛みながら、本棚にあったある本に釘付けになった。 緑という地味な色の表紙の本だったが、黄色の英文で書かれていた題名に惹かれたからである。 『並行世界の存在について』 その奇妙である意味胡散臭いタイトルの本を手に取り、俺は読み始めた。 『並行世界とは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指すことをいう。いわゆる「四次元世界」や「異世界」などとは違い、我々の宇宙と同一の次元を持つ。平行世界や並行宇宙、平行宇宙といった呼称もよく使われる』 俺は読み始める内にどんどんこの本に引き込まれていった。 『SF作品では現実とは別に、もう1つの現実が存在するというアイディアは、「もしもこうだったらどうなっていたのか」という考察を作品の形にする上で都合がよく、並行世界ははSFにおいてポピュラーなアイディアとなっている。また、小説や漫画などでは設定として取り入れられることも多い』 俺は次のページを捲り続きを読んだ。 『小説や映画では、主人公などを始めとする登場人物が何らかのキッカケで、自分が知っている世界とはまるで違う別の世界に迷い込んだり、放り込まれるといった作品が多く存在する』 俺は3ページ目のその記述に目を見開いた。 (何かがキッカケで、自分がいた世界とはまったく別の世界に放り込まれてしまう……。この本に書かれている記述、俺が体験したこととまさに同じじゃないか!) 棚に本を戻して、俺は考察し始めた。 俺がこの世界に放り込まれたのは、見覚えのあるどこかの街で若い日本人の女性がゾンビに襲われそれを俺自身が助ける夢を見たことが原因だった。 (俺はあの夢の最後で、手すりが外れて5メートルくらいの高さから真っ逆さまに地面に落ちたところで目が覚めた。そして外に出たら…………) 俺は味がなくなったガムを意味も無く何度も噛み続けながら必死に考えていた。 (ここは、俺が遊んでいた『バイオ』の登場人物や舞台が本当に存在している世界。俺がいた世界は、『バイオ』がゲームとして存在し、物語の舞台や人物は全て架空として扱われているはずだ) 俺はふと、クレアとレオンを見た。2人はまだ何かを話している。 (元々いた世界では、俺は法陵大学の学生のはずだったのに、学生証がいつの間にかラクーン大学の物に変わったりしていることからまとめても、俺という存在自体もこの世界に放り込まれたと考えたほうがよさそうだな) ガムを飲み込み、包み紙からまた新しいガムを取り出し口に放り込んだ。 するとクレアが話しかけてきた。 「正志、レオンと話し合ったんだけど……。やっぱり一度様子を見に行ったほうがいいと思うの」 ガムを噛むことで冷静を取り戻していた俺は、クレアの言葉にゆっくりと頷いた。 「そうだな。なんだかんだ言っても、そうしたほうがいいみたいだ」 図書館に放置されていたグリーンハーブとレッドハーブをポーチに入れ、俺は先程通ってきた大きな扉とは別の扉を開けた。 「ここから1階まで行ける近道を知ってる。行こう」 俺は手を振りながら、2人を案内した。 「わかったわ、行きましょう」 「ああ」 クレアが笑顔で頷き、レオンが一言返事を返した。 俺はサムライエッジを取り出すと2人もハンドガンを取り出した。 俺達は歩き出した。3人でこの街から脱出するために…………。 |
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