ENDLESS(WILD ARMS the Vth Vanguard) | |
作者:
イナエ ノマ
2008年10月29日(水) 20時49分42秒公開
ID:c5Z205GhgwU
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−−楽しかった時間、というものは本当に早く過ぎていくもの。 −−どんなに待ってと叫んでも、どんなに止まってと願っても、時の流れが止まることはない。絶対に・・・・・・ アヴリルはふと空を見上げた。 果てしなく続く青空に白や灰色をした無数の雲が、風に流されてゆっくりと漂っている。 小さいモノ、大きいモノ・・・形は様々だが皆ふわふわと留まることを知らない。 「わたくしにはあとどのくらいの時間があるのでしょうか・・・」 ぽつりとアヴリルが呟いた声も風に乗ってどこかへと流れていく。小さな声は木霊することもなく消えた。 神々の砦・・・アヴリルにとって、いやディーンやレベッカにとっても、此処は始まりの場所。 ゴーレムに抱かれて此処へ落ちてきたときからアヴリルの時間は回り出した・・・悲しい呪縛が、再び繰り返されようとしていた。 なくした記憶を取り戻してからもアヴリルは笑顔で居続けた。誰にも心配して欲しくなかったから、きっと仲間たちが知ってしまったら行くな、と止めるだろうから。 これは罪なのだ、と自分に言い聞かせてきた。 ・・・自分が過去に犯した罪は、永遠の時間の中で償い続けなければならない、と。 「暗いところへは、もう戻りたくない・・・」 記憶を取り戻してから、アヴリルは何故自分は暗いところが苦手なのかを知った・・・それはコールドスリープをしていたから。永遠とも思われるほどの長い時間、その冷たく暗い箱の中に閉じこめられていたから。だから、目覚め、その時の記憶を全て無くしても身体が拒否していたのだろう。 「約束は尊いもの・・・」 かつて自分がそう言った。 12000年前に戻る前に必ず帰ってくると言ったにもかかわらず、帰らなかった自分はどうなのだろうか? アヴリルは考えていた。 優しく、思いやりがあり、そして何よりもお人好しすぎる仲間達は自分が去った後、一体どれほど悲しんだのだろうか、と。 ・・・きっと、涙を流して悲しんだのだろう。帰ってくることを信じ続けたのだろう。 自分自身も悲しかった。永遠に、罪を償い続け、永遠に仲間と旅をする。・・・そのたびに、この思いを忘れ、笑う。やがて気付き、悲しむ。 ただ、この繰り返し。 どの世界に行っても仲間がいて、アヴリルを大事してくれた。けれど自分は時が満ちるたびに遠い時空の彼方へと消え、その大事な仲間を悲しませる。 この時に感じる罪悪感こそが、罰なのだろうか?自分はどれほどの仲間を傷付けて来たのだろうか? 時よ、どうかもう少しだけ時間を下さい。 時よ、どうかもう少しだけ、時間を止めてください。 アヴリルは願った。その願いが届くことは無いことぐらいは分かっていたけれど・・・ ** 「アヴリル、おはよッ!!」 「おはようございます。レベッカ」 今日は最後の実験棟に挑むというのに、朝のカポブロンコに流れる空気は穏やかなものだった。 既に皆起き出して、武器の手入れをしていたり、身だしなみを整えたりしている。 普段は相当な遅起き坊主のディーンでさえ、誰にも起こされることなくさっさと目覚めてあっちへこっちへと走り回っていた。 「(今日がわたくしにとっての最後の日・・・)」 「どうかした?アヴリル?」 「いいえ、なんでもありませんよ」 アヴリルはいつも通りの笑顔を浮かべた。 ・・・まだ誰にも気付かれてはいけないから。せめて悲しむのは最後だけであって欲しいから。 「そっか、いよいよ今日ね。絶対にTFシステムを止めてやるんだから!!!」 「はい、ヴォルスングの野望は絶対に止めなくてはなりません」 レベッカはいつもと変わらずに明るい笑顔を浮かべている。 「(ライバル兼親友・・・その言葉がわたくしは大好きでしたよ、レベッカ)」 レベッカには陰がない。いつも元気ではきはきしていて素直で思いやりがあった。 ・・・ディーンに想いがなかなか伝えられなくて困っていたけれど。 「(病気の子供を助けようと必死になった姿、とっても格好良かったです)」 病気にかかり苦しんでいた子供をレベッカは必死に助けようとした。