第9話 光の戦士、登場
作者: 邪神   2012年07月11日(水) 19時39分25秒公開   ID:LsmXA1cmAZk
9月29日 午後22時17分
神田光平登場。
※この章は、クレアの視点で描かれます。



「ふぅ……」

私…クレア・レッドフィールドは、ラクーン警察署の1階待合室のソファーに座り込んでいた。

逃げている途中に偶然見つけた自動販売機を蹴飛ばして手に入れた、ラクーンシティ名物の「Cool Soda」を口に流し込んだ。


『俺も後で必ず戻る。約束する。だから早く行けっ!!』


大量のゾンビと舌の長い真っ赤な化け物の大群を前にして私にそう叫んだ彼の言葉が、頭に蘇った。

化け物の大群を倒すといって私を逃げさせた彼…西山正志は、化け物だらけの警察署の屋上にたった1人で残った。

無事なんだろうかと心の中で思いつつ、私は「Cool Soda」を飲み干した。


舌の長い赤い化け物に襲われ負傷していたところを助けられて以降、私は彼に強い信頼を寄せ始めていた。

出会ったばかりではあったが、彼の素直で優しい……それでいて時々見せる熱血漢に私は惹かれ始めていたのかもしれない。どことなく兄のクリスに雰囲気が似ているのも理由の1つかも知れないのだが…………。

しかし疑問もある。それは、図書室で彼が私とレオンに見せた「Nishiyama Repot」だった。

このレポートにはアンブレラが開発したとされるウイルスと生物兵器のことが詳細に記されていた。

彼はラクーン大学に通う大学生と言っていた。ただの大学生なら、こんなに詳しくアンブレラに関わることなどできないからだ。


(正志、あなたは何者なの?)




『その質問には、俺が答えしましょう』

その時、突然若い男の声が私の頭に響いた。

私は周りを振り向いた。しかし誰の姿も見えない。

『初めまして、クレア・レッドフィールドさん』

――パチっ!

指パッチンの音が聞こえた瞬間、周りの景色が黒くなった。

すると、南極やアラスカで見られるオーロラのような壁が出現し、中から1人の青年が現われた。

髪は外国人のような亜麻色、整った顔立ちをしていた。身長は私よりもはるかに高い。多分180センチはあるだろう。

「あなたは誰?」

「神田光平という名前の日本人の男です。以後、お見知りおきを」

青年は頭を下げながら挨拶した。

「質問に答えてくれると言ったわよね?教えてくれるかしら」

私は尋ねた。彼は頭を上げて答えた。

「いいでしょう」

青年が指を鳴らした。すると1つの地球が黒い空に浮かんだ。

「これが何かわかりますか?」

青年が地球に指を指した。

「地球でしょ?それにしか見えないけど」

私は当たり前のような答えを返した。すると青年は苦笑した。

「そうですね、確かにこれは地球です。しかし、ある重要な意味を持っているとしたら、ただの地球ではなくなります」

青年は再び指を鳴らした。




空に浮かんでいる地球の周りを七つの“何か”が囲んだ。

「この地球で七つのホラーゲームが誕生し、それぞれのゲームの登場人物や舞台などが存在する七つの並行世界が生まれました。それは世界観や登場人物など、全てが独立した別々の物語。
しかし今、七つのゲームの並行世界が生んでしまった強大な力がゲームが誕生した世界……つまりこの地球の因果律を崩壊させ、消滅させてしまった」

青年の長い言葉に私は何を言っているのだろうかと思った。

「七つのホラーゲームが誕生した世界で、七つのゲームの1つ『バイオハザード』と呼ばれるゲームに深くハマった1人の青年がいました」

青年が指を鳴らす。すると、地球の上にどこかの部屋でテレビの画面に食いつきながらゲームのコントローラーを握っている1人の男の映像が映し出された。私はその男を見て唖然とした。


「あれは、正志……?」

「その通りです、クレアさん」

私は映像を見続けた。映像の中の正志はテレビを見ながら必死に何かを呟いていた。私は彼が言っている言葉が理解できなかった。

『よし!ハンドガンの弾丸を見つけたぞ。確かここにゾンビが3体いるんだよな…………』

正志が見ているテレビにはポリゴンで描かれているゾンビがいて、その前に1人の女性がいた。

『やっぱりクレアは可愛いぜ、ジルもいいけどやっぱり俺はクレア派かな』

正志はそう言うとテレビ画面に映っているポリゴンの女性を動かして銃でゾンビを倒していった。意味はわからなかったが、言葉の中から自分の名前である「クレア」は聞き取ることができた。

