第2話 “彼女”との出会い
作者: 邪神   2012年07月11日(水) 19時32分03秒公開   ID:LsmXA1cmAZk
9月29日 午後19時05分



廊下に出た正志は、悲鳴が聞こえる場所へ走った。

左の壁には一定の間隔をおいていくつかの窓が並び、廊下の途中には山積みのダンボールが置かれている。

天井から放たれる明るい電気の光に照らされながら、正志は急ぐ。

突き当たりの壁に黄緑色のランプが灯る操作盤のようなものがあり、廊下はそこで直角に右折していた。

角を曲がると、足下に転がる不可解な死体が正志の視界に入り込んだ。

そして、死体のすぐ横の壁にもたれかかっている、体から血を流している若い女性がいるのもすぐにわかった。

正志は転がった死体を調べた。服装からラクーン警察の警官だとわかる。ポケットを調べると、10発のハンドガンの弾を見つけポーチに入れた。

(“彼女”は大丈夫か…?)

弾丸を回収した正志は、壁にもたれかかっている女性に近づいた。その女性は茶髪の長い髪を後ろで結い、ピンク色のジャケットを着ており、左胸にナイフケースを装着していた。

(やっぱり、“君”だったか)

正志は女性の傷を見た。腹部と左足のふくらはぎを大きな爪か刃物かで軽く斬り付けた痕があり、血が流れていた。

(この傷、やっぱりあのクリーチャーにやられたんだな)

先程入手した救急スプレーと、警察署に逃げ込む途中に手に入れたグリーンハーブを女性の傷口に湿布し吹き掛け、西側オフィスで見つけた包帯を巻いた。

そして先程の死体を確認する。死体がどんな人物かはわからなかった。なぜなら、死体の首から先はなかったからである。

その時、突然妙な音が聞こえてきた。

ピチャ……ピチャ……。

正志は死体から3メートルほど離れた先に天井から滴り落ちる血が作り出した血溜まりに近付いた。

ハアアアアァァァァ……。

不気味な叫び声のような音に、正志の視線は自然にゆっくりと、天井に向かう。

正志の予想していた通りの怪物が姿を現した。

口から長い舌を伸し、粘り気のある唾液が滴り落ちる。

(やっぱりいやがったな、リッカー!)

カメレオンのような長い舌、異常に大きい爪、むき出しの筋肉組織及び脳。ありとあらゆる筋肉がむき出しなため、全身が赤みを帯びていた。

長い爪を生かして天井に張りついていたリッカーは突然地面に落ち、飛び掛かって来た。

正志はショットガンを構え襲いかかるリッカーに向けて撃った。

ダンっ、ダンっ!

1発目では怯んだだけであったが、2発目で完全に絶命した。

失った2発分の弾丸を装填し、正志は女性を抱き上げ先程の来客用のソファーがあった場所に運んだ。

(意外に重いんだな、確か52キロだっけ?)

扉を蹴りあげ来客用のソファーに彼女を寝かした。

状態からして大丈夫なようだ。顔色も良く、リッカーに負わされた傷も正志の治療のおかげもあって治りかけている。

正志はソファーにゆっくりと座りあることを考え始めた。

(なんで俺はこんな場所にいるんだ?ラクーンシティはゲームの『バイオハザード』の中でしか登場しない架空の街のはずなのに、それが今俺がいる世界には存在している…一体なぜだ!?)



正志はふと財布に入れている大学の学生証を見た。そして唖然とした。

「ラクーン大学学生証?どういうことだ!?」

正志が見た学生証は、普段彼が持ち歩きしている物とは全然違っていた。

正志が通っている大学の学校名は「法陵大学」なのだが、それが“ラクーン大学”に変わっていたのだ。

(何が起こってるんだ?)

