第25話 思わぬ協力者と鬼武者変身 | |
作者:
邪神
2012年09月10日(月) 15時34分55秒公開
ID:o.caVtWgXPw
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9月30日 午前1時7分 頭に暖かい何かを感じ、正志はゆっくりと目を覚ました。 正志の目に映ったのは、ウェスカーと戦ったあの競技場のような場所だった。 体が激しく痛み、少しでも動くたびに激痛が走る。ウェスカーとの戦いで負傷したためだろう。 「ぐあああああっ!」 あまりの激痛に正志は悲鳴をあげた。 「あまり動かないで、傷が開くわよ」 低い女性の声が聞こえた。 「え、エ…イダ……?」 正志に膝枕をしていたのはエイダ・ウォンだった。 正志は自分の体を見た。上半身には包帯が巻かれている。重い傷だったのだろう、包帯は血まみれになっていた。 「なぜ俺を助けた?お前にとって俺は危険分子のはずだろ」 正志は当然の疑問を口にした。『バイオハザード』に関することならあらゆることを熟知している正志を、エイダが生かしておくわけがないからだ。 「逆よ。あなたこそ、私とエドワード…いや、アメリカ政府にとって必要な人間」 エイダが少し笑顔を見せながら、包帯を巻きなおした。 「どういうことだ?」 正志はゆっくりと尋ねた。 「私とエドワードはアメリカ政府のエージェント。ラクーンシティで起きた一連の事件を調査するために、この街を訪れていたのよ」 包帯を巻き終えたエイダはそう言うと、防弾防刃ジャケットを正志に着させた。 (アメリカ政府のエージェントだと!?バカな、エイダはスパイのはずじゃ……。世界の崩壊が加速しているから、設定も変わり始めているのか?) 正志は心の中で慌てていた。自分が知っているエイダと今自分の目の前にいるエイダの姿が一致しないからだ。 「アメリカ政府は一連の事件の手がかりを知る人物を保護せよと指令を出してきた。私とエドワードは調査をしながら、保護の対象になる人物を探し続けていたの」 エイダが言った。 「なぜ俺だ?俺はラクーン大学に通うしがない大学生だぞ」 正志が言うと、エイダはある物を取り出して彼に見せた。 「あなたが気絶している間に色々と調べさせてもらったわ」 エイダは正志の財布とiPhoneを正志に見せながら言った。 (調べられたのか……) 正志は絶句した。財布はともかく、iPhoneまで調べられたとなると、正志の正体も気づかれた可能性が高いからだ。 「あなた、結婚しているのね?」 エイダが聞くと、正志は渋々頷いた。 「なんで仲間には結婚していることを隠しているの?」 「俺の家庭は色々と複雑でね、触れられたくないんだ。いくら仲間でも話すつもりはない」 正志は冷徹な口調で答える。 16歳の時に養父の翔一を亡くした正志は、彼を失った悲しみから廃人のような状態に陥っていた養母の樹里を立ち直らせたい一心で、彼女と肉体関係を結んだ。その後、正志の献身的な支えで立ち直った樹里だったが、妊娠が発覚。息子の翔を出産後、正志と樹里は結婚するまで事実婚の状態だった。正志が実の両親と再会したことで失われた記憶を取り戻した後、あらためて西山家の人間として生きることを決意し、その証として樹里と結婚した。 義理とはいえ母親と肉体関係を持ってしまったうえに子どもが誕生し、結婚までしている。この複雑な家庭環境を他人に知られたくない正志は、家族の話題に関しては一言も口にしない。大学の同級生を一度も家に呼んだこともない。近所の住人とも交流はしているが、深く関わられることを恐れて家族の話題に関してはわざと避けている。 「そう。じゃあ、質問を変えるわ」 エイダが言った。 「なんだ?答えられることなら答えるが……」 正志はうっかり何かを口走らないように、痛みに耐えながら呟いた。 「あなたはアンブレラの秘密を知っているのね?」 エイダが言うと正志は頷いた。 「じゃあ、私とエドワードに協力してもらえない?これはアメリカ政府としての要請でもあるの」 エイダが真剣な表情を浮かべて告げた。ゲームの中のエイダしか知らない正志は、彼女の言葉に戸惑うしかなかった。 「考えさせてくれ。今は返答する気にはなれない」 正志はゆっくりと立ち上がりながら言った。 「そう。でも、良いお返事待ってるわ。これ返すわね」 エイダが財布とiPhoneを正志に渡しながら言った。 体の痛みは少しずつ引いてきてはいるが、完全に治まっていない。