「私?なんでゲームの中に私が……!?」

私は映像の正志を見続けた。

「それはあなたが、ゲーム『バイオハザード』の登場人物だからです」

「……えっ!?」

私は絶句した。ゲームの登場人物とはどういう意味なのだろうか。

青年は指を鳴らした。すると、地球を取り囲んでいた七つのうちの“何か”が青年の右手に飛んできた。



「これを見てください」

青年はそう言って飛んできた何かを私に渡した。

ゆっくりとそれを見ると、何かのゲームの箱だった。左上に青と黄色で象られた「CAPCON」という文字が記されている。またパッケージには赤い文字で『Resident Evil2』と書かれ、骸骨のような絵が描かれていた。

「中に入っている説明書を見てください」

私は言われた通りに箱を開けた。中にはCD‐ROMが2枚と説明書が入っていた。

私は説明書を取り出して中身を開いた。

「登場人物のページを読んでください」

青年が言った。私はペラペラとページを捲り、青年が指した登場人物の部分にたどり着いた。

「クレア・レッドフィールド…本作の主人公の1人で、バイク好きの女子大生。前作で起きた洋館事件以降行方不明になった兄・クリスを探すためラクーンシティを訪れた…………」

私が読んだページにあったのは、自分の容姿そっくりに描かれた女のイラストと説明文だった。

「この世界ではクレア・レッドフィールドという人間はしっかり存在していますが、彼…西山正志さんが元いた世界ではあなたはゲームのキャラクターとしてしか存在していないんですよ」

青年は優しく笑顔の表情で言った。

「正志が元いた世界って…どういうこと?」

私は自分のキャラクター紹介が書かれている説明書を読みながら尋ねた。

「彼は、あなたやレオン・S・ケネディがいる世界の人間ではありません。彼はあなたがゲームのキャラクターとして存在している世界の人間なのです」

青年は真剣な表情を浮かべ呟いた。

「正志が…?」

私は耳を疑った。

「彼がレポートに書いていたウイルスがやたら詳しかったのはそのためです」

私は持っていた箱を地面に落とした。

「原因は不明ですが、彼は自分がいた世界から『バイオハザード』が存在している並行世界に放り込まれました。彼以外にも、残り六つのホラーゲームの並行世界に放り込まれた人間がいます」

私は正志に治療された足を見た。丁寧に包帯が巻かれている。


「正志は元の自分の世界にはもう戻れないの?」

私は尋ねた。聞かなければならない………そんな感じがしたからだ。


「正志さんがいた世界は、彼が並行世界に放り込まれた直後に消滅しました。戻ることは不可能です」

青年は指を鳴らした。すると、空中に浮かんでいた地球が塵のようになって消えた。

「正志さんはあなたがいる世界で、アンブレラやクリーチャー達と戦わなければなりません。この世界が崩壊し始めたことで、物語そのものも変わり始めています」

私は信じられなかった。

「物語が変わり始めている?」

私は尋ねた。青年は頷いて話し始めた。


「シェリー・バーキンのゾンビ化がその証拠です」

「シェリーのゾンビ化が?」

「彼女もゲーム『バイオハザード』の登場人物なのですが、ゲームで彼女は生き残るんです。しかし、それとは全く違う結末を彼女は辿ってしまった……」

頭の中でシェリーがゾンビ化するあの瞬間が思い出される。その度に胸が痛んだ。

「彼はゲームで得た知識を武器に戦わなければなりません。それには仲間が必要です。彼1人では戦いを乗り越えらることはできないでしょう」

私はブローニングHPを取り出しマガジンに弾丸を装填した。

「…………私が彼を支えればいいのね?」

私は真剣な声で彼に聞いた。彼は笑顔で頷いた。

「はい、その通りです」

「わかったわ。助けられたお礼があるし」

私はブローニングHPをクルクルと回し言った。

「まずは正志を探さないと」

「それじゃあ俺も一緒に行きましょう。いくらあなたが銃やナイフの扱い方に優れていると言っても、女性ですから」

青年は大きな剣を腰の鞘に納め、変わりにタクティカルパンツに装着されているガンケースから黒い拳銃を取り出した。

「ええ、お願い」

青年は指を鳴らした。すると黒い景色が消え、警察署の風景が元に戻ってくる。

私は決意した。正志をサポートし助けることを…………。
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