正志は学生証を直し、ソファーで眠っている女性を見た。

男前の兄がいるだけはあり、綺麗な顔立ちをしている。確か女子大生のはずなので、大学ではさぞかし人気があるのだと正志は思った。

(……まだ起きないのか?もういいや、面倒くさい。さっさと起こそう)

正志は声を掛けながら女性を揺さぶった。

「おーい、起きろ!」

「……う、う。ここ……は?」

すると目が開いた。正志が答える。

「ラクーン警察署だ。君、さっきそこの廊下で倒れてたんだ。覚えてるか?」

女性は正志の顔を見ると頷いて答えた。

「ええ、覚えてる。あの爪の長い真っ赤な化け物に襲われて、それから意識を失って……」

「傷は痛むか?」

女性はソファーから起き上がり、笑顔の表情を見せた。

「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう。…あれ?この処置はあなたがしてくれたの?」

正志は顔を赤くさせ呟いた。

「ああ、俺がした。この部屋に入った途端、悲鳴が聞こえてきたんで急いで来たら君が倒れてたからさ……」

正志の焦った言葉に女性はクスッと笑う。

「助けてくれてありがとう。自己紹介がまだよね?私はクレア・レッドフィールド、クレアって呼んで」

正志は慌てて自身の名前を名乗った。

「西山正志だ。正志って呼んでくれ」

「あなたは日本人?」

クレアが尋ねた。確かにアメリカの街に日本人は珍しいのかもしれない。

「ああ、日本人のしがない大学生さ」

正志は肩を軽く上げながら言った。

「そうなの。よろしくね、正志」

クレアは特に気にしない明るい声で呟いた。

「よろしく、クレア。一緒に行動しよう、君一人じゃ危険だ」

正志が手を差し出して言うと、クレアも真剣な表情を浮かべ手を差し返し頷いた。

「そうね、そうしましょう」

正志はほっとした。一応これで協力者と出会うことができたからである。

「とりあえず行くことができるエリアまで行って、生存者を探しましょう」

クレアが言った。正志は頷いた。

「ああ、そうだな。気をつけて行こう!」

正志とクレアは来客用の受付室を出て、先程リッカーと戦った廊下を通り過ぎ、次のエリアへ進む扉を開けた。

「あなたはどうしてここへ来たの?」

廊下を歩いているとクレアが尋ねた。

「買い物に行こうとしたらゾンビに襲われたんだ。それでラクーン市庁からの緊急放送を聞いて、急いでここに避難したってわけさ」

(まさか、ゲームの登場人物や舞台が本当に存在している世界に放り込まれた……なんて言えるわけないよな)

正志は冷や汗をかきながら答えた。

「じゃあ正志はラクーン大学の学生なの?」

クレアがまた尋ねたので、正志は財布から学生証を取り出して答えた。

「ああ、そうだ。…ほら、これが学生証さ」

「ラクーン市立大学英学部4回生…西山正志。本当ね」

クレアが学生証を返して言った。

「本当だろ?」

財布に学生証を直して言った。

「うん」

クレアが返事を返した時だった。

「クレアっ、伏せろ!」

正志がショットガンを構え叫んだ。伏せたクレアが後ろを振り返ると、そこには2体のゾンビがいた。

バンっ!

正志はゾンビ2体の頭部にショットガンを向けて撃ち抜いた。

「ブワーッ!」

ゾンビの頭部が吹き飛び、クレアが立ち上がった。

「大丈夫か?」

正志が声を掛けるとクレアは頷きながら答えた。

「なんとか……。ありがとう正志、また助けられてしまったわね」

「気にするな。さあ、先へ急ごう」

二人は目の前にあった大きな階段を上った。

階段を上りながら正志はある提案が浮かんだ。

(確か2階のSTARSオフィスに銃器の弾薬が残ってたな。俺用のとクレア用のを頂こう)

「2階に特殊部隊STARSのオフィスがある。そこで武器の弾丸などを集めないか?」

正志の提案にクレアは同意した。

「そうね。私今ハンドガンとボウガンしか持ってないし、このままじゃゾンビたちを相手には力不足だし」

美術館時代からの名残である3体の彫刻像が置かれてある廊下を過ぎ、扉を蹴りあげSTARSのオフィスが存在する廊下に出た。

(知ってるけど、この街に来た目的は一応聞いておこう)

「君はなんでラクーンシティに来たんだ?」

廊下を歩きながら正志が尋ねた。

「消息を絶った兄を探すためよ」

クレアは淡々とした表情で答えた。

「兄さんの名前は?」

正志が念を押して聞いた。

「クリス、クリス・レッドフィールドよ」

クレアの返答に満足した正志は目的の場所の扉を開けた。

「……そうか。着いたぞ、STARSオフィスだ」
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