第11話 姿を消した正志
作者: 邪神   2012年07月11日(水) 19時42分05秒公開   ID:LsmXA1cmAZk
9月29日 午後22時48分
※この章はクレアの視点で進行します。




「最後に彼と別れた場所はどこですか?」

私が屋上から逃げる際に通っていた道を神田光平と歩いていると、彼が突然尋ねてきた。

「ここの屋上よ。大量のゾンビに囲まれて、正志が逃げるように促したの」

1階ロビーにある梯子を昇りながら私は答えた。

「そうですか。では屋上に行きましょう」

彼の言葉に頷き2階待合室への扉を開ける。


すると私達の目に飛び込んできたのは7体のゾンビだった。

私と彼は銃を奴等の頭に向けた。

――バンッ!

素早く1体ずつ倒していき、残った最後の個体も彼の放った弾丸を受けて倒された。

「化け物め……!」

憎らしげにそう呟いた私は、愛銃のブローニングHPに弾丸を装填した。

「先を急ぎましょう」

私達は待合室を出て廊下を進んだ。すると、私を襲った舌の長い真っ赤な化け物が3匹現われた。

「またか……」

彼はうんざりした様子でため息を吐きながら囁いた。

彼は右手を赤い化け物に向けた。すると赤い化け物の体が輝き始めた。

「はぁっ!」

彼が叫ぶと凄まじい爆発音が響くとともに化け物の体が粉々に砕け散った。

「今のは何なの?」

私は今の力が何なのかを彼に尋ねた。

「自然発光爆破能力です」

青年はハンドガンに弾丸を装填して言った。

「自然発光爆破能力?」

「周囲の物質の原子・分子を操ることで物質をプラズマ化し、標的を体内から発光させ爆発させることが出来るんですよ」

(へっ、へぇ……。そんな力を持ってるのか)

私は心の中でそんなことを考えながらポケットにあったガムを取り出した。

噛むと柑橘系の独特な味が口いっぱいに広がった。確か正志はライムミント味と言っていた。


途中にあった階段を昇ると、左側の壁と床に大量の血が付着していた。

「これは…………」


私は血が飛び散っている床に触れてみた。するとヌメッとした感触がした。

「この血、飛び散ってからそんなに時間が経ってないみたい」

「そのようですね」

彼も頷いた。

私は血の跡を追ってみた。すると数メートル先に鉄製のドアがあった。私が逃げるのに使ったドアだ。


「さっきまで大量のゾンビ達がいたの。気をつけて行きましょう」

彼が頷いたのを確認した私は、ブローニングHPを構えながらドアを蹴破った。

ドアが開いた瞬間、私達はハンドガンを構えた。

「………誰もいないですね」

「ゾンビ達もいなくなってるわ」

彼はバッグからライトを取り出し、電源を入れた。明るい白色の光が暗い場所を照らした。


「正志さんは見当たりませんね」

ライトで屋上を照らしながら彼は言った。私も屋上をゆっくりと歩きながら正志を探した。

しかし正志の姿は見当たらない。

――ガサッ!

そんな中、私の足首辺りに何かが引っ掛かった。

ブローニングHPを足下に向けて私は見た。そこにはショットガンが1つだけ転がっていた。


(これは……まさかっ!!!)

ショットガンを手にした私は、銃を隅々まで丁寧に調べた。

ショットガンの至る部分には大量の血が付着していた。それに触れてみると、鉄製のドアの前で先ほど見つけた血と同じようにヌメヌメしていた。血の状態はまだ新しい。


(間違いない、このショットガンは…………)

「このショットガンは正志が使っていた物よ」

私はショットガンを彼に見せた。彼は驚いた表情でショットガンを観察した。

「じゃあ正志さんは………」

彼がショットガンを見ながら言った。私は先程のドア前の血の跡に急いで戻った。

「私を逃がしたばかりに、こんなことに……」

私は悔しさと悲しみの入り混じった気持ちに駆られ、床に崩れ落ちた。目から涙が零れ落ちる。

「正志さんは生きていますよ、きっと……」

彼が青色のハンカチを私に差し出してゆっくりと言った。

「えっ……!?」

私は驚いた。彼はおどけた笑顔を見せてショットガンに付着している血をタオルで拭き取った。

「正志さんがもし死んだり怪我をしているなら、ここに彼がいなければならないでしょう。だから、大丈夫ですよ」

ライトの電源をOFFにして彼は言った。

私はショットガンの残弾数を確かめた。しかし弾丸は全て撃ち尽くされていた。

「正志さんはこれを使って、ゾンビやリッカーを自分ができるだけ殲滅したみたいですね」

彼はドアを開けて、もう一度ライトをつけた。屋上が再び照らされる。

地面の至る所に大量の血が付着している。怪我を負いながらも正志は敵を殲滅し続けたのだろうと私は推測した。

すると彼が私の手に大量の緑色の箱を渡した。それはショットガン用の弾丸だった。

「ありがとう」

私はそう言ってショットガンに弾丸をセットした。


「何処を探すの?」

味が無くなったガムを噛みながら、私は咳をして尋ねた。

「一度、1階のロビーに戻りましょう。そこからまだ調べてない場所を探せばいいと思います」

彼はライトを消しながらそう返した。

私は首を縦に振ってまた咳をした。

私はブローニングHPをジャケットの裏ポケットに収し、ショットガンを手に持った。

正志がどこに消えたのかもわからないまま、私たちは混粋の闇の中枢へ迷い込もうとしていた。
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