痛みを堪えながら正志は少しずつ歩き出した。 「無理してはダメよ。私もついて行くわ」 エイダが正志の右腕を掴んで言った。 「勝手にしろ」 正志はサムライエッジに弾丸を装填し、ライトの電源をONにした。 ウェスカーが放った電撃のせいだろう。競技場のような場所に備えつけてあった電球は粉々に破壊されていた。辺りは真っ暗だ。 正志とエイダが持っているライトの光だけが、闇を照らす道具になる。 「ねえ、1つ聞いてもいいかしら」 エイダが突然口を開いた。 「なんだ?」 正志はぶっきらぼうに答える。 「あなたのこと、なんて呼んだらいいの?」 エイダが言った。 「お前の好きなように呼べばいい」 そう答えた瞬間、正志の頭にノイズが走った。 正志は目を閉じた。 正志の目に映ったのは何者かの視線だった。下水道を猛スピードで走っているのが確認できる。 (これは『SIREN』の登場人物達が使う視界ジャック!なぜ『バイオハザード』の並行世界で、しかも関係ない俺が使えるんだ?) 自分が幻視を使えることに驚きながらも、正志はそのまま意識を集中させた。 「どうしたの?」 エイダが問いかけるが、正志は無視して幻視を続けた。 すると正志の目に映ったのは、遠くから見た2人の何者かの背中だった。 正志は咄嗟にエイダを抱きしめ、横に避けた。 凄まじい衝撃音が鳴り響き、下水道の壁が粉々に破壊される。 「何なの!?」 (やはり敵か!) 正志はサムライエッジを構えた。 煙の中から姿を現したのは、紫色のコートを着こんだ2mの怪物だった。 「ニシヤマタダシ、ミツケタゾ!」 怪物が正志を見ながら呟いた。 「なんだ、こいつ!?」 正志は怪物を見ながら言った。見た感じでは『バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ』に登場するタイラントをベースにした敵・イワンに似ているが、何かが違う。正志はそう直感した。 目の前の敵から凄まじい威圧感を感じ、正志は怯んだ。 正志は敵に向かってサムライエッジを何発も連射した。 しかし、全て高速移動で避けられてしまった。 「何!?」 あまりの速さに正志は絶句する。 「速い!」 エイダもスプリングフィールドXDを構え、敵に撃ち放つ。 「ムダダ!ドウアガイテモ、ワタシニハカテマセンヨ」 敵は流暢に喋りながら、銃撃を避けていく。 「エイダ、俺から離れるな!」 正志が言うとエイダは頷いた。 正志はジャンプして回転蹴りを放った。しかし、足をつかまれて投げ飛ばされてしまう。 「ぐはっ!」 痛みを感じた正志は悲鳴を上げる。 エイダがグレネードランチャーを取り出し、敵に照準を定めた。 「正志、離れて!」 「わ、わかった……!」 エイダが言うと、正志は痛みを堪えながら横に回転して避けた。 「これでも味わいなさい!」 エイダが照準を定めてグレネードランチャーを撃った。 弾丸は敵に向かっていく。 「ムダダトイッタハズデスヨ」 敵はそう言うとランチャー弾を掴み後ろに投げつけた。 ランチャー弾は壁にぶつかり、意味もなく爆発した。 「なんて奴だ!」 正志はサムライエッジを投げ捨て、マインスロアーを構えた。 「カンナサマガオマエヲオマチダ!イッショニキテモラウゾ」 敵が凄んだ口調で叫ぶ。 「化け物と一緒にランデヴーなんかごめんだな、これでもくらいやがれ!」 正志はマインスロアーの照準を敵に向けて、引き金を引いた。 (いくら避けれても、マインスロアーの弾丸は追尾式だ。どこまでも貴様を追うぞ) 正志は少しだけ勝ち誇った表情を浮かべた。 「オロカナオトコダナ。ナゼカンナサマハコンナヤツヲ……」 敵はマインスロアーの弾丸を避けず再び掴み取り、壁に投げつけた。 弾丸は意味もなく壁にぶつかり爆発する。 「これでも無理なのか!?どうしたら倒せる?」 正志はそう言いながらエイダの元に駆け寄り、彼女を庇った。 「正志!?」 「逃げろ!あいつの目的は俺だ。お前に危害を加えさせるわけにはいかない」 エイダを出口の所に追いやり、正志は敵を睨みつけた。 「1人でどうする気!?」 「いいから早く行け!」 正志はエイダを出口に追い出し、扉を閉めた。 「正志!!」 エイダは力ずくで扉を開けようとしたが、女1人の力だけでは開かなかった。 「俺1人で奴を倒す。お前は早く逃げろ!」 正志が叫んだ。エイダは扉の前でただ立っていることしかできない。どうしようもなかった。 正志が敵と対峙し、エイダが扉の前で立ち尽くしていた時とほぼ同時刻。