第4話 少女との遭遇
作者: 邪神   2012年07月11日(水) 19時33分46秒公開   ID:LsmXA1cmAZk
9月29日 午後20時17分



オフィスを出て廊下の突き当たりに行くとそこには扉があり、その先はロビーになっていた。

扉を蹴りあげ先へ進もうとした俺たちの視界に、突然小さな少女が飛び込んできた。

その姿に俺は見覚えがあった。金髪のショートヘアに、青と白で統一されたある意味わかりやすい服装。

少女は俺とクレアを見た瞬間、驚きの表情を浮かべ逃げるように走り出した。

「おい、待て!」

「待って!1人じゃ危険よ」

俺たちは少女を追って、ロビーから先の薄暗い廊下を進んだ。

廊下の突き当たりにあるドアには、警官たちが打ち付けたと思われる木材が塞いでいる。

追いついたと思った瞬間、少女は扉の下に開いた穴を潜って消えた。

壁横に設置されている道具箱からショットガンの弾を回収し、俺たちは廊下へ引き返した。

「今の女の子は誰かしら?なんで子どもがこんな所に……」

ロビーに戻った瞬間、クレアが口を開いた。

「シェリー・バーキン…アンブレラ社主任研究員のウィリアム・バーキンとアネット・バーキンの娘さ」

俺は子どもの正体を単刀直入に言った。

「知ってるの?」

クレアが俺の顔を見て尋ねた。

「あ…ああ、ちょっとな」

突然尋ねられた俺は動揺しながら答えた。まさかゲームの『バイオ』にあの子どもが登場したから知っているなど、とてもではないが言えない。

「正志っ、うしろ!」

その時、クレアが俺に向かって叫んだ。振り返った俺の目の前にいたのは大群のゾンビだった。5〜7体はいるだろう。


「ちっ、くらえ!」

俺はショットガンをゾンビたちの頭部に向けて撃った。クレアもグレネードランチャーを奴等に向けて撃った。

凄まじい爆発音とともにゾンビは吹き飛ぶ。床を見ると体の形すら残っていなかった。

「ふーっ、危なかった。ありがとうクレア」

ショットガンに弾丸を装填しクレアに礼を言った。

「気にしないで。さっきのお礼よ」

彼女が微笑みながら手を振る。

「クレア、シェリーはある秘密を持っている。後々その秘密を奪うためにアンブレラがクリーチャーをここに投入する。気をつけていこう」

俺はショットガンからサムライエッジに持ち替えながら言った。

「秘密って?」

クレアが聞いてきた。

「首にぶら下げているペンダントにあの子の両親たちが開発した新型T+Gウイルスが隠されてるんだ。それをアンブレラと後…ある人物が狙っている」

(俺が知ってる限りじゃ、ゲームの『2』でシェリーが持ってるのはGウイルスのはずなんだが……)

