第12話 サイレントヒルの並行世界
作者: 邪神   2012年07月11日(水) 19時42分32秒公開   ID:LsmXA1cmAZk
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やけに寒く感じる風を体に受けたせいで、俺はゆっくりと目を覚ました。

(ここは……、どこだ?)

上半身だけ体を起こすと、何かが地面に落ちた。空を見上げてみると、真っ暗だった。

暗闇の中で目を細めてよく見ると、そこには懐中電灯とサブマシンガンがあった。

(これは……?)

俺は懐中電灯を手に取り、電源を入れて地面に向けた。サブマシンガンを取って観察すると、「H&K MP5」という英語文字が確認できた。

周りを見ると、「H&K MP5」専用と思われる弾丸が入った箱が大量に落ちていた。

俺は弾丸が入った箱をポーチに入れると、サムライエッジを取り出した。

周りを見渡してみるが、暗くて何も見えない。

ただ一つ言えるのは、ここは俺が最後にいたラクーン警察署とはまったく違う場所だということだ。

ふとジャケットの胸ポケットに違和感を感じた。何かが入れられているようだった。

ポケットから取り出してライトで照らすと、それが赤色の手帳であることがわかった。

『その“赤の書”には、この世界を巡る手がかりが書かれています。書かれていることを生かして、無事に試練を終えて。正志くん』

あの白ワンピースの女の優しい声が、俺の頭に響いた。手帳の最初のページに懐中電灯の光を照らして、それに目を通した。

赤い表紙に金色の文字で「ジョセフ・シュライバー」と書かれている。この手帳の持ち主の名前だろうか。


(あの女の話だと『バイオハザード』以外のホラーゲームの並行世界らしいが…、何のホラーゲームなんだ?)

心の中でそんなことを思いながら俺は赤の書のページを捲った。

『ここは、七つのホラーゲームの1つ「サイレントヒル」の並行世界。異世界と異形のクリーチャーを相手に、絶望の中で戦わなければならない』

ページには荒々しい文字でそう記されていた。それを俺は、息を呑みながらゆっくりと読んだ。

(サイレントヒルか…………。俺は1作目を少しだけしかプレイしたことがないんだが)

俺は懐中電灯を回りに向けた。すると目の前に、大きな建物が見えた。


光に照らされた建物の外観は、真新しくピカピカだった。建てられてから間もないようではあるが、なんだか嫌な空気が漂ってきた。

俺はサムライエッジを取り出し、ライトを照らした。空は漆黒の闇に包まれている。建物自体からも近寄りがたい闇のようなものが漂っている。

――なんだよ、この嫌な感じは……?

ライトの光をあちこちへ回すと看板が目に入った。大きなその看板には、「サイレントヒル市立アルケミラ病院」と書かれていた。

「病院なのか、この建物は。とてもそんな風には見えないけどな……」

俺はアルケミラ病院の玄関へ足を進めた。

――ウイーン……。

(うわっ!!!…なんだ自動ドアか、ビックリしたぜ)

俺の姿を察知したのか、病院正面玄関の自動ドアが開いた。


自動ドアを抜けると待合室が見えた。電灯は点いておらず、中は真っ暗だった。

(嫌な感じだぜ……)

舌打ちをしながら、サムライエッジとライトを構えて先へ進む。

赤い手帳の2ページ目を開くと、『2階のナースステーションで、ノイズの聞こえるラジオを拾え』と書かれていた。

(ラジオ?一体何に使うんだよ……)

心の中でそう思いながらナースステーションに向かうため、俺はエレベーターを探した。

暗いため周りをライトの光で照らしながら探した。

「あっ、あった!」

エレベーターを見つけた俺は、急いで駆け寄ってボタンを押した。

――あれ……?動かないな。

何度もボタンを押してみるが、何の反応もない。

苛立った俺はもう一度辺りにライトを向けた。階段を探すためだ。


すると、受付の左側に階段があるのを見つけた。

俺はゆっくりと階段へ進んだ。

見た限りでは、この病院の窓は全て板で塞がれている。しかも外が夜であり、太陽の光が射さないため中は真っ暗だ。

明かりと言えるのは、今俺が持っているライトの光だけだ。


(夜の病院は苦手なんだよな………それにこんなに暗いし)

階段をゆっくりと進みながら、そんなことを俺は心の中で思った。


ふと脳裏にクレアの顔が浮かんだ。警察署の屋上ではぐれて以降、彼女がどうなったのかがわからず、心配になっているのだ。

(試練とやらをとっとと終えて、バイオの世界に戻らないと…………。これ以上クレアに心配かけたくない)


階段を進んでいくうちに血の匂いが俺の鼻を刺激した。

まるで匂いが建物全体に充満しているようだった。

(バイオの並行世界以上に、この世界は血で溢れているな……。いや、同じか)

階段を昇り終え、俺は2階にたどり着いた。

周囲にライトの光を照らし、ナースステーションがあるかよく探す。

――あ!あれか……?

俺から右に数メートル離れたところに、英語で「ナースステーション」と書かれているのを見つけた。ライトの光を照らしながら、ゆっくりと先へ進んだ。


ステーションへ通じるドアを開ける。すると大量の埃が舞い上がった。

「ゲホゲホ…!」

埃を吸い込んでしまったせいで俺は何回も咳をした。ハンカチを口に当てて、先へ進む。

ナースステーション内部にライトの光を照らし、赤の書に書かれている「ノイズの聞こえるラジオ」を探す。

(おかしいな。建物の外観は建てられてばかりの新品に見えるのに、中は放置されてから何年も経っているような廃墟だ。どうなってやがる……?)