結果、その子の命は救われ今ではすっかり元気になっている。 その熱心さがアヴリルは好きだった。 もう会えなくなる時間が来ることを知ってからずっと、アヴリルは過ぎていく時間のひとつひとつ、皆の笑顔や涙のひとつひとつを大切に記憶してきた。 同じ事が繰り返されても、『今』という時間は二度と帰っては来ないから。 ・・・一体今まで何人の仲間達に別れを告げてきたのだろうか? ・・・二度と帰ってこない時間のどれほどの間過ごしてきたのだろうか? 「アヴリル?」 「は、はい、何ですか?」 はっとして顔を上げるとそこには心配そうな顔をしたレベッカがいた。 「大丈夫?さっきから何だか考え事でもしてるみたいだけど・・・」 「大丈夫です・・・今日、全てが終わるんだな、って思っただけですよ」 時間は刻々と迫っている。この笑顔を忘れてしまう瞬間も、この世界から消える瞬間も・・・ 「おーい、レベッカ、アヴリル、何やってるんだよ。もう出発の時間だって」 「ディーン、せっかちすぎよ。もう少しぐらいお話ししていたって良いじゃない」 部屋に入ってきたのはディーンだった。落ち着かないらしく、さっきから里中を走り回っていたのだった。 「何言ってるんだよ?ファルガイアの危機なんだぞ早く行かないと大変じゃないかッ!!」 「ディーンは相変わらず、せっかちですね」 「アヴリルまでそんなこと言わなくても良いじゃないか・・・2人揃って何なんだよ、一体?」 「親友同士、ゆっくり喋っていたいものなのよ」 レベッカがアヴリルと目配せをして笑った。ディーンは『?』という顔をして2人を見ている。 「(ディーン、わたくしはあなたのその鈍感なところが大好きでしたよ)」 ディーンはいつも考えが一方通行だ。曲がることを知らない。 でも、だからこそある正義感や我慢強さ、そして優しさと純粋に何でも信じることが出来るところが彼の長所だった。・・・その鈍感さ故にレベッカやアヴリルの気持ちに全く気付いていなかったのだけれど。 「(あなたの言葉はとっても素敵なものです)」 『諦めない限り、ヒトはなんでもできるッ!』・・・それがディーンが好きな言葉。 いつも無茶苦茶で、でも本当にどんな困難もやってのけてきた。 チャックを助けた時、ナイトバーンを倒した時、他にも絶対に出来ないと言われたことも全て越えてきたからこそ、今がある。その純粋な心がアヴリルは好きだった。 「まあ、いいわ、行きましょ」 「はい」 後少しで大好きな仲間に別れを告げなければならないことが悲しく、アヴリルは心から笑顔になることが出来なかった。 作った偽りの微笑みを顔に貼り付けて、アヴリルはレベッカ、ディーンと一緒に部屋を出ていった。 ** 「ここの実験棟のシステムさえ停止させれば、終わりなんだね?」 実験棟に足を踏み入れ、チャックがそう口にした。流石に出発してからは穏やかな会話など出来なかった。 アヴリルはずっと仲間のことを想い続けていた。忘れないように、コールドスリープをしても消えないように、と・・・結果的に記憶は全て消えてしまうことは分かっているのだけれど。 「はい、そうです。ここのシステムさえ止めればいいはずです、はい」 キャロルの口調も少々堅い。いつもなら少女らしい無邪気な笑顔を見せてくれるのだが、やはりここに来てまでそんなことはしていられないようだ。 「(あなたのその我慢強さが大好きでしたよ。キャロル)」 キャロルは出会ったとき、すごく人に対して怯えていた・・・幼少時に受けた虐待の所為だという。でも、一緒に旅をするうちに、徐々に心を開き、無邪気な笑顔を見せてくれるようになった。そして歳不相応なほど博識で、我慢強い。 「(あなたの決心は素晴らしいものです)」 人一倍人見知りだったキャロルは以前まで、教授、と呼ばれる人物と旅をしていた。 キャロルはその人物と再会を果たしたのだが、足手まといになるから、研究の妨げになってしまうから、という理由で自ら教授と距離を置くことを選んだ。その選択はきっと彼女自身にとっても辛いことだっただろう。それでも良いのだと言い張った強いキャロルがアヴリルは大好きだった。・・・結局は寂しくて泣き出してしまったのだけれど。 「最上階には恐らく奴がいるだろうな」 「ああ、待ってろよ、ヴォルスングッ!!!」 