第5話 残酷な結末
作者: 邪神   2012年07月11日(水) 19時34分30秒公開   ID:LsmXA1cmAZk
9月29日 午後20時52分



「今から4ヵ月前、アークレイ山地に存在したアンブレラが所有する洋館で、バイオハザードが発生した。発生の原因は、アンブレラ創設者の1人であるジェームズ・マーカスのくだらない個人的な復讐劇だった」

俺は淡々と喋った。

「マーカスは、Tウイルスを始めとする各種生物兵器の開発を担当した優秀な科学者だった。だが今から6年前、アンブレラ社会長・スペンサーの命令により、唯一信頼していた幹部候補生のアルバート・ウェスカーとウィリアム・バーキンに殺害された」

俺の言葉にクレアは反応した。

「ウィリアム・バーキン……?バーキンって!」

シェリーは目を閉じながら俺の言葉に耳を傾けていた。

「そう…シェリーの父親さ」

俺は苦しそうに答えた。

「マーカスは確かに死んだはずだった。だが自分が研究していたTウイルスを含んだヒルに取り込まれ、長い年月を経て蘇った。そして復讐のために洋館をTウイルスで汚染し、バイオハザードを発生させた」

「どうしてただの洋館を汚染したの?」

クレアが突然質問した。俺はすぐに答えた。

「確かに普通の洋館だったら意味はなかった。表向きその洋館は社員の保養施設として建設された。だが実際はアンブレラの研究施設だったんだ。だからマーカスはバイオハザードを発生させたのさ」

俺が言うと、クレアはわかったという様子で頷いた。

「そして、バイオハザードが発生した洋館にいた職員は全滅した。それから2ヶ月後、アークレイ山地の民家で住人が何者かに食い殺される猟奇事件が起きた。事態を重く見たここラクーン警察は、事件解決のため特殊部隊STARSの介入を決定した」

俺は目を閉じて喋り続けた。

「そんな中、マーカスを殺害した後、アンブレラの優秀な幹部になったウェスカーは、アンブレラの推薦によりSTARS総隊長に任命された。そこで奴は考えたんだ。アンブレラが開発した生物兵器を精励揃いのSTARSメンバーと戦わせることで、有力な戦闘データを得ることができるのではないかと……」

俺は静かに喋り続けた。クレアやシェリーは黙って俺の言葉を聞いていた。

「そして運命の日、まず先にブラヴォーチームが派遣された。しかしアークレイの森林は既にゾンビや化け物などが徘徊する危険地帯になっていて、隊員たちは命からがら洋館に辿りついた。だがその洋館も生物兵器だらけの危険な建物と化して隊員の1人であるレベッカ・チェンバースを除いて全滅した」

「ぜ、全滅……」

クレアは絶句した。

「ブラヴォーチームが消息を絶ったことを不審に思ったラクーン警察は、残るアルファチームを捜査に向かわせることに決めた。しかしアークレイに向かった彼らも化け物に襲われ、洋館に逃げ込むしかなかった。だがクレア、君の兄であるクリス・レッドフィールドを始めとする隊員達の活躍によって洋館は爆破され、ウェスカーの野望は阻止された」




レッグバッグに入っているサムライエッジに手を掛けながら、俺は静かにシェリーを見た。

彼女の身体中から尋常ではない量の汗が流れ震えていた。

「……クレア、シェリーから離れろ」

俺は叫ぶとクレアが顔をしかめた。

「どうして?」

「いいから離れろ!」

俺はサムライエッジを素早く構え、銃口をシェリーの頭部に向けた。

クレアはソファーから立ち上がり俺の横に来た。

すると、ソファーに座っていたシェリーがゆっくりと立ち上がり、顔を上げた。

「そ、そんな…………」

シェリーの顔を見た途端、クレアの顔色が変わった。

先程まで普通の人間だったはずのシェリーの顔は、青色に変色し白目を向いていた。

そう、シェリーはゾンビと化していた。

「クレア、俺の後ろにいろ。目を閉じていたほうがいい」

俺は銃に装着されているスコープを覗きシェリーの頭に照準を定めた。

シェリーはこちらの方へゆっくりと歩いてきた。

俺は迷うことなく撃った。

バンっ!