机に置かれていたスカイブルーの1冊の日記を手にとって読んでみた。表紙には持ち主のと思われる、「Lisa」という名前が書かれている。

『今日はマイケル先生にお茶に誘われた。先生の家まで行き、紅茶を一緒に飲んだ。正直誘われたときは嬉しかった。こんなに嬉しいのは本当に久しぶり』

ページには女性らしい綺麗な文字で、そう記されていた。俺は次の日の物を読んだ。

『今日は、マイケル先生とレイクサイド・アミューズメントパークでデートした。私から誘ったのだが、先生はあまり乗り気ではなかったみたい。風船を渡しに来たマスコットキャラクターのロビー君を蹴飛ばして、中の人を怪我させちゃったし。次からは誘う場所を考えよう』

俺はうんざりして次のページを開いた。

『マイケル先生に変な薬を打たれた。体がおかしい。体調があまりすぐれず、食欲もない。どうしたんだろう?』

俺は次のページを開いた。すると、そのページには血で文字が書かれていた。

『勝手に人の日記を盗み見た、いけないあなたのすぐうしろに、私はいますよ』

血と思われる文字でそう書かれていた。俺は真後ろに何かの気配を感じて振り向いた。

――ヒュッ……!

その時、俺の左肩に何かがかすめた。そして、その瞬間鋭い痛みを感じた。

うしろを振り返って俺はライトの光を照らした。

光に照らされたのは、この病院に勤務している看護師だった。

しかし、それは人間ではなかった。

白いはずのナース服には無数の血痕が付着していて、顔は何かの生物に寄生されたような状態になっていた。手にメスを持っている。

その風貌は人間とはほど遠く、むしろ化け物と呼ぶほうが正しいと言える。

左肩に手をやると指先に少し血が付いた。どうやらメスで肩を切られたようだ。

「なんだお前は!?」

俺はサムライエッジを看護師に向けながら聞いた。

「リサ・ガーランド、この病院に勤めていた看護師です」

サムライエッジを構えている俺に、化け物ナースは怒気がかかった声で尋ねた。

「私の日記を勝手に見たあなたこそ誰!?」

「西山正志、日本人だ」

あくまで冷静を装った声で彼女の問いに答えた。


「日本人がこの街に何しに来たんですか!?」

リサが血に濡れたメスを俺に向けて言った。

「ある武器を探しに来ただけだ。それで道に迷って、ここに入り込んじまったって訳さ」

冷や汗が背中に向かって流れる。体の震えは止まらない。

「武器?」

「そうだ」

俺は左手をうしろの机に回した。すると何かが手に当たった。

ゆっくりと“それ”をポーチに収し、俺は彼女に尋ねた。

「この病院はどうなってる?」

リサは俺に背中を向けて囁いた。

「わからない。自宅にいたはずなのに、気がついたら私はここにいた。こんな顔になってしまっていた」

リサの声には悲しみが入り混じっていた。しかし、その異様な顔のせいで表情を窺い知ることはできない。

「他に人はいないのか?」

「私と同様に化け物になってしまった」

リサは首を横に振りながら言った。

「そうか……。俺が探している武器について何か知らないか?」

リサが再び首を横に振る。俺は日記を彼女の手にそっと返した。

「すぐに出て行くよ。日記を勝手に見て悪かった」

俺はそう言って歩き出した。

「気をつけて。今この街はおかしくなってる」

リサと思われる声がうしろから聞こえた。俺は「わかってるさ」と答えて、1階のロビーへ戻った。


俺は赤の書を取り出して中を開いた。

3ページ目には荒々しい文字で、こう記されていた。

『パペット・ナース
アルケミラ病院でのみ出現する、看護師に謎の生物が寄生した人型クリーチャー。
着衣が青色と緑色の個体が存在するが、緑色の方が体力が高い。
前傾姿勢でうな垂れており、手に持ったメス・松葉杖・拳銃・鉄パイプで襲い掛かってくる。攻撃力がやや高く複数で出現することが多いので、囲まれると非常に危険であり大きなダメージを受ける可能性がある。
光を異常に嫌がるため、これを活用するのが最善の突破法。
なお拳銃を使用した攻撃はダメージが大きく致命傷となるため、何よりも優先して倒す必要がある』

俺は赤の書をポーチに入れて、ナースステーションで手に入れた“それ”を取り出した。

小さい小型の物ではあるが、それはラジオだった。俺はスイッチをONにした。

――ザー…、ザ…ザ…ザー……。

赤の書に記されていた通り、スピーカーの部分からノイズが鳴り出した。

俺はラジオをジャケットのポケットに入れて、再び赤の書を開いた。

『ノイズの聞こえるラジオ
放送を受信することはできないが、クリーチャーが近付くとノイズが鳴り出すため、敵探知機として利用できる』

(へぇーっ、敵探知機か!ありがたいな)

俺はサムライエッジを構え再び階段を駆け上った。2階を超えて3階にたどり着いた。

(出て行くとは言ったが、もう少しここを調べる必要があるな。何かありそうだ)

心の中でそう決意して俺は先へ進んだ。


しかし、既にこの病院は闇という名の異世界に変化していたということ、そしてこの建物全体にとんでもない悲しみと憎悪が宿っていることに俺は気づいていなかった………。
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