1人の少女が正志がいる競技場のような場所の影に突如現れた。 黒髪のポニーテールに青色の瞳、長身のスレンダーな体格のその少女は正志を見つめている。その容姿はなぜか、正志とクレアによく似ていた。 「詩織様の指示で様子を見に来たのはいいけど、苦戦しているみたいね。あの男の人が若い頃の“パパ”。今と変わらずハンサムだわ」 少女は正志を見ながらそう呟くと、懐からある物を取り出し、競技場のような場所の上に駆け上った。 (見つからないようにしないと。あの化け物はともかく、今は“パパ”と顔を合わせるわけにはいかない) 少女は正志と敵に見つからないように注意深く2階の柱の影に隠れると、正志がいる所に向かってそれを投げた。 「これを使って!」 少女は正志にそう叫ぶと、姿を消す準備を始めた。 (ママが言うには、パパは7つのホラーゲームの大いなる力を暴走せずに使いこなせる器と力を限界以上に引き出すことができる素質を持っていたらしいけど、これは本当にそうなのか確かめる実験にすぎない。若いパパ、その“篭手”の力を暴走せずに使いこなせるか、“娘”の私に見せて) 少女は心の中でそう呟くと、姿を消した。 「これを使って!」 目の前の敵をどう倒すか考えていた正志の耳に何者かの声が聞こえた。 ドサっ! そして、何かが正志の前に落ちた。 「誰だ!?」 声が聞こえた方向に正志が振り向くが、そこには誰もいなかった。 「これは……」 正志が何かが落ちた場所に振り返ると、そこには光り輝くそれが落ちていた。 「鬼の篭手か?」 それは金色に光り輝く、『鬼武者』に登場する鬼の篭手だった。この篭手を身に付けた者は、鬼武者に変身することが可能になる。 (なぜこんな物がここに……。俺に鬼武者に変身しろとでも言いたいのか?だけどこの篭手を装着すると腕に有機的に結合される。それはすなわち化け物になるのと同じことだ。どうする……!?) 正志は迷うが、すぐに振り切った。 (考えている時間はない。俺ができることはただ1つ、こいつを倒すことだ!) 正志は何のためらいもなく鬼の篭手を右腕に装着し、力を込めた。 「頼む!俺に力を……。奴を倒すことができる力をくれ!」 正志がそう叫ぶと同時に篭手の輝きが、彼の体を包み込んだ。 「ナニ!?」 怪物が正志を見て驚愕する。 「でやあっ!」 紫色のオーラが宿り、髪は長い白髪に変化し、目は赤に変色する。体は中心に目のような結晶を持つ禍々しい鎧のような姿に変化する。さらに左腕にはもう1つの鬼の篭手が装着されていた。 正志は自我を保ったまま、真の鬼武者に変身を遂げた。 「これ以上誰も傷つけさせない。貴様は俺が倒す」 正志が怪物に向かってそう言うと、右手に鬼武者真剣を出現させた。 「オニムシャニヘンシンシタトコロデ、ワタシニハカテマセンヨ!」 怪物が真鬼武者に変身した正志を見て余裕の口調で呟く。 怪物は高速移動で正志の目の前に現れ、パンチを繰り出した。 正志はパンチをたやすく鬼武者真剣で弾き返し、そのまま怪物を斬り裂いた。弾き一閃を決めたのだ。 「グアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ……」 怪物の凄まじい悲鳴が上がる。弾き一閃から連鎖一閃に繋げることで、その体はバラバラに斬り刻まれた。 すかさず正志は、鬼武者真剣に鬼の力を加え地面に突き刺した。 すると、地面から凄まじい威力を持つ鬼のエネルギーが噴き出し、怪物の体を根こそぎ消滅させた。 「ソ…ンナ、バカ…ナ。コノ…ワ…タ…シガ、オニ……ムシ…ャゴ…ト…キニ……ヤラレ…ルト…ハ……」 怪物は自らを嘲笑うかのような断末魔を残し消滅した。 「はぁ…、はぁ……」 残った怪物の魂を目玉のような結晶に封印し、真鬼武者の変身を自らの意思で解除した正志は、極度の疲労を感じてゆっくりとしゃがみこんだ。 (これが鬼の力か。自分の意思で何とかコントロールできたが、今度は同じようにやれる自信はない。暴走しないためにも、この力は慎重に使うようにしないとな) 正志は立ち上がって右腕を見た。 鬼の篭手と正志の腕は結合されていなかった。さらに、自由に取り外すことが可能になっていた。 「これは『新鬼武者』に登場した篭手と同じ物か。化け物にはなりたくないから、これはありがたいぜ」 ⇒To Be Continued... |
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