シェリーが倒れる音がしてクレアが目を開けた。

俺は倒れたシェリーの頭部にもう1発の銃弾を浴びせた。

「……正志、どういうこと!?」

クレアが俺のジャケットの襟を手で掴み怒鳴った。

「さっきシェリーに聞いただろ?ゾンビに噛まれてどれくらい経ったか、風邪のような症状はないかってな」

俺はクレアの手を掴み返しゆっくりと降ろした。

「それが?」

「Tウイルスに感染すると、さっき彼女に聞いたような症状が現れるのさ。抗体を持った人間だったら怪我だけで済むって言ったろ」

「あ…」

クレアが何かを思い出したような表情を浮かべた。

「シェリーの答えを聞いた時、俺は彼女がウイルスに感染しているとすぐに気づいた。しかも子どもなら、感染速度はとてつもなく速い。だから、アンブレラの話をすることで時間稼ぎをして、ゾンビ化したところでトドメを刺したんだ」

俺は苦しそうに話した。実際シェリーがゾンビ化するなど、自分でも信じられなかった。なぜならゲームで彼女は生存し、ラクーンシティから脱出するからだ。

(やっぱり何かが原因で、俺が知っている“ゲームの結末”と違っているみたいだな)

俺はシェリーの遺体に近づき、首に掛けてあるペンダントを引きちぎった。

ペンダントを開くと小さいガラス瓶が綺麗に填まっており、中には変な色の液体が入っていた。

「これがウイルスなの?」

クレアがガラス瓶を見ながら言った。

「T+Gウイルスだ。こんなもの、こうしてやる………!」

俺はペンダントを空中に放り投げ、サムライエッジを使って撃ち抜いた。

銃弾がガラス瓶を貫通しウイルスが飛び散る。

俺は倒れているシェリーの遺体を抱き抱え、ソファーに寝せた。

大きく見開いている目を手でゆっくりと閉じ、近くにあった毛布を遺体全体に掛けた。

「安らかに眠ってくれ」

俺は一言そう呟き、両手を合わせ目を閉じた。俺を様子を見ていたクレアも、手を合わせ目を閉じた。

「正志、さっきのアンブレラの話。続きを聞かせてくれない?」

1分ほど黙祷しているとクレアが言った。

「え?」

俺が振り返るとクレアは涙を流していた。

「クレア………」

ジャケットのポケットからハンカチを取り出してクレアの涙を拭き、俺は彼女に言った。

「君の兄さんたちの活躍によって洋館は爆破され、ウェスカーの野望は阻止された。クリス達生存者は洋館事件の真相を署長に伝えたが、ある理由からそれが揉み消されたんだよ」

俺は再び喋り始めた。

「どうして?」

「ラクーン警察署長のブライアン・アイアンズは、数年前からアンブレラと手を組んで事件などの揉み消しをする代りに、多額の賄賂を受け取っていた。それに、その関係は現在でも続いている」

サムライエッジに弾丸を装填しレッグバッグに戻して続ける。

「ありがとう。これからどうするの?」

クレアがハンカチを俺に返し尋ねる。

「とりあえず先を行こう。生存者を探すんだ」

俺はサムライエッジをクルクルと器用に回しながら言った。

「そうね、そうしましょう」

クレアも頷いて同意する。

毛布を掛けたシェリーの遺体にもう一度黙祷し、俺達は歩き出した。

さっきは通らなかった、もう1つの廊下を歩きその先にある扉を開けた。

扉を開けた先には、広々とした空間があった。

警察署の図書館だけあって、俺が見てきた他の場所よりもかなり広くなっていて、室内の壁が本棚で埋め尽くされていた。

「ねぇ、正志?」

棚に収納されている本を適当に調べていると、クレアが声を掛けた。

「何だ?」

「さっきアンブレラが起こした事件について話してくれたけど、なんであんなに詳しいの?」

クレアが本をパラパラと開きながら俺に聞いた。返答に困った俺はごまかして言った。

「この街から脱出できたら教えるよ。今はまだ……言えない」

(君やシェリーはゲームの登場人物で、君達がどういう結末を迎えるのかはゲームを遊んで知ったなんて……今はまだ、言わないほうがいい)

心の中で俺はそのことを話そうか、正直迷っていた。

「………わかった。じゃあ教えてもらうために、頑張って街から脱出しましょう」

あまり気にしていない様子でクレアは言った。

彼女が兄譲りのマイペースな性格で良かったと、俺は密かに感謝した。

「クレア」

すると、2つある扉のうち、大きな扉が開いて声がした。

俺は声の方へ素早くサムライエッジを向けた。

「誰だ!?」

俺は声の主を見ながら尋ねた。しかし姿を見た瞬間、銃を下ろして尋ねるのをやめた。

その人物は、「R・P・D」という英語文字が印刷されている警察の制服を着ていた。

茶髪の髪に170センチ後半の身長、少し筋肉質の体。

俺はその人物が誰か気づいた。ゲームの『バイオハザード』で、何度もプレイヤーキャラとして使っていたからだ。

「おい、名前は?」

わかっているが俺は尋ねた。すると当たり前の答えが帰ってきた。

「レオン。レオン・S・ケネディだ」
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