ディーンが塔の奥に向かって叫んだ。その声は広いフロアの中で木霊していった。 塔の最上階へ近づいてきた頃、全員の間に走る空気はやはり、張りつめたものだった。 ・・・誰も笑わないし、話さない。 「ねえ、もっと和んでいこうよ。あんまり張りつめてると良いことないって」 突然、チャックがにかっと笑ってそう言った。多分彼なりにこの雰囲気をどうにかしようとしているのだろう。 「あなたは相変わらず空気が読めないのね・・・この状況で和めると思ってるの?チャック」 「だって、みんなすっごく怖い顔してるからさ・・・」 「(チャック、あなたの雰囲気が大好きでしたよ)」 いつも逃げ腰で、気が小さくて、でも勇気があってしっかりと困難に立ち向かおうとする・・・空気が読めないという欠点はあるけれど。 「(あなたの勇気は誰にも負けません)」 自分と一緒にいてはきっと災難が降りかかってしまうから、と好きだった幼なじみと距離を置いたチャック。でも、そうではないことにちゃんと気付き、側にいて守ることの強さや勇気に目覚めた。誰かを守ることは難しいこと、だって、自分も無事でいなくちゃいけないから、彼はそう言った。・・・もう、弱虫なチャックの姿は影も形もない。 「まあまあレベッカ、そんなにチャックを攻めないでください。確かにみんな怖い顔をしていますよ。もう少し、笑いましょうよ」 「そうは言ってもね・・・」 「いいじゃないか、チャックとアヴリルの言う通りだ。もう少し和んで行かなくちゃあ、肝心な所で駄目になる」 そう言ったグレッグは優しい微笑みを浮かべている。よく見ればその隣にいるディーンも、キャロルもにっこり笑っていた。 「レベッカ、そんなにぴりぴりすんじゃねえよ。もう少し気を抜け」 「(いつもはぶっきらぼうで、でも本当は誰よりも仲間思いで優しい。グレッグ、わたくしはあなたのそんなところが大好きですよ)」 始めに出会ったときは少し怖かったけれど、今では何だかお父さんのような存在になっている。未だにぶっきらぼうなところはあるし、あまり笑ってはくれないのだけれど。 「(本当のやるべき事に気が付いたあなたは誰よりも強いですよ)」 カルティケヤという男に妻と息子を殺されたために、復讐に心を囚われ、彼の中の時間が止まっていた。でも、本当にすべき事は殺した男に復讐をすることなんかじゃないということを知り、変わった。 やがて、カルティケヤに勝負を挑み勝利したのだが、その事に対して溺れることなく今の時を迎えている。復讐をしたところで妻も息子も帰ってくるわけではないと気が付いたのだ。 ・・・旅をして、ディーンもレベッカもグレッグもキャロルもチャックも変わった。皆強くなったのだ。沢山の悲しみと絶望と、幸せと希望に出会ったおかげで。 アヴリルは考える。自分はどうなのだろうと。自分も変わったのだろうかと。 何度も何度も同じ事を繰り返して果たして自分は変わったのか。 「・・・あの、レベッカ」 「何?どうかしたの?」 「わたくしは旅を始めてから、どこか変わったのでしょうか?」 へ?とレベッカが聞き返してくる。 「何言ってるのアヴリル。そりゃやっぱり変わったよ。なんか、強くなったと思う。それにさ、ほらグレッグに言った言葉があったじゃない『復讐は何のためにするのですか?』って。あの言葉でアタシ、ハッとさせられたよ。グレッグだけじゃない、ディーンもキャロルもチャックも、アタシだって全部アヴリルの言葉で変わったんだと思う。・・・アヴリルはさ、自分が強くなっただけじゃなくてアタシ達にまで強さを分けてくれたんだよ」 「わたくしの言葉で・・・」 レベッカはにっこりと笑っている。当たり前のこと、という顔をして。 「みんなが、変わった・・・?」 「そう、アヴリルのおかげ」 涙が溢れてきそうだった。レベッカの言葉が嬉しくて、もうじき別れの時が来るのが悲しくて・・・ アヴリルは仲間の顔を見回した。 緊張こそしているけれど、自信のある決意の籠もった表情をしているディーン。 その隣を歩き、帽子で顔が隠れているが優しく微笑んでいるグレッグ。 小さいながらも、歩幅を合わせて歩き無邪気な笑顔を浮かべているキャロル。 ⇒To Be Continued... |
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