俺はため息をつきながらサムライエッジに弾丸を装填した。

「ふーん……、まあいいわ。あの子を追いましょう」

先程の塞がれた扉の前まで来た俺たちは少し後ろに下がった。

「1、2、3!」

その掛け声とともに俺たちは扉を蹴破った。

すると、さっき通ってきた彫刻像が3つ置いてある廊下に出た。

そして1階へ戻る階段の前にシェリーがいるのを見つけた。

「おい、危ないぞ!」

「待ちなさいシェリー!」

俺とクレアは走りながら叫んだ。しかし、最初からシェリーとの距離が離れていたこともあり、追いつくのは難しそうだった。

シェリーは俺達を見た瞬間、走りながら階段を降りていった。

「急がないと危険だ!」

俺達は走りながら階段を駆け降り、周りを見渡した。

すると、写真暗室の前でシェリーが3体のゾンビに囲まれているのを見つけた。

「シェリー伏せて!」

クレアが叫ぶとシェリーは身体ごと伏せた。

俺はサムライエッジを構えクレアに言った。

「いいか、あいつらの弱点は頭部だ。そこを撃ち抜けば、生命活動を停止することができる」

「わかったわ」

ブローニングHPを構えたクレアが返事をする。

俺達は一斉に銃をゾンビたちの頭部に向けてトリガーを引いた。

2つの銃からたくさんの弾丸が放たれ、ゾンビの頭部に向かっていく。

全ての弾丸が頭部に命中し、ゾンビたちは倒れた。

俺とクレアは急いでシェリーの元へ駆け寄った。

「大丈夫?」

クレアが手を差し出しシェリーを立ち上がらせた。

「あ、ありがとう……」

俺はサムライエッジに弾丸を装填し、STARSオフィスで見つけたレッグバッグに収めた。

「大丈夫、私達はゾンビじゃないから。信じて」

クレアがシェリーの頭を撫でながら言った。

「ここは危険だから俺達と一緒に行こう」

俺は笑顔を作り言った。シェリーの身体は震えており、まだ怯えていることがわかる。

「俺とこのお姉さんは、君のお父さんやお母さんみたいなアンブレラの研究員じゃないよ」

俺の言葉を信じたのか、シェリーは顔を上げた。

「……本当?」

ぼそっと尋ねたシェリーに俺達は頷いた。

「本当よ。私はクレア・レッドフィールド、クレアって呼んで」

「俺は西山正志、呼び方は君の好きなようにすればいい」

俺達が自己紹介すると、シェリーは顔を上げて少し笑って言った。

「シェリー・バーキン……。よろしくお願いします、クレアに正志」

クレアが微笑んで返事を返した。

「よろしくね」

クレアに軽く足を踏まれた俺も慌てて挨拶する。

「よ、よろしくな」

「足踏むなよ、クレア。ちょっと痛かったぞ」

俺は少し怒ったような口調で言った。

「男ならそんなこといちいち言わないの」

クレアは微笑みながらそう返した。

そんな中、シェリーが腕を押さえていた。俺が見た限りでは痛がっているように思える。

「もしかして、ゾンビに噛まれたのか?」

俺はしゃがんで彼女の腕を見ながら尋ねた。

「うん……」

シェリーは小声で答えた。

「……正志?」

クレアが心配した様子で言った。

「奴等に噛まれたら、ほとんどの人間がゾンビ化してしまう。Tウイルスに感染してしまうのが原因でな」

ゲームで得た知識を頭から引っ張り出し、俺はクレアに耳打ちした。

「本当なの?」

クレアが取り乱し始めた。

「ああ。だが遺伝子の相性のせいで、10人に1人の割合でウイルスに対して完全な抗体を持った人間が存在する。この子がその抗体を持った人間であれば、怪我を負っただけで助かるが」

「その抗体が無い場合、ゾンビ化するまでの時間は?」

クレアが何かを決意したような表情を見せた。

「人によってそれぞれ違う。噛まれてすぐにゾンビ化する人間もいれば、数日後にそうなる人間もいる」

「……どうやったら、助かるの?」

シェリーが小声で再び俺に聞いた。

「ワクチンを打てばゾンビ化は防ぐことはできるよ。でもそれが進行しすぎていたら、効果が現れずそのままゾンビになってしまうこともある」

俺はできるだけ優しい口調で答えた。

「そんな……」

シェリーは言葉を失った。無理もない。まだ12歳の子どもが、こんなに辛い現実を受け入れることなど、できるわけがない。

「噛まれてから、どれくらい時間が経ったかな?」

俺はシェリーに向かって尋ねた。

「3時間…ぐらい」

俺はジャケットの胸ポケットからグリーンハーブを取り出しシェリーの腕の傷に湿布した。

「怪我の手当てをするからじっとしてて」

胸ポケットから包帯を取り出し彼女の腕に巻いた。

「……よし、これで大丈夫」

俺はシェリーを抱き抱えて、先程通ってきた2階ロビーまで戻った。

俺はクレアにあることを話した。

「とりあえず様子を見よう。もしそうなったら、クレアと俺の手でこの子にトドメを刺すしか……」

「そ…そんな!」

クレアは俺の言葉に絶句した。

「……そうなったとして、方法は?」

「さっきも言ったように頭部を撃つか、頭部を刃物類で刺すといったのが有効だ」

俺はシェリーを見ながら答えた。

「ワクチンを打てば、ゾンビ化は防げるのよね?」

「ああ。だがここは警察署だ。ワクチンなんてないぞ」

シェリーは近くにあった椅子に座り込んで俺達の話を静かに聞いていた。

「シェリー、身体が熱っぽくはないか?頭が痛いとか…」

あることを予想していた俺は床にしゃがんでシェリーに問い掛けた。

「…うん、身体中が少し暑くてキツい。それにちょっとかゆい」

(……やっぱりな、間違いない。シェリーはウイルスに…………)

「何で熱のことなんて聞いたの?」

クレアが俺に聞いた。

「……いや、気紛れの質問さ」

俺はシェリーの頭を優しく撫でながら答えた。

「クレア、君は不思議に思わないか?なぜラクーンシティが、ゾンビやさっきみたいな赤い化け物だらけの街になったのか」

俺はクレアの目を見た。彼女の目は困惑と悲しみが入り交じった感じだった。

「わからないわよ」

クレアは即答した。

俺はゲームで覚えた知識を彼女に話すか迷った。でも話すことに決めた。アンブレラが何をしたか…その真実を知ってもらいたいと思ったからだ。

俺はクレアに「長くなるから」と言って、彼女をソファーに座らせ、静かに語り